「貴様の判断は正しいかもしれん。しかし、私には艦隊を預かる責任がある」
岡田が力強くそう言った。するとその時、通信士がまた叫ぶ。
「中将!接近する高速艇から緊急通信です!」
「なんだと!?」
その高速船に乗っていた人物からの通信内容は突拍子のない話であった。何でもレ級は斥候であり、その後方には別に主力がいると言うのだ。
「岡田中将!彼の言う通りなら、これ以上戦力を削ぐわけにはいかないはずです!」
亮介がそう叫ぶも岡田は首を縦には振らない。
「根拠のない妄言など、聞き入れる訳にはいかない!」
確かに、その事が本当であればレ級等が戦力を小出しにしてあきらかな時間稼ぎをしているかのような行動を取っていたことに説明がつく。しかし、確固たる確信が無いのだ。岡田は歴戦の軍人である為、僅かな可能性にかけて散っていった同胞たちを多く見ている。その為、根拠無い情報で前線に戦力を集中させると言う危ない賭けをするわけにはいかなかった。
それに、もしここで間違えば自分だけの責任では済まされず、ここにいる部下たち全員が責任を取らされることになる。それが岡田にとって最も恐れることであった。
(くっ!どの道破滅か‥‥‥ならば一か八か賭けるしかないか‥‥)
拳を握り、岡田が必死で考えていた。何が正しいのか最早分からない。その時、突如岡田の意識が途切れた。
「グッ‥‥‥!ここは‥‥‥どこだ?」
岡田が目が覚ますと、そこに男性通信士が立っていた。
「中将、ここは医務室です。木川大尉に後頭部を殴打され、気を失ったのです」
「どれほど意識を失っていた?」
「まだ、五分ほどです」
「そうか‥‥‥」
岡田が力なくそう答えると、通信士が一枚の紙を手渡した。
「大本営からの電文です」
それを受け取った岡田は目を見張る。
『舞鶴に向け戦艦大和を旗艦とした艦隊を救援に向かわせた。到着まで持ちこたえてもらいたい』
「そうか‥‥あの後に救援要請を出したか」
「いえ、それが‥‥我々が救援要請を出す前に、それが突然送られてきたのです」
「なに?」
それを聞いた岡田は一瞬頭を捻るが、すぐあることに気付いた。
(ここの人間以外に、こちらの状況を知っていて、元帥直属の艦隊を動かせるものなど一人しかおるまい‥‥‥)
「フ‥‥ハハハ‥‥ハ‥‥ハハ‥‥‥!ハーハッハッハ!!」
「中将?」
突然大きな声で笑い始めた岡田に男性通信士は不思議そうに尋ねる。
「ハハハ‥‥はぁ‥‥‥」
それ以降、岡田は一言も発さず、時だけが過ぎていった。
「‥‥‥‥‥‥」
砲弾の音を聞きながら大海原に一人佇む白髪の少女、菊月は電探や遠くまで見通せる目を駆使しながら敵や他の艦娘の様子を伺っていた。
(レ級が二隻か‥‥‥あと後ろに何か妙なのがいるな)
その瞬間、傍受していた通信から複数の悲鳴が鳴り響く。
(やはり‥‥苦戦しているか‥‥‥助けに行くべきだろうか‥‥‥私であればレ級の一隻や二隻どうとも‥‥)
菊月はそこまで考えたが、直ぐに
その考えを捨てる。
(いや‥‥‥今ここで私が目立てば、今までの事が全て水の泡になる‥‥‥また司令官を危険に晒すことにも)
そして菊月の探査から複数の艦娘が消失した。
(長門も逝ったか‥‥‥すまない、同胞たちよ‥‥‥)
菊月は胸に手を当てて祈るように目を閉じた。そしてゆっくりと目を開けると、勢い良く振り向いて主砲を突き出した。
「気づいていないとでも思ったのか?」
口に菊月の主砲を突っ込まれたイ級は苦しそうなうめき声をあげている。
「隙をついたつもりだろうが、相手が悪かったな。沈め!」
その一言と共に放たれた主砲はイ級の口内で爆発を起こし、イ級はそのまま海の底へと消えていった。
「さて、騒ぎを起こしてしまったな。少し移動するとしよう」
菊月は騒ぎを聞きつけた他の敵に見つかるのを避けるために静かに移動を開始した。
「こちら大本営所属の大和です!誰か応答願います!」
大本営より救援として派遣された大和は艦隊の後方を進みながら叫ぶ、しかし通信からはノイズに混じって悲鳴が聞こえるだけであった。
「大和さん。この様子だと、既に壊滅状態にあると考えたほうがいいかもしれないわね」
険しい表情を浮かべる大和に対し加賀は至って冷静な態度で言う。
「急ぎましょう!まだ間に合うかもしれません!加賀さんは艦載機による索敵をお願いします!」
「了解」
加賀は一言そう言うと、追加の艦載機を発艦させ索敵範囲を広げる。そして大和自身も偵察機を発艦させた。
「あら‥‥あの子もいたのね」
「‥‥‥あの子?」
不意に加賀が漏らした呟きに大和は自身の艦載機に意識を集中する。すると一隻だけで大海原を駆ける艦娘を発見した。
「菊月さん!?なぜ、ここに!?確か彼女は‥‥‥」
「詳しくはわからないけれど、恐らく今回の報告はあの子からで間違いなさそうね」
「加賀の艦載機か‥‥」
菊月は上空を飛ぶ艦載機をちらりと見た。すると突然無線に連絡が入る。
『こちら大和です。菊月さん、状況を教えてください』
「こちら菊月だ。レ級が二隻にイ級と空母多数、恐らく前線にいるのは斥候。その後方の本隊には何かデカいのがいる。防衛線の崩壊は時間の問題だろう」
『分かりました。ご協力ありがとうございます!』
「それと、加賀に追撃用の艦載機を残しておけと伝えてくれ。もしかすれば何匹か逃がすかもしれん」
『了解!』
大和の返事を最後に通信は切れ、菊月も状況を見るために前線へと向かっていった。