元歴戦ハンターが早めのスローライフを送っていたらモンスター娘達と出会いました。 作:鴻 おとり
カガチと風呂場での件が起こってから数週間。あれから特に何も起こらず、最近の俺は穏やかに過ごせていた。
「朝の鍛錬をするのも久々だな」
平穏な日々を過ごしていた俺は、久しぶりに自宅から少し離れた場所にある森で鍛錬に勤しんでいた。無数の丸太が振子の様な動きをしながら襲いかかる中、それを躱し、あるいは太刀で弾く。最近は起きたら必ずモンスター娘達が居たから出来ていなかったが、こういった鍛錬は俺の日課だ。自慢では無いが、俺は現役の時、ウェポンマスターなんて言う通り名で呼ばれていた。その通り名の通り、俺はあらゆる武器を使い熟す事ができる為、その分日頃の訓練が多く、内容も多彩だ。今回やっているのは太刀の訓練。迫り来る丸太を躱し、時に迎撃するといった訓練だ。日頃から訓練をするという行為を面倒に感じる人も多い。だが、俺はこれらが必須だと思っている。ハンターの一番の敵はモンスターではなく、慣れだ。調査団の資料を見れば分かるが、ハンターの死亡率は駆け出しより熟練のハンター達の方が高い。これは俺の考察だが、原因は先程も言った慣れだと思う。駆け出しの頃は慣れない狩りで必要以上の準備や警戒を行うハンターが多い。だが、狩りに慣れていくとそれらを忘れて行ってしまう。準備を怠り、警戒を忘れ、慢心を抱く。それが原因で命を落としてしまうのだ。だからこそ、日頃からの訓練を怠ってはいけない。様々な訓練をし、慣れ過ぎず、常に初心を忘れない。全ては自分の命を守る為だ。
「っと、今日はここまでだな」
丸太を相手にすること一時間。
流石にこれ以上はオーバーワークだ。
俺は汗を拭いながら帰宅の用意をする。
自宅から離れていると言っても徒歩十分程だ。元ハンターである俺からしてみれば、大した距離じゃない。あっという間に家に着き、玄関の扉を開ける。
「・・・・・・ん?」
家に入ると、生き物の気配と空腹を刺激する匂いがした。その気配は、俺の気配に気づいたのか、とたとたと控えめな足音を鳴らしながら玄関に向かってくる。・・・・・・なんだが、デジャブを感じるな。
「おかえりなさい、ハンターさん」
「・・・・・・次はお前か」
赤茶色のロングヘア、美しい橙の瞳に光を宿す美少女。飛毒竜トビカガチ亜種、通称毒カガチが、俺を迎えた。
「勝手にお邪魔してすみません。先日、妹がご迷惑をかけたようでしたので、お詫びをと・・・・・・」
「そりゃどうも」
毒カガチの妹というのは、カガチの事だ。二人は姉妹関係にあるらしい。しかし見た目こそ似ているが、性格は全くの真逆だ。カガチは奔放な性格だが、毒カガチは真面目で几帳面、加えてモンスター娘達の中でも五本の指に入る常識人でもある。・・・・・・まあ、その常識人でも、俺の家への不法侵入は当たり前になっているらしいが。
「・・・・・・っていうか、その格好どうした?」
「お料理をしてたので、エプロンを着てたんです」
似合いますか、と言いながらくるりと回る毒カガチ。ふわりと彼女の瞳と同じ橙色のエプロンが舞う。その姿は、嘘でも似合っていないとは言えそうにない程に美しい姿だった。
「・・・・・・おう、よく似合ってる」
「ふふっ。ありがとうございます♡」
・・・・・・くそッ。こいつはこれだからやりずらい。カガチの様にグイグイ来るタイプならただ単純に拒絶すればいいだけだが、毒カガチはあまりそういう事はしない。寧ろ、一歩引いた所から見守り、俺に尽くしてくれるタイプだ。こういうタイプは明確に拒絶しずらいので、俺はカガチとは違う意味でこいつが苦手だ。
「もうすぐ料理が出来るので、軽く汗でも流してきてください」
そう言って、毒カガチはリビングへと消えていく。
「・・・・・・汗を流せって言ってたけど、あいつは妹みたいに乱入してきたりしないよな?」
少し、警戒しながら風呂に入った。
お陰で少しも休まらなかった。
*****
「・・・・・・すげぇ」
思わず感嘆の声が漏れた。目の前には見ただけで空腹になりそうな料理達が所狭しと並べられている。人生で固唾を呑むという言葉を実際に体験するとは思わなかった。
「ふふっ。そう言われると作った甲斐があります。さあ、どうぞ座ってください」
不法侵入者に着席を促されるとはこれ如何に。・・・・・・まあ、流石の俺にも食欲には勝てん。大人しく席に座る。毒カガチと向かい合う様な形だ。毒カガチはニコニコと微笑みながらこちらを見つめている。・・・・・・どうやら、俺が食べ始めるのを待ってるらしい。
「・・・・・・いただきます」
「召し上がれ♡」
恐る恐る料理に手をつける。最初は魚の煮付けのようなものだ。身をほぐし、口に入れる。
「・・・・・・美味い」
思わず声に出てしまう程、それは絶品だった。とても俺好みの味で、とても病みつきになる。気づけば、次々と料理を口に運んでいた。
「・・・・・・よかったぁ♡」
「ん?なんか言ったか?」
「いえいえ、何もありません。さ、いっぱい食べてくださいね」
言われずともそうするつもりだ。俺の手は止まることなく、料理を口に運び続ける。数十分後には全ての料理を平らげていた。
「ごちそうさま。美味かったよ、何か病みつきになる味だった。何か特別な材料でも使ってるのか?」
「お粗末さまです。別に特別なものは使ってないですよ、強いて言うなら隠し味に愛情をたっぷりですかね♡」
ウィンクをしながらぺろりと舌を出す毒カガチ。なんとも可愛らしい仕草に思わずどきりとする。俺が暫く固まっていると、毒カガチはクスクスと笑いながら片付けを始めた。その動きには一切、無駄がない。家事をし慣れているように見える。・・・・・・モンスターって、家事とかすんのか?
