【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る   作:延暦寺

44 / 50
紅蓮華と同時に本編が始まる特殊OPを妄想して書きました。

紫外線照射装置オチは没にしてよかったなって……


サイコロステーキ先輩に転生したけど、全力で生き残った

「貴様は……何度……何度邪魔すれば気が済む! 確実に死んだはずだ! それがなんだ、今度は顔にそのような痣を浮かべて! どこまで私を愚弄すれば気が済む!」

 

 俺が刀を構えれば、無惨は取り乱しながら叫ぶ、

 あん? 痣……?

 無惨の言葉に首を傾げた俺は隣に居る狛治に話しかける。

 

「……なぁ、狛治。俺の顔に痣なんて出てるか?」

「あぁ、くっきりと出ているぞ。蜘蛛の巣型……とでも言えばいいのか?」

 

 ふむ。

 

「炭治郎くん」

「はい、出てますね」

 

 なるほど?

 

「ちょっと誰か手鏡とか持ってない?」

「あ、私が……」

 

 俺の問いかけに、蜜璃ちゃんがトテテとこちらに駆け寄ってきて手鏡を手渡してくる。

 うーん、流石は女の子。

 こんな戦場の場でも鏡を持ち歩くのを忘れない女子の見本のような子だ。

 そんな事を考えながら、俺は手鏡を覗き込む。

 ふむ……確かに蜘蛛の巣のような形の痣が浮かんでいる。

 そう、まるで原作でのサイコロステーキ先輩のような痣が。

 一瞬、傷かとも思ったが触れても特に痛みはない。

 

 なるほど、痣と考えれば妙に体が熱いのも納得がいく。

 そして、やたらと体の調子が良いのも理解できる。

 そうかー、痣が出たかーはっはっは……。

 

「無惨、貴様を夜明けまで斬り殺す……っ」

「え」

 

 俺の唐突な態度の変化に、あの無惨が素っ頓狂な声を出す。

 おそらく、俺は今まで生きてきて最大級の殺気を放っている。

 

 痣が出たという事はつまりだ。

 俺の寿命が決定してしまったという事。

 しのぶ達に囲まれて老衰で死ぬという夢が叶えられなくなったという事。

 そうなったのは誰のせいだ? そう、無惨だ。

 俺がこんな悲しい気分になっているのは誰のせいだ? そう、無惨だ。

 

「無惨、貴様は絶! 許!」

 

 蜜璃ちゃんに手鏡を返すと、俺は全ての元凶である無惨を睨みながら親指で首を掻き切るジェスチャーをする。

 

「やってみろ、たかが人間が!」

 

 無惨はそう叫ぶと、斬られた触手とは別の場所から新たな触手を数本生やす。

 どうやら、再生しないなら新しく生やせばいいじゃないという事らしい。

 

「蜜璃ちゃん! あれをやるぞ!」

「分かったわ!」

 

 無惨が動き出す前に、俺は傍にいた蜜璃ちゃんと共に走り出す。

 

「貴様が何度蘇ろうと、邪魔をしようと無駄だという事を分からせてやろう!」

 

 無惨は、新たに生やした数本の触手を一本の槍のようにまとめると、俺と蜜璃ちゃんに向かって放つ。

 

――影の呼吸

       揺らめく双影

――恋の呼吸

 

 無惨の槍が届く前に、俺と蜜璃ちゃんは同時に刀を振るい、交差し、打ち付け合い、軌道の読めない斬撃を放つ。

 無軌道に放たれる斬撃は何度も無惨の槍を切り刻み、俺達に届く前にそれを斬り落とした。

 俺と蜜璃ちゃんの刀の造形が似てるからこその合わせ技だ。

 

「それで防いだつもりか!」

 

 俺と蜜璃ちゃんが槍攻撃を防ぐと、すぐに地面から無惨の触手が伸びてくる。

 どうやら、槍の方は囮だったらしい。

 だが……。

 

――影の呼吸

       潜影蛇手

――蛇の呼吸

 

 ぬるりと俺の死角から躍り出た伊黒(With鏑丸)と俺の斬撃により、全ての攻撃を弾く。

 

「さんきゅーイグッティ」

「俺は甘露寺を助けただけだ」

 

