前回意味不明に襲われた主人公……そして半霊を添えた少女の鬼ごっこが始まった。無事この窮地を脱出できるのか?そしてこれを知った知人たちの行動は……
それでは……
本編どうぞ!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
青年こと上白沢慧吾は人生で最も危険な時間を過ごしていた。汗だくになりながら人里を駆け抜けて人気のない場所までやってきていた。
「はぁ……はぁ……く、くるしい……ここまで体力を使うなんて……はぁ……な、なんなんだよあの子は!!?」
慧吾は追われていた。一人の少女に……その少女は鋭い刃を光らせた刀を持って慧吾を狙っている。物陰に隠れていた彼の耳に届く足音が徐々に近づいていた。
「出て来てください!逃げる必要はありません!一瞬、一瞬だけ痛いだけですから。斬られた後は安らかに休めるので安心して斬られてください!」
「(休めるんじゃなくて逝くんだよ!!なんだよ!?いきなり命を狙われるとか俺なにかあの子にしたのか!!?)」
慧吾は記憶を辿るが今日買い物するときに曲がり角でぶつかったぐらいだ。少女とはそこで初めて会い、買い物を済ませた慧吾の前に少女の方から現れた記憶しかない。なので何故命を狙われているのか不明だった。だからこそ追いかけて来る少女に身に憶えの無い恐怖を感じる。
「(冗談じゃねぇ、可愛いからなんでも許されるわけはねぇんだぞ!!!と、とにかくこの場から離れないと周りの人が巻き込まれたらまずい……)」
慧吾は必死に身を屈めて見つからないようにしながら人里から少しでも離れようとしていた。ここは人里なので子供や老人もいる。あの意味不明な少女を少しでも遠ざけようとしていた。
「(こういう時に霊夢や魔理沙がいてくれたら……くそっ!なんて運がついてないんだ!)」
「……みぃつけた♪」
「――ッは!?」
聞きたくない声に反応して顔を上げるとそこには笑顔の少女がいた。小柄な少女であるが、手には刀……その刃がギラリと太陽の光を反射している。少女に見つかってしまった慧吾の顔色が悪くなる。
「覚悟してください、あなたを斬ればこの思い……わかるはずなのです!」
「何言ってんだよ!?まるで意味がわからんぞ!!?」
「では……魂魄妖夢……参ります!!」
「参るな!!!ってううぉ!!?」
少女の振るう刀を紙一重で避けることができた慧吾は身体を鍛えておいて良かったと思ったことはないだろう。鍛えていなければ先ほどの一振りでパックリと首が逝っていたはずだ。命を狙われる恐怖を味わいながらその場から逃走する慧吾とそれを追いかける少女の攻防戦が繰り返される一方で、このことを知らない連中へと話を向けよう……
「へっ、魔理沙さんは相変わらずムッツリですね」
「な、なんだよ小鈴……いきなり……」
「魔理沙さんがどうしてここ鈴奈庵にいるのか……薄い本を借りに来たんですよね?」
「は、はぁ!?そ、そんなわけないだろ!?わ、わたしがそんな物に興味なんてないし!!バッカだな小鈴は!!」
「ほ~ん……そこの本棚の裏に幼馴染とのイチャLOVE系の薄い本があるのですが読みたくないですか?」
「なっ!?そ、そんなもの読みたいだなんて……(慧吾と私のイチャイチャ物……い、いいかもなって何考えてんだ私は!?小鈴の言うことだぞ……絶対なにかあるに決まっている!)わ、わたしはそんないかがわしい本には興味なんて……興味なんて……ありはしないぜ!」
