元歴戦ハンターが早めのスローライフを送っていたらモンスター娘達と出会いました。 作:鴻 おとり
「───ふぅ」
無事に狙った獲物に突き刺さった矢を見て、白い息を漏らす。まだハンターを引退して一年。そのはずなのに、まるで何十年も経っている様に感じてしまう。これが老いか・・・・・・
「と、さっさと剥ぎ取るか」
身を潜めていた草むらから出て、腰に刺した解体用の短剣を抜く。今回仕留めた獲物はポポ。成体になると体が巨大になり、その分剥ぎ取れる部位が多くなるので狩り暮らしの俺には有難い獲物だ。
「──美味しくいただきます」
倒れたポポの前で静かに祈り、短剣を突き刺す。多くのモンスター達は俺達に災いを齎す。当然、そこで彼らに対する憎悪も発生するだろうが、決して否定してはいけない。
俺達人間は、モンスター達のお陰で生きてるのだから。だから、祈りを忘れてはいけない。モンスター達の命に対する感謝を忘れれば、人はその時点でモンスター以下の獣になる。これは、俺が
「よ・・・・・・と。皮を剥ぎ取って鞄に入れて・・・・・・肉は、小分けにして入れれる分だけ入れるか。後は自然の恵みに返そう」
自分に必要な分の肉だけ取って、あとはそのまま放置。こうすれば、このポポは自然の栄養となり、自然に還る。これも師匠に教わった事だ。
「よし、帰るか」
重くなった鞄を抱えながら、雪が積もった土地を歩く。ざくざくと小気味良い音が響き、一面の銀世界に俺の足跡が刻まれていく。
「にしても、相変わらず不思議な場所だな」
暫く歩くと、強い風が吹き付ける高台へと出る。そこから見える景色は圧巻の一言で、木々が生い茂り、砂漠が広がり、珊瑚が彩り、灼熱が這う、俺が現役時代に見てきた様々な土地の環境を合わせた、パッチワークの様な島。それが、俺の住まう導きの地という場所だ。未だにこの土地には謎が多く、様々なモンスターが生息するため研究もなかなか進んでいないらしい。更に独特の生態系であるが故に、熟練のハンター達も嫌厭する曰く付きの土地だ。
「俺からしてみれば、理想郷なんだけどなぁ」
人が少なく、それでいて生活可能なある程度の要素が揃っている。更にはこの特殊な生態系故か、ここのモンスター達は、他の土地のものと比べて上下関係が強く刷り込まれており、一度力関係を理解すれば余程の事が無い限り此方にちょっかいを掛けてくることは無い、とても素晴らしい土地だ。
───ある一点を除けばだが。
「よっこらせ、と。ふぅ、漸く着いたな。此処に我が家を建てた時はどうなるかと思ったが、いい運動になるし、丁度いいか」
導きの地、森林エリアの最奥。植物による天然の迷宮を抜けた先にある建造物こそ、俺が材料や設計、建築の全てに拘ったマイハウスである。流石は俺が拘り抜いたマイハウスだ。見る度に溜息が出るほど、素晴らしい出来だ。きっと、今の俺の顔を見る者が居れば、気持ち悪さのあまりに悲鳴を上げてしまうだろう。それほどまでに俺の表情は緩んでいる。その自覚がある。緩んだ表情を正し、自宅の扉に手をかけようとした。
「───はぁ。
さっきとは別の意味の溜息が溢れる。これで一体何度目だ。確かにこの土地は素晴らしい場所だ。だが、この地はその素晴らしさを打ち消してしまう程の、厄介なことが存在する。
「一体、今回は誰が来てるんだか・・・・・・」
二度目の深い溜息を吐き、覚悟を決めて扉を開ける。
「おかえりなさい〜!ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・・・・・・♡」
「どれも却下だ、この不法侵入者」
妖しい息を吐きながら、その瞳にハートマークを浮かべる美少女に向けて、解体用の短剣を振る。だが、そいつはふわりと身軽な動きでそれを躱した。
「もぉ。相変わらず辛辣だなぁ。あ、ツンデレってやつ?」
「断じて違う」
俺の目の前に居るのは、肩口で跳ねる水色の髪に赤眼の美少女。服装はショートパンツにタンクトップといった、少々露出多めのもの。母性の象徴である双丘は慎まし過ぎず、大き過ぎない、丁度良い大きさをしている。その溌剌した笑みは、あらゆる雄を堕とす魔性の笑みだろう。俺も、何も知らなければすぐさまその笑顔に堕ちていた。そう、
「ったく、何の用だ?
