あべこべ幻想郷に落ちた命   作:てへぺろん

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お待たせしました。今度はとあるお姫様の物語でありまする……


それでは……


本編どうぞ!




怪物

 穏やかな風が吹く人里は相変わらず平和な日々を送っていた。そんな平和な人里の道を歩く一人の人物……大きな笠を深く被り顔を隠し、背中には大きなつづらを備えて行者のようないでたちであった。その人物はキョロキョロと辺りを見回して不振な動きをしていた。だがその足取りは迷わずある一家の自宅前で止まった。再び辺りを確認して誰もいないと言う確証を得たその人物は戸を叩く。

 

 

 「ちょっと待ってくれ、今開けるから」

 

 

 中から女性の声が聞こえてきた。そして待つこと数秒もしない内に戸が開かれるとそこには上白沢慧音の姿があった。中から慧音が現れたと言う事はここは上白沢家であることがわかる。しかしこの行者のようないでたちをした謎の人物は一体なの者なのだろうか?

 

 

 「ああ、お前か」

 

 

 慧音はこの謎の人物を知っているようであった。行者のようないでたちをした人物は笠を軽く上げると紅い瞳が見えた。

 

 

 「鈴仙、こんなところで立ち話もなんだろうから中に入るといい」

 

 「はい」

 

 

 鈴仙と呼ばれた人物は慧音のお言葉に甘えて上白沢家へと招かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴仙・優曇華院・イナバ……来客の名前だ。大きな笠を取ると頭にはヨレヨレのうさみみが付いており、足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪が特徴的な耳とともに笠の中に纏めて隠されていたようで、座布団の上に座る彼女は人を苦手として自ら避ける珍しいタイプの妖怪なのである。そんな彼女が何故人里で慧音の元へ訪れたのは理由がある。

 

 

 「すみません、いきなり訪問してしまって……」

 

 「構わないぞ。今日はお暇だったからな」

 

 

 慧音はそっと鈴仙にお茶を出した。鈴仙は一言お礼を言ってそのお茶を口に運んだ。ふぅっとため息とともに安らかな表情が現れる。

 

 

 「それで私に何か用か?」

 

 「いえ、慧音さんにではなく……息子さんの方に用事がありまして……」

 

 「ああ……()()か」

 

 「……はい」

 

 

 慧音が何かを察して誰かを思い浮かべた様子だ。鈴仙は申し訳なさそうにしており、うさみみがシワシワになっている。

 

 

 「()()が慧吾さんに会いたいと駄々をこねて……私達は宥めていたんですけど最近限界で……最終的には『こうなったら周りの誰かが死んでも構わない!今から人里へ進行するわ!!』と私達の制止を振り払ってまで人里へと来ようとしているぐらいですから……()()も限界だと判断して私を使いに出したと言うことです」

 

 「そうだったのか。しかし人里に来られるのは勘弁してほしいものだな……」

 

 

 ()()と呼ばれる人物の何かの原因で鈴仙がここへ訪れることになったようだ。それを聞いていた慧音の顔が引きつるのが見えた。特に()()と呼ばれた人物への反応が妙に強かったのは何故だろうか?それがわかるのはもう少し後のこと。

 

 

 「それで慧吾さんはどこに?」

 

 「慧吾はおつかいで今はいない。買い物は任せろと言って聞かなくてな。慧吾が行ってくれると色々とおまけが付いて来るから私的にも生活費がその分浮いてくれるので大助かりなんだがな。本人も私の苦労を少しでも和らげようとしてくれている……本当にいい息子を持ったよ」

 

 「そうでしたか残念です……けれどもいいですよね。そこまで思ってくれている相手が傍に居るだなんて……それも男の方が私達のような不細工な顔をした女性に接してくれるだけでもありがたいのに」

 

 

 切実な思いが口から洩れた。鈴仙の容姿もあべこべ世界に生きる者達からすれば醜く近寄りがたいものである。

 

 

 鈴仙は永遠亭と呼ばれる古い和風建築の大きな屋敷に住んでいる。そこで姫様や師匠と呼ぶ者や同じくうさみみを持つ妖怪と兎たちと共に暮らして居る。師匠と呼ばれる人物の弟子をしていて、その人物は薬師であり時々人里へやってきては薬を販売しているのである。鈴仙のこの格好も薬を売るための姿だけでなく、自身の容姿と妖怪であることを伏せるためでもあった。容姿が酷いせいで客が寄り付かず売れなかったりして収入を得ることができなくなってしまうこともあり、鈴仙としても顔を見られただけで嫌な顔をされているのを見たくない。だからこうして少しでも自身の姿を隠すような恰好をしている。

