あべこべ幻想郷に落ちた命   作:てへぺろん

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静寂と恐怖の化身達が闊歩する人里に明日の光は差し込むのであろうか……


それでは……


本編どうぞ!


斬るよりも恋する方がいい

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 まるで擬音が目に見えてしまう程のプレッシャーが人里にやってきた少女に集中する。その不幸な少女はアリス……その周りを取り囲むのは変わり果てた友人知人だが、今は自分を殺しにやってきた殺戮マシーンなのではないかと恐怖を覚えてしまう。

 

 

 「………………………………………………」

 

 

 殺戮マシーンに囲まれたアリスはプレッシャーに押しつぶされそうだった。何かを話そうとした瞬間に首が吹っ飛び、手足がバラバラになってしまうのではないかとあり得ないはずの光景が勝手に脳内に繰り返し再生されている。冷や汗すら流すこともできない凍りついた空間にやってきた哀れなアリスはただ黙り込んでしまうほかに選択肢がなかった。

 そんな状況を静かに……覗き見る集団が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「………………………………………………」」」

 

 

 辻斬り騒動を知った霊香と紫に藍であった。彼女達は尋常じゃない空気に満ちた人里に足を踏み入れるのを躊躇したが、娘を犯罪者にしたくないと思う霊香に続いて紫と藍も何とか霊夢達を見つけることには成功した。しかしそれ以上近づきたくても体が拒否反応を引き起こす。哀れにも先に見つかってしまったアリスを見て大妖怪であるはずの紫と藍は腰を引きつらせている。霊香でさえも変わり果てた娘の姿がとても恐ろしく感じていた。

 

 

 「紫……私は今、自分を責めている。霊夢とは血の繋がりはないが本当の娘だと思っている……だが、今の私はそんな娘のはずの霊夢に対して怖いと思ってしまっている……自分が情けない。私の大切な娘なのに……!!」

 

 

 震える拳を握りしめて唇を噛みしめる。力を入れ過ぎて拳と唇から血が流れるが、その痛みで恐怖心を追い払おうとしているようにも見えた。霊香は自分自身許せないのだ。娘に恐怖心を向けてしまう自分を……

 

 

 「霊香、自分を責めないで。私だって今のあの子達に近づけない……正直とても怖いわ。霊夢にその感情を向けてしまったのは仕方のないことなのよ。それに今のあの子達は慧吾君のことを心から心配している。私にはスキマの能力があるけれど、今のあの子達ならば山の奥地でも深海の更なる底へでも妖夢を追いかけて血祭りにあげてしまうわ。慧吾君のことをそれほど思っているってことよ。自分を責めちゃダメよ?」

 

 「紫……」

 

 「私だって慧吾君をこの手で救い出してあげたいわ。そして感謝されて彼が私の元を訪れこう言うの『「紫さん、お願いがあります……俺を抱いてくれ!」』って!その夜ベット中で私と慧吾君は……きゃああああああああ❤❤❤」

 

 

 くねくねと気持ち悪く体を捻るモンスター()。あらぬ方向へと思考が回転し、妄想の中であれよこれよと想像できる紫にはまだ余裕があるのではないか?と霊香は要らぬことを考えてしまった。

 

 

 「チッ!なにが『「紫さん、お願いがあります……俺を抱いてくれ!」』ですか?アホですか?バカですか?ブスがいくら加工したとしてもブスなのに、その中でもブスの紫様にはあり得ないことです。もしもあり得るのであらば『「紫さん、お願いがあります……便所に突っ込んでその醜い顔を向けないでくれ!』これがあり得ます。いえ、確実です!私の計算だと100%です!紫様哀れすぎて涙が溢れ出てしまいますwww」

 

 「はぁ!?クソ狐が勝手に捏造してんじゃないわよ!!」

 