「(チッ、警戒されている……魔理沙さんでもそこまでバカじゃないか。なら!)それじゃケイ君が読んだ本を貸してあげましょうか?薄い本でないにせよケイ君が読んだ本なので読みたくないのですか?それにまだケイ君のにおいが付着しているかもしれませんよ♪」
「は、はぁ!?だ、だれが慧吾のにおいを嗅ぎたいとか思うんだよ!?」
「私です」
「バカだろお前!?」
鈴奈庵には小鈴と魔理沙がいた。たまたま立ち寄った鈴奈庵で店番をしていた小鈴は暇をしていたらしく、見知った顔が訪れたのでちょっくら悪戯してみたくなった。小鈴にとって魔理沙はいじりがいのある相手であるので暇つぶしにも丁度良かったのだ。
「いいんですか?においがまだ残っていますよ……クンカクンカ……うう~ん!独特の香りですね~♪このケイ君の香りに股が疼いて仕方ありませんね~♪」
「な、ななな……お、お前……!」
怒っているのか恥ずかしいのかそれとも羨ましいのか不明だが、顔を真っ赤にしてプルプル震える魔理沙に小鈴の甘い誘惑は更なる攻撃を繰り出す。
「ふっふっふ、私と魔理沙さんの仲なので特別にこのことは秘密にしておきますよ?」
「……べ、べつに……その本を読みたいなんて思っては……ごりょごりょ……」
「じゃ、これは処分しますね。新しく同じものが入って来たので、傷んで修復も困難なこの本を捨てる予定だったので」
「なっ!?そ、それなら仕方ないな!本を捨てるなんて勿体ないからこの魔理沙様がありがたく頂戴してやるぜ!」
「さっきは読みたくないって言ってましたよね?」
「そ、それは……その……どうせ捨てるなら焚火に使う薪の代わりにもなるからな!冬場は私の家は寒いから丁度良かったんだよ!だから……それください……!」
床に頭をつける……土下座をする魔理沙を勝ち誇った笑みを浮かべて見降ろす小鈴は腹黒い。
「仕方ないですね、他の方々には内緒にしておいてあげますよ」
「へへ……サンキュー(慧吾のにおい付きか……帰って保管しよう♪)」
「(まぁ、その本は確かにケイ君が読んだ本ですが、私がうっかりお茶をこぼしてしまったのでにおいは保証できませんけどね。私はその前に十分堪能したからもういいですし♪)」
やはり小鈴は腹黒い。真実を知らない魔理沙は大事そうにボロボロの本を帽子の中にしまい気分が良くなっていた。
「お邪魔するわよ」
「いらっしゃ……ああっ!?いけ好かないメイド!!」
「咲夜じゃないか?どうしてこんなところに?」
「妹様が最近魔理沙が遊んでくれないといじけていましたので」
「そうなのか?まぁ、今度パチュリーのところに用があるからその時にでも遊んでやるぜ」
「魔理沙さんが用があるのは図書館の方でしょ?」
「バレたか」
「何度パチュリー様にお叱りを受けたと思っているのですか?」
「ぜへへ♪」
この三人に共通することは一人の異性に好意を寄せていることだ。その異性の気を引くために時には争い、時には共闘することがある。ここにはいないが他にもその異性に好意を寄せる人物がいるが、今ここにいるのは三人だけ、普段はこうして仲が良いのである。
「それじゃ、私はこれで帰るぜ」
「そうですね魔理沙さん、帰ってベットの中で昇天しないといけませんからね♪」
「昇天……?」
「ば!?ばか小鈴お前なに言ってんだよ!!?」
「あれれ~?
