それでは……
本編どうぞ!
「な、なによ……これは!?」
永琳に言われて様々な怪我や治療に役立つ薬を持った鈴仙はとんでもない光景を目の当たりにする。
「戦争でも起こったの?けれど……建物などは無事……何が起きているの?!」
人里の地面には見慣れた顔が這いつくばっていた。魔理沙に咲夜、小鈴に妹紅と慧音の姿があった。不思議なことに建物には被害が出ていなかったが、ボロボロに衣服が破けてツヤツヤした素肌が晒されて見ている者に不快感を与えるだろうが、鈴仙の元にはこの世の醜悪を一つにまとめて粘土を捏ねて作り上げたような姿の輝夜と住んでいるのだからこれぐらいで気分を害したりはしないし、自分も人のことを言えないのだから。それに気配が建物内部から無数に感じ取れるし、何よりも人里を囲む空気が重苦しかった。いつもの訪れる人里とは別物ではないかと疑ったぐらいだ。どういう状況かがわからずにオロオロしていると地面と口づけを交わしていた一人が起き上がろうとしていた。
魔理沙だった。息も絶え絶えに体を震わせながら気力だけで立ち上がろうとしている。気づいた鈴仙が駆け寄って何があったと問い詰めると驚きの事実が返って来る。
人里で突如として起った辻斬り騒動、被害者が慧吾だったことを知った魔理沙達は
霊香がアリスを奪った。この瞬間、関係ないはずの霊香に対する感情は敵意。魔理沙達は時間が一刻と過ぎていく中で焦っているのに邪魔をした霊香を敵だと認識したのだ。親しい間の魔理沙や慧音であっても……それがアリスを守る行為だったとしてもだ。それからことに至るのは自然な流れだった。
霊香は娘の霊夢を含む六人と一人で争ったのだ。すぐに終わらせるつもりであった……が、冷静さを失っていたことを言い訳するつもりではない。甘く見ていた……魔理沙は幼い頃より霊香を知っている。だが、彼女が戦っている姿など見たことはなかった。彼女の実力は知り得もしなかったことである。そして何よりも彼女にはスペルカードルールなどとは無縁であった。
スペルカードルールとはなにか、それは幻想郷内での揉め事や紛争を解決するための手段であり『殺し合い』を『遊び』に変えるルールである。魔理沙曰く「この世でもっとも無駄なゲーム」と言っている。霊夢が博麗の巫女として活動し始めた頃に普及させたものだ。今の幻想郷で行われる異変も大体はこのスペルカードルールに基づいたものである。しかし霊香は
「……見ろ……」
「えっ?」
震えながら鈴仙に肩を貸された魔理沙が指を指した。その方向へと視線を向けるとこの場にまだ倒れ伏していない
霊夢が空を見上げていた……正確には地面に仰向けに倒れ、巫女装束は無残にも至る所が破れ新しくし直さなければならない程の損傷具合だった。そして傍には同じく無残な巫女装束となった霊香が満身創痍でありながらも佇んでいる姿があった。勝者は見ればわかる……元博麗の巫女が勝利を手にしていた。
鈴仙の脳裏に異変を解決しに来た時のことが思い出された。何としても輝夜に合わせてはならない(顔面的な意味合いで)と
「へ、へへ……霊香お姉さんがこんなに強かったなんて……驚きだぜ」
「だ、だいじょうぶなの魔理沙?それに鈴仙もなんでここに?」
「おう……アリスか、全身に力を入れるのが……やっとだぜ」
「私は人里で起きている辻斬り騒動件で怪我人が現れるだろうと師匠に言われて薬を持って来たんですよ」
鈴仙が肩を借りていなければ今頃地面に尻もちをついていたことは明白なぐらい弱々しいが気力は十分ある様子で、完膚なきまでに叩きのめされたことでいつもの調子を取り戻すことができた魔理沙。他の連中も意識は戻っていないが目を覚ます頃には元通りになるはずだ。建物の影に隠れていたアリスが恐る恐る姿を現しても噛みついていないのが証拠だろう。霊香の治療(物理)が余程効いたようだ。そのことに安堵しアリスの緊張の糸が解かれた。
