それでは……
本編どうぞ!
「妹紅さん」
「………………………………………………」
「妹紅さんってば」
「………………………………………………」
「おーい、妹紅さん聞こえているでしょー?」
「………………………………………………」
「……無視するんならもう二度と妹紅さんとは口を聞かねぇ」
「――ッ!?わ、わるかったって!!聞こえないフリしていたのは謝るからそれだけは勘弁してくれ!!」
俺と妹紅さんは迷いの竹林をお土産片手に進んでいた。お饅頭を風呂敷に包んであれこれ竹林に詳しい妹紅さんに案内されているのはいるんだけど……いくら進んでも先ほどから到着する気配はない。道に迷ったとかではない。迷いの竹林のことに詳しい妹紅さんが居るのだから迷うはずはないのだ。だとすると原因は一つで彼女……妹紅さんにあった。実はワザと道を間違えて辿り着くことを拒んでいた。俺を目的地に行かせたくないらしい。何故そんなことを妹紅さんがするのか……目的地は『永遠亭』であり、昨日俺が家に帰ると鈴仙がお邪魔していてお願い事をされた。
『「幻想郷を滅びから救うために姫様に会いに行ってあげてください」』
幻想郷を滅びから救うとか冗談で言っているわけではない。ガチで幻想郷が崩壊するレベルのお話なのだ。俺は少し前にとある出来事で一人のお姫様と出会った。そのことがきっかけで俺と永遠亭は繋がりを持ち、鈴仙ともその時に知り合い、人里にやって来たときとかは人目を盗んで我が家を訪れることもある仲だ。そして永遠亭にはもの凄く醜悪で、見た者は最悪あまりの醜さに耐えられずに死んでしまうと言う驚きの死因を発生させる怪物と呼ばれる存在がいる。しかしこの世界はあべこべ世界で美人が不細工、不細工が美人として映る……その人物はあまりに不細工で怪物と呼ばれていた。そう、この世界の価値観ではそうだが俺は別だった。怪物と呼ばれる人物は俺にとってもの凄く美人に見えた。この世のものとは思えない程に美しい女性だった……思い出すだけで胸の鼓動が高鳴るのがわかる。今からその人物に直接また会えると思うと緊張も隠し切れない。
そんなことを思っていると顔に出てしまっていたのか妹紅が鋭い瞳で睨む。
「おい慧吾、お前もしかして今……輝夜のことを思い浮かべたんじゃないだろうな?」
「えっ!?あっいや……別にそんなんじゃないぞ……」
「嘘つくな!顔に出ていたぞ!慧吾、輝夜の奴の事なんか頭に思い浮かべるんじゃねぇ!お前のその優しくて思いやりのある神聖な脳みそが腐っちまうだろ!」
ギリッと歯を食いしばって説得する妹紅の姿に慧吾でもたじろいでしまう。
必死過ぎる……妹紅さんはその怪物こと輝夜が嫌い……大っ嫌いなのだ。昔に色々とあったらしく喧嘩と言う殺し合いをよくやっているそうだ……なにやってんだよ。物騒ってレベルの話じゃないぞ。そんなこんなで妹紅さんの熱い説得を受けているが約束したんだ。昨日の話ではない……俺と輝夜があったあの日に……
慧吾は小指を見つめてあの時のことを思い出していた。
時は遡りあの日の光景が鮮明に思い起こされる。
バタン!
「………………………………………………はっ?」
俺の前で美しい女性がいきなり倒れた。あまりの出来事に思考が一瞬停止したが緊急事態だと本能が察知して体が自然と動いていた。
「お、おい大丈夫か!?」
慧吾はすぐさま女性を助けようと抱き起す。必死に倒れた女性を揺すっても起きない……そして気づいてしまった。恐る恐る胸に耳を近づけて心臓の鼓動を確かめてみると……
「………………し、しん……死んでいる!?」
心臓の鼓動が止まっており息もしていなかった……女性は死んでいたのだ。先ほどまで話をしていた相手が目の前で息を引き取ると言うとんでもない状況に遭遇してしまった慧吾は流石に体が震えてしまう。
う、う……そ……うそ……だろ!?つい先ほどまでこの人と話をしていたのに……心臓発作でも起こしたのかよ!?でも顔が……何故か安らかな表情をしているのがなんとも……と、とにかく誰か助けを呼ばねぇと!!