 

 

 「慧吾は特別だからな。こんな私でも母親と慕ってくれている……それと妹紅のこともな。掃除洗濯だけでなく寺子屋で授業を受ける子供達の為に宿題づくりを手伝ってくれたりで大助かりだ。私なんかには本当に勿体ない息子だよ」

 

 

 慧音はしみじみ思ってしまう。世の中の理不尽を受け入れねばならない不細工の化身達(少女達)は夢を見ることなく散っていく運命にあった。しかし慧吾がそこに介入したことで大きく人生が一片した。鈴仙もその一人であり、初めは人見知りで臆病者であった彼女が慧吾に会って、人との触れ合いがまだ苦手だがそれなりに良くなってきている。男性ともほんのちょっぴりならばお話できるようにまでなったのだ。勇気を貰った彼に会えると今回の要件を伝える任を任された時は意気込んで来たが結果は不在な為内心ガッカリしているのは心の中に押し殺している。

 

 

 「慧音さん……それで姫様の件なのですけど……」

 

 「うっす!慧音遊びに来たぜ……ってあらぁ?鈴仙ちゃんじゃないか……と言う事は……」

 

 「あっ、妹紅さんどうも。妹紅さんの考えている通りだと思います……」

 

 「チッ!あのばかぐやめ!また慧吾を狙ってやがるな!!」

 

 

 戸がピシャリと開け放たれてずかずかと入って来た妹紅は来客がいることに気づく。来客が鈴仙だとわかると舌打ちをして忌々しい顔をした。これは鈴仙に対してではなく鈴仙の飼い主でとある人物に対してだった。

 

 

 妹紅と()()とは何かを因縁がある相手なのである。昔からお互いにいがみ合い喧嘩ばかりしている仲なのであるが、それがただの喧嘩ではないと言うことはここで先に言っておくが、妹紅が嫌っていることは確かなことである。

 

 

 「妹紅、そんな顔をするんじゃないぞ?醜い顔が更に醜くなるぞ?」

 

 「うるさいよ慧音!醜いのは本当のことだけど慧吾からは……び、びじん……に見えているからいいんだよ!!」

 

 

 反論する妹紅の頬が少し赤くなっていた。自分で言って恥ずかしかったのだろう。

 

 

 「そ、それはそうとあのばかぐやに()()慧吾を会わせるなんて反対だぞ!」

 

 「()()とは聞き捨てならんな妹紅、それでは妹紅だけの慧吾になってしまう。()()()だ!」

 

 「お、おう……すまない慧音、だから睨まないでくれよ……と、とにかく私は慧吾を会わせたくない」

 

 「そんな!?慧吾さんがいないと幻想郷の危機なんですよ!!?」

 

 

 鈴仙は()()なる人物が永遠亭から脱走し、人里へ現れた光景を思い浮かべると顔を真っ青にしていた。一体何が彼女をそんなにも追い詰めているのか……?

 

 

 「それはそうだけどよ……あいつのクッッッソブサイクな面を慧吾の瞳に映るのが我慢ならねぇんだよ!!」

 

 「私達から見たらそうだが、慧吾から見たらクッッッソ美人に見えるらしいぞ?」

 

 「そんなこと言わなくてもわかってる!慧吾にはあいつのことが美人に見えているなんて信じたくはない……わたし達を見てくれなくなったらどうするんだよ慧音……と、とにかくだ、私はあいつのことが嫌なんだよ!!」

 

 

 妹紅はご立腹のご様子で荒い鼻息を立て地団駄を踏む。慧音が赤ん坊だった慧吾を今まで育ててきたが、妹紅も空いた時間にはよく子育ての手伝いにやってきた。成長していく慧吾を傍で見守って来た慧音以外の人物であり、可愛がっていた慧吾にもう一人の親だと認められたことが嬉しくて最近は上白沢家へと泊まりにやってくるほどまでになった。だからこそ嫌なのだ。

 妹紅が最も嫌う相手……それが()()だ。だからこそ愛情を注いで見守ってきた慧吾を大っ嫌いなあいつにだけは渡したくないという保護欲が現れていた。あんなに利口で優しい男性は他に滅多にいないし、自分の息子に悪い虫が付くのが許せない思いだった。そしてもし息子の瞳に自分が映らなくなってしまうことになったらと思うと更に嫌になる。出来れば二度と会いに行かせたくないと言う強い意思が現れていた。

