それでは……
本編どうぞ!
この幻想郷には数々の噂がある。本当のこともあれば嘘である噂話が流れている。その噂話の中で一つ気になるものがあった。
『永遠亭に住まう怪物』
なんでも永遠亭なる場所には怪物が住み着いており、そこに住まう住人と共に暮らしているらしい。それだけ聞けば怪物が住人と仲良く暮らしているだけにしか聞こえないだろうが、そこに住まう怪物は普通じゃないらしい。人ならざる姿をしている妖怪を怪物と呼んだりするが、それとも比較にならないほどに化け物であるらしいのだ。しかしその怪物を見た者は数少ない。噂でしかその存在を知る者はいないのがほとんどだ。永遠亭には怪我や病気など医療に関して優れた人物がいるらしく、たまに人里に永遠亭の薬を持って行者のようないでたちの人物がやってくる。
薬自体は多くの者が買い求めるのであったが、永遠亭にはあまり行きたがる者は少ない。噂話の怪物を恐れていたり、そこの住人は醜い容姿をしている。余程重症でない限り永遠亭には近づきたくないのが多くの者が共通する点であった。そしてそんな噂話が身近な人物と関係があると知ったとある青年の物語である……
これは少し前の出来事だ。
「妹紅さん、そろそろ俺もいい歳になったんだから妹紅さんの仕事の手伝いをしてもいいんじゃないか?何故そんなに断る?」
「前々から言っているだろ。迷いの竹林は道を知らない者が入れば最後、死ぬまで抜け出すことなんてできやしない。どこを見渡しても同じような竹林がずらりと並んでいる光景が続いているばかり、だから迷いの竹林なんて呼ばれているんだ。そんなところに慧吾を連れていくわけにはいかないんだよ」
俺は上白沢慧吾、美醜逆転している変わった世界に新たな生を受けて今まで生きてきた。美人が不細工で、不細工が美人……幻想郷と呼ばれるあべこべ世界で心優しい上白沢慧音こと御袋ともう一人の御袋である妹紅さんと出会い色々なことを経験して来た。そしてこれは俺が妹紅さんと早朝誰もいない人里道で歩きながら話していたことだ。
前々から妹紅さんには何か手伝えることはないかと考えていた。赤子だった俺を拾ってくれたんだ……あのまま肌寒い夜の下で放置されていたら今頃俺は生きていけていたのか不明だし、ここまで育ててくれて恩が無い訳がない。二人が幸せになるまで俺が生きている間は親孝行して行こうと思っている。小さな手伝いとかプレゼントは何度かしてその度に御袋は号泣、妹紅さんは見られたくないのか陰に隠れて泣いて喜んでいたことがあったな(声が漏れてバレバレだったんだよなぁ)
そこで妹紅さんは迷いの竹林でタケノコやら薬草やら一人で集めている。それを手伝って少しでも妹紅さんの負担を軽減させてやろうと思っていたが……
「俺が子供の頃から迷いの竹林には近づかせないようにしているけど……それって俺が迷子になるからってだけが理由なのか?本当はもっと別の理由があって隠し事しているか……とか?」
「ああっと……それはだな……おっと!私にはまだ用事があったんだった!悪いな慧吾、また今度な!!」
「あっ!妹紅さ――ッ!?」
こうしていつもはぐらかされてしまう。子供の頃は俺も幼いから迷子になったら妹紅さんに迷惑がかかるからと深く追求することもなかったが、今ではもう大人の仲間入りだ。男が貴重だからと言って家で大人しく親のすねをかじるほど甘える男じゃない……妹紅さんは普段迷いの竹林の入り口付近に家を建てて暮らしている。何度かお邪魔したこともあったが、その時でさえ迷いの竹林の奥へは一度も連れていってくれなかった。それに妹紅さんが時折服をボロボロにして竹林の奥から帰って来る姿を何度か見た。初めて見た時は俺も驚いて妖怪にでも襲われたのかと心配したが、慌てた様子でなんでもねぇよ!と白を切る。竹林の奥に何かある……そう考えたこともあったが、男一人になった途端に欲情して襲い掛かって野蛮な妖怪が居る可能性があるらしいし、美味しく頂かれてしまう(意味深)なんてごめんだった。御袋達に心配をかけるわけにはいかないと言うこともあり竹林探索は今まで断念していた。しかし今になってこのことを話すのは意味がある。