「よかった。いつもの魔理沙ね。鈴仙も良いところに来てくれて本当によかったわ」
「霊香お姉さんにぶちのめされて頭が冷えたぜ……だけどなアリス……教えてくれ」
「慧吾は……どこにいるんだ?」
真っすぐに見つめる瞳が魔理沙の心情を悟らせ、言葉が思いを紡ぐ。ただそれだけで十分、弱々しいながらも瞳と言葉からも信念にも近いものを感じたアリスは全てを話すことにした。
「けど、まずは魔理沙達の治療が先よ。話はそれから」
「わかった。けれど霊香お姉さんを一番先に見てやってくれ。私達のせいであんなにもボロボロだから……」
「ええ、魔理沙は私が見るから鈴仙は霊香さんと霊夢をお願い」
「はい!」
「「……」」
建物に寄りかかり傷の手当てを受けていた親子の会話は短く気まずそうな雰囲気だった。先ほどまで凄絶な死闘が繰り広げられていたが、冷静さを失っていた霊夢の瞳は光を取り戻していた。
霊夢は母親を傷つけた……後悔していた。大事なたった一人の血の繋がりはないが心で繋がった家族に酷いことをしてしまった。隣で傷口に薬を塗る度に苦痛の表情を浮かべているのは自分の所業のせいだと。
霊香は娘に恐怖してしまった……罪悪感に包まれていた。大事な娘、血の繋がりはないが持てるだけの愛情を注いで育てた自慢の娘を傷つけてしまった。隣で落ち込み俯く姿は自分の所業だと。
「……いつまでそうしているつもりですか?」
見かねた鈴仙が尋ねても沈黙は続く。そんな親子にため息をついて話し始める。
「……私が口を挟むことではないですけど、気にすることはないと思いますよ?家族ならば喧嘩や意見の食い違いでもめてしまうことは珍しくないですし、今回は悪いのは妖夢です。あの子が問題を起こさなければこうはならなかった。だから全部妖夢のせいにしてしまえばいいんじゃないですか?」
二人の心情を悟ったのか鈴仙が口を挟む。治療しながら鈴仙は気まずそうな二人を見ていると永遠亭で帰りを待つ者達のことを思い出す。知識と様々な知恵を教えてくれて自分が目指す目標と憧れる師、悪戯好きで何度も落とし穴にかけられたりしてうんざりするが意外と嫌いになれない妹的な悪戯兎、地上に逃れて来た自分を見つけてくれた最も醜いながらも清らかな心を持つ姫様……誰とも血の繋がりはないが大切な居場所家族だ。その誰かと喧嘩でもすればその時は嫌になり、同じ屋根の下で出会えば気まずい空気が流れて時間が過ぎていく。だが、お互いにいつしか耐えられなくなり謝罪すれば何事もなかったかのようにいつもの日常へと戻って行く。そんな光景を思い出しお節介を焼いてしまった。放って置けばいつの間にか仲直りしているであろうと思える絆を感じさせる二人だが、それでもだ。不器用な母親と娘は自分を責めているのであろう……
「それに慧吾さんはきっと無事ですよ。私だって心配してますけど信じたいのです。何食わぬ顔で戻って来て一緒にお喋りできる日常へ戻れると信じています。だからお二人が自分自身を責める必要はありません」
博麗親子の治療に当たっている鈴仙はそう語り掛ける。彼女は薬師である永琳の弟子である。まだまだ未熟ではあるが、鈴仙なりに治療しようとしたのだ……体の傷だけでなく、心に負った傷さえも。
「それにアリスが後は知っているのでしょう?」
「え、ええ、彼ならば大丈夫よ(妖夢が何もしていなければ……だけどね)」
鈴仙に話題を振られて少々の不安を胸の内に押しとどめておく。霊夢達の機嫌を損ねることはしたくない、安心させてこの空気をどうにかしようとした行動だ。それが功を奏したのか物事を慎重に考えることができるようになったおかげで話がスムーズに進み、アリスの家に慧吾と妖夢がいることが判明する。妖夢が慧吾と一緒に居ることに霊夢の瞳が一瞬深淵に落ちた気がした……それは気のせいだと思いたい。
「そう……ありがとう鈴仙、アリス行くわよ」
「待てよ霊夢、私も行く……ぜ!」
「魔理沙あんたはボロボロじゃないのよ、ここで待っていなさい」