そう、こいつの正体はモンスター。あの、多くの駆け出しハンター達をその軽快な動きで翻弄し、苦しめた、飛雷竜トビカガチなのだ。そんなことを言われても信じられないだろう。だが、実際にそうなのだ。こればかりは、信じてくれとしか申し開きようがない。
「えぇ〜?何ってそりゃあ・・・・・・旦那様の子種を貰いにね♡」
「まじで帰れ、この色情魔」
「あ、これってポポの肉だよね!お姉が偶にお土産で持ってきてくれるんだけど、美味しいから大好物なんだ!・・・・・・もしかして、僕への愛のプレゼント?」
「あ、おい!人の飯に手を出すんじゃねえ!!」
するりと素早い動きで俺の懐まで侵入したトビカガチは、腰の鞄に鼻を近づけ、香りを嗅いでいた。姿形は人のそれなのに、身体機能はモンスターの時のままなのかと思うと違和感が凄い。
「わかっよぉ。だから、そんなに怒らないで?あ、そうだ。もう帰ってくると思って、お風呂の準備しておいたんだぁ。今日は雪原地帯まで狩りに行ったんでしょ?だったら、早めに体を暖めないと、風邪ひくよ?」
そう言って、トビカガチはポポの肉を持って地下の食料保管庫へと降りていく。っていうか、風呂の準備って・・・・・・最早、我が家の様な振る舞いっぷりだな。
「とりあえず、風呂入るか」
何度目か分からない溜息を吐きながら、俺は風呂に向かった。
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「───はぁ〜」
吐き出した息と共に、疲労が抜けてゆく感覚がする。やはり風呂は良い。汚れだけじゃなくて疲れもとれる。全く、こんな素晴らしいものを発明したのはどこのどいつだ。褒め称えてやりたい。
「・・・・・・にしても」
ふと先程の玄関先でのやり取りが思い出す。
最近になって我が家に襲来するようになったモンスター娘達。正直に言うと、その存在は謎だらけだ。そもそも、
「・・・・・・っていうか、なんであいつら俺に執着するんだろうなぁ」
一度殺されかけた相手ともなれば、恨みこそすれど好意を抱くようにはならないはずだ。
「そんなの、お兄さんに惚れたからに決まってるじゃん。自分より強い雄を求めるの当たり前でしょ?」
「いや、そもそも何で殺されかけた相手を好きになるのかが理解できなぁ゛あ゛あ゛ああああああああああああ!?」
「?どうしたの、お兄さん」
「おまッ!?なんで入ってきてんの!?てか、服は!?」
「?お風呂に入るのに服は着ないよ?」
「そうだけどね!?いや、入るタイミングおかしいだろ!?」
不味い。今の状況は不味い。目に毒なんて言葉では済まされない程の光景が俺の前に広がっていた。いつの間にか湯船の前に生まれたままの姿で立っていたカガチ。網膜に刻まれたその姿が、俺の雄としての本能を掻き立てる。気付けば、俺はカガチから目を逸らしていた。
「むぅ〜。なんで目を逸らすの?」
「あ、当たり前だろ!目の前で女が素っ裸になってたら誰だってこうするっての!てか、ホントに何しに来たんだよ!?」
「え〜?だから、お風呂に入りに来たって言ってるでしょ?僕も入りたかったからさぁ。ね、一緒に入ろうよぉ。ついでに僕の体でイイコトしよ?・・・・・・♡」
「誰がするか!!」
「むぅ。頑なだなぁ」
「とにかく!俺はもう上がるからな!」
これ以上この空間に居たら理性がもたない。早々に風呂から抜け出そうと俺はそのまま浴槽から立ち上がる。
「あ、れ・・・・・・?」
足に力が入らない。文字通り足が棒になったようだ。状況が理解できない。ただただ困惑していると、俺の下からくすくすと笑う声が聞こえた。
「くすくす・・・・・・♡ようやく効いてきたね♡」
「カ、ガチ。お前、なにを・・・・・・?」
「え〜?まだ分からないのかなぁ」
揶揄う様に笑うカガチ。するとパチャパチャと湯船から何かが跳ねる音が聞こえた。何とか動く首を回して、湯船を見る。
「尻尾・・・・・・?」
見覚えのある青い尻尾。それは紛うことなき飛雷竜トビカガチの尻尾だった。
「最近、人の姿のままでも一部分だけならモンスターの姿になれるようになったんだぁ。それで、尻尾をこっそり湯船に浸けて弱い電気を流し続けて、下半身だけ麻痺させたんだぁ。なかなか器用でしょ?」
再び笑うカガチ。っていうか、この体勢ヤバっ・・・・・・!
