あべこべ幻想郷に落ちた命   作:てへぺろん

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時系列は風神録過ぎた辺りです。


それでは……


本編どうぞ!




弐章
守矢の巫女


 「――でありまして、辻斬り事件が起きたと思えば今度は鬼神悪鬼が人里に現れたかの如く恐怖で染め上げられたらしいのです。くぅ、何故あの時に限って居眠りをしてしまったのか……椛が知らせてくれれば大スクープをカメラに収めることができたのに!この射命丸文一生の不覚……って聞いてますか?」

 

 「……えっ?あっ、はい……すみませんでした文さん」

 

 「あやや、どうしたんですか?顔色悪いですね早苗さん?」

 

 

 数日前に人里で起こった事件を後々調べ上げて大スクープを取り逃したことを嘆くのは文、その愚痴を目の前にいる一人の巫女に話しているところだ。

 

 

 

 緑色のロングヘアーに髪の左側を一房髪留めでまとめた白地に青の縁取りがされた上着と、水玉や御幣のような模様の書かれた青いスカートを履いている。彼女は博麗霊夢とは違う異なるデザインの巫女装束を着ていた。彼女の名前は東風谷早苗と言い、幻想郷に最近やって来た人間だった。

 

 

 文に質問されたと言うのに早苗は落ち着きがなく、返答もなし。それに体調も調子が悪そうに見えた。

 

 

 「早苗さん……はっ!そう言うことでしたか、大変申し訳ありませんでした気がつかずに……女の子の日なのですね!」

 

 「ち、ちがいます!!そんな日じゃありません!!」

 

 

 女性にとっての特別な日だと勘違いされて即座に否定した。

 

 

 「あやや、それじゃ何の日なんでしょうか?ねぇ教えてくださいよ~早苗さん、私とあなたの仲ではないですか~♪」

 

 「私とあなたの仲って……それほど親しくはないですよね?」

 

 「またまた~!共に博麗の巫女にやられた仲なのですから♪」

 

 「やられたって私は……」

 

 「あやや変ですね?意気込んで『「博麗の巫女なんか私がやっつけてやる!!」』とか言って喧嘩を売った直後に血祭りにあげられてたのは誰でしたっけ~♪」

 

 

 ニタニタといやらしい笑みを浮かべる文に不快感と腹が立った。早苗にとっては思い出したくない記憶であったようで、とある理由で外の世界から彼女はやってきた。その時に妖怪の山に生息する天狗達とひと悶着あったが何とかことを収めた。そして幻想郷に新たなる居場所が誕生し、我が家である守矢神社がここに根強く立つことになった。

 

 

 守矢神社は本来幻想郷の外にあったが、信仰が得られなくなったため神社ならびに神社近くの湖ごと幻想郷に引っ越した。このことが異変の発端となり、信仰を得ようとした神様と天狗とのひと悶着、そして博麗の巫女である霊夢達に目を付けられた。結果は霊夢達が異変の発端である早苗らを懲らしめたことで幕を閉じた。幻想郷に来て日も経っていないような彼女が霊夢に勝てる訳もなく、文の言う通り惨敗を期した。

 しかしそのことについて早苗は言い訳はしない。勝てなくて当然だったのだからこれから超えればいいだけのこと。では何故先ほどから彼女の様子がおかしいのか?それを知るにはもう少し彼女の生活を見ておく必要があるようだ。

 

 

 「……もうこの話はやめましょう文さん、私はこれから用事がありますので」

 

 「そうでしたね。それじゃそろそろ私も取材の続きをしないといけないので……これにて!!」

 

 

 そう言って猛スピードでこの場を去って行く。飛び立った衝撃で砂が舞い風が躍る。文の後ろ姿は一瞬にして見えなくなってしまっていた。それと変わるように今度は守矢神社の方から人影が二つやってくる。

 

 

 「……早苗」

 

 「神奈子様、諏訪子様……どうしましたか?」

 

 

 ボリュームのあるセミロングの髪に、冠のようにした注連縄を頭に付けた女性と金髪のショートボブに蛙のような帽子を被った少女が現れた。八坂神奈子と洩矢諏訪子と名乗る神様で、早苗の親同然の仲の二人は不安そうな表情で見つめていた。

 

 

 「早苗、辛かったら行かなくていいんだよ?私達は早苗が一番なんだから」

 

 「そうだぞ早苗。信仰のためにと動いてくれてはいるが、お前には辛い思いをしてほしくないんだ。だからわざわざ人里へ行かなくても……」

 

