元歴戦ハンターが早めのスローライフを送っていたらモンスター娘達と出会いました。 作:鴻 おとり
まず、投稿が遅れて申し訳ない。
進学、引越しなどで忙しく執筆の時間がありませんでした。
また、今後もこんな感じの投稿頻度になります。
それでも読んでくれるという心優しき人はこれからもよろしくお願いします。
「ごほっ、ごほ」
喉の違和感を誤魔化す様に吹き出した咳が静かに部屋の中を反響する。鈍く響く頭痛が意識を苛み、悪寒が体を震わせる。全身の節々が軋む様に痛み、軽い吐き気すら感じる。
そう、俺は珍しく風邪を引いてしまった。
俺は元ハンターだ。体が資本の職業故に、人並み以上に丈夫な体を持っているつもりだ。
それ故に風邪を引く事は滅多に無く、引いたら引いたで、今まで引かなかった分が襲いかかる様に重症化する。自分の体ながら厄介な体質だと思う。
「ごほっ、確か・・・・・・薬が、キッチンに」
布団から何とか這い出て一階のキッチンに向かおうとするが、体が上手く動かない。
全身に重りを身につけ、更に水中に沈めた様な感覚だ。
「あ、やべェ」
床を踏みしめる筈の足が縺れ、そのまま前方に倒れそうになる。
「何してるんですか」
「ふご」
倒れた体は前方にあった何かに支えられる。
その時に柔らかな感触が顔を包む。
とても甘く、蕩けそうな、それでいて何処か安心出来る匂いが、鼻腔を駆け抜ける。
その心地よい匂いに包まれて、疲れきっていた体に張り詰められていた糸がぷつんと切れてしまう音がした。
「ちょっと、本当に大丈夫ですか!?」
何処かから聞き覚えのある声が聞こえる気がする。だが、その声は主の正体を理解する事は消えていく意識では不可能だった。
*****
「先生、今大丈夫ですか?」
背中に太刀を背負った青年が暖簾を潜る。
広がった視線の先には銀色の髪を肩口で踊らせる美しい女性が居た。
「おや、どうかしたか?我が弟子よ」
「いえ、その、今度の地下空洞の捜索ですけど、大丈夫ですよね?」
青年は少し言葉を迷いながらも紡ぐ。
すると女は吹き出す様に笑い始める。
女は一頻り笑い終えた後、涙を拭いながら空いた手で自身の隣を叩き、青年に横に座るよう示す。
「全く、君は心配性だね。そんなに不安にならずとも、大丈夫だよ。私の実力は君が一番よく知っているだろう?」
「・・・・・・勿論です」
女は様々な功績を挙げた歴戦のハンターだ。新大陸の異変の阻止、数々の古龍種の討伐、果てには導きの地と呼ばれる未確認の孤島さえ発見した。そんな女の功績を称え、人々は彼女を導きの青い星と呼んだ。
「それに、今回は君もいる。・・・・・・それはそうと、君の口調。また敬語になってるよ。二人っきりの時は敬語は無しって決めただろ?」
「はい・・・・・・じゃ、ないか。ごめん」
女は隣座った青年の肩に頭を預ける様にして凭れ掛る。青年の気恥しそうな顔を見ながら、女は満足そうに微笑む。
「私の心配をしてくれるのは嬉しいが、君は自分の心配をした方が良い・・・・・・私も、未亡人にはなりたくないからね」
「・・・・・・勿論」
気づけば自然と互いの手が重なり合い、互いの感情を示すかの様に絡み合う。
同じ様に互いの視線が絡み、その瞳には僅かに熱が孕んでいる。
その熱に浮かされて、二人はそっと唇を合わせる。ただ重ねるだけの優しい口付け。
それだけで、二人の心は満たされる。
女は嬉しそうに顔を綻ばせ、青年は頬を赤く染めながら視線を逸らす。
「ふふっ。狩りの時はあんなに勇ましいのに、こういう所は初心なんだな」
「仕方ないだろ・・・・・・好きな人と一緒なんだから」
ぽそりと呟かれた言葉に、女の動きが止まる。視線を逸らしていた青年は、妙な空気を感じ取り、女の方を見る。
女は、顔を赤らめて口を半開きにしていた。
普段見ない女の表情に、青年は思わず見惚れてしまう。
「・・・・・・あぁ、全く。君は不意打ちばかりだな」
そう言って視線を逸らす彼女の姿は、何とも愛おしい。ついつい青年の頬も緩んでしまう。
「相棒、先輩!もうすぐ出発ですよ!」
そんなやり取りをしていると、入口からそばかすが特徴的な女の子が入ってくる。
どうやら、蜜月の時間もここで終わりの様だ。
