漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜   作:早見 綿飴

16 / 43
第一章15 『大罪の十二宮』

 

 「えーと…その人は?」

 

 集合場所には全員が集まっていた。しかし、人数が1人多くなっている。ジークの背中には、金髪の見知らぬ男が背負われていた。

 

 「まあそういう話も、とりあえず食べながらしましょ。」

 

 動揺するユナンとキリマルの背中を押して、アンナがレストランの中へ入るように促す。

 

 

 

 そういうわけで、アンナ達とユナン、キリマルは無事合流を果たし、そのままレストランで食事をしている。

 …だが、何故か知らない男が1人混じっているという状況だ。

 

 「本当に助かったよ。お腹が空きすぎて、気を失ってしまってね。でも、君に踏んでもらったおかげで、意識を取り戻すことができた。ありがとう。」

 

 セーナに爽やかな笑顔を向けてそう言ったのは、騎士の姿の格好をした男だ。

 蒼炎のように青い、純粋な瞳をしている。整った顔立ちで微笑む姿は、太陽のように眩しい。腰には、豪華な装飾が施された剣を携えている。

 一見、王国騎士のようにも見えるが、マントはしていない。

 

 そんな男を、セーナはとても怯えた目で見つめている。男の事を凄く警戒しているのだろう。席も、男から1番遠く離れた位置に座っているほどだ。

 

 …まあなんか、踏んでくれてありがとうとか言ってる人だし、怖いよなぁ。怯えるのも無理はない。

 

 「えーと、俺はユナン、そんでこっちの黄色い髪のやつがキリマル。俺とキリマルは、あんたと初対面だから、自己紹介をしてくれると助かる。」

 

 ユナンは一応、男に説明を求める。アンナ達が連れてきたから、大丈夫だとは思うが、名前も知らない男と食事をするのもいい気分ではない。

 

 「おっと、君達にはまだ自己紹介をしていなかったね。すまない。僕の名前はアルム。1人で旅をしている身でね。」

 

 アルムはこちらに笑顔を向けて、そう答える。

 

 …単に、旅をしていると答えたということは、やはり王国騎士では無いのだろう。王国騎士なら所属の色などを名乗るはずだ。

 

 「そうか。俺たちも、5人で旅をしている最中なんだ。よろしくな。」

 

 「よろしく。ユナン。」

 

 そう言ってアルムが、こちらへ手を差し出してくる。ユナンは少し戸惑いながらも、アルムと握手を交わした。

 

 俺も人のことは言えないが、アルムは、人との距離の詰め方が異常に早い気がする。でも少しも違和感を感じないのが不思議というか…変わった人であるのは間違いない。

 

 

 

 食事をしながら、色々な話をして、ユナン達はすっかりアルムと打ち解けた。…セーナを除いては。

 そんな中、アンナが、自分達の旅の目的について語り出す。

 

 「まあそういうわけで、私たちは騎士団に入るために王都へ向かってるのよ!」

 

 すると、アルムが少し心配そうな表情を浮かべた。

 

 「なるほど。やはり君たちは契約者だったのか。なら気をつけた方がいい。最近ここら辺で、『大罪の十二宮』の1人が目撃されたという情報が出ている。」

 

 その瞬間、ユナン以外の4人の顔が凍りつく。

 しかし、ユナンにとっては、初めて聞く名前だ。何か、極悪人の指名手配犯みたいなものだろうか。

 

 「大罪の十二宮?なんだそれ。超ヤバい犯罪者の名称?」

 

 「えっ!?あんた、その名前も聞いたことが無いわけ?」

 

 ユナンの発言に、アンナが驚く。それくらい、有名人ってことだろうか。

 

 「まあ、ユナンの予想は大体合ってるよ。大罪の十二宮。世界を脅かす極悪集団の名称だよ。彼らは、契約者でもないのに特殊な能力を使う。そして…」

 

 アルムは珍しく、真剣な表情をこちらへ向けた。

 

 「――大罪の十二宮は、契約者、そして女神を殺す事を目的に動いている。実際これまでに、彼らによって殺された契約者は、数えきれないほどいる。」

 

 ユナンはその発言を聞いて、息をのむ。

 

 さながら、契約者専門の殺人集団といったところか。

 確かに俺たちにとって、脅威以外の何者でもない。数えきれないほどの契約者を殺しているということは、おそらく、とてつもなく強い連中なのだろう。

 というか、あの女神にも「死」という概念があるのだろうか…まあなんにせよ、そんな危ない連中には会わないに越したことはない。

 

