舞鶴鎮守府を出た菊月は愛車のバイクに跨り、チラリとシートを被せられている側車に目を向ける。
(今後もこいつを使わずにすめばいいが‥‥)
少しの間目を向けていたが、直ぐにエンジンをかけて鎮守府を後にした。
鎮守府から暫くバイクを走らせ、とある商店街へとやってきた菊月は、駐車場にバイクを止めて店を眺めながら歩き始める。
(舞鶴は何が有名なんだろうか‥‥‥それとなく誰かに聞いておけばよかった)
「あら、そこの可愛いお嬢さん。かまぼこはどう?舞鶴といえばかまぼこは結構有名だよ?」
(かまぼこか‥‥‥‥まあ、いいか)
「では、お土産用の三枚がセットになっているのを」
「まいどあり!一枚サービスしておくからお嬢さんも食べてみてね!」
菊月は店の女性に礼を言ってバイクへと戻り出発の準備をしていた時、突如辺りにサイレンが鳴り響いた。
『舞鶴鎮守府より緊急連絡。沖合10数キロ地点で深海棲艦が目撃されました。海岸沿いにお住みの皆様は大至急避難してください。繰り返します‥‥』
サイレンと共に鳴り響く放送の内容に周りにいた人間たちはたちまち大混乱となり、我先にと山の方へと逃げ始める。そして響きもまたバイクに積んであった無線機を取り出し、耳に当てながら周波数を合わせる。すると、かすかではあるものの無線の内容が聞こえてきた。
『偵察隊より舞鶴鎮守府!複数のイ級の他に、レ級の姿を確認!』
『こちら舞鶴鎮守府。敵はどの方向に向かっている?』
『この方角は‥‥ま、真っ直ぐに舞鶴鎮守府に向かっています!』
『了解。偵察隊はそのまま偵察を続け、新たに何か分かり次第報告せよ』
『了解!』
菊月はそこまで聞くと、急いでバイクに跨り、舞鶴鎮守府の方角に走らせた。
「深海棲艦共もこの戦力では、手も足も出まい!」
早くも第一防衛ラインに到着した深海棲艦を殲滅した艦隊の提督が歓喜の声をあげる。
「油断しないで、まだ斥候だよ!」
そんな提督に対し木川三春は注意を促し、険しい表情を浮かべる。
「レ級の補足は?」
岡田が尋ねると女性通信士は首を横に振った。
「まだです‥‥‥‥っ!第一防衛ライン、蒼龍から連絡、イ級5隻が海域に出現!」
「よし、駆逐艦、軽巡で迎え撃て!」
岡田が支持を出すと間もなくして報告が入る。
「魚雷命中!イ級5隻沈黙!」
その報告で安堵するのもつかの間、直ぐにまた報告が入る。
「続けてイ級10隻が出現!」
「深海棲艦共め。嘗めているのか!」
(おかしい‥‥なぜ、戦力を小出しにするような真似を‥‥‥レ級と共に一気に攻めてくればいいものを‥‥‥‥)
岡田がそう考えていると、突如大爆発が起きて現実に引き戻される。
「何事だ!」
「ゆ、夕立大破!この威力は........っ!レ級です!」
通信士の言葉で岡田は全身の毛が逆立つのを感じた。
(遂に‥‥‥来たか!)
岡田が険しい表情で拳を握る。すると突然通信士が悲鳴の様な声で叫んだ。
「蒼龍から緊急入電!レ級がもう一隻です!」
「な、なんだと!?」
(あの化け物が‥‥‥二体‥‥‥だと?)
レ級は一隻でも艦隊を殲滅することもある正しく化け物と呼ぶに相応しい実力をもっており、それが二体となれば今の戦力ではほぼ勝ち目がない。そのため岡田はいかに戦力を残して負ける事ができるかを考える。
(いかに被害を減らす選択をするか‥‥‥今レ級と渡り合えるのは、長門と陸奥、そして武蔵だけであろうな‥‥‥)
「大変です!長門が........」
岡田が最適解をさがし思考を巡らせる中、ほぼ涙声になっている通信士の声が聞こえた。
「ご、轟沈........だと........!?」
(あの長門が‥‥‥早すぎる!やはりレ級は化け物か!)
「第一防衛ライン突破されました!」
(くっ‥‥‥残るはあと武蔵と陸奥か‥‥‥)
その時、一人の将校が舌打ち混じりにぼやく。
「舞鶴がこんな状態であるというのに、峯山基地は何をしているのだ!」
「未だに航空隊がやってこないとは‥‥‥‥」
(霧夜はまじめな男だ。わざと航空隊を送らないと言うことはない。となれば何かあったと見るべきだろうな‥‥‥‥)
「どちらにせよ、援軍は見込めんか‥‥‥」
誰にも聞こえない声で岡田が呟くと、突如後ろから声をかけられる。
「岡田中将、残りの防衛ラインも前進させるべきです」
岡田はそう提案してきた三浦亮介に対して声をはりあげる。
「それでは防衛ラインの意味がないだろう!」
そう言う岡田の意見は至極当然である。そもそも防衛ラインをいくつにも分けて配置するのは、不測の事態に備えるためや戦力を集中させることで殲滅され一瞬で戦力を失うのを防ぐ意味があり、今回の岡田は前線に艦娘を集中させる事で航空戦力による総崩れを警戒しての事であった。
「しかし、このままでは艦娘達が‥‥」
「口答えするな!」
「艦娘も兵器だ。死ぬことくらい、覚悟出来ている」
「だからと言って........。無駄死にさせる気ですか!?」
岡田は当然分かっている。しかし、もしこの敵が前に報告にあった敵であれば、必ず空母がいるはずであり、そんな中で戦力を集中するのは相手にどうぞ爆撃してくださいと言っているようなものである。もしそうなれば、目の前のレ級と空の艦載機の両方を同時に相手をする事になり簡単に艦隊は壊滅する。その為岡田はその決断は下せなかった。
「第三、第四防衛ラインに通達しろ!現状維持だ」
その時、周りの人間たちの慌てた声が聞こえた。
「亮介さん!落ち着いて下さい!」
「じ、銃を降ろせ!」
そう、亮介が岡田に対して銃口を向けていたのである。
「何の真似だ?」
岡田はいたって冷静に亮介を睨み返す。
「全ての防衛ラインを前線に向かわせて下さい........」
「貴様、命令違反がどうなるか........分かっているな!」
命令違反の上、上官に対して銃を向ける。これはれっきとした反逆罪であり、軍法会議で死罪になってもおかしくはない行為である。
「ええ。それで私の........俺の命で彼女達を救えるなら構いません」
しかし亮介は止まらない。己の信念を貫くために。
『お願いします中佐!今はこれが最善なんです!この責任は必ず私が取ります。だから!』
岡田の記憶に残るかつて部下だった人物の言葉。それが今、鮮明に思い出されるのだった。