fate/stellaris 【完結】 作:宇宙きのこ
ステラー・ライト またの名をΣクラス。
『ACOT』というMODに登場する超越的な技術体系の第三段階。
第一段階 Δ 暗黒物質への理解と操作。
第二段階 α 暗黒エネルギーの理解。
に続く第三段階 Σ 恒星の命と意思への理解と支配である。
型月風に言えば恒星の持つエーテルを創造し支配する御業である。
しかしこれでもまだ完全にこの技術の本質を理解したといえず、最終段階Ωのさわり程度の力しか引き出せていない。
この技術を発展/完成させる為に「彼ら」は探索を始めたと言っても過言ではない。
なお原作ではコレの上にまだもう二つほど技術レベルがある。
そちらのほうも何れ触っていきたいですね。
追記 2/11日にORT戦を追加しました。
例によってミクトラン後編のネタバレ全開なのでご注意ください。
88。
【天上戦争4】
地球と月の間に存在する重力圏と呼ばれる範囲内において出現したリヴァイアサンの大群と「彼ら」の艦船はにらみ合っていた。
夕焼けの如き色彩を帯びた独特の形状をした艦船は次から次へとステラー級より吐き出され、現実空間に浮上すれば来る開戦の時を待つように陣形を組み、支配者の号令を待っている。
既にΣ級への換装は完了しており、これらの持つあまりに途方もない力の影響を考慮してか、あらゆる種族が聞き取れるサイオニックな通信が全周波で垂れ流しにされていた。
1500光年という非常に近場に存在する文明だけがこの通知を聴いてしまい、動転していた。
『警告。警告。Σ級の武装が解放されます』
『複数の文明レベル1相当の勢力による大規模な交戦が始まる恐れがあります』
『付近の文明は直ちに惑星を放棄し1分以内に該当ポイントより200光年以上の距離を取ってください』
『繰り返します。ステラー・ライトを使用した武装が解放されます。
周辺の星系および星団の崩壊の恐れがあります───』
宙を怪物たちが覆っている。
星の代行者ともいえる怪物たちもまた直ぐには手出しせず、十字架の形状をしたリヴァイアサンを中心に着々と陣形を組み、機会をうかがっている様に見えた。
地球と月の間にある30万キロ程度のとても狭い領域の中には夥しい点線が次々と現れ、止まる事なく増え続けている。
地球開闢以来最大規模の戦いを間近に控えた怪物たちは黙々と対峙し星々を震撼させる程の圧をぶつけ合いながらも決定的な瞬間を待っていた。
“その時”がいつ来るかなど「彼ら」は理解している故に準備に抜かりはない。
89。
そしてガンヴィウスは────「彼ら」はあらゆるセンサーが捉える敵影の増大に対しておかしな話ではあるが高揚していた。
リヴァイアサンの大軍団。
単体では大した事はない存在だが、こうも数が揃えば「戦闘」は成立するだろう。
いやいや違う、そういう問題の話ではないのだ。
もっと言葉に出来ない類の感情である。
そうだ「彼ら」は感動していた。
リヴァイアサンが群れを成して確率と量子の彼方から襲い掛かってくる?
本来ならば同族同種であろうとも縄張り争いの絶えないケモノがまるで一個の軍団の様に行動している?
全て初めての経験である。
永い年月の間様々な事象を観測してきた「彼ら」をしてこんな事は初めて見た。
一体どれほどの秘密をこの星系は抱えているのだろうか。
90。
これは間違いなくSOL3が何らかの行為をしたのだろうと「彼ら」は考える。
星の意思は恐らくこの星系内に存在する全ての生命体に救援を要請し、星々はそれに答えた。
つまり、星々は何らかの手段で連絡を取り合っているということだ。
「彼ら」の瞳がセンサーとシュラウドを通して一つ一つの惑星を直視した。
まるで「お前か?」と詰問するように。
主星であるSOLからSOL1、SOL2、SOL3と次々と見比べていく。
呆然と宙を眺めるようにして動かなくなったガンヴィウスの姿を見て幾体かの英霊たちが攻撃をしかけてくるが、手加減も遠慮もなく無造作に放たれた「歪曲」と
瞬間的に開かれたゲート・ウェイが猛威を振るった。
「歪曲」に飲み込まれた英霊たちは全身の皮膚を裏返され、一瞬で血袋の様な姿となって霧散する。
91。
だが彼らはまだ幸福な方であっただろう。
少なくとも部外者から見れば酷い有様だが、本人は即死できたのだから。
ゲート・ウェイに飲み込まれた英霊たちは恒星の間近に飛ばされ、意識を保ったままSOLの重力に捕まって落下し、焼き殺されるという地獄を味わうことになった。
誰しも貴重な宝石や情報を吟味している時に隣で騒がれたら不快感を覚え、排除したくなるものなのだ。
たっぷり5秒間宙を見つめたまま微動だにしなかったガンヴィウスはやがて我を取り戻したのか、深い息を吐いてから朱い月たちを見た。
「驚愕しているよ。本当に、驚いている」
「それは何よりだ。再三に言ったであろう? 期待を裏切りなどはしない、と」
92。
ガンヴィウスは穏やかな笑みを浮かべながら月の王の言葉に頷いた。
既にコロッサスの進捗は90%を超えている。星の抵抗はもう間もなく終わる。
障壁は所々に小さな穴が開き始めており、シュラウドの力は既に星を浸食し始めているのだから。
多くの知見を現時点で「彼ら」は得ていた。
星の機構による面白い単語を羅列するならば“人類悪”やら“獣”等などが興味深いワードだ。
ただ。そうはさせまいと計画の中核たるコロッサスを害する程の力が現れ、自分たちの1万年にも及ぶ研鑽と計画に亀裂が入り出しているというのに「彼ら」はむしろこの状況を楽しんでいる様にさえ見えた
「彼ら」はコロッサスを通して流れ込む知見を閲覧しながら、噛み締めるように言葉を吐いた。
「“星系内の惑星同士で意思疎通をし、己の分身たるリヴァイアサンを使役する星がある”
“個人で並行世界を極めて高精度で運営することが出来る”
“星と霊長の集合無意識は高次元から数多くの並行世界に干渉できる”」
朗々とガンヴィウスは出来事を羅列していく。
今日一日で自分が得られた知見をまるでレポートに書き写すように彼は言った。
魔法や更に手に入れた新しい概念や知見を老人は若者の様な覇気で並べていく。
「ありがとう。
これらの出来事は我々に非常に大きな発想を与えてくれるだろう。
実際にモノを見たのだ、後は我々の工夫の問題だな。
未知への挑戦というのは実に
「……本当にお前たちは知識欲の塊なんだな」
星を侵略し全てを奪おうとしている侵略者の見せる無邪気な子供の様な顔と姿に魔法使いは思わず呟いていた。
ガンヴィウスは深い声で答える。「彼ら」の根底にある行動原理を説くように。
「我々にとって“知る”や“成長する”ということは、“生きる”ことだ。