 「紫様の妄想があまりにも気持ち悪く、その妄想を語られる私達の身にもなってください。醜い言葉が電波として私達の脳を(おか)そうとするのですよ?紫様のゲロが脳内に注ぎ込まれるのと同じなんですよ?それに(おか)されるよりは犯される方がいいですね。慧吾殿に『「藍さん、あなたは美しすぎる……滅茶苦茶にしたい!」』とベットに押し倒される私……ですが私は大妖怪です。犯されるよりも犯す方が好ましい!押し倒してきた慧吾殿の隙をついて私が逆に馬乗りになり形勢逆転!そのまま受け入れてくれた慧吾殿とズッコンバッコン朝までOH!モウレツな時を過ごすのです」

 

 「きもっ!?あんたの方の妄想がゲロみたいじゃない!!!」

 

 「きもいのは紫様です。特に存在そのものが……そんな紫様が妖怪の賢者(笑)とは幻想郷の恥です。気持ち悪い妄想を垂れ流し、動く糞の塊の癖に……幻想郷に謝ってください」

 

 「ちょっと幻想郷は私が創ったのよ!創った私を敬いなさい!って言うか幻想郷に謝れってなによ!!?それにブスなのはあんたも同じじゃない!『「藍さん、あなたは美しすぎる……滅茶苦茶にしたい!」』とか絶対にないわ。滅茶苦茶にしたいって言うのはそのきもい顔面を滅茶苦茶にぶちのめしたいってことよわかる?」

 

 「おやおやあり得もしないことを相手に理解させようとは洗脳のつもりですか?あまりにも汚いやり方ですね。外見も中身も醜くて本当に哀れ……そんな汚いやり方で他人を支配する紫様には後にこんなことが起こるでしょう。

 ある所に糞の塊のような幻想郷の支配者である八雲紫に仕えなければならない悲劇のヒロインこと八雲藍。逆らえない私は毎日酷い仕打ちを受け、ひっそりと涙を流すのでした。そんな可哀想な私には愛する恋人がいました。上白沢慧吾……慧吾殿と八雲藍と出会ったのは運命でした。まるで初めから惹かれ合うように赤い糸が巻かれているかのようにお互い恋に落ちるのは一瞬でした。そして糞の塊である八雲紫から私を救い出せるのは慧吾殿だけだった。ある日慧吾殿は私の前に現れて『「藍さん、愛するあなたを助けに来ました!さぁ、一緒に糞の化身である八雲紫を打ち倒しましょう!!!』」愛する恋人と共に立ち上がった。こうして幻想郷を支配していた妖怪の賢者(笑)は打ち倒され、醜い支配者を打ち倒し英雄になった私と恋人の慧吾殿は結婚し、永遠の愛を誓いあい、ずっと平和に暮らしましたとさ……めでたしめでたし♪となるのです。紫様ざまぁwwwとなるのですよ♪」

 

 「あんたの方が妄想垂れ流しじゃない!!それに話が長すぎて内容もあんたに都合よくされたなんちゃって小説じゃないのよ!!明らかにあんたの方がきもいわよ!!!100人中100人が藍をきもいと言うわよ!!!」

 

 「そんなことありません。もしや悔しいのですか?運命の赤い糸に繋がれた私と慧吾殿が羨ましいのでしょう?安心してください。慧吾殿との子供は20人以上作る予定ですから紫様安心して便所の糞になってください。あっ!お喜びください紫様、糞ならハエと結婚できますよ。良かったですね紫様♪」

 

 「藍いい加減にしなさいよ!!もう頭にきた!!この場で徹底的に教育してあげるわ!!!」

 

 「慧吾殿とのハッピーエンドを邪魔するならば容赦しません!糞の塊(紫様)……お覚悟を!!」

 

 「さっきから関係ない話で争うなバカ共が!!!」

 

 

 ゴンッ!ゴンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はぁ……はぁ……!」

 

 

 肩で息をする霊香の足元には物言わぬ二つの塊……紫と藍だった。霊香の背後で醜い争いを引き起こす病原菌を眠らせたことで落ち着きを取り戻すことができた。

 

 

 「……はぁ……そうだ!バカ共に付き合っている暇はなかった。霊夢は……」

 

 

 娘のことを思いだし、視線はアリスへと戻る……相変わらず黙ったままの彼女に肌が触れ合うほどに顔を近づける霊夢達……

 