「だけど!!」
霊夢に
「(霊夢お前だけが慧吾のことを大事だと思っていたら大間違いだぜ!)」
心ではそう言っても体は動かない。アリスと鈴仙に視線を向けても彼女達からしてみれば魔理沙は怪我人だ。無理に動くのは良くない事、特に鈴仙はそのことについて詳しいので反対だった。視線で訴えても首を縦に振ってはくれない……歯痒い思いに唇に力が入りすぎ血の味がする。
「……霊夢、魔理沙ちゃんも連れて行ってあげて……お願い」
「……霊香お姉さん」
そんな時に意外な助け船が出た。友達のいない霊夢に初めてできた相手が魔理沙だった。魔理沙も同じであり、その頃から霊香は見守って来た。今の魔理沙の気持ちをわからない程の鈍感な人間ではなかった彼女は無理を承知の上でも安心させてあげたかった。死闘の中で娘の友人に手をあげる行為をしてしまった彼女なりの謝罪でもあり、同情でもあった。
「……わかった。アリス手伝って、魔理沙もそれでいいわよね?」
「――ッ!ああ、ありがとうだぜ!霊香お姉さん!」
「気にするな。無茶を言ってすまない、アリスちゃんにも迷惑をかける」
「いえ、霊香さんには恩がありますし、もし断っても魔理沙なら這ってでも来そうでしたから」
「ははっ、違いないな。もし死んだとしても化けて出てやるぜ!」
「魔理沙あなたねぇ……」
少女達の会話に笑みがこぼれる。これでもう安心だ。霊香が身を
「霊夢」
「ん?なに?」
「ことが終わって帰ったら……ゆっくり私と
「……」
暴走していたとは言え、博麗の巫女が人里を混乱に陥れる結果にしてしまった。そのことに対して霊香はニッコリと笑顔を作って娘の帰りを待つことにした。当の娘はどこか遠い目をしていたそうな……
「ふぅ……ようやくこの奇妙な異変も終わりか。帰ったらじっくりと朝まで楽しく
「それはいいですけど無理しないでくださいね?あなた怪我人ですよ?」
「なに、言葉を交わせるのだから問題ないし、体ももう動くことができるようになった」
「そう言うことではなくてですね……」
人里でのひと悶着も終わりを告げて事の元凶の元へと出向いた霊夢達を見送った鈴仙と霊香は残りの未だに意識を取り戻さない連中を休めるには地面よりも丁度いいところにあった甘未堂の店先にまで連れて来ていた。
「先ほどまで満身創痍の状態だったのによくも他人を担ぐことなんてできますね?本当に霊香さんは人間なのですか?」
先ほどまで満身創痍だった人間が他人を担いでせっせと動いている姿を見ては妖怪からしたら疑わしいものだ。視線を向けられた本人は心外だなと呟くが疑いの目を向けるのも無理はない。
「当然人間だ。私は少し前まで現役だったのだぞ?役目は霊夢に渡ったが今でも巫女をやっているがな。霊夢が居てスペルカードルールと言うものが存在する。だが私の時代には無かったものだから肉体が全てだった。霊夢のように少々術を行使できるがその程度……知っているか?性欲を我慢して我慢して我慢の限界が来てしまい暴走した妖怪が人里の男を狙ったことがあったのよ。そいつは半ば理性を失って目が血走っており、しまいには能力までも使って実行に移そうとしたバカがいたんだ」
「えっ!?その妖怪は強かったのですか?」
「そうだな、一応強い。この幻想郷で数えられる程の強者組に分けられる大妖怪が相手だったからな」
「そんな……そんな大妖怪と!?そ、それで大丈夫だったのですかその男性は?」
「ああ、そいつが実行に移す前にボコボコにしたからな」
凄いと正直に鈴仙は思った。霊香が語ったことは嘘ではないだろうとわかる。人里での出来事を見れば嫌でも彼女の実力が窺える。霊夢達を一人で打ち負かし、今まで幻想郷の平和を守って来た守護者は伊達ではないと感心した。
「それにそいつをボコボコした翌日に、そいつの従者が『「主が成しえなかったことを私が成す時だ!」』とかほざいて今度はそいつが人里で男を狙う始末さ」
「従者がいたんですか!?
