fate/stellaris 【完結】   作:宇宙きのこ

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何とか半分くらい完成しましたので投稿します。
今回のお話では原作キャラの死亡やヘイトともとれる描写がありますのでご注意ください。



天上戦争1(原作キャラ死亡描写注意)

 

 

 

 

【ロンディニウムの戦い2】

 

 

 

ローマとブリテンの戦は開戦と同時に両軍とも主導権を握ろうと大規模な攻撃を行う所から始まった。

ルキウスが魔剣の切っ先をブリテン軍へと向ければ、直ぐに訓練を受けていた兵士たちが動き出す。

三脚によって地面に固定された金属の筒の名前は重機関砲と言った。

 

 

「彼ら」の持っているいくつかの原始文明のデータを参考にし作られたこの兵器の破壊力は明らかに文明レベル6を相手に使うには過剰なモノがある。

12,77×99mmの弾丸を音速の5倍にも及ぶ速度で一分間に1500発乱射するこの武器の破壊力に抗えるたんぱく質など存在はしない……普通ならば。

 

 

 

何度も訓練を受け、これの扱い方を骨身に刻まれたローマの兵士たちはもはや本能レベルでこの怪物の扱い方を知っている。

これこそ正に新たな神祖の御業、偉大なる御方より与えられし新たなるローマの力。

抑えきれない興奮を胸にローマ軍は照準をブリテン軍へと向けた。

 

 

50門の重機関砲が神秘の守護者たるブリテン軍へと向けられた。

アーサー王を筆頭に円卓の騎士を中心に標準が定められ───引き金が引かれた。

音はしなかった。当然である、これで放たれる破壊の速度は音などという鈍すぎる波を遥かに超えているのだから。

 

 

 

1秒に1250発の弾丸が火薬の力によって押し出され、ブリテン軍へと迫る。

平均して18500ジュールの破壊力を秘めた弾丸はたかが1センチ程度の厚みしかないフルプレートなど飴細工の様に打ち抜き

アーサー王の軍勢をまとめて隊列諸共穴だらけに出来る性能を秘めているハズだった……。

 

 

しかしアーサー王は全くもって動じない。

もとより相手の首魁は星を軽々と破壊する怪物の中の怪物である。

そんな化け物が率いる軍勢と戦うのだ、16世紀ほど自軍の先を行く技術力で武装しているなど想定の範囲内であった。

 

 

王の眼には飛来する弾丸がまるで止まっているように映っていた。

何と鈍い武器であろうか。掴んで投げ返せるほどに遅い。

こんなもので我々を倒せると思っているのならば、侮辱であると彼女は思った。

 

しかし自分はそうであっても率いる軍勢にとっては脅威だ。

故に彼女は前もって用意していた札の一つを切る。

 

 

「対軍攻撃防御。ギャラハッド卿、ランスロット卿、前へ」

 

 

王の言葉が紡がれると同時に円卓の内、二人が動いた。

ランスロットとギャラハッドの親子である。

ランスロットが先行し、その後ろに息子が続く。

 

 

 

「野蛮な武器だ」

 

 

迫りくる弾丸を前にギャラハッドはぽつりと呟いた。

騎士として父さえも超えうると評される彼にも当然の様に飛来する金属の塊は見えている。

弓兵が弦を引くよりも容易い動作で多くの殺傷を可能とする重機関砲への嫌悪を彼は覚えた。

 

 

これは引き金一つで多くの死を作り出す、効率的な殺戮道具。

ほんのわずかな訓練さえあれば幼子でさえ虐殺者にかえてしまう技術の暴走の象徴。

故に、これは悪である。ギャラハッドはそう定義した。

 

 

 

腕を翳せば現れるのは巨大な盾。

この星で勢力を伸ばしている宗教のシンボルである十字架をモチーフに作られた盾を彼は構えれば、ソレは眩く輝きだした。

溢れる光と共に半透明の防壁、この場合は城壁と評するべきか、が瞬く間にブリテン軍を守るように展開されていく。

 

 

遥か理想の城(ロード・キャメロット)ここに顕現せり。

 

 

気づけば彼の背後には純白の城門が顕現していた。

まるで門番の様にギャラハッドは盾を構え、ローマを、ルキウスを、そしてその背後に座する怪物を見据えた。

お前たちに故郷は渡さないという強い意志の宿った瞳はローマの頂点に立つ者らの興味を惹くに値する輝きであった。

 

 

 

これこそはキャメロット城の現身。

この世に存在するあらゆる災禍を跳ね返し、大切な人々の命を守護するというギャラハッドの意思の表れである。

 

 

何万発もの12,77×99mm弾が城壁に到達すると同時に全ての運動エネルギーを奪い取られたかのように停止し、僅かな時間滞空した後に力尽きたように地に落ちた。

からん、からんと金属の塊が大地を叩く音が鳴った後に、遅れてきた機関砲の発射音がけたたましく響いた。

ならば術者を殺せばよいと即座に判断したローマ軍は50の銃口をギャラハッドへと向ける。

 

 

 

トリガーが引かれ、再び暴れ狂う鉛の殺意たちであったが、それらはただの一発もギャラハッドにたどり着く事はなかった。

 

 

 

息子を庇う様にランスロットが立ちふさがる。

手にした長剣は光を帯びており、彼はそれを縦横無尽に振るう。

全てを叩き落すという無駄な事はしない。

 

 

正確にギャラハッドと自分に命中する弾丸のみを瞬時に見分けた上で、彼は余裕をもって剣技を披露した。

破壊不可能という属性を帯びた剣と、彼の狂気染みた技量は迫りくる一斉射撃をものともせずに叩き落とすという離れ業が展開される。

結果、1分間の掃射が終わった後にはランスロットの周辺には山の様に切断された弾丸が積み上げられ、硝煙を燻ぶらせている。

 

 

 

「必要はなかった。

 僕の技量ならアレくらいならば問題はなかったと知っているだろう」

 

 

「むぐ……素直じゃない奴め……!」

 

 

盾の隙間より唇を尖らせて文句を言ってくる息子にランスロットは肩を強張らせて言い返しそうになったが

ここが戦場であり、王の眼前ということを重々承知している故にそれ以上は追及しなかった。

 

 

 

神祖より与えられた力が通じないという現実を目の当たりにしたローマ軍に微かな緊張が走る。

今まで必勝を約束されていた彼らは何処かでブリテンを見下していた節があった。

どうせ辺境の弱小国だ、アッティラ大王に及ばないと。

 

 

勝利は容易い格下だという侮りがあったのだが、それは目前の光景を前に払拭されつつあった。

 

 

ルキウスは胸中で満足を抱いた。

いい流れだ、攻撃を防がれる事は判っていた。

あえてそれを全軍に見せつける事によって己の軍の根底にあった慢心を拭うという試みは成功しつつある。

 

 

 

 

御座に腰かけたガンヴィウスは淡々と戦場を眺めていた。

高いやぐらの様な構造物の上に金銀で装飾を施された玉座が拵えられており、ここから戦場の全てを見渡す事が出来る。

このやぐらには巨大なローマの国旗が掲揚され、戦場にいるあらゆる者が君臨する神祖を見ることができた。

 

 

勿論弓兵や魔術による狙撃も容易い位置取りである。

しかし神祖は逃げも隠れもしない。

やりたければ存分にしたまえという傲慢がそこにはあった。

 

 

星が瞬くのも、待ち人が来るまでも、まだまだ時間はある。焦る必要はない。

ほんの少しだけリソースを割いて彼は戯れるように円卓の能力を分析していた。

 

 

目標はサイオニック・シールドの亜種を展開。

出力は術者であるギャラハッドの意思の強さに左右される。

そしてランスロットがギャラハッドを守ったという事は、あの防壁は彼ではなく、彼が守りたいモノを守護する術なのだと考察。

つまり、彼自身はあの防壁の加護を受けられないと予想。

 

 

 

「彼ら」が人差し指でタンっとひじ掛けをノックすれば、ロンディニウムへと念が送られる。

よろしい、ではテストの時間だとガンヴィウスは微笑んだ。

 

 

 

思念を送られたロンディニウムの防衛拠点、城壁と中庭に変化が訪れる。

迷彩機能で隠されていた幾つもの防御施設が音もなく稼働した。

風景が霞む様に歪み、現れたのは巨大な音叉の様な「U」型の6メートルにも及ぶ砲身が10門。

 

 

 

33口径200mmの砲身はレールガンと俗に呼ばれる存在である。

化石レベルになるほど古い技術であるマスドライバーを改良した兵器だ。

これは成熟したレベル5相当の原始文明が軍艦などに設置することが多い兵器であり、装弾されているのは高速徹甲弾と呼ばれる貫通性に特化した弾だ。

 

 

そして既に射撃目標のデータは送信が終わっていた。

 

 

砲身より伸びる4本の昆虫の如き脚で砲口の微調整を行う。

 

 

射角と出力を瞬時に調整した後、音叉の様な構造のそれは帯電を開始する。

双胴の間にスパークが充満し、バチバチと虫の羽音のような異音を響かせた。

内蔵された小型リアクターの出力ならば規定値へのチャージは瞬きの間に完了させることが可能だった。

 

 

全自動の迎撃装置が起動され、この砲が持っている性能からすれば余りにも近すぎる戦場へと向けて1分間に60発という速度で砲撃が開始。

それらは狙い通りディプレスト軌道を描き、誤差は2ミリ以内に収められた精度でアーサー王たちに襲い掛かった。

しかし王はそちらを見向きもしなかった。彼女の瞳は皇帝ルキウスと、その奥に存在する最大の敵しか見えていない。

 

 

つややかな唇が一言、二言分だけ動いた。

 

 

「ガウェイン卿、モードレッド卿」

 

 

 

「はっ! お任せを」

 

 

「王よ! 我が力をとくとご覧あれ!」

 

 

 

答えるは忠義に燃える美丈夫と全身を鎧で覆う小柄な騎士である。

ランスロットに並び王が最も信頼を置く戦友であるガウェインと、未熟ながらも向上心と王への献身に燃えるモードレッドの二名が降り注がんとする殺意の前に全身を晒す。

 

 

「我が聖剣は太陽の現身───」

 

 

「之こそは偉大なる我が王の威光───」

 

 

 

ガウェインが手にした聖剣を空へと放る。

モードレッドは此度の戦のみという条件で王より預かった剣を振りかざす。

 

 

聖剣より転じた太陽が戦場に顕現した。

迸る赤雷が収束し、巨大な柱となる。

そしてモードレッドとガウェインは同時に技を解放した。

 

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)

 

 

我が麗しき王へ捧ぐ勝利(クラレント・ヴィクトリウス・アーサー)

 

 

 

吹き荒れる太陽風が空へと弧を描きながら飛翔する。

暴風の如き深紅の稲妻が空を焼きながら突き進む。

二つは混ざり合い互いに威力を増幅させあいながら空を覆い、ロンディニウム近郊の平均気温を4度上げるほどの熱量を放出しながらその威を高らかに示す。

 

