それでは……
本編どうぞ!
「母ちゃんまだかな……」
「もうちょっと待っていなさい」
「でも……慧吾がもし妖怪におそわれていたら……!」
「慧音がついているから大丈夫だ」
「うぅ……」
そわそわ落ち着きがない霊夢は何度も慧吾のことを気にかけている。そろそろ来る頃合いではあるがまだ博麗神社に姿を見せてはいない。これほどまでに一分一秒を長く感じることはなかったであろう。そんな落ち着きのない状態の霊夢を霊香はそっと頭に手を添えて優しく撫でてあげる。
「大丈夫よ霊夢、慧吾君は必ず来てくれる。彼を信じられない?」
「そんなことない」
「なら信じなさい。あの子は約束を破る子じゃないわ」
「……わかった」
「えらい子ね。霊夢悪いけどお茶の用意をしておいてくれる?」
「うん」
先ほどまで不安そうな表情は消え失せてお茶の用意をするために奥へと走って行った。その後ろ姿が見えなくなった後にため息をついた。ため息は霊夢に対してではなく、スキマからひょこっと顔を出す紫と藍に対してだった。博麗神社を訪れる男……慧吾のことを味見……観察するためにこの二人は留まっていた。しかし霊香の話にはまだ半信半疑なところもある。もしあった瞬間に吐かれでもしたら立ち直れないだろうからこうして自身の姿をスキマに隠しているのだ。
「紫、普通にしてろ」
「でも……私達を見たら吐いちゃうんじゃないかしら?」
「そうですね。紫様の顔は特に酷いですからね……まるでイボガエルのようですから……おっとイボガエルの方が可愛そうですね」
「はぁ?殺すわよ藍」
「プッ!私が居なくなったら家事ができない紫様が途方に暮れる姿を想像するのは容易ですことですね♪紫様おいたわしやぁ~♪」
「おいクソ狐、今すぐにぶっ殺すわ!」
「ならば抵抗させていただきます。私は男と交尾するまで逝けませんし、
「無駄なことよ……交尾なんて一生できずに干乾びて死んでいくのがオチだわ。今すぐに私が楽にしてあげるわよ!!」
「紫様はもう干乾びていますよね?おかわいそ~に♪」」
「なぁんでぇすってぇえ!!?」
「うるさいぞあんたら!!」
ゴンッ!ゴンッ!
綺麗なタンコブが二つ出来上がった。
「痛いじゃないのよ霊香!少しは手加減しても……あらぁ!?」
「いつつ……紫様どうかいたしました………………んなっ!?」
「……来たようだな」
視界の端に影を見つけた紫と藍の視線が注がれた。そして驚いた……霊香もようやく来てくれたとホッと息を吐いた。
「どうも博麗の巫女様と
話の中心人物である慧吾と親の慧音が博麗神社へとやってきた。
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人里からそれなりに離れた場所に一軒の神社が建っている。しかし何段にも及ぶ石造りの階段を登り切らないと神社にはつかないようだ。慧吾は下から神社を見上げる形となり、視界に入って来るのは鳥居だけで神社そのものは見えていなかった。だが、慧吾はまだ5歳で子供の肉体から見たらこの階段は崖のように感じられる。
子供の体で……しかも5歳児の肉体でこの階段を登らないと神社につかないのかよ。ここまで来るにも整備されていない道路を何分もかけて歩いてきたと言うのに……隣に居る御袋から聞いていたんだけどよ、参拝客が来ないらしい……不細工がどうこうよりもここまで来るのが大変過ぎるんだよ。これじゃ参拝客なんて来ないわなぁ……老人や幼い子供にはきつい道中であるために賽銭箱の中身はほとんど空だと教えられて納得だ。誰も来ようとは思わん……だが、俺と御袋はやってきた。約束したからな。
「慧吾は疲れてないか?体調はどうだ?私がおんぶしてやるぞ?」
