漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜   作:早見 綿飴

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第二章11 『打ち上げ』

 

 目の前にいる少女はユナンと同じくらいの年齢であろうか。しかしその服装は大人びている。黒のキャスケット帽を被り、茶色のハイネックニットの上に水色の上着を羽織っている。下は黒のショートパンツで、寒くないようにタイツも履いていた。ユナンからしてみれば、都会っ子のような服装である。

 亜麻色の髪は首元まで伸びており、薄黄色の瞳が印象的だ。

 

 「それでこれ、どういう状況?説明プリーズ。」

 

 「プリーズってなんだ兄ちゃん?」

 

 「ちょうだいって意味だよ。俺の母さんがよく言ってたから、移っちまったんだ。悪い悪い。」

 

 ユナンは頭を搔いて、恥ずかしそうにしながら謝罪をする。状況の説明を求めた理由は簡単だ。目の前にいる少女から胡散臭いオーラを感じるからである。

 

 「このくそアマが俺らの財布を盗みやがったんだよ!」

 

 「だからワイっちらはその仕返しをしようとしてたってわけよ。」

 

 「だから財布は返したじゃないですか〜!」

 

 チンピラ2人の証言を聞いて、ユナンが冷たい視線を少女へ向ける。やはりこの少女は隠し事をしていた。そういう勘にユナンは鋭いのである。

 自分からチンピラに喧嘩を打ったのだ。仕返しをされても文句は言えないであろう。

 

 「なるほど。大体の状況は分かった。それじゃあ俺はもう行くから、3人で仲良くごゆっくりどうぞ〜。」

 

 「待って、待ってってば!仲良くなんか出来るわけ無いでしょ!話聞いてました?というか、こんなか弱い女の子を見捨てるなんて、信じられないんですけど。」

 

 「自分で言うのか…見捨てるもなにも、自業自得じゃねーか。強く生きてくれ。」

 

 ユナンはそう言ってその場から立ち去ろうとする。後ろから少女が俺を罵る声が聞こえてくるが、知ったこっちゃない。…と思わせておいて、

 

 「おまわりさーーーん!!」

 

 ユナンは全力でそう叫ぶ。その声は大気が震えるほど大きい。そしてうるさい。その場にいた3人は突然の爆音に耐えきれず、耳を塞いだ。

 

 「な、なに!?ってかうるさっ。」

 

 「こんぐらいしなきゃ、おまわりさんは来ないんだぞ?」

 

 「なんでこの人、ちょっと自慢げにしてるんですか…」

 

 「残念だが兄ちゃん、そりゃ無駄だ。ここは貧民街の端っこ。衛兵なんざ寄りつきゃしないのさ。」

 

 「そうだね、私は衛兵では無い。」

 

 それは落ち着いた男性の声であった。その声からはどことなく気品が感じられる。

 

 いつの間にかユナンの隣には、1人の男が立っていたのだ。その男は紫色の艶やかな髪をさっと掻き上げた。彼の服装は騎士の正装に青色のマント。つまり、

 

 「青の王国騎士!」

 

 「しかもただの王国騎士じゃねーよ。こいつは、青の王国騎士団長へンリー・アルバートだ!」

 

 「おや、貧民街の者達にまで知られているとは光栄だね。…その称号はまだ私には重すぎるが。」

 

 「そんなわけねぇだろ!どんな魔獣もその槍で一突きしただけで倒れるって噂だぞ?おい、逃げるぞ!」

 

 そう言い捨てて、チンピラ達は急いで路地裏へ逃げていった。

 まさかの王国騎士団長の登場。そのおかげでチンピラ達を追い払うことに成功した。ユナンも戦えないことは無かったが、やはり争いごとというのは避けたいものなのである。武器を使うのは最終手段であると、ユナンは心に決めている。

 ユナンはヘンリーにお礼を言った。

 

 「俺はユナン。チンピラ達に出くわしちまってさ。助かったよ、ありがとうヘンリー。」

 