「ねぇ、別に我慢しなくていいんだよ・・・・・・?ただ本能の求めるままに犯して、破って、貫いて、好きなようにして・・・・・・?」
囁くように女が呟く。甘い声が俺の脳を犯す。美しい肢体が俺の息を乱す。柔らかな双丘が俺の瞳を奪う。理性が蕩け、ぐずぐずに崩れそうになる。それでも、寸での所で何とか持ち堪えていた。
「───貴方の子種を僕に頂戴♡」
甘い誘惑と共に、ぺろりと女の舌が俺の耳を掠めた。
「─────」
ふと何かが切れる音がした。それが理性の糸が切れる音なのだと、何となく実感しながら。俺は誘蛾灯に誘われる虫のように、ゆっくりと女へと手を伸ばす。
「ふふっ。そうだよ、こっちにおいで・・・・・・♡」
ゆらりゆらりと手が伸びる。もう少しで彼女の母性の象徴に手が届く。
『───ったら────しよう────』
「────あ」
ふと昔の
「───え?」
それを思い出した途端、反射的に俺の手は拳を握り、己の頬を殴っていた。寸前でカガチの惚けたような声が聞こえたが、生憎と気にかけている暇は無かった。
「────!?───────!!」
カガチの慌てた様な声が聞こえるが、既に俺の意識は沈み始めている。思いの外、いい一撃が入ったらしい。ゆっくりと俺の意識は消えていき、そして数秒後には俺の意識は完全に暗転した。
*****
「はぁ・・・・・・全く、無茶するなぁ」
僕は溜息を吐きながら、目の前のベッドで眠る人を見つめていた。
───お兄さん。誰よりも強い人間でいて、僕が惚れてしまった人間。
他の人間とは違う、僕達を負かす程の実力者。そんなお兄さんが愛しくて、狂おしくて。ついつい、僕の子宮が疼いてしまう。
「・・・・・・襲っちゃおうかなぁ」
ベッドで寝ているお兄さんは裸のままだ。ちらりと布団から鍛え抜かれた胸板が見える。
・・・・・・やっばい。生唾を飲むなんて初めての経験だよ。僕はゆっくりと布団に手をかける。息が荒くなる。さっきのお兄さんもこんな気持ちだったのかなと思いながら布団を剥いで行く。胸板、腹筋とゆっくりとお兄さんの体が見えてくる。あと少しで、お兄さんの全てが僕の目へと映る。
「────」
ふと先程のお風呂でのやり取りを思い出して、手が止まった。お兄さんが倒れる直前、その時に見たお兄さんのあの顔。まるで迷子になった子供のような表情。あれは、初めてお兄さんと会った時と同じ顔だ。
「・・・・・・はぁ」
あの顔を思い出すと、無理に迫る気なんてなくなってしまう。すっかり萎えてしまった僕はお兄さんに布団をもう一度掛けて、お兄さんの横に寝転ぶ。所謂添い寝の状態だ。
お兄さんの顔が間近にある。安らかな寝息が、僕の眠気まで誘ってくる。
「・・・・・・ねぇ。お兄さん、貴方は一体誰を探してるの?」
返答はない。尚も聞こえるのは寝息のみ。
うつらうつらと僕の意識も途切れ始める。
「──いつか、僕がお兄さんの探す誰かの代わりになれればいいなぁ」
この願いは叶わないのだろう。
それでも、口にせずにはいられない。
だって、僕も女の子なんだから。
────好きな人と結ばれたいと思うのは当然でしょ?
「・・・・・・ふふっ。おやすみぃ、お兄さん」
きっと明日の朝にはまたこの状況を知って、お兄さんは大慌てするんだろうなぁ。
ふふっ、明日も楽しみだなぁ。