 礼を言う俺に対し、イグッティはフンと鼻を鳴らしながらそっぽを向く。

 んもう、ツンデレなんだから。

 

「はっはっは! そう簡単に死なないだろうと信じてはいたが、少々肝を冷やしたぞ賽!」

「まったくだ! 俺を心配させた罰として俺の嫁達と一緒に派手に説教させてもらうぜ」

 

 俺とイグッティがいちゃついていると、煉獄さんと宇髄もやってくる。

 ……原作ではこの場に居なかった2人が居ると不思議な気分だな。

 

「悪かったよ、2人とも。……まだ、体力は残っているか?」

「誰に物を言っている! まだまだ気合十分だ!」

「俺は祭の神だぜ? こんな派手な場でへばってられるか!」

 

 はは、頼もしい人達だ。

 

――影の呼吸

       

――音の呼吸 幻炎響爆

 

――炎の呼吸

 

 宇髄が刀を地面に打ち付け爆発させ、目くらましをしその隙を俺と煉獄さんが走り抜ける。

 そして、俺が殺気のみを飛ばし無惨が釣られた隙に煉獄さんが無惨の両腕を斬り落とす。

 

「くそ……何故だ! 何故、貴様らの攻撃がここまで効く! 貴様ら如きの赫刀ではここまで私に傷を負わせられないはずだ!」

 

 さぁなんででしょうねぇ?

 原作では、珠世様の細胞から情報を得ていたはずだが、残念ながら珠世様は健在。

 つまり、頭無惨様は自分を苦しめている原因が分からないのだ。マジざまぁ。

 老化の薬が効いているのか、動きもどんどんと鈍くなっている。

 あとは、このまま夜明けまで畳みかけるだけだ。

 

「無駄に増やした脳味噌で考えたらどうですか、無惨様ぁ!」

 

 俺は怒鳴る無惨に対し、最大限にむかつく表情をしながら煽ってやりながら、俺は無一郎くんと冨岡さんに向かって叫ぶ。

 

 

「無一郎くん! 冨岡さん! 畳みかけるぞ!」

 

 俺の意図を察したのか、2人は無言で頷くと俺の横に並ぶと揺らめく蜃気楼のように並走しだす。

 

――影の呼吸

       

――水の呼吸 変移抜刀霞斬り

 

――霞の呼吸

 

 それは幻のごとく、水のごとく、霞のごとく、捉えどころのない予測不能な3種の斬撃。

 無惨の足を、胴を、頸を同時に斬り落とされる。

 が、それでも無惨は死にはしない。

 G以上にしぶとい野郎だ。

 

「カアアア! 夜明ケマデ後59分!」

 

 気づけば、もうあと1時間。

 もう少しだけ耐えればこの戦いも終わるのだ。

 いくら痣が出たとはいえ、俺の体力も無尽蔵ではない。

 ラスボスと戦っているせいで、いつも以上に疲労が激しい。

 ここが踏ん張りどころだ。

 だが、そう思った矢先、無惨は残された胴から四肢や首を生やし全力で逃走する。

 どうやら、完全に再生する方向は諦め新しく生やす方へとシフトしたらしい。

 

 って、冷静に分析している場合じゃないな。

 体力も底をつきかけているが、すぐに追いかけねばならない。

 

「無惨様、どこにいかれるのですか? 部下をおいていくとはあんまりではないですか」

 

 逃げる無惨の先に立ちはだかるのは狛治であった。

 

「どけぇ、猗窩座ぁ!」

「俺は狛治だ! 今度こそ……守り抜くため! 貴様を決して逃がしはしない!」

 

 ――終式・青銀乱残光

 

 青い閃光がいくつも放たれる。

 衝撃音が鳴り響き、その度に無惨の体が削れていく。

 だが、日輪刀ではないため大したダメージは与えられず、削れていく傍から回復しているようだった。

 

「猗窩座! 鬼同士での戦いは不毛だと理解しろ! 童磨に敗れるような貴様では私を倒せは……」

「倒す必要はない。俺の目的は貴様の足止めだ、鬼舞辻無惨!」

「よくやった狛治!」

 

――影の呼吸

       

――岩の呼吸 天墜

 

――風の呼吸

 

 

