漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜 作:早見 綿飴
「やあ、また会ったね。それで、答えは出たかな?」
ニュートンが笑顔でユナンに語りかけてくる。それは、客船でニュートンに出会った時に言われた言葉と同じ。ユナンはその回答で、彼の逆鱗に触れ、そして殺された。
もし今が、あの時と同じ状況であったのなら、ユナンは彼を怒らせないように、その「答え」を考えるのに、苦悩したであろう。
――だが、前とは違い、ユナンの周りには仲間がいる。
さらには、頼もしい王国騎士6人のおまけ付きだ。…まあそっちが主戦力なのだが。
たしかに、ニュートンの「魔法」は、ユナンが今までに見たことのないほど、強力なものだった。
しかし、ニュートンは1人だ。こっちには、「戦闘のプロ」が6人。
負ける理由が見当たらない。
「ああ、答えを言ってやるよ。」
「本当かい!?是非、僕に聞かせて欲しい!」
ユナンは、黒い瞳を鋭く光らせ、ドヤ顔で、自信満々にニュートンにそう返す。そんなユナンの様子を見て、ニュートンは恍惚とした様子で、食い気味に、回答の続きを促した。
「答えは簡単。…お前がくたばれ、クズ野郎!」
ユナンはニュートンに向かってそう叫んだ後、舌を出して、幼い子供の挑発のようなポーズをとる。その瞬間、ニュートンの身に纏っていた雰囲気が、ガラリと変わる。落ち着いた、理知的な青年から、恐ろしい狂人のオーラが放たれる。そのまま、彼は怒りに自分の身を任せ、謎の力でユナンを押し潰すであろう。
――だが、ニュートンが「魔法」を発動する前に、彼に向かって目にも留まらぬ速さで、大小様々な6枚の風の刃が放たれる。
鋭く、高い耳を貫くような音。こんな風の音を、ユナンは今まで聞いたことがない。それもそのはず。これは、普通の自然界では起こらない現象だからだ。
鋭い風の刃は、頑強な岩ですら、いとも簡単に切り裂いてしまう。人の肉なんて、風の刃にとっては、包丁で豆腐を切るようなもの。逆に柔らかすぎて、切りにくいぐらいだ。
そんな刃が6枚も、ニュートンに向かって放たれた。彼はたちまち、6枚の刃にスライスされ、その生涯を呆気なく終わらせてしまうだろう。
…今までどれほどの契約者が、彼によって文字通り「ミンチ」にされてきたのだろう。スライスされようが、文句は言えまい。
――しかし、彼を切り裂くはずの刃が、途中で減速して、下に曲がる。そして、風の刃は地面と衝突し、そのまま掻き消えてしまった。…まるで、彼に向かう風の勢いが、そのまま地面に吸われたかのように。
…本当は、べつに手を上げなくてもいいってことか。
さっきの防御で、ニュートンが「魔法」を展開した素振りは無かった。つまり、予備動作無しでの、不可視の力の発動。
――それは、戦いにおいては非常に強力なものとなる。
人智を超えた力の前に、ユナン達は息を呑んだ。
「…『白』か。僕の『権限』で相手するには、少し相性が悪いんだよね…。それにこの力、世界の理に逆らうものだから、僕はあまり使いたくないんだけど…」
ニュートンは、意味の分からないことを呟いている。とにかく、ニュートンの「魔法」は、『白』の力と相性が良くないことだけは分かった。
――だが、風の刃は奴には届かなかった。
そして、ニュートンは紫色の瞳を鋭く光らせ、完全な敵意の目をこちらに向けた。
「でも、僕はまだ死ぬわけには行かないんだ。この世の真理を全て解き明かすまで、終われない。…だから嫌でも、この力を使うのさ。」
ニュートンが完全な戦闘体勢に入る。最初の不意打ちは失敗に終わったが、王国騎士の力は「魔法」だけではない。
――鋭い音と共に、王国騎士6人が消えた。
否、消えたように見えただけである。彼らは風の如く、猛烈なスピードで、ニュートンに斬りかかったのだ。