同時にソレは自分自身との戦いでもある。
“もういいだろう”という没落への囁きや
過信による自滅と戦いながらも我々は先に進む───進み続ける」
「そんなずっと先を行くお前たちから見たら俺たちがこれから辿るだろう歴史なんて非効率極まりなくて、不格好で様にもならないんだろうな」
93。
ガンヴィウスの視線を真っ向から見据えながら魔法使いはその奥に存在する「彼ら」に向けて言葉を紡いだ。
遥か彼方、宙の支配者の有り様を説かれたのだ、ならば魔法使いにはそれに答える必要があった。
ありがたいことに月の王から地球代表というお墨付きをもらったのだから、存分にその立場を使わせてもらう。
知識が好きならば持っていくがいい。
仮にここで自分たちが負けて消え去る事になっても自分の理念だけは残して見せる。
「人間ってのは本当に馬鹿だと俺もつくづく思う。
先にお前たちが“何でこいつら生き延びられてるんだ?”って言ってたが
やっぱり第三者から見てもそう思うか」
ははは、と魔法使いは力なく笑った。
多くの可能性と未来と過去を見渡す彼には痛い限りの言葉であった。
「直ぐに調子に乗っては大勢を巻き込んで失敗するわ
クソみたいな理由や、何で争っているのかさえ判らないままにやりあった挙句、反省したフリだけしてまたやらかすんだよなぁ……」
94。
“信じられるか? 二回も全世界が同族殺しに躍起になるのは確定事項なんだぜ”と魔法使いはガンヴィウスに言う。
「世界大戦」という原始文明が滅ぶ大きな要因を知っている「彼ら」は二回もそのような綱渡りをするであろう霊長に対して小さくため息を吐いた。
恐らくはギリギリだったのだろう。
核の力を手に入れてからそんなことが起こっては破滅は避けられない。
三度目の暁には何もかもが焼け落ちる事だろう。
「右に左に転び回って、痛い目みても中々学習しないのが人間だ。
多くの文明を見てきたお前たちなら判るだろう? この星の霊長ってのはあらゆる文明の失敗例を詰め込んだ様な奴らさ」
「魔法使い……?」
朱い月が頭を傾げた。
魔法使いが何を言いたいのか判らない故に。
根本的に人ではなく、やはりどうしても人とは違う存在である彼には魔法使いが何を言っているのか、その本質が判らない。
「だけど────それでも貴方たちと同じように先に進む事だけはやめないのが人間だ。
多くの失敗があったさ、何回世界が滅びかけたか判ったもんじゃない」
魔法使いは脱力し剣を降ろし、ガンヴィウスを見つめていた。
元より魔法等という埒外に達した自分がまともではない事は自覚している。
こんな腹の底から素直な所感をぶちまけられる機会など本来はありえない故に彼はあらゆる取り繕いを投げ捨てていた。
「俺はな、別に世界が滅んだって構わないと思ってるんだ。
足掻いた末に迎えた終わりなら“結末”なのだから。
こんな場所で到底敵わない化け物と戦ってる理由だって別に世界を滅びから救いたいからじゃない。
むしろお前たちなら限りなく世界を長続きさせてくれそうだってのも判ってる」
誰もが魔法使いの言葉に耳を傾けていた。
宙の彼方でにらみ合う星の化身と星々の征服者、真祖、英霊、巨人、そしてガンヴィウスも。
魔法使いは頭を乱雑にかいた。もとより口が立つ男ではない故に、こういった演説は苦手なのだ。
「俺は
無茶苦茶に
悪趣味だとは自覚しているさ。
要は大勢の人生を遥か高みから見下ろしてるってことなんだからな」
男は観測者として多くの世界を見た。
滅ぶ世界もあれば進む世界もある。切り捨てられた世界があり、滅びに必死に抗う世界もあった。
全て同等の価値があると魔法使いは断言する。愛しい、美しい、綺麗で醜い故郷だと。
男は全ての混沌を愛していた。
可能性に対する狂信的なまでの受容主義者であった。
男は勢ぞろいした英霊たちを仰ぎ見てガンヴィウスに「凄いだろ? 一人一人が物語の主役なんだぜ」と語った。
95。
「面白い思想だな。並行世界を認識してしまった結果、自己防衛の為に至った思考なのか。
はたまた元よりそういうモノだったからそれだけの魔法を手に入れられたか。
どちらが先なのか興味深い所だ」
「さてな。自分でも判らないんだなこれが……。
気づけば至ってた、ってのが正直な所でね」
“起源”と言ったか、とガンヴィウスは考察する。
元よりあった精神的な素養が魔法という規格外の奇跡を受け入れるだけの器になったのかもしれない、と。
ガンヴィウスは魔法使いの言葉を受け止め、咀嚼し淡々と返す。
滅びさえも受け入れる狂気的な世界と無限の可能性への執着は、なるほど、面白い精神構造であり参考にできる個所もある。
最高効率だけでは得られない物も確かにある。
しかし問題はそれのリスクが惑星全土な点であり、余りに博打に過ぎるという点だが。
魔法使いにとっては世界とは無数にある万華鏡の一つに過ぎないかもしれないが
そこに住まう者らにとっては唯一なのだ。代わりなどありはしない。
ガンヴィウスは魔法使いと同化している者らにも視線を向けた。
思えばこれらも興味深い存在である。
見た所肉体は存在せず、その本質は信仰で生み出されたサイオニック・生命体の様でありながらも何かが違う。
複数の単語を検索し、相応しい表現としては「プログラム」の様だと「彼ら」は推察する。
それも最高の材料を以てかなりの凄腕の魔術師がくみ上げた、とてつもなく効率的なモノだと。
もしも製作者に出会えたのならば称賛してやるべきだろう。
しかしコレの用途が世界を見守る為のものだとしたら、少々人間味を与えすぎではないかな、という感想を「彼ら」は抱いた。
千里眼というセンサーで霊長全ての歴史を観測しているのだとしたら生真面目に過ぎる。これらは馬鹿正直に全部を受け止めて、やがて仕事を投げ出してしまいそうだ、と。
酸いも甘いも知り尽くした「彼ら」でさえ時折ため息を吐きたくなる霊長の攻撃性を延々と見続ける仕事というのは、他人事ではあるが憐憫を抱かざるを得ない。
解析の途中で何やら青白い光の中から再び舞い戻ってきた英霊……先ほど「歪曲」を送り付けてやった白髪の少女が「アキレウス」等と叫びながら飛び込んで来ているが「彼ら」は彼女には
原子一つ分程度の価値も見出さず、視界にさえ入れてはいなかった。
それはそうとオリュンポスに連なるガラクタの関係者の名前で呼ばれた事は不愉快であったので報復は少しばかり強めに行われた。
全自動で少女の内面を読み取り、即座に精神干渉攻撃が発動する。
欲望を読み取り、願望を飲み込み、野望を読み漁られ、現実が歪められた。
あぁ、何と可愛らしい幼い知性体であろうか。