 

 「妖夢はどこ?」「知っているのか?」「知っているならば場所を教えろ」など口々に呟いて話さなければ痛い目を見るぞ?とプレッシャーをかけていた。アリスが妖夢の居場所を知らないのならばこれはただの恐喝になる。だが、アリスは妖夢の居場所を知っているし慧吾が妖夢と一緒に居るのも知っている。自分はただ巻き込まれてしまっただけなのだから話せばいい事だが、今の状態の霊夢達に話せば妖夢はどうなるか簡単に想像がつく。妖夢を売れば楽だが、アリスはそんなことをしたくなかった。それ故に黙るしかなかった……霊夢達が恐ろしくて声を出せないのも原因ではあるのだが……

 

 

 「(あの子は魔理沙ちゃんと一緒にいた……確かアリスちゃんとか言ってたな。彼女の様子がおかしい……それに私の勘が告げている。アリスちゃんは何かを隠していると……もしかしたらあの子が慧吾君の居場所を知っているのでは?)」

 

 

 霊香も元博麗の巫女であった。代々博麗の巫女は勘がいい……霊香の勘は的中していた。

 

 

 「(きっとあの子が居場所を知っているのだろうな。霊夢もおそらくだがあの子が何かを知っていると感じているはずだ。だからアリスちゃんを逃がそうとはしていない……アリスちゃんを助けるか。紫と藍は……使い物にならんな。こいつらは何しに来たんだか……紫と藍は放って置くとして、今の霊夢達は冷静さを失っている。変に刺激を与えたら爆発する爆弾だ。アリスちゃんを放って置くと霊夢達の八つ当たりを受けてしまう可能性もある。助けなければ!)」

 

 

 今の霊夢達は導火線に火がついた爆弾と同じだ。放って置けば爆発してしまい、アリスが巻き込まれてしまう。娘が罪のない子に手を挙げるとは思えないが、冷静さを失った彼女達は何を仕出かすかは不明である。アリスの身を案じた霊香は躍り出る。

 

 

 「霊夢、待ちなさい」

 

 

 その声に全員が振り向いた。霊香が現れたことで驚くかと思いきや誰も気にしていない様子だった……アリス以外は。

 

 

 「母さん……何しに来たの?」

 

 「驚かないのだな、霊夢を追って来たんだが?」

 

 「紫と藍のアホな話がずっと聞こえていたわ」

 

 「ああ……それもそうか」

 

 

 霊夢達は気にしていないのは既に霊香がそこにいることを知っていたからだった。先ほどの会話が全部聞こえていたらしい……当然のことに霊香は納得だった。

 

 

 「母さん……妖夢を血祭りにあげたら紫と藍にも()ができたから忙しいのだけど?」

 

 

 霊夢の()とは紫と藍が話していた内容についてだろう。慧吾のことを散々好きに扱ったことに対して文句があるのだろう。文句程度で終わるのならばいいが、それだけで終わらないことなどわかりきったことだ。他の連中も瞳の中に殺気が籠って霊夢に賛同している様子で、霊香は鳥肌が立ってしまう。自分に直接その殺気が向けられていたらと思うと恐ろしくなる。

 

 

 「……そ、そうか……紫と藍のことは今は置いておこう。それで……アリスちゃんだったな?」

 

 「――ッ!」

 

 

 真っ青な顔色をして首を何度も縦に振る彼女に申し訳なく感じた。自分の娘がこんなことをしてしまって土下座でもなんでも後でしてあげようとさえ思うほどに可哀想な目にあったのだから。

 

 

 「霊夢、彼女を放してやれ。魔理沙ちゃんも他のみんなもだ」

 

 「それは駄目。母さん、私はアリスにも用があるの」

 

 「どうな用だ?彼女怯えているぞ?」

 

 「私の勘が言っているの。アリスが妖夢の居場所を知っている……と」

 

 