 「当然の事をしたまでだよ、ユナン。人を助けるのは騎士の務めだ。そちらの女性は?」

 

 「私はライリって言います〜。」

 

 「よろしくライリ。ところでユナンとライリはどうしてこんな所に?」

 

 「俺はマジの迷子。んでこいつは…」

 

 ユナンはチラッと横目でライリを見た。彼女は心配そうな目でこちらを見つめている。俺に窃盗の事を言われたくないのであろう。まあ別に俺が盗られたわけでもないし、とやかく言うつもりは無い。

 

 「ここでたまたま出会ったんだ。お前はここの住人か?」

 

 「――!ち、違います。えっと同じく迷子です…」

 

 「なるほど。それではユナンとライリ。私が大通りまで案内しよう。」

 

 

 そしてユナン達はヘンリーに連れられて、無事大通りへと戻ることができた。時刻はもう夕方になっていた。

 

 「それでは私はこれで。2人とも、もう危険な所には行かないように。」

 

 「マジでありがとな、ヘンリー。」

 「ありがとうございます。」

 

 ユナン達は改めてヘンリーにお礼を言った。ヘンリーは爽やかな笑顔を浮かべて、どこかへと去っていった。

 

 ユナンは颯爽と駆けていくヘンリーに向かって手を振る。そんな時、隣にいたライリから声が掛かってきた。

 

 「あの…助けていただいてありがとうございます。」

 

 「別に助けたつもりはねぇよ。…これに懲りたらもう窃盗なんてすんなよ?」

 

 「――!…優しいんですね。」

 

 そう言った彼女は頬を紅に染め、愛おしそうな目でこちらを見つめている。白く熱い吐息が彼女の口からこぼれた。そんな彼女の様子は、まるで恋に落ちた乙女のようである。

 

 ――しかしユナンは騙されない。

 

 ユナンは昔から人を見る目があるのだ。その人の仕草や表情、話し方などで大体の人物像が分かるのである。

 このライリという少女は普通の人の目には、可愛い理想的な女の子に映るのであろう。

 だがユナンには分かる。それは作られたものなのだ。今まで自分を嘘で塗りたくってきた彼女の人生が、ユナンには見える。

 

 「その演技、気持ち悪いぞ。別に気の強い性格でも、がさつな性格でも俺は気にしない。むしろ、素を出してくれた方が俺には好印象だ。」

 

 そんなユナンの発言にライリは少しだけ目を見開く。しかし彼女はまたすぐに大きな仮面を被った。

 

 「やぁだな〜、これが素に決まってるじゃないですかー。」

 

 その言葉は演技をしていると自分で認めてしまっているようなものだ。まあ彼女もそれには気づいているようだが…

 ユナンはため息をついて、別れの挨拶をした。

 

 「そうかよ。じゃあな、可愛い詐欺師さん。」

 

 「可愛いのは認めてくれるんですね〜。さようなら、声の馬鹿でかいお兄さん。」

 

 最後はお互いに皮肉を言い合って別れた。

 王都には色んな人間がいる。こんな少女はまだ可愛いものだったとユナンが気づくことになるのは、少し先の話である。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 「かんぱーい!」

 

 場所はレストラン「メリッサ・ラムール」。世界中の料理が食べられると噂の王都一番のレストランである。アンナが個室を予約してくれたおかけまで、ユナン達は仲間だけの空間で食事を楽しむことができた。

 旅の打ち上げといった所である。

 

 「ジーク〜おんぶー。」

 

 「おい、アンナ。飲みすぎだ。」

 

 「アンタももっと飲みなさい。アタシの酒が飲めないの〜?」

 

 ジークが酔っ払ったアンナの相手に困っている。だが制御がきかなくなった彼女の相手は、それこそジークにしか出来ない。ジークがこちらに救いの手を求めてきたが、ユナンはキリッとした目で「がんば!」とだけ言った。

 ちなみにユナンは酒を飲んでいない。…初めては家族と一緒に飲みたいからである。

 

