SIREN2(サイレン2)/小説   作:ドラ麦茶

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第六十九話 『憎悪』 一樹守 ブライトウィン/甲板 15:04:44 終了条件2

 十九年前に消息を絶った大型客船・ブライトウィン号を発見した一樹守は、生存者がいないか船内を探索したが、明かりが消された船内には闇人や闇霊がうろついているだけだった。生存者はいないと判断した一樹は脱出しようとするが、途中、四足で歩行する闇人と遭遇する。通路で髪飾りを探していた四足闇人だが、一樹の姿を見ると襲い掛かって来た。拳銃は通用しない。通路からエントランスへ逃げた一樹は、カウンター内に身を隠す。追って来た四足闇人は、ホール内を見回した。

 

 

 

 

 

 

「髪飾り……お父様の髪飾り……返せ……髪飾りを返せ……」

 

 四足闇人はホール内を徘徊し始めた。通路へ戻る様子は無い。このままではいずれ見つかってしまう。なんとかしなければ。

 

 四足闇人の正面は装甲車のように頑丈で、拳銃では傷ひとつつかなかった。なら、後ろからはどうだろう? 一樹はカウンターから顔を出し、様子を伺う。四足闇人の上半身は横倒しのドラム缶のように巨大化しているが、下半身は赤い着物に草履履きと、人間とほとんど変わらない姿だった。その格好には見覚えがあった。サイレンが鳴った直後、森の中で岸田百合に掴み掛り、その後屍人化して遊園地まで追って来た着物女だ。あいつが闇人と化し、さらに進化したのか。だが、あの下半身なら拳銃が通用するかもしれない。一樹は拳銃に弾を装填しつつ様子を伺い、四足闇人が背を向けた隙に、ホールへ飛び出して拳銃を撃った。一発目は外れたが、二発目が命中した。大きくのけ反る四足闇人。思った通り、後ろからの攻撃は有効だ。さらに引き金を引く。三発中二発が命中し、四足闇人は甲高い悲鳴を上げて倒れた。一樹は大きく息を吐く。とりあえず倒すことができたが、再び闇霊が憑りつけば復活する。今のうちに船から脱出しよう。拳銃に弾を込め、ホールから出ようとしたが、びくんと身体が震え、一瞬自分の背中が見えた。振り返ると、いま倒したばかりの四足闇人がよみがえっている。

 

「髪飾り……髪飾りを返せぇ!!」

 

 突進してくる四足闇人。正面からの攻撃は効かない。一樹はホールを走り、奥の階段を駆け上がった。四足闇人は素早いが、急旋回や階段の昇降が得意ではない。一樹は二階へ上がると、通路を走って手前の客室へ逃げ込んだ。四足闇人が追って来たが、一樹の姿を見失ったようで、客室の前を通り過ぎた。一樹は客室を出て、背後から銃を撃つ。残り四発中三発が命中し、四足闇人は倒れた。

 

 だが、その場を去ろうとしたら、またすぐに闇人が起き上がった。幸い気付かれる前に客室に身を隠したが、あまりにも復活が早い。どうなっている?

 

 そう言えば……。

 

 以前岸田百合が、何かに執着している屍人は屍霊を引き寄せやすく復活が早い、と言っていた。あの着物女は、屍人のときも復活が早かったのだ。理由は判らないが、異様に百合に執着しているようだった。闇人も同じなのだろうか? しかし、百合はもういない。一樹は森で着物女を突き飛ばしたが、まさかあれを恨んでいるのだろうか?

 

 よみがえった四足闇人は一樹を探し始める。一樹は残りの銃弾を確認する。自衛隊員の闇人から奪った銃弾は、あと三発しかない。これではあと一度倒せるかどうかだが、あの復活の早さでは、一度倒すだけではほとんど意味が無い。何か別の方法を考えなければ。闇人は、闇霊が死体に憑りつくことで動き出す。復活が早いということは、それだけ早く闇霊が憑りついているということだ。ならば、先に船内の闇霊をすべて倒しておけば、もう復活できないだろう。名案だが、問題はどうやって闇霊を倒すかだ。闇霊は銃を撃たずとも鈍器で殴れば比較的簡単に倒すことができるが、船内全ての闇霊となると、数が多すぎる。全てを殴り倒す間に、四足闇人に襲われかねない。あとは、ライトを当てて倒す方法だが……。

 

 ――そうか、光だ。

 

 一樹は客室を出て通路を走った。四足闇人に見つかったが、客室の廊下は狭く、小回りが利かない四足屍人に追いつかれることはない。そのままホールの階段をくだり、通路へ出て地下へおりる。右舷から左舷へ向かう通路の中央には、機関室と機関制御室に入るふたつのドアがある。一樹は機関制御室の中に入ると、ドアに鍵をかけた。ドアは金属製で重量のあるものだ。鍵を掛ければ、破るのは困難だろう。

 

 一樹はライトで室内を照らした。押しボタンや切り替えスイッチ、計器類やモニターなどが付いた機器が並んでいる。目的は、船の主電源だ。

 

 一樹は、船内の全ての明かりが消えていたのを確認している。その他の電気設備もすべて使えなかった。恐らく主電源が落とされているのだ。それを入れれば、船内の明かりが点くはずだ。それだけで多くの闇霊が倒せるだろう。

 

 一樹は室内を探索し主電源を見つけると、オフになっていたスイッチをオンにした。機関制御室内が明るくなる。同時に、計器類も動きはじめた。その中に船内カメラのモニターがあったので、それで船内の様子を確認する。思った通り、多くの闇霊が身体を焼かれ消滅していった。中には客室のベッドの下など光が届かない場所に隠れるやつもいたが、明かりを点けていれば、行動はかなり制限されるだろう。今のうちに四足闇人を倒さなければ。一樹はモニターの中から四足闇人の姿を見つける。ちょうど、機関制御室前の廊下にいた。倒すには背後から銃で撃たなければならないが、弾は三発しかなく、一発も外すことはできない。今まで通りの戦い方では仕留めそこなう可能性が高い。確実に背後から狙うために、何か策を用いなければ。

 

 一樹はさらに室内を探り、機器類の中に船内通話用の電話を見つけた。受話器の横に、エントランスホール、操舵室、救護室、機関室など、船内各所に繋がるボタンがある。一樹は受話器を取ると、機関室のボタンを押した。機関室は、この機関制御室の正面の階段を下りたところだ。電話が鳴る音が聞こえる。モニターで四足闇人の様子を確認すると、電話の音に気付き、機関室へと走って行った。階段を下り、電話の前まで移動すると、じっと見つめて動かなくなった。今がチャンスだ。

 

 一樹は電話を切らずそのままにして機関制御室を出ると、静かに機関室へ入った。階段の下に、背を向けた四足闇人が見えた。一樹は銃を構え、慎重に狙いを定めると、引き金を引いた。背中に命中し、大きくのけ反る四足闇人。しかし、一発外してしまった。四足闇人は倒れない。もう弾は使い果たした。周囲を見回す。通路に消火器が設置されているのが見えた。とっさにそれを持ち上げ、四足闇人に向かって投げつけた。消火器は四足闇人が振り向く前に背中に命中する。四足闇人は甲高い悲鳴を上げて倒れた。

 

 油断せず、周囲を見回す一樹。闇霊の姿は無い。復活が早かった四足闇人も。そのまま倒れたままだ。これで、しばらくは大丈夫だろう。一樹は大きく息を吐いた。後は、光が当たらない場所に隠れている闇霊を倒すだけだ。

 

 

 

 

 

 

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