 

 

 しかし現在幻想郷は危機に瀕している。

 

 

 ()()なる人物が永遠亭と呼ばれる監獄から脱走しようとしているのだ。もし彼女が脱走してしまい人里にでも現れたら大変だ。それは何故かって?そうそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お師匠様、もうこれ以上無理なんじゃないの?」

 

 「てゐ我慢よ。ウドンゲが慧吾君と交渉して連れて来てくれる手筈になっているわ」

 

 「でも来るかな?」

 

 「慧吾君は了承してくれると思うけど……問題は彼女ね」

 

 「……もこたんか」

 

 

 長い銀髪を三つ編みで組み、左右で色の分かれる特殊な配色の服を着ている女性と癖っ毛の短めな黒髪にふわふわなウサミミ、それともふもふな尻尾を持ち、裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着用している小柄な少女がそこには居た。

 

 

 八意永琳と因幡てゐ、この二人が今いる場所は永遠亭であり我が家である。永琳とてゐが薬品が入ったビーカーが棚に並べられている部屋の一室で真剣な表情で会話しているようであった。

 二人の会話の中で『もこたん』という聞きなれない言葉が出てきたが、それは藤原妹紅のことを愛称でそう呼んでいる(本人は認めていない)何やら二人は慧吾のことについて話しているようである。

 

 

 「慧吾の保護者だからってだけじゃないよね。完全に姫様にやきもち妬いているよ。もこたん大人げないよね」

 

 「自分の子を取られると思っているのかしらね?まぁ、慧吾君がこちらに嫁いでくれたら永遠亭は安泰なんだけれどね」

 

 「その前に大きな壁があるウサよ。慧吾の周りにはもこたん以外に面倒な連中がいっぱいいるからね」

 

 「博麗の巫女に白黒魔法使いと鈴奈庵の娘、それに紅魔館のメイド……そして他にも……ハードルが高いわね。私達のような女性を相手にしても忌み嫌うことせずに接してくれたら誰もが惚れてしまうのは無理もないことね。実際にうちもそうだし……まぁ、ライバルは多くてもこちらには最終兵器『()()』がいるんだからもしもの時は大丈夫よ。仮面を剥がして汚物で作り上げられたような顔を拝ませてあげればみんな一発よ♪」

 

 「それだけはやめてあげるウサ……流石にそんな惨い死に方をさせてあげたくない……」

 

 

 二人が住まう永遠亭には人が滅多に来ない。迷いの竹林と呼ばれる中にあるとされ辿り着くのが非常に困難な立地にあるが、訪れる者は人間も妖怪も問わず隔てなく、診察や薬の処方をしてくれる。薬の値段は安く、効果が高いことから非常に好評のようだ。しかしそれは医療関係についてだけだった。噂ながら永遠亭は別名「永眠亭」とも呼ばれ、そこに住まう住人を見てそのまま帰らぬ人になってしまったという噂がある。所詮ただの噂なのだが、永琳もてゐもそして鈴仙も全員醜い容姿だ。しかも永琳はその中でもずば抜けている……心臓の悪い老人であるならば不意打ちされればショック死してしまいそうになる。だがそれでもマシな方だ。この永遠亭には永琳を超える怪物が存在しているのだ。

 

 

 幻想郷には絶対に会ってはいけない存在がいる。その存在に会えば人生に絶望し、目が合えば体が震え、呼吸が困難になり胃から今まで食べた食べ物が全て放り出されてしまう……そしてその存在を見た多くの者達がそのまま亡くなって逝ったという。まさに怪物……会うだけで命を奪ってしまう程の何かを秘めている。あの博麗の巫女や妖怪の賢者でさえ永遠亭を避ける程だ。

 

 

 永琳とてゐが色々と冗談交じりに話し合っている……そんな時だった。

 

 

 

 ガシャンッ!

