峯山基地を出発した菊月は真っ直ぐに舞鶴へと向かっていた。この菊月が大本営の所属である事はある程度の階級の人間であればひと目見ただけで分かるため、目立たずに行動したいのではあれば、普通は舞鶴のような多くの人間が集まっている重要な基地には近づこうとしないであろう。しかし、菊月がそこへと向かう理由……それは、ある人物に会うためであった。その人物の名は
「ここに来るのは久しぶりだな……」
舞鶴鎮守府にたどり着いた菊月は、バイクを降りてそう呟くと、鎮守府の入口へと歩き出した。
「すまない。岡田中将にお会いしたいのだが」
菊月が鎮守府の入口に立っていた門番にそう尋ねると、門番は菊月を見て不思議そうな顔をする
「君は艦娘か?所属は?」
門番がそう言うと、菊月はポケットに入れていた階級章を見せる。すると門番は慌てて道を開けた。
「少佐!?し、失礼しました!どうぞ中へお進みください!中の受付にお話下されば、中将の元へとご案内します」
門番がそう言うと、菊月は軽く礼を言ってから扉を開けた。
「いらっしゃいませ。当鎮守府にどの様な御用でしょうか?」
「岡田中将にお会いしたい。事前に峯山基地より連絡が行っているはずだ」
「畏まりました。只今確認いたします」
そう言うと、受付の女性は電話の受話器を取って何処かに電話を始め、電話が終わると、菊月の方を向いた。
「ただいま案内の者が参りますので、少々お待ちくださいませ」
女性の言葉に、菊月は一言「わかった」とだけ言ってその案内人を待った。
「お待たせしました」
菊月が暫く待っていると、一人の軍人がやって来て菊月に声をかけた。
「私は、
「『駆逐艦』菊月。少佐です」
神馬が敬礼すると、菊月にもそれにならって敬礼をする。そしてお互い挨拶をしてから歩き始めた。
「あの、神馬少佐……何やら空気が張り詰めているような………」
この鎮守府についてからずっと感じていた何とも言えない雰囲気が気になった菊月が神馬に尋ねると、神馬は微妙な表情を浮かべる。
「いえ、大した理由ではないですが、佐世保鎮守府をご存知ですか?」
「ええ、最近新しい指揮官が配属され、何とか持ち直しているとか」
「はい、実は先日その鎮守府と演習がありまして……」
そこまで言った神馬は少し言いづらそうに言い淀む。そんな神馬を見た菊月は口を開いた。
「負けたのですか?」
「はい……それも切り札である武蔵を投入しての敗北ですから……当然この鎮守府は大混乱でした。そして、その指揮を取っていた木川大尉の指揮能力の有無に関して疑問を持つ者達も現れています」
「岡田中将はなんと?」
「中将はその件に関しては言及しておりませんが、内心お怒りなのではないかと……」
「そうですか……」
二人がそう話していると、前から長い白髪の小柄な女性と小太りの男性が歩いてきて、二人の前まで来ると横にそれて敬礼をした。
「「お疲れ様です!」」
横にそれた二人の軍人は目の前を通り過ぎる神馬と菊月に挨拶をする。そして菊月が通り過ぎる瞬間、菊月は小太りの軍人と目があった。
「「…………」」
ほんの一瞬であったが、目があった瞬間小太りの男は多少驚いたような表情をしたように見えたが、菊月は特に気にすることもなく歩いていく。そして暫くしてから神馬が口を開いた。
「先程の女性が件の
「へぇ……」
菊月が意味有りげに呟くと、神馬はちらりと菊月を見ながら尋ねる。
「気になりますか?」
「ええ、まあ……ところで、男性の方は?」
木川三春という人物は確かに気になる。しかし菊月は、それ以上に自分を見て明らかな動揺を見せたもう一人の人物のほうが気になっていた。
「あぁ……もう一人は
「なるほど………」
(あの指揮官……雰囲気が昔のあの人に似ている気がする)
菊月はそんな事を考えながら、神馬の後に付いていくのだった。