漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜   作:早見 綿飴

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第一章幕間 『不変の真理』

 アーサーはドラクロス山の上空に辿り着いた。普段ならそんな寄り道をしている暇は無いが、これも1人の契約者の頼みだ。無下にはできない。

 

 アーサーは雲よりも高いその山を、蒼炎の瞳でじっと眺める。山頂には雪が積もっており、荒々しくも神々しいその姿は圧巻である。世界中を探しても、ここまで高い山はそうそう見つからない。古龍が眠っているなんて伝説が生まれるのも無理はないだろう。

 

 彼の瞳が金色に光る。加護を発動させたのだ。魔力の流れ、量を可視化する加護。それは相手の戦闘力を測ったり、古龍の出現場所の予測など世界を脅かす災害の発生を予知する時に重宝する。そういう災害が起こる前には必ず周囲の魔力が活性化するのだ。

 

 「――!」

 

 そしてドラクロス山を見たアーサーは、驚いたようにその目をみはった。山の中心に膨大な量の魔力が集まっている。そして今もなお、そこに向かって周りの魔力が流れ込み続けているのだ。それは例えるなら、火山の噴火の1歩手前の状態。「何か」によってその魔力溜まりが反応してしまえば、古龍レベルの自然災害が発生してしまうであろう。

 古龍は自分と近い存在の竜に反応してしまうという。あとで竜人の国へ行って、王に警告でもしておこう。

 ここには頻繁に足を運ぶことになるな…

 

 光の守護者は女神の代わりに、直接手を下す代理人。常に出ている命令は大罪の十二宮の殲滅。その他の仕事は女神から直接お達しが下る。

 つまりその古龍を倒すかの判断は女神が下すのだ。世界が滅亡する程のものでない時は「人々」にその処理を任せる。あまり世界に干渉し過ぎないというのが女神の自論である。それに特に思うところはない。だが命令されれば、すぐに対処できるに越したことはないであろう。

 

 

 全く最近は本当に忙しい。僕は大罪の十二宮の殲滅に専念したいのだが…

 そう思いながらアーサーは、自分の腰にある剣を手に取って眺めた。そして今日の出来事を思い出す。

 大罪の十二宮ニュートンを倒したことに、まだあまり実感が湧いていない。…彼を倒すことが出来たのは、この剣のおかげでもあるからだ。

 

 聖剣エクスカリバー。歴代全ての光の守護者の「思い」が宿っている剣だ。それは歴代全ての光の守護者の「加護」を使用できるという意味でもある。つまり、光の守護者は継承していくほど強くなっていくのだ。僕は51代目の光の守護者だ。そして、僕は51個の加護を扱える。

 それでも大罪の十二宮ニュートンは強敵であった。

 

 先代の父はとても強かった。だが父はニュートンを含む大罪の十二宮3人を同時に相手にして、殺されたそうだ。

 その仇を討てたことにアーサーは喜びを噛みしめる。だが、まだあと2人残っている。僕の代で、その2人だけは必ず仕留めないといけないのだ。

 

 そうアーサーは強く心に誓い、前を向いた。すると、そんな彼に声がかかる。

 

 「アーサー君、おめでとう!200年もこの世界にのさばった大罪の十二宮ニュートンを見事討ち取ったんだね。先代の仇も取れたじゃないか!!」

 

 「まだあと2人残っていますよ。…それでその服装はどういった意味合いで?」

 

 アーサーに声をかけてきたのは、女神だった。だがその格好はいつもとは違い、紺色のドレス姿になっていた。頭には豪華な装飾が施された金色のティアラを付けている。

 何故か女神は自分の服装をコロコロと変える。そういった趣味を持っているのだろうか。

 女神の顔はたしかに絶世の美女である。だがどんなもので着飾っても、不思議と彼女に美しさは感じない。まるで人形が自ら着せ替えをしているかのように思えてしまうからだ。

 ――女神からは人間味が感じられない。

 