少し前に御袋と妹紅さんの様子がおかしかった。御袋達は俺が気づいていないと思ったのか何も言わず、夜中なのに外へと出て行ってしまったのだ。俺はしばらくジッと考え込んでいたが、しばらくすると御袋が帰って来た。何だったのだろうかと思っていたが、結局その日妹紅さんは帰って来なかった。御袋に聞けば異変が起こっていたらしい……その時は全然気づかなかったし、霊夢もその日、魔理沙と共に異変解決に乗り出していたようだった。しかしそれ以上のことは話してくれず、その話題を上げると何故か気分を悪くしたように二人共厠へ駆け込む姿を目にした。紫さんもしばらく体調が優れなかったとも聞いている……不可解なことばかりで訳が分からなかったが、一つの噂を文が持ち込んだ。
『永遠亭には怪物が住んでいる』
どこから入手したのか不明だが、迷いの竹林の奥にある永遠亭と呼ばれる建物には怪物が住み着いているという噂だ。ホントかと思ったが妹紅さんが時折ボロボロになって帰って来ることから何かあの竹林にはあるとすんなりと受け入れることができた。しかも文の更なる情報だと先日の異変で霊夢と魔理沙が向かったのも永遠亭だったらしい……これは何かあると俺はある行動を起こした。
「……」
迷いの竹林でタケノコをせっせと集めている妹紅がいた。そしてそんな妹紅を見つめていたのはなんと慧吾であった。あれだけ断られていたのによく迷いの竹林へ来れたなと思うなかれ、慧吾は妹紅に悟られることなくコッソリと後をつけていたのだ。気配を押し殺して慎重に進みながらバレないように静かに草むらの中へと身を潜めていた。
俺が行くと言ったら二人共絶対に引き止めるからなぁ……これしか方法がなかったんだよ。しゃあねぇ、妹紅さんが何故時よりボロボロで帰って来るのか、御袋も妹紅さんも何かを隠している……霊夢も魔理沙も異変のことを話してくれないし、文からのあの情報……『怪物』と言うものが気になる。御袋達には悪いが俺も男だ。好奇心が勝る時だってあるさ。今回ばかりは俺のやりたいようにさせてもらう……これもこの世界で生きていく為に必要になるかもしれないしな。今の俺は探検隊の気分だ……ボッチ状態だけどな。おっと、どうこう言っている間に妹紅さんが奥へと進みだしたな……尾行を続けるぞ。
妹紅はまさか尾行されているなんて思ってもいなかった。彼女にとってはいつもと変わらない日常であり、ただのタケノコ採取へと出かけただけなのだから。何も知らない妹紅をよそに慧吾はしっかりと見失わないように気配をころしながら静かに後をつけていく。
ガザガザッ!
「むっ、誰だ!?」
バレたか!?と慧吾は一瞬動揺したが妹紅が鋭い視線を向けているのは別の方角であり反対側の草むらが揺れたのだ。野生の動物だろうか、もしイノシシだったりとかしたら危険だ。そして妖怪であるならば尚更危険である。警戒を露わにしながら妹紅は揺れ動く草むら目掛けて妖術で生み出した火球を放とうとした。
「もう……てゐの奴、今度見つけたらただじゃおかな……い……って!?待ってください私は妖怪ですけど人を襲うなんて思ってないです勘弁して下さいぃい!!?」
草むらから姿を現した特徴的なうさ耳にブレザー制服と短いスカートを履いた女性がだった。草むらから出たその先では目の前に火球があったなら誰だって驚くだろう。女性も尻もちをついて弁解しようとした。
「なんだ、鈴仙ちゃんじゃないか」
「へっ?も、もこうさん……じゃないですか」
キョトンとした表情をしてお互い制止して沈黙が流れ、先に動いたのは妹紅だ。
「今日は兎鍋か」
「――ちょっと!?私を食べようとしないでください!!」
「ハハハ、冗談だっての……半分は」
「――ッ半分!?」
ギョッとして耳がピンと跳ね上がる。その様子をクスクスとしてやったりと言う表情でにやついていた。
「冗談を本気にし過ぎだぞ鈴仙ちゃん♪それよりも随分ボロボロだな?またてゐの仕業だろうな」
「そうなんですよ!てゐの奴、今度会ったらただじゃおかないわ!!」
妹紅の手を借りて立ち上がるうさ耳こと鈴仙とは知り合いのようだ。傍から見ていた慧吾であっても見ればわかることだが、鈴仙の方は一度も見たことのない相手だった。