 「なんかすっげー怖いヤツらってことは分かったよ…それじゃあ、次の町に早く行った方がいいな。」

 

 「そうだな。アルム、情報提供感謝する。」

 

 「助けてもらったお礼だよ、ジーク。それじゃあ代金はここに置いておくから、僕はこれにて。みんな、またどこかで会えたらその時はよろしく。」

 

 「またなー。」

 「またねー。」

 

 ユナン達はアルムに手を振る。アルムは自分の代金をテーブルに置いて、笑顔をこちらへ向けた後に、レストランを出ていった。

 

 「オレたちも早くこの町から出ようよ〜。大罪の十二宮なんて…会ったらオレたち殺されちゃうよ。」

 

 「俺もキリマルに賛成だ。連中によって、騎士団が壊滅させられたなんて噂も聞く。俺たちじゃ、まるで歯が立たないだろう。」

 

 「まあそうね。じゃあ店を出たら出発しましょうか。ここから王都に近いのは…山を越えるルートね。」

 

 

 

 ユナン達はレストランを出て、山へ向かうこととなった。しかし、ユナン達は、山へ続く道に繋がる町の出口で、老人に止められた。

 

 「旅のお方、今、山を越えるのはやめなされ。」

 

 「…どうしてだ?」

 

 「山で落石や土砂崩れが多発しているのじゃ。これは山の神がお怒りになっているに違いない。あぁ、恐ろしや。」

 

 その言葉を聞いて、キリマルが震え上がる。

 

 「落石!?アンナ、他に道は無いの〜?」

 

 「あるにはあるけど…少し遠回りになっちゃうわね。船に乗るルートよ。」

 

 「まあ、命の危険に晒されるよりはマシだろう。俺は船のルートの方が良いと思う。」

 

 「じゃあ、そうしましょうか。」

 

 船に乗るために、ユナン達は引き返すこととなった。

 道中、ユナンはみんなが不安になっているのを感じ、暗い雰囲気を変えようとする。

 

 「それにしても、アルムって変な奴だったよな。セーナは結局、最後までアルムを警戒してたみたいだし。まあ仕方ないっちゃ仕方ないけど。」

 

 「…ユナンも人のこと言えないと思うけど。でも最後まで警戒しちゃったのは本当。良い人そうなんだけど、なんか、少し違和感があるっていうか。理由は特に無いんだけど…」

 

 「いや、セーナの勘は正しいと思うぞ。なんせ、女の子に踏まれて、笑顔になる変態だからな。」

 

 キリマルの誘いに乗った時は心配だったが、セーナにもちゃんと、女性の「勘」というやつが備わっていて安心した。これから先、怪しい男にポンポンついて行かれては、こちらの身がもたない。

 

 「そういう意味じゃないんだけど…」

 

 ユナンの発言に、セーナは苦笑した。

 

 

 

 ユナン達は船着き場に到着し、大型の客船に乗ることとなった。

 

 何気にユナンは船に乗るのは初めてだ。海の上の景色はどんなものなのか。期待に胸が膨らむ。

 

 「はぁ。今日は色々あって疲れた〜。オレは客室で寝てくるよー。」

 

 キリマルがだるそうにそう言って、自分の部屋へ入っていく。みんなも、すっかり疲れ切っている様子だった。どこに、自分達を殺す暗殺者が潜んでいるのか分からない状況だったのだ。精神が摩耗するのも仕方がない。

 

 「それじゃあ、船は明日の朝到着だから。一旦解散ね。」

 

 アンナがそう言ってみんなはそれぞれの部屋へ入っていった。

 ユナンはというと、客室のベットで眠れないでいた。

 

 

 なんか今日は色々あったな。疲れているはずなのに、何故か眠れない。…初めての船旅だからかな。甲板にでも出てみるか。

 

 

 

 ユナンは1人で甲板に出た。甲板には誰もいなかった。ただ、波のさざめきだけが聞こえてくる。

 

 時刻は夕方。地平線に沈む太陽が、赤く光輝いている。海の反射によって、その光は拡散され、神秘的な光景がそこには広がっていた。それはさながら、海に浮かぶ巨大な宝石のようだった。

 

 ユナンがそんな光景に目を奪われていると、後ろから声をかけられた。低く、知的な男の声だった。

 

 「やあ、また会ったね。それで、答えは出たかな?」

 