 「君の勝利を祝う為のパーティーの格好に決まっているじゃないか。はぁ、君は乙女心が本当に分かっていないね。そんな調子では、君が次の世代の子供を残せるかどうか心配だよ。まだ彼女の1人もできていないんだろう?」

 

 そんなアーサーの問いかけに、女神は大変不満そうだ。女神は頬を膨らませて不服そうな表情をこちらへ向けてくる。しかし、その仕草は酷く演技じみている。

 あなただけにはその心配をされたくはない。というかこの女神に乙女心というものが本当にあるのだろうか。

 

 「力及ばず、申し訳ありません。仕事が山積みになっていまして…とても僕にはそんな余裕が無かったのです。」

 

 アーサーは眩しい笑顔を女神に向けてそう返した。しかし、彼女の機嫌は一向に直らない。

 

 「むっ。それ、遠回しにボクのせいって言っていると思うんだが。」

 

 「今日の女神様はご機嫌があまりよろしくないようで。…どうかされましたか?」

 

 アーサーはそんな女神の様子に苦笑しながらそう問いかけた。

 いつもだる絡みされるが、今日の女神はいつにも増して酷い。

 

 「まあボクの機嫌が悪いのは認めるよ。君のせいで楽勝に突破してしまったからね…。彼にはもっと色々と試して欲しかったんだよね。」

 

 その女神の言葉を聞いて、アーサーの脳裏にユナンの姿が思い浮かんだ。

 古龍の復活も予言していたし、本当に不思議な子であった。まさか…

 

 「今日出会ったユナンという少年、本当に不思議な子でしたが…」

 

 そのアーサーの言葉を聞いて、女神は一気に機嫌を取り戻した。そして紫色の瞳を輝かせて興奮しながら、アーサーの話に食いついてきた。

 

 「あぁ、その子だよその子!ボクの『お気に入り』なんだ!」

 

 「なるほど、そうでしたか。しかし大罪の十二宮の殲滅は僕『達』の悲願でもあります。どうかご理解頂きたい。」

 

 「分かっているさ。まあどうせ詰んでいたようだし構わないよ。…君を引き寄せたのも彼の選択の一つだ。」

 

 どうやら女神は相当ユナンの事を気に入っているらしい。…気の毒に。本当に彼には運が無いのであろう。女神に魅入られた者など、ろくな運命を辿らない。

 優しい人に限って不幸な運命を辿る人が多い。むしろ、大罪の十二宮は無駄に運が良い。光の守護者に追われながら200年も生き長らえるなんて、余程の運も必要である。何故、運勢というのはこうも残酷なのか。『幸運』の加護の持ち主にでも聞けば、その答えが分かるのであろうか。

 

 「さあ、まだまだボクを楽しませておくれ。ユナン。」

 

 他人の人生を狂わして楽しむ、そんな『狂人』の様子をアーサーは眺めていた。だが、この『狂人』のおかげで願いを叶え、あるいは力を手にして幸せになった者も大勢いるのは事実だ。だからこそ、アーサーは彼女に従う。彼は夢を追い続ける契約者達の事が大好きなのだ。

 

 ――夢を追いかける人間は、何よりも光輝いていて美しい。

 

 「ユナン、君とはまた会えそうだ。君が自分の夢を追い続ける限りね。」

 

 そしてアーサーは再び黄金の光を身に纏い、暗い夜空を飛んでいく。そんな彼の姿は誰よりも光輝いており、何より美しかった。

 ――彼もまた夢を追い続ける1人の人間なのである。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 これはユナンが「死」のループから脱出した少し後の物語。場所はとある農村。ロッカという紫色の甘い果実が名産の村だ。

 

 ある少年は両親の農作業を手伝っていた。今はまだロッカの木に緑色の果実がついてる時期であり、収穫は少し先である。しかし、虫は容赦なくそんな緑色の果実にかぶりつく。だから人間が手を加えてやる必要があるのだ。