 

 

 何かが壊れる音が永遠亭に響き渡った。その音を聞いた二人は表情が険しくなりすぐさま行動を起こす。

 

 

 「てゐ!もしもの為の捕獲するロープの準備して!!」

 

 「ガッテンお師匠様!!」

 

 

 すぐに部屋から駆け出した二人は最後の要だ。頑張れ永琳!頑張れてゐ!怪物の正体を知る幻想郷の少女達がこの状況を見ていたらそう応援していただろう。だって、もしも怪物が解き放たれれば自分達の命どころか幻想郷そのものが終わりなのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……はぁ……!ここまで来れば……!」

 

 

 迷いの竹林の奥深くに一人の仮面を被った謎の人物がいた。声から考えると仮面の人物は女性のようである。

 

 

 ストレートで、腰より長いほどの黒髪を持ち、ピンク色の服と白い服を重ね着している様子で、袖は手を隠すほどの長さと幅がある珍しい服装だった。スカートも赤い生地に月・桜・竹・紅葉・梅と、日本情緒を連想させる模様が描かれており、白いに半透明のスカートを三重に穿いているようでスカート自体非常に長く、まるで高貴な人物が着るような服装であった。

 そしてそれに似つかわしくない仮面一つを付けていることで、見栄えのいい服装も一変して違和感を引き立たせる。一体なんの為の仮面なのだろうか?

 

 

 彼女は動きにくい服装をしていながら走ってきたのだろう。息を切らして汗を流しているようであった。それにしきりに辺りを見回して警戒している様子であった。

 

 

 「はぁ……はぁ……ふぅ……ここまで来れば大丈夫ね。もうどうしてこの世は私の邪魔ばかりするのよ!!」

 

 

 イラついた様子で傍の竹に拳を振るった。すると拳は竹にめり込みそのままポッキリと折れ地面へと倒れてしまうが、女性はそんなこと気にも留めていなかった。それよりも彼女には大事なことがあったからだ。

 

 

 「あなたに会いたい……今すぐに会いたい!でも、私が人里に行けば多くの人が……でも……たとえそうだとしても!あなたに会いに行きたいの!!」

 

 

 女性は何かを求めるように何かを欲するように人里の方向へと足を踏み出そうとした。

 

 

 「――うぐッ!?」

 

 

 女性はいきなり倒れた。驚くことに彼女の背中には一本の矢が撃ち込まれており、普通ならば死にはしなくても大怪我は間違いない。彼女も背中に矢が刺さっていることに驚き、背後の竹林の奥へと視線を向ける……仮面の奥に潜む瞳には弓を片手に持った永琳と傍にはてゐがいた。

 

 

 「……永琳……てゐ……」

 

 

 二人は仮面の女性の傍まで近づくと永琳はそっと片膝をつく。

 

 

 「ごめんなさい……わかって頂戴……これはあなたの為でもあるのだから……」

 

 「えい……りん……けい……ご……」

 

 

 矢を射抜かれてそのまま意識を失った。意識を失う前に何か言おうとしたがわからなかった。しかし永琳とてゐがこの仮面の女性が何を言おうとしていたのか察している様子で、永琳に至っては悲しい表情をしていた。

 

 

 「お師匠様大丈夫?」

 

 「……ええ、私は大丈夫よ。ありがとうてゐ」

 

 「礼はいらないウサ♪姫様もしかして……死んだ?」

 

 「そんなことしないわよ。強力な睡眠薬(麻酔)を染み込ませた矢を射抜いたから当分は起きないわ。せめて少しの間だけでも夢の中で彼と出会えることを願っておくわ」

 

 「そっか。それにしても危なかったね。対応が遅かったら人里で前代未聞の大量虐殺が始まるところだったウサ」

 

 「そうさせない為にウドンゲを彼の元へと送ったのよ。彼だけがこの子を止められる……けれど彼にも責任があるのは事実だわ。この子をこんなにしちゃったんだから……」

 

 

 優しく抱き上げた仮面の女性を視界に捉えつつ永琳とてゐは我が家である永遠亭へと帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、人里から帰って来た鈴仙が永琳の元へ報告にやってくる。その報告を聞いた永琳は歩き出しとある一室へと赴く。その一室へとたどり着くと中で今もぐっすりと夢の中へと旅立っている人物にそっと語り掛ける。

 

 

 「明日慧吾君が来てくれるらしいから……あと今日のことはごめんなさい。あなたの気持ちは痛いほどわかる。わかるけどこれ以上あなたのせいで死人を増やすわけにはいかないのよ。でも彼ならば死にはしないし、あなたを癒してくれる……明日は彼にいっぱい甘えなさい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「()()

 

 

 ()()と呼ばれた女性の手を握ると彼女の温かい肌のぬくもりが伝わって来る。

 

 

 幻想郷には『絶対に会ってはいけない存在』『永遠亭に住まう怪物』と様々な呼ばれ方でその存在を知っているがその容姿を知る者は数少ない。知ってしまった者の多くがこの世に既にいないのだから……

 

 

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