 「うぃー!オレ、今日は飲みまくるぜ!」

 

 「なんだキリマル?今日は一段と元気が良いな。ナンパでも成功したのか?」

 

 「…成功したけど、してない。」

 

 「――?」

 

 キリマルが意味のわからない事を言っている。まあ彼の身に、何か良いことがあったのだけは分かる。キリマルが嬉しそうで何よりだ。

 

 「ううー。でもオレ、みんなとお別れになるのは寂しいよ。」

 

 「…それは俺も一緒だな。」

 

 「わたしもちょっと寂しいかな。」

 

 キリマルに賛同して、ユナンとせーナも寂しそうにそう呟く。…セーナはさっきからお酒をぐいぐい飲んでいるが、平気なのだろうか。

 

 別に明日からみんなとの関係が無かったことになる訳では無い。それでも王国騎士に入るつもりのジーク、アンナ、キリマルとはあまり会えなくなるであろう。

 

 「アンタたち、何情けない顔してんのよ。しゃきっとしなさーい!」

 

 「王国騎士団も月に3日は休みを取れる。日を合わせれば、みんな揃ってまた会うことができるだろう。」

 

 「ほんとうか!?」

 

 「本当だ。お、おいユナン。顔が近い。」

 

 ジークの発言に、ユナンは目を輝かせて喜んだ。

 王国騎士団は毎日警備に追われ、超ブラックな集団だと思っていたが、意外と休みがあるようで安心した。これなら、月に1回はみんなと会うことが出来るであろう。

 

 そんな時、セーナがいきなりユナンに絡んできた。

 

 「ユナンこそみんなで会う日をちゃんと守れるの〜?すぐに約束忘れちゃうんだから〜!」

 

 「って急に酔うなおい!あんなに飲んだらそりゃヤバいわ。」

 

 「酔ってませーん。ユナンの方が酔ってるじゃない。ぐにゃぐにゃしてて、変なの〜。」

 

 「…ダメだこりゃ。」

 

 セーナは急に酔っ払う体質のようだ。そっちの方がタチが悪いのだが…。

 彼女はいつもより近い距離までユナンに接近して、可愛い眉を顰めながらこちらを睨みつけている。セーナの頬は紅に染まり、熱い吐息が口からこぼれる。

 

 夕方も同じような光景をユナンは見た。しかし彼女は酔っ払っているだけである。それでも、その妖艶な彼女の姿に、ユナンの胸はドキッとした。作りものの演技とはインパクトが桁違いである。

 

 「むー。今日だって服を買いに誘おうとしたのに、ユナンはすぐどこかにいっちゃうんだから。わたしたち、約束したじゃない。」

 

 「いや1週間前に買いに行ったばっかじゃねーか。もっと先の話を俺はしてたんだよ!」

 

 「言い訳しない!」

 

 セーナがそう言ってユナンを叩く。そんなユナンとセーナの痴話喧嘩は、傍から見れば微笑ましいものである。

 

 ――しかしユナンを叩いたセーナの力が尋常ではなかった。

 

 「あぶばびば!?」

 

 予想以上のパワーでセーナに叩かれ、ユナンは大きく吹っ飛んだ。転がり方が悪ければ、首の骨を折っていたかもしれない。

 

 「ユナン大丈夫か?」

 

 「死ぬかと思ったわ!なんだあの力!?」

 

 「ふん。少しは反省した?」

 

 「その場で宙返りして土下座するレベルの恐怖だったわ!」

 

 危うく痴話喧嘩から殺害事件に発展するところであったのだ。こんな可愛い女の子に殺されかけるなんて、世の中は広い。というか、

 

 「竜人マジぱねぇ…」

 

 ユナンはまた竜人の新たな側面を知ることとなったのだ。その後、ユナン達の楽しい宴は夜遅くまで続いた。

 

 ――これから始まる苦難の道を、まだユナンは知る由もなかった。

 

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