 ユナンは振り返り、今日たまたま出会った男との、奇妙な再開に驚く。もう一生出会うことなど無いと思っていた、変な男だ。

 

 「お前は…今朝出会った…」

 

 「そう。今朝出会った見知らぬ男だよ。…君の答えを聞きに来たんだ。」

 

 ユナンは首を傾げて、男に問いかける。

 

 「…答えってなんだ?」

 

 男はやれやれと、呆れたふうに首を横に振る。

 

 「忘れたとは言わせないよ。ほら、これだよ。」

 

 そう言って男は茶色い紙袋から、リンゴを1つ取り出し、それを落とした。リンゴが甲板とぶつかる軽い音が、辺りに響き渡る。

 

 「――どうしてリンゴは下に落ちるのか。」

 

 男は不敵な笑みを浮かべ、面白そうに、そう問いかける。

 

 …正直言って、訳が分からない。男の問いかけも、また、俺に姿を現した理由も。今日は色々あって、疲れているのだ。そんなこと考えたくもない。

 

 「リンゴが下に落ちるなんて、当たり前だろ。俺は上に昇っていくリンゴなんて見たことがないね。」

 

 ユナンはつまらなさそうに、男の質問にそう答える。すると、男の機嫌が急に悪くなった。

 

 「『当たり前』とはなんだ。そんな個人的な感想、無意味な答え、僕は求めてないんだよ!みんなそうだ。日常には世界の真理を解く鍵が満ち溢れているのに、少しもそれに気づかない。何も考えようとしない。何も気づかずに日常を過ごしていく。違うだろ。そんなんだから人類は発展しないんじゃないか。」

 

 …男が早口で意味不明なことを叫んでいる。さっきの冷静沈着な男とは、別物だった。突然落ち着きがなくなり、怒り狂っている。

 

 その、全く人が変わってしまった男の様子に、ユナンは恐怖すら覚える。正直言って、早くここから立ち去りたい。

 

 「お、おいもう部屋で休んだほうが…」

 

 「最後のチャンスだ。もう一度、答える機会を君にあげよう。」

 

 男がさらに低く、静かな怒りを込めた声でユナンに問いかける。…どうみても、この男は異常だ。

 

 「そんなの、どうでもいいだろ?お前、疲れてるんだよ。ちょっとは休め。」

 

 そう言ってユナンは船室へ戻ろうとする。男は下を向いていて、顔がよく見えないが、まあいいだろう。変な奴に、関わらないに越したことはない。

 

 「どう…でもいい…だと?」

 

 男の怒りが沸点に達する。男は右手をそっとあげ、そしてその手を静かに下ろした。

 

 ――その瞬間、不可視の力がユナンを押し潰す。

 

 ――!?なんだこれ!身体が…潰れる!

 

 その力はどんどん増していく。全身の骨がその力に耐えきれず、徐々にヒビ入っていく。

 

 「ああぁあぁぁあぁ!」

 

 ユナンは今まで経験したことの無い、強烈な痛みに叫び声をあげる。全身の骨がピキピキと音をたてているのが分かる。だが、さらに力は強まっていく。少しずつ近づいていく「死」の感覚に、身体が震える。いや、身体はもう動けない。

 

 ――身体ではなく、心が震えているのだ。「死」という恐怖によって。

 

 「ゆる…じで…ぐ…れ」

 

 ユナンはなけなしの力を振り絞り、か細い声で命乞いをする。もう、肺も潰れ、ほとんど呼吸すら出来ない。

 

 「許すわけないじゃないか。なぜなら…」

 

 男は笑顔でユナンへ語りかける。

 

 「僕の名前はニュートン。大罪の十二宮サジタリアスの座に就く者。そして、君たちプライヤーを殺す役目を担う者でもあるのさ。…世界の『解放』のためにね。」

 

 プライヤー?契約者の事か?世界の「解放」?何のことだ。わからない。何も分からない。だから俺はこんな目に遭うのか?…だがもうそんなことはどうだっていい。ただ、早くこの地獄から解放して欲しい。

 

 骨がほとんど砕け散り、肉の潰れる音がする。痛すぎて、もう訳が分からない。それなのに、力はどんどん増していく。ゆっくり、ゆっくりと力が増すに連れて、意識が遠く離れていく。ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり…

 

 ――頭蓋骨が割れ、脳汁の飛び散る音がした。

 




「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、タイトル右下のお気に入り、広告下の評価から応援お願いします。やる気が出ます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。