 

 

そして、今まさに落下軌道を取りながら落ちてきていた高速徹甲弾を飲み込む。

金属が太陽の熱を浴びて瞬時に溶解する。

微かに残った原型も王の敵を決して許さないと猛り狂う稲妻に襲われ粉々に砕け散った。

 

 

 

空を巨大な爆炎が覆う。

幾つもの雲がちぎれ飛び、炎の雨が周囲へと降り注ぐ。

だがまだ終わりではない。太陽の騎士はルキウスを通り越し、陣の奥に座するガンヴィウスを捉えた。

 

 

 

「その力、試させてもらう!」

 

 

ガウェインは再度剣より疑似太陽を現出させる。

真なる太陽の加護を受けた彼の力は3倍に増幅される。

 

 

太陽フレアが収束し剣に宿れば、彼の聖剣はアーサー王の持つ剣と同じように陽光色に輝いた。

右手で剣の切っ先をガンヴィウスへと向け、左手を刀身に添える。

ちりちりと髪が焦げていく音を聞きながら、ガウェインはまるで長槍を扱う様に剣を鋭く突き出した。

 

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!」

 

 

一点に収束された太陽の聖剣の輝きは槍となってガンヴィウスの座す地点へと叩き込まれる。

咄嗟に弾くべく動こうとするルキウスを父の静止の声が抑止する。

瞬間膨れ上がる太陽の力。

眩い輝きが戦場を飲み込み、ローマ、ブリテン問わず全ての兵士たちは眼を腕で覆った。

 

 

ガウェインの力をよく知るブリテン軍の多くの騎士たちはローマの神祖を討ち取ったと確信を抱く。

ルキウスを除くローマ軍の兵士たちの心に「まさか」というほんの微かな絶望が染み出る。

 

 

 

光が収まり────戦場にいる誰もが一瞬喉をつまらせた。

 

 

名だたる円卓の騎士が放つ聖剣の光は王の持つ剣にも並び立てる域の威力があるはずだった。

更に付け加えるならば今の時刻、ガウェインの力は3倍に増幅され円卓最強のランスロットさえも超えうる力を持っているハズだった。

 

 

「……っっ! やはり、ですか……」

 

 

ガウェインの顔が歪む。

薄々判っていたとはいえ、やはりこうして改めて見れば驚愕するしかない。

彼の放った聖剣による一撃は御座に腰を下ろすガンヴィウスに届きもしなかった。

 

 

周囲に展開する護衛もろとも吹き飛ばすつもりで放った光撃は空中で縫い留められたように静止している。

 

ゆらゆらと陽炎を漂わせていた転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)の光と熱波はまるで不可視の巨人にこねくり回されるようにその形状を

槍から太陽の如き球体へとあっという間に整えられていく。

 

 

聖剣の生み出した力は既にガンヴィウスに掌握されていた。

幾らガウェインが念を送ろうとも太陽を操れない。

太陽はとてつもない速度でしぼみ、最終的には途切れかけの蝋燭の灯程度にまで矮小化させられる。

 

 

ガンヴィウスが鬱陶しそうに煙でも払う様に手を動かせば、聖剣の光は塵の様に消え去ってしまった。

 

神祖は何も言わずに戦場を眺めている。

今の攻撃など存在しなかったように、彼はアーサー王とルキウスだけを見つめガウェインなど眼中にもなかった。

王の「剣」の姉妹剣といえど、今の攻撃であらかた“理解”した「彼ら」はもうこれには興味を持っていない。

 

 

 

 

「ッんのぉっ! 下衆がッ! 我らの王を誰が見ていいと言った!!」

 

 

怒りの声を上げるのはモードレッドだ。

自分という敵がいるのにアーサー王だけを見つめるガンヴィウスの姿勢が気に入らなかったのだろう。

円卓という王の剣にして盾である自分がいるというのに不遜にも王を観察するようなガンヴィウスの態度の全てが癪に触ってたまらないといった所か。

 

 

モードレッドの腹の底から絞り出すような怒鳴り声を聞いたガンヴィウスの眉が不機嫌を表すように少しばかり動く。

彼は事ここに至ってガウェインを超える戦果を上げたと言っていいだろう。

いかに隔絶した力を持っていようと鬱陶しい存在は鬱陶しいという事実。

 

 

人が羽虫の羽音を嫌うのと同じである。

 

 

つまりだ。

ガウェインが全力で放った聖剣の一撃よりも、モードレッドの猿声のやかましさの方が「彼ら」に不快感を覚えるだけの感動を齎したのだ。

 

 

ガンヴィウスの視線が微かに動く。

鎧兜に覆われた顔からその手に持つ剣に向けて目線は動いた。

お前が持っていたのか、と神祖は誰に対してでもなく呟いてから息子に念を送った。

 

 

 

お前の持つ剣の片割れ(クラレント)を見つけたぞ。

 取ってくるといい。アレでは持ち腐れだ』

 

 

念を受け取ったルキウスが燃え上がる様な笑みと凄まじいまでの執着を抱いた事をガンヴィウスは察知しながら頷いた。

そしてこの両者のやり取りを朧ながらに王譲りの素晴らしい直感で理解したモードレッドの怒りは更に跳ね上がる。

全く自分という存在を見ていない。脅威とも思っていない。そしてよりにもよって王より預かった剣への視線、全てが彼の逆鱗である。

 

 

「………」

 

 

もはや振り切り過ぎた怒りによって無言となった彼は剣を振り上げる。

バチバチと彼の魔力が赤雷へと変換され剣に集まり始めた。

勿論先のガウェインの光景を忘れたわけではない。

 

 

しかし、しかし───許せないという感情だけがモードレッドを突き動かしていた。

自分の全身全霊ならばガウェインの聖剣よりも威力だけならば上回れるはず、自分ならばあのいけ好かない老人の顔を焼き払えるかもしれないという根拠のない自信が彼にはあった。

 

 

 

「やめなさいモードレッド! 先の光景を忘れたわけではない筈!! 

 無闇に攻撃したところで」

 

 

「うるせぇッ!!」

 

 

同胞にして■でもあるガウェインの言葉さえも耳に入らずモードレッドは剣から稲妻を発しガンヴィウスを焼き払おうとする。

しかし……。

 

 

 

「下がりなさいモードレッド」

 

 

王が一言命じる。それだけで戦場そのものを焼き尽くさんとばかりに猛っていた赤い稲妻は沈火する。

怒りも何もかもが押し流され、自分の名前を呼ばれた歓喜と王が自分に指示を与えてくれた狂喜が彼を満たした。

瞬時に後方に跳ね飛び、王の傍らに着地した後は油断なくローマの軍を、ルキウスを睨みつけている。

 

 

あの皇帝を討ち取る。あの神祖を葬る。

ローマを下し、ローマを征服し、あの広大極まりない国土を切り取り王に捧げる。

そうすれば自分はきっと王に────。

 

 

 

 

「いじらしいな。君の娘は」

 

 

ガンヴィウスは虚空に向けて語り掛ける。

モードレッドの幼く無垢な精神の活動を彼は手に取るように把握していた。

一瞬顔を見た時点で「彼ら」はあの人工生命体の拙く単純で幼子の如き献身にあふれた心を完全に読み取っていた。

 

 

彼女自身はこの事実に気づけていないのがまた可愛らしい。

かのアーサー王の複製というから直接確認してみたが、この程度かという落胆も多少はそこにはあった。

そもそもの話だが、彼女は王になるのが目的というがそこからしておかしい。

 

 

王になるというのはゴールではなく、スタート地点だという事にさえ気が付けない彼女がたまらなく微笑ましい。

アーサー王という偉大なる存在に憧れるのはいいがもう少し彼女は王の気持ちを汲み取った考えを巡らせるべきだ。

 

 

いきなりやってきた少女が「私は貴女の息子です。認知してください」等と言ってきて

「判りました。では貴方が今日から私の後継者です」等という王がどこにいる?

しかも意図的に彼女の寿命は短く設定されているので王になったとしても長期的な国の運営は不可能というおまけつきだ。

 

 

 

『えぇ、本当にかわいい私のモードレッド……ですが、もう潮時ですわ』

 

 

陶酔するようなモルガンの声がガンヴィウスの耳に届く。

彼女は今、ロンディニウムにて魔術回路起動のための最終調整を行っている所だ。

 

 

「息子は間違いなく彼女を殺すだろう。

 よりにもよってフロレントの姉妹剣を担いでくるとは……」

 

 

『構いません。貴方様の栄光を邪魔するというのならば仕方のないこと』

 

 

「彼女だけではない。ガウェイン、ガレスの命も保証はしない。

 既に私はアーサー王以外は全て殺して構わないと命じた」

 

 

言葉とは裏腹にガンヴィウスこと「彼ら」の心に慈悲や子の確定した死を母親に告げる際に常人ならば抱く筈の労りといった感情は皆無であった。

彼にあったのは義務感だ。自分に協力してくれた彼女は知る権利がある。故に告げる。それだけだ。

 

 

『降伏の機会は何度もありました。あの子たちはそれを無視した。それだけの話なのです』

 

 

元より他者の命を奪う騎士という職業についた時点でモルガンも子らがまともな最期を迎えられるとは思っていなかった。

今までは勝利し奪っていたが、今度は奪われる。それだけの話であると彼女は言う。

 

 

 

「よろしい。では作業を続けたまえ。

 こちらの稼働準備もあと少しで終わる───ここからが本番だ」

 

 

 

頭上にて鈍く輝きを放ち始める星光にガンヴィウスは視線を向けてから、ブリテン軍に対して微笑みかけた。

そうしてから彼は息子に全軍の指揮を委ねる旨を送る。

指を胸の前で組み、この前座を観察し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【円卓】

 

 

 

 

ルキウスにとって軍とは自らの手足の一部である。

これは優れた戦術家としての比喩ではなく、文字通りの意味でだ。

シュラウドの力と優れた超能力を操るルキウスにとって人の意思とは一本の糸の様であった。

 

 

無数の糸が束なり巨大な布の様になっている様を剣帝は観測することが出来た。

彼の主観ではローマの軍勢は真っ赤な色をしており、円卓を中心としたブリテン軍は青を基調としながら所々に多様な色が混ざっているようだった。

 

 

彼は混沌とした戦場の全てを知っていた。

剣帝の瞳と直感は正しく千里眼の様に機能し、彼の頭脳はそれだけの情報をいともたやすく処理できるだけの演算能力がある。

 

 

何処の部隊が何処でどのような敵と戦っているか。

そして後どれだけ戦えるか。

各々の部隊の有効攻撃範囲と命中精度、また相手を攻撃した場合に発生する戦果と被害……。

 

 

戦場に渦巻く膨大な感情の坩堝を彼は手に取るように把握していた。

故に彼はブリテン軍を手ごわいと判断する。

中々に戦場の支配権を握りきれない現実は彼を楽しませている。

 