「あぁ、分かったよ。・・・・・・さて、行こうか、旦那様?」
そう行って手を差し伸べる女の手を青年は迷うこと無く掴む。
この時、青年はこの日常が続くと思っていた。然し、世界に絶対はないのだ。
希望に溢れる未来も、華々しい夢も、焦がれる程の願いも、驚く程簡単に瓦解する。
「───生きろ、○○。私の分まで、幸せになれ」
黒き龍と滅びの炎に立ち向かう女は、青年にそう言った。彼を突き放す様に、彼を守る様に、女はそこを死地とした。
離れたくない、離したくない、離してなるものか。
───
遠くなる記憶の一幕に、男は手を伸ばす。
然し、手にしようと足掻く程、視界にノイズが迸り、意識は遠く沈んでいく。
「世界の誰よりも、君の事を愛してる」
意識が途切れる間際、愛しい人の言葉が聞こえた。
*****
ゆっくりと意識が浮上する。朧気だった意識が、額の冷たさによって覚醒を促される。
未だに重い腕を上げ、額に乗ったそれを見てみる。氷嚢だ。然し、自分で置いた覚えはない。誰が、いつの間に、そんな事を考える前に、つい先程まで見ていた夢の記憶が鮮明に浮かび上がった。
「先生・・・・・・」
懐かしい夢だ。俺の後悔、俺が此処に来る理由となった出来事。
そうだ、あの人は俺を守る為に死んだ。
俺のせいで、先生が死んだんだ。
「ごめん・・・・・・ごめんな」
あの日と出来事が、まるで薪を足した焚き火の様に、再び俺の心で燃え上がる。
あの日の後悔とあの龍への憎悪が、全身を支配する。
あの日、黒龍より受けた左腕の傷が疼く。
然し、その苦しみの吐き口となるものは、もう居ない。
先生は俺を庇って死に、件の黒龍は俺の手によって討伐されているのだから。
だから、だからこそ、この怒りが、憎悪が、己への不甲斐なさが、血液の様に俺の体を巡っていく。
「それは何に対する謝罪でしょうか」
それらの感情の巡りは、少女の声によって止まる。
声の方向を見ると、そこには美しい青色の髪を腰ほどまでに伸ばした美少女が、お盆を持ちながら立っていた。
「お前・・・・・・レイギエナか」
「はい。ご無沙汰しています、ハンターさん」
風漂竜レイギエナ。新大陸に存在する陸珊瑚の台地の主として君臨する飛竜種モンスター。ハンターとして遭遇すれば、厄介この上ない存在だが、人型である彼女にその面影は見られない。
美しい青い髪に、花弁の模様をあしらったワンピース。その姿は何処か高貴さと優雅さを感じさせる美しい少女だ。
「お前、なんで・・・・・・」
「なんで、とは心外です。ハンターさんが熱で倒れてしまったので、甲斐甲斐しく看病してあげてたんですよ」
どうやって家に入ったか、という意味だったんだが・・・・・・まあ、この手の質問はするだけ無駄だと分かっている。同じ質問を別の者にしてみると、一人は愛の力と宣い、もう一人はただ
レイギエナは此方にやってくると、手に持ったお盆をベッドの脇にあるテーブルに乗せた。ふわりと腹を刺激する美味そうな匂い。
お盆の上に目を向けると卵粥が器に入れられていた。
「これは・・・・・・」
「どうやら、朝から何も食べてなさそうでしたので。失礼とは思ったのですがキッチンを拝借して作ってみました。食べれるなら是非」
そう言って差し出される卵粥。
・・・・・・正直、腹の虫は限界だ。匂いを感じとった瞬間から絶え間なくその声を震わせている。俺は素直にレイギエナからスプーンを受け取り、粥に手をつける。
「・・・・・・うめぇ」
「それは良かったです」
するすると不思議なぐらいにスプーンが進む。空っぽだった胃袋に暖かな卵粥が流れ込み、ポカポカと体が温まってくる。
俺はあっという間に器一杯分の粥を平らげてしまった。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした」
レイギエナは俺の食べ終えた食器を再びベッド脇のテーブルまで下げてくれる。
てっきり、一階のキッチンまで持って行ってくれるのかと思ったが、レイギエナは俺の顔をじっと見続けている。
「な、なんだよ」
「ハンターさん。私は今日、貴方の事をそれはそれは手厚く看病しました」
突然何を言い出すんだこいつは。
いや、確かにその通りではあるが、改めて言い出す必要がどこにある?