初めて見る人……妖怪だよな?一瞬女子高生かと思ったじゃねぇかよ……遂に女子高生が幻想郷にやって来たのか!?って思ったんだけれどな。それにしてもあの鈴仙って方は砂埃だらけだな?竹林の中であんなに生足出して……文もそうだが目のやり場に困る。自分が不細工だと認識しているのに素肌を晒すのか?矛盾が生じている気もするが俺にとっては強い刺激を与えてくれる(いい意味で)だから俺は気にするが気にしないでおく。それはそうとして、あの妖怪はここら辺に住んでいるのか?服もちゃんと着ているし、洞穴生活しているわけじゃなさそうだ。だとすると……
慧吾は二人の会話を盗み聞きするために意識を集中する。
「頑張れ鈴仙ちゃん、私は応援しないがな」
「なんですかそれ……妹紅さんはタケノコ狩りなんですね。ここで会ったのも縁なのでもし良かったら
「いや、あいつのバカみたいな
「そうですよね。私も姫様のお顔を見ながらはちょっと……」
二人の会話が聞こえてくる。慧吾は噂で耳にした
何やらよくわからねぇが妹紅さん怒っているのか?それに妖怪の方は気分が悪そうだな。話の内容的にあの妖怪は永遠亭の住人って訳か。美人だよなやっぱり……そこに住んでいる怪物って一体なんなんだ?宇宙生物?それとも邪神か何か?考えていてもわからねぇよな。ならば俺は真相を知るためにあの妖怪について行った方が良さそうか。
慧吾は妹紅の追跡から永遠亭の場所を知る鈴仙の追跡へと軌道を変えた。そんなこともいざ知らずに他愛もない小話をして二人はそれぞれ分かれて去って行く。勿論その後をこっそりとついて行く……この行動が慧吾と怪物を繋ぐことになろうとはこのとき誰も知らなかった。
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「ウッサッサ♪落とし穴の設置完了!後はここを通るだろう鈴仙が引っかかるのを待つだけウサ」
迷いの竹林の奥深くで落とし穴を仕掛けて満足な表情をしていたのは因幡てゐであり、先ほど鈴仙を散々煽って罠に嵌めた張本人である。その張本人は今度も懲りずにここを通る鈴仙の為に新たな落とし穴を仕掛けたのだ。
「鈴仙はマヌケだからすぐに引っかかるウサ。しかし罠は一つだけでは満足できぬよ。更に頭上からの水攻め&更に更にのタライ落としでより一層そのマヌケ面を晒すといいよ♪」
落とし穴の頭上には水の入ったバケツとタライが細い糸で設置されており、落とし穴にかかった者に容赦のない追加攻撃を加える設計だった。これも日頃から鈴仙を引っ掻ける為だけに用意したものなのだから相当な悪戯好きと見える。
「早く来ないかな鈴仙の奴……ん?」
こちらへと向かって来る何者かの足音が聞こえたのだ。可愛らしいうさ耳をよ~く凝らして見ると何やらぶつくさと独り言も聞こえてきた。「てゐの奴ったら……してやる」断片的だったが間違いなく鈴仙の声だとわかると満面の笑みで待機する。
ガサゴソと草木をかき分けて現れたのはやっぱり鈴仙だった。
「こんなところで何しているウサ?もしかしてエロ本でも探していたウサか♪」
「てゐ!!?よくもさっきはやってくれたわね!!」
てゐの姿を見つけた鈴仙は顔を真っ赤にして襲い掛かる。
「うわー!鈴仙に殺されるウサ―!(さぁ、そのまま落とし穴に落ちちゃえ!!)」
身を屈めて怯えるフリをする。落とし穴へと誘い込む手段だ……まさに策士!!!
「(――ッ!?てゐが怯えている……そんなわけがあるはずがない。だとしたら……罠!?)」
鈴仙はてゐの行動に違和感を感じ、自分がこのまま進めばどうなるかを想像した。そして気づいたことがあった。地面の一部だけは薄っすらと色が違う……神経を集中して目を凝らさないとわからないほんの微妙な違いを鈴仙は見分けることができた。これも彼女がある場所である訓練を受けていたことが幸いにも経験が生きた。
落とし穴が設置されていることを察知した鈴仙は足を止めようとするが、それはかなわないとすぐに判断する。落とし穴がすぐそこにあるからだ。急には止まれずそのまま突っ込んでしまう……すぐさま思考を変えて鈴仙が出した答えとは!