 

 諏訪子が優しく言った。神奈子が説得を試みたが対して早苗は首を横に振り否定の意思を表す。わかっていたことなのだろう……諏訪子はそれ以上口出しすることはなくなったし、神奈子も口を閉ざす。

 そんな二人に背を向けて一言「いってきます」と声をかけて空へと飛び立っていった。目指すは人里だろうが、何故二人がここまで早苗に気を使うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「せんせいさようなら~」」」

 

 「ああ、また明日な」

 

 

 寺子屋から帰宅する子供達を慧音は見送っていた。寺子屋はお昼時前には終わり、この後はいつも通りに自宅へ帰るつもりでいる。一刻も早く帰って愛する息子に出迎えられ、共に食事を楽しむ楽しみがある。

 

 

 「さてと……慧吾待ってろ、今すぐに帰るからな!ふぅひぃ♪」

 

 

 日課になっているとは言え、辻斬り騒動が起きて以来息子と共にいる時間が恋しくなることが多くなった。若干鼻息を荒げながら寺子屋を閉めて我が家へと続く道を歩んでいる時だった。

 

 

 「皆さん!今こそ我が守矢神社を信仰してください!」

 

 「ん?あれは……」

 

 

 慧音はふっとその声の主が気になり足を止めた。その声の主は緑髪の少女の服装はどことなく霊夢の巫女装束に似ている。その少女は『守矢』と書かれた旗を背負い、簡易な土台の上で演説を行っている。この出来事に興味を示した多くの女性達が導かれるように少女の元へと集まりだした。

 

 

 「お集まりくださりありがとうございます。私は東風谷早苗と申します!以後よろしくお願いします!」

 

 

 礼儀をわきまえた少女らしい……その少女を見て慧音は思い出す。そう言えば以前に妖怪の山で一筋の光が差したことがあった。文の情報によれば守矢神社なる建物が外の世界から移住してきたとか聞いた。それから妖怪の山から度々一人の少女が演説しに人里に現れると言う噂を耳にしたが……どうやらこの少女こと早苗だと慧音は認識した。

 

 

 「今!幻想郷に必要なこと、それは何だと思いますか?」

 

 

 急に話を振られた野次馬はお互いに顔を合わせて何のことだかさっぱりわかっていない様子だ。

 

 

 「絶大なる神のご加護が必要なのです!

 

 

 早苗が野次馬に言い放つ言葉は力強く、迫力に押されてしまった。

 

 

 「神様は崇拝するべきものです。して、その崇拝するべき神とは誰なのか……」

 

 

 早苗が神について語った。今の幻想郷に必要なのは神様であり、守矢神社に住まう二神こそ我々人間が崇拝するべき存在であると……その一神の名は八坂神奈子、強さ・威厳・器の大きさを持ち合わせ軍神と呼ばれた神様である。もう一神は洩矢諏訪子、農作・軍事・創造を統治していた土着神という守矢の二神を信仰すれば様々な恩恵を得られるとのことだった。

 

 

 「(胡散臭いな)」

 

 

 慧音がそう思うのも無理はない。以前妖怪の山での異変の首謀者に守矢神社が関係していると知っているから尚更信用できない。他に集まった野次馬も反応はよろしくない……ガヤガヤと疑惑が立ち始める。この状況を察知した早苗は分が悪くなった彼女の表情が険しくなったのを見過ごさない。慧音の洞察力を持って早苗が信者を獲得しようと試行錯誤を考えているのを見通していた。

 

 

 「(どうするつもりだこの状況を?)」

 

 

 慧音は人里を異変や妖怪からの魔の手から守るために、異変を起こした彼女の人としての良さを見抜こうとしていた。そうとも知らない早苗は焦りが顔にも表れ始め、汗が流れている……突如としてハッとした表情を浮かべた。何かを思いついたのだろう……早苗はこの状況を一変させる起死回生の一手を投じた。

 

 

 「も、もしも守矢神社を信仰すれば、皆さんにはきっと運命(男性)との出会いが待っていることでしょう!!」

 

 「「「「「――ッ!!?」」」」」

 

 「(……おいおい、流石にそれはマズイのではないか?)」

 

 

