それでは……
本編どうぞ!
「小鈴の言うことは正しかったようね。まさか幻想卿に入り立ての新参者のくせに慧吾君とデートだなんて許さないわ!!」
「でしょでしょ紫さん、さっさと
殺意の籠った瞳がそこにある。妖怪の山に現れた悪魔たちが獲物を見つけたようだ。
「私も同感です。紫様、ここは私にお任せを」
「何かいい案でもあるのかしら?」
「デート……つまり慧吾殿に良いところを見せようと必死なはずです」
「ふむふむ、それで?」
「しかし逆にみっともない姿を晒せば好感度はガタ落ち、嫌がって慧吾殿の方から接触を拒絶することになるでしょう」
「でもそれだけでは不安ね」
「そこで、我らの登場と言うわけです。あの
「なるほどね、流石は藍……って最後おかしいじゃない!なんであんたなんかと結婚するに至っているわけなのよ!!?」
「当然の結果ですがなにか……はっ!?私は何と言う間違いを犯していたのだ……結婚するではなく、既に結婚していたではないか!!?」
「何一人で妄想の世界に入って現実とごっちゃにしているのよ!!」
「私と慧吾殿が夫婦なのは事実です。それを妄想と捻じ曲げようとする紫様の存在こそ妄想なのでしょう」
「私は実在しているわよ!!!」
「おやおや、私は相当仕事でお疲れのようです。まさか醜く無様に汚物まみれの顔で死んだはずの
「挑発のつもりかしら!?その喧嘩買ってやるわ!!!表出なさい!!!」
「既に表ですが?やはり紫様は脳内までブスで形作られているようですね哀れwww愚かwwwきもすwww」
「クソ狐めが!!ぶち殺してやるわ!!!」
「おーっ怖!顔面偏差値0.00000000001の紫様の顔を見るだけでショック死してしまいそうですwww」
「どこまでも舐め腐りやがって!!!」
「うるさいメス豚がブヒィブヒィ鳴くんじゃねぇ!!!!少し黙っていろぉ!!!」
「「す、すいませんでした!!!」」
草葉の陰で行われていたのは醜い争いだった。ここ妖怪の山の麓で一種の火種がこのままでは引火してしまうのも時間の問題である。
「
「「(怖ッ……!!?)」」
大妖怪である紫と藍でも恐怖するものがここにいる。男になると大妖怪やただの人間などの差など些細なことのようだ。しかしこのままでは折角のデートが台無しに……だが救世主達もここにいた。
「そうはいかないな変態共」
「むっ!?」
小鈴が声のした方を振り返ればそこには妹紅率いる救世主達の姿があった。
「慧吾君のお母様!?それに守矢の神様まで!!?」
「紫殿、さり気にお母様呼ばわりしないでほしいのだが……」
「あやや、一応私もいるのですがね」
「捏造記者まで……私達の何か御用かしら?今はとても忙しいのですけれど?」
「紫、まさかとは思うが私らの早苗のデートを邪魔する気じゃ……ないだろうな?」
「ギクッ!?な、ナンノコトカシラ……?」
紫はとぼけたようだが動揺が目に見えている。まさか見られていたとは思わなかったらしい。
「嘘バレバレだよ。妖怪の賢者が他人様のデートを邪魔しようとか聞いて呆れるよ。それも神奈子と私の娘同然の早苗のデートを……覚悟できてる?」
諏訪子はお怒りの様子だ。体は小さいのに漂う気が大蛇となって紫を見下ろしている気がする。他のメンバーも小鈴たちを睨む瞳に力が入っていた。
「5対3……これでは多勢に無勢ですな。紫様、スキマを拝借したいのですが」
「何するつもりかしら?でも……今は緊急事態だから許可するわ」
「ありがとうございます。それでは……来い!」
藍の行動に慧音達はスキマを使い逃げ出すのではと考えたがそうではなかったらしい。代わりにスキマからボトリと音がなり塊が
「いたた……一体なんですかこれは……?」
「ここは……慧音様!?妹紅様も!?」
「妖夢に咲夜!?」
「スキマを使って取り出しやがった……どこかの猫型ロボットかよ」
慧音と妹紅に塊は見覚えがあった。辻斬り騒動で多大なる迷惑をかけた半人前庭師の妖夢と恋する完璧な瀟洒なメイドの咲夜がスキマから現れた。予想外の人物の登場に一同困惑しており、連れて来られた本人達ですら訳がわからないと言ったところに藍が声をかけた。
「困惑しているところ申し訳ないが、妖夢と咲夜殿を呼んだのは私だ」
「藍さんが?」
「……妖夢はともかく何故私までも呼ばれたのかしら?事と場合によっては……」
