漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜   作:早見 綿飴

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第二章10 『王都アルヴヘルム』

 「王都キター!城門でけぇー。」

 「オレも初めて見たよ!すげぇ!!」

 「本当、こんなに大きくてびっくりしちゃった。」

 

 ユナン達は1ヶ月の旅の末に、ようやく目的地の王都アルヴヘルムへと辿り着いた。今いるのはその入口前。その城門の大きさに、ユナン、キリマル、セーナは驚きの声を上げたのであった。

 

 その城門の高さは人の身長の10倍、いやそれ以上はあるだろう。そしてそれと同じ高さの城壁が、王都周辺をぐるりと囲っているのである。たとえ巨人であろうと、それを飛び越えることは不可能であろう。城壁には灰色の強固な石材を使っており、外壁にびっしりと付いている傷が、この王国の歴史の長さを証明していた。

 

 王都アルヴヘルムはラムザ平原のど真ん中に位置している。そしてラムザ平原にはラムール川と呼ばれる1本の大きな川が流れているのだ。水源は人々が生活する上で欠かせないものである。つまりラムール川のおかげで、この地は古くから人々に愛され、国の中心部分となるまでに発展したのである。

 

 驚きの声を上げるユナン達に向かって、アンナが赤い眉を顰めながら注意をした。

 

 「感動するのも分かるけど、他の人もいるのよ。アンタたち、声がデカいわよ!」

 

 「…オレ、今のアンナの声の方がデカいと思うぞ。なあ、ユナン。」

 「俺もそう思う。」

 

 「アンタたち。首輪…する?」

 

 「すみませんでした!!」

 

 アンナの脅しに屈服し、ユナン達は一瞬で頭を下げた。彼女はやると言ったら、人前であろうがなんだろうが、マジでユナン達に首輪をつける。ユナン達は王都デビューをそんな恥ずかしい格好で、したくは無かったのだ。そんな彼らの考えをアンナはもちろん見抜いている。

 

 「あーリュックが重いわね。キリマルー?」

 

 「はいはい、オレが持ちましょうか?」

 

 「肩凝ったわね。ユナン〜?」

 

 「はいはい、お嬢様。かしこまりました!」

 

 ユナンとキリマルはぎこちない笑顔を浮かべながら、アンナの命令に従うほか無かった。ユナン達はまるで家来のように、アンナのご機嫌取りをさせられた。

 クソ!後で覚えてろよ、アンナ!

 

 「――?急に優しくなって、ユナンとキリマルったら変なの。」

 

 そんなユナン達の様子を、セーナは首を傾げて不思議そうに眺めていた。どうせご機嫌を取るなら、こんな純粋な少女に向けてしたかった。ユナンはセーナを見ながら、そんなふうに心の中で呟く。

 するとそこへ、門番と話していたジークが戻ってきた。

 

 「…おまえら、何してるんだ?」

 

 「ユナンとキリマルが『じぶんから』アタシの為にしてくれてるのよ。」

 

 「はぁ。遊びも大概にしておけ…」

 

 「それで、お話はどうなったの?」

 

 「もちろん上手くいった。全く、契約者も不便な身だな。」

 

 契約者が王都に入る時には、特別な申請が必要となる。もちろんそれは安全上の理由である。契約者はそれほど、敵に回れば厄介であるということだ。

 

 「それじゃあ中に入りましょうか!」

 

 アンナがそう仕切り、ユナン達は門へと向かった。門番は2人。1人は青のマント、もう1人は赤のマントを羽織っていた。どうやら2人とも王国騎士であるようだ。

 

 「門番って王国騎士がしてるんだな。」

 

 「そうよ、当番制でね。まあアンタたちもいずれやる事になるかもね。」

 

 ユナンの呟きに反応したのは、青のマントを羽織った女性。青色のショートカットヘアで、姉御肌の女性であった。

 そしてジークが律儀にその女性に向かって挨拶をする。

 

 「自分は『青』の騎士団に入るつもりだ。また今度世話になるかもしれない。その時はよろしく頼む。」

 

 「まあ、良い男じゃないの。楽しみにしてるわ。久しぶりにアタシが教育係をしてみようかねぇ。」

 

 「ちょっと、もう行くわよ!」

 

 そんな2人の会話を遮るように、アンナがそう言った。アンナは頬を少し膨らませながら、強引にジークの腕を掴んで連れていく。

 

 「おい、まだ挨拶が終わっていないんだが。」

 

 「そんなの、明日いくらでも出来るでしょ。まだアンタは王国騎士じゃないんだから、別にいいじゃない。」

 

 「それでもだな…」

 

 確かにユナンも、あの女性は完全にジークに目を付けていたような気がした。アンナの心中は察するところである。まあ、ジークなら大丈夫であるとユナンは思うのだが、乙女心というのはそんなに単純なものでは無いらしい。

 

 「うわぁ、凄い。こんなに人がたくさん…」

 

 セーナが目の前の風景にそんな感想を零した。ユナンもそのセーナの言葉に釣られて、前の景色を見た。

 

