SIREN2(サイレン2)/小説   作:ドラ麦茶

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第八十四話 『特攻』 永井頼人 夜見島小中学校 22:28:44 終了条件2

 潮降浜の廃校にあなたの大切な人がいる――謎の少女・加奈江からそう聞いた永井は、それが自衛隊の先輩で恩人の沖田宏であると確信した。ヘリの墜落で死んだ沖田は、今ごろその身体を闇人共に乗っ取られ、操られているだろう。永井は沖田の身体を解放するため、単身廃校に乗り込む。校内をうろつく闇人共を倒し、校舎裏で沖田の闇人と対峙した永井は、戦闘技術で上回る沖田に対し光で目をくらませて狙撃する戦法で倒すことに成功する。しかし、校舎内には無数の闇霊が潜んでおり、このままではすぐに復活してしまうだろう。倒れた沖田に新たな闇霊が憑りつこうとするのを見た永井は、慌てて闇霊の後を追った。その時、沖田のそばには信号拳銃が落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 闇霊を追って走る永井だが、沖田のそばに落ちている信号拳銃を見て、急ブレーキをかけるかのごとく立ち止まった。その隙に、闇霊は沖田の身体の中に入り込む。倒れて動かなかった沖田の全身が一度大きく弾み、そして、ゆっくりとした動作で起き上がり始めた。永井が持つ小銃は弾倉を再装填しないといけない状態だが、銃床で殴れば倒せるかもしれない。だが、永井は沖田には手を出さず、彼のそばに落ちている信号拳銃を拾い、その場を離れて階段の下へ戻った。段差の陰に身を隠し、幻視で様子を伺う。沖田は立ち上がって周囲を見回した。永井の姿は段差の陰になって見えない。追ってこられると厄介だが、恐らくその行動はないだろうと永井は思っていた。闇霊が新たな身体に憑りついた時は、その身体に慣れるまでに少し時間を要するはずだ。永井が思った通り、沖田は身体の動きを確かめるかのごとく、首や腕などをぐるぐると回し始めた。しばらくはその場にとどまっているだろう。

 

 永井は幻視をやめる。沖田の復活を許してしまったが、どの道闇霊を一掃しない限り何度も復活する。ヤツを倒すのは後回しだ。それよりも――。

 

 永井は、視線を目の前の校舎へ移した。火事があったのか全焼状態の校舎内には、(おびただ)しい数の闇霊が蠢いていた。この地域の闇人の復活が早いのはヤツらが原因だ。まずはあの闇霊どもをどうにかしなければ、倒せるものも倒せない。そのために、これが役に立つ。永井は、さっき拾った信号拳銃を校舎に向けた。その名の通り信号弾を発射する銃で、通信機が使えない状況での攻撃合図や救助要請などに使用するものだ。本来殺傷能力は低いが、闇人相手には極めて強力な武器となるはずだ。

 

 永井は引き金を引き、校舎内へ信号弾を撃ち込んだ。すぐに目を閉じ、その上から手で覆った。数秒の間をおき、信号弾が炸裂する音がした。まぶたと手のひらで遮っても目が眩むほどの閃光が校舎内から漏れ出す。闇霊共の金切り声が聞こえる。人間でさえ間近で直視すれば目にダメージを負うほどの強烈な光だ。懐中電灯程度の光でも消滅する闇霊などひとたまりもないだろう。永井が放った信号弾は十秒近く発光し続け、校舎内に潜む闇霊どもを照らし続けた。

 

 やがて光は消え、永井はゆっくりと目を開けた。さっきまで校舎内で蠢いていた闇霊の姿は無い。何体かは外へ逃げ出したかもしれないが、ほとんど殲滅できたはずだ。後は懐中電灯の光でも大丈夫だろう。

 

「永井! そこにいるのか? 俺だよ、沖田だよ!」

 

 段差の上から声がした。新たに沖田の身体に憑りついた闇霊が、また殻の記憶を読み取ったのだ。

 

「今の光は、お前がやったんだろ? あれで校舎のヤツらを倒したのか。弱いやつから叩く……情けない戦い方だな? それでも誇り高き自衛官か?」

 

 初めてこの場所で沖田の闇人と対峙した時はその言葉に動揺した永井だったが、あれは沖田本人の言葉ではなく、闇霊が沖田の記憶を読み取り利用しているのだと悟った。それが判っていても、やはり沖田の声を聞くと心がざわつく。落ち着け、惑わされるな――自分に言い聞かせる。闇霊どもはほぼ殲滅した。あとは、いま沖田を乗っ取っているヤツを倒せば終わりだ。問題はどう倒すかだ。あいつは沖田ではないものの、沖田と同等の技術を持っている。正面からまともに撃ち合っても、未熟な永井に勝てる見込みは無いだろう。倒すためには何か策を用いなければならないが、ライトで目をくらませて狙撃する方法はさっき使ったばかりだ。同じ手段が何度も通じると思わない方がいい。闇人は屍人と違い、頭は悪くない。