鋭い瞳が狐を狙い、手にはナイフが狩るために添えられている。咲夜は不機嫌丸出しにして自分を呼び寄せた相手に敵意を向き出しにしている。それもこれもスキマで拉致、しかもこれから自室に籠って慧吾との思い出のハンカチ(洗浄未使用)に酔いしれようとした最悪なタイミングで拉致られたのだ。不機嫌を通り越して毛皮を剥いでコートにでもしてやろうかと殺気まで放たれている程だが、殺気を向けられている本人は不気味に笑みを浮かべている。
狐を甘く見てはならない。昔から狐は人を化かし、時にはたぶらかす。多くの人々を混迷へと誘い込んでいったと歴史が語っている。そしてこの
「咲夜殿、緊急事態だったのだ。許してほしい」
「……それで?緊急事態って何なのかしら?」
「慧吾殿が
「――なッ!?」
咲夜の弱点を
「このままでは慧吾殿の
「――なッ!?なななななッ!!?」
「本当ですか藍さん!?」
「咲夜騙されるな!これは罠だ!!妖夢も少し頭を使え!!」
咲夜は見るからに動揺が激しさを増し、妖夢は驚愕の答えに狼狽える。瞳がバイブのように揺れ動き瞳孔が開いていた。このままでは不味いと慧音が声をかけるが虚しく空虚に消えて咲夜には届かず妖夢は話を聞いていない。最愛なる慧吾の
「妖夢、私は同じ従者としてお前を尊敬しているんだ」
「へぇ!?い、いきなりなんですか?」
「お前は幼い頃からたった一人で幽々子殿の身の回りのお世話から庭師としての仕事をこなしながらも己の剣術を疎かにしない。そのお前の心意気に私は感服していた。昔からお前を尊敬し、友として見ていたのだ」
「友……藍さんと?」
「ああそうだ。妖夢と私は友、友達だ。同じ従者同士もあるが、私は妖夢を尊敬し、私も妖夢のような立派な従者になりたいと思っていた」
「そ、そんな!?私は半人前で立派な従者では……」
「立派だとも!!毎日欠かさず剣術に勤しむ姿を私は知っている。何から何まで一人でやってきた。私ならばそんなの途中で投げ出していただろう。途中で逃げ出していただろう。それをやり遂げているのだからな!そして私は今とても困っている。妖夢も慧吾殿が気になるのだろう?友達同士、同じ想い人を
わざとらしさ100%の演技かかった小芝居が披露された。嘘ばかりの偽りだらけの言葉に誰が騙されるかとこの光景を見ていた親連中……しかし妖夢は……
「藍さん……わかりました!この魂魄妖夢、同じ使命を持ちながらも私を友と呼んでくれた藍さんの為に私は刀を振るいます!!そして慧吾さんの
「ありがとう妖夢!!(計画通り)」
妖夢は単純だった。
「(うわぁ……藍ってばえげつないわね。妖夢をまんまと手駒に加えてしまうだなんて……しかも吸血鬼のメイドまで……私の式ながら恐ろしい子ね。後が怖いわ。まぁ、後でレミリアと幽々子に始末されるのは藍だからゆかりん関係ないも~ん)」
紫は見て見ぬフリをした。後々厄介ごとが起きるのは目に見えていたから。
「咲夜殿!妖夢!今は慧音殿らを親と見るな!慧吾殿の意思を無視し、
「それだけはダメです!慧吾さんをこの手で守り抜いてみせます!」
「(そういえばお嬢様への血を提供していませんでしたね……慧吾様に汚い手で触れようとする愚か者は食材にでもなってもらいましょうかしらね!)」
狐はあること無いこと出まかせだらけの言葉をその場の思い付きで語っていく。だが正常な判断ができなくなっている二人には効果
「よくやったわ
劣勢だった状況が均衡を保ち始める。優勢でないにせよ、小鈴側に勝機が見え邪悪な笑みを浮かべていた。
「この狐卑怯だ!私だって祟り神だけど関係のない人まで巻き込まないよ!?心はないの!?」
「心はいつも慧吾殿と共にある。夫である慧吾殿のことを一番に考え、寄り添い合う……これぞ正しく愛!!その愛を守るためならば多少の犠牲など些細なものだ!!いや、悲劇的で寧ろ心地よい!!!」
「最悪だよこの狐!!!」
これほど邪悪な妖怪を見たことがない。諏訪子ですらその醜悪な勝ち誇った笑みから恐怖を感じる程だ。
「へっ!数が同じになったからっていい気になるなよな!」
妹紅は既に臨戦態勢入っており、今にも噛みつきそうな勢いだ。
「妹紅落ち着け!紫殿、今はこんな無駄な争いをしている時ではない。慧吾と早苗のデートを邪魔しないでもらいたい」
「例えお母様でも今の私は止められませんわ」
「だからお母様と呼ばないでくれと……!」
「慧吾君の
興奮した様子の紫の頭はもう