自分ではどうしようもできない状況に誰かの助けを求めようとした時、ドタドタとこちらに走って来る音が聞こえてきた。そして振り返るとそこには長い銀髪を三つ編みで組み、左右で色の分かれる特殊な配色の服を着ている女性が驚いた表情をしていた。
「――ッ大丈夫!?」
これまた美しい女性の人だった。だが今は惚けている時間はない……その人が声をかけてきた。その時は傍に倒れている彼女のことを心配してのことだと思ったが、女性は真っすぐに俺の方に向かって来てがっしりと肩を掴まれた。
「あなた……どうして死んでないの!!?」
この女性は俺に死ねと言っているのか!?待て待て落ち着け俺……初対面の相手からこんなことを言われたら訳が分からないのは当然だが、今は傍の彼女の方が先だ!
「死んでないって……俺のことはともかくこっち!この人が息をしていないんです!!」
「輝夜……死んでいるの!?どうして輝夜の方が……
三つ編みの女性が顎に手を当ててぶつぶつと考え事をし始めた。この状況で何を冷静に分析しているんだとツッコミを入れたかったが、俺は三つ編みの女性が呟いた
ここは幻想郷であり、俺が転生する前とは大いに違う世界。あべこべで美醜逆転はそうだが、何よりも妖怪が存在する世界だ。空想や都市伝説であった妖怪が実在する……もしかしたらこの女性は妖怪なのではないかと言う考えが浮かんできた。妖怪ならば死んでもまた生き返ったりできるのでは?実際に御袋に妖精は死んでも蘇ると教えてもらったことがあった。それを思い出した俺は少しばかり冷静になれた気がした。なので俺は聞いてみることにする。
「あの……もしかしてこの人は妖怪ですか?」
「……えっ?違うわよ」
「では妖精ですか?」
「輝夜が妖精に見えるのかしら?」
慧吾は一瞬で顔が真っ青になった。妖怪でも妖精でもない……ならば自然と答えが出る。目の前で命が失われた現実に体中の力が抜け落ちそうになった。非情な現実を受け入れるしかない……そう思った時だった。
「………………………………………………………………………………………………ッ!」
ピクリと抱きかかえる彼女の手が動いたのだ。これには慧吾も思わず驚いてしまう。
「……も、もしかして……生きている……のか?」
恐る恐る現実ではありえないはずの出来事に死んだはずの彼女に聞いてしまった。死人に聞いても答えは返って来るはずはないのに……開くはずのない瞼がゆっくりと開いていく。
「……あれ?私は……どうしちゃったの?」
なんと死んだはずの彼女が生き返ったのだ。今度は言葉を話して息もしていることも確認できた。ありえない出来事に普通ならば困惑するはずが、慧吾は嬉しさで胸がいっぱいになった。つい嬉しくて彼女を抱きしめてしまう。
「マジでよかった!本当に死んでしまったかと思ったぞ!!」
「えっ!?あっ、ええぇ!!?」
傍にいた三つ編みの女性はこの光景を見て声を荒げていたが、そんなこと気にもならない慧吾であった。死んだはずの彼女が生き返ったんだからそれでいいじゃないかと思った。例え他人でも目の前で死なれるだなんて慧吾としては受け入れられないものだったから。
そしてつい嬉しくて彼女を抱きしめていたことに気づいた慧吾は慌てて彼女を引き離す。
「わ、わるい!つい嬉しくなってしまった反動と言うか……その……何と言うか場のノリ的なみたいな感じでだな……」
恥ずかしい!ついやってしまった事とはいえ抱きしめる行為をした俺は馬鹿だったわ。セクハラ行為まがいなことをした挙句、美人を抱きしめることができて酔っている俺……美人を抱きしめることが出来て浮かれるのは仕方ないことなんだ。俺も男だし……彼女の綺麗な肌に触れただけでなく、匂いもとてもいい香りだった。こんな状況下でも美人の肌と匂いを感じてしまったことが余計にセクハラ行為と取られてしまいそうだ。そのせいでまともに彼女の顔を見れない……超恥ずかしいぞこれ。