 

各部隊の指揮官に対してルキウスは刻一刻と変化する状況に合わせて一人ずつ念話で指令を送り込んでいく。

しかし直ぐにそれに対応する様にブリテン軍は戦術に微調整を加え続け、中々に崩せない。

新しく導入した自動小銃で武装した部隊もギャラハッドによって攻撃を防がれ、思っていたほどの戦果は見込めない。

 

 

ローマの士気は高いが、それ以上にブリテン軍の士気は天井知らずである。

偉大なる王と円卓と共に故郷を守るという大義が彼らをどこまでも強くする。

 

 

 

今までの戦いではローマは敵を開戦と同時に圧倒的な力で叩き潰し、深層心理にまで「勝てない」という

ほんのささやかな不安の種をバラまく事で敵の結束を崩す事が出来ていた。

ゲルマンとの闘いなどいい例だ。

開戦した瞬間に見せつけたショーのお蔭で敵の士気は下がり切り、結果としてローマは苦もなく勝利できた。

 

 

 

フン族との戦いではアッティラという唯一にして絶対の支配者を崩すことによって頭部を失ったアッティラの帝国は脆くも瓦解した。

だがブリテンは違う。

アーサー王という絶対の王と、それに付き従う一騎当千の円卓、そしてローマ軍が神祖を狂信するのと同じくらい王に狂った騎士たちで構成された軍だ。

 

 

 

奇跡的なバランスで構成された軍だ。

少なくとも直接の戦いにおいては何処からどう見ても弱点はないと剣帝でさえ認めるしかないほどに。

 

 

「……」

 

 

ルキウスはふと腰に差したフロレントの柄を撫でて気づいた。

皇帝に即位した際にガリア総督より献上された剣は僅かばかりに熱を発している。

明らかに意思の類を宿しているフロレントは自らの片割れを欲しているようだった。

 

 

否、これは熱というよりも炎。

剣は憤怒していた。

 

 

聞けばかの姉妹剣(クラレント)は 皇帝の威光を象徴する剣らしい。

それほどの名誉ある剣を持っているのはアーサー王ではなく、あのつまらない小娘。

どうやらその事実に彼の愛剣は我慢ならないようであった。

 

 

まだランスロットならば許せただろう。

彼もまた領土を持つ男であり、円卓で最も優れた剣技を誇る最強の騎士だ。

 

ガウェインならば認められたかもしれない。

彼もまた王の血筋であり、アーサー王との付き合いも長く竜退治を共に行った勇者である。

 

ギャラハッドならば問題はなかった。

潜在的な能力ならば父であるランスロットさえも凌ぎかねず、その芯の強さと純粋さは聖人としての才覚さえもある。

 

 

だが、現実として所持者はモードレッドである。

ただの力だけが強く、王としての道も己の信念も何もないわめき声の煩い童だ。

これは誇り高い剣への侮辱に他ならなかった。

 

 

 

彼もその意見には同意である。

剣帝の周囲では展開した護衛達が流れ作業の様に襲い掛かってくるブリテンの騎士たちを始末し続けている。

ルキウスが直接選び抜いた彼らの実力は素晴らしく、相応の名高い武具さえ揃えれば円卓相手にさえ食い下がれるかもしれない。

 

 

 

「皇帝陛下」

 

 

部下の一人がルキウスに語り掛けた。

この男を彼は知っている。ガリアやアッティラとの闘いも生き延びた経験豊富な部下だ。

彼の瞳は少年が憧れの英雄を眺めるようにルキウスを見つめていた。

 

 

言葉にせずとも彼は言っていた。

円卓とアーサー王を我々の皇帝が打ち倒す最高の瞬間を見たいと。

神祖が選んだ男、我々ローマの代表として神に仕える男の勝利を彼は望んでいた。

 

 

彼だけではない。

ローマ軍の兵士全てがソレを望んでいる。

先のガウェインやギャラハッドが神祖と行った一連の攻防にて剣帝がその威を示さなかった事が彼らには不満であった。

 

 

我々の皇帝は円卓やアーサー王よりも強い、という自尊心が彼らを疼かせている。

どうか皇帝よ、その力でいつもの様に我々を魅せてくれと。

 

 

ルキウスは皇帝である。

誰よりも神祖に近く、人々に己の生き方を焼き付けるように生きる義務がある存在だ。

故に彼は民にして戦友たちの願いに答える必要があると誰よりも自覚している。

 

 

 

「判っている。我が勝利を貴様らに賜す。

 ───故に生きて故国に戻れ。我が勝利を妻子に語り継ぐのだ」

 

 

 

ルキウスはフロレントを担ぐように持つと、堂々と歩きだす。

飛びかかってきた敵の首を軽々とつかみ取れば、それを騎士の一隊に向けて放り投げた。

轟音と共に馬ごと騎士たちが弾き飛び一本の道が完成する。

 

 

バラバラに砕け散った鎧が飛び散り、多くの有象無象が戦場であってもなお異常な轟音にルキウスを見た。

しかし、しかし、誰もルキウスに挑もうとはしなかった。

誰も彼もが自分には無理だと心の底で悟ってしまったのだ。

 

 

ルキウスは闊歩する。

ほんの僅かだけ周囲に圧をバラまけば、ローマ軍の士気は跳ね上がり、同時に敵対するブリテンの騎士たちの心に亀裂が入った。

剣帝にとっては息を吐いた程度の力の解放であるが、一般的な英雄に届かない者らにとっては目視することさえ難しい程の重圧となってそれは戦場にのしかかった。

 

 

 

ルキウスは歩む。

彼の鋭敏な感覚はこの先にアーサー王がいる事を捉えている。

しかし当然ながら易々とは進めない。

 

 

ルキウスの眼前に紫髪の男───ランスロットが立ちはだかった。

同じように彼の隣にはガウェイン、モードレッド、ガレス、トリスタンがいる。

 

 

ギャラハッドは未だに遥か理想の城(ロード・キャメロット)を展開し続け

時折空から降り注ぐロンディニウムからの砲撃や遠距離から撃ち込まれる重機関砲の猛威からブリテン軍を守護しているためここにはいない。

 

 

「待たれよ。ローマ帝国皇帝とお見受けする」

 

 

「ならば如何する。

 皇帝の前に立つのが何を意味するか、判らんわけではあるまい」

 

 

ルキウスはランスロットを一瞥し立ち止まる。

勿論彼の事は知っている。円卓最強にして王の信頼厚い最高の騎士と。

今から始まる最高の舞台の幕開けに相応しい相手である。

 

 

「貴方を討ち取ればローマ軍は勢いを失い、かの神祖を打ち倒す為の足掛けとなる。

 ……その首、置いていきなさい」

 

 

「そうか」

 

 

ルキウスはガウェインの不遜極まりない発言に対して怒りを抱くことはなかった。

これから死ぬであろう者たちだ。最後くらいは好きに喋らせてやろうという慈悲である。

 

 

事を始める前にルキウスはモードレッドへ手を翳す。

正確には彼が構える剣に対して。

その一見すれば意味が分からない行動にモードレッドが首をかしげる直前、彼は猛烈な熱さを掌に感じた。

 

 

「ッッ!? 何をっ!!」

 

 

「した」とは続けられなかった

脊髄反射で剣を手放した彼の元より剣は逃げ去るように飛翔してルキウスの手の中に納まる。

歓喜する様に刀身が震え一対の剣は揃って真なる主に仕えることを確約する様にその力をルキウスへと明け渡す。

 

 

瞬間膨れ上がるルキウスからの圧。

クラレントの能力である王としての威光を高めるという権能が発揮されている。

 

 

手にして数秒でルキウスはクラレントの力を完全に制御していた。

右手にフロレント、左手にクラレントを握った彼は何度か試すように左右の剣を振るう。。

彼からすれば他愛ない確認動作であったが、透き通った音を立てる剣筋は円卓をして流麗と評せるほどの剣捌きであった。

 

 

二刀流での戦い方も当然熟知しているルキウスは左右に握る剣の素晴らしい対比に満足したように笑った。

この一対の剣はもしかしたら同時に扱うことを想定していたのかもしれないと考えるほどに手に馴染む。

一本で相手してやってもよいが闘技場時代から二本使いというのはとても受けが良い事を彼は知っている。

 

 

勝利を与えると確約した臣下たちと、今この瞬間もこの場を見ているであろう父に楽しみを提供してやるのも悪くはない。

それはそれとして彼は皇帝である。

故に功を成したモノを褒めてやる義務がある故に口を開きモードレッドに言った。

 

 

 

「ちょうど相応の武具を揃えたいと思っていた所だ。

 褒めてやる、童よ。褒美に我が力を味合わせてやろう」

 

 

「テメェェッ! ふざけんな! それは!! その剣は俺がッ!!!」

 

 

モードレッドが怒りを噴き出しながら吐き出す。

腰から予備の剣を引き抜き、後先や連携の事など考えもせずに。

もはや彼の頭には怒りしかなかった。

 

 

やめろとランスロットが叫ぶが彼は取り合いもしなかった。

今殺せば問題ないだろうと叫び返す。

 

 

王より預かった剣を奪い取り、自分より瞬時に使いこなす様は彼の矜持をやすり掛けするようにそぎ落とす光景だった。

あらゆる自分を肯定するアイデンティティが彼の脳内を駆け回っている。

それら全てを動員して彼は今の現実を否定していた。

 

 

俺は王の息子だ。

俺は王の複製だ。

俺は王の片腕だ。

俺は王の剣だ。

俺は王の騎士だ。

俺は王になる、自分は王の複製なのだから当然俺も王になれるはずだと。

 

 

「返せっ! その剣は俺のものなんだ!! いずれ王に至る俺の────」

 

 

「煩い。アーサー王は童の躾一つ満足に出来ないのか」

 

 

 

ルキウスは剣を構えもしなかった。

ただ彼は気だるげにクラレントの切っ先をモードレッドに向けた。

体内を循環する膨大な量のシュラウド・エネルギーを手先から剣へと通して放出する。

 

 

俗に「魔力放出」とも評されるエネルギーの放出によく似ていた。

ガンヴィウスが行うソレと比べれば遥かに弱いが、それでも生身で受ければ全身の分子構造をバラバラに砕かれる程の威力がある。

青紫色の稲妻がクラレントより吐き出され、モードレッドへと突き進んだ。

 

 

この程度の単純な魔力放出ぐらい、とモードレッドは自らの魔力を以て相殺を試みる。

赤黒い稲妻が剣に宿り噴き出す。

それはルキウスの放ったシュラウド・ライトニングと衝突し───一僅かな拮抗も許されず一方的に飲み込まれた。

 

 

モードレッドの全身を青光りが包み込み、焼き尽くす。

唇を噛み締め痛みに耐えるが、そんな我慢の限界などすぐに突き破りとてつもない痛覚が彼を襲った。

 

 

