漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜 作:早見 綿飴
「―!…ゆめか」
目が覚めると、寝間着が汗でびっしょりと濡れていた。
…夢の内容までは思い出せないが、とても酷い夢を見ていた気がする。
窓から太陽の光が降り注いでくる。その光が、今日はより一層嫌に感じて、ユナンはベットの掛け布団を頭から被った。
少し経ってから、ユナンの部屋のドアが開いた。
「いつまで寝てるのよ。今日でユナンは16歳。もう成人になったんだから1人で起きれないと。」
明るい女性の声でそう呼び掛けたのは、俺の母だ。……凄く声がデカい。
そして母は俺の掛け布団を引き剥がす。
「はい!起きて!!」
「あー分かった分かった。起きるから、いつものそれやめろって…」
渋々、ユナンはベットから出て立ち上がる。そして不機嫌そうな顔で母を見た。
「そんな顔してたら、お父さんみたいなイケメンになれませんよ~。…未だに彼女の1人もいないんでしょ?」
母いわく父親はイケメンらしいが……
ユナンの顔はまあ普通の部類。と村にいる女友達のフィーナに言われたことがある。むしろ少し目つきが悪いところや、黒髪の左後ろのうなじの所がちょんちょんに跳ねている事を考えるとあんまり…
フィーナの苦笑いの顔を思い出して心が沈む。てんねんな性格のフィーナの証言だ。信じたくないが、真実には近いのだろう。
「うるせぇ…余計なお世話だっつーの!まず俺の記憶に無い父親の顔を毎度毎度引き合いに出されてもわかんねーよ。……でも今日やっと15年ぶりに戻ってくるんだっけ?」
俺の父親は、俺が1歳の頃に、母と俺を村において、母いわく「使命」のために旅に出たらしい。
そして俺が成人の頃には戻ってくると。
――そう母に約束をして。
「そうよ~。ホントに待ちに待ったんだから。もう、私はモテるんだから、早く戻ってこないと他の男についていっちゃうんだからね。…まあそれは嘘だけど。」
自分で言うのか…と冷たい目で母を見る。
顔を赤らめ、豊満な胸の下で腕を組み、腰まで届くほど長く艶やかな黒髪をフリフリさせている。確かに、母は年齢の割には若く見えるとは思う。
「お父さんがいつ帰って来てもいいように、ずっと綺麗なままでいなくちゃね!」
と毎日美容に気を使っているからなのかもしれない。
しかしそのせいでよく、事情を知らない町の若い男達に狙われ、母との仲を取り持って欲しいと懇願されたものだ。…あの時は大変だったなぁ。
「えーと俺は今日は家にずっといた方がいいのか?」
「夜まで帰ってこなくて大丈夫よ。というか帰ってこないで。夫との2人きりの時間を楽しみたいし…ユナンの成長を見せるのは最後のお楽しみってことで。」
子供に帰ってくるなとか言う親って…
まあ母が嬉しそうで何よりだ。
「んじゃあ俺は朝飯食ったらアベル達と遊んでくる。夕飯の時には戻ってくるわ。」
「はーい。あと、村の人達に今日はうるさくなるからすみませんって伝えといてね。」
「いつもうるさいだろ…」
ユナンは呆れながらテーブルへ向かっていき、朝ご飯を食べ始めた。バターの乗ったパンと目玉焼き、そして牛乳。いつも通りだ。
ただ、キッチンを見ると、大きな肉の塊や色とりどりの野菜などの食材が並べられていて、今日が特別な日なのだと感じられた。
今日は父さんの為に、腕によりをかけて作るんだろうな……あれ?今日は俺の誕生日だよな?!
なんてくだらない事を考えていたら朝食を食べ終えていた。
「いってきまーす!」
黒いシャツの上に黒いジャケットを羽織り、下には黒いズボンを履いて、いつも通りの服で家をでる。
「行ってらっしゃいー」
母がエプロン姿でぴょんぴょん跳ねながら手を振っている。いつもよりテンションの高い母に少し微笑ましさを感じて、ユナンは珍しく母に笑顔見せた。
「あっ今の顔!父さんに似てるわよ。」
「一言多い」
ユナンは恥ずかしさを隠すように急ぎ足で家を出た。もういつも通り、目つきの悪い、不貞腐れた顔に戻っている。
帰ったらまた、散々あの母のノロケ顔を見させられる羽目になると思い、ユナンはうんざりしていた。
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