 やはり霊夢も同じことを思っていたようだ。恐ろしく冷たい視線を向ける娘だが、自分と同じことを思っていたことに少し安堵する霊香であるが、それを否定してあげないとアリスの味方は誰もいなくなってしまう……それはあまりにも可哀想である。だから嘘でも霊香は否定する。

 

 

 「……それは霊夢の勘違いではないか?」

 

 「いいえ、母さんも同じでしょ?今一瞬表情に出たわ」

 

 

 鋭い……咄嗟に隠したつもりだが顔に出てしまったようだ。しまったとは思わなかった。寧ろこんな状況にも関わらず、ほんの小さなミスを見逃さなかった娘の姿につい笑みがこぼれてしまう。

 

 

 昔から才能の塊であった霊夢であっても霊香にとってはただの娘だ。次代の博麗の巫女とか関係のないただの霊香にとっては可愛い大切な娘なのだ。その娘がこうして成長した姿をこの目で見ることができて嬉しくない親などいない……「流石霊夢だ」と口ずさむ。

 しかし今は一大事だ。表情を整えてチラリとアリスに視線を向けると「たすけて」と(すが)る瞳を見た。瞳に映るのは娘とその友人達……霊香は軽く深呼吸をして覚悟を決める。

 

 

 「ん?あれは……妖夢だ!」

 

 「「「「「――ッ!!?」」」」」

 

 

 霊香は霊夢達の背後……人里の奥を突如指さした。声に釣られて咄嗟に振り向いた瞬間、アリスを囲む一部の壁となっている咲夜と小鈴の間をすり抜けて、拘束されていたアリスの足からお札を引きはがす。そして彼女を抱き寄せてその場から人里の屋根へと飛びのいた。この間、一秒にも満たない早業で()()が認識できなかった。妖夢が居たことは霊香の嘘であり、嘘だと気づいた時にはアリスは解放された後だった。アリス自身も何が起こったのかわからなかった……ただ()()を除いて。

 

 

 「――ッ!!」

 

 

 ザクっと言う音が響いて視線を向けると霊香の足元に鋭い針が突き刺さっていた。その正体はよく知っている……封魔針だ。博麗の巫女である霊夢が所持する異変を解決するための頼れる道具の一つだった。

 霊香の早業を認識していたのはただ一人……霊夢だった。母親思いの霊夢が霊香を傷つけないようにワザと外した封魔針……しかし、普段の霊夢ならば母親に封魔針を打つこと自体あり得ないことだ。

 

 

 「……母さん……どういうこと?アリスを返して」

 

 

 娘の声に視線を向けると首を傾げた霊夢の姿……何故こんなことをするのと言いたげだ。

 

 

 「今の霊夢は冷静さを失っている。元の霊夢に戻るまでアリスちゃんの身は私が預かる」

 

 「なんで?妖夢の居場所を知っているに違いないのよ?ただ居場所を吐いてもらうだけなのにどうして?それに私の慧吾を奪うあの亡者を退治しようとしているだけなのよ?どうして母さんが邪魔するの?」

 

 

 今の霊夢は慧吾のことしか頭にない。その手がかりを持っているであろうアリスを守ろうとする霊香の姿に敵意が生まれてしまう。早くしなければ慧吾が亡き者にされてしまうのに……大事な慧吾と会えなくなってしまう……

 

 

 「母さんなんで?なんでそんなことするの?ねぇなんで……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!?

 

 「(霊夢……くっ!)」

 

 

 壊れた機械のように何度も呪詛を吐き続ける霊夢の姿に目を背けてしまう霊香。娘を助けるのが親なのに逆に苦しめている……仕方ないとはいえ心が痛む。

 

 

 「(すまない……だが、今の霊夢にアリスちゃんは渡せない。恨まれてもいい……それでも親として娘に罪を背負わせたくないのよ!)」

 

 

 大切な娘から嫌われることなど死の宣告と同じだ。それでも譲れない思いが霊香を動かす。

 

 

 「霊香お姉さん……悪いが慧吾が危ないんだ!邪魔するなら……撃つぜ?」

 

 「魔理沙ちゃん……それでも私はアリスちゃんを渡せない」

 

