SIREN2(サイレン2)/小説   作:ドラ麦茶

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第五十六話 『再会』 藤田茂 夜見島/第1砲台跡 5:14:55 終了条件2

 謎の座礁船・ブライトウィン号から脱出した藤田茂と矢倉市子は、島の北部にある旧日本軍の要塞跡へ来ていた。この先の浜辺に、藤田が上陸した際に使用した小型のボートが停めてある。それを使い、島から脱出するつもりだった。その道中、藤田はかつて世話になった島の網元・太田常雄に出会う。怪我をしていた太田は命を落とし、ほどなく屍人となってよみがえった。市子を護るために拳銃で太田を撃った藤田は、要塞跡の地下道を通って浜辺へ向かう。迷路のように入り組んだ地下道を進み、二人は地下二階の中央部にたどり着いた。そこは、東西に通路が伸び、北側に二部屋の弾薬庫がある場所だ。

 

 

 

 

 

 

 奇妙な違和感に、藤田は足を止めた。どうも様子がおかしい。ライトで周辺を照らしてみる。地下二階の中央部は北側に弾薬庫跡が二部屋あるが、ライトで照らしてみると、出入口が三つ確認できた。部屋がひとつ増えているのだ。

 

 藤田は十五歳まで島に住んでいた。この要塞跡には何度も訪れている。その頃は二部屋だったと記憶している。無論、もう三十年以上前の話だから、それだけなら記憶違いの可能性もある。しかし、藤田は昨日、島に上陸したときもこの地下道を通った。その時も、確かに二部屋だった。記憶違いではない。

 

 昨日まで無かった部屋は、東側と西側の部屋の間に出現していた。そこはただの壁だったはずだ。ライトで照らしてさらに確認すると、床に瓦礫が散らばっていることに気がついた。どうやら壁が崩れ落ちたようだ。得心がいく藤田。隠し部屋というわけだ。誰かが壁を壊したか、あるいは経年劣化で自然に崩れたかで、入口があらわになったのだろう。ここは戦時中に旧日本軍が造った要塞だ。隠し部屋くらいあってもおかしくはない。

 

「あ――」

 

 藤田と一緒に隠し部屋を見ていた市子が何かに気ついた。出入口付近の地面にライトを向けると、何かがきらりと反射する。それを拾う市子。どうやらオイルライターのようだ。

 

「コラコラ、中学生がそんなもの拾っちゃいかんぞ」

 

 非常事態ではあるが、一応警察官として注意し、ライターを預かろうとした。

 

 びくん、と身体が震え、隠し部屋の前に立つ藤田と市子の姿が見えた。同時に、地下道内に銃声が響き、藤田の右肩に鋭い痛みが走る。市子が悲鳴を上げる。

 

「ふぎたのバカむすふるこおぉ……んふ……んふふふふ……」

 

 呂律の回らない声で言い、ひきつるような笑い声をあげたのは、屍人と化した太田常雄だった。その手には古いリボルバー式の拳銃が握られていた。自衛隊員の屍人から奪ったのか、あるいは――警官の藤田としては認めるわけにはいかないが――元々太田の持ち物か。

 

 その銃口を、藤田から市子に向ける。

 

「おやっさんやめろ! 相手は子供だぞ!!」

 

 藤田は叫ぶが、屍人と化した太田にその言葉が届くはずもない。太田は薄ら笑いを浮かべたまま引き金を引いた。悲鳴と共に血飛沫が飛び散り、市子は地面に尻餅ついた。幸い銃弾は腕を掠めただけのようだが、太田はさらに引き金を引こうとする。藤田も銃を構えようとするが、右肩を撃たれたため、狙いを定めるどころか銃を向けることさえできない。これでは市子が撃たれてしまう。

 

 ――そのとき。

 

 

 

《――雑兵(ぞうひょう)が! 我の邪魔をするでない!!》

 

 

 

 声が響いた。

 

 低く、暗く、恐ろしい声だった。藤田はなにも喋ってはいない。そもそもそれは人の声ではないように思えた。まるで、暗闇の奥底に得体の知れない化物が潜み、発したかのような声。もちろん、屍人と化した太田には、もう人の言葉を発することはできない。

 

 市子を見ると。

 

 鋭い目で、太田を睨んでいた。

 

 そこには、強い殺意が宿っていた。とても子供とは思えない、恐ろしい目。

 

 藤田は、かつてたたき上げで警部補まで出世した男だ。当然、多くの犯罪者と対峙してきた。彼が属していた捜査三課は主に窃盗事件を取り扱う部署だが、それでも、チンピラやヤクザ者と対することも少なくない。それなりに修羅場も潜っている。

 

 そんな藤田ですら、今の市子の眼光に、得体の知れない恐怖を感じる。

 

 そして。

 

 それは屍人と化した太田でさえ同じだった。

 

 市子に睨まれた瞬間、太田の顔から薄ら笑いが消えた。怯えた表情になり、後退りする。

 

《去れ!!》

 

 市子が一喝すると、太田は慌てて逃げ出した。

 

 その様子を呆然と見ていた藤田は、ふと思い出す。このような光景を、昔見たことがある。それは、夜の繁華街。チンピラが、肩がぶつかったと因縁を付けた相手が、その地域を取り仕切るヤクザの幹部だった。幹部はひと睨みした後恫喝し、チンピラを追い払った。

 

 いま、藤田の目の前で起きたことは、それとそっくりだ。

 

 市子を見る。唇の端を吊り上げ、不気味に笑っていた。(あや)かしの者が浮かべるような笑みだ。藤田の背中を冷たいものが走る。

 

 だが、市子は不意に、はっとした表情になり。

 

「あ……あたし……いま……何を……」

 

 突然見知らぬ場所に放り出されたかのごとく周囲をきょろきょろと見回しはじめた。頭を抱え、「わかんない……わかんない!」と、ぐるぐると首を振る。

 

 呆然と見ているだけだった藤田も我に返った。

 

「落ち着いて。市子ちゃん。大丈夫、大丈夫だから」

 

 藤田はなんとか市子を落ち着かせる。さっきの出来事はなんだったのか。落ち着きを取り戻した市子に話を聞くが、太田に腕を撃たれてから後のことは、何も覚えていないと言う。

 

 何が起こったのか判らないが、このままここにいてはまた屍人に襲われてしまうかもしれない。藤田は言い知れぬ不安を抱えたまま、弾薬庫を後にした。

 

 

 

 

 

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