漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜 作:早見 綿飴
「なら、付き合いましょう!オレたち。」
黄色の髪をした男は、綺麗な女性にそう提案する。
「なんで、今会ったばかりの人と付き合わなきゃいけないんですか。いい加減にしてください!」
「付き合いたくない…まさか!オレと結婚までしてくれるんですか!」
「そんな訳無いでしょ!どっかへ行って!」
明らかにヤバそうな人だ。…近寄りたくないなぁ。
「ユナン、あの女性、困ってるわ。助けに行きましょう。」
セーナが真剣にそう言って、言い争いをしている所へ近づいていく。
ですよねー…
「ちょっと、あなた何してるの?その女性の人、困ってるじゃない。」
「今、オレはこの女性と話してるの!放っておいて…わお!可愛いな女の子だ。何かオレに用かい?」
「だから…その女性が困ってるから――」
「君も一緒にお茶会に参加したいって?いいとも、いいとも!女の子は何人いても…痛っいたた!」
「おい、ちょっとは人の話を聞け。」
ユナンはそう言いながら、男の耳を引っ張った。
「な、何するんだ!暴力反対!」
「そうよ。ユナン、暴力は良くないわ。」
なんでそっちの味方何だよ…。まあ話を聞く気には、なってくれたようだ。
「その女性が困ってるように見えたから、俺たちは止めに来たんだ。あんまりしつこくしてると、女性に嫌われるぜ。えーと…名前は?」
「オレの名はキリマル。この女性はオレに声をかけてきてくれたんだ。つまり、オレとお茶したいってことだろ!」
男は胸を張って、そう自慢げに力説した。
黄色で、少し男性にしては長めの、真っ直ぐだけど、癖のある髪。少し下がった眉からは、控えめで優しそうな印象を受ける。…まあ実際の人柄はそんなことは無さそうだが。
黄色と緑を基調とした独特の衣装を身にまとっている。これは、母の言っていた「ハオリ」というものに、そっくりだ。左右の胸の辺りには、緑と白色の肌の、腹が出っ張った鬼の模様が描かれている。
左腰には、俺と同じ、カタナという武器を差している。柄は黒と黄色の編み込みで、鞘は黒い。
…母の故郷の人々はみんな変態なのだろうか。
「本当にいい加減にして!何度もいってるじゃない。好きでもなんでもないって。珍しい服装ね、って声をかけただけよ。」
「…らしいわよ。もう諦めて。わたしも今は忙しいから、お茶はまた今度ね。」
忙しく無かったらいいんだ!?
俺も結構強引に付きまとっておいてなんだが、セーナは結構危うい性格なのかもしれない。…心配だ。
「嫌だ!オレはみんなとお茶会するんだ!」
そう言って駄々をこねているキリマルの対処に困っていると、
「いたいた!またキリマルは女性に付きまとって…何回怒られれば気が済むのよ!」
「…全くこっちの身にもなってくれ。」
気の強そうな女の子の声と、冷静で低い、イケメンな声が聞こえた。
「ぎゃぁあぁ!アンナとジーク!?ごめんよぉぉ。」
「次からこいつに首輪でもつけるか。」
「ごめんなさい。ウチの馬鹿が迷惑かけて。」
「いえ。助けていただいて、ありがとうございました。それでは。」
そう言って綺麗な女性は歩いて行った。
「えーと君たちは?」
ユナンは2人にそう呼びかける。
「あたしはアンナ。この3人で旅をしているの。」
赤色の髪を後ろでまとめている。ポニーテールってやつか。軽装の鎧を身にまとった、女騎士の格好をしている。背中には両手剣を背負っているようだ。
「俺はジークだ。…よろしく頼む。」
深い青色でサラッとした髪型をしている。キリッとした鋭い目をしていて、顔は整っており、クールなイケメン男といった印象だ。狩人のような格好で、矢筒と、大きな弓を背負っている。
「俺はユナン。よろしくな。」
「わたしはセーナ。ただの旅人よ。」
そう言ってセーナがフードを取った。
「可愛いー!髪も綺麗で羨まし〜」
「オレは最初から気づいていたけどな。」
「…あんたは黙っときなさいよ。」
そんな彼らの反応にセーナは苦笑する。
「えーと、あなたたち、黒い猫を見かけなかった?」
セーナは3人にそう尋ねる。
「黒い猫?見てないわね。」
「オレも町の女の子に夢中で…」
2人が首を傾げて、そう答える。
「猫か。俺たちの狙う魔獣に攫われたのかもしれないな。」
ただジークだけは違う反応を示した。