 爆弾を投下した早苗の発言に遺憾の意を示す。この幻想郷では恋愛が成就(じょうじゅ)するのは一握りの女性のみ、美しい容姿なら問題はない。しかし慧音のような不細工だけでなく、男に選ばれることがなかった残り者達にとってはこの話は御法度(ごはっと)である。一生独り身で墓場までの人生を過ごす女性達にわざわざ話題をほじくり返してしまうのは酷なこと……しかしそれでも希望()を捨てきれないのが女である。もしも本当に守矢の神々を信仰すれば出会いがあるのではないかっと淡い期待が生まれてしまう。実際に早苗の投下した爆弾の火が森林に燃え移るようにみるみる期待が広がっていき……

 

 

 「わたし守矢を信仰します!」

 

 「わ、わたしも!!」

 

 「あたしも!神様最高!!」

 

 「筋肉ムチムチナイスバルク!!」

 

 「ショタこそ孤高!!オネショタ展開カモン!!!」

 

 「ペロペロしたいペロペロしたいペロペロしたい!!!」

 

 「「「「「MO・RI・YA!!!MO・RI・YA!!!MO・RI・YA!!!」」」」」

 

 

 人里の中心で守矢コールが早苗を中心に繰り返されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はぁ……どうして言ってしまったんでしょうか。咄嗟に思いついたとはいえ、あんなことになるだなんて……」

 

 

 早苗は自前で用意した旗と土台を片づけながらため息をついていた。早苗自身も咄嗟に口から出たその場しのぎの言葉であったが、次から次へと大勢の信者を獲得する結果となってしまった。予想外の出来事に後悔しながらも信者を会得したことでこれでよかったのだと納得することにして守矢神社へと帰ろうとした時だった。

 

 

 「ちょっといいか、早苗だったな?」

 

 「えっ?あなたは……」

 

 「私は寺子屋で教師をしている上白沢慧音だ」

 

 

 慧音は守矢を信仰したわけではないし、彼女が独り身で墓場までの人生を過ごす女性に含まれることはない。以前までは慧音もその内に入っていたが、息子の慧吾を授かり今では勝ち組に属する勝利者なため早苗の洗礼を受けることはなかった。何故引き止めたのかは早苗のことを心配しての忠告をするためだ。

 

 

 「話を聞いていたのだが……最後のアレはまずかったのではないか?」

 

 「そ、それは……」

 

 

 恋愛が成就(じょうじゅ)することなんてそう簡単に叶うわけがない。早苗の親同然である二神ですら今も成就(じょうじゅ)していないと言うのに……信仰すれば叶うなど嘘にも等しいことなど本人も十分に自覚していることだが今更どうすることもできない。

 

 

 「あの時の君は焦っていた。そのために咄嗟のことだったと見ていればわかったがあんなの嘘と同じだ。今ならまだ間に合う。謝ってくるんだ、不安ならば私も一緒に謝ってあげるからな?」

 

 

 親切心だった。早苗はまだ若く情報によると外の世界から幻想郷へと移り住んですぐだ。わからないことだらけの世界で一人で人目に付くような場所で演説を行った。大したものだと思う……が、勧誘の仕方を間違えた。初めは良いかもしれないが、後できっとシワ寄せが押し寄せて来ることだろう。騙されたと男が関わった女共の狂気の牙の餌食にされてしまう……教師として見過ごすことはできなかった。

 

 

 「……」

 

 「さぁ、謝りに行こう」

 

 

 俯いた早苗は体を震わせていた。なにを感じているのかわからないが、様々な感情がそこには入り乱れているはずだった。しかし答えはただ一言だけ……

 

 

 「………………………………………………嫌です」

 

 「……なに?」

 

 

 思わず耳を疑った。慧音は早苗が理解力のある子だと思っていたし、礼儀もわきまえている。彼女なら後に起こるトラブルを回避する選択をするだろうと思っていたのだが、返って来たのは拒絶の証だ。

 

 

 「形はどうあれ守矢を信仰してくれるのです。それに信仰すると言ったのはあの人たちです」

 

 「だがそれは()につられてだな……」

 

 「そんなの……私の知ったことではありません!」

 

 

 怒号が慧音にぶつけられた。ビクリと体が反応する……周りの通行人も何事かと視線が集中する中で、彼女は怒鳴るつもりではなかったのだろう。早苗はハッとして顔を上げる。その顔には戸惑いと驚愕の両方が浮かんでいた。

 

 

 「――ッ失礼します!」

 

 「お、おい!?」

 

 

 すぐさま逃げるようにその場を去って行く。取り残された慧音は早苗が去った方角を眺めて疑問を口にする。

 

 

 「偽りの信仰で入信者を増やしたとしても結果はわかっているのに……そこまでして信者を増やしたいのか?君はどうしたいのだ?」

 