「・・・・・・結婚したら、こんな感じなのかぁ」
ふとそんな呟きが漏れた。すると、毒カガチが勢いよく此方を振り向く。卵を剥いた様な白い肌が赤く染まっている。
「そ、そんな・・・・・・急に結婚だなんて・・・・・・でも、そんな強引なハンターさんもしゅきぃ♡」
「いや、落ち着け」
ふにゃふにゃと毒カガチの頬が緩む。いや、最早あれは溶けると形容した方がいいのか。兎に角、先程の凛々しい顔つきから一変、なんとも可愛らしい表情だ。並の男ならこのギャップにやられている所だった。
「結婚・・・・・・けっこん・・・・・・ケッコン・・・・・・えへへ・・・・・・あ、嫁入り道具を持って来ないと!」
「おーい、帰ってこい」
「ちょっと、家に帰って準備してきますッ!」
「落ち着け」
「あぅ」
このままだと暴走が止まらなそうだったので、毒カガチの額を軽く小突く。毒カガチは額を抑えながら、涙目になり上目遣いで此方を見つめている。その仕草がなんとも可愛らしい。
「何回も言うけど、落ち着け」
「ううっ・・・・・・すみません・・・・・・」
肩を落とす毒カガチを尻目に、俺は再びソファへと腰をかける。ゆっくりと息を吐くと、段々と瞼が閉じそうになってくる。満腹になったのと久しぶりの訓練の疲れが睡魔へと変化し、俺の瞳を閉ざそうとしてくる。
「わるい・・・・・・毒カガチ・・・・・・寝る・・・・・・」
俺は毒カガチの後ろ姿を見ながら、意識を手放した。
*****
「・・・・・・ハンターさん?」
一通りお皿を洗い終えた私はハンターさんの方に振り返る。私の視線の先にいたハンターさんは可愛らしい寝息をたてながら眠っていた。
「・・・・・・ハンターさん、寝ちゃいました?」
何度かハンターさんの頬を突く。返ってくるのは寝息だけだった。
「ふふっ、ふふふふふふ♡」
彼の頬に自分の手を添える。それだけで、とてつもない多幸感が私の中に湧き出てくる。
彼を自分だけが独占しているという興奮が私の息を荒くする。
「ふふっ、言いましたよねハンターさん。料理の隠し味は愛情だって♡」
まるで子供の様に美味しい美味しいと食べてくれたお手製料理。隠し味にハンターさんへの愛情をたっぷり込めた
「ふふっ、少しずつ貴方の中に私を刻み込んであげます♡・・・・・・ゆっくり、じっくりと、
そうやって、彼の全てを私のものにする。
子供の様に可愛らしい彼も、いつもの逞しくて凛々しい彼も、怒っている彼も、悲しんでいる彼も、全部私のもの・・・・・・♡
「そういえば、あの子にはお礼を言わないといけませんね」
私の妹。可愛らしくて、少しお馬鹿で、私にここを訪れる理由を作ってくれる、
「こんな風になったのも、全部ハンターさんのせいですからね?」
今までは、妹と穏やかに過ごせてさえいればそれで良かったのに。こんなにも焦がれて、狂ってしまった。貴方さえいれば妹も、世界も、もう何も要らない。
ハンターさんの横に腰かけ、凭れ掛かる。
この間、妹は添い寝をしたと言っていたから、私の匂いで上書きしないと・・・・・・♡
体を密着させて、彼の頬にそっとキスをする。
「ッ!?」
ほんの一瞬触れただけでとてつもない快感が私の体を走る。背徳感と多幸感が電流となって私の体を駆け抜ける。今まで感じた事の無い快感に私の腰は砕け、足が震える。立ったままなら多分床にへたりこんでいた。
「も、もういっかい♡」
ふらふらと誘蛾灯に群がる虫のように、さっきの快感を求めてもう一度キスをする。
もう一度、もう一度、もう一度。
そう何度も重ねていって、頬や首、鎖骨、少し服をはだけさせて、胸板などにもキスを落とす。回数を重ねる程に、私の体と心がハンターさんへと堕ちていく。
「はぁ♡はぁ♡あは、はんたーさんのせいで、こぉんなわるいこになっちゃいましたぁ♡♡」
呂律の回らない舌を何とか動かしながら、そんな言葉を漏らす。酸素不足か、興奮し過ぎたのか、視界が明滅し始める。これ以上は意識が不味いと直感的に理解した。
「はあ、はあ、さいごぉ、これで、さいごですからぁ♡」
唾液で濡れた唇を、ハンターさんの唇に近づけていく。
──ちぅ・・・・・・♡
「あ、・・・・・・♡」
今までのものとは比べものにならない快楽。
明滅が激しくなり、次第に意識が遠のいていく。先程までの凭れ掛かる体勢から、ハンターさんの方へ倒れてしまう。密着する面積が増えて、ハンターさんの温もりと私の熱が交わっていく。ハンターさんという毒が、私の体を侵食していく。そんな錯覚を覚えて、意識が遠のいていくのに、これ以上ない興奮と幸福を感じてしまう。
「あ、は♡こんな風にしたんですから、責任、取ってもらいますからね♡♡♡」
愛しい愛しいハンターさんの手を握り、私の意識は消えていく。
───いつか、私がハンターさんに溺れた様に、貴方のことも堕としてあげますからね♡♡
次話は気長に待て。