「紫殿もダメか……文!急いでこのことは霊香殿に伝えてくれ!!」
「わかりました。私の速さを舐めないで……あやっ!?」
「どうした射命丸!?」
慧音は紫達はもう駄目だと判断し、頼みの綱である霊香がいる博麗神社へ向かうように文に伝える。幻想郷の中で最速クラスの文ならば博麗神社まで数秒で到着するはずなのであるが、飛び立とうとした文だが急に動きが止まってしまった。これに慧音と神奈子は文の視線の先に結界が展開されていることに気づく……正確にはこの一帯付近を囲むように張り巡らされていた。結界を仕掛けたのは勿論紫である。藍の茶番劇に皆が夢中になっている時に仕掛けた結界であった。面識ある慧音や妹紅に文が居るのに何の対策も無しに対峙するなど妖怪の賢者(笑)に抜かりはない。
恐れていた。霊香や霊夢に知られれば必ずしも後でみっちりと
「ゆかりんを舐めてもらっては困りますわお母様、私が誰かお忘れですか?妖怪の賢者ですよ」
「違います。紫様は妖怪の賢者(笑)です。(笑)が無ければそれは紫様ではありません」
「うっさいわよ藍!横からちゃちゃ入れて来るんじゃないわよ!!」
「くっ、姑息な手を!!妖怪の賢者が呆れるわ!!慧音、紫は私が相手しよう。何とか結界を壊して霊香とか言う人物を呼ぶんだ!!」
「させませんわ!」
「通さんぞ!!」
紫と神奈子が弾幕ごっこ(物理)を開始した。それを機に妹紅や諏訪子も動き出す。妹紅は妖夢と諏訪子は藍と攻防戦を繰り広げ始める。
「文、悪いが結界を壊すのを手伝ってもらえるか?」
「そうしたいのは山々ですが……相手をしないといけないようですよ?」
「……そうだったな。結界を壊す手間も与えない算段か」
そして慧音と文の元にも刺客が現れた。
「私はケイ君の幼馴染です。だから将来のお嫁さんは私です。なので、先に処女喪失しても何も問題はないと言うことです」
「問題大ありだ!絶対に慧吾は守ってみせる……いつもは教師だが、今は母親として慧吾に危害を加えるお前にはみっちりと教育してやらないといけないようだ!」
「慧吾様はお守り致します。この十六夜咲夜が命に変えても」
「咲夜さん自身が慧吾さんを危険に晒していると何故わからないのでしょうか?考えれば簡単なことなのに……あやや、恋は盲目と言いますが……これでは目だけでなく耳もダメになっているではありませんか」
小鈴と慧音、咲夜と文……結界のおかげで妖怪の山自体は静かであるが、中では熾烈な激戦が始まっていた。
------------------
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………天気がいいな」
「………………………………………………そうですね」
「………………………………………………こんな天気のいい日に散歩できるなんてラッキーな日になりそうだ」
「………………………………………………そうですかね」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
あかん、思った以上にこれはあかんぞ。早苗の為に気合いを入れデートプランを考えてきたが呆気なく砕かれちまった。嫌々なのは知っていたが、ここまで塩対応されるとやはり心に来るものがある。少しでも笑顔になってもらおうとしても下手に刺激するとまた発作を起してしまう可能性がある。男なら度胸と言うかも知れないがこういう子は繊細な扱いをしてあげないと取り返しのつかないことになるかもしれない……何とかいい方法が無いものか模索しているが現状はただ散歩と言う名の時間稼ぎにしかならなかった。このままでは平行線……何か無いか、何か早苗の心を開く出来事が!!
慧吾は焦りが見え隠れし、考えていた以上に早苗の壁は分厚く壊すことも乗り越えることも困難らしい。それでも諏訪子との約束を思い出して思考を凝らすが時間だけが過ぎていくのに緊張が高まっていく。このままでは何も変わらぬ辛い底沼へと彼女は沈んで行ってしまうだろう……それだけで済めばまだマシだが、今回の件が彼女の壁を更に分厚くしてしまうかもしれない。望まぬデート、早苗の為だと企画した計画が仇となりその内、身内の二人も信用できなくなってしまうことにでもなれば最悪の事態へと向かってしまう。だから今どうにかしなければならないと彼は奮起していた。
ガンッ!!