鎧が軋み、罅が入る。

母であるモルガンの掛けた防御術式が音を立てて焼き潰されていく。

もしもコレを付けていなかったら一瞬で彼は焼け焦げたかつてたんぱく質であったナニカになっていただろう。

 

 

怒りに燃え盛り動いていた足が止まる。

筋肉が燃え頭蓋骨が溶け堕ちていくようだ。

たまらず彼は大地に倒れこみ、襲い来る稲妻から逃げ惑う様に転げ回った。

 

 

「ギッぐ、ぅッ、、、ァぁぁぁ!!」

 

 

「モードレッド!」

 

 

ランスロットがルキウスとモードレッドの間に割って入り、手にした聖剣で稲妻を受け止める。

彼が剣を横薙ぎに一閃すればシュラウド・ライトニングは切り裂かれ、発生した衝撃波がルキウスへと襲い掛かった。

しかし皇帝は手首のスナップを利かせた僅かな動きでフロレントを動かしてランスロットの斬撃をかき消した。

 

 

剣の調子を確かめるようにルキウスはフロレントを動かし、刀身を見た。

ガリア総督からの献上品であるこの美しき名剣は赤紫色の刃をしていた。

美しく咲き誇るバラの装飾が施された剣は見惚れるほどに美しい。

 

 

心弱いものがみれば剣に呑まれただろう。

凄まじいまでの執着を抱き、逆に剣に宿る意思に支配されたかもしれない。

しかしルキウスは剣に魅了はされなかった。

 

 

あくまでもこの剣たちが司る支配や王の栄光などはただの付属品にすぎない。

主は皇帝である。

剣帝ルキウスが使ったからこれらの剣には価値が生まれるのであって、その逆はありえない。

 

 

ルキウスは笑う。

ここが戦場で命のやり取りをしているというのに彼の顔に浮かぶは一方的な捕食者の様相だ。

存在するだけで敵対者に絶対的な絶望を与える事ができる最高のシンボルが彼だ。

 

 

そういう風に設計され、想定を上回るほどに成長したのが剣帝であった。

 

 

(皇帝)に切られる栄誉を最初に賜りたいのは誰だ? 遠慮せずに一歩踏み出すがいい」

 

 

嘲る様に発した言葉に円卓の面々が弾かれたように動き出し───戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大地が痙攣した。

激戦を繰り広げていた多くのローマ軍とブリテンの騎士たちは心の何処かで「始まった」と思った。

ローマは皇帝の勝利を疑いはしなかった。無敗の皇帝、かのアッティラ大王さえも打ち破った剣帝は此度も同じように勝つと。

 

 

ブリテンの騎士たちにも不安はなかった。

アーサー王が即位して以来、かの王のお蔭で国は富み、繁栄していく中、王と共に戦い続けた円卓に敗北はありえないと考えていた。

全ての災害は乗り越えられる。どれだけ相手が強大であろうと円卓さえいれば勝利は手に入ると彼らは信じていた。

 

 

今、その答えを出すときが来たのだ。

 

 

「王の名の元に」

 

 

最初に動いたのはランスロットだった。

ガウェインやモードレッドの様な大規模な魔力を用いた攻撃手段こそないものの、その圧倒的な剣技を以て円卓最強の座に君臨する男だ。

彼は跳ねるように突き進み、手にした聖剣で皇帝へと切りかかった。

 

 

凄まじい速さと鋭さのある一撃であった。

派手ではないものの、磨き抜かれた技量による斬撃は普通ならば知覚さえ出来ぬままに標的を葬り去るに足るほどだった。

しかしルキウスは普通ではない。彼は欠伸でもするように軽々とフロレントでランスロットの一撃を受け止めた。

 

 

青光りと赤紫の光が火花を散らしてぶつかる。

ルキウスは刃越しにランスロットに笑いかけた。

 

 

「安心したぞ。円卓には期待していたのだ! 

 全てがあのモードレッドの様であったならば拍子抜けもいいところだ」

 

 

「彼もまた我々円卓の一員。侮辱は許さん」

 

 

 

喉を鳴らしてルキウスが笑いながら僅かに力を抜き身を翻せば、彼が今までいた場所をナニカが通過しカシュという不気味な風切り音を吐いた。

危ない危ないと皇帝は肩を揺らした。ちらりとトリスタンという赤毛の男に目をやる。

寝ているのかと思う程に細い目をした男は露骨に顔を歪めて不快感を示す。

 

 

「皇帝陛下……我が戯曲はいかがでしょうか? 最高の眠りを約束しましょう……永遠に」

 

 

「いや結構。吟遊詩人などローマには星の数ほどいるのでな」

 

 

武器というよりは楽器と評すべき獲物である弦楽器を構えたトリスタンはルキウスの言葉に無表情に戻れば更に演奏を開始した。

鳴り響く高音と低音の調和のとれた演奏会。拍手とチップの代わりに飛び交うのは無数の刃だ。

装填速度、発射速度、精度、どれをとっても凶悪の一言である。

 

 

だがルキウスには届かない。

彼はランスロットの攻撃を片手間に捌きつつ、器用に体を最低限の動作で動かしながらトリスタンの刃を回避し続ける。

足元に罠が配置されたと判断した瞬間、後方に軽くステップを踏み、ランスロットがソレを踏む様に誘導する程の余裕さえ彼にはあった。

 

 

ルキウスは既にこの不可視の攻撃の正体は掴んでいた。

 

 

これは真空の刃だ。発生個所はあの弦楽器(フェイルノート)の「糸」である。

指が一回弦をはじくたびに空気が振動し刃となって加工されている事をルキウスは見抜く。

 

 

一回だけ彼は瞬きを行う。

「観る」という意思を込めた彼の瞳は瞬時に最適化を行い、飛来する刃を捉える事ができるように進化した。

淡い翡翠色の刃を見たルキウスは感嘆した。弦の腕はいまいちだが、コレは単純に美しいではないかと。

 

 

 

面白い見世物を披露してくれた礼をルキウスは行うことにした。

彼の身体はあらゆる空間で十全な活動を約束されている。

空の上であろうと海の底であろうが、それが宇宙空間であっても問題なく彼は動ける。

 

 

 

故にこれはソレのちょっとした応用であった。

深くシュラウドと接続された身体に活力が満ちる。

歩行方法における「縮地」を彼は行った。

 

 

 

彼の脚は空間を蹴破る。今の彼は人間の大きさを持つFTLドライブであった。

次元を一瞬だけ突き抜けた彼は100万分の1秒程度の微かな時間だけFTLに到達する。

元よりこの世の外側の法則をふんだんに盛り込まれて作られた彼である、この程度は容易い。

 

 

シュラウドは息子の要望に応え、そして導く。

突如として目の前に現れたルキウスの姿にトリスタンは息を呑んだ。

彼からすればランスロットと刃を交えていた男が何の予兆も見せずにいきなり目の前に現れたように見えただろう。

 

 

 

フロレントが奔った。

トリスタンの首を落とそうと動いていた軌跡はしかし突如として別の個所へと向けられる。

ルキウスは鼻を鳴らしながらトリスタンの首を落とすのを中止し、振り返りもせずに背後から切りかかってきたガウェインの刃を背中に回したフロレントで受け止める。

 

 

 

目の前で皇帝が微かに動きを止める様を見たトリスタンは再び弦楽器(フェイルノート)を弾こうとして────クラレントに先ほどモードレッドを焼き殺しかけた稲妻が宿っている事に気が付いた。

咄嗟に後方に飛び跳ねるが、一瞬だけ遅かった。

迸るシュラウド・ライトニングがトリスタンの全身を包み込んだ。

 

 

「グッ、んぐぅぅぅうンン………!!」

 

 

奥歯が砕けるほど噛み締め、彼は耐える。

彼の持つ魔力への耐性などまるで関係ないと言わんばかりにシュラウドの力はこの騎士を焼き尽くしていく。

眼球が沸騰し、手足が溶けていくようだった。

 

 

もう少しだけ稲妻の出力を上げればトリスタンは死んでいただろう。

しかし彼は一人で戦ってはいない。

ルキウスの背後より襲い掛かっていたガウェインは聖剣から力を引き出し、燃え盛る業火を剣に宿す。

 

 

「砕けなさい!」

 

 

刃は防げても純粋な熱ならばどうだ、と彼は生み出した熱波と爆発を0距離でルキウスの後頭部めがけて叩き込む。

刀身から爆風が発生し人間一人程度ならば跡形もなく消え失せてしまいそうな破壊が剣帝を飲み込んだ。

余波に巻き込まれない様にさく裂と同時に後方に跳ねたガウェインは埃と熱波に覆われた光景を凝視する。

 

 

 

完全に決まったとガウェインは僅かながら考えていた。

さく裂の瞬間までルキウスに防御するそぶりはなく、まともに爆炎は彼にさく裂したはずだった。

しかし土埃が収まり、姿を現したルキウスには目立った外傷はなかった。

 

 

強いて言うならばフロレントを握っていた右手に擦り傷がある程度か。

しかしそれもすぐになくなる。

 

 

炎に間違いなく焼かれているというのに彼は火傷一つ負ってはいない。

ただし身に着けていた豪奢なマントには炎が回ってしまっているが、彼はそれさえも着こなしているようだった。

元より超高温の環境下も存在する宇宙空間やFTL文明の持つレーザー兵器を生身で耐えることを想定された肉体である。

太陽などというありふれた恒星の力を僅かに再現した程度の破壊で倒れる筈がない。

 

 

銀河はおろか宇宙規模で見ても類がない程に頑強な肉体は神話の中の英雄さえも霞む耐久力があるのだ。

剣帝は白い息を吐いて世間話でもするように述べた。

 

 

「大義である。この地はローマに比べて肌寒くてな。少しは温まったぞ」

 

 

「……」

 

 

ガウェインの顔が強張る。

間違いなく格上だと彼は認めざるを得なかった。

だが、そんな彼の内心を読んだかのように彼の隣にランスロットが並び、剣を構える。

 

 

円卓最強にして親友でもある彼はいつもと変わらずガウェインに言う。

 

 

「ガウェイン卿」

 

 

彼は多くを語りはしなかった。

余計な言葉など無粋であるからだ。

ガウェインは頷き聖剣を構えた。

 

 

そんな彼の隣にもう一人、小柄な騎士が並ぶ。

円卓最後の一人、最も可能性に満ちた騎士であるガレスだ。

御座から戦いを眺めていたガンヴィウスでさえ微かながら彼女を注視した。

 

 

「ランスロット様! ガウェイン兄様!! 微力ながら私も助力します!」

 

 

ガウェインは無言でガレスの頭を撫でて微笑む。

そして改めて巨大極まるローマの皇帝と相対した。

気づけば彼らの周囲の兵士たちはローマ、ブリテン問わず戦いを一時的に中断しこの激突を眺めていた。

 

 

どちらの軍も心にあるのは自分たちの象徴の勝利を信じる願いだけだ。

ランスロットは剣を掲げ高らかに宣言した。

戦場に響き渡るのは王に並ぶ威光を持つ騎士の純粋でまっすぐな宣誓であった。

 

 

戦争において重要なモノの一つ、士気。

それをどうすれば効果的に上げられるかランスロットは理解していた。

 

 

「我らは円卓。我らは共に王に剣を捧げし騎士。

 愛しき故郷の為に戦うもの! 去れ侵略者よ! 我ら(ブリテン)は貴様らに屈しなどしない!」

 

 

 

天を貫くほどの歓声が産声を上げた。

アーサー王、アーサー王、ランスロット、ランスロットと幾度も名が叫ばれ、騎士たちはギラギラと誇りに燃える瞳でローマ軍を睨みつけた。

だがランスロット、円卓達の宣誓など弾き飛ばす勢いで剣帝は支配を象徴するフロレントを掲げ雷鳴の如く声を張り上げた。

 

 

我が民たち(ローマ)たちよ! 共に戦う友(ローマ)よ! 