 ぎゅうぎゅうになるほど沢山の人々が歩道を行き来していた。中央には荷物を乗せた馬車などが走っていて、馬車越しに商人達が楽しそうに会話をしている。

 大通りはずっと奥まで一直線に続いており、遠くには大きな城が見えた。おそらく、あれが王城なのであろう。

 大通りの両側には様々な店が立ち並び、客を呼ぶ声があちこち飛び交っている。人々の声が辺りを埋めつくしており、ユナン達は隣にいるのに、会話が困難であるほどうるさかった。しかしそれは王都が賑わっている証拠でもある。不思議と悪い気分では無かった。

 

 「それでどこに行くんだ?」

 

 「まずはアタシ達が泊まる最後の宿を目指しましょう。集合場所が分かったら、後は自由行動よ。」

 

 「最後…か。」

 

 アンナについて行きながら、ユナンはこれまでの旅を思い返していた。

 最初、無一文で見知らぬ土地に放り出された時はどうしようかと思った。けれど、ユナンはこんな素敵な仲間達と出会い、楽しく旅をする事が出来たのである。今では、あの場所に飛ばされた事に感謝すらしている。

 少し寂しいが、明日でアンナ達ともお別れである

 

 ――俺はこれから一体何をすればいいんだろう。

 

 もちろん、一旦は故郷の情報を王都で仕入れて、村へ帰るつもりだ。母さんに自分の無事を報告するためである。

 しかしユナンはこれからの事について、あまり良く考えてはいなかったのだ。

 一応ユナンは明日、自分が何色かだけは確認するために騎士団を訪ねてみるつもりではある。しかし、魔法が使えないユナンを王国騎士団に入れてもらえるとは考えにくい。

 なら、セーナに一緒に旅をしないかと聞いてみるか…

 

 「ついたわ!ここが今日の宿よ。」

 

 「宿もでけぇぇ!オレ、部屋が楽しみだよ!」

 

 ユナンがずっと考え事をしていたら、いつの間にか目的の宿屋にまで到着していた。その宿は、人が何十人も一度に泊まれるほど、大きなものだった。なんと4階建ての木造建築である。優秀な建築士と大工が王都には、いるのであろう。

 

 「それじゃあ夜にはここに戻ってくるように。みんなで夜は打ち上げよ!じゃあ、一旦解散!」

 

 「打ち上げ、うっひょー!」

 

 「とりあえず、武器屋でも見てくるか。王都なら、珍しい矢が売ってるかもしれん」

 

 なんか周りを見ていたら、ユナンのこれからの悩みなんて、どうでも良くなったきた。ユナンは気を取り直し、キリッとした目をしてこう叫んだ。

 

 「じゃあ俺は、王都を探検してくるぜ!」

 

 「アンタ…迷子にならないようにね。」

 

 「大丈夫だって!」

 

 ユナンはアンナにサムズアップをしてそう言った後、どこかへ駆け出して行った。

 

 「あっ…待って。」

 

 セーナはそんなユナンを呼び止めようとする。しかし、王都の景色に完全に目を奪われているユナンは、それよりも先に走り去ってしまった。

 セーナは、ユナンと一緒に服を買いに行く約束を果たしたかったのだ。

 

 「それなのに、すぐどこかへ行っちゃうんだから。まさかわたしとの約束、忘れてないよね…」

 

 セーナが頬を膨らませながら、もうここにはいないユナンに向かって、そう文句を言ったのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 キリマルは通りを歩く沢山の人々に目を凝らしながら、その『ターゲット』を捜していた。普通、こんな人混みの中で、一人一人の顔を確認していく事なんて出来るはずがない。しかしキリマルは、とてつもない集中力を発揮して、その人間離れした業を可能にしたのであった。

 

 「美人さん、みっけ!」

 

 そして彼は『ターゲット』に一直線へと向かっていく。人混みをかき分けた先には、1人の少女の姿があった。

 

 その少女は、赤い大きなリボンでその黒髪を括り、ポニーテールの髪型をしていた。白と赤を基調とした服。上は主に白で、下は赤のスカートだ。その服装はキリマルの里にいた巫女の格好に似ていた。

 もちろん、顔はキリマルが惹かれるほど可愛い。胸は小さいが、その可憐な立ち姿からは、清楚さが滲み出ていた。清楚な女性はキリマルのタイプでもあるのだ。

 そしてキリマルはいつものセリフで、その女の子に語りかけた。

 

 「そこの美しいお嬢さん。オレと一緒にお茶でもしませんか?」

 

 ちなみにキリマルの経験上、この誘いに乗ってくれる確率は1パーセントである。その1パーセントとは、キリマルを面白がったアンナの事であった。つまり、大体は断られる。しかし、それで引くようでは男が廃るというものだ。

 

 「お茶!?いいわね、私ちょうどお腹が空いていたの!」

 

 「ああ、無理なのは分かっていますよ。けれどオレは君と運命の…え?今なんて?」

 

 「いいって言ったのよ!さあ、行きましょ?」

 

 「う、うん。」

 

 だがその少女は断るどころか、食い気味にキリマルの誘いに乗ってきたのであった。キリマルはそんな少女の様子に少し戸惑った。

 オレから誘っておいてなんだけど、この女の子、少し変じゃね?清楚というか、天然元気っ子って感じなのかな?