「お、お前……!!!」
顔を真っ赤にして小鈴の胸ぐらを掴むがおとぼけた様子で何を言っているのかわからない表情で魔理沙を煽る。事情を知らぬ咲夜は頭に?マークを浮かばせていた。赤面マスタースパークが発射される前に入り口から店に入って来る人物には見覚えがあった。
「ただいま……あら?小鈴のお友達じゃない」
「あっ、お母さんおかえり」
「お邪魔しております」
「ど、どうも……だぜ……」
帰って来た小鈴の母親に挨拶する。流石に母親の前で小鈴に突っかかることができない魔理沙は勝ち誇った顔をする小鈴を後で締め上げてやると心に決めたのだった。
「そうだ小鈴、外へは行かない方がいいわ。お友達もね」
「一体何かあったのお母さん?」
「なんでも辻斬り?が現れたらしいわよ」
その言葉に魔理沙達の表情が真剣な物へと変わる。
「それは物騒な話ですね……しかし人里で堂々と辻斬りとは……愚かな犯人のようですね」
「咲夜の言う通りだ。しかしこのまま放って被害が出たら大変だ。私がいっちょ懲らしめてやるぜ!」
「なら私も行くわ。慧吾様にもしものことがあればその犯人を……コロス!」
咲夜の呟きはこの場にいる魔理沙に小鈴も賛成であった。人里で堂々と辻斬り行為を行おうとする犯人などバカだと思った。すぐに取り押さえられてしまうのがオチである。余程頭のおかしい奴がやっているのだろうと思うが、この人里には全員が好意を寄せる異性……慧吾が住んでいる。もし慧吾に辻斬りの刃にかかろうものならば彼女達はその犯人を絶対に許さないだろう。
「ちょっと待って、辻斬りは女の子だったって聞いたわよ。それにその女の子が追いかけているのは若い青年だったって」
「ええ!?お母さんそれ本当!?」
「本当よ、小耳に挟んだだけだけど」
「おいおいそいつはどんなにバカな奴なんだぜ!?」
「愚か者を通り越して呆れるわ」
小鈴と魔理沙は驚き、咲夜は呆れてしまった。貴重な男を襲うなど考えられず、しかも人里のど真ん中でそれを行うとは……妖怪の賢者(笑)も黙っている案件ではないほどだ。世の中の女性全てを敵に回す行為である。
「ともかくそれならばやべぇぞ!早くその男を助けないとな!」
「あら?魔理沙は慧吾様だけを助けるかと思ったのだけど?」
「流石に見てみぬフリできるかって!それに……その男がもしも慧吾だったなら死んでも守りぬくぜ」
「ふっ」
「な、なんだよ咲夜?なに笑っているんだよ!」
「これは違うわ。魔理沙の言う通り……私も慧吾様だったらこの命惜しくないわ」
いつもは表情が硬い咲夜が笑った。一瞬だったが、それを魔理沙は見逃さなかった。そして咲夜も同じく慧吾に好意を寄せており、自分と同じく彼の為ならば命を張るほどの覚悟を持っていることを見た魔理沙も同じく笑みを浮かべて仲間意識が高まった。
「……そうか、咲夜さっさと犯人捕まえようぜ。被害が出る前に私達で解決するんだ」
「ええ、ここは協力しましょう」
「頑張ってくださいね~、私は店番があるから早く事件が解決できることを祈ってますよ」
小鈴は元々異変を解決できるほどの力を持っていない為、魔理沙と咲夜に任せて自分はのんびりと店番でもしようとしていた。そうして魔理沙と咲夜の二人が団結して犯人を捕まえようかと店から出て行こうとしたその時に小鈴の母親が何かを思い出した。
「そうだ、こんなことも耳に挟んだわ。確か追われている青年は小鈴のお友達の……慧吾君だったって聞いたわよ」
「………………………………………………はっ?」
「………………………………………………ぜっ?」
「………………………………………………えっ?」
鈴奈庵から飛び出す三つの影……その者達はこの世のものとも思えない形相をしていたとか……
「はぁ……」
「ため息ついてどうしたのよ?」
「母さん……」
「慧吾君に会えないから?」
「……そう」
博麗神社でため息をつくのは霊夢、そしてその隣でお茶をすすっているのは母親の霊香だ。
霊夢は憂鬱な気分で過ごしている……最近まともに慧吾に甘えることが少なくなり、彼がここにやってくる回数が減り、彼と別れてからコンマ秒単位で再会できる時間を待っているのにそれがどんどん長くなっている。もしかしたら飽きられたのかもと不安に思ってしまう。