「俺たちの狙う魔獣…?あんたら、まさか契約者か?」
ユナンは彼らにそう聞き返した。
「そうだ。俺たち3人は、先月契約者となった身だ。」
ジークがうなずいて、そう答える。
「そうか!俺も契約者なんだ!」
俺は嬉々としてそう返した。
初めて契約者に出会った!やはり、同じ仲間に出会うというのは嬉しいものだ。
「ほんとう?どれどれ。」
怪しげな顔をして、アンナが俺の服をめくる。
「うわっ。何すんだよ!」
「あっホントだ。あるね、契約者の証。」
「契約者の証?」
ユナンは首を傾げて、問いただす。
「ほら、これこれ。ここの腰の辺りに変な模様あるでしょ?これが契約者の証なの。…なんでユナンはその事を知らないのかしら。」
そう言ってアンナは自分の服をめくり、腰の辺りを指さす。本当だ、何やら魔法陣のような模様が描かれている。
「知らなかったぞ、そんなこと。…ってことはお前らも願いをなんか叶えてもらったのか?」
「えっ!?あんたもしかして、『加護持ち』!?」
アンナが目を輝かせながら、ユナンに近づく。
…顔が近い。
「『加護持ち』?なんだそれ。」
「ホントに何も知らないんだな、お前。『加護持ち』っていうのは、大陸中央の塔に行かないで、勝手に契約者になった者の名称だ。総じて皆、妙な能力を持っているから、そう呼ばれる。」
「オレたちは、普通、自分から塔に行って、神様と契約を結ぶんだ。それも、知らなかったの?」
「あ、ああ。実は契約したのはつい最近の事なんだ。田舎の村出身だから、世間のこともあんま知らない。」
…っていうか本当に何も教えてくれなかったんだな。あのクソ女神。
ユナンはここにはいない、だらしない女神の事を、そう評した。案外、このあだ名はしっくりきていて、気に入っている。
「まあ別に『加護持ち』とは言っても、10人契約者がいれば1人ぐらいはいる。そこまで、珍しくもないさ。…そこの女はちょっと『加護』マニアなだけで。」
「ねぇ!何の加護なの?教えて!」
「正直、あの女神に自分の『色』さえ、教えて貰えなかって、俺も困ってるんだ。加護はたぶん…生存に特化したものになったとは思うんだが。『器』って言葉が引っかかる。」
「色すら教えて貰えなかったの!?じゃあ『力』も使えないじゃん!ひぇぇ。オレなら耐えられないなぁ。」
そこでセーナが話を遮る。
「えーと、盛り上がってるところ悪いんだけど、その魔獣を倒せば、猫ちゃんが帰って来るってこと?」
…猫ちゃんって、可愛いなおい。
「まあその可能性が高いってことだ。ついてくるなら構わんが、命の保障まではできないぞ。」
ジークがセーナに、そう注意する。
「任せて!わたし、契約者じゃないけど、魔法は使えるの。ユナンより強いんだから。」
「なんでいつも俺を引き合いに出すの!?…魔法って契約者にならなくても使えたのか。」
「契約者は『力』を引き出してもらうだけだからな。一般人が魔法を使うのは、難しいが、できない訳じゃない。世界には魔法学院ってところもあるくらいだ。」
ジークがユナンの問いに、そう答える。
外の世界に出てみたら、自分の常識が、ことごとく覆される。俺って外のこと、何も知らなかったんだな…
そしてユナン達は、ひとまず、アンナ達の魔獣討伐に同行することになった。
「それにしても、ユナンって契約者だったのね。『力』を使えないからかな?気づかなかったわ。」
「セーナより弱くてすみませんねー。」
ユナンはへこたれながら、沈んだ声で言った。
「ちょっとした冗談よ。…大丈夫、魔法なんて使えなくても、ユナンが強いことは知ってるわ。」
やけに自信たっぷりの声だった。俺が戦ってる所なんて、セーナは1度も見たことが無いはずだが…
そう、聞き返そうとした時、ユナンはジークから声をかけられた。
「ユナン。さっきはアンナがあんなことを聞いてきて、すまなかった。」
「ん?加護が何かってことか?別に気にしてねーよ。俺が知りたいくらいだ…」
「…お詫びに一つだけ忠告しておいてやる。あまり、自分が『加護持ち』である事と、その内容については公言しない方がいい。」
「どうしてだ?」
ユナンは首を傾げながらそう聞き返す。
「…内容によっては、その加護持ちを殺そうとするヤツらもいるからな。」
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