あべこべ幻想郷に落ちた命   作:てへぺろん

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レミリアの心境を語る回です。ちなみに今回主人公は登場しません。


それでは……


本編どうぞ!




吸血鬼は見守っている

 「お嬢様、紅茶が入りました」

 

 「ありがとう咲夜。この後はしばらく用事がないからあなたは自由にしていればいいわ」

 

 「でしたら……人里に買い出しをしに行ってもよろしいでしょうか?先日のパーティーで備蓄が減っていましたので」

 

 「……いいわ。行ってきて頂戴」

 

 「かしこまりました」

 

 

 太陽が昇る朝の時間帯、建物の影に隠れたところに組み立てたテーブルで紅茶を一杯口に含む。その紅茶は思った以上に甘くレミリアは顔をしかめた。

 

 

 「……それで話ってなんなのレミィ?」

 

 

 その向かい側に座るのはパチュリーで、先日のパーティーにも外でやるからと言う理由で参加しなかった彼女がここに何故居るのか?レミリアがパチュリーに話があると言って無理やり陰気くさい図書館から引っ張りだしてきたのだ。そんなパチュリーだったが、紅茶に一度は手を伸ばすものの、咲夜が入れてくれた紅茶は随分と甘いことが目の前の友人を見て把握した。伸ばした手を引っ込め読みかけの魔導書に目を通すことにした。

 咲夜はどうやら砂糖の分量を間違えたらしい……普段の彼女ならあり得ないことだ。しかしパーティーの一件やフランとのおままごとの出来事もあり最近彼女に落ち着きがないことがレミリアとパチュリーにはわかっていた。

 

 

 

 「あらごめんなさいパチェ、ちょっと咲夜の入れた紅茶に意識を持っていかれちゃってね」

 

 「先日のフランが提案したおままごとで慧吾と夫婦劇が出来たことで浮かれているみたいね」

 

 「そうみたいね。砂糖を入れ過ぎていることなんて気づかないぐらいに……ね」

 

 

 そう言って再びカップに入った紅茶を口に含む……やはり甘かったようだ。レミリアはナプキンで口元を拭いてもう十分だと言う思いの表れだった。

 

 

 「そして人里に買い出しに行った……備蓄なんてこの前に買って来たばかりなのにね。慧吾のところに行ったみたい……行くのは止めはしないけれど人里に出向く理由をわざわざ作る必要があるのかしら?会いに行きたいと言えば行かせてあげるのに」

 

 「私達に気を使っているのよレミィ、ああ見えてもちょっと前までは『完全で瀟洒な従者』と呼ばれていたのだから」

 

 「それが今ではただの恋するメイド……困った子ね」

 

 「レミィは今の咲夜は嫌い?」

 

 「そんなわけないじゃない。この私のカリスマに相応しいメイドだったけれど、今の咲夜も中々面白いわ。流石は私のメイドね♪」

 

 「あら?レミィあなた前からカリスマあったかしら?異変の時に霊夢にボコボコにされて大泣きしていたのはどこの誰だったかしら?」

 

 「うー!あれは霊夢が悪いのよ!!弾幕勝負がついたのに殴る必要なかったもの!!!グーよ?グーで殴るんだから!あの時は滅茶苦茶痛かったんだから!!!」

 

 「最後は子供のように大泣きしながら咲夜に手当てされていたわね」

 

 「うー!!!」

 

 

 恥ずかしい過去の話をほじくり返されても二人は楽しそうに話していた。そしてその中心にはいつも咲夜が絡んでいた。

 

 

 紅魔館唯一の人間である十六夜咲夜は、彼女が幼いことから現在までずっと成長する姿を見てきた二人……レミリアとパチュリーにとって大きく成長してもいつまでも子供のようであった。

 

 

 ------------------

 

 

 「~♪~♪」

 

 「お帰り咲夜、なにやら楽しそうね」

 

 