 我らは神祖よりこの混沌に満ちた世界を託されたのだ! 

 クィリヌスの名の元にこの世界を一つにする使命が我らにはある!! 

 一つのローマ(パックス・ロマーナ)の元に世界を統べる使命が!!」

 

 

俺と共に永遠の平和を築こうとルキウスは叫ぶ。

 

 

その声は聴く者全てを魅了する。

その姿は従う者全てに決意と情景を抱かせた。

力強く掲げられたフロレントは美しく輝き、その権能を以てルキウスこそが大陸の、この星の正統なる後継者であると示すように輝く。

 

 

クラレントはそんな彼の元より圧倒的極まりない王としての素養を更に加速させ周囲へと拡散させ、伝播させる。

之こそは新しき超新星の姿であった。

途方もない重力で人々をひきつけ続ける暗黒の星でもある。

 

 

ローマを称える声が響く。それはブリテンを思う願いと拮抗する程に高い。

円卓と剣帝、両者は共に民の思いをその背に乗せて改めて向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

ルキウスの心臓が音を立てて燃え上がる。

アーサー王は伝承によれば竜の心臓を持つとされる。

故にそれを叩き潰す為に製作された彼にも同じような器官が備わっているのは当然と言えた。

 

 

剣帝の心臓のある場所には反応炉があった。

彼は歩く特異点にもなりうる素養がある。

彼の心臓はシュラウドからエネルギーを取り出すためのポンプでもあった。

 

 

注ぎ込まれたシュラウド・エネルギーがこの世の法則を歪めながら効果を発揮する。

手足の先にまで力が行き渡り、ルキウスに更なる力を齎す。

 

 

全身が軋む。成長痛の様なモノが彼を蝕む。

精神の高鳴りに応じて彼の身体は想像を絶する勢いで自己改造を行う。

勝利を、勝利を、永遠にローマに勝利を齎すために、誰よりも鮮烈な勝利を得るために剣帝は強くなり続ける。

 

 

彼は一度やると決めた事は必ず実行する男だ。

先ほど首を落とそうとした者が未だに生きているという事実を彼は訂正すべく動いた。

ルキウスが瞬歩を用いて円卓の意識を振り切り移動する。

 

 

全ての光が後ろに移動し消え去るさまを彼は見た。

 

 

彼の身体はつまらないテクスチャに定められた限界を遥かに超過した速度で移動し、未だに帯電するシュラウドの力で焼かれ続けるトリスタンの目の前に移動した。

指一本あれば刃を生み出せる彼が弦楽器(フェイルノート)を弾こうとするより早くフロレントが動いた。

全く目を逸らしていないというのに一瞬だけ剣帝の姿を見失ってしまったランスロット達が拙いと思うよりもそれは早い。

 

 

「喜べ、名誉をくれてやる」

 

 

はた目からは赤紫色の「線」がトリスタンの首のある空間を横薙ぎに走り抜けたようにしか見えなかった。

 

 

 

「────ぁ」

 

 

 

果たしてそれは誰の言葉だったか。

誰かが漏らした一言はこの様を見た誰もが抱く心境を即興で表したものである。

酷く遅い動きでトリスタンの頭がずれていく。

 

 

項垂れたトリスタンの首がゆっくりとあるべきではない個所

……胸、腹、足へと移動───落下───していく。

彼の手から弦楽器(フェイルノート)が零れ落ち、ガシャンと最後の演奏を行った。

 

 

これがトリスタンの最期である。

彼はイゾルデと出会うことはなく、王の元から離れることもなく、最後まで王の為に戦い死んだのだ。

 

 

そして彼は最初の犠牲者である。

ガンヴィウスにとってこれは計画通りの光景である。

メリオダスと王妃ブランシュフルールの間に生まれ、マーク王との確執を経て円卓に加入し、華々しい活躍を見せた彼の最期の役割はルキウスに殺される為にあったのだ。

 

 

そして同じ役割をガンヴィウスに課せられた者たちがここにはまだまだいる。

 

 

 

「トリスタン様……っ」

 

 

ガレスが口元を手で抑え、こみ上げてくる何かを必死にこらえた。

しかしガウェインとランスロットは表面上は何も感じていないような無表情を張り付けている。

だが、剣の柄から鈍く軋む音がしたのを誰かが聞いた。

 

 

ルキウスは頭を失い崩れ落ちたトリスタンに一瞥すると、直ぐに振り返った。

彼の視界には隠し切れない怒りに駆られて襲い掛かってくるガウェインとランスロットが見えた。

ガレスでさえ二人の猛攻を邪魔しないように慎重にルキウスの隙を伺い、機会があれば彼を明確な殺意の元に殺そうとしていた。

 

 

 

ランスロットのアロンダイト(無毀なる湖光)は膨大な魔力を送り込まれて過負荷を起こし、輝きながら剣帝に迫る。

ガウェインの聖剣は炎を纏い、先とは比較にならないほどの破壊力を秘めた上で剣帝を屠るべく輝きを強めた。

 

 

ルキウスは猛然と笑い、それらを受け止めるべく動く。

 

 

「大変結構。命がけでこい。あるいは届くかもしれないぞ」

 

 

喉を鳴らして笑うルキウスの姿はもはや魔人と評せるほどに壮絶な様相であった。

フロレントとクラレントは歓喜するように輝きを放ち、円卓でも屈指の実力者たちが放つ剣を軽々と受け止めた。

ルキウスはその場から一歩も動かず、完璧にバランスを保ちながら両者のあらゆる攻撃を防いでいく。

 

 

首を落とすべくランスロットが剣を走れば既にそこにはクラレントがあり、アロンダイトを弾き飛ばす。

ガウェインが突きを放ち、腎臓から肩甲骨までを太陽の剣の熱波で焼き殺そうとしても彼はそれをいともたやすく躱してしまう。

それどころかルキウスには二人の攻撃を捌きながら攻撃に転じる余裕さえもあった。

 

 

ガウェインとランスロットの流麗な剣技は正に人の極みと評せる芸術的なものだった。

幾多の戦いを共に潜り抜け、互いの癖を知り尽くした彼らは互いの攻撃の合間に発生する刹那の隙を潰しあう様に攻撃を行っていた。

余りに早すぎる剣線はもはや霞となってルキウスに襲い掛かっている。

 

 

かつて戦った異形スパルタクスさえも超える速度であったが、当時とは比べ物にならないほどに剣帝は進化している。

彼の握る双剣は決して早すぎも遅すぎもない丁度良い速度で動きまわり、苦も無く怒りに燃える円卓の攻撃を無意味に終わらせ続けていた。

 

 

十、二十と微妙に躱していく中ルキウスは思った。

もしかして、この男たちの限界はここなのか? と。

だとすれば……まぁ、前座程度の価値はあったからよしと彼は考える。

 

 

 

ルキウスが攻撃に動き出す。

そろそろ本命と戦いたいと彼は判断した。

準備運動は十分堪能した。長引きすぎる戦いは見ている者も飽きてくる。

 

 

瞬間、ランスロットとガウェインは途方もない寒気を感じた。

 

 

全身の血液が凍り付き手足の先から壊死していくような熱的死が二人を包み込む。

経験を積み、他者を圧倒する程の実力者となってからはご無沙汰となったモノ……恐怖を彼らは抱いた。

ガウェインはふと見たルキウスの姿にヴォーティガーンの竜体を重ねる自分がいることに気が付いた。

 

 

背筋が思わず揺れた。

聖剣を掴む手が僅かに汗ばむ。

 

 

剣帝の瞳が二人の騎士の最期を“見た”

黄金比ともいえるほどに鍛え抜かれた肉体に魔力が循環し強化の術が行われる。

既に処刑は確定し、後は決まった結果に対して因果が追いつくだけである。 

 

 

これを以てブリテンの騎士たちと剣帝の関係はあるべき姿に戻る。

剣と剣を交わし合い殺し合う対等の命を奪い合う関係から、処刑人と処刑される哀れな弱者という当然の姿に。

もしもここにコロッセオに数多く存在するルキウスのファンが居たのならば、これから行われる最高の殺戮への期待に高揚の叫びをあげていただろう。

 

 

 

身体能力強化。

 

五感強化。

 

直感鋭敏化。

 

 

強化。

強化。

強化。

進化。

変異。

捕捉。

 

 

次元が曲がる。

異なる世界が純粋剣技によって結び合わされ、シュラウドの力がソレを更に増幅する。

 

 

射殺す百頭・羅馬式(ナインライブズ・ローマ)

 

 

 

決着は呆気なくついた。

ガウェインとランスロットは攻撃をやめ、あらゆる感覚と全能力をこれから来るであろうルキウスの攻撃に備える事だけに費やしていた。

聖剣の力を解放しどんな技や術が襲って来ようとも回避なり弾くなりする準備はしていたはずだったのだ。

 

 

その全てが甘い考えだと悟ったのはルキウスが剣をほんの微かに動かした瞬間だった。

剣帝の瞳が先ほどまでの戦いの高揚に狂った獣の様な瞳から、冷厳に下々を処す帝王としての冷たさを宿しているモノへと変わっていたのを見た瞬間に、彼らは全力で後方へ飛んでいた。

唇の端から情けなく吐息を漏らし、まるで小動物が大型の肉食獣に追いかけまわされているときの様な全てを捨てた全身全霊で彼らは迫りくる「ナニカ」から逃げようとしていた。

 

 

 

それでも逃げられなかった。

遠い神話の中で猿の怪物が神様の掌から逃げられなかったように、ただの騎士と剣帝では全くもってお話にならないほどの差があった。

 

 

(───これは──)

 

 

(───な──)

 

 

 

───ウェ──さ───ま───ロット──ま───。

 

 

 

何も見えなかった。

何も聞こえなかった。

痛みさえもなかった。

隕石に衝突した人間はきっとこんな感じなのだろう。

 

 

何が起きているか判らない内に体を砕かれ、そして死ぬ。

手から離れ空を舞う剣と飛び散る血しぶきが見えた。

手足の感覚は何もなく、動くかどうかも判らない。

 