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
しかし突如として不明な出来事が二人を襲った。距離を保ちながら二人は歩いていた矢先に衝撃を感じて尻もちをついてしまう。何かしらにぶつかった感触があった。痛みはなかったが、いきなりのことなので驚いてぶつかった何かを見てみると……
「……壁?」
外の景色が見えるが、ガラス越しに景色を見ているようで幾多の漢字が壁に浮かび上がり、来るもの出るものを拒んでいた。それがいつの間にか見回すと辺り一面を覆っていた。
な、なんだこれは!!?霊夢が時々霊香さんに稽古をつけてもらっていたのを見たことがあったが、その時の結界とよく似ている。
これは紫が創りだした結界であった。慧音達を逃がさないつもりで結界を張ったのだが、あろうことか慧吾達も巻き込まれてしまっていたのだ。二人は影で行われている死闘を知らない……親である慧音達が隠れていることは薄々わかっていたが紫らが居るとは夢にも思うまい。
御袋達が見守ると言っていたから付いて来ているだろうなとは思っていたが、これは御袋達の仕業な訳がない。すると諏訪子さん達か?いや、そうとも考えにくい……誰だこんな結界を張ったのは!?妙に嫌な予感がビンビンと俺の危機管理レーダーに反応している。とにかくここから離れた方がよさそうだ。
影で何か得体の知れないことが行われていると感じ取った慧吾は嫌な予感がした。すぐさまここから離れるべきだと考え早苗と避難しようとした。
「あっ……あぁっ!!?」
だが様子がおかしい。早苗は慧吾から逃げるように後退り恐怖を孕んでおり、その矛先は慧吾に向いている。自身の身に憶えはなく、彼女に何かしたわけでもない。考えられたのは結界による空間の遮断によって逃げられない状況に陥ったことによる恐怖心が刺激されたことだ。早苗には結界についての知識を持っていたことで自分の置かれた状況をいち早く理解することが出来てしまった彼女は男と二人っきりの空間に閉じ込められたと勘違いをしてしまった。しかも早苗の脳内ではこの状況を引き起こしたのは親代わりである諏訪子と神奈子の仕業だと誤認してしまう。早苗も薄々二人が後を付けているのではないかと予測していたことが悪い方向へと今回は向かってしまった。
無理に決められたデートによる極度のストレスで早苗の思考能力は低下、トラウマの男が傍におり、進展しない仲を縮めようと結界を展開して密室状態となった空間に閉じ込められてしまった……そう解釈してしまったのだ。それも親だと思っていた二人によって引き起こされたと。当然勘違いなのだが、今の早苗はそう思い込んでしまっている。何を言っても聞く耳を持つことはない。
「(諏訪子様も神奈子様も信じていたのに!?お二人の為だと我慢しているのに……私のことを信じて任せてくれているんじゃないの!!?)」
いつも優しく接してくれた二神の姿が今では崩れたガラスの破片となる。乗り気ではなかったこのデート、嫌々ながらも諏訪子と神奈子の為だと付き合い我慢した。二人の為に我慢すればいいだけ、二人の為に頑張ろうとした矢先に無理やりに押し付けられた状況に精神はまともな反応はしてくれない。寧ろ逆だ。親切心で行ったことが怒りをかった憶えはないだろうか?今の早苗の精神は些細なことでも敏感に感じ取り、扱いを間違えれば壊れてしまう。それが早苗にとって裏切られたと思い込む原因となってしまったのだ。
「(もういやだ!!?)」
早苗は逃げ出した。出口があるなんて思えないが、とにかく逃げたかった。誰も信用できなくなっていた……誰も。
「そっちは危ないぞ早苗!!」
声が聞こえたが信じない。寧ろ男なんて……
「――ッえ!?」
止まらなかった。早苗は逃げたい一心で制止を振り切りただがむしゃらに走った……が急に体が
「(……もういいや。諏訪子様も神奈子様も私を信じてなかった……誰も信じられない。もう私は……いなくていいのかも……)」
痛いのも苦しむのも嫌だった。生まれてからこの方周りの人間から変人扱いを受け、信じていた男にも裏切られる。最愛の家族の為だとこのデートを受けたが結局自分のことを信じてくれなかった失望……様々な混乱が混じり合い早苗の心は黒一色で染まる。このまま落ちてしまえば良いとさえ思った。閻魔様が待っている場所に逃げてやろうと……
ドシンッ!
強い衝撃を受けたが、痛みはなく暖かかった。何かに包まれている感覚が全身に伝わっている。
「………………………………………………えっ?」
早苗の体に傷はつかず、汚れ一つもなかった。代わりに赤い液体が目の前の男の額から流れ出ており、その姿を捉えてしまった彼女は声を漏らした。
「キョトンとするな……よ。彼女を守るのは……彼氏の役目……だろ……?」
そう言って