 手の空いた時間に人里へと出向いてまで会いたい人物がいた。お目当ての人物……慧吾と今日も他愛無い会話を楽しんでいた。咲夜にとってそれだけでも幸せな時間だった。その幸せな時間を過ごし浮かれながらも寂しくなる別れを済ませて紅魔館へと歩を進めた。自身でも気づかぬうちに鼻歌を歌いながらスキップしているほどに気分は有頂天であった。そんな時に声をかけられて我に返るといつの間にか門前にまで帰って来ていたのだ。あまりにも浮かれすぎて周りが見えていなかったようで、門前には美鈴と日傘を差して笑顔を向けるレミリアの姿があった。

 

 

 鼻歌なんか歌っちゃって……懐かしいわね。こんな愛くるしい姿を見たら咲夜の子供時代を思い出しちゃうわ。咲夜を鍛えて一人前のメイドにし、いつか私の元から離れたいと言い出した時のために一人で生きていけるだけの力と教育を徹底的に仕込んだ。咲夜は人間で私は吸血鬼……人には人の世界がある。紅魔館から人間の元へと帰る時が来る……咲夜もその内わかる時が来るはず、それを見越して心を鬼にし勉強をさせた。パチェも私の考えには口出しすることもなく賛同してくれた。パチェも咲夜のことを気にかけてくれていたしね。しかし勉強はもはや強制と言ってもいいぐらいに傍から見れば厳しく接して来たつもりだったけれど、私のことを恨むどころかずっと傍に仕えたいと言いだしてしまった程だ。私は何度も断ったけど彼女の意思は折れず、深い森の奥深く、雨が降る中に放置したとしても必ず私の元へと帰って来た。一度ならず何度も……そんな姿を見ている内に私は手放せなくなっていた。いつの間にか彼女のことを我が子同然のように思う様になってしまっていた……離れたくないと思う程に、ずっと傍に居たいと思う程に。

 嬉しかった。とても嬉しかった。男には恵まれなくても咲夜がいると心がポカポカして吸血鬼なのに太陽を浴びている気分だった。しかし私の教育がいけなかったのか、子供の頃の咲夜は泣いたり笑ったりする姿を見せてくれた……だが、いつしか教育を施している内に咲夜の表情は硬く無表情を貫いて感情を表さなくなり、自分自身を犠牲にしてでも、私のことを守ろうとするまでにたくましく育ってくれた。嬉しい反面どこか寂しいと思う心が奥底に潜んでいた……人間は失敗を犯す生き物である。しかし咲夜の場合それがなかった……なくなってしまった。完璧に何でもこなしてしまい、いつの間にか咲夜は命令通りに動く()になってしまっていたのだ。私が気づいた時には既に遅すぎた……私の傍にいるのにいつしか()()の関係は離れてしまい、()()()()()の間柄になってしまった。

 

 

 

 私は後悔した……咲夜は物なんかじゃない……私の大切な家族だったのに……一度犯してしまった失敗は私の力ではどうすることもできなかった。私が咲夜の幸せを壊してしまった……一人の女性として恋をし、温かい家庭を築く……女としての幸福な生き方を奪ってしまったのだから。そんな私を咲夜は咎めることもせずただメイド長として私に尽くてくれた。そんな咲夜をいつか私という鎖から解放してくれる人物が現れるのを待った。異変を起こした時も少なからずも期待した……霊夢と魔理沙と出会い、異変後は同世代の同姓と戦い意思を通わせたことで少し咲夜の態度は緩やかなものになった。それでも完全に咲夜は変わらなかった……けれど今の咲夜はと言うと……

 

 

 「――お嬢様!?ゴホン……只今戻りました」

 

 「見たらわかるわよ。それで?買い出しに行ったはずだけれど手には何も持ってないわね?」

 

 「あっ」

 

 

 迂闊だったと咲夜は気づいたが既に遅い。人里に買い出しに行くと言って出てきたのに手元には何も持っていない……それもそのはずである。人里へと出向くための口実で本当は慧吾に会いたい思いが先走っての行動だったのだ。頭の中の買い物など慧吾に会った瞬間忘れてしまったのであった。

 

 

 「も、もうしわけありませんお嬢様!すぐに買いに戻ります!」

 

