漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜 作:早見 綿飴
意識を取り戻すと、俺は真っ白で何も無い空間に立っていた。
…ここが天国ってやつなのか?
「何故黙りこくっているんだい?おーい、聞こえてますかー?」
どうしてこんな所に?俺は確か、ドータと合流してから、化け物と遭遇して――胸を貫かれた?しかし、今の俺の胸に穴なんて空いていない。
「おかしいなぁ…耳はついているはずなんだが。頭に問題が?それとも、言葉が理解できないほどバ…」
「はいはい聞こえてるよ!ちょっと頭の整理をしてただけだ!んでさっきからちょくちょく俺を煽ってくるのは誰だ?」
後ろから聞こえてきた声にそう答えて、ユナンは勢いよく振り返った。
そこには、白い椅子のひじ掛けに頬杖をつき、足を組んで座っている人がいた。
薄茶色の髪を首元まで伸ばしている。肌の色は雪のように白く、中性的な顔立ちで整っている。目の瞳は紫色に輝いており、珍しい色だなと思った。襟付きの黒の縦すじが入った白い半袖のシャツの上に、黒色の袖がない上着を着用している。黒いホット・パンツに、黒いタイツ、黒いブーツを履き、手には黒いショーティーをはめており、変わった格好だなと思った。
…何故か白シャツの胸元を開けており、黒のブラジャーが露出している。女性であるのは、間違いないようだ。
「ボクが誰かって?うーんそれは難しい質問だね。まずボクには名前というものが無いんだ。ただ、いつしか人間はボクをこう呼ぶようになったね。」
そして勿体ぶるようにしてその女性はこう答えた。
「―――神と。」
その場の空気が一変したように感じ、俺は息を呑んだ。なるほど、どうりで同じ人間のように感じない訳だ。でもそうだとすると、
「じゃあここは天国ってことか?俺は死んだのか?」
「いや、君は死んではいないよ。言っただろう?人間が勝手にボクの事を神と呼んでいるだけだと。まあここは…精神世界とでも言っておこうか。」
彼女が苦笑しながらそう答える。それなら、
「じゃあ何故俺はここに呼ばれたんだ?おまえの目的は?」
「いや呼んだのはボクじゃない。君がボクを呼んだんだ。…だがボクにも目的はある。ユナン、ボクと契約を結ばないかい?」
契約!なるほど、母さんが言っていたのはこういうことだったのか。というか契約って、てっきり精霊とかと交わすのかと思っていたが、まさか神様と交わす事だったとは。ちゃんと母にいろいろ聞いておけば良かったなぁ。
あの黒い怪物を思い出す。…俺にもっと「力」があれば。ドーゼル達と一緒に戦えたのかもしれない。アベルの息絶えた姿が俺の脳裏に焼き付いて、離れない。
――あの怪物に復讐したい。そのための力が欲しい。
「…契約を結びたい。俺には力が必要なんだ。」
彼女が意味深な笑みを浮かべた。
「では、契約を結ぶとしよう。ユナン、君の願いは?」
「…は?俺が欲しいのは力なんだが。」
「そんな曖昧なものじゃなくて…これも知らないのか。力は勝手についてくるが、力の他にもうひとつ。ボクを呼べる程の器を持った者は、契約の際、何か1つ願いを叶えることができる。……というか魂に刻みついているほど、強い願いを持ってないと、ボクを呼ぶことなんて出来ないはずなんだが。たまにいるのさ、君みたいな人が。まあラッキー程度に思いなよ。」
「…ほんとに何でも叶えてくれるのか?」
今の話が本当なら、アベルを生き返らせる事だって出来るかもしれない。
「それは君の〔器〕と願いの内容次第かな。まあ言うだけ言ってみなよ。」
「じゃあ、俺の友達にアベルって奴がいるんだ。そいつを生き返らせて欲しい。」
彼女は右手の人差し指を唇に当て、考える仕草をしてから、こう答えた。
「うーん。君はそういう〔器〕では無いらしい。それに…おっと、これは規約違反だね。危ない危ない。」
よく分からない事を言っているが、この願いは叶えられないらしい。まあ死者を蘇らせる事が出来るなんてうまい話、そうそう無いか。
…だいたい、こいつは神って呼ばれてるだけだしな。
「あっ。1つだけ勘違いしてもらっては困るが、願い事は本来、大抵、何でも叶えることができるんだ。……人間の願いは凄いからね。今回のは例外中の例外だよ。そうだね、自分に関する願いなら、君の〔器〕で大抵の事は叶えられると思うよ。」
自分に関する具体的な願いか。風よりも速く走れるようになるとか、山をも砕く力とか、色々浮かびはするが…
黒い怪物と戦って、死んでいった4人の騎士を思い出す。これからもあんな怪物が沢山待ち受けているのかもしれない。
…俺は奴に復讐するまで死にたくない。いや、死ねない。
「おや、とてもいい顔になったね。願いが決まったようだ。さあ、ボクに言ってごらん。」
「俺には復讐したい相手がいる。そいつを倒すまでの道中で、死にたくなんかない。これが俺の願いだ。いけるか?」
彼女がまた、意味深な笑みを浮かべてこう言った。
「あぁ、もちろんだとも。君の〔器〕に合った形で願いは叶えられるだろう。それでは、契約を始めよう。」
そう言って彼女は俺の胸に手を当てる。
「汝の感情を解き放ち、本来のあるべき姿へと。契約はここに結ばれる。」
彼女がそう口にした途端、ユナンの胸から紫色の光が溢れ出す。
そして、胸の中の何かが解き放たれるのを感じる。
「うわぁあぁあぁああぁあ!」
これまで経験したことの無いふわっとした不思議な感覚に、ユナンは思わず叫び声をあげる。そして、少しずつ、ユナンの意識は遠のいていった。
「…さて、君の願いの結末はどうなるのやら。」
そんな声を聞いた直後、ユナンは完全に気を失った。
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