 「……そっか」

 

 

 魔理沙が霊香の前に立ちはだかる。霊香の返答を聞いて帽子のツバに手をかける。隠れて魔理沙の表情は窺えないがきっと悲しい顔をしているだろう。彼女も譲れないものがある……他の連中もそうだ。

 

 

 「お久しぶりです霊香様、ゆっくりとお茶でもお出しして差し上げたいのですが急用がありますので。いきなりで申し訳ありませんがアリスを渡してくださいませんか?」

 

 「咲夜ちゃん……それはできない」

 

 「そうですか……残念です」

 

 

 咲夜とは異変終わりの宴会の時に知り合った。表情は硬く、完璧に見えるがその仮面の下には乙女が隠れているのも霊香は知っている。

 

 

 「霊夢さんのお母さんであってもケイ君と私の邪魔はさせません……さっさとそのメス豚を渡しやがれです!!この脇巫女デカ乳野郎めが!!!母乳垂れ流すぞごらぁ!!!」

 

 「(小鈴ちゃんはいつも通りに見えるのが不思議ね……でもその言葉は流石に傷つくからやめてほしい……)」

 

 

 博麗神社で慧吾を取り合う姿を何度も見てきた。大人しそうに見えて毒舌な小鈴はいつもの姿とはそう変わらないように見えた……が、いつも以上に心に何かが突き刺さったように痛んだ。

 

 

 「なぁ……元博麗の巫女さんよ……私の慧吾があぶねえんだよ……だから……わかるだろぉ!」

 

 「……」

 

 

 あまり直接顔を合わせたことはないが、慧吾のもう一人の親代わりである妹紅のことは何度かその特異体質の話も聞いている。悲しい過去があり、心にぽっかりと空いた穴を慧吾が優しく埋めてくれたのだろう。妹紅にとって我が子である慧吾の安否が心配であることは霊香には痛いほどわかる。霊香も親なのだから。

 

 

 「霊香殿……」

 

 「慧音……」

 

 「言わなくてもわかります。私も親なのです……妹紅と同じく。今までは家に帰っても誰も出迎えてくれずに一人で料理を作り、寺子屋に通う子供達の為に問題を夜遅くまで考えていた日常に何の不便も感じなかった。ですが偶然赤ん坊の声を聞き、その子を引き取り育て上げ、名を上白沢慧吾とした。そして今ではたくましく優しい青年へと成長してくれた。慧吾が私の息子になった後の我が家は変わりました。家に帰ると『「ただいま」』と答えても返って来ることのなかった毎日が『「おかえり御袋、夕飯はもう作ってあるぞ』」と迎えてくれる。今まで不便に感じなかった日常が慧吾が出迎えてくれないだけで不安になる……あの温かい日常を知ってしまった私は慧吾無しには生きられない。私は半妖で慧吾は私よりも早く天国に旅立ってしまうだろう。けれど、私は慧吾を最後まで見守るつもりなんです。慧吾が幸せになり、温かい家庭を持ち、安らかに死を迎えるまで……それまでは慧吾を……息子を失うわけにはいかないのです!」

 

 「……」

 

 

 不細工には決して訪れることのなかった温かさを慧音は知った。家族がいる幸せを知ってしまったのだ。この幸せを知ってしまったら手放すことはできないだろう。けれど慧音は半妖で慧吾は人間である。寿命が違いすぎる親子は息子の慧吾の方が先に逝ってしまうのは避けられないこと。自分だけが残されるとわかっていてもそれを良しとした。いつかは手放すことになるだろう……慧吾に好きな人ができて自分の元から離れても慧音はその運命を受け入れる。子の幸せを第一に考えることが親なのだ。妹紅も同じなのだろう……けれどもそれが半ばで失うことになればきっと発狂してしまうだろう。霊香だってそんなことにはなるのはごめんだ。だから慧音は決して譲れない。

 

 

 「……母さん……」

 

 「……霊夢」

 

 「……私ね、母さんが大切よ」

 

 「……私もだ。霊夢は大事な娘だ」

 