 

ただ、ただ、優れた直感だけが告げていた。

ルキウスがナニカをする直前、誰かが剣帝から自分たちを庇う様に割って入ったことを。

 

 

馬鹿な。

そんな、事が。

そんな馬鹿なとガウェインとランスロットは同じことを思いながら意識を失っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【惑星解放装置】

 

 

 

「…………」

 

 

ルキウスは目の前に倒れた「三人」の姿を見ていた。

ランスロット、ガウェイン、そしてガレスだったモノである。

彼が技を繰り出そうとした瞬間、遠巻きで機を図っていたガレスが突如として二人の騎士を庇う様に飛び出てきたのだ。

 

 

ルキウスの瞳には全てが見えていたが、彼はあえて攻撃を続行した。

こちらを臆さず真っすぐに見据え、確かな決意を抱き、一瞬先の死を受け入れてなお立ち向かってくる彼女への敬意である。

 

 

その結果がこれだ。

確実に殺せる力を込めて放った9つの完全同時攻撃の2連発はその威力の殆どを盾となったガレスが受け止める事によって、ランスロットとガウェインは辛うじて死なずに済んでいる。

18発のうちの15発は彼女が受け止めていた。残りの3つの内2つがランスロット、1つがガウェインに命中している。

 

 

ルキウスの剣技は無駄な破壊を産まない。

殺す、壊すと決めた個所だけを一種の医療のように破壊し、周囲への拡散は一切ない。

故にこの結果である。

 

 

ランスロットとガウェインはもう動けないだろう。

たった1発、2発の着弾で鎧は粉々に砕け、全身のあらゆる臓器は破裂し、骨は無事な個所を探す方が難しい程に複雑に割れ散っている。

虫の息と評するに相応しい有様だが、それでも一命だけは残っていた。

 

 

 

そしてガレスは………形容できない。

愛用していた巨大な槍と盾は壊れるを通り越して、文字通り”粉々”になっているといえば彼女がどうなったかは想像に難しくないだろう。

遠く離れた御座のガンヴィウスがほんの一瞬だけ瞼を閉じ、首を振っている。

 

 

 

ルキウスは何事もなくガウェインとランスロットの倒れている横を素通りした。

無意識なのか彼の行進を止めようと必死に指先を伸ばすガウェインを彼は見向きもしなかった。

 

 

周囲の兵士たちは音もなく佇んでいた。

周囲に転がるのは瞬く間に崩壊にまで追い込まれた円卓だ。

 

 

斬首された紅い髪の騎士。

襤褸の如き有様を晒す円卓最強の騎士と太陽の騎士。

稲妻に焼かれて、動かなくなったモードレッド。

そして……もはや人の死に方でない最期を迎えたガレス。

 

 

 

自国の誇りである円卓を砕かれた騎士たちだけではなく、隔絶過ぎる力を見せつけられたローマの兵士たちでさえルキウスの勝利を称える声を上げられなかった。

彼らは戦う事さえせず皇帝の一挙手一動作を見守っている。まるで自然災害に怯える人間の様に。

 

 

「止まれっ! アーサー王の元にはけっして……決して!」

 

 

しかしそれでも。

円卓が砕かれようと、心を奮い立たせてルキウスの前に騎士の一団が立ちふさがる。

握る槍は小刻みに震え、息は荒く、まるで初めて戦場に放り出された新兵の様な有様であったが、まだ心が折れていない騎士たちの姿にルキウスは感銘を受けたように剣を構えて応対した。

 

 

「いいだろう。貴様らにも名誉を与えてやろう」

 

 

いや、とルキウスが視線を騎士たちの背後に動かす。

既に皇帝の注意は騎士たちには向いていない。

恐る恐る騎士たちが皇帝の視線の先を辿ってみれば、そこには彼らの王が君臨していた。

 

 

彼女───アーサー王はとてつもなく強い意志のこもった瞳でルキウスを直視している。

 

 

「我が騎士たちよ……ありがとう。ここは下がってくれ」

 

 

一礼した後に下がる騎士たちを王の護衛の責務を投げ捨てたと誰もなじることは出来ないだろう。

これから始まる竜と魔人の殺し合いに対して何らかの助力が出来るなどと考える者は誰もいなかった。

 

 

皇帝と王は一定の距離を保ったまま殺気をぶつけ合うでもなく、淡々と会話する。

一瞬たりとも相手から目を離さず、王は抑えきれないほどに膨れ上がった殺気を解放していく。

殺された臣下、傷つけられた友、奪われる国の怒りを彼女は燃料に変換していた。

 

 

 

「哀れな神祖の傀儡よ。構えるがいい。貴様が殺した我が友らの痛みを教えてやる」

 

 

ギラギラと黄金色に輝き始める竜の瞳をルキウスは真っ向から見つめて、父であるガンヴィウスが何故そこまでブリテンと彼女に固執するのか少しだけ理解を得た。

彼女は正しくこの星の生命体の頂点だ。

あらゆる神秘から愛されし寵児と言っていい。

 

 

アーサー王とルキウスはある意味では似通った起源をもっている。

片やブリテンを支配する至高の王として。

片やブリテンを掌握し、ゆくゆくは効率的に星を運営するための象徴として。

 

 

規格外という前置きがつくが、どちらも言ってしまえば人工生命体という括りに収まる存在だ。

ただし向いている方向性は真逆であり、決して力を合わせる等という事は起こりえない。

 

 

 

ルキウスは剣をアーサー王の語る通りに構えようとして……気づけば導かれるように空を仰ぎ見た。

敵の前でいきなり無防備な姿を晒す事になったが、そんなことはどうでもいいと思わせる程の圧を彼は感じ取っていた。

アーサー王もまた皇帝から視線を外し、彼と同じように青空へと目線を向けていた。

 

 

ルキウスはこれから何が起こるか父より聞かされている。

しかし現実としてその予兆が世界を覆うのを見て……かつて赤子の頃、彼に抱いた感情を僅かに思い出していた。

 

 

アーサー王は震える身体を抑え込むのに全霊を尽くしていた。

心の何処かで彼女はここには未だ姿を見せない師へと祈っていた「マーリン、策があるなら早く出してください」と。

 

 

戦場にいる誰もが空を仰いだ。

今まさに目の前の敵にとどめを刺さんと猛るローマ兵も、侵略者に容赦なく槍を突き刺そうとしていた騎士たちも、全員が。

 

 

誰もが空を見た。

そして、そこにいつの間にか存在していたもう一つの青紫色の太陽を見てしまった。

ただ一人、ガンヴィウスだけが告げた。

 

 

 

「時間だ。開始せよ」と。

 

 

 

 

 

 

絶対零度にして曖昧な暗黒の世界に巨大な“蕾”があった。

照りつける太陽光を反射して銀色に美しく輝くその物体の大きさはどう見積もっても小型の衛星サイズはある。

血管の様に至る所にラインが引かれ、紅い線を走らせるその存在こそ───コロッサスである。

 

 

座標入力。サイオニック・ソナーによる入力完了。

基礎座標北緯51度30分26秒 西経00度07分39秒。

 

 

修正……修正完了。シュラウド・エネルギー充填完了。

コロッサス、展開開始。惑星解放装置起動。

 

 

 

“蕾”が鮮やかに展開し6つの花弁を持つ“花”となった。

中心部には途方もない量のエネルギーが収束していき、それらはたった一点……ブリテンを狙いすましている。

惑星全土の生物全てを支配可能なサイオニック・エネルギーが更に増幅を繰り返し、あまりにとてつもないエネルギーが空間を歪め重力のレンズを形成していく。

 

 

余波が広がる。

青紫色のシュラウドの霧は星雲の様に太陽系を浸食していく。

瞬く間にシュラウドはオールトの雲を通り越し、隣のアルファ・ケンタウリにまで届いていた。

 

 

 

地球が悲鳴を上げた。

未だ何もされていないというのに、この星はアレが何なのか理解した故に甲高い高次元の絶叫を上げた。

それは自らの根源が犯される恐怖か。この星は億の年月を生きてきて、初めて飲み込まれる恐怖を与えられていた。

 

 

かつて巨人に蹂躙された時とは桁が違う。

この星とこの星が生み出すあらゆる可能性の分岐と、それらが内包運営するシステムそのものが危機に直面しているのだ。

SOLと名付けられた恒星を中心に回る星系全体が揺れ、それぞれの惑星の表面で巨大な影が蠢きだした。

 

 

 

 

 

 

 

美しい女の歌声がブリテン中に響き渡っていた。

酔いしれるように、愛しい男へ思いを馳せる様に。

熱く染まった頬を染めながらモルガンが歌っている。

 

 

彼女は歓喜していた。星々を覆いつくすシュラウドの力による惑星の掌握作業。

その一端を担えるという大業はモルガンをして初めてといえる大仕事であった。

そうだ、彼女は全てを知らされながら嬉々としてブリテンのみならずこの星を売り渡そうとしていた。

 

 

この世界はいつも彼女を苦しめてばかりである。

故にこれは正統な報復行為であった。

だってこうすれば、きっと彼女はもう王様なんていう重荷を背負わなくていいのだから───。

 

 

王様なんて下らない。

どうして見ず知らずの誰かの為に妹は傷つく必要があるのか?

 

騎士なんて下らない。

どうして見ず知らずの誰かを妹が殺す必要があるのか?

 

理想なんて下らない。

どうして見ず知らずの誰かの計画の為に妹が竜の力など宿す必要があったのか?