 「待ちなさい、買い出しを口実にして慧吾に会いに行ったことぐらいわかっているから」

 

 「うぅ……も、もうしわけ……ありません……このようなダメなメイドで申し訳ありませんでした」

 

 

 深々と頭を下げた。自身の主に嘘をついてしまったこと、最近になって失敗が目立つようになってしまったことなどを含めて咲夜は謝ったのだ。

 

 

 慌てているわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()咲夜の表情は今も健在だけど、内心では驚きや焦りが見え隠れしているのがわかる。今まで失態を犯すこともなかった命令通りに動く(咲夜)は影を潜め、時より見せるおっちょこちょいな彼女を見るのが最近の私の楽しみになっているのは秘密よ♪それもこれもみんな慧吾のおかげ。

 運命のあの日、目が覚めたてのボケっとする私の脳内にいきなり衝撃が伝わってきた。頭痛のようなもので痛みも少々あったが、その痛みもすぐに消え去ってしまう程の光景を見た。見ず知らずの男が、咲夜にプレゼントしたハンカチを手渡す光景を!その瞬間に私は運命を見たと言っても過言ではなかった。実際そうだったのでしょうね。私自身の力もまさに運命に関する能力だからだ。この光景を頼りにすぐに私は行動を起こして咲夜を人里へ送り出すと帰って来た頃には彼女の表情がどこかスッキリしていたのを今でも憶えている。忘れられる訳が無い……あの日、咲夜は()から少女に戻ったのだから。そこから咲夜は徐々に少女としての道を進むことができるようになっていく。彼の存在で咲夜は()から解き放たれることになった。

 

 

 「構わないわ、それに咲夜はダメなメイドではないわよ。確かに以前の咲夜なら仕事も任務も難なくこなして無駄もなく忠実に動いてくれていたわ。けれど……私は以前の咲夜よりも今の咲夜の方が好きよ?以前なら笑うことすらしなかったじゃない。話していても気まずくなったこともあったしね。それに今の咲夜とても生き生きしているわ。年相応の女の子が見せる反応をしてくれるし一緒に居てると面白いのよ」

 

 「お嬢様……!」

 

 

 咲夜の瞳がレミリアを見つめる……日傘を差す吸血鬼から太陽の光が発せられているような輝きが咲夜には映って見えていた。

 

 

 「そうですよ咲夜さん、以前の咲夜さんは堅物でしたからね……あっそうだ!咲夜さん、慧吾さんの元へ行きましたよね?」

 

 「ええ、そうよ。それで?」

 

 「いつになったら慧吾さんの堅物(男の象徴)を味わうつもりですか♪咲夜さんの行動はもう通い妻的な行為ですよ?そろそろベッドINの時間じゃありませんか♪」

 

 「そ、そんな……私が慧吾様とそのようなこと……!」

 

 「こらこら美鈴ったら……」

 

 

 美鈴ったら下品な話はやめてほしいわね。まぁこれでも美鈴なりの気遣いなんでしょう。咲夜は表情は平静を装って居るけど呼吸が苦しそうにしていることを指摘するのは止しておきましょう。ちょっと頬が赤いし、見ていて面白いからそのままにしておきましょ。これは私の気遣いってことで♪

 こうして面白味のある会話ができるのも慧吾のおかげよね。彼のおかげで私達は真の家族になれた気がするわ。魔理沙にはフランを解放してもらい、慧吾には咲夜を変えてもらって感謝しているわ。この前のパーティーの招待状、魔理沙の分を用意したのはフランの遊び相手をしてあげただけが実は理由ではない。フランを地下から解放してくれたお礼も兼ねて私としては魔理沙の恋路を応援している。勿論一番応援しているのは咲夜だけどね♪霊夢とあの小鈴って子も慧吾狙いだし、魔理沙は今の関係が崩れるのが嫌なのか手をこまねいている様子だけど、躊躇していると咲夜に取られちゃうわよ?一番は私のかわいい咲夜なんだから慧吾とくっついてもらうわ。無理やり強要するようなことはせずに、咲夜を陰から応援し、時として助言や手を貸して恋が叶うようにすることがあるかもしれないけどね♪