御袋過保護過ぎるぜ。だが、悪い気はしねぇ……だが、俺の肉体は子供であるが少々体力も他の子供と同じと思うなかれ。こう見えても日ごろ勉強だけでなく運動もしているから体力もある。この階段も丁度いい運動になりそうだな。自分の足で登ってみるか……
「大丈夫だ御袋、俺は自分の足でこの階段を上りきるぜ」
「……そうか」
親である慧音の心配を嬉しく思い、それでも手は借りないと断った。そしたら慧音の方は何故か少し元気がなくなったようだ。それを不審がる息子……
「どうした御袋?」
「いや……なんでもない。慧吾をおんぶしたいとか、おんぶした時の背中に感じる我が子の温かさを感じてみたいとか、疲れた子供をおんぶして自分の子供に憧れの眼差しで見られたいとかそんなことは決して思ったなんてことはない……そうだとも……思ったことは無いのだ……だからなんでもない……なんでもないんだ……」
途中からドンドン暗くなっていくのが目に見えていた。そして口から本音が全部洩れていた。
なんでもないって口から全部出ているじゃんか御袋……それなら素直に言ってくれれば良いのによ。だが、おんぶされているところを見られるのは流石に恥ずかしいな……まぁ御袋は俺を何度も抱っこしてくれたし我が儘を聞いてやってもいいかな……途中までならおんぶされてもいいな。
「ん」
「?どうした慧吾?」
慧音に向かって手を伸ばしている慧吾の姿を見てポカンとしてしまった。慧吾の行動の意味が理解できずに聞き返すしかできない。慧吾の方は子供が親に向かっておんぶしてくれとねだる仕草を表現したのだ。子供が親に甘えたい時に見せるものだが、慧音の方がわかっておらず沈黙の間が訪れる。
「……おんぶしてくれないのか?」
「――ッ!?い、いいのか!?お、おんぶ……おんぶをしてもいいのか慧吾!!?」
クワッと瞳が見開いて鼻息が荒く激しい呼吸音が響く。その姿は傍から見れば子供に欲情する変態にしか見えないが慧吾の優しさに触れて興奮しているだけなのであるが、慧吾から見ても今の慧音の姿は、だらしない表情に若干頬を染めているのもあってどう見ても変態にしか見えない。
……まぁ御袋が喜ぶなら少し我慢しよう。だが、鼻息を荒くしてそのトロリとした顔は変態にしか見えないからやめろよ……息子に興奮する変態の息子とか噂されたら俺引きこもるからな。
その後、興奮しながら我が子を背負う慧音に慧吾は引いていた。一歩一歩階段を上る度に慧音が「いい♪いいぞぉ♪」と呟く慧音に耐えきれずやっぱり途中で下ろしてもらい自分の足で歩くことに……慧音の興奮が一気に冷めてしまったのは言うまでもないが。
そして鳥居の手前までやってきた親子の視界に入って来たのは何やら口論する声とタンコブが目立つ女性達。そして博麗神社の巫女である霊香がいた。霊香達は慧吾達に気づいた様子で傍にいた女性達は更に驚いた表情をしていた。
知らない人がいるな。御袋が隣にいるし、粗相のないように挨拶しないと御袋の顔に泥を塗ってしまうな。
慧吾は見知らぬ金髪女性達の前まで歩く。驚いた表情のままの金髪女性は慧吾から一瞬たりとも視線を逸らさず見つめていた。その二人も霊香とも競い合える程の美人で少々慧吾でも照れてしまう。それでも御袋のためにと頭を下げて自己紹介をする。
「どうも博麗の巫女様と
慧吾は自然と口にした。ただ自己紹介をしたつもりであったが、その瞬間に周りの空気が変わった。この場にいる慧吾以外の全ての存在の時が止まったように固まった。一体どうしたと言うのだろうか?慧音ですら驚いた表情で固まっていたのだから慧吾は訳がわからない。
ど、どうしたんだ?俺は何かまずいことでも言ってしまったのか……?