慧吾の心臓は今にも破裂しかけだ。美人をノリで抱きしめた挙句、ちゃっかりと綺麗な肌と彼女の香りをしっかりと感じた取ったのは男であるが故の本能だ。だがそのおかげで、心臓の鼓動が高まり体中が熱くなる。今まで幻想郷の女性達を相手にして来た慧吾だが、目の前にいる黒髪の彼女は誰よりも美人過ぎた。紫や藍と言った者達も確かに慧吾にとって美人ではあるがそれをも上回り、耐性が付いているはずの慧吾ですら照れてしまう程だ。その為に慧吾はこの世界があべこべであることが頭から抜け出ていた。母親である慧音や妹紅、霊夢や魔理沙達が不細工だと言われている世界で、彼女はこの世の者達から見たらどう思われているのか……
そして彼女は目の前にこれほど自分のことを見てくれる男性が居ればどうなるか……
「………………………………………………」
「……?あの……もしもし……もしもーし?」
「……また死んでいるわ……」
「……ひぐっ……ふぅえ……ぐすん……ううぅ……」
再び目覚めた彼女は大粒の涙を留めなく溢れて泣いていた。まるで今まで流すことが出来なかったものを流すように彼女はしばらく延々と泣き続けていた。
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「そうだったのですか……辛かったでしょう?」
「はい、でも……今は辛くないわ。だって……あなたにこうして巡り合えたのですもの」
永遠亭の一室に集まるのは慧吾を含めた四人……輝夜と永琳、そしててゐだった。
輝夜は今まで溜め込んでいた涙を思う存分に泣き続けた。泣きだした彼女に動揺する慧吾であったが、永琳が彼女の涙の訳を語る。今まで一度もその容姿のおかげで受け入れられなかったこと、初めて自分を見てくれる男性が現れたことで我慢できなかったと言う。それを聞いた慧吾はしばらく傍で彼女が泣き終わるまで待つことにした。そこからだ……後に騒ぎを聞きつけたてゐと合流し、お互いに自己紹介を済ませた後に色々と聞かれた。
何故輝夜を見ても死なないのか、私達を見ても嫌ではないのかなどこの世界の女性達が抱く疑問を投げかけられた。この質問も一度や二度ではない説明を慧吾は語った。初めは半信半疑な永琳達であったが、輝夜を見た者達の結末を考えれば嘘でないことは確かでだった。永琳達は慧吾を受け入れ、こうしてお茶会を開いているのだ。
その時に話してくれたこと……輝夜達と妹紅との関係についてだ。
輝夜が月の姫様で、醜すぎる容姿で月では監禁生活に近い日々を送っていて不老不死になる薬を飲んだが故に地上へ落とされた。しかしそこでも厳しい現実を突き付けられながらも今まで永琳やてゐ達の協力によって暮らしてこれた。その過程で妹紅と因縁が生まれて憎しみをぶつけ合う形で暮らしていた。慧吾は輝夜と妹紅が不老不死になった経緯を知り驚きはしたが、受け入れることにした。妹紅は大切な二人目の親であり、どんな理由があるにせよ見放したりはしない。受けた恩を忘れず、自分が生きている間はずっと彼女を支えようと改めて心に誓うきっかけにもなった。時折妹紅がボロボロで帰って来たのは輝夜と喧嘩したからだと理解して今まで抱えていた謎がなくなりようやくホッとした。しかし不老不死だからと言って殺し合いまでには発展してほしくないと心の中で思っていたりする……今度妹紅に注意しようと慧吾は決めたのだった。
「巡り合えたなんて……大げさですよ輝夜さん」
「大げさなんてことはないわ。あなたは私の運命の人なの。それに輝夜さんなんて他人行儀よ?輝夜と呼んで。私も慧吾って呼び捨てにするから♪それに……敬語なんて使わないで。あなたとは対等の立場でいたいのよ」
「……わかった輝夜、これでいいのか?」
「うん♪」
輝夜の表情は笑顔が溢れていた。こうして男性である慧吾と話をするだけでも嬉しいのに、自分を真っすぐに見つめてくれる慧吾に惹かれてしまうのは当然のことだった。永琳やてゐから見ても今の輝夜は慧吾に首ったけである。
「(お師匠様、姫様随分と嬉しそうだね?)」
「(当然よ、自分を見てくれる殿方が居たら私だってコロッと惚れちゃうわ)」
「(初めは信じれなかったけど、本当だったウサね。姫様の顔を見て平然と居られる男なんていなかったし……姫様が言うように運命の相手かもね)」
「(そうかも知れないわね。彼、上白沢慧吾と言う名前にてゐは心当たりかしら?)」