彼らの使う武器の種類は様々だ。シノはレイピア。タルクはサーベル。他4人も、短剣など、ドーゼル達「緑」の騎士団の装備と比べて、「白」の騎士団は軽い武器を扱う人が多い。
だが、武器の重さだけが、威力を決めるのではない。速度も、威力を決める要因の1つなのだ。
――音速にも匹敵する速さで放たれる一撃は、いかなる者であろうと、その「死」から決して逃さない。
だが、男はその一撃を放たれてなお、「死」から逃れたのだ。…その場から1歩も動かずに。
ニュートンはその一撃に、膝をつくことすら無かった。相変わらず、彼は余裕そうな笑みを浮かべ、悠然とした態度でその場に突っ立っている。
――逆に膝をついたのは、4人の王国騎士の方であった。
ニュートンの周りで、シノとタルク以外の王国騎士4人が、地面に張り付けにされて、動けないでいる。それは、ユナンが前回、ニュートンから受けたものと同じ攻撃であった。
実際に受けてみたら分かる。素人目に見たら、あの攻撃は避けようが無い。経験の浅い、王国騎士4人がその攻撃を受けてしまったのも、仕方がない事だろう。だが、シノとタルクは初見であの攻撃を避けた。これが王国騎士、戦闘のプロなのだ。
正直、ユナン達は戦闘に加わることさえ出来ない。目の前の次元が違う戦いに、ついていけないのだ。無理やり加われば、逆に彼らの足でまといとなってしまう。それくらい、彼らとユナン達とでは、大きな「差」があった。
「あれ?何人か逃れたのか。全員張り付けにするつもりだったのに、君たち凄いね。」
ニュートンが眉を少し上げ、意外な表情をして、賞賛の声をあげる。だが、褒められた2人の方は、もちろん険しい顔つきをしている。今のは完全に皮肉だ。
「…回避にしか専念出来なかった。こいつ、強い。」
「うわぁ、団長呼びてぇ…こんなバケモノ、久しぶりっすわ。」
そう言い捨てて、シノとタルクは再度構えた。そんな2人の様子を見たニュートンは、目を鋭く光らせる。
「君たちと戦う気なんて、本当は無かったんだよ?いいの?次は君たちもこうなっちゃうよ?」
そうニュートンが言った瞬間、4人の王国騎士が悲鳴をあげる。謎の力を強めたのだ。
1度体験したことのあるユナンには分かる。全身を押し潰されるあの痛みは、想像を絶するものである。
「…王国騎士を舐めないないで。」
シノが上空に飛び上がり、ニュートンに向かってレイピアで強烈な、突きを放つ。
それは、ただの突きでは無い。レイピアの先端から、白く尖った空気の槍のようなものが発生したのだ。その時に、鋭い音は聞こえなかった。明らかに、風とは異なる現象だ。
「なるほど、衝撃波か。全く、簡単に音速を越えるなんて、プライヤーは恐ろしいね。」
流石のニュートンもその攻撃を前に、その場で突っ立っているわけにもいかず、回避行動をとる。普通ならそんなの間に合うはずもないが、ニュートンは、何かに引っ張られるような挙動で、素早く、後方へ大きく下がって回避する。
シノの攻撃によって、ニュートンが元々立っていた地面が大きく爆散する。そして遅れて、原因不明の爆音と共に、白い波紋が着弾点から広がる。
その波紋は豪風を伴い、ニュートンへと襲いかかる。だが、彼はそれを下へと逸らした。
その衝撃波に、ユナン達と、王国騎士5人も巻き込まれたのだが、不思議と何も感じなかった。衝撃波は、ユナン達をすり抜けて、そのまま広がっていったのだ。
前に、ダントラとの戦闘でアンナが言っていたやつか。契約者の「魔法」は、威力が少し落ちるが、その対象を選べる。普通の自然現象とは全く異なるものなのだ。
「残念。君のとっておきの奥義、外れちゃったね。」
ニュートンが不敵な笑みを浮かべて、そう挑発する。だが、その後方には、1人の男の姿があった。
「だったら、これも避けてみな!」
タルクがそう叫んで、風を纏ったサーベルで、ニュートンに斬りかかる。だが、