そう思った時だった。いきなり慧吾の肩をがっしりと掴む手があった。左と右の肩それぞれに傷一つない見るに堪えないマニキュアでも塗ってあるかのような光を反射する程の輝きを持った爪も印象に残る。そんな手に掴まれており、それぞれ別の人物の手であった。その手は目の前に居た美人な金髪のお姉さん達のものであった。
二人共金髪で煌びやかな綺麗な髪だなと慧吾はそう思った。片方は頭には角のように二本の尖がりを持つ帽子を被って腰からは金色の尾が九つ生えていた。そしてもう一人は毛先をいくつか束にしてリボンで結んでおり、二人共、慧音や霊香にも負けぬ大きな果実を備えていた。それが目の前にあるのだからドキリッと心が跳ね上がりそうになるが違和感を覚える。金髪女性の瞳の中に炎が目に見えて息も荒く触れている手が熱く感じるのだ。普通の状態じゃないと感じ取れる……
「な、なんですか……?」
流石に不安になった慧吾は恐る恐る聞いてみる……
「「私達と子作り(交尾)しましょう」」
「はっ?」
「「どぅえええええええええいいッ!!!」」
金髪女性らは霊香と慧音の鉄拳によってバウンドしながらボロクズのように境内に転がった。弾かれた地面にひびが入っている……並みの攻撃ではなかったようだ。突然のことに反応が遅れたが我に返った慧吾だった。
「ちょ、霊香さん何を!?御袋も何やってんだよ!!?」
なんでこの人達いきなり顔面に鉄拳制裁してるんだよ!?いや、確かに不安は感じたが……まさか子作りって……もしかして俺の童貞狙われていたのか!!?そうだとするとこの金髪二人組は捕食者かよ!!?
身の危険を感じた理由がわかった慧吾は咄嗟に慧音の後ろに隠れてしまう。流石に慧吾でも怖いものは怖い……霊香に睨まれた時とはまた違う恐怖を感じたのだった。そして恐怖を与えたボロクズがムクリと起き上がったが、顔面が鉄拳制裁によって埋もれて元が誰だかわからない状態になっていて更にまた恐怖を感じさせた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
「紫の言いたいことはわかるが、顔を直してから喋れ」
霊香がそう言うと金髪女性の顔は一瞬にして元通り吹き出物一つない整った顔に戻った……一体どうなっているんだ?
「ちょちょちょちょちょっと今の聞いた!?ねぇ霊香も聞いたでしょう!!私のこと
「紫様、少し違いますよ。それは紫様に対してではなく、私に対して言ったのです。ですので紫様はブスです」
「はぁ!?藍あんたの耳は節穴なの!?私に向かって
「遂に現実と妄想の区別がつかなくなりましたか可哀想に……ですが安心してください。私はこの子と結婚して沢山子供を産んで紫様の墓にお供え物をして差し上げますから」
「私は正常よ!!それに勝手に殺してんじゃないわよボロ雑巾みたいな顔しやがって!!」
「たとえ紫様でも私の幸せの邪魔はさせません!この妖怪
「自分の主に向かって何よその口の利き方は!?表に出なさい!!」
「既に表です!!思考能力低下とは歳ですねおいたわしやぁ~!」
「なにをぉおおお!?ぶっ殺すわ!!」
「紫様ご覚悟を!!!」
「あ・ん・た・ら・う・る・さ・い!!!」
ゴンッ!ゴンッ!
「ごほん……いきなりごめんなさい慧音それに慧吾君……紫と藍の奴が迷惑をかけちゃって」
「い、いえ……大丈夫です」
俺は大丈夫だったが、あの金髪女性×2は大丈夫なのだろうか……地面に顔面から減り込んでいるんだが……?