聞けばどうやらコレとクィリヌスは異母姉弟という一説さえもあったらしい。
父親は何の冗談か、
「彼ら」が神祖となって真っ先に歴史から削除した関係性である。
エーテル体というむき出しの魂ともいえる状態では「彼ら」の干渉を防ぐ事など不可能である。
極まった精神主義者でもある「彼ら」にとって精神攻撃という手段は直接的な破壊の力など可愛らしく思える程に磨き抜かれた刃なのだ。
まだ星ごと破壊してもらえた方が、気が付かないうちに「歪曲」に飲み込んで貰えた方が幸福な最期であっただろうと思える程の仕打ちが彼女を襲った。
検索/解析/発見/浸食/冒涜という地獄が彼女を満たす。
96。
「やめろッ! 私に近寄るなッ! 私に触れるなぁぁぁぁ!!!」
血涙を流しながら少女は手あたり次第に鉄球を振り回しながら暴れ狂う。
誰も存在しない空間を超音速でハンマーが抉りぬく。
その場に存在しない筈の何者かを彼女は攻撃しようと必死になっていた。
彼女は絶望という言葉さえ生ぬるい恥辱を味わっていた。
美しい姿になってしまった自分。吐きかけられたおぞましい言葉────そして奪われた■■
憎くてたまらない男が目の前にいる。手を伸ばしてくる。
本来の彼ならばありえない行動。しかし狂っている故にそんなことにさえ気が付けない。
あらゆる場所にあの男がいる。あらゆる感覚がおぞましい単語を認識させる。
ふと、光沢ある鉄球の表面を見た彼女はそこに映る顔に絶句した。
本来あるべき自分の顔は■■■■■になっていた。
反射的に彼女は自分の顔に手をかけて皮膚を剥いでいく。
本心では■■■と自覚しているソレを自分の手で壊して台無しにする屈辱に彼女は遂に折れた。
武器を投げ捨て胎児の様に身体を丸めて弱弱しくすすり泣きだす。
噴き出た血液が周囲を汚す中、彼女は両手で顔を覆って丸まっていた。
「よせ……もうやめろっ……やめてくれ…………」
ガンヴィウスは少女の声に返答さえ返さなかった。
勝手に突っ込んできて勝手に全自動で発動する防御機構に引っかかり、勝手に許しを乞われているのに何を言えというのか。
英霊たちの殺気だった視線と、同時に微かに湧き出し始めた“恐怖”を認識しながら神祖は未だ深紅の光を空へと放ち続けている宇宙膜を見た。
視界の端でエーテルの粒子となって散っていく少女がいたが、欠片も気に掛けられる事はなかった。
大切なのはまだロムルス=クィリヌスは死んではいないという事実だ。
真なる神祖は星々の化身を呼び出す事に全力を使ったみたいだが、それでもまだ滅んではいない。
ガラス細工が割れるような音と共に宇宙膜は割れ、身体の所々を欠けさせたロムルスが現れれば魔法使いと朱い月の傍へと降り立った。
膝をつき荒い息を吐くロムルスに魔法使いが応急手当をし……ロムルスと朱い月は一瞬だけ見つめ合った。
「セレネーの化身よ───許す」
「…………礼を言うぞ」
短いやり取りであったが、二人の間で意思疎通が行われる。
月の王は僅かに躊躇うような仕草を見せた後───神祖の首筋に牙を突き立てた。
血の代わりに噴き出るのは真っ赤なエーテル粒子であり、ブリュンスタッドはソレを一滴残さずのみ漁っていた。
メレム・ソロモンを吸収した時と同じく、この宇宙生物は吸血という行為を以て他者を取り込む事が出来る故にそれを行っているだけだ。
「彼ら」の眼にはロムルスの力が朱い月に向けて流れ込んでいく様がはっきりと見える。
完全なる神を取り込む等、たとえ両者に合意があったとしても本来ならば不可能な所行であった。
純粋なる真祖でさえこんな事は出来ないだろう。風船に空気を入れすぎた時の様にパンクして当然である。
だが曲りなりにも朱い月は一つの星の頂点である。
全てを以てガンヴィウスに挑むという彼の言に嘘偽りはない。
リスクなど覚悟の上で彼は神を食らうという無謀を行っている。
力の譲渡が完了する前に真なる神祖に止めを刺すべくガンヴィウスは一歩踏み出した。時間に余裕はないが実行する。
全身にαの力が循環し増幅していく。
試しに「歪曲」をロムルスに送り付けたが、魔法使いは空間が捩じれる瞬間に空間そのものを並行世界へと飛ばして無力化した。
恐らくエネルギーランスを撃ち込んでも同じように無効化されるだろう。
どうやら直接葬らなければならないらしい。
すかさず多くの英雄たちが三者を守るように動き、ガンヴィウスの前に立ちはだかる。
100にも届く英雄、英傑たちがガンヴィウスを阻んだ。
北欧の戦士王とその妻を先頭に角を生やした白髪の女弓兵、大砲を構えた大男、朱い長槍の青い槍兵などなど、人類史が誇る英傑たちが外宇宙の怪物たちと向き合っている。
彼方ではグレイ・セファールが中々潰せない英霊たちにいら立ちを隠そうともせず暴れ回っている。
宙を舞う戦乙女たちからの爆撃と天竺の兄弟たちによる完璧な連携は巨人を倒すには至らないまでも足止めとしては成功していた。
ブリテンを破壊してもよいという許可さえ与えればすぐさま殲滅できるだろうが、残念ながらソレは与えられない。
大物は小回りのきく存在の相手が苦手なのは「彼ら」は知っている故に、追加の増援が検討され始めた。
幸い周囲には“デブリ”が大量に存在しており、もう間もなく解析は終わる。
97。
英雄が一歩前に進み出てガンヴィウスに鋭い視線を向けた。
若草色の短髪が特徴的な青年だった。
豪奢な鎧に、立派な二頭の馬で引かれた戦車を持つ男の名前はアキレウスと言った。
女王の誇りを踏みにじられた最期を見て、煮えくりかえった腸を感じさせないように努めながら怪物の前に彼は姿を現していた。
「待ちな爺さん」
「…………」
ガンヴィウスの視線がここにきて初めて英霊へと向けられた。
正確にはアキレウス本人ではなく彼が着込んだ鎧と所持する盾に向けてであるが。
「
「……今なんて言った。
誉高きオリュンポスの神々を侮辱したな……女王だけじゃ飽き足らずに……」
アキレウスは白髪の少女がいた場所を見た。
今は血だまりしか残っていないその個所には先ほどまであらゆる絶望を味わい、尊厳を破壊された誇り高き女王がいた。
やれやれとガンヴィウスはため息を吐いた。
確かに素晴らしい英雄なのだろう。
次々と現れる英霊たちの中でも頂点に近い大英雄なのだろう。
こんな状況でなければもう少し文明的な対応をしてやれたのだが。
朱い月とロムルス、魔法使いの三者をこのまま放置するのはよくない。
恐らくまた何かやらかすに違いないという確信があった。
故にガンヴィウスは少しばかり急いでいた。
星系全土を巻き込む戦いはもうすぐそこだ。
英霊など話にもならない戦いの幕は既に上がり始めている。
「知らないのかね。