「母さん……私もしかして慧吾に嫌われちゃったのかな?」
「なんでそうなるのよ?喧嘩なんてしてないんでしょ?」
「喧嘩なんてしたくない……もし喧嘩して慧吾に嫌われて二度と会ってくれなくなったらどうしよう!もし慧吾に嫌いって言われたら!もし慧吾に無視されて構ってくれなくなったら……私が生きる価値なんてこの世にない!そうなったらいっそのこと幻想郷ごと滅んでやる!!!」
「お、落ち着きなさい!霊夢は嫌われたりしてないわ。慧吾君は優しいし、霊夢を無視するわけがないわ。きっと彼は忙しいのよ。子供の頃と違い、彼にもやることがあるのだから……ね?」
「母さん……うん」
霊香は慧吾のことを凄いと思っていた。母親である霊香でも娘の変化にギョッとすることがあるぐらいだ。時々発病する霊夢の発作を受け入れ、ヤンデ霊夢を手懐けてしまうのだから。
「(霊夢には慧吾君が必要……でも彼が霊夢を選ぶかわからない……それに魔理沙ちゃんや小鈴ちゃん、新しくできた友達に月の姫も……誰もが彼を狙っている。彼が誰を選ぶかでその子の一生が決まる。もしそれが原因で異変が起こるのならば私も覚悟しないといけない……か……)」
もしも慧吾を奪い合う闘争が幻想郷中に広がってしまった時は霊香も覚悟を決めなくてはならない。しかしたった一人の青年でそんなことが起こってしまったら確実に幻想郷は終わりだろう……そうならないように霊香は密かに神様に願っていたその時だ。二人の目の前に見慣れた空間が広がりそこから一人の女性が現れる。
「ジャジャジャジャーン!どこからでも現れる慧吾君の妻のナイスボディの紫ちゃ――」
「死ね!!!」
「ぐぎょばぇ!!?」
白玉楼での戦いが嘘のように元通りになっていた紫の顔面を霊夢の鉄拳が襲った。衝撃でスキマから飛び出し地面を跳ね飛ばされて紫は無残にもボロ屑のように転がった。その紫を冷たい視線で見下ろす霊夢の手にはいつの間にか刃物が握りしめられている。
「紫……誰が慧吾の妻だって言ったの……私には聞こえなかったわね……きっと幻聴よねさっきのは……ところで紫、さっき言ったこともう一回言ってみなさい……怒らないから」
「ちょ、ちょっと霊夢やめましょう!?さっきのは……冗談!ほんの冗談なのよ!!」
「私には妻とか言っていたように聞こえたがな」
「ちょっと霊香!!?」
「ふっふっふっ、紫様はどうあがこうとここで終わりですね♪」
「藍いつの間に!?ちゃっかりと煽ってんじゃないわよ!!」
「煽ってませんよ?見下しているだけですよ?紫様哀れ~www」
「てめぇこの糞狐めがぁあああ!!!」
「紫……藍のことなどどうでもいいのよ……妻ってなに?紫……嘘よね?紫はそんなことを言うわけないものね……ねぇ?」
「ひぃいいいいい!?霊夢やめてそれはやめてー!!!」
「フハハハハ!紫様ざまぁwww」
後退りしながら迫りくる霊夢を説得する紫にその光景を縁側からお茶をすすって見守る霊香に主を煽り罵る藍がいる博麗神社……日常となった生活はのんびりと時間が過ぎていくはずだった。
「大変です紫様!!藍様も大変ですにゃ!!」
新たにスキマから現れたのは橙だった。しかしいつもの表情を浮かべておらず、焦った様子で紫と藍に報告しに来た橙の様子に場の緊張が高まった……紫だけは九死に一生を得た気分だったが。
「あ、あら……橙どうしたの、もしかして異変かしら?」
「異変ではありませんが大事件です!人里のど真ん中で辻斬りですにゃ!」
「なんですって!?」
「なに……どこのバカなのかしら。巫女である私や霊夢に知られれば妖怪ならば即消滅、人間であっても逮捕間違いなしだというのに」
「全くもって愚か、まるで紫様みたいです……はっ!っと言うことはこの犯人は紫様!?謎は全て解けた!!」
「藍あんた私を犯人にしたいだけでしょうがぁあああ!!!」
「ええ、それがなにか悪いですか哀れな~ゆ・か・り・さ・ま♪」
「コロス!!」