 

 「私の名前はリンデル。リンって呼んでね。」

 

 「お、オレの名前はキリマル。よろしくリンデルちゃん。」

 

 「むっ。だからリンでいいってば。」

 

 少し距離を置いたキリマルの呼び方に、リンデルは頬を膨らまして怒った。…顔が近い。あのキリマルでさえ1歩引いてしまうくらい、その少女はぐんぐんとキリマルに距離を詰めてきたのである。

 

  「よ、よろしく。リン。」

 

 キリマルは少し苦笑いをしながら、そう言ったのであった。

 

 2人は大通りの外れにある、茶屋に足を運んだ。キリマルの里にもあったが、あそこ以外で茶屋があるのは珍しい。さすがは王都、どんな店でも探せばある。

 キリマルは久しぶりの団子を美味しそうに頬張った。懐かしの故郷を思い出す。別に故郷にそこまで良い思い出は無いが…

 隣に座っているリンデルも、団子を美味しそうに食べていた。その食べる仕草は何故か上品であるように感じた。

 それからリンデルとキリマルは、団子とお茶を楽しみながら、たわいのない話をしていた。

 

 「へー、キリマルは旅をしながら王都まで来たんだ。どんな旅だったの?」

 

 「そりゃ、大変だったって。変な力を操る男に、光る正義のお兄さん。蜘蛛女みたいな化け物にだって出会ったよ。」

 

 「凄い旅だったんだ…楽しそうー!」

 

 「今のオレの話、ちゃんと聞いてた?」

 

 「うん!蜘蛛女、私も会ってみたいなぁ。それで襲ってきたら、ドカーン!って吹き飛ばすの!」

 

 腕を高く掲げて、そう叫んだ少女には清楚の「せ」の字も感じられ無かった。しかしキリマルは、そんな彼女と一緒にいて結構楽しかった。それは美人なお姉さんと一緒にいて感じる楽しさとは違い、どっちかというと、ユナン達と一緒にいる時に感じるものと似ている。

 当初の目的からは大きく外れてしまったが、たまにはこういうのも悪くは無い。

 

 「ねぇ、もっと色んな話を聞かせてよ!」

 

 そんな少女の薄紅の瞳は光輝いていた。キリマルは珍しく自然な笑みを浮かべながら、話を続ける。

 

 「それじゃあ次は…」

 

 キリマルの話を、リンデルは元気に相槌を打ちながら、楽しそうに聞いていた。

 そんなキリマルの午後の時間は、あっという間に過ぎ去ったのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 「ここどこだ?…って王都広すぎんだろ!!」

 

 ユナンの肌にひんやりとした空気が当たる。大通り沿いは、活気に満ち溢れていて明るかった。しかし人っ子1人いないこの路地裏は、昼間なのに薄暗い。

 

 ユナンも最初は、普通に大通り沿いの店を見て回っていた。しかし、途中で飽きてしまったのだ。だからユナンは、探検家気分で細い路地へと続く道に足を踏み入れてしまう。

 

 ――それが最大の過ちであった。

 

 そして案の定、ユナンは帰る道を忘れてしまい迷子となってしまったのだ。薄暗い場所というのは、人を不安にさせてしまうものなのである。

 

 「なんか出てきそうだなここ。早いとこ抜けねぇと。」

 

 そう呟いたユナンの耳に誰かの声が入ってきた。どうやら、怒鳴っている男の声のようである。ユナンの嫌な予感通り、その男の声は荒くれ者のような声であった。

 

 「おい、あんまり大人を舐めるんじゃねぇぞ?痛い目見るか?」

 

 「女だからって調子にのんじゃねーぞ!?」

 

 「きゃー!助けてーお巡りさーん。」

 

 男は2人いるようであった。そしてそんな男達に絡まれ、助けを呼ぶ女の子の声がする。しかし、

 

 「こんな路地裏でお巡りさん呼んでも、都合良く来るわけねぇだろ…」

 

 ユナンはそう呆れたように言いながら、声の元へと向かう。

 

 狭い路地を抜けると目の前が一気に開けた。どうやら薄汚い広場のようである。そこには、チンピラのような男が2人と、亜麻色の髪をした少女が1人いた。そして少女は駆けつけたユナンを見て、笑顔でこちらに手を振った。

 

 「あっ、お巡りさん。助かります〜!」

 

 その少女の声は可愛い。だがぶりっ子っぽい声であるせいか、少しわざとらしく感じてしまう。…地声低そうだな。

 

 「どう見ても違ぇだろ。その目は何のためにあるんだよ。俺は一般人だ!」

 

 「えぇー。初対面の人にそんなに言わなくてもいいじゃないですか〜。」

 

 そんなユナンのツッコミに、亜麻色の髪の少女は苦笑してそう返したのであった。

 

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