君たちが崇めるオリュンポスの神とやらも起源は我らと同じく、宙の彼方から来たのだよ。
彼らの行動が君たち視点から見てズレているのは当然だ。
あれらは一種の奉仕機械なのだから」
最も奉仕の対象である創造主は滅んでいるようだが、とガンヴィウスは続けた。
「機械が恥知らずにも生物の真似をし、自分たちにも心があると驕っているのが奴らの正体だ。実に不愉快極まりない」
98。
ギリシャ神話というデータを解析して「不愉快」という感情を「彼ら」は抱いていたと吐露する。
それは神がひたすら人を振り回す様に義憤を覚えたのではない。
単純な好悪の問題である。
「彼ら」は精神活動を上辺だけで真似て、神として君臨する機械という存在が嫌いで仕方がなかったのだ。
もしも巨人の蹂躙をガラクタ共が跳ねのけていたとしてたら「彼ら」が直接排除していただろうと断言できるほどに。
かつての銀河においても機械文明に対する排除は徹底的に行われた。
銀河を破壊しうる兵器さえも用いてあらゆる機械が主体となっていた文明は痕跡さえ残さず浄化されたものだ。
「もういい。そうかよ───」
憤りを込めて呟き、馬車もろともアキレウスの姿が消えた。
流星の如き速度と物理法則を無視した三次元的な軌道を描きガンヴィウスを翻弄するように飛び回る。
トロイ戦争において数多くの英雄たちを叩き潰した真なる英雄の速力はルキウスさえも超えるかもしれない。
FTLにも到達しかねない速さを前にガンヴィウスは無感情でアキレウスに言った。
恐らく生涯で一度も言われた事がないであろう所感が大英雄に向けられる。
「素早いのは判った。
……それで、ソレに何か意味でも? 元より速さ比べなどするつもりはないぞ」
速さを競いたいのならばオリンピアにでも行けばよいとガンヴィウスは続ける。
「彼ら」のセンサーと感覚は確かに早いがそれでもFTLには届かない程度のアキレウスを完全に捕捉していた。
ガンヴィウスは手元に滞空させていた杖を手に取り、先ほど得たばかりのデータを読み込む。
ちょうどアキレウスにとてつもない執着を抱いていた女を先ほど蒐集したばかりだ。
「喜べ。私が願いを叶えてやる」
解析/模倣/補充。
真名 ペンテシレイア。
願い アキレウスの抹殺。
残骸捕捉完了。
欠損部分はシュラウド及び他の英霊たちの残骸を以て補充。
周囲を満たすシュラウドが先ほど絶望と苦痛の中で散った少女の欠片を繋ぎ合わせていく。
英霊たちはどうやらエーテルとしての実体を破壊されると完全に霧散するわけではなく、残骸として何割かの“パーツ”が残留することは判明している。
幸いこの地には夥しい量の骸が漂っている故に、継ぎはぎするための材料には困らない。
原理としてはかつてヴォーティガーンを呼び戻した時と同じである。
キメラ。パッチワーク。モンキー・モデル。
これを表現する言葉は多々あるが、本質は冒涜の一言であった。
『ア、ァ、ア・ァァァァアキレウゥスゥゥ……!!』
先ほど同時に「歪曲」によって葬られた二人の槍兵たちが掛け合わされてペンテシレイアは再臨した。
少女の持っていた翼と角を生やし、黒子の優男が手にしていた二振りの槍を以てアマゾネスの女王は改良された姿を晒す。
皮膚が常に泡立っている。
全身に爬虫類の様な鱗が生えそろい始める。
竜という要素を外付けされた結果として、ソレを基点に余りのアキレウスへの執着に彼女は悪竜へと変貌を始めていた。
『悪竜化現象』という余りの欲望によって肉体や魂が変異してしまうという珍しい精神活動による事象を観測した「彼ら」は
満足を覚え、これ以上は二人の逢瀬の邪魔になると結論した。
「場は整えた。あとは君の努力次第だ」
「待てっ! 貴様っ───」
99。
全く眼中にない態度を隠そうともせず、何処までもペンテシレイアという英雄を乏しめるガンヴィウスにアキレウスが切りかかろうとするが
そんな彼に横合いからペンテシレイアが襲い掛かり彼を馬車の上から弾き飛ばす。
無理やり結合された要素が反発し合いながら絶えず自壊を続けているが、シュラウドの力はソレを超える再生力を彼女に与えている。
白黒が反転した瞳の中に浮かぶ充血しきった眼で彼女は彼へと飛びかかった。
脚の筋肉を一歩踏み出す度にズタズタに引き裂きながらも彼女は強化に強化を重ねて最速の英雄へと追いすがる脚力を得て憎き敵へと襲い掛かり、殴り飛ばす。
理性を失っているというのに流麗な───混ぜられた黒子の槍兵───の槍技を披露し襲い掛かってくるアマゾネスの女王の猛攻は最速の英雄を防戦一方へと追い込むのに十分なモノである。
徐々に遠ざかるガンヴィウスの背へと向けてアキレウスは叫んだ。
憎悪と憤怒が混ざり合った彼の姿は親友が死んだとき以来誰も見たことがない程に凄まじい様相であった。
「キサマァァァァ! 逃げるなッ! 俺と戦いやがれッッ!!」
『アァアァキレウウゥスゥゥゥゥゥ───!!!』
若き大英雄の絶叫をかき消す程の憎悪の咆哮が迸り、やがては遠く剣戟の音しか聞こえなくなるのをガンヴィウスは背中ごしに感じ取りつつ、次に立ちはだかる北欧の英雄夫婦を見た。
油断なく構える北欧神話最強の英雄と最高の戦乙女を前にしながら彼は時計の時間に気が付いた若者の様に宙を見上げた。
ガンヴィウスは何でもない普段の雑談でもするように言った。
出来れば事が始まる前に厄介な三人に対処したかったが、今は数多くの仕事が立て込んでいる故にこの部分の遅れは許容範囲内である。
最も重要な仕事の進捗は問題ない。ちょうど、その一つが終わりを迎える処だ。
「時間だ。次の工程を開始せよ」
100。
瞬間、星の内部で何かが砕け散った。
SOL3の決して外宇宙の侵略者には屈さないという意思の表れである“
露わになるのは星の内海よりもなお深き星の頭脳体、心、魂へとつながる道。
この惑星が内包する概念宇宙、マイナス宇宙とも称される森羅万象あらゆる神秘と情報を内包した世界はもうすぐそこにある。
音も声もなかったが、宙に君臨しシュラウドの力を無尽蔵に流出させ続けているコロッサスは確かにガンヴィウスに答えた。
計画に遅延はない。
宙を埋め尽くすリヴァイアサンという予想外こそあったが、こちらにも既に迎撃の手は準備されている。
惑星解放作業の第二段階開始。
シュラウドに座する「彼ら」と星の宇宙との間にリンクを確立する作業が開始されようとし……膨大な破壊の光がコロッサスに向けて投射された。
今までの沈黙が嘘の様に星の化身たちが動き出した。
鉱物の様な質感をもった十字架型のリヴァイアサンたちが無数の光の十字架をコロッサスに向けて放った。
直系10メートル程度の眩く輝く弾丸の正体は強力極まりない電磁衝撃であった。