 「……慧吾も大切なの」

 

 「……知ってる」

 

 「……母さんも慧吾も大切……でもどちらを取れと言われたら……どうしたらいい?」

 

 「……霊夢自身が決めろ」

 

 「……」

 

 

 淡々とした会話が続く。母と娘、お互いに大切な家族だ。しかし今の状況はお互いに敵同士……譲れない思いがある。ならばやることは一つしかない……

 

 

 「……母さん、覚悟して。慧吾の為に母さんを倒すわ」

 

 「……そう決めたのであるならばそれでいい」

 

 「……けど……母さんも大切なのは変わらないから」

 

 

 霊夢の言葉に霊香は優しく笑みを浮かべた。冷静さを失っていても霊夢は霊夢であった。

 

 

 「ふっ、そうか……わかった。アリスちゃん、危険だから離れていなさい」

 

 「えっ?あっはい」

 

 

 様子を眺めるだけだったアリスは霊香に言われた通り距離を取り物陰に隠れる。確認した霊香が向き直り霊夢達と対峙する形となった。

 

 

 「人里で暴れるのは良くないのだけど今回は仕方ないわね。これもある意味異変かしらね?久しぶりの仕事になるのか……腕が鈍ってなければいいけど」

 

 

 霊香は背中を伸ばしてリラックスする。静かに深呼吸し早業を繰り出した時についた僅かな裾の汚れを軽く落とすと霊夢達に宣言する。

 

 

 「代々博麗の巫女は異変を解決してきた。私も元博麗の巫女……霊夢、魔理沙ちゃんと他の者達よ……この子が欲しくばこの博麗霊香を倒してからにせよ!!」

 

 

 拳を握りしめ高らかに言い放つ。それを合図に全員が動き出す……先代巫女である霊香と娘の霊夢達との死闘が人里で繰り広げられることになった。

 

 

 ------------------

 

 

うぅん……あれ?私は確かアリスさんの自宅に居たはずなのに……ここはどこ?

 

 

 真っ暗だった。文字通りの真っ暗な空間で、太陽も通り風も存在しない虚しい場所に一人ポツンと存在しているのは訳がわからないといった表情を魂魄妖夢であった。妖夢が周りを見回しても誰もいないし、先ほどまで確かにアリスの家に居たのに何故と言う疑問が生まれる。だが、いくら考えても答えがでない……もしや今までのが全て夢だったのではなかったのではないかとも頭の隅に生まれかけていた時だ。

 

 

 『「……妖夢よ……」』

 

 

 おじいちゃん!?おじいちゃんがなんでここに?でもこうしてすぐに会いに来てくれるだなんて嬉しいです!おじいちゃんのおかげであの人を斬る勇気が湧き上がりました!!けれど……

 

 

 声が聞こえた方へと視線を映せばそこには祖父である妖忌の姿があった。人里で青年慧吾と運命的な出会いを果たした。彼と出会い妖夢に謎の感情が生まれ、一度は主の元へと戻ったが迷う心の導きのままに再び彼の元へと舞い戻った。その後自分自身でもどうしていいかわからなかった時、彼女に()()を思い出させてくれたのは他ならぬ祖父の妖忌であった。幼き頃に自分の前から突如として消えてしまった祖父の姿に目頭が熱くなる……強くなると決め、主である幽々子の従者として相応しくなるために厳しい日々を送っていたつもりであっても嬉しさが込み上げてきていたのだ。その祖父が自分の悩みに答えてくれた……フワフワするこのよくわからない気持ちを知るためにはどうするべきかを……そして妖夢は()()のままに行動に移した。そのことを目の前にいる祖父に伝えたのだが……

 

 

 『「……ワシ、余計な事しちゃった?」』

 

 

 妖夢の予想外の報告に瞳が丸くなる。妖夢の内なる憧れや葛藤や不安が入り混じり生まれた幻影(妖忌)ですら困惑を隠せない様子だった。

 

 

 『「……ご、ごほん!妖夢よ、やってしまったものは仕方ない。間違いは誰にでもあるもの……そうじゃ、こう考えてみるがよい……もう斬っちゃってもいいさ!とな」』

 

 

 実際の妖忌ならばこんなことを言ったりはしない。妖夢の内で生まれた幻影(妖忌)は本物とはかけ離れていたが、当の彼女は気づきもしない。今はそんなことよりも気になることがあるからだ。

 

 

 おじいちゃん、私はどうしてこんな真っ暗な空間にいるのですか?

