漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜 作:早見 綿飴
ユナン達は次の目的地にたどり着く。
「ここが、貿易港マイミア。交通の要所として昔から栄えてきた港よ。世界中から色んな人がやってくるの!」
アンナがドヤ顔で説明してくれた。案外、アンナは地理に詳しいようだ。…少し驚きだ。
貿易港マイミア、ロゼッタも大きい町だったが、ここはそれ以上だ。泊地には、多くの船が停泊している。大型の船も多く、中には軍船の姿もあった。積荷を一旦置いておくための倉庫が立ち並び、人々が急いで積荷を運んでいる様子が見える。
海から少し離れた所には、酒場や商店が立ち並び、四方八方から人々の賑わいの声が聞こえてくる。
とても活気溢れる街並みに、ユナンのテンションが上がる。
「よし!俺、色々見て回ってくるわ!」
「新たな女の子が、オレを呼んでいる気がする。」
ユナンは目を輝かせながら、キリマルは少しカッコつけた風にそう言って、2人とも駆け出そうとする。
「い・い・け・ど!昼食の時間になったらここで集合ね。…あとキリマルは次問題を起こしたら、ホントに首輪、アンタに付けるから。」
2人の頭を鷲掴みにして、アンナはそう告げる。2人とも頷いた様子を見せたので、アンナは2人を解放した。 開放された途端に、2人は風のようにどこかへ走り去る。
「まったく、ほんとにバカなんだから。セーナとジークはどうする?」
「俺はアンナと行動する。」
「わたしも、1人よりはみんなと一緒にいる方が良いから、アンナについて行くわ。」
そういうわけで、セーナ、アンナ、ジークは3人で共に、ユナンとキリマルは、それぞれ1人で行動することとなった。
ユナンが町を散策していると、何やら、言い争いをしている場面に遭遇した。
「それは、ワタシが買った林檎です!返して!」
「あぁん?獣人風情が、人間様に歯向かおうってか?」
どうやら、言い争っているのは小太りの大柄な男と…
――あれは、獣人?頭に猫耳が生えているから、多分合っているはずだ。
男の正面には、少し背の低い獣人の女の子がいた。
白茶色のすらっとした長髪で、ピンクのワンピースを着ている。一見普通の女の子にしか見えないのだが、その頭にはふさふさの猫耳が生えている。
…どうやら、男が女の子のりんごを奪って、言い争いになったらしい。
「おい、おっさん。流石に人の物を奪うのはまずいんじゃねーの?」
「なんだ小僧?それに、こいつは人じゃねぇ、『獣人』だ。別にいいだろうがよ。」
「…なら衛兵を呼んで、一緒に話し合ってみるか?」
『衛兵』の言葉を聞いた途端、男が怪訝そうな表情を浮かべる。
「チッ。めんどくせぇな。ほらよ。」
そう言って男はしぶしぶ、女の子にりんごを返して、どこかへ去っていった。弱々しい声で、女の子はユナンにお礼を言う。
「あ、ありがとうございます。ワタシはモモっていう名前です。」
「俺はユナンって名前だ。それにしても、奪われたんなら、こんな感じで衛兵でもなんでも呼んだら良かったんじゃねーの?」
「その…獣人だと、働いてくれない衛兵もいて、あんまり信用出来ないというか…」
「マジかよ。腐ってんなー、衛兵。」
ここ、ラムザ王国は『人間』の国だ。無論、竜人や獣人などの亜人に対する人間の目は厳しい。…竜人は特に。
だから、獣人をこの国で見かけることはめずらしい。俺はムルク村近くの町で、1回だけ獣人を見た記憶がある。だが、それだけだ。どこかには『獣人の国』なんて所もあるらしいが…
モモがユナンを怯えた表情で見つめてくる。
「あの…助けていただいたお礼なら、なんでも致しますので…」
「いや、お礼とかいいって!こういうのは自己満足なの。一日一善!そうすりゃ運も上がるってもんよ。」
…まあ俺は昔からマジで運が無いんだが。