「はぁ、言ったよね。次、近づいたら命は無いって。学習能力無さそうだもんね、君。」
タルクに不可視の力が襲いかかる。ニュートンは、彼の賢いとは思えない行動に怒ったのか、その謎の力をさっきよりも強めていた。彼の本気の一撃は、タルクを一瞬で肉片へと変えるだろう。
「タルク!!」
ユナン思わず、叫び声をあげる。
だが、彼の身体は押しつぶされることはなかった。よく見ると、タルクの姿がゆらゆらと揺れている。
「…目に見えるもの全てが真実じゃねーんだよ。賢いお兄さんは、来世でそれを活かしてくれよな!」
なんと、タルクが2人になっている。つまり、さっきのタルクは偽者だったのだ。何かの魔法であろうか。
タルクはその目を鋭く光らせ、風の纏ったサーベルで、敵の死角から、今度こそニュートンの首をはねようとする。
「もちろん、そんなことは知っているさ。だって目に見えない力の存在に気づいたのが、この僕なんだから。」
だが、タルクのサーベルはニュートンの首に届くことは無かった。その前に、タルクのサーベルを握る右手が、地面へと引っ張られる。そのままタルクの体幹も、崩れてしまった。
「なっ!?サーベルが急に重くなりやがった!」
タルクがそう叫ぶ。敵の前で、転んだような姿勢になってしまったタルク。戦闘中に、そうなってしまった者の末路は一つだけ。
ニュートンが右腕を上げ、振り下ろしたと同時に、タルクに不可視の力が襲いかかる。その力は、人間を張り付けにするだけでは足りない。それは、人の原型を崩壊させる程の強さをもつ。
「おおぉぉぉ!」
だが、タルクはなんとかその力に耐えた。地面に、強風を起こし続け、自分の身体を浮かせ続ける。そんなタルクにさらに、ニュートンが力を加えようとした時だった。
猛烈な旋風がニュートンに襲いかかる。だが、そんな強烈な一撃を前にしても、ニュートンは余裕の表情だ。ニュートンは、その旋風を地面へと逃がす。
その一撃を放ったのはシノだ。そして、彼女は続けざまに連撃を浴びせようと、レイピアでニュートンにさみだれ突きを放つ。その一つ一つから、鋭い風の刃が生まれる。
「君も学習しないね。さっきの回避行動を見たら、想像できないかな?」
そうつまらなそうに言ったニュートンは、上空へと飛んだ。いや、浮かんだという表現の方が正しいのかもしれない。そうやって、シノの連撃を躱した後、ニュートンは右腕を横へと振った。
その動きにつられて、シノの身体が、何かに引かれたように横へと吹っ飛ぶ。そして、そのまま石の塀へ、勢い良く衝突した。塀は崩壊し、砂埃が舞う。
タルクと4人の王国騎士は地面に張り付け状態。副団長のシノも強烈な一撃を受けてしまった。
――大罪の十二宮は、ここまで強いのか。
ユナンは正直、大罪の十二宮を少し侮っていた。たしかに強敵ではあるが、同じ人間だ。王国騎士の集団に囲まれてしまったら、命はないだろうと。
だが、もうやつらは人間や契約者といったものを超えた存在だったのだ。今の戦闘を見れば、それがよく分かる。
まさか、大罪の十二宮「1人」で、王国騎士団の1色ぐらい、壊滅させられるんじゃなかろうか。彼らが一斉に本気になれば、本当にこの国は滅びるのかもしれない。
「『白』とでも意外と戦えるものだな。でも、この戦闘には少し学びがあった。まさか、空気の密度を変えて、光を屈折させるとは…。やはり、この世界には学びがまだまだ満ちている。面白い、次は白の団長とでも戦ってみようじゃないか!」
ニュートンは天を仰ぎ、心底楽しそうにそう叫ぶ。
「――契約の名のもとに。」
――次の瞬間、音速を超えた衝撃波が、ニュートンの足を切り裂いた。
ニュートンの足の切り傷から、真っ赤な血が流れる。
ユナンは初めて、彼がまともなダメージを受けた事に驚く。それは、ニュートンも同じだった。その攻撃が飛んできた方向は、さっきニュートンが、シノを飛ばした方向と同じであった。