 

 

もうやめてしまいなさいそんな事。

と、モルガンは思って……なぜ自分はそんな事を思ったのかさえ忘れてしまった。

ただ彼女にあるのは妹が王の座から引きずり降ろされる事への理由さえない喜びであった。

 

 

名高いセイレーンの如き妖艶で無垢な歌声は聞く者の魂を染め上げる妖精の歌であった。

彼女の中に流れる血を通してモルガンは自身の一側面である妖精としての部位を全面的に出力している。

砕けて埋もれていた、もう二度と使われずに星が終わる瞬間まで地層と化していた筈の魔術回路が動き出す。

 

 

膨大なエーテルと、妖精の血を引くモルガンによる操作と、ガンヴィウスによる修復という三つの要因が重なり再起動を果たしたソレは空へと浮かび上がり、徐々に光を強めていく。

 

 

美しくも恐ろしい光景である。

天空に光が瞬いたかと思えばそれらは拡散して縦横無尽に走り回り、さながら伝承に伝わるミノタウロスの大迷宮の如き複雑怪奇な文様を描き出したのだから。

淡い黄金色の光を見ながらモルガンは眼を細めた。自分の内側に燻ぶる暗黒色の力と違ってなんて美しいのだろうと。

 

 

魔術回路が起動する。

空間が歪み、テクスチャが展開されていく。露わになるのは石灰の様な星の表層。

概念的な「門」が生成され星の内海に概念的につながる道が形成されようとするが、やはりそう上手くはいかない。

 

 

 

「門」は形成される傍から歪み、軋んでいく。

目に見えない途方もない圧が「門」に襲い掛かり、圧壊させんと伸し掛かる。

石灰色の表皮が「ブリテン」という神秘のテクスチャに何度も何度も塗り返され、少しずつに縮小していく。

 

 

誰かがその光景を見て機械の様に淡々と呟いた。

男であり女であり、子供であり、老人であり、様々な声を絡み合わせたような声であった。

 

 

『変動値観測完了』

『周波数観測完了』

『テクスチャ理解完了』

 

 

 

『惑星解放装置、執行』

 

 

 

 

────星を穿つ閃光が迸った。

その瞬間この星に生きる全ての存在は、星の悲鳴を聞いた。

 

 

 

 

巨大な青紫色の光が星に突き立っている。

それは寸分たがわずに魔術回路によって微かに弛んだ星の防御壁に槍の如く突き刺さっていた。

46億年にも及ぶ年月を経て初めて星は、自らの概念的な内側への侵略を経験しているのだ。

 

 

かつての巨人でさえここまでは至れなかった。

星の表層に蠢いていた知的生命体を殲滅寸前程度にまでしか至れなかったかの存在とコレでは桁が違う。

 

 

 

霧が惑星を覆い隠し、星の空は晴天から淀んだ夜へと塗り替えられる。

それだけではない。「彼ら」の発する超大なサイオニック・エネルギーの奔流は星の防壁を削り落としながら

更に時空間の基礎構造や次元の構造さえも超過してこの世界の根底たるシステム領域へさえも浸食を開始していた。

 

 

必死に惑星が展開する防衛機構をじわじわと、しかし確実に「彼ら」は攻略を始める。

 

 

一部だけはとはいえ流れ込む情報の数々は「彼ら」を喜ばせるに値するほどの価値がある。

人理、ガイア、アラヤ、霊長という意味。英霊、座、魔法。

やはりこの星にはまだまだ発掘すべき神秘が数多く眠っていると「彼ら」は確信し、コロッサスの出力を随時的確に調整し続けた。

 

 

 

ローマ、ブリテン問わず全ての者は呆然と星を抉る不気味な光を眺めていた。

理由は判らないが、彼らの身体は震えていた。

未知への恐怖と、あまりに現実離れした光景を前に思考さえ止まり果てた彼らは本能に突き動かされかけていた。

 

誰もが無言である。

もしも誰か一人でも叫び声をあげてしまったら、その恐怖と狂乱は感染病の様に瞬く間に全体へと波及していたかもしれない。

だが。その程度の事は予想済みである。

 

 

「彼ら」は絶妙なタイミングで全てのローマの民へと念話をつなげた。

 

 

『我が民たちよ。怯えなくともいい』

 

 

 

ガンヴィウスの厳然とした声がローマの全市民の脳内に響き渡る。

戦場に存在し、直接神祖の姿を拝謁することが可能な兵士たちは地に跪き、敵の目の前だというのに神祖に祈りを捧げるように頭を深く垂れた。

 

 

ブリテンの騎士たちはその異様な光景を前に動く事が出来ない。

今なら容易く目の前の敵兵を殺せるというのに、身体が硬直して動く事が出来ない。

いつの間にか周囲に漂い始めた薄い霧が体にまとわりつき、彼らを縛っていた。

 

 

『あの柱こそは我が権能の光である。我が子らよ、お前たちに祝福を与えよう』

 

 

「彼ら」はちょうどいいと判断した。

定期的にこういう催しは行っている。

結局のところ、知的生物の忠誠と信仰を得る為に最も効率的なやり方は力を見せつける事なのだ。

 

 

『天を満たせしは全て我。星を統べしは全て我』

 

 

ガンヴィウスが大きく腕を広げ、大げさな動作で空を仰ぐ。

周囲を満たし始めたシュラウドを操作し彼はこの星の法則を捻じ曲げ、秩序を破壊し、奇跡を現出させた。

「彼ら」の意思を込められたシュラウドの霧が戦場を一撫でし、奇跡は下賜される。

 

 

『起きよ。眠りにつくのはまだ早い。祖国に戻り、我が威光を広めよ』

 

 

ふと、誰かが自分の身体に視線を落として驚愕する。

身体についていた傷が消えうせている。

そればかりか、身体の奥底から活力が溢れてきて止まらない。

 

 

そこかしこでローマ軍は自らの身体を触って確かめる。

傷一つなくなり、かつてない程に力に満ちた自分を誇るように喝采を叫び、空に向けて拳を振り上げた。

更に後押しするように、騎士たちに切り捨てられ息絶えたはずの兵士たちまでもが起き上がる。

 

 

さながらそれはこの星の宗教における「復活の日」の再現であった。

 

 

眠りから帰ってきた者らは何が起きたか最初は理解できていないようだった。

それどころか自分が何故倒れているのかさえ分かってはいなかった。

だが、それを近くで見ていた者らは、何が起きたかを理解できた者らは別である。

 

 

 

即ち神祖が死者を蘇生させたという事実を理解できた者らは涙を流し、歓喜に打ち震えて神祖に平伏していく。

人の感情という波は一気に膨れ上がり、ローマ軍はもはや武器さえ投げ捨てる勢いでひたすら神祖を称える声だけを上げ続けた。

 

 

 

騎士たちが逃げるように後ずさった。

彼らは互いに顔を見合わせ、ついでアーサー王に視線を向けた。

本能的に彼らは一瞬思ってしまった。

 

 

 

『勝てない』と。

円卓最強の騎士たちはルキウスに倒され、ローマの死者は蘇生され、天を覆いつくす神祖の権能を見せつけられた彼らの心は半ば折れかけていた。

 

 

確かにアーサー王は偉大なる王であった。

しかしこれほどの奇跡を起こせる存在を打倒できるのだろうかと問われれば、彼らは疑うことなく頷くことは出来なくなっていた。

自らの主を信じる事が出来なくなった軍隊ほど脆いモノはない。

 

 

 

残った円卓であるベディヴィエールが必死に声を上げ抑止するが各所で武器を投げ捨て、投降する騎士たちが続出し始める。

ブリテン軍の崩壊は既に時間の問題となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

【天上戦争・1】

 

 

 

もはや勝利は間近となった戦場を退屈気にガンヴィウスは観察していた。

全ての工程は順調である。

ロンディニウムからの重砲撃は勢いを増し、ブリテン軍は何とかギャラハッドの展開する領域の中で必死に耐え凌いでるに過ぎない。

 

 

アーサー王の代わりに陣の最前線で指揮を執るベディヴィエールがいなければとうの昔に彼らは瓦解していただろう。

 

 

 

惑星解放装置は問題なく稼働し緩慢にではあるが少しずつ惑星の防衛機構を溶かし始めている。

 

 

卵の殻の一部を切り取り、中身の黄身を崩さずに少しずつ吸い出す様な精密動作が要求される行為であるが

「彼ら」とステラー級の演算能力を以てすれば容易い仕事である。

 

 

追加としてこの星が時間軸と可能性の分岐を超えて管理していた巨大なデータ・ベースへのアクセスとハックを「彼ら」は試みていた。

英霊の座、時間軸と並行世界を超えてこの星の未来と過去において功績を残した存在を記念碑として取っておく巨大なトロフィーの保管庫。

「彼ら」の瞳は既に黎明の世界を捉えかけている。

 

 

数多くの者がこちらを睨むように見つめ返してくるのを「彼ら」は感じていた。

大変結構。蒐集し甲斐があると英霊たちへと投げかければ、帰ってくるのは敵意と拒絶の視線だけであった。

思わずガンヴィウスは呟いていた。

 

 

「やはり私は何処でも歓迎されていないみたいだな」

 

 

「言ったではないか。この星は排他的だと!」

 

 

当然の様に帰ってくる言葉であったがガンヴィウスは気にせず続ける。

来る事は予想されていたのだから。

周囲に展開していたはずの護衛達の気配がしない事にも彼はとっくに気が付いていた。

 

 

“目線”を向ければそこには夥しい量の血痕が残っていた。

戦い、というものさえ起こらなかったのだろう。

何が起きたか誰も気づけない内にガンヴィウスの護衛は全滅させられ、ここから遠い地点で蘇生させられていた。

 

 

ガンヴィウスが御座より腰を上げて振り返れば、そこには朱い月ともう一人初めてみる顔があった。

 

 

「私は挨拶をしただけなのだが。

 “私がこれからこの星と君たちの所有者になる者だ”とね」

 

 

「ははははは! それは! はははっ!! ずるいぞ! 

 古今東西探しても奴らにそのような言葉を投げかけられるのはそなただけだろうて!!」

 

 

羨ましい、ずるい、私も言ってみたかったと来訪者こと朱い月は腹を抱えて笑い続ける。

ひとしきり笑った後、朱い月は目元に浮かんだ涙を拭い取ってからガンヴィウスへと向き直った。

彼の隣にはもう一人、黒髪の青年がおり、その男は鋭い瞳で神祖を見据えている。

 

 

 

「私は嘘は好まないのでな。来たぞ。後は……“見た”“勝ったと”続けるべきか?」

 

 

 

「……見ての通り今は大詰めでね。

 この星が永遠に変わる決定的な瞬間を見たくはないかな?」

 

 

「いいや」

 

 

今まで黙って朱い月とガンヴィウスの会話を見ていた男が一歩前に踏み出す。

彼はガンヴィウスから見ても妙な気配を持つ男だった。

センサー類でスキャンしても違うスキャン結果が幾つも出てくる……奇妙な量子のもつれを纏った男だ。

 

更に注視すれば彼の影の中にはナニカが潜んでいることも「彼ら」は感知した。

 

 

霊墓の深部でこのような結果は何度も観測していた。

複数の可能性が幾つも重ね合わされ、無数の断片を映しこんでいる。

そんな宇宙規模で見ても珍しい現象をたった一人の男が放っていた。

 

 

「なるほど。こうして直に見て判った。

 何度も言われた事だったが、どうにも腑に落ちなかった」

 

 

男……魔法使いは星を抉り啜り取らんとする光の柱を見た。

あの光こそが彼の眼を曇らせていた元凶であると瞬時に悟る。

ガンヴィウスは薄い笑顔を張り付けた顔で男を見ている。

 

 

 

「あー……こういうのは苦手なんだ。

 ごちゃごちゃ高尚な決まり文句を言うべきなんだろうがな。

 “世界の為”だとか“未来の為”だとか……他にも“人類がこれまで積み重ねてきた全てを台無しにするものだ”とか言えば世界の為に戦う勇者って感じになるんだろうが」

 

 

魔法使いの瞳が鋭くなりガンヴィウスに叩きつけるように言葉を吐いた。

 

 

「初対面で悪いが、俺はお前が気に入らない(俺はお前が嫌いだ)

 やりあう理由なんてそれで十分だろ。

 お前が居たら、俺は俺が綺麗だと思うモノを見れなくなる。

 だから────お前は邪魔だ」

 

 

 

大変結構とガンヴィウスは笑って頷く。

結局のところイデオロギーの相違と感性の違いならば争いは避けられない。

自分たちが良いと思ったものをあちらは悪いと思った。それだけの話なのだ。

 

 

朱い月が大きく一歩踏み出す。

彼はダンスでも踊るように両手を大きく横に伸ばし、くるくると回りながら笑う。

 

 

 

「実に単純でよい。そういうのは好きだぞ」

 

 

ならば、と朱い月はぞっとする程に美しい笑顔をした。

一種の芸術作品染みた完成されすぎた美がここにはある。

 

 

 

「宴には相応しい幕開けが必要であろう?  