そんなユナンの様子を見て、少しだけモモが笑った。
「おかしな人なんですね。それでは。」
そう言ってモモは去っていった。
さっきのモモの怯えた表情を見るに、今まで、人間に酷いことを沢山されてきたんだろうな。これからも、モモは人間を信用せずに生きていくのかもしれない。だが…
ユナンはモモの笑顔を思い出す。
――どちらかが歩み寄ろうとすれば、いつかは人間と亜人が心の底から笑い合える日がきっとくるはずだ。
ユナンがそんなことを考えて、ぼーっとしていると、歩いてきた人とぶつかってしまった。その人が持っていた紙袋から、りんごが1個、転がり落ちる。
「あっ、すみません!りんごの代金、弁償しましょうか?」
ユナンは慌てて、謝罪をする。どうやら、ぶつかった相手は男の人であるようだ。
男は、灰色の癖のある長髪で、長身のイケメンだ。黒いシルクハットを頭に被り、黒のタキシードを身につけている。どことなく、気品を漂わせているその姿は、貴族を思い浮かばせる。
「あぁ、弁償はしなくていいとも。…ところで、このりんごはどうして下に落ちたのだろう。君には分かるかい?」
低く、知的な声で男はユナンにそう問いかけた。
…はぁ?何言ってるんだこいつ。変な人だな。そりゃ、
「俺とぶつかったからじゃねーか。本当に大丈夫か?頭とか打ってないか?」
ユナンはそんな男の意味不明の問いかけに、そう返した。男は少し不機嫌そうな表情を浮かべ、こう言った。
「君は面白い『色』をしていたから、もしかしてと思ったんだが。まあいきなりは難しいか。…では特別に時間を与えよう。次に私と会う時までに考えておくように。」
そしてそのまま男は去っていった。
…すごく、変な人だったな。というか次に会う機会なんてねぇだろ。
そう思いながら、ユナンは次の店へ足を進めた。
ちょうど同じ時、キリマルは…いつも通り女の子をナンパしていた。
「あぁ!こんな所で運命の人と出会えるなんて!」
「えっ…あの…」
「この広い世界の中で、君と出会えた奇跡!オレはなんて…幸運な男なんだ。」
そんな、俳優顔負けの名演技を披露しているキリマルに、男が声をかけてきた。
白い首元まである髪に、中性的な顔立ち。薄い緑色の瞳には、輝きが失われているように感じる。白いシャツの上に黒いコートを身に付けた、怪しい男だ。
「『幸運』…か。君、面白いね。僕とちょっとした賭け事をやらない?」
「なんだよ。オレは今、運命の相手と出会えた喜びに浸っている最中なんだけど。」
「まあまあ、そう言わずに。僕と君がこうして出会えたのも奇跡みたいなものだろ?それに、そんなに時間は取らせないよ。ただの運試しさ。」
そう言って不敵に笑って、男は女の子の手に、金貨を1枚握らせる。
「なっ!オレの彼女の手に、何触ってるんだ!」
「彼女になった覚え、無いですけど…」
「いや、そういうのじゃないよ。ただ、君とゲームをしたいんだ。この女の子にコイントスをしてもらう。それで、表か裏か。それを当てた方の勝ち。僕が勝ったら、君はその女の子を諦める。君が勝ったら、その金貨をあげるよ。簡単だろ?」
「オレは今まで、じゃんけんで負けたことが1度もないんだぞ。実質、ただで金貨が手に入るようなもんだ…いいぜ。イカサマは無しだぞ。」
「勿論、そんなつまらない事はしないよ。それを証明するために、この女の子にコイントスをしてもらうんだ。…お嬢さん、コイントスは出来るかい?」
「は、はい。一応…」
「では始めようか。」
キリマルと男は女の子に背を向ける。そして、男の合図と共に、女の子は金貨を弾いた。
日の光を浴びて輝く金貨が、高速に回転しながら宙を舞う。表か裏か。その答えは誰にも分からない。
「出来ました。」
「では表か裏か、君から言っていいよ。」
キリマルは悩んだ末に、
「表!」