「…完全に攻撃を捌いたつもりだったんだが、君、途中で威力が増すように工夫をしたね?感情的になった方が頭が冴えるなんて、不思議な子だね。」
ニュートンが、真剣な眼差しで、真っ直ぐ白髪の少女を見つめる。それは、吹き飛ばされたはずのシノの姿であった。
シノの姿が大きく変わっている。その服装は、女性のキモノの様なものによく似ている。左右の袖口幅はとても広く、白い袖が風に吹かれ、ゆらゆらと揺れている。下の紺のハカマは、太ももの位置までしか伸びていなくて、スカートのようになっている。膝の少し上まで伸びた黒いタイツには、白の縦線が何本も入っている。白い鳥の羽がついた黒いブーツは、履けば、空を軽々と飛べそうである。
そして、彼女の武器はレイピアから、風の双剣へと変わっていた。真ん中には鷹の紋章が描かれており、鍔の左右は鳥の羽のような形になっていた。
彼女は旋風を全身に纏っており、美しい白の長髪は、その風によって、凛々しくなびいていた。
――その姿は神々しく、まさに風の化身そのものであった。
「…団長の事を傷つける人は、私が絶対に許さない。」
シノが静かに、だが燃えるような怒りを込めた声でそう呟いた。
次の瞬間、シノは後方に暴風を巻き起こし、その姿を消す。そして、彼女は一瞬でニュートンの頭上に現れ、回転しながら、双剣で攻撃をした。
「なるほど、風の双剣か。質量がないから、さっきのようにはいかないと。これは、切り札をこちらも使うしか無いようだね。」
すると、ニュートンの周りを、紫色の球体が覆う。シノは構わず、その球体へ攻撃するが、何故か逆方向へ吹っ飛ばされた。
「!?」
「これは僕の『発見』じゃないんだけどね。でも僕は学ぶことが大好きなんだ。彼に教えて貰ったおかげで、少しだけ力を借りることができるようになったんだ。」
ニュートンが少し嬉しそうにそう呟く。ニュートンが、誰のことを思い浮かべているのかは、本人にしか分からない。
「彼」というのは同じ大罪の十二宮の仲間であろうか。たしかに、彼ら同士、協力していたとしても不思議ではない。…力を共有できるのか?
――そうなると、かなり厄介である。
だが、シノは諦めない。吹っ飛ばされても、またあの球体に近づき、双剣の乱舞をくらわす。今度は、風を後方に噴出させることで、身体が吹っ飛ばないようにしているようだ。
「でも、この力は長く維持できなくてね。…そろそろ終わりにしようか。」
そうニュートンが声を低くして呟いた瞬間、ニュートンの瞳が光る。すると、シノの身体の中心に、紫色の光の点が生まれた。
「えっ?」
シノがそう呟いた瞬間、彼女の身体は、勢い良く地面に叩きつけられた。
――だが、それだけでは終わらなかった。
ニュートンの腕の動きに合わせて、シノの身体が空に上がった。そして、また地面に勢い良く叩きつけられる。その動きをニュートンは繰り返す。
単純な攻撃だが、その威力は絶大。地面という大きな存在と、小さな少女の身体が、何度もぶつかり合う。そのぶつかり合いにどっちが勝利するかなんて、誰の目から見ても、明らかであった。
地面に叩きつけられるごとに、少女の身体は壊れていく。腕が、足が反対方向に曲がる。衝突する度に、そこから血しぶきが飛び出し、地面に真っ赤な花が咲く。
少女は何回叩きつけられたであろうか。その回数も分からなくなった頃、ニュートンがようやくその攻撃を止めた。
シノの白いキモノ、美しい白い長髪は真っ赤に染まっていた。彼女は全身血まみれで、もはや人の原型さえ、留めてはいなかった。何も知らない人が、彼女を見ても、人間とは認識できないほど、酷い状態である。
「僕もこんなことはしたく無かったんだよ?」
ニュートンが、わざとらしい悲しそうな声でそう言った。
残された5人の王国騎士達はその光景を見て、不可視の力に押し潰されながらも、必死に声をあげる。
