漆黒の契約者 〜魔法が使えない少年は『死』の運命に立ち向かう〜 作:早見 綿飴
「輝石が、ない!?」
セーナが悲鳴じみた声をあげて、頭を抱えている。
輝石?なんだそりゃ。ここまで気が動転してるってことは、彼女にとって、とても大切なものなのだろう。
「どこかで落としたのかな?どうしよう、どうしよう…」
セーナはそう呟きながら、意味もなく、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしている。
…なんか小動物みたいで、可愛いな。
ユナンはそんな事を思いながら、セーナに少しカッコつけた声で、こう呼びかけた。
「コホン。なにか、お困りのようだね。手伝おうか?」
「…いや結構です。それでは。」
「なんか冷たくね!?これでも俺たち、半日一緒に買い物した仲だよなぁ!?」
「ごめん。ちょっと気持ち悪くて、つい冷たくしちゃった。でも、ほんとに手伝いは要らないの。――これは、わたしの問題だから。」
…何か、あまり関わって欲しくない理由があるようだった。だが、あんなに気が動転した姿を見せられて、大丈夫だとは思えない。それに、
「何度も言うが、俺は君に恩返しがしたいんだ。君が困ってるなら、俺は君の力になりたい。」
ユナンは真っ直ぐにセーナの目を見つめ、そう答える。この言葉に偽りはない。
セーナは少し戸惑いの表情を浮かべた後、意を決したように、俺の目を見つめる。
「わかったわ。ちょっとついて来て。」
そう言って、セーナに連れて来られたのは、町はずれの人目につかない場所であった。そして、彼女はフードを取った。
腰まで届くほど、長い艶やかな銀髪。均整のとれた顔だち、きめ細やかな肌は雪のように白い。そんな相手に天使のような眼差しを向けられては、誰だって、心を奪われる。
「…超が付くほど可愛いな。なんで、フードなんか被ってるんだ?もったいなすぎるだろ…」
ユナンは思わず、そんな感想を口にする。
「お世辞はいいから。…今からその理由を説明するの。」
セーナは少し頬を赤らめて、恥ずかしそうにユナンの評価を受け流す。そして、真剣な表情で、ユナンに背中を向け、白いローブを脱ぎ始め…
「待て待て待て!こんな所で脱がれても!?」
ユナンは顔を真っ赤にして、恥ずかしがりながら必死に止めようとする。
「いきなり裸になったりなんかしないわよ。…これを見て欲しかったの。」
セーナの背中から、水色の翼が生えている。
枝分かれした骨、先に鋭い鉤爪が生えているそれは、竜の翼を彷彿とさせる。
「わたしは、竜人という種族なの。人じゃないのよ。だからあなたも、わたしと関わらないほう――」
「カッコイイな!竜人とか初めて見たぞ!」
「えっ…わたしの話聞いてた?わたしは竜なのよ!人に嫌われている…」
「セーナが人に対して何か悪いことをしたのか?」
「いや…別にわたしは何もしたことないけれど…」
「なら関係ねぇじゃん。なあなあ、竜ってことはブレス吐けたりすんのか!?」
目を輝かせながら、ウキウキで聞いてくるユナンの様子に、セーナは目を大きく見開いて驚いた。そしてユナンからまた背を向けて、その場にしゃがみ込んだ。
「…この姿じゃ吐けないわよ。それにしてもユナンって、本当に変な子。…本当に、バカなんだから。」
「なんで俺罵られたわけ!?…まあ俺にそんな重大な事を話してくれたってことは、つまり、輝石っていうのが竜人にとって、とても大切なものってことか。」
セーナはその場を立ち上がって振り返り、ユナンの方を見る。
「そういうこと。あれが無かったら、わたしは竜に戻れないの。」
「…そりゃ大変だな。ブレス、吐けないもんな。」
「別に、ブレスが吐きたくて、竜に戻りたいわけじゃないからね!」
セーナは、ぷりぷり怒りながら、必死にそう訴えかけた。
そんなこんなで、とりあえず、セーナとユナンは輝石をどのようにして探すか、の話し合いをすることにした。
「まあこういうのって、失くしたものを最後にどこで見たのか、思い出すのが大事だよな。」
「えーと、最後に輝石を見たのは町に入る前ね。」
「ってことは、結局、町全部を探す羽目になるのか。とりあえず俺たちが買い物した店で探してみようぜ。」
ユナン達は一軒一軒、入念に店の中を調べて回る。だが、輝石は見つからず、店主にも話を聞いたが、一向に手がかりは掴めない。
「この店にも無かったか…次の店行ってみるか。」
ユナンがそう言った時だった。ユナン達は家の前で泣いている女の子の姿を目にする。
「あれ。なんだか困ってるみたいね。話を聞いてみましょう。」
「まあ別にいいんだけどさ。輝石、大事なものなんだろ?盗られてたら目も当てられないし、急いだ方がいいんじゃ…」
「でも、困っている人を放ってはおけないもの。ならあなたとはここまでね。さようなら。」
「待て待て!冗談だって。俺だって泣いている女の子なんか放っておけねーよ…」
全く、本当に根っからのお人好しだな。
セーナの後をユナンが追いかける。
「ぐすっ、ヌコちゃん。どこに行っちゃったの?」
「どうかしたの?お姉さんに話してみない?」
セーナが優しく話しかける。
茶髪の女の子は、目を擦ってからこう言った、
「私の大切な友達が、ヌコちゃんが、いなくなっちゃって…」
「そのヌコちゃんってのはどんな見た目をしてるんだ?」
「真っ黒くてふわふわしてるの。よく鼠を追っかけてて、今もそれでいなくなって…」
なるほど、飼い猫を探しているのか。これは探すのが大変そうだな…
「君の家は?」
「ここ。今ちょうど、町を一周してきたとこで、でも見つからなくて…」
「大丈夫!お姉さんたちが見つけてきてあげるから。もう日が沈みそうだし、あなたは家に帰った方が良いわ。」
「ほんとに?ありがとうお姉さん、お兄さん!」
そしてユナン達は、女の子と別れた。
「んで、石もまともに見つけられないのに、猫なんてどうやって探すんだ。」
「輝石を探すのと同じよ。人にいっぱい、聞いて回るの。」
…なんて脳筋な考え方なんだ。
「まあ人に聞くのは賛成だ。後は、この子の家の周りを中心に、円を描く様にして探してみようぜ。」
「どうして?」
「まあ猫の探し方にもコツってのがあるんだよ。」
散々、フィーナの猫を、ドータ達と探し回った日々を思い出す。あの苦労が、まさかこんな所で役に立つとは…
「ふーん。ユナンって変な知識だけはあるのね。」
「〔変〕は余計だ。」
そうして、ユナン達は道行く人に聞いて回りながら、猫を探し回った。そんな中で…
「オレと1杯、お茶でもしませんか?いいですよね!」
「えっ…あの遠慮しときます。」
「遠慮なんかいりません!行きましょう。さあ、今すぐに!」
ユナン達は、綺麗な女性にしつこくナンパしている、黄色の髪をした男の子を見かけた。
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