 

 晴天の空の下、少年がいつものように木についた虫を取っていると、彼の目の前で緑色の果実が自然と地面に落ちてしまった。

 

 「ああ、もったいない!」

 

 それは少年の心からの叫び。この果実は結構高値で売れる。1個たりとも無駄にはしたくないのだ。なんで勝手に地面に落ちてしまうのか。そうしたら売れなくなってしまうではないか。いっそ真上にでも飛んでいってくれた方が気分が爽快になるってもんだ。

 そんなことを考えていた少年はある疑問を抱く。

 

 ――なんでロッカはいつも下に落ちるんだろう。

 

 それは普通の人からしてみれば悩む価値すらない、意味の無い疑問。だがその少年にとっては魂を揺らすほどの疑問であったのだ。

 

 「おーい。何ぼーっと突っ立ってるんだ?お前も、もうすぐ16歳になるだろ?そろそろ本格的に仕事を覚えて貰わないと…」

 

 呆然としたまま作業を中断していた少年を見て、父親が注意をする。だが少年はそんなことには全く聞く耳を持たない。そして、父親にある質問を投げかける。

 

 「ねぇ、父さん。ロッカはなんでみんな下に落ちちゃうんだろう。」

 

 そんな少年の当たり前の質問に、父親は呆れたような表情をみせる。

 

 「お天道様がそう決めたんだよ。そんな無駄な事を考えてないで手を動かせ、手を。」

 

 ある意味それも1つの正解なのだが、その答えで少年の疑問が消えることは無かった。しかし、父親もうるさくなってきたので手は動かす。手を動かしたまま、考える。

 

 その「答え」は簡単には出ない。けれどその疑問が少年の頭の中をずっと支配して離れないのだ。少年は悩み続けて、夜もまともに眠れなかった。

 

 朝、昼、晩。常に少年は考え続ける。この謎を解くために、来る日も来る日も考えた。

目に見える全てのものをよく観察し、考え、考え、考え、考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え…………

 

 

 ある日の夜、少年はロッカの木の前に立ち、いつもと同じように考えに耽っていた。少年の目の前で、熟した紫色のロッカが1つ、ぼとりと木から落ちた。

 そして次の瞬間、その少年の身体に電撃が走る。全てが解けた喜びに、全身が思わず反応してしまったのだ。

 

 「つまり、そういうことか!!」

 

 そして少年は世界の真理を1つ『発見』する。だが、彼はそれで満足はしていなかった。世界にはまだまだ多くの謎が眠っているはずである。それを今から探しに行くのだ。

 

 学びを探究し続ける賢者には恵みを。広い世界を旅する『力』を。それは、世界を書き換える『権限』。かつて、本当の創造神が生み出した力。少年は熟考の末、世界の真理を解き明かし、神に1歩近づいたのだ。

 

満天の星空の下、少年はその『発見』に歓喜する。その瞬間、彼の周りに空間の歪みが生じ、ロッカの木から沢山の紫色の実がぼとぼとと地面に落ちた。それらはまだ完全には熟しておらず、自然に落ちるはずが無いものばかりであった。つまりそれは、世界を書き換えられた事による超常現象。少年は己の『発見』を確認するように、初めて『力』を使ったのだ。

 

 「この先には何が待っているんだろう。」

 

 そして少年は紫色の瞳を輝かせながら、星空の下を歩き始めた。未知なる世界を見にいくのだ。まだ見ぬ謎を、少年は求める。

 そんな賢者の第一歩を、夜空に浮かぶ無数の星たちが、その輝きをよりいっそう強めて祝福していた。新たな賢者の誕生に星々は歓喜する。

 

 星座はいつの時代でもその姿、形を大きく変えることは無い。人類は昔から、それを「目印」にしてきた程である。それと同じで世界の真理も決して変わることは無いのだ。

 

――賢者がこの世に誕生し続ける限り、大罪の十二宮は不滅なのである。

 




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