 

 

 疑問だった自分が今居る場所……自分がどこに居るのかさえ見当もつかない場所に放り出されて不安だった。

 

 

 『「ここはお主の精神内部じゃよ」』

 

 

 つまり……私自身の中ですか?それじゃおじいちゃんは……本物じゃないの?

 

 

 その言葉を聞いてもしかしてと言う疑問が現れる。自分がおじいちゃんと呼んでいる相手は本人ではないのかと。少しの間があり「そうじゃ」と頷いた幻影(妖忌)に対して少し寂しそうな表情を浮かび上がらせた。本物ではないにせよ、妖夢が昔から背中を見てきた祖父の姿なのだ。待ちに待って現れた祖父が自分の幻だったと知りたくはなかった……力が抜けて落胆のため息が出てしまう。

 

 

 『「妖夢よ、例えワシが幻であってもお主のことを思っているのは本当なんじゃ。妖夢の()を応援したいのじゃよ」』

 

 

 ふぇ!?こ……こ……ここ……こ、こここ……!!?

 

 

 落胆し、力の抜け落ちていた無防備な妖夢に爆弾が投下された。すっかり忘れていたことだが、妖夢はいつの間にか気絶してしまっていたのだ。そうなってしまった原因が上海のあの言葉だ。

 

 

 『「ソレ……コイ、ジャネーノ?」』

 

 

 恋とは異性に特別の愛情を感じて思い慕うことである。恋は自由であり、誰に対しても許されるものである。しかし妖夢は恋など無縁だった。白玉楼の庭師で刀を振るい己を磨き、主である幽々子の私生活をサポートして何十年……人里に食材調達するためにやってくるが妖夢はこの世界基準では不細工だ。この幻想郷で不細工は特などしないし、理不尽な目に遭うことは少なくない。男など今までまともに話す機会など祖父がいたぐらいだった。

 妖夢には恋がわからなかった。くだらないものだと切り捨てて自分とは関係のないものと心が無意識に扉を閉ざしてしまった。しかしその扉を開いた青年……それが慧吾であった。偶然の出会いだが、きっかけは十分な出来事で、閉ざされた心の扉が開いたのは良かったものの、フワフワした感情に悩まされる。しかしその正体は恋であったことに気づかない。知らない感情に不安が生まれた妖夢は『斬れば分かる』と己の不安を取り除こうとしたが、結果は慧吾を斬ることはできなかった。自分自身ではこの感情はわからなかった……上海と幻影(妖忌)が言葉にしたことでようやく知る。

 

 

 私は……慧吾さんが……好きなの?

 

 

 自身に問うが返答は返って来ない……答えは自分自身で決めるものだ。

 

 

 出会いから今まで妖夢の瞳には慧吾がどう映っていたか……彼と一緒に居るとどうだったか……短い時間しか知り合っていない。それでも妖夢は必死に自分の本当の気持ちを探り出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸に手を当てると半人半霊である妖夢の鼓動が激しくリズムを奏でている……慧吾を『斬る』きっかけになった気持ち……初めは不安だったが、今は不安など感じない。寧ろとても心地よく安心する。

 

 

 ……フワフワして温かい……これが……恋と言うもの……なんですね♪

 

 

 辻斬り少女は彼を『斬る』ことをやめて『恋』することになった。安らかな表情を浮かべている妖夢、目的が達成したかのように真っ暗な空間が光の粒子となって消えて行く。そしてもう一人も役目が終わったように幻影(妖忌)の姿が光となっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「頑張るんじゃぞ……妖夢」』

 

 

 消えゆく最後の言葉は孫に対する優しい応援だった。

 

 

 

 

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