「できないことを……ついには脳内まで不細工が侵食して不細工の塊と化してしまったようですね……まさしくブスの極み!!」
「あんたのその汚れきった臭い全身をひき肉にして鍋に入れて煮た後に野良妖怪の餌にしてやるわよ!!!」
「できるものならばやってみてくださいよ
紫と藍の醜い争いに発展し、いつもならばこのまま話が平行線になってしまうのだが橙の一言でそれどころではなくなってしまう。
「……あの……紫様、藍様……争っているところ悪いのですけどその犯人が……妖夢さんらしいのですにゃ」
「えっ?………………………………………………ええ!?妖夢が!!?」
紫は驚いた。橙の報告によると人里のど真ん中で刀を振り回しているのが友人である幽々子の従者である妖夢なのだから無理もない。しかし何故彼女がそんなことをするのか……紫は心当たりがあった。
「もしかして……またあの癖?」
「そうみたいですね……」
「なんだ紫?その妖夢って子の癖がどうかしたのか?」
「母さん、妖夢は単純で物事を真っすぐに捉えて影響を受けやすい。それなのに真面目で融通が利かない奴で頭でわからなければ『取りあえず斬れば分かる』と言って私も襲われたわ。返り討ちにしたけど」
「なんよその子は?物騒な子ね、とりあえずその子が何故人里のど真ん中で辻斬りなんかを?」
「さぁ?あいつの考えは私にもわからないから……被害は?」
「今のところ死傷者は出ていませんが……問題は追われているのが……慧吾お兄さんらしいのです」
「「「「………………………………………………はっ?」」」」
橙の言葉に場は凍りつく。妖夢が人里のど真ん中で辻斬りを行い、そして追われているのが慧吾だと言うのだ。そしてこの場に絶対的零度のオーラを放っている少女が一人……
「……ふっ……ふふっ……ふふふっ……うふふふふふふふふふふふふふふっ!!!」
「れ、れいむ……!」
不気味に笑うのは霊夢、母親である霊香も今の霊夢を止める術はない。
「……母さん……ちょっと行って来るわ……私一人で十分よ……寧ろ紫、藍もついてこないで……いい?」
「「は、はい!!」
「じゃ……橙、教えてくれて……ありがとう」
「にゃ……にゃあ……!」
そのまま博麗神社から飛び立った霊夢の背中には冷酷な殺人鬼の後姿にも見えてしまった。霊夢が遠ざかっていくにつれて凍りついた場に温かさが戻って行く。
「……はっ!?こ、こうしちゃいられないわ!慧吾君を助けにいかないと!!」
「紫様、慧吾殿を助けるのは賛成ですが……妖夢の方も助けた方が良いのでは?」
「そ、そうね……藍の言う通りだけど……どうにかできる?」
「いえ……流石にあの霊夢を止めようとは思いません」
「そ、そうよね……とりあえず私達も行きましょう。霊香は……」
「私は……いや、私もついて行こう。霊夢の手が血塗られるのはごめんよ」
「もしもの時は頼むわよ……」
「……嫌な頼み事ね……」
「橙は幽々子にこのことを伝えて来て。一刻も早く!スキマで送るわ」
「は、はいですにゃ!!」
死者が出るかもしれない……この場にいる者達がそう思わざる負えないほど感じさせるオーラを身に纏う霊夢が妖夢の元へと辿り着くのも時間の問題だった。
「よし、授業はここまでだ。気をつけて帰れよ」
「せんせいさようならー!」
「ああ、さようなら」
今日の寺子屋での授業は午前中までだった。慧音は我が家で帰りを待ってくれている慧吾に仕事の疲れを癒される瞬間を楽しみにしていた。
「けいねぇえええええええええええええええ!!!」
「おいこら妹紅!いきなり扉を開けて大声をあげるな!ここは寺子屋だぞ!!!」
いきなり扉を開け放ち、息を切らした妹紅が切羽詰まった様子で入って来た。
「どうした!?なにがあったんだ!?」
「け、けけけけけけけけけけけいねぇねねねねねねねね!!!」
「落ち着け!深呼吸しろ……ゆっくり吸って吐いてを繰り返すんだ」
「す、すぅーはぁ……すぅーはぁ……」
「どうだ落ち着いたか?」
「ああ、ありがとう慧音……じゃねぇ!!大変なんだ!!」
ガシッと慧音の肩を掴む妹紅に引いてしまう。なにがここまで妹紅を駆り立てているのか?