「慧吾大丈夫か!?変なことされてないか!?舐められたりちゅっちゅされたりしてないだろうな!?」
御袋心配してくれるのはありがたいが落ち着いてくれ。御袋だって見てただろうが……まぁ、呆然と立ち尽くしていたのはわからなくもないけどよ。それにしても美醜逆転世界で初対面の相手に正直に
紫と藍は慧吾から見たら美人の中でも上位の部類であった。つい正直に
慧吾だって5年この世界で生きてきた。中には子供相手であってもおねショタプレイを望む変態が居たりした。自身の童貞を守るためにそれなりの対処法も身に付けたし、相手とどう接すればいいかも学んだが慧吾だって人間だ。思ったことを正直に言ってしまうことだってある。それに目の前に美人と言う言葉を形作ったような人物に出会えばそう口に出してしまうのも無理はなかった。しかし今頃傍に霊香と慧音が居なければ獣娘と化した二人においしくいただかれてしまっていただろう……心の中で霊香と慧音に深く感謝した慧吾だった。
「大丈夫だ御袋、それよりもあの二人は大丈夫なのですか?」
「ああ、紫はああ見えても妖怪の賢者と言われているし、藍の方も優秀な式神だから顔の一つや二つ潰れても問題ない。いや、寧ろ醜い顔が無くなったらラッキーか?」
霊香さん恐ろしい発言するじゃねぇかよ……血の気が引くわ。
ぶるりと霊香の発言に体が密かに震えていた慧吾。そんな時、トコトコと神社の建物の奥から誰かが歩いて来る音が聞こえてきた。
「なにさっきのおとは……あっ!?慧吾!!」
その音の正体は霊夢であった。慧吾を見つけるやいなや靴も履かずに慧吾に駆け寄った。
「慧吾きてくれたんだね!」
「ああ、霊夢に会いに行くって約束したからな」
「えへへ♪」
霊夢は心から嬉しそうに笑顔を作っていた。霊香は霊夢が自分以外にこれ程の笑顔を見せたことがなかったため嬉しそうにしていた。自分の娘の笑顔を見れて安心なのだろう。
「そうだこれお土産だ。甘いおはぎだから霊香さんもどうぞ」
「やったー♪」
今まで男しかも同じ歳の相手から贈り物をされたことがなかった霊夢はおはぎの箱をギュッと抱きしめた。その拍子に箱がぐしゃっという音がしたが、喜んでいるので良しとしよう。その様子を見ていた霊香も頷いて娘の喜ぶ姿を見れて感謝しているようだった。
「ありがとうね慧吾君。それにしても慧音に息子が居たと知った時は驚いたぞ?」
「すみません、色々と子育てと寺子屋を両立しながら忙しい毎日を送っていたらいつの間にか5年も歳月が過ぎていて……慧吾を紹介する機会がなくて……」
「子供を持てたことで嬉しかったんでしょうが。舞い上がってそれどころじゃなかったんでしょ?」
「……その通りです」
「まぁ私だって霊夢を拾ってから子育てに忙しかったから慧音のこと言えないがな」
霊香は苦笑いをする。お互いに子育てで忙しく構っている暇などなかったのだ。それにこの世界基準で不細工に相当する二人が子育てに夢中になってしまうのは仕方ないことだった。我が子に嫌われたくないし、子供を胸に抱けるというのがどれほど女にとって憧れを抱くのか想像を絶するものだ。
「ねぇ、慧吾あがって!慧音もゆっくりしていってね!」
「お邪魔させてもらうが、その前に霊夢の足袋が汚れているぞ」
「ほんとうだ!」
慧吾が来てくれた嬉しさに足袋が汚れてしまうことなど眼中になかった。慧吾は霊夢の手を引いて裏手に向かうことにした。
「霊香さん、ちょっと桶か入れ物をお借りしてよろしいですか?霊夢の足袋を洗いたいもので」
「え!?い、いいよ……慧吾があらわなくても」
「そのまま家に上がったら汚れるだろうがよ。早く履き替えて汚れた足袋をかせ、洗ってやるから」
「う、うん……」