 ブリテンは私が見た所ではそなたらの相手としては力不足の様でもある。

 奴らに少しだけ手を貸してやろう。弱い者いじめはよくないと魔法使いもよく言っておる故に」

 

 

 

月の王が踵で軽く大地を叩けば、地球が蠢いた。

星が脈動しブリュンスタッドと惑星の力が混ざり合い、瞬時に戦闘用の高度な能力を添付された劣化複製端末──真祖が戦場のあちらこちらに姿を現す。

彼らは誰も彼もが朱い月と似通った姿をしているが、やはり起動したばかりというのもあるのかオリジナルの様に感情豊かというわけではなかった。

 

 

 

風。

火。

水。

光。

熱。

圧。

 

 

 

星の表層で発生するありとあらゆる事象が空想から現実へと引っ張り出されローマへと襲い掛かった。

大地が隆起しブリテンを守りながらローマを押しつぶす。

水が何もないところから突如噴き出し、その濁流が陣形を丸ごと飲み込む。

 

 

不可視の風の刃が兵士たちを切り刻みながら突き進む。

光と熱が逃げ回るローマ軍を焼き焦がしていく。

星の怒りと苦痛を反映した空想具現化はこれ以上ない程に精確にガンヴィウスの眷属を殺すべく猛り続けている。

 

 

 

阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。

いかにシュラウドの加護によって個々の純粋な身体能力だけ見れば円卓に比肩する程に強化されているとはいえ、さすがに真祖の相手は荷が重い。

ルキウスは既にアーサー王と交戦を開始しており、その戦闘の凄まじさは真祖でさえ割って入る事は不可能な域だ。

 

 

 

更には真祖という頼もしい援軍を得たブリテンの騎士たちの士気は回復傾向にあり、至る所で反撃が始まっていた。

中には一度は武器を捨てて投降した者らも再び武器を手に戦いを再開しているようだが、まぁこういう事はよくあるものだ。

 

 

ガンヴィウスが懐から小さじ一杯分程度の灰色の砂を取り出した。

これの名前は「生体金属」という。またの名をグレイ・ナノマシンだ。

風に任されるままにガンヴィウスはそれをばら撒く。

 

 

見る見る内にナノマシンは付近に満ちるシュラウドのエネルギーやエーテル、果ては所かまわずあらゆる物質を吸収しその質量を爆発的に増大させていく。

瞬きの間に平野を埋め尽くす程の量となった生体金属は粒同士が連結しあい、即興でガンヴィウスがプログラミングしておいた姿へと変わり出す。

 

 

完成したのは千を超える数のプロメシアン達だ。

4本の腕と肥大化した肩部を持つ巨人たちは命令された通りにローマ軍の援護を開始し、複数の腕から圧縮されたプラズマ・ボルトを目にもとまらぬ速度で連射しながら制圧行動を開始。

着弾した真祖の身体を焼き焦がし、掠りでもした騎士たちの身体の分子構造が砕かれドロドロの液体になってしまう。

 

 

次いでロンディニウムにも指示を送りレールガンを増設。

100問近いマスドライバーが絶えず破壊の雨を生み出し続けた。

 

 

もはや戦場は混沌の坩堝となっていた。

ルキウスとアーサー王の生み出す破壊の余波が山々を砕き、巨大な谷を平原に作り出しながらも両者の力は限界知らずに跳ね上がり続けている。

あそこに近づく位ならばプロメシアンと真祖の戦いの狭間にいたほうがマシだ。

 

 

 

機械の軍団が光の弾丸を撃ちながら騎士たちを追い詰めれば、それを阻止すべく星のあらゆる現象が空想具現化によって引き起こされる。

大地が蠢き、風が舞い踊りプロメシアン達の進行を抑え込むべく猛る。

しかし幾度砕かれようと刻まれようとプロメシアンを構築する生体金属は直ぐに周囲のエネルギーと質量を食い漁り増殖を行う。

 

 

最小活動単位である分子単位で破壊しなければグレイ・ナノマシンは活動を停止することはないのだ。

 

 

一体倒せば四散した部位がそれぞれ全体を複製し十体が新たに作り出される。

地割れを以て大地の底に沈めようと土とそこに含まれる鉱物を吸収しプロメシアンは数を増やして地の底から這い上がって戻ってくる。

かつてLクラスタと呼ばれる宙域を丸ごと飲み干したナノマシンの軍団はその増殖能力を活かして単純な戦闘能力では格上である真祖へと食らいつき続けていた。

 

 

 

「そんな事も出来るのか。やはりそなたの力は底が見えないな! 

 だが、我らも負けてはおらんぞ? 

 特に魔法使いの力は間違いなくそなた等を楽しませてくれるだろう。

 いや……この男の力は私など足元にも及ばない。本当に凄いのだぞ、魔法という奴は!」

 

 

「人を勝手に化け物扱いするな。お前だってとんでも生物だろうが」

 

 

 

朱い月が胸を張って宣言する称賛に魔法使いはうんざりしたように頭を掻きながら懐から奇妙な形状の剣を取り出す。

まるで宝石の原石をそのまま粗削りして最低限の体裁だけ整えたような剣であった。

武骨なカラットの表面は虹色に輝いており無数の映像らしきものがそこに映りこんでいる。

 

 

「───聴け、来訪者よ」

 

 

男が剣を水平に構えれば、彼を中心に量子の揺らぎが激しくなっていく。

まるで超重力空間の様に時間軸が無茶苦茶にねじ曲がり、暗黒エネルギーの濃い場所によくみられる不安定な観測力場が広がっていく。

 

 

───秩序(万華鏡) を示す我が銘において宣ずる」

 

 

あらゆる要素が魔法使いに味方していた。

シュラウドという異次元の理に呑まれる自身を守る為、極大の異物を排除するために世界にとっての毒さえも利用しているのだ。

その奇跡は世界を歪める。しかし……今日世界が無くなるよりはマシだと。

 

 

 

ガンヴィウスは男から目を離さずに凝視し続ける。

隣の朱い月のことさえ眼中になく「彼ら」はこれから観られる未知への期待で胸を含まらせていた。

 

 

空が幾度も移り変わる。

鏡面の様に輝いた空は惑星全土の空があらゆる場面を映し出す鏡となっていた。

それはこの世界が今まで歩んできた歴史であり、これから歩む未来の映像だ。

 

 

男が愛した破滅と隣り合わせながらも可能性と進むことをやめない人類の姿だ。

 

 

生物の誕生の光景があった。

巨人を打ち倒す名もなき救世主がいた。

人々が寄り集まり国を作る光景があった。

偉大な暴君が神々と訣別する絵があった。

 

 

神から独立した人の為の世界の礎を築いた男がいた。

全ての人間の罪を背負い、この世界の多くの人々の心の拠り所となる教えを広めた救世主がいた。

世界の果てを開拓した船乗りがいた。

人々に星の世界に至る為の一歩である法則を解いた賢者がいた。

 

 

誰もが無理だと言った筈の空を飛ぶ翼を鋳造した兄弟がいた。

神の力と言われていた稲妻を人の理論で解き明かし万人に広めた天才たちがいた。

太陽の力を人の手に落とし込み、この世が星の世界に旅立つ為に超えなければならない宿題を編纂し残した学者がいた。

特別な生まれも血筋も、力さえないというのに滅びに立ち向かい歩み続ける少年/少女がいた。

 

 

 

破滅があった/繁栄があった/切除があった/過ちがあった/成功があった。

この星が持つ全ての可能性がここに集結している。

それはガンヴィウスを以てさえ見事という他ならない偉業であった。

 

 

「───()()は、お前を認めない」

 

 

 

叩きつけられるのはこの世全ての否定。

SOL星系の全て、それらから派生した全ての命、意思、可能性が侵略者に否を叩きつけている。

彼の影に潜む72にも及ぶ仮想人格を保有した存在が全力で魔法を拡大解釈し、元々あった権能を多重展開して高次元へと接続。

 

 

空を覆いつくす可能性を映し出した宙が今度は黎明の如き淡い光に包まれた夜空へと書き換えられる。

皮肉な事に「彼ら」が惑星全土に多量に配布したエーテルがこの奇跡を実現させるに足る燃料となっていた。

 

 

 

星光の様に小さな輝きが連鎖で幾つも瞬く。

一つ一つが高次元より来る世界の守護者たちが顕現する前触れだ。

星の悲鳴という最大の呼び声、72の人理補正式及び可能性を運営する魔法という“繋がり”を維持する者と、そして莫大なエーテルという全てが揃った結果がここにはある。

 

 

誰も彼もがガンヴィウスこと「彼ら」を否定している。

この星は彼を受け入れないと叫んでいた。

 

 

 

「そうか。そうか。────そうか」

 

 

 

ガンヴィウスは深くうなずいていた。

何千、何万もの英霊たちと相対し、魔法使いと朱い月という規格外の怪物と敵対し

それどころかこの星系の全ての戦力と法則と機構を差し向けられているというのに彼の精神は欠片も揺れていない。

 

 

それどころか───「彼ら」は喜んでいた。

心の底から再確認する。この星を見つけられてよかった、と。

元より好奇心旺盛な存在である「彼ら」からしたらこの展開は予想以上である故に嬉しくてたまらない。

 

 

間違いない。

この星こそが我らの求めた地。

この星系の全ての謎を解き明かし「剣」と神秘をわがものにしたとき、果てのない昇天は成されると「彼ら」は改めて確信を得る。

 

 

 

故にガンヴィウス(「彼ら」)は満面の笑みで魔法使いと朱い月、そして幾多の英霊と果てはこの世界の全てに言葉を投げかけた。

 

 

 

「大変結構。では、始めようか」

 

 

シュラウドが蠢きこの世の全てと拮抗する様に圧力が高まっていく。

それが誰も及ばない天上の戦いの始まりを告げた。

 

 

 




遂に新作DLC「ネメシス」が出てきましたね!
今度のDLCではプレイヤー自身が銀河を滅ぼす悪魔にも、悪魔から世界を守る守護者にもなれるというのが楽しみで仕方がないです。


次回は今回に輪をかけて書きたい放題しますので
もっと遅れると思います。気長に待っていて下さると幸いです。
ネメシスが来るまでには書き上げたい所です。
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