と叫んだ。
「じゃあ僕は裏だね。では、結果発表と行こうか。」
キリマルと男は女の子の方へ振り返る。そして、女の子は右手をそっとよけた。女の子の左手の甲の上には、裏面の金貨が乗っていた。
「裏です!」
「あぁ、ツイていたのは僕の方だったね。」
「クッ。3回勝負だ!もう1回!」
「別に、何回やってもいいとも。」
そう言って、男は不敵に笑う。
その後、キリマルと男はもう一度勝負をするが、それも男の勝利に終わった。
「残念、君はツイてないね。…もう一度やるかい?」
「もう…いいよ。諦める。運だけはオレ、あると思ってたのに…」
沈んだ声でそう言って、キリマルは、とぼとぼと歩いていった。
「あの、助けていただいてありがとうございます。この金貨、お返ししますね。」
「いいって。僕も楽しめたからさ。それに、その金貨も君にあげるよ。…その金貨、たまたま拾ったものだから。」
そう言って男は女の子に笑顔で手を振って、どこかへ行ってしまった。
その頃、アンナ達は猫と戯れていた。
「きゃー!可愛い!この黒猫、お腹まで見せたわよ!人懐っこいのかしら?」
「ほんと、可愛いわね。前の猫ちゃんを思い出しちゃった。」
女性陣がワイワイ騒いでいる様子を、ジークはやれやれと見守っている。
「人懐っこいにも程があるだろ。人を騙す魔獣とかじゃないのか?少しは警戒した方がいい。」
「ジークは何でも警戒しすぎよ。」
そんなジークに黒猫が擦り寄ってきた。だが、もふもふの毛の感触にジークは満更でもないといった感じだ。
ジークの足に頭を擦り付けながら、必死に鳴いて、身の潔白を訴えているようにも見える黒猫をみて、ジークはため息をつく。
「はぁ。まあおまえは大丈夫だろう。分かったから、俺から離れろ。」
「そんなこと言って、ジークは大の動物好きだもんねー。」
「…少しうるさいぞ、アンナ。」
「へぇ、ジークも猫ちゃん好きなんだ。ちょっと意外。」
セーナはそんなジークの様子に親近感を覚え、微笑む。
…少し怖い人と思っていたけれど、案外可愛い所もあるのね。
町の猫達もジークには、そこまで警戒していないように見える。ジークは元々、狩人をやっていたらしい。狩人が動物に好かれると言うのは本当なのかもしれない。
「それでこの黒猫、まだ俺達についてくるのか?」
「可愛いし、旅に連れて行ってもいいんじゃない?アンタの名前は…くろすけよ!」
「おい。そんな簡単には連れて行けな…」
アンナの提案を否定しようとするジークを、黒猫がうるうるとした目で見つめている。
まるで、人の言葉が分かるような反応だ。そんな目で見つめられると、置いていこうにも置いていけない。
「…おいおまえ、餌は自分でなるべくとってくるんだぞ。俺たちは、そんな面倒まで見切れないからな。」
黒猫…改め、くろすけはジークの言葉を理解した様に、喜んで鳴いた。
「そろそろ、昼食の時間ね。集合場所に行きましょう。」
「アイツら…戻ってきてるかしら。」
セーナがそう提案し、アンナはここにはいない、キリマル達を別の意味で心配する。何かと問題を起こしそうな2人だ。何も無ければいいが…
そして、集合場所へ向かおうとしたその時、セーナは足で、何か柔らかいものを踏んづけた様に感じ、下を見る。
「何か踏んづけたような…」
「やあ君たち、ちょっといいかい?少しお腹が空いていて…ここらへんにレストランとかあるかな?」
なんと、セーナは見知らぬ金髪の青年を踏んづけていた。青年は顔を踏まれたまま、爽やかな笑顔をこちらへ向けて、そんな事を聞いてきた。
「きゃあぁぁ!」
セーナの悲鳴が辺りに響き渡った。
「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、タイトル右下のお気に入り、広告下の評価から応援お願いします。やる気が出ます!