 

 慧音は見たのだ。悲しみに染まった瞳が早苗に宿っていたのだ。その悲しみとの正体は何か……調べる必要があるなと思い慧音は信頼する人物に詮索を願い出る。

 

 

 ------------------

 

 

 「あやや、それで私を自宅に招いたわけですね」

 

 「そうだ、頼めるか?」

 

 「そうですね……私も早苗さんのネタを掘り出したいと思っていましたので是非ともこの射命丸文がご協力させてもらいましょう」

 

 「文、御袋大丈夫なのか?」

 

 

 御袋が帰って来た。そして文が御袋に何故か引きずられてやってきた。初めはどういう状況と思ったが、掻い摘んで説明すると演説を行う少女と出会い、信仰を得る為に口から出たデタラメで信者を増やした。しかしそれでは後が恐ろしいので少女に忠告したが、断られた。しかし断られた時の様子に疑問を感じた御袋が人里で偶々辻斬り騒動の取材をしていた文とバッタリ遭遇、そのままとっ捕まえてその少女のことについて色々と捜索してほしいとのことらしい。話によればその少女は東風谷早苗と言って元々外の世界から来た女子〇生だった子のようで現代人の様子。何かと親近感が湧く気がする。俺も転生する前はこことは違う世界の外の住人だったからな。ちょっと会って見たい気もする。

 

 

 「心配するな。性格はあれだが詮索は得意だろ?」

 

 「あやや性格は否定ですか。まぁ相手の情報を得ることに関しては慣れていますよ。そう言えば早苗さん人里へ行く前から様子が変でしたね。その時は揶揄ってしまいましたが、何か闇を抱えているのかも知れませんよ?」

 

 「闇を抱えているとは?」

 

 「女は秘密を隠しているものなのです。早苗さんはまさしくそれに当てはまる動作を行っていましたからね」

 

 「わかるのかよ文?」

 

 「記者である私の洞察力を舐めないでもらいたいですね。記者は取材相手の事細かな表情の変化や動作を見て話のネタを聞き出したりするのですよ?」

 

 「ほう……そうなのか」

 

 

 そう言えば記者だったな文は……忘れていた。文が言うには早苗さんとか言う巫女さん?が闇を抱えている可能性があるとか……誰だって秘密の一つや二つ持っているものだ。俺も転生者と言うことを隠しているからな。しかし闇か……あべこべ世界で不細工の女性達の扱いは酷いものだ。その彼女にはまだ会ったことはないが、御袋や文と同じく俺からしたら美人なのだろう。ならばこの世界では不細工扱い……心に傷を負っているのかもしれないな。気になるな……

 

 

 「御袋、俺もその早苗さんに会いに行ってもいいか?」

 

 「どうしたいきなり……ま、まさか恋をしたとか!?」

 

 「いきなりなんでそうなるんだよ……違うぞ御袋。文の調査に俺も同行しようと思う。ちょっと話を聞いていると気になってな。それに男の俺ならばその早苗さんがもしかしたら口を滑らせてくれるかも」

 

 「それはいいですね!慧吾さんのような男性に声をかけられてメロメロにならない雌ゴリラはいませんからね♪」

 

 「文お前例えが……まぁいいや。それで御袋、俺がついて行ってはダメか?」

 

 「むむ……慧吾の頼みならダメとは言えないな。できる母親は息子のお願いを無下にしない。文、慧吾のことを頼んだぞ」

 

 「あやや!?頼んだと言うことは……婿に貰ってもいいと言うことでしょうかね!?」

 

 「違う!!妹紅に頼んで焼き鳥にして食うぞ鴉!!」

 

 「おお怖い怖い!冗談ほんの冗談ですって♪」

 

 

 文のやつ御袋で楽しんでやがるな。しかし東風谷早苗か……どんな子なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……」

 

 「早苗おかえり……何かあったようだな」

 

 「早苗……大丈夫?」

 

 「……」

 

 

 守谷神社へ帰って来た早苗は見るからに元気がなかった。出迎えた神奈子と諏訪子は心配して声をかけるが早苗は返事もせずに奥へと消えていく。

 

 

 「早苗……」

 

 「……」

 

 

 二人は何も言えず辛そうな表情で奥へと消えた早苗を心配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……何が『運命(男性)との出会いが待っていることでしょう!!」』ですか。自分で言っておいて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……()なんて反吐がでます……」

 

 

 少女の口から吐き捨てた言葉にはどういった意味が込められているのだろうか……

 

 

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