ゆっくりと足袋を脱いで慧吾に渡す……慧吾本人はただ縁側が汚れてしまうのを防ぎたかっただけに過ぎなかったのだが、霊香と霊夢からしてみれば男の人に衣服を洗ってもらうなんて夢のようなことだった。この世界の男は不細工な女性に触れられただけで衣服を燃やしてしまうことだってあるのだから。しかも人のにおいが直に現れる足袋を洗うと言うのだ。男に自分のにおいを嗅がれてしまう……霊夢は恥ずかしくて顔を赤く染めてしまう。だが、慧吾は気づかない……否、いつも親である慧音が宿題などで忙しい時が多々ある。慧吾は少しでも親孝行をしたいので家事洗濯は全て慧吾が受け持っている。ので、いつもの大したことのない作業だと認識していた。
「(慧吾にわたしのにおいをかがれちゃう……でもそれも……いいかも♪)」
慧吾の背中に熱い視線が注がれていたことなど慧吾自身は気づくことができなかった。
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「どうも、上白沢慧吾です」
「母の上白沢慧音です」
「ご丁寧に。私は八雲紫です」
「式の八雲藍です」
博麗神社を訪れた慧吾と慧音はテーブルを囲って改めて自己紹介をしていた。慧音は八雲紫と八雲藍とは噂で何度も耳にした名で、噂通り酷い顔であった。どちらも肌がツヤツヤでとても輝いていて吐き気を覚えそうだったが我慢した。自分も人のことなど言えないからである。
慧音が見渡すとそこは正に人外魔境……向かいには妖怪の賢者とその式、斜め向かいには博麗の巫女がいる。今の状況を見た里の人間が居たならば後悔と言う言葉が似合う。不細工が集まり向かい合う姿に吐き気を覚え下手をしたら失神してしまう程の光景なのだから。これだけ醜い顔の連中が溜まる……だから博麗神社に誰も近づこうとしないのだ。わざわざ醜い女たちと仲良くしたい男など誰もいない……慧音も寺子屋の教師であっても男と会話することなんて人生に数えるだけで、あったとしてもそれは子供相手だ。純粋に男と向き合う機会はなかった。ここにはそんな連中ばかり……しかし今の慧音には天使のような存在が傍にいてくれるおかげで妖怪の賢者と呼ばれる八雲紫よりも優位に立っている自分の立ち場に少し鼻が高くなってしまう。正確には慧音と霊香のことだ。二人には血は繋がっていないが子供がいる……自慢の我が子が。
チラリと慧音は隣に座っている慧吾を盗み見る。
慧吾は礼儀正しいし、相手のことを思いやる本当にいい子に育ってくれたな♪私は……とても誇らしいぞ!
息子の慧吾が隣に座っている。慧吾は不細工な女性に罵倒など浴びせることもせず、嫌な顔もしないで優しく接してくれる。そして偶然出会ったのが霊香の娘である霊夢だ。霊夢はそんな慧吾を気に入り、今でもちゃっかりと慧吾の隣をキープしている……ほぼ密着状態並みに慧吾に近寄っていて、あまりにも近くないかと慧音は思ったが、慧吾が何も言わないので良しとした。
「二人共こんなところに来てくれたんだが本当に大丈夫か?」
「霊香殿?私と慧吾がここへ来たのはまずかったか?」
「ああ……いや来てくれたのは嬉しいんだけど……ね……」
霊香が言いにくそうにしていた。慧音はそんな霊香の様子を窺っていると何を言いたいのか気づいた。
霊香殿は慧吾が我慢しているんじゃないかと思っているのか。それも無理はない、いきなり何のためらいもない様子で人外魔境の輪に自然と溶け込んでいるのだからそう疑ってしまっても仕方ないのかもしれない。だがそれは違う霊香殿、慧吾は我慢なんてしていないのですから。
霊香は慧吾のことを知らない。優しい子であることは見ていてわかる。だからこそ今のこの人外魔境となっている檻の中に一人だけ男が放り出されている状態で不細工に囲まれているのを我慢しているのではないかと思っているのだ。霊夢の目も気にしてかしきりに霊夢に視線が移っているのを慧音は見逃さなかった。言葉を濁していて聞くのが怖いのだろう。もし「我慢してます」と言われたらショックだろうから……空気が重くなりつつある状況でそんな霊香を見かねて言葉を発したのは紫の方だった。