「ああ……まったく
どこか疲れた表情をした霊香を見るに壮絶な戦いがあったに違いない。それに彼女が強いと称したのだから実力は想像を絶するものなのだろうと想像を膨らませた。直接見た訳でもないのに脳内には激しく戦う霊香と対峙する凶悪な二匹の妖怪の姿が映し出され、唾を呑み込んだ。
「それでその大妖怪はどこへ?もしかして消滅したとか?」
「いや生きている。今も元気にな。それもすぐ近くにいる」
「えっ?すぐ近くと言えども……」
鈴仙は不安を覚えた。すぐ近くにいると言われ、脳裏に浮かんだ凶悪な妖怪達の姿を思い浮かべるが……辺りを見回しても鈴仙と霊香以外には意識を失っている連中を除いて誰もいない。なにを言っているのかと首を傾けたが、その正体がすぐに判明する。
「ああ……そこで寝ている奴だ」
「寝ている奴って……紫さんと藍さん……えっ?マジですか?」
「……ああ、
「あっ、そう言うことですか」
疲れた表情を現した霊香の心境を悟った鈴仙は全て納得がいった。確かに
そんな霊香の苦労話に哀れみを感じつつ相槌を打っていると遠くの方から何かが近づいて来る重くのしかかったような音が聞こえてきた。音の方へと二人が視線を向けるとそこには人影が……
「よぉおおおおおおうぅううううううむぅうううううう!!!」
向こう側まで見えていた人影がいつの間にか目の前にあった。そして何故か鈴仙が宙を浮いていた……いや、気づいた時には胸ぐらをある人物に掴まれ地面から足が浮かされていたのだった。
「妖夢!妖夢はどこなの!!」
「うぐぇ!?」
胸ぐらを掴まれ揺らされて、脳が振動して気分が悪くなる。胸ぐらを掴まれているので首が締まり声が出せずにいた。呼吸も困難であり下手をすれば死に直面と危険な状況にあった鈴仙は相手の顔を必然的に認識することになる。
西行寺幽々子その
「ウサギちゃんお願い!妖夢の場所を教えて!知っているのでしょう!!?」
「うぐぅ!!」
「どこなの!?教えなさいよ!?どこなのよぉおおおおおおお!!?」
「ぐ、ぐるちい……!」
「おい、幽々子離せ」
苦しそうな鈴仙を助ける為に幽々子の手を掴んで捻りながら力を加えると緩み解放される。むせ返る鈴仙を心配しつつも幽々子と対峙する。少々錯乱気味の幽々子に軽いビンタをかましてやる。
「……霊香?」
頬の痛みに幽々子は我に返った。そして自分が何をしていたか理解して顔を真っ青にする。
「幽々子、あんたまで典型的な
「そ、そうよね……ごめんなさい。紫と藍と同じは嫌よ絶対、アレと一緒にされるぐらいなら死んだ方がマシよ……あっ、私もう死んでるんだったわね。ゴホン……それはそうとウサギちゃんもいきなりこんなことしてごめんなさいね?本当に迷惑をかけてしまって……」
「えっ、あっ、はい」
「でも私は急いでいるの。霊香、ウサギちゃんも妖夢がどこに居るのか知らない?」
「それならばアリスちゃんの家に『「――ッ妖夢!!」』っておい!?行ってしまったか……普段はおっとりした性格なんだがな」
幽々子は霊香の言葉を聞くと猛スピードで去って行ってしまった。呆気に取られる鈴仙……それと今度は入れ違いになるように橙が慌てた様子で二人の前まで走って来た。
「はぁ……にぁ……はぁ……にぁ……ど、どうも霊香さんに鈴仙さん」
「あっ、どうも」
「橙か、残念だが幽々子は行ってしまったぞ」
「にゃ!?折角追いついたのに……って紫様!?藍様もどうしたのですか!?」
「いつも通りだ」
「あっ、そうでしたかにゃ」
霊香の一言で察するに値するものであり、橙が動揺を見せないのも慣れてしまった証なのだろう。その後、入れ違いになった幽々子を追おうとした橙だが引き止めた。アリスの家に向かったのならば霊夢達と合流するだろうし、もし何かあっても今の霊夢達ならばそれほど被害が大きくなる前に止めてくれるだろう。
「……今宵は
「「えっ?」」
鈴仙と橙は霊香がボソリと呟いた言葉が気になった。彼女の言葉は何を意味していたのだろうか……?
