【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
パイセンの実家を見てみたいというコメントがあったので書きました。
時系列的には結婚式より前になります。
無惨を倒し、街の復興作業をしている中、作業も落ち着いてきたこともあり俺は実家へとやってきていた。
「あぁ、賽様! お久しぶりでございます! 鎹鴉より連絡を受けてから、御父上様と御母上様がお待ちしております!」
屋敷へと入れば、使用人たちが群がってきて、口々に「おかえりなさいませ」と嬉しそうに言う。
元々、俺はあんまり実家に帰ってこないので、たまに帰ってくるとそれはもうお祭り状態だ。
基本的には1年に1度の年末くらいにしか帰ってこないしな。
カナエさんの後を継いだので、蝶屋敷を拠点にする方が都合がよかったし、何より俺がしのぶ達と離れたくなかった。
身内と美少女姉妹だったら、当然美少女姉妹を取りますよええ。
――というのは半分冗談だ。
仕事の関係で蝶屋敷を拠点にした方がいいというのは本当だが、もう1つ帰りたくない理由があるのだが……。
「帰ったか」
声のした方を見れば、そこには身の丈2mは超えており、筋骨隆々。
頭はつるりと禿げあがっていて、逞しい髭を生やした偉丈夫が立っていた。
かつての厳しい戦いからか顔には傷がいくつかあり、非常に強面だ。
初見であれば、間違いなく子供は泣くだろう。
彼は栖笛
俺同様、かつては鬼殺隊に所属しており、柱にこそなれなかったものの階級は「甲」と、その実力は本物だ。
「ただいま戻りました、父上。お元気そうで何よりです」
俺がかしこまって挨拶をすると、父は「うむ」と軽く頷いた後、俺の後ろに居る2人の人物……炭治郎くんと禰豆子ちゃんを見やる。
「彼らが……お前の言っていた者か」
「はい」
今回、俺が実家に帰ってきた理由は、炭治郎くんと禰豆子ちゃんの義兄弟計画の為だ。
元々、返事に関しては禰豆子ちゃんが人間に戻ってからと保留にしていたのだが、めでたく完全に人間に戻り、2人とも俺の義弟と義妹になってくれるというので、父に了承を得に来たのだ。
この家の長はまだ父であるから、流石に俺の独断ではできないしな。
「竈門炭治郎です! よろしくお願いします!」
「か、竈門禰豆子です……よ、よろしくお願いします……」
炭治郎くんは流石というかなんというか、父を前にしても物おじせずいつも通りを貫いていた。
対して禰豆子ちゃんは、少しだけ怯えたような様子を見せる。
「……」
そんな2人を、父は無言で見下ろす。
そして、唐突にブワッと泣き出した。
「うぅ、2人とも辛かったなぁ! 安心しなさい! 君達2人の事は栖笛家が全力をもって面倒を見ようではないか!」
そう言ったかと思うと、父は顔面を涙でくしゃくしゃにしながら炭治郎くんと禰豆子ちゃんを力いっぱいに抱きしめる。
「こんな子供がいきなり家族を殺され、さぞ辛かっただろう! 気持ちの整理はまだつかないとは思うが、ここを本当の家だと思ってゆっくりしていくといい!」
「え、あ、あの……」
父の見た目とのギャップが激しい行動に炭治郎くんは困惑しており、助けを求めるようにこちらをちらりと見る。
正直、この状態の父とはあまり関わり合いになりたくないので、俺は生暖かい笑みを浮かべながらこくりと頷く。
「何です、騒々しい! 賽さんが帰ってきたのですか!」
父が炭治郎くん達を抱きしめながら、おいおいと泣いていると30代半ばほどのきつめの顔つきをした女性がやってくる。
彼女は栖笛
そんな母の登場により、騒がしかった空間がシンと静まり返る。
「騒がしくして申し訳ありません! お世話になる竈門炭治郎です! よろしくお願いします!」
主に騒がしくしていたのは父なのだが、それでも炭治郎くんは自分から謝り、自己紹介をする。
「そう……貴方が炭治郎くんね。そして、そちらが禰豆子さん?」
「は、はい……よろしくお願いします」
凍てつくような視線で睨まれ、禰豆子ちゃんはびくっとしながらもおずおずと挨拶をする。
「……」
値踏みするようにジロジロと炭治郎くんと禰豆子ちゃんを見ていた母だったが、突如ブワッと涙を流すと2人を抱きしめる。
「賽から話は聞いていたわ! さぞ辛かったでしょうね! 大丈夫です、私達は貴方方の味方ですよ!」
そして、2人にそう言い放つ。
もうお分かりになっただろう。
そう、うちの両親は……愛情が深すぎるのである。
超がつくほどの親バカで、帰る度に2人のコレが俺に集中するのだ。
俺があまり実家に帰りたがらない理由がこれで分かるだろう。
鬼殺隊に入った時も柱になった時も、そりゃもう一族総出でお祝いをし三日三晩解放されなかったのだ。
今回は、炭治郎くんと禰豆子ちゃんがうちの両親の犠牲である。
俺は、2人にもみくちゃにされている炭治郎くん達を見ながらそっと合掌をする。
なーむー。
それからはもう飲めや歌えやの大騒ぎであった。
無惨を倒したことで平和が訪れたというのもあるが、新しい家族が増えて両親のテンションははち切れている。
そんな両親に振り回され、炭治郎くん達は目を回しながらも楽しそうにしていた。
「凄い家族ですね……」
それから数時間後。
ようやく宴も落ち着いてきたという所で、炭治郎くんがヘロヘロになりながらも俺の元へとやってきて話しかける。
「だろう? 自慢の家族だよ」
多少の皮肉も込めているが、おおむね俺の本心だ。
アホな両親ではあるが2人の事は嫌いではない。
「今日からは炭治郎くん達も、この家族に仲間入りだぞ。覚悟しとかないと、すぐあの2人に振り回されるからな。下手したら鬼よりも厄介かもしれない」
「はは、気を付けます」
俺の言葉に、笑いながら返す炭治郎くん。
「……ありがとうございます。俺と禰豆子を迎えてくれて」
「なーに、気にすんなって。これは俺の自己満足だしな。俺よりも、そっちは本当に俺達の義兄弟になってよかったのか?」
「はい。禰豆子と一緒に話し合って決めました。賽さんと身内になりたいと」
「そっか。それならいいんだ」
炭治郎くんの台詞に俺は内心嬉しくなりながらも、恥ずかしいので表に出さない。
「炭治郎くん、これからもよろしくな」
「はい、よろしくお願いします。兄さん」
俺に残された時間は短いかもしれない。
だけど、この時間を大事にしていきたい。
そんな事を考えながら、俺と炭治郎くんは朝まで語り合うのだった。
結婚式の後も、無茶苦茶両親に愛された