「人は労働の対価として何らかの報酬を求めるそうですね」
「まぁ、確かにそうだが」
「ならば、私も報酬を要求します」
未だ病に侵されて衰弱している人間になんて事を言うんだこいつは。
確かにレイギエナの言い分は正当なものだ。
倒れた所を看病してもらったのだから、お礼をするのは当然のことだろう。
然し、タイミングというものを考えられなかったのか。
「ご安心ください。報酬と言っても簡単なことです。それこそ、未だに衰弱しているハンターさんにもできる事です」
「まあ、それならいいが・・・・・・」
俺が了承するとレイギエナが大袈裟に咳をして声を整え、俺の瞳を真っ直ぐ見据える。
「
「・・・・・・はい?」
そんな昨今のお見合いでも聞かないようなセルフに思わず思考が停止する。
そんな事を聞いてレイギエナの得になるのか、どんな目的があるのか、その意図が理解できない。
「何を教えろと?」
「言葉通りです。貴方の趣味趣向、出生、家族構成、友人、そして
心臓が跳ねる。トラウマ、という言葉を聞いて、先程の記憶が想起される。
「先程、貴方が魘されていた時、貴方は頻りに先生、と言いながら左腕を抑えていました」
「・・・・・・ここからは私の勘になりますが、貴方は『先生』と呼ぶ人とその左腕の傷は、何らかの関連性があって、その出来事が原因でこの島に来たのでは?」
「そして、貴方はそのトラウマをずっと己の内に抱え込んでいる」
「自分を追い込む程に、悪夢として見てしまう程に」
「違いますか?」
唐突な、それでいて確信を突く言葉。
ずきりと左腕が疼く。先程堰き止められた感情が、再び渦を巻き始める。
炎へと向かう先生が、向かう先生を薙ぎ払う黒龍の姿が、目の前の出来事であるかのように脳裏に浮かぶ。
息が早まる。愛する人を殺された怒りで、愛する人を失った恐怖で、自然と拳が握られる。
「ハンターさん」
荒ぶりそうな激情は、またしてもレイギエナの声で制された。
「その経験が、貴方にどのような苦しみを刻み込んだのか、私は知りません」
我儘を言う子供に諭す母親の様に、ゆっくりと言葉をかけられる。
「けど、本当に苦しいのはそれを一人で抱え込む事だと思うんです」
握った拳に、冷たい手が重ねられる。
その冷たさとは裏腹に、何処か心が安心する。
「だから、一度此処で吐き出しましょうよ。ね?」
その言葉で、俺の心の何処かで堰き止められていた感情が溢れた。
俺の過去、愛した人の事、その人が死んだ事、愛する人を殺した黒龍をこの手で殺した事、その際に傷を受けて今までのようにハンターとしての活動が出来なくなった事。
まるで氾濫を起こした川のように、止まることなく、その全てを目の前の少女にぶつけた。目の前の少女は、そんな俺の言葉をただ静かに聞いてくれた。当たり前の様に手を握り、寄り添うようにしてくれた。
そして、俺が一通り感情を吐いた後、レイギエナはただ一言
「頑張りましたね、ハンターさん」
そう言って、俺の頭を自身の胸に寄せ、優しく抱き留めた。そこでまた、俺の堤防は決壊した。先生が死んだ時に出し尽くしたと思っていた涙がぽろぽろと零れ落ちる。
俺はレイギエナの胸の中で泣いて、泣いて、気づいた頃には意識が薄れくる。
まだ病魔が体を蝕んでいるからか、それとも昔の事を吐き出してスッキリした安心で眠気がきたのか、どちらとも言えないが、言いきれる事が一つ。
この日はもう、あの日の夢を見なかった。
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気づいたらハンターさんは眠っていた。
私の胸の中ですやすやと寝息をたてるハンターさん。・・・・・・名残惜しいですが、こんな体勢で睡眠をとると体を痛めてしまいます。
仕方がないので、ハンターさんが起きないように慎重に体をベッドへと移します。
・・・・・・可愛い寝顔ですね。普段は凛々しくてかっこいいのにこんな顔もできるなんて、もっとしゅきになりそう♡♡、失礼、好きになりそうです。暫くハンターさんの寝顔を眺めた後、空になった食器類を持って静かに寝室を後にする。
食器類をキッチンに置くと、私は深呼吸をして意識を研ぎ澄まします。
私たち、モンスター娘達は姿こそ人型ですが身体能力などはモンスターの時のまま。
なのでこんな風に、耳を澄ますだけで周囲に生物が存在するかどうかを判別するのなんて、とても簡単なのです。
周囲に生物の反応無し。居るのは私と眠っているハンターさんのみ・・・・・・
────はぁあ゛あ゛あ゛あ゛♡♡♡可゛愛゛い゛ぃ゛い゛♡♡♡♡♡なんですかあれはいくらトラウマとはいえあんなに弱々しい姿を魅せるなんて誘ってるんですかそうですかギャップ萌えで私たちを殺そうとしてるんですねありがとうございますご褒美です眼福ですじゃんじゃん殺しに来てください私にもっと見せてくださいハンターさんの可愛い顔弱った顔かっこいい顔も全部全部見せて欲しいですハンターさんの全てを私のものにしたい蕩けるまで甘やかして甘やかされてラブラブして体の至る所に私の所有物だという印をつけたいつけられたい好き好きしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅき愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛し♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
ふぅ・・・・・・失礼しました。私はどうにもハンターさんが関わると感情が昂るようで、まあ仕方ないですね。寧ろ、ハンターさんの眠りを妨げない為にキッチンに来るまで抑えたのを褒めて欲しいぐらいです。
それにしても・・・・・・ハンターさんの想い人を殺した黒龍ですか・・・・・・どうにもきな臭いですね。気は進みませんが、
旅好きで噂好きの彼女なら、当時の情報を何か知っているかも知れませんしね。
・・・・・・当時のことを知ることが出来れば、ハンターさんのトラウマを取り除けるかも知れません。そうしてあわよくば・・・・・・ふふふっ。
───待っててくださいハンターさん。貴方の全てを、愛してあげますからね♡