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「シャンハーイ……」
「大丈夫、その内意識を取り戻すさ」
「シャンハーイ!」
ベットに寝かされているのは妖夢で彼女はいきなり倒れてしまった。彼女の身に何が起きたのかわからない慧吾は倒れた彼女をベットに寝かせて看病しているところだ。上海は心配そうにしているが慧吾が元気づけてやるやり取りを交わしていた時だ。
「ん……うん……?」
「おっ、気がついたようだな」
「シャンハイハーイ!!」
ようやく目が覚めたようだな。寝ぼけた顔が幼さをより引き立てて愛らしい……こうしていると可愛らしい女の子なんだよな。少し前まで命を狙われていただなんて……幻想郷の女性はやっぱり強いよな。
慧吾はしみじみと現状を考えさせられた。出会って命を狙われ、追われ追い込まれ、追い込まれて最終的には看病しているのだから奇妙な縁だと認識させられる。
「あっ、慧吾さん……」
「敬語は要らないぞ?歳だってそんなに離れてないだろ?」
「いえそう言うわけにはいきません。私がそうしたいのですから。それはそうと慧吾さんは人間ですよね?私は半人半霊なのでこう見えても〇〇歳ですけども?」
「……マジで?」
「
妖夢は俺よりもお歳が上のお姉さんだった。しかも半分幽霊状態の人間?だったのには流石に驚いたぜ……まぁ人ではないことはなんとなくわかってた。傍に浮いているのアレが半霊らしい……いや、ちょっと形がアレだし、ケダモノ揃いの幻想郷だし、卑猥な表現で言うならば赤ちゃんの元をオプションで付けているアレな子かなと心の隅で思ってたりしてたとか言えねぇな。言ったら今度こそ斬り殺されちまう……
「どうしましたか?」
「い、いやなんでもないです!」
「私が歳上だとわかって気を使っているのですか?そんなこと無用です。今まで通りに接してもらっても……いえ、接してください」
「ああ、わかった」
何やら様子が変わっていたことに気がついた。丸くなったと言えばいいのだろうか?よくわからないが目覚めた彼女は優し気などこか温かい雰囲気を感じさせていた。
「……なにか夢の中で良いことでもあったのか?」
「ふぇ!?あ、い、いえ……その……」
慧吾が放った言葉に手をモジモジさせて俯く妖夢の頬は薄っすらと赤色に染まっている。
ありゃ?俺は何か変なことでも言ったのか?夢の中で良いことがあったのは間違ってないらしいから気にすることではなさそうか。
楽観的にその時は解決した。すぐに訳がわかるのだが……その話はしなくてもわかるだろう。
「………………………………………………慧吾さん!」
急に妖夢が畏まった態度で俺を見つめている。何かを決心したような目で真剣そのものだ。赤みがかった肌が愛らしさを倍増させて見ていて眼福だが……一体何を言うつもりなんだ?
誰も邪魔してはいけない雰囲気を醸し出し、上海も固唾を見守っている。
「慧吾さん……あの……わ、わたし……魂魄妖夢は慧吾さんのことを……!」
「よ~う~む~」
「………………………………………………えっ?」
邪魔してはいけないはずの雰囲気をぶち壊すように声が建物内を響かせた。まるで虫が這うように全身を震えさせるような錯覚を覚えさせる不気味な声だった。慧吾含む全員が声の方へと視線が向かっていきそこにいたのは……!