 悲鳴嶼さんの鉄球が無惨の頭上に放たれ、俺と(さね)の助力により鉄球は加速し無惨を押しつぶす。

 

「は! まさか、俺が鬼なんかと協力することになるとはなァ!」

「これもまた運命……」

「狛治、ファインプレーだったぜ」

「ふぁいん……?」

 

 俺の言葉に首を傾げる狛治。

 まぁ、横文字なんか分からんわな。

 

「ぐが……。貴様ら、いい加減に……」

「いい加減にするのはアンタの方だよ。ほら、もう逃げられないけどどうする? 分裂して逃げる?」

「貴様がそんな事をほざくという事は、分裂して逃げることもできないのだろう?効果は分からんが貴様の事だ。対策を打っていない訳がない」

 

 おっと、無惨が学習し始めたぞ。

 

「認めよう。確かに貴様は私を最も追い詰めた男だ! あの男よりも厄介だ! 貴様が生きている限り、私は平穏に暮らせはしないだろう! だがこの機を逃せばいつ太陽を克服できるかもわからん。 だからこそ、貴様だけは何としても殺す! 貴様が死ぬか、私が死ぬかの最後の勝負だ!」

「賽は殺させないわ」

 

 ――蜈蚣ノ舞 百足蛇腹!

 

 突如、俺達の横をすり抜けしのぶが無惨に向かって突進すると、奴の腹部を貫いた。

 

「無惨、貴方が賽を殺すというのなら私は、意地でもそれを邪魔して見せる。賽を殺したいなら、まず私を殺しなさい」

「しのぶだけではないぞ! 俺は賽に救ってもらったからな! 当然、俺も盾となろう!」

「俺も嫁さんを救ってもらった恩がある。そう簡単にはやらせねーぜ」

 

 しのぶ、煉獄さん……宇髄……。

 気づけば、他の面子も勢ぞろいし、無惨を取り囲んでいる。

 

「自殺志願者ばかりか。良かろう、貴様ら全員纏めて葬ってくれる!」

 

 そして、戦いは最終局面へとうつる。

 無惨は老化の薬によりどんどん年を取り、動きが鈍くなっていくが、それに比例し俺達の動きも疲労により精彩を欠いてくる。

 幸いにも怪我の大小はあれど致命傷を負っているものは居なかった。

 あとは、このまま耐えきれば……っ!

 

 それから、どれほどの時間が経ったか分からない。

 俺達の体力も尽きようとしたとき、ついに待ち望んでいたものが現れた。

 夜明けである。

 

 無惨も満身創痍となっており、このままでは逃げられないと悟ったのか自身の肉体を膨らませ巨大な赤ん坊のような姿となり少しでもダメージを減らそうと悪あがきをする。

 

「ギャアアアアアア⁉」

 

 だが、それでも看過できないダメージなのか苦しそうに叫んでいた。

 

「皆、これで最後だ! 絶対に奴を逃がすな! 頸を落とせ!」

 

 俺の号令のもと、戦える鬼殺隊全員がかかるが、無惨も死に物狂いで暴れまわり中々近づけない。

 

 ヒノカミ神楽!

 

 そこへ、炭治郎くんが隊士達の間を縫い無惨に攻撃をする。

 

「賽さん! 今です!」

 

 炭治郎くんの攻撃により怯んだ無惨に大きな隙ができた。

 俺はそれを見逃さず、すぐさま無惨の傍へと走り寄る。

 

「無惨、いい加減に終わらせようぜ」

 

 ――影の呼吸・終ノ型 夢幻泡影(むげんほうよう)

 

 影の呼吸の集大成。

 この技を喰らったものは斬られたことにすら気づかない。

 そして、まるで幻であったかのように儚く消え去っていく。

 

「――」

 

 最後に、無惨は声にならない声をあげ静かに崩れ落ちた。

 俺達を苦しめたラスボスのあまりにも呆気ない幕切れだった。




むげん-ほうよう【夢幻泡影】
人生や世の中の物事は実体がなく、非常にはかないことのたとえ。▽仏教語。「夢」「幻」「泡」「影」はいずれも壊れやすく、はかないもののたとえ。「影」は「えい」とも読む。


次回、エピローグ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。