「ねぇ、慧吾君は私達を見てもどうとも思わないの?もしかして……私達って
いつもは見せない不安そうな表情の紫を霊香は見た。落ち着きを取り戻した紫はさっきの言葉は脳が勝手に良いように捉えた幻だったのではとも思えたのだ。それもそうだろう……見ず知らずの男の子が何十年、何100年、何千年とブスだの醜い妖怪だの色々と言われて来た中でいきなり「綺麗」と言うのだから幻覚に見えても仕方ない。だからこの状況が現実なのか少し不安であった。だが、返って来た答えはやはり……
「……正直に言うと俺から見た紫さん、藍さん、霊香さんはとても美しい美人に見えます」
「「「――ッ!?」」」
息を呑んだ。彼女達は男から一度も綺麗と言われたことなどなかった。たとえそれが相手が子供であっても心にグッと来るものがあった。霊香は薄っすらと涙が浮かんでいたし、紫は鼻息が荒々しくなり、藍に至っては女性がしてはいけない顔になり昇天していった。
「霊夢のことはかわいいっていわれたもん!」
霊夢は慧吾にかわいいと褒められたことを自慢する。次世代の博麗の巫女であってもお年頃の女の子には変わりない。親である霊香はともかく紫や藍が褒められることを良しとしなかったのだろう。ぷくっと頬を膨らませている霊夢は紫と藍を睨む……綺麗と言われた二人は霊夢に構っている暇などなく霊夢の抗議は右から左へ受け流されていた。
霊夢もまだまだ子供ってわけだな。霊夢は慧吾に夢中のようだし……む、待てよ……そうだ!
慧音は突如閃いた。
「霊夢、もしよかったら慧吾と友達になってくれないか?」
「なんだよ御袋いきなり?」
「慧吾、お前には友達がいないことは知っている。だが、丁度いい相手が居たと思ってな」
霊夢を見た。慧音は我が子の友人関係に悩んでいた。慧吾はその性格や己のプライドなのかがあり、友達になれる相手がいなかった。いつも慧吾があしらって友達になろうとしなかったからだ。だが、霊夢を見ていると慧吾との仲は良好の様子で仲良くなれそうだと判断した。慧音は慧吾に友達を作ってもらいたかったのだ。我が子に友達が一人もいないとそれはそれで寂しい……親の心配事だったから。
そのことを聞いた霊夢はパアッと笑顔になり、ぴょんぴょんと飛び上がりとても嬉しそうにしていた。
「わたし慧吾とおともだちになる!なりたい!」
「ほら、霊夢もこう言っているんだし慧吾には友達が必要だぞ?」
「過保護だぞ御袋。まぁ……別に嫌じゃないからいいけどよ」
「やったー♪」
ニコニコと笑っている霊夢を見ていると寺子屋の子供達と相違ない年頃の少女であった。将来博麗の巫女になるとしても内面はただの女の子であると慧音は改めて実感した。慧音は慧吾に信頼できる友達を作ってもらうだけでなく、霊夢のことも考えていた。霊夢にも一人友達がいるのだが、霊夢は霊香が引退したら博麗の巫女となる。博麗の巫女になれば周りからあらぬ噂の対象になってしまう。霊香も一時期それで鬱になった時もあった程だ。子供だからそこまでわからないが、嫌でも歳を取ればわかってしまうこと。霊夢のためにも心の支えが一つから二つになった方が安心できると思ってのことだった。
良かったな霊夢。霊香殿にも友達が居れば良かったのだが……居なかった。だからこそ霊香殿のように苦しむ姿を霊香殿と同じく私も見たくないのだ。
慧音は視線を霊香に向けると微笑みながら頭を下げた……感謝の表れだ。
「霊夢、慧吾君と一緒に遊んでおいで。母ちゃん達は大人の会議があるから」
「はーい!慧吾きて!」
「御袋また後でな。おいおい走って転ぶなよ?」
バタン!