「何してくれたのかしらね……妖夢♪」
「ゆ、ゆゆこ……しゃま……!?」
笑顔だけど目が笑っていない幽々子が窓に貼りついていた。その姿に全員がギョッとし、妖夢に至っては全てを察したようで涙目になっていた。
「うふふ♪妖夢待っててね、今そっちに行くわ」
スッと壁を通り抜けてしまった。幽々子は亡霊である為、壁など意味もなさないのだ。脇目もくれずに妖夢目掛けて突き進んで行くはずだった幽々子は傍に慧吾がいることを知ると笑顔を崩して真剣な表情となった。
「あなたが慧吾君ね。初めまして西行寺幽々子です」
「ど、どうも」
「この度はうちの妖夢が大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」
「い、いえ……俺は大丈夫でしたから」
「そう言っていただけると助かります。けどケジメはちゃんと取らせますので」
これは俺にでもわかる……めっちゃキレてる。妖夢の保護者だろうな雰囲気的にそんな感じだし、御袋とよく似たものを感じた。そしてこの後の展開などもう読めたわ……
「妖夢……私と一緒に帰りましょうか♪」
再び目が笑っていない笑顔を作って妖夢の手をがっちりと掴んでその場を去ろうとする。当然妖夢は助けを求めて目で慧吾に訴えかけてくるのだが……
「慧吾君」
妖夢の訴えに流石の慧吾も助け船を出そうとしたが、幽々子に名を呼ばれただけで蛇に睨まれた蛙のように体が硬直して大量の汗が噴き出る。その一言に多くの重みがのし掛かっており、嫌でも慧吾は理解してしまう。
邪魔したら……わかるわよね?
言葉にすればそう言っているようであった。
……これはあかん……
「……妖夢……ごめん」
「――ッ!?」
慧吾は諦めざる負えなかった。見放された妖夢の表情は驚愕と絶望に変わり……
「妖夢」
「覚悟してなさい」
「……みょん……」
やがて妖夢は失神して幽々子に引きずられながらこの場を去って行った。残った慧吾と上海はしばらくの間動けずに震えているしかなかった。
後に慌てた様子で霊夢達が訪れた。先に出発したはずの霊夢達よりも幽々子が到着したのは、自分達を横切るもうスピードの影……その影と一瞬視線が交わった霊夢達は恐怖心に駆られてその場に釘付けされ、我に返った後は影が過ぎた後だった。それが幽々子だったと到着した霊夢達は知るのであった。
「大変だったな……あの時は」
「まったく心配かけさせるぜ」
「そうね、慧吾が妖夢に襲われているって聞いた時は殺意が湧いたわよ」
あれから数日が経ち、元の日常へと戻って行った。博麗神社で俺と魔理沙と霊夢が当時のことを思い出してお互いに思うことを言い合っていた。こうして日常に戻れただけでこんなに心落ち着くなんて思いもしなかった。あんな奇妙な一日そうそう出会いたくはない……
結果としては無事に俺は生還できた。霊夢と魔理沙は無事な俺の姿を見ると抱き着いて大喜びしていた。後で魔理沙が顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたのを憶えている……可愛かったな。偶然にも迷惑をかけてしまったアリスとはこのことがきっかけとなり、時々会いに行ったり人里の人形劇をやる時は手伝いをすると約束もして良き友人となった。その時に霊夢と魔理沙が嫉妬していたのは気にしないことにしよう。家に帰れば御袋が死んだ我が子と再会したようにボロボロと号泣して落ち着かせるのには苦労した。その夜、御袋と子供の頃以来に一緒に寝かされてしまって大変だった。妹紅さんも俺の姿を視界に入れるなり抱きしめられて珍しい弱々しい姿を見てしまった。あんなに弱々しい姿を見たのは初めてだった……やっぱり妹紅さんも女の子なんだなと思い知らされた。咲夜に至っては見舞いと称して毎日通いつめては家事やら洗濯を手伝ってくれた。ありがたい限りだが、トイレまでついてこられるとは思っていなかったな……見られたりは……していないと思っておこう。そして小鈴だ。白玉楼を爆破しようとしていたから止めておいた。いつも通りで何故かホッとした俺はおかしいのか?