「ころ…してやる。」
そんな彼らには目もくれず、ニュートンは笑顔でユナンの方へと向き直った。まるで、さっきまでの出来事を忘れてしまったかのように。
「少し気分が良いから、君に最後のチャンスをあげようじゃないか。…こうなりたくなかったら、必死に考えて欲しいな。」
そう低く言ったニュートンの背後、王国騎士達が、一斉に押し潰され、血しぶきを激しくあげた。
アンナ達はその光景を前に、恐怖で息をすることすら出来なかった。圧倒的な力、それによる理不尽な殺戮の恐怖の前に、人は何もすることが出来なくなる。
だが、ユナンはその恐怖を1回経験している。ユナンはカタナを両手で握りながら、静かにニュートンへと近づいていく。
「…ただの悪あがきでしかない。それは、賢くない判断だ。本当に、残念だよ。」
ニュートンはそんなユナンの様子に、残念そうにそう呟いて、やれやれと首を横に振った。
――悪あがき、たしかにそうだ。
ユナンに勝ち目はない。だが、この感情を、目の前にいる最低なクズにぶつけないと、気が済まないのだ。1回でいい、この男を切り刻みたい。こんな、
「人のことをゴミのような目で見てくるやつに、ろくな奴はいねぇんだよ!」
ユナンがそう叫びながら、ニュートンに斬りかかる。これが、ユナンの心からの答えだ。こんなやつに認めて貰いたいだなんて、思うはずがない。
ユナンの身体を他の人には見えない、紫色の光が覆う。その光は、前回よりも強くなっていた。周りの全てが遅く感じる。ユナンもこの「力」の存在に、気づき始めていた。
一時的な感情の高ぶりで、人の身体能力が向上することはよくある。だが、ここまで急に、人の足が速くなることなんてありえない。それは、本来、人にはない「力」が作用している証拠だ。
「――!?急にスピードが上がった。なるほど、でもまだまだその『力』は弱いね。僕は、君の成長が見たかったよ…」
だが、急激に足が速くなっただけで、ユナンの攻撃はニュートンには届かない。音速を越えたスピードの攻撃でさえ、奴は対処できたのだ。それに比べるとだいぶ遅いこの攻撃なんて、届くわけがない。
ニュートンは少し後方へ下がり、腕をあげた。その瞬間、ユナンは不可視の力によって、地面と衝突する。そのまま、ユナンの骨は粉々に砕け散った。
しかし、それと同時に、ニュートンの片足も謎の力によって切り飛ばされていた。
「あれ?これは…見えない風の刃の罠か。凄いな!」
ニュートンは、片足を切り飛ばされたにも関わらず、何故か嬉しそうである。そんなニュートンの様子を見て、金髪のチャラ男は忌々しそうに呟いた。
「なん…で、嬉しそうなんだよ。くたばりやがれ…バケモノめ。団長…あとはたのみましたよ…」
愛する人の為に戦った少女の攻撃は、ニュートンの足を少し傷つけただけであった。だが、タルクの残した一撃は、奇しくも、今までで1番ニュートンに刺さったのであった。
タルクはここにはいない、「白」の団長に全てを託し、息絶えた。
「この傷は…少しヤバいかな。さてと、気にくわない君だけは殺して、僕はもう逃げるとするよ。」
そんな発言に、ユナンは朦朧とする意識の中、不思議と安堵していた。この世界では、セーナ達は死なずに済むからだ。…さて、次はどうやってこいつに立ち向かおうか。
――ユナンは死の間際、「次」の世界の事を考えていたのだ。
ニュートンが腕を振り下ろした瞬間、ユナンの身体は、その力に耐えきれずに飛び散った。
「ユナン!!どうして…わたしを置いていっちゃうの?」
そんなセーナの悲痛の叫びを、ユナンは知らない。彼は既に、次の世界へと旅立ってしまったからだ。
「人智を超えた力は、人を狂わす…か。」
――女神がそう面白そうに言った声も、ユナンには届かない。
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