超高濃度エネルギー塊としてプラズマの側面さえもあるソレらは文明レベル2の艦船でさえ直撃すればただでは済まない破壊力を秘めていた。
もしも地上に向けて放たれたら無数の十字架が地面に突き刺さり、惑星の南北が逆転するレベルの地殻変動を引き起こす程のエネルギーが込められている。
しかしコロッサス護衛艦隊に数多く配備されたエスコート・クルーザーはその名前の通り極めて高次元の防衛能力を持っており、この程度は予想を欠片も超えはしない。
原始文明の持つ「弓」の様な形状の船はその上下の端から中央にかけて大量の迎撃兵器を搭載している。
瞬時に分析され、この程度の攻撃にΣは相応しくないと判断。結果として武装はαが選択された。
『P』級迎撃兵装稼働。
αクラス・インフェルノ・マトリクス稼働。
ガンヴィウスが生身で使用する何十倍もの密度の暗黒エネルギーが収束し、それらは一隻あたり秒間4000発という速さで細長い線として宇宙へとばら撒かれた。
これは威力そのものを多少犠牲にした代わりに連射能力を高めたα・クラスエネルギーランスであった。
十字架が放った電磁衝撃とα・クラスのエネルギーが衝突し、数万キロ単位で空間が歪み、星系全土に空間振動が奔った。
電磁衝撃を撃ち抜いたインフェルノ・マトリクスによる防空攻撃がリヴァイアサンの群れへと突き進む。
だが流麗な多面結晶生命体であるタイプ・マーズが反応し、迎撃行動に移る。
宙に浮かぶ超巨大なクリスタルたちが一斉にその身を変化させた。
高次元の立方体として存在する生命は3次元にその影を投影させていく。
美麗な8面正多胞体が32本の辺、24枚の正方形を形作った。
宇宙に浮かぶ“箱”は図らずも「彼ら」が所持する超兵器の一つであるスター・イーターに似通った姿であった。
全ての面から目に見える程の膨大なエネルギーが循環し、心臓でもある超巨大反物質反応炉が出力を上げていく。
ギィイヤァァという甲高い悲鳴の様なエネルギーの収束音が宇宙を揺らす。
箱の一面が輝き放出されるのは超高密度のエーテル砲であった。
魔法使いの放つソレの数十万、数百万倍の威力を持つソレが何百と宙を彩った。
鮮やかな光線がαクラスの弾幕と衝突し、完全に拮抗した両者の攻撃は空間に穴を穿ち、この宇宙膜ではない何処かへと落ちて行ってしまった。
落下先の空間において1天文単位程度を巻き込む超巨大な爆発が発生したが、この世には関係ないことだ。
リヴァイアサンの軍団が満を持して動き出す。
タイプ・サターンは目立った動きこそしなかったものの、緻密にして超大なサイオニック・リンクを友軍間で形成し完璧なる連携を可能とする為のネットワークを編み上げた。
タイプ・マーズはその場から動かず長距離砲撃形態を維持。
タイプ・ヴィーナスは大樹の如き様相から連想させる通り何億もの枝葉を伸ばし、その先端には鋭利な形をした戦闘端末を形成し、威力こそ劣るものの恐ろしい程に精確なエネルギーの発射口を作り出す。
タイプ・ジュピターは自らを構築するガスをエネルギーへと変換し刃渡り数十キロにも渡る巨大な炎の剣を創造して構えた。
タイプ・ネプチューンは途方もない質量を誇る液体状の肉体を限りなく薄く散布させ敵対者が打ち込んでくる熱エネルギーから仲間たちを守るように展開した。
タイプ・ウラヌスは周囲のエーテルと熱量を吸収しそれらをネプチューン経由で同胞たちへと延々と供給するパイプの役割に徹した。
そしてタイプ・オールトは全てのリヴァイアサンの先陣を切り、空間を奇妙な力場で汚染しながら艦隊と向き合っている。
空間が音を立てて凍り付き、結晶の様な奇妙な無機質素材へと変換されていく。
リヴァイアサンの動きを全て観測しきった「彼ら」は敵対勢力の概算戦力値を計算し、万全を期する事にした。
艦隊戦力 劣等
敵対存在の艦隊戦力は我々と比べて劣等である。
念のため補充推奨。星系基地防衛機構稼働。
技術レベル 劣等
敵対存在の技術レベルに特筆することはない。
魔法こそ脅威ではあるがリヴァイアサン一体一体の能力はありきたりであり、単体ならば問題はない。
経済規模 評価外。
「彼ら」が動いた。
SOL3の衛星をシュラウドの力が抱きしめる。
先ほどガンヴィウスが行ったようにオールトの雲の天体が幾つもゲート・ウェイで引きずり込まれて高次元への贄となった。
シュラウドの力は因果さえも支配すると言わんばかりに夥しい量の天体や衛星を代価に
鉱石、合金が作り上げられ、更には“建造”という過程さえも吹き飛んだ。
強引に行われた創造であるがゆえに何時もより多くの代価が必要となり、オールトの雲の質量がSOL3換算で40個分程消え去ったが誤差の範囲内だ。
月を抱擁していた霧が晴れればそこに座していたのは奇怪極まりない“箱”であった。
月と同じか一回り程巨大な金属質の正方形である。
タイプ・マーズとどこか似た姿をしている。
コロッサスと同じく所々に光の線を走らせた無機質極まりないコレの名前はスター・イーターと言った。
単体で星団を丸ごと破壊する主兵装のほかに夥しい量のΣクラス兵装で武装したスター・イーターは正に衛星規模の要塞といえた。
本来ならば
かつて月が座していた衛星軌道より誕生した星々の捕食者が音もなく動き出す。
余剰分で更に増産された護衛の艦隊を伴い星を食らう怪物がコロッサスの護衛へと加わる。
動くだけで巨大な重力の変動をスター・イーターは巻き起こす。
重力を支配する艦隊や、そもそもそんなものを意にも介さないリヴァイアサン達には無関係の話であったが
幾ら保護をされているとはいえ限度というものがある故にSOL3の自転が加速していく。
数十億年連れ添った月を失い、SOL3の地軸と自転が狂いそうになるのをシュラウドの力がせき止めた。
この戦いが終わり次第、新しい衛星を見繕ってやるか製作してやる必要があるだろう。
朱い月には悪いが、あの程度の衛星などそこら中に転がっている故に容易い話だ。
リヴァイアサンの軍団が前進を始めた。
目標はただ一つ、星を穿ち続けるコロッサスである。
星の化身達は隠し切れない憤怒と拒絶を以て侵略者を排除すべく動き出した。
迎え撃つべくΣクラスを解禁した艦隊が夕焼けの如き美しい輝きを放ち始める。
既に無数の恒星がリアクター内で産声を上げて解放の時を待ちわびていた。
「弓」の如き形状をした奇怪なエスコートやバトルクルーザーと
それを更に横に引き延ばし、厚みを与えられた結果として「盾」の様なシルエットを持つハイペリオン級スーパー・バトルクルーザー。
更には螺旋槍の様な姿をしたタイタン級までもがコロッサスの周囲に展開し、たかが惑星如きが歯向かう事に対しての懲罰を与えんとしていた。