 

「ずっと見てたぞ。お前がここに来た時から、ずっとな。こそこそ隠れて背後から撃ったり、光で目をくらませたり……情けなくて涙が出るぞ。今まで何を学んだ? 俺が今までお前の面倒を見てきたのは、あんな軟弱な戦いをさせるためじゃないぞ?」

 

 沖田の記憶を利用し、闇人は永井を挑発する。もはや惑わされることはないが、怒りは込み上げてくる。あんな芋虫のでき損ないのような化物が、尊敬する沖田の体内に入り込み、なりすましているのだ。できることならその体内から引きずり出し、口がきけなくなるまで殴りつけたいところだ。

 

「俺はお前に、この国を守る自衛官としての使命と誇りを教えてきたはずだがな? それが今の戦い方か? 違うだろ? 正々堂々と戦ってみろ。さあ、出てこい」

 

 闇人の企みは判っている。永井が策を用いることを恐れているのだ。そして、正面から撃ち合えば永井に勝ち目がないことも、闇人は知っている。ここで出て行って無策で戦えばヤツの思うつぼだ。それが判っていても、怒りは膨らむばかりだ。ヤツが喋れば喋るほど、死んだ沖田が貶められている気がしてならない。ヤツは沖田を凌辱しているのと同じだ。

 

「――いつまで隠れてるつもりだ? ひょっとして、もうあきらめたのか? くじけるんじゃないぞ? 永井、根性出せよ」

 

 怒りが頂点に達した。永井、根性出せよ――それは、永井が訓練でくじけそうになったとき、いつも沖田が掛けてくれた言葉だ。この言葉があったから、永井は厳しい訓練の数々を乗り越えてきたのだ。それが、あんな化物の口から発せられるなど。限界だった。これ以上やつに喋らせる訳にはいかない。一刻も早く黙らせるべきだ。永井は怒りに任せて階段を駆け上がろうとした。

 

 だが。

 

「永井! 自分を信じろ!」

 

 その一声で、永井は踏みとどまった。

 

 言ったのは闇人だ。それは間違いない。隠れている永井をあぶり出そうとして言った言葉だろう。

 

 だが、そこにわずかな違和感を覚えた。考えて、すぐにその正体に気がついた。訓練で、沖田からは、くじけるな、根性出せ、と何度も言われ、励まされてきた。しかし、自分を信じろ、と言われたことは、一度もない。

 

「――――」

 

 永井は、一度大きく息を吸い、そして吐き出し、ゆっくりと、階段を上がった。

 

 沖田の身体と記憶を利用する闇人への怒りは、もう無かった。沖田は自衛隊内でも優秀な隊員だとか、自分はまだまだ未熟だとか、そういうことも考えなかった。倒すための策も、考えていない。

 

 全ての雑念を捨て、永井は階段を上がる。

 

 闇人の姿が見えた。

 

 闇人が小銃を構えた。永井に照準を合わせ、引き金に指を掛ける。

 

 だが、それよりも早く。

 

 永井は、銃床を肩に付け、頬に当てた。足は肩幅より少し広め。やや膝を曲げて腰を落とし、わずかに前傾の姿勢――沖田の指導の下、訓練で何度も繰り返してきた動作だ。それを、いまここで、自分にできる全ての力で、(おこな)った。

 

 そして、引き金に指を掛け、引いた。

 

 永井の銃から撃ち出された弾丸は、闇人の銃から弾丸が撃ち出されるよりも早く、闇人の頭を撃ち抜いていた。

 

 銃口を下ろし、倒れた沖田に近づく。闇人は、乗っ取った死体の損傷部を治し、巨体や四足など、その姿を変化させることができる。そして、残念ながら、倒しても元の姿には戻らない。倒れた沖田は闇人の姿のままだ。人型とはいえ、その顔には、闇人特有の不快な笑みが残っている。

 

 それでも、永井は倒れている沖田の姿に、尊さを感じていた。

 

「…………」

 

 しばらく無言で沖田を見つめていた永井は、先ほど軽トラックの助手席で見つけたTNT火薬を取り出した。導火線を取り付け、倒れている沖田の胸の上に置く。

 

 校舎内の闇霊どもはほとんど消滅したはずだが、まだどこに潜んでいるか判らない。仮に全滅していたとしても、いずれまた、他の地域からやって来るだろう。これ以上、ヤツらの好きにさせないためには。

 

「沖田さん。これで、本当にお別れです」

 

 永井は、ライターを取り出し。

 

「……今まで、本当に、ありがとうございました」

 

 最後の言葉と共に、導火線に火を点けた。

 

 横に跳び、伏せる。

 

 

 

 

 

 

 沖田の身体は、地を揺らし天を焦がす炎に包まれ、この世界から永遠に消滅した。

 

 

 

 

 

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