「(知っているウサ、人里で寺子屋を営む牛乳を貯め込んでいる教師と同じ名前だよ)」
「(……てゐ、これはチャンスよ。輝夜は慧吾君に惚れているわ。そして慧吾君の話だと私達は美しく、可憐な優しいナイスボディの麗しの天才にして最高の医師に見えているそうよ。一発やりたいぐらいウハウハの容姿に見えると言うことよ!)」
「(慧吾はそこまで言っていないウサ……お師匠様、話盛りすぎ)」
コソコソと輝夜が慧吾に夢中になっている間に計画を話し合っていた。この時当然てゐは輝夜の顔を直視しようとせずに逸らしているのは抜かりない証拠だ。
「(てゐ、あなたも慧吾君に『じゃあ、私のことはどう見えるウサ?』と聞いて返って来た答えが『とても可愛らしい』と言われて赤くなっていたくせに)」
「(うぐっ!?そ、それは……ゴホン!それよりも姫様と慧吾を引っ付けさせるには問題があるウサよ)」
「(露骨に話を逸らしたわね……まぁいいわ。問題は……妹紅ね)」
慧吾が自分が上白沢と名乗り、これまでの経緯を説明した時に永琳達に聞き覚えのある名が出て来た。
藤原妹紅……輝夜とは仲が悪く、事あるごとに喧嘩と言う殺し合いをしている。その妹紅のことをもう一人の母親と言っており、妹紅も慧吾のことを大切にしている模様だ。しかし妹紅から慧吾の話も今までそんな素振りも見たことがなかった。輝夜もそのことについて疑問を感じたが、今は目の前の慧吾に夢中で意識は彼だけにしか向けられておらず問題は後回しになった。だが永琳とてゐは妹紅が何故今までそのことを黙っていたのか……大体想像がつく。
「(姫様に合わせたくないみたいだねもこたん)」
「(話によれば慧吾君を迷いの竹林に近づけさせなかったみたいだから間違いないわね。となれば輝夜と慧吾君を引っ付かせようとすると妹紅が必ず邪魔するのは間違いないわね)」
慧吾は今では立派な青年、そのことを今まで隠し通して来た妹紅はそれほど輝夜にその存在を知られたくないと見える。輝夜と慧吾が仲良くなり、不機嫌な妹紅の姿を思い浮かべるのは容易なことであった。
「(どうしようかお師匠様?」)
「(私達がすぐさまどうにかできるものではないわね。慧吾君の気持ちもあるでしょうし……何よりも……)」
永琳とてゐはそっと輝夜の様子を窺う。
「妹紅さんったらそんなことをしていたのか」
「そうなのよ。それでね、妹紅ったら私の顔面に思いっきりパンチを食らわせたの!あの時はとても痛かったの!それでね、後はてゐと協力して妹紅を落とし穴に引っ掛けてね……!」
楽し気に慧吾とお喋りする輝夜の姿があった。今までのような影を差した顔ではなく、永琳達からしたらとても不細工でありながらも笑顔で無邪気な少女の面影がそこにはあった。
「(……今は輝夜の好きにさせておきましょう。後のことは後々考えればいいわよ)」
「(……それもそうウサ)」
永琳とてゐは話が弾む二人に気づかれぬようにそっと部屋から出て行った……
「私は鈴仙・優曇華院・イナバだ。誰がなんと言うと鈴仙・優曇華院・イナバなのだよ!あばばばば……!わた……わたしは……鈴仙・優曇華院・イナバ……なのか?否、わたしは……鈴仙・優曇華院・イナバなのか?あばばばば……わたしは……わたしは……だれだぁ!!?」
別室で簀巻きにされていたガラクタ鈴仙の存在が語られることはなかったとさ……
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永遠亭前に集まる人影があった。お茶会を済ませた慧吾であるが、無断で迷いの竹林に入った挙句に母親の慧音にも妹紅にも知らせていない。話し込んでしまいもうじき日が暮れて辺りが真っ暗になってしまう時間が近づいている。その前に人里へ帰らないといけなかった。慧吾を見送るために輝夜に永琳、道案内役にてゐが慧吾と一緒に人里まで送るつもりだ。てゐが一緒であれば道に迷うこともなく、発情妖怪達に襲われても何とかあるだろう。そんな中で輝夜一人が暗い顔をしていた。
「……もう……帰っちゃうの?」
「ああ、妹紅さんも御袋も心配しているかもしれないしな」
「……そう……」
ああ……もうそんな時間なの。彼と……慧吾ともう別れなくちゃいけないの……?