リヴァイアサンの接近を認めたスター・イーターが戦闘態勢に入る。
月よりも一回り程巨大な異形が周囲の物理法則を書き換えながらFTLで動いた。
Σリアクターとαエネルギーがこの怪物に途方もない活力を与える。
表面に青紫色の光のラインが幾つも走り出し、正方形の一部が窪み兵装が展開されれば、光を孕む。
怪物は解放の瞬間を今か今かと待っていた。
天上戦争の最終局面が始まる。
【the war in heaven】
SOL星系の中心である
巨大な一本の塔を中心として骨組みの様なリング構造を伴ったソレの名前はαクラス・シタデルと言った。
恒星という規格外の巨大さを誇る物体の近場にあるせいで分かりづらいが、これの大きさはスター・イーターに引けを取らないものがある。
「彼ら」の世界では自身の領有する星系にはその中心となる恒星に星系基地を建築し、領有権を明らかにするという常識がある故に当然「彼ら」もこの星系に基地を建造していた。
星系の全てを観測し、周辺を星団規模で監視下に置けるだけの性能を持つコレは与えられた役目───即ち星系の防衛という任務を果たすべく稼働したのだ。
文明レベル1の大艦隊を相手にしても互角以上に渡り合えるだけの力が解禁されていく。
ディフェンス・タワー展開……40基展開完了。
全防御システム稼働。
砲撃を開始。
敵性存在の排除を実行。
SOL3への被害は不許可。
移動を考慮されてないシタデルにはその分多量のリアクターと気が狂う程の戦闘施設が建造されており、火力投射能力はΣで武装した艦隊のサポート程度はできる。
要塞から展開された塔の様な形状をしたディフェンス・タワーと要塞そのものに設置された万にも届く数の砲塔全てにαエネルギーが過剰なまでに充填され
という非常に近場に向けて全火力を恐ろしいまでの精密さで投射した。
秒にも満たない刹那の速さでαクラス・エネルギーランスは星系を横断しSOL3近郊に存在するリヴァイアサンの群れへと殺到した。
5桁にも及ぶ青白い光の線が空間を埋め尽くしており、宙はまるで青空の様に染め上げられた。
この細い線一筋一筋がSOL3を軽々と貫通し、複数の惑星を纏めて突き穿つだけの暴虐である。
十字架タイプのリヴァイアサンは言葉こそ発さないものの非常に高度な知性がある故に、恒星から飛翔してくる巨大な破壊の予兆を瞬時に理解/把握、星々に向けてそのデータを送った。
リヴァイアサンが構築されたネットワーク経由で瞬時に情報を共有し、対抗策を考案、実行した。
甲高い高次元の嘶きが虚空へと向けて放たれ、星系の全ての星が賛同/許可を出す。
SOL3において大英雄アキレウスが所持する宝具に
「世界」を盾として加工した概念防具でありこれを破壊するには世界を破壊するだけの力がなくてはならないという逸品だ。
原理としてはソレと同じであった。
しかし規模と出力が比べるのも馬鹿らしくなるほどに次元違いである。
タイプ・ウラヌスがタイプ・オールトに向けて莫大な量のエーテルと情報を流し込む。
タイプ・サターンが術式を回し、タイプ・ヴィーナスは枝葉を拡散させ、そこにオールトの水晶が絡みつき展開規模を拡張。
タイプ・ネプチューンは防ぎきれなかった場合を想定して全力でエネルギーの吸収へと回る。
タイプ・ジュピターたちが手に持った剣を虚空へと掲げればそれらは宙のテクスチャを軽々と焼き貫き、この世界のシステム領域にまで届いた。
その奥の中にある、廃棄されていた可能性にアクセスし、抽出し、加工する。
不要と判断され星系全土が管理保有する廃棄孔へと捨て去られていたデブリが引き上げられる。
剪定され後は完全なる消滅を待つだけであった異聞の歴史が星系ごとサルベージされ、それらは純粋なデータと概念に加工された後でタイプ・オールトへと流し込まれた。
これは幾つもの星系をまとめて加工され作り出された防御壁であった。
都合SOL星系27個分程の物質的/概念的な防御能力を持つ盾である。
防御概念を帯びた水晶が爆発的に広がっていく。
数万キロ単位でタイプ・ヴィーナスの枝葉を伝う様に、網目の如く薄く広く伸びていく。
太陽光と迫るαの光を受けて青白いながらも翡翠交じりに美しくソレは輝いていた。
着弾。
一瞬だけシュラウドの霧が晴れ、惑星上の全ての面から夜が駆逐された。
SOL3の全ての生物は余りの閃光に目を覆った。
彼らに出来るのは神祖の勝利を祈る事だけ。
それが自らの知らない神への助力となる事も知らずにローマの民は祈り続けていた。
対星系攻撃と星々の盾が衝突した。
惑星同士の衝突でさえ笑い話になるほどの激震が星々を揺らした。
シュラウドで保護されたSOL3であったが、それでも惑星全土に最大規模の地震が引き起こされた。
持ち上げられ、惑星近郊で引き留められていたオーストラリア大陸等は微かにシュラウドの保護の外にいたのか、瞬間的に蒸発した。
膨大な破壊の余波は新星爆発の如き衝撃波となって星系全土へと拡散し、幾多の星が公転軌道からたたき出された。
衝突の瞬間、星系10個分の概念が砕けた。
圧縮され練り込まれていた恒星が霧散し、ガス惑星は嵐の前の塵の様に吹き散らされる。
αクラス・シタデルにエネルギー切れ等という概念はなく、要塞は次から次へとα・エネルギーランスを雨あられと撃ち込み続ける。
ジリジリと水晶が焼き砕かれ、防御力場が縮小していく。
更に異聞30個分程度の星系が補充され水晶の防御壁が強化されれば、次に動いたのはタイプ・マーズであった。
星々の化身である故に当然の如く相対性理論など無視して加速させたプラズマ/エーテル砲を結晶体の中央から放つ。
瞬時にαクラス・シタデルに着弾した流麗な光の線は当然の如くシールドに阻まれるが、関係ないと言わんばかりに砲撃は続く。
超高濃度のエーテルとプラズマの前にシールドに綻びが生じるが、予備の動力が作動し防壁の再生に回される。
その結果、タイプ・マーズの長距離砲撃は徐々にエネルギーが供給され続けるシールドとの拮抗に負けてしまった。
エネルギーを1削るたびに100回復されるようなものだ。永遠に攻撃を行おうと突破は不可能である。
何も問題はない。元より攻撃で倒せるという想定ではなかった。
時間さえ稼げればよいとタイプ・サターンは演算していた。
既に
使うたびに世界の寿命が削られ、膨大な負債が発生するが、今日ここで全てが奪われるよりはマシだと。
「青」の法が星の化身達の意の元に行使された。
全てを持っていこうとする法とそれを拒絶するシュラウドの力が衝突し、時空間に亀裂が入る。