「いたーい!」
「だから言わんこっちゃない」
男である慧吾と女でしかも不細工であるはずの霊夢が一緒にいる姿を見ていると感慨深くなってしまう霊香と慧音であった。
「ぐふっ……えふぅ!フヒヒひひひひひぃ♪」
慧吾と霊夢がいなくなった空間に突如として不気味な笑い声が耳に入ってきた。聞いているだけで背筋が凍えそうになる……その声の主は……
「ゆ、ゆかり……殿?ど、どうしたのだ?」
慧音は俯きながら不気味な笑い声を発する紫に声をかける。肩が震えて俯いているが、その表情はきっと歪んでいることがわかるぐらい気持ちの悪いオーラが漂って来る。ひとしきり笑い声を発した後、突然顔を上げた紫の表情は煌々として希望に満ち溢れていた。
「なにあの子!?私達を見ても綺麗ってハッキリと言ったわよね!?どういうことなの!!?ゆかりん超うれぴーなんだけれど!!!」
う、うれぴー?嬉しいのことだと思うが……紫殿の言う通りどういうことか疑うのも無理はないな。
「……もしかしたら伝説の
霊香がボソッと呟いた言葉に聞き覚えがある慧音。
霊香殿も私と同じ考えに至るようだが、慧吾はハッキリと否定した。慧吾には嘘偽りなく私達のことを綺麗だと認識している様子だった。そうなれば私の中で慧吾が私達のような本来不快に思う容姿を綺麗だと言ったのは……おそらく……!
「霊香殿、それは違う。慧吾はそうでないと否定している。私も同じ考えに至りましたから」
「じゃあ彼は何故私達のことを綺麗だと言ったんだ?」
「あくまでこれは私の考察ですが……慧吾の中の美醜感覚が逆転しているのではないかという結論が出ました」
「美醜逆転……確かにそうだとするならば私達のことを綺麗だと言ったのは紛れもない本心と言う訳だな」
「そう思います」
慧音の考察は当たっていた。しかし逆転しているのはこっちの世界の方なんだが、彼女らにとっては慧吾の方が逆転している発想になる。
「でゅふふ♪それが本当なら私のこの膨れ上がった乳は慧吾君にとって甘い蜜と言うわけね!」
「ゆ、ゆかりどの?」
だらしない表情の紫が自らの胸を寄せて上げる行為をしている。ボヨンボヨンと弾む肉の塊は醜悪さを表して耐性の無い者が見れば即リバースしていたが、ここにいる全員醜くて助かった。だがもしもこれを見たのが慧吾ならば興奮してしまうこと間違いないだろう。
「美醜逆転とかおとぎ話の中だけだと思ったけれどこれは神様が私達に与えてくれた幸福よ!早速慧吾君にゆかりん永遠の17歳の魅力を伝えないと!!」
「紫様、私も共にお供します。共に慧吾殿の初物を頂いて人生の頂まで昇天しましょう!!」
「それでこそ私の式よ!相手が子供とか関係ないわ!愛に歳の差なんて意味をなさないもの!!」
鼻から息が噴出し己の使命をまっとうしようと意気込んでいる。そんな紫達を見て警戒を露わにする慧音はムスッとした顔をしていた。
「紫殿、親である私が目の前にいるのにその発言はどうかと思うぞ?」
「お母様、紫はこれより処女を散らせていただきます」
「ダメに決まっているだろ!?それに自然とお母様とか呼ばないでほしい!!」
「大丈夫ですよ。先っちょ少し入れてズボズボするだけだから!!」
「もっとダメに決まっているだろ!!」
慧音は暴走する紫と藍を止めようとする。だが、霊香や慧音のように自ら生んだ子供でないにせよ、子供がいるのといないのとでは性欲に対する免疫に違いが出る。今の紫と藍は獲物を狙うハンターであった。
「慧吾君~♪私の膣の中に慧吾君の遺伝子を植え付け……!?」
「もれなく私とも毎日交尾できる特典付き……どうしました紫様……はっ!?」
紫と藍は息を呑んだ。二人の視線が霊香に向けられて固まっていた。慧音もこの空間の空気が一瞬にしていてついたのを肌で感じた……恐る恐る首を向けると鬼の形相をした霊香が立っていた。
「あんたら……今日なんど同じことをすれば気が済むのかしら……!」
「「……すみませんでした……」」
……やはり霊香殿は凄い!あの妖怪の賢者とその式を黙らせてしまうだなんて!
慧音の中で霊香に対する憧れが更に強くなり、紫と藍は霊香にみっちり説教される羽目になったとさ。