「とうっ!」
「飛んだ……だと!?」
答えは飛んだ。止まれないならば飛び越えればいいだけのこと、鈴仙の思惑通りに落とし穴を避けて地面へと着地した。
「私を罠にかけようなんて千年早いわよ!」
「ぐぬぬ!鈴仙を甘く見た私の落ち度か!」
「てゐ覚悟しなさい!」
「やなこった!」
てゐと鈴仙の追いかけっこが始まり、木を盾にして攻防戦をしばらく繰り返している最中にそれは起こった。
「ぐぁ!?」
「「へっ?」」
ドシンと音を立てて落とし穴を設置した場所から何やら悲鳴のような声が聞こえてきた。この場に第三者がいるとは思っていなかった二人は一瞬思考が停止してしまう。
「……てゐ、私の聞き間違えじゃなければ今のは……人の声じゃない?」
「……みたいな声が聞こえたような……いや、逆に考えるんだ。何も聞いていないっと」
「現実逃避してんじゃないわよ!早く助けに行ってあげましょう!」
二人は急いで向かうとぽっかりと口を広げている落とし穴を発見する。やはり誰かが引っかかったようだ。誰にしてもこちら側が仕掛けた罠なので早く助けてあげないといけなかった。二人は落とし穴の中に顔を覗かせて安否を確認する。
「すみません大丈夫です……かぁ!?」
「お~い!生きているウサ……ぴょん!?」
うさ耳が跳ね上がる程に驚愕した二人……落とし穴の中で発見したのは……!
「「お、おとこ(ウサ)!?」」
迷いの竹林の奥深くに古い和風建築の大きな屋敷が一軒まるで存在を隠しているかのように佇んでいる。その屋敷こそが永遠亭であり、慧吾が探していた建物であった。その建物の一室で書類に次から次へとペンを走らせている女性がいた。
「薬草の在庫は……問題なし。他には……漢方薬も少し調合しておいた方がいいわね」
在庫の確認作業の真っ最中のようで、ぶつぶつ呟きながら様々な薬品が入った棚を見て回り書類に在庫の状況を書き記していく。
「永琳ー!ご飯持って来てー!!」
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえて来た。永琳の名を呼ぶ声で、呼ばれた本人はため息交じりに返した。
「姫様それぐらい自分でしてください!!」
「ええー!めんどくさいー!!」
「めんどくさがらないでください!一日中部屋に引きこもってだらしない生活をしている女性は嫌われますよ!?」
「いいもーん!私はもう嫌われていますからー!!」
永遠亭内を響き渡る程のやり取りが飛び交う。永琳とやり取りしている相手の姿は見えないがどうもだらしがない生活を送っているようだ。永琳の様子を見るに手を焼いているもよう。
「いつからこんなに我が儘に……私が言っても聞かなくなったし……誰か今のだらしがない姫様を変えてくれる人はいないかしら……」
そんな都合のいい人物がいるなどありえない……ありえるはずはないのだからと永琳は思う反面諦めてもいた。しかしすぐそこに都合のいい人物がいることなどこの時はまだ知らない。
「お師匠様!!」
「どうしたのよてゐ?それにウドンゲ……ウドンゲ?」
「私は鈴仙・優曇華院・イナバであり誰が見ても鈴仙・優曇華院・イナバである……誰もが恐れる軍人であり私は愚かな地上の者共を根絶やしに……あばばばば……!」
「……てゐ、ウドンゲに何があったのよ?」
玄関を勢いよく開け放ち一直線に永琳の元へとやってきたてゐに鈴仙の二人、てゐは慌てた様子で汗をかいていた。珍しいわねっと永琳が疑問を抱いた時、鈴仙に視線が移すとカチカチに体を硬直させて何やらぶつぶつと独り言を繰り返していた。明らかに様子がおかしい二人……そこで永琳は気づいた。鈴仙の背に誰かが背負われていること、しかもその誰かが男であったことに。
「てゐ、ウドンゲ……どういうことか説明してもらえるかしら?」
「お師匠様……実は……」
この出会いが一人の怪物と呼ばれる存在を救うきっかけに繋がるのであった。