1億5000万キロという極めて短距離を色とりどりな光の線が結び合わせていた。
エーテルとαクラス・エネルギーがシタデルとSOL3を繋いでいる。
そんな線がある瞬間、ぷっつりと途絶え、二度と発生することはなかった。
αクラス・シタデルは消え去っていた。
爆発も破壊も何らかの前兆もなく、瞬間的にジャンプドライブでも使ったかのように消えたのだ。
「彼ら」に驚きはなかった。
因果の揺れ、量子のもつれ、可能性への接続と追放。
これには覚えがある。
かつてコレクターの艦隊を葬った際に使用した「シュラウドの瞳」に近いモノであると瞬時に理解し、シュラウドの力で艦隊に対する干渉を弾いたのだ。
魔法使いの行使する魔法とはまた別種の魔法、という知見を「彼ら」は得た。
結果、シタデルを失ったがこれは故意であった。
星系基地と未知の新たな攻撃法の解析、その二つを天秤に乗せた結果である。
シュラウドを経由して時間軸の中を検索すれば、大体10銀河年ほど先の未来に存在することが発覚する。
もはや回収は不可能だろう。
シュラウド・ジャンプを使えば行って帰ってくる事も出来るだろうが、艦隊だけならともかくあそこまで巨大な要塞に改めて外付けでジャンプドライブを装備して回収となると明らかに採算が合わない。
そもそも星系基地は移動するという事が想定されていないので、装備するにしても設計の見直しから始めることになってしまい、新しく建造した方が明らかにコストや時間の節約になる。
解析。解析。分析。分析。
予想───これは時間軸の置き換えと暫定予想。
魔法使いの運営とはまた別種の魔法だ。時間が内包する情報を操作した可能性、大。
対抗策、シュラウドの力による……。
まぁいい。元よりアレは旧式のシタデルだった。
この星系の真価を知らない時期に建造した役者不足な代物だ。
之が終わり次第、Σクラスの相応しいモノを建築してやろうと「彼ら」は考えを切り替えた。
星々の盾に守られながらリヴァイアサンの軍団が行動を開始した。
タイプ・オールトとタイプ・ヴィーナスは互いに一糸乱れぬ速度で艦隊へと迫る。
水晶で構築された文字通りの「星系要塞」に籠りながら他の怪物たちもそれに続く。
火星の化身らが自分たちを覆い尽くす結晶へと向けてエーテル砲撃を行えば、翡翠色の水晶はそのエネルギーを吸収、増幅して同化している枝葉の様々な個所から放出する。
原初のルーンと同種の力によって千万倍規模に増幅されたエーテル・ランスの極大放火が艦隊へと向けて牙をむいた。
遂にようやくαクラス・エネルギーランスを上回る破壊の力を手に入れたリヴァイアサン達は「彼ら」の艦艇を落としえる力へと至ったのだ。
つまり───
Σクラス・シールドが展開される。
朝焼けの如き深紅ともオレンジ色ともつかない障壁がエーテル砲撃の前に立ちはだかった。
スター・イーターのリアクター内で何千もの恒星が生まれ続け、それらの生命力が搾り取られ消費される。
超新星がリアクター内で次々と生まれては死に、それらが持っていた全ての生命力と、これから世界に与えたであろう影響力が奪い取られる。
これは宇宙のエントロピーさえも超越していた。
本来ならばニュートリノが持ち去るであろう99%のエネルギーさえも完全に使用することが出来る。
冷める一方だった宙に無から生まれた恒星は新しい熱を注ぎ込むことさえ可能であった。
一つの超新星につきSOLの4.4兆年分のエネルギーを秘めていた。
ソレが千単位で生成され、完璧なるエネルギー効率で制御されている。
リヴァイアサン達は赤子の如き星が死に絶える絶叫を聴き、憤怒と共に砲撃へと込めるエーテルの量を増幅させた。
水晶の増幅装置は更に倍率を上昇させ、億の単位で攻撃を強化した。
眩い輝きを放ちながらエーテルの飽和射撃はΣクラスのエネルギーシールドに直撃し……シールドは欠片も揺らがない。
拮抗という表現さえ出来ない。完全に弾かれている。
薄い光の壁の様に加工されたステラー・ライトエネルギーに対してエーテル・ランスはその刃先を分子一つ分さえも突き立てる事が出来ていない。
たかだか星系数十個分程度では全く話にならない程に支配しているエネルギーに差がありすぎた。
文明レベル1を通り越し、かつてのズィロンを超えた文明レベル0.4に位置する「彼ら」の常識においてはこの程度のエネルギー等、一つの小さな植民惑星が一月で生み出す量にすぎない。
ならば、と第二の魔法が行使される。
多くの可能性を束ね、統合し、威力を水増しする。
他の世界からさえもエーテルをかき集めた上で、不要と判断されて破棄された数多くの異聞の情報を熱量へと変換し、光の線として実体化。
何百億本もの熱量へと置換された異聞がタイプ・ウラヌス経由で水晶へと流し込まれ、エーテル・ランスは更に勢いを増した。
それだけのものを総動員してなお、Σは揺らがなかった。
虹色に輝くエーテルの超収束槍は無様に防御力場に当たり散らしているだけだった。
もういいだろう、とスター・イーターが前進を開始した。
余興は終わりだと断ずる「彼ら」の意を表明しているようである。
否、これは征服行動であり、覇王の行進のようであった。
一定以下の───文明レベル1相当の───位階がなければこの箱が無造作に放出しているエネルギーの余波だけで蒸発してしまうだろう。
懸命に押し込もうとするエーテル・ランスを真っ向からねじ伏せる様に悠々とスター・イーターは征く。
主兵装たる星団を瞬時に崩壊/再変換するシステム・クラッカーこそ起動していないものの、コレは単体でレベル1の文明を滅亡にまで追いやるだけの戦闘能力がある。
幾多の超新星を内包したソレが戯れとばかりに微かに重力を操作すれば、星系の“軸”はスター・イーターのものとなった。
何てことはない。今まで主星であったSOLよりも巨大な重力を持つ存在が現れれば、SOLがソレに振り回されて公転を始めるのは当然の摂理である。
つられて星系内の全ての公転軌道が無茶苦茶に歪み始めた。
今まで通り存在する恒星と、突如として現れたスター・イーターという異物の二つに綱引きされているようなものだ。
重力を天秤で比べれば圧倒的に星を食らう怪物に軍配が上がるが、それでも元より星系内の全質量の9割以上を占めていたSOLの力も強い。
超衛星サイズの物体は内部で生まれ続ける恒星の力を戦闘という行為に消費する。
鉱石の様な質感の表面からΣクラス・ミサイルが朝焼け色の弾道を描いて超高速で放たれる。
総数は僅か3発である。
スター・イーターの持つ武装の数々からしたら余りにも小規模なソレは内部に格納されていた小型のワームホール展開機を稼働させる。