寂しかった。輝夜は人生でこれほど楽しい一日を過ごしたことなどなかったと言ってもいい。永琳達が居てもこの心にぽっかりと空いた隙間を埋めることはままならなかった。殿方に決して受け入れてもらえない醜い容姿を持って生まれて来た哀れな月のお姫様……しかしそれもこの日を境に終わりを告げた。
自分の顔を見ても苦しむことなく一切嫌な顔をすることもなかった。初めてこんなに長く時間を忘れてしまう程に話し込んでしまった。ずっとこのまま時間が止まれば良いとさえ思えた……自分の能力『永遠と須臾を操る程度の能力』では時間に干渉できても慧吾自身には干渉できない。自分だけが止まった空間に放り出されるだけ……慧吾と話すこともできなくなってしまう。それでは意味がないのだ。
とても温かった……抱きしめられた瞬間に心の奥が湧き上がった。今までに私が一度も感じたことのない胸の高鳴り……それを抑えきれずに私は死んじゃったけれどもそれでもいい!何度死ぬことになっても……私はもっと慧吾と一緒にいたい!
別れを惜しむように大粒の涙が溢れて来る。輝夜が求めていた運命の人と離れ離れになってしまう……そう思うと止まらなくなってしまった。ポタポタと彼女の心そのものを現すように輝きを涙が放っていた。いかないでと、傍からいなくならないでと……そんな輝夜をしっかりと見つめ、慧吾が涙を優しく拭ってあげる。
「輝夜泣かないでくれ。俺はまた来るよ」
「……ぐすっ……ほんとう……?」
「ああ、毎回とはいかないが約束だ。友達との指切りをしようじゃないか」
「約束……友達……」
そっと出された小指を見つめる輝夜は自分も同じように小指を出して誓い合う。触れ合った肌がとても温かい。
「「ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのます ゆびきった」」
「……」
永遠亭を去って行った慧吾は竹林の中にてゐと共に消えて行った。慧吾の姿が見えなくなっても輝夜はずっと彼の後ろ後を瞳の奥に映し出していた。
「輝夜、今日は楽しかった?」
「ええ、最高に楽しい一日だったわ……とても……とても……楽しかった……」
「そう……良かったわね」
時間がこんなに早く過ぎるなんて今まで感じることがないぐらいに楽しい一日だったわ……それでもやっぱり少し……ううん、とても寂しいわ。たった一人……たった一人の青年の存在が私の中でこんなに大きく宿るなんて思ってもいなかった。何百、何千、億はいったかしらね……その中でこんなに一秒たりとも忘れたくなくなるなんて……でも、彼と約束した。約束してくれた……また会いに来てくれる。私は悲しまない。だから永琳の問いに私はこう答えた。
「うん♪」
満面の笑みで笑顔を浮かべた。
彼女がこれほど不細工な姿を今まで見せたことはないだろう。誰がどう見ても醜くすぎて胃の中の物が逆流してしまう光景だが、永琳はそれでもその笑顔を見ることができて自分は幸せだと思えるほどだった。
「そうだ永琳、教えてほしいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「掃除に洗濯、後……料理を教えてほしいのよ!」
「あら?今まであなたが一向にしようとしなかったことなのに……どうしてかしら?」
「そんなの……私がだらしない女だと思われたら……慧吾ガッカリするから……」
頬が赤くもじもじと恥ずかしそうに照れる輝夜の姿に永琳の保護欲が駆り立てられそうになったが、グッと我慢した。
「ゴホン……いいですよ。ですが甘やかしたりしませんよ?しっかりと厳しく教えますからね?」
「ええ、お願いね永琳」
この日、輝夜の人生は変わった。長きにわたる苦しみから解放され新しい未来へと歩み出した。そして永琳と共に永遠亭へと戻って行く前に慧吾が去って行った竹林の方を振り返り心に決めたことがある。
友達……ね。今は友達だけれども必ず友達以上になって、絶対あなたに相応しいお姫様になってやるんだから!
輝夜はたった一人の為だけのお姫様であり続けることを誓ったのだった。