後で聞いた話だが、霊香さんと鈴仙が俺の為に活躍してくれたみたいでお礼を言ったら照れていた。あの霊香さんまでも照れるなんて思っていなかったから破壊力抜群だった。永琳さんにもまた今度お礼を言いに行かないとな。橙も頑張ってくれたみたいでマタタビでもプレゼントしよう。紫さんと藍さんは……一応俺のことを思って行動してくれたのだから花と油揚げをプレゼントでもしよう。霊香さんからはそこら辺の雑草でもあげとけと言われたけど一応な。そして大事なことなんだが、今回の原因となった妖夢なんだけどな……
「知っているか?その夜、白玉楼で数えきれないほどの
どこからか仕入れたかは知らない噂を持ち込んだ魔理沙の言葉に疑問を浮かばせた慧吾だったが、霊夢と魔理沙は
「白玉楼には
「慧吾が優しいのはわかるけど、今回はおいたが過ぎる……いえ、おいたどころでは済まされなかったかもしれないの。私がどれほど心配したか……」
「霊夢の言う通りだぜ。今回ばかりは妖夢が悪かったからな。私だって心配したんだぜ。だって慧吾は……友達……だからな。妖夢のことを心配するのはわかるが、全て幽々子に任せておけば大丈夫だぜ」
暗い表情の霊夢に気丈に振舞う魔理沙、最悪の場合こうして日常に戻れなかったかもしれない。だから妖夢が痛い目を見ても二人は当然の結果だと思っていたし、直接手を下さなかったのだからまだ温情だ。
「そうか……まぁ俺はどうすることもできないからな。でも今度はちゃんと仲良くしようと思っている。もう妖夢とは友人だからな」
「もう慧吾は優しすぎるわよ。でもそう言うところが好きよ♪」
慧吾に寄り添う霊夢に口を尖がらせる魔理沙の姿がある博麗神社の光景はいつも通りの日常へと戻って来たことの証明だった。
「おい、昼ご飯ができたわよ」
「あっ、はい霊香さん今いきます!ほら霊夢、ご飯だってよ」
「母さん今良いところなのに……」
「知らないわよ、慧吾君に迷惑をかけるんじゃない。また
「……」
スススッと慧吾から離れてちゃぶ台へと向かって行く。なんでも博麗の巫女でありながら人里を混乱に陥れた罰を母親の霊香から受けたんだとかで少々トラウマになっているようだ。
「慧吾君も食べていって、魔理沙ちゃんの分もちゃんと用意しているからね」
「霊香お姉さんありがとうだぜ」
「ありがとうございます」
「うんうん!」
ハチャメチャな出来事もこの幻想郷では当たり前のことであり、偶然にも遭遇してしまった慧吾は不運だと思っても原因の妖夢を恨んではいない。これも幻想郷で生まれた者の宿命であり、山あり谷ありの人生なのだからこれもこれでいいかと納得ができた。
あの時、妖夢は俺に何を言おうとしていたのだろうか?今度会った時に聞いてもいいが……止めておこう。妖夢が言いたいと思った時に聞いてやればいいさ。おっ!この川魚美味いな♪
終わりよければ全て良し……これも彼の人生なのだ。
「も~う!なんで言ってくれなかったのよ~!!しかも鈴仙はちゃっかり慧吾からお礼を言われているのよ!?慧吾に良いところ見せれなかったじゃないのよぉおおお!!!」
「……はぁ……ウドンゲ、てゐ……慧吾君を呼んで来てくれないかしら?」
「は、はい……わかりました」
「永遠亭が……崩れるウサ」
全てが終わった後に輝夜は遅すぎるタイミングで知ることになった。それが原因で永遠亭で暴れる怪物が生まれてしまい、鎮める為に慧吾が駆り出されることになった小話がありましたとさ。