 

 

 レミリアはクスリと目の前の光景を見て笑う。美鈴のイヤらしい妄想を次から次へと投げかけ、咲夜はそれをどうってこともないように受け流しているように見えるが、徐々に体が小刻みに動いている。今までの彼女ならば本当にどうってこともないように受け流していたことだろう。だが、体温までは誤魔化せないのか頬の次は耳までも赤くなっていることをレミリアと美鈴はちゃんと瞳に捉えている。このままでは咲夜は羞恥に耐えられないと判断し、美鈴に待ったをかける。

 

 

 「ちょっと美鈴言い過ぎよ。咲夜そろそろ限界に近いみたい

 

 「おや?そのようですね……こういう咲夜さんを見ていると楽しくて仕方ありませんね♪

 

 

 

 美鈴は小悪魔(こあ)の影響でも受けたのかしら?とでも言いたそうな顔をするレミリア。そんな彼女はふっと思う……レミリア達紅魔館勢は元々は幻想郷外から引っ越して来て環境が大きく変わり、異変を起こすが解決され、その過程で様々な出会いがあった。そしてみんな変わった……よく笑うようになり、紅魔館には温かい空気が流れるようになった。大きく貢献した慧吾に感謝し、咲夜のことを保護者として見守っていける喜びに密かに笑みがこぼれていた。

 

 

 「――ッ!お嬢様、私は少し急用を思い出しましたので……これで失礼します」

 

 

 そうレミリアに一言伝えた咲夜は一瞬で姿を消した。きっと能力を駆使して部屋に戻り発情を抑えるための魔法の布(ハンカチ)を求めに行ったのであろう。

 

 

 「あちゃー、ちょっと咲夜さんで遊び過ぎましたね」

 

 「まったくやり過ぎよ」

 

 「たまにはいいんじゃありませんか?私も仕事中にナイフ刺されてしまうんですし、咲夜さんで遊んでも罰は当たりません」

 

 「仕事中に居眠りしている方が悪いんだけどね。咲夜に言ってご飯抜きにするわよ?」

 

 「それだけは勘弁してください死んでしまいます!」

 

 

 紅魔館の最近はこんな様子だ。特別な出来事もなく、ただただ一日が過ぎていく。しかし変化の起きない日常ってのも悪くはないものだとレミリアは思っている。

 

 

 咲夜頑張りなさい。私もパチュリーもあなたを子供の頃から支えてきた。他のみんなも……みんな応援しているわ。あなたの恋が叶うようにね……

 

 

 レミリアは咲夜が通って行ったであろう入り口を見据えてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あなたは私達のかわいい大切な咲夜()なんだから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ダ、ダメです慧吾様!そ、そんなに強く抱きしめられたら私……私は……咲夜は……慧吾様にはしたない姿を晒してしまうことになってしまいます~❤」

 

 

 「ねぇ小悪魔(こあ)、咲夜はベッドの上で何しているの?」

 

 「あれは夜の運動会の練習ですよ妹様、あの慧吾さんのにおいが付いたハンカチで特訓(妄想)しているのですよ♪男性と女性がマンツーマンで運動するとストレスも悩みも吹っ飛んでスッキリするんですよ♪」

 

 「あっ、わかった!運動会だから小悪魔(こあ)がカメラを持っているんだね」

 

 「そうなんです。咲夜さんの練習光景を慧吾さんにも見てもらうためにカメラを持って来たんですよ♪(咲夜さんの絶頂姿を慧吾さんに見せたらどんな面白い反応してくれるか今から楽しみで仕方ありませんねケケケ♪)」

 

 

 咲夜の貴重な姿を映したカメラを手に持つ小悪魔であったが、運悪くレミリアとパチュリーに見つかってしまいカメラは没収され、説教をくらうことになった。そして後日、咲夜はフランに「夜の運動会頑張ってね!」と声をかけられて冷や汗を滝のように流していたのはここだけの秘密である。

 

 

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