「慧音……慧音……慧吾がぁ……」
「慧吾が……どうしたんだ?」
「……辻斬りに……襲われている……!」
「………………………………………………なんだとぉおおおおおおおおおおおおおお!!?」
寺子屋から飛び出す憎悪の炎を宿した不死鳥と障害物をなぎ倒しながら疾走する闘牛が人里で確認された。
「……っと言うことが人里で起きているのです!」
「なるほどね……てゐ、輝夜の様子は?」
「大丈夫ウサ、お師匠様の命令で防音対策を姫様の部屋に施しておいたウサよ♪」
「ならば安心ね。それでウドンゲ、このことは輝夜には言ってはダメよ。絶対外へ出るから」
「わ、わかりました……」
ここ永遠亭では静かな会議が行われていた。鈴仙が人里から持ち帰った辻斬り騒動……しかもその辻斬りに追われているのが慧吾であるという情報をいち早く知らせる為に急いで帰って来た。その知らせを聞いた永琳はすぐにてゐを呼び、部屋でお昼寝中の輝夜に気づかれずに防音……部屋の隙間全てにテープを貼り付けるという行動&永遠亭中にある毛布やら布やらで僅かにできる隙間もシャットアウトした。会話が聞かれるのを防ぐためであり、もし輝夜が慧吾の元へ走れば被害が増加すると永琳は判断し行動に移した。この数分でこれほど行動に移せるのは流石永琳であろう。
「私達は準備するわよ」
「えっ?師匠なんの準備ですか?」
鈴仙には永琳の考えがわからなかった。準備と言われても何をするのかさっぱりだ。
「人里中で噂になっているなら慧吾君に思いを寄せる連中の耳にも入ってくるでしょ?その連中は犯人……妖夢だったかしら?その子がただですむと思っているのかしら?」
「それは絶対ないね、ボロカスのぐちゃぐちゃにされるウサ」
「てゐの言う通りよ、それで死んでもらったらあまりにも不憫……理由は知らないけど放ってはおけないし、誰が怪我をするのかもわからないわ。私達としては関係ない話、私は医師ではないにせよ何人もの人を見てきたわ。救えた命、救えなかった命が今までに何度もあった。そしてこんな話を聞かされて死なれたら私としては目覚めが悪いのよ。っと言う訳よウドンゲ、あなたは私が作る薬を持って慧吾君に会いに行きなさい。その妖夢って子にも薬が必要になるはずだから」
「は、はい!」
「それじゃ私は準備するから、てゐは輝夜が起きて来ないか見張っていて」
「ガッテン!」
永琳の素早い行動で幻想郷が地獄絵図になるのを未然に防いだこの功績はノーベル平和賞を受賞してもいいことだろう。
「(まったく……慧吾君も災難ね……先が思いやられるわ)」
幻想郷の未来に不安を覚える永琳は薬を作るために部屋を後にした。
一つの行動で大事となるこの事件……結末はどうなるのか?