あらゆる迎撃行動を無効化するにはどうすればよいか、という問いに対しての解答例の一つがコレであった。
即ち、敵が防げない距離にまでワープで送り付けてしまえばよい、ということだ。
Σ兵装の真価を見せるべく、SOL3の極地を基準とし、リヴァイアサンの群れの真上と真下にミサイルは送り込まれ、花開いた。
同時に艦隊とリヴァイアサンが存在する空間が大幅に拡張され、次に放たれる攻撃の余波に備える。
瞬間、
Σクラスのミサイルの中には比喩ではなく文字通り星の卵が込められている。
それが孵化し、瞬時に新しい光の星として形作られたのだ。
上にはK型の恒星。表面温度、5240度。
下からはG型の恒星。表面温度、5980度。
鮮やかな黄色とオレンジ色は、暗黒の宇宙空間においては救いに見える程に美しく鮮やかだった。
共にサイズはガス惑星程度というとても控え目で可愛らしい雛たちが、リヴァイアサン達を挟み込んだ。
何、時には銀河が衝突し合体することだってあるのだ。
恒星が互いの引力と重力を絡ませ合って睦みあう事もありえなくはない。
シュラウドが囁き、一対の恒星の中に蓄えられていたヘリウムを40億年分ほど高次元へと略奪した。
途端、当然の摂理として水素核融合反応は激化し黄色とオレンジの星は巨大化を開始する───その隙間に哀れな虫けらを挟み込みながら。
グガランナの言を借りるならば、輝く空が落ちてくる、美しい光を放つ明けの明星が空を埋め尽くし、星の死と開闢の光はその狭間の全てをすり潰す、といった所か。
怪物たちの盾であり槍でもあるタイプ・オールトの展開する水晶に亀裂が入り隙間が空いていく。
一つ、また一つと概念が砕けていく。
SOL3におけるどのような物質よりも固く柔らかく、鋭く、温度差に耐え、時間経過をモノともしない装甲は残念ながら恒星にサンドされる事には耐えられなかったようだ。
タイプ・ジュピターらの全身に火が回り、巨人たちは悶える様に総身を震わせた。
体を構成するガスが恒星の引力に引き寄せられ、彼らは生きながら全身を吸い取られた上に丸焼きにされる恐怖を味わっていた。
タイプ・ウラヌスが悲鳴を上げていた。
声帯はおろか、実体として受肉さえしていない熱エネルギー生命体は許容量を遥かに超える熱量を注ぎ込まれ、湖に溺れる虫の様にのたうっていた。
タイプ・ネプチューンは健気にもその総身を霧の様に細かく分割し同胞たちを襲わんとする暴虐からの盾とならんとしていた。
しかし惑星サイズの海程度では今なお膨らみ続ける恒星の前では文字通り焼石に水でしかなく、既に全体の7割以上は気化している。
タイプ・マーズは時折流れ込んでくるフレアー等を反応炉に吸収する形で取り込み、仲間内に火が回らない様に消火活動にいそしんでいる。
タイプ・サターンが状況を判断し、星系内における全権を保持する上位次元へと要望を送る。
即ち、再度の「青」の使用許可と、第二だけではなく第一、第三の解禁というある意味では敗北に等しい要請を。
返答は直ぐに来た。既にこの世界における星系はぐちゃぐちゃだ、世界全体の負債が積みあがるが、負けるよりはいいと星々は決断した。
もはや目に見えるリヴァイアサン達と戦っているのではない。
「彼ら」は正真正銘、この星系と戦っているのだ。
第一魔法 ■の否定。
世界に新たなる拡張を。増援が入り込める余分を招き入れる為の拡大化を実行。
第二魔法 並行世界の運営。
あらゆる可能性の運営と事象操作による援護と増援の手配を。
第三魔法 魂の物質化。
星の化身たる生命たちを更に高みへと持ち上げ、その全能力に極めて強力な加護を。
第四魔法 縺イ縺、繧医≧縺ェ縺
縺、縺ェ縺偵h縲?縺?§縺帙h
第五魔法 縺ゅ♀縲?縺吶☆繧?縺カ繧薙a縺
縺弱§縺帙s縺ヲ縺???縺吶∋縺ヲ繧偵♀縺?※縺薙>
再び「青」が煌めく。
瞬時にリヴァイアサン達を挟み込んでいた恒星は音もなく消え去る。
未来の世において途方もない負債が積み上げられた。
一瞬だけの間があった。
攻撃を無効化し、攻勢に転じようとリヴァイアサン達が思考を切り替える刹那、フェムト秒にも満たない僅かな間。
まるで全て知っていたかの様なタイミングであった。
タイプ・マーズがエーテル砲撃を行おうとするよりも早くミサイルは開花した。
ほんのコンマ一瞬、間に合わない様に全ては計算されていた。
消し去った筈のおぞましいオレンジ色が星系を照らし出す。
超加速された星の生涯が再現された。
オレンジは瞬く間に青へと移り変わり、熱量が跳ね上がり、最後は表現さえできない白へとなった。
ここが特異点でなければ先の警告通り200光年以内の文明を死滅させるだけのエネルギーの解放であった。
1500年後、隣の文明の平均気温を5度は上げられるだけの光が放出される。
ニュートリノが支配され、星は今うまれ、今死ぬ。
ほんの数瞬にまで生涯を圧縮された恒星は自分の重力によって内側に潰れた。
極星の瞬きとソレによって生じる全てのエネルギーが力場操作によって支配され、リヴァイアサン達へと叩き込まれた。
しかし天より齎された杯により更に高みへと上り詰めた星の化身達は全ての力をタイプ・オールトに注ぎ込む事によって耐えようと足掻く。
計測不能な量のエーテルが水晶へと流し込まれる。
SOL3を5回は神代へと回帰させうる量のエーテルだ。
無数の星系という概念を第二と第五の要領で重なり合わせた上に、この時間軸から疑似的に自分たちを隔離し、恐ろしい災禍が通り過ぎるまで耐え忍ぶ。
光が収まった後、結果として全体の7割を失ったが、全滅だけは免れる事が出来た。
10秒でSOLの4兆年分のエネルギーが消費された攻撃が終わったが、しかしてまだ「彼ら」は手を緩めることはなかった。
もはや手加減はなかった。完膚なきまでに消し去るという意思だけがある。
星の死と開闢の後に残るのは暗黒の星である。
直系20キロ程度の暗黒天体が残骸として晒されるが、直ぐにソレをシュラウドの霧が包み込んだ。
瞬時にブラックホールをダイソンスフィアの様な機械的な殻が覆い尽くし形成されるのはペンローズ・スフィアという超巨大構造物だ。
エネルギーは瞬時に充填され、鬱陶しい死にぞこないたちに止めを刺すべく作られたのは
たかだかエーテルを満載させた大聖杯でさえ歴史を吹き飛ばす破壊力がある。
輝く星と暗黒の天体を材料にしたコレの破壊力は想像を絶する。
再び「青」が蠢き、今まさに星々を消し去らんと鎌首をもたげる暴虐を地平の彼方に送ろうとするがソレを「彼ら」の巨大な意思が食い止めた。
2回も短時間で見せたのだ、模倣は無理であったとしても妨害程度は造作もなかった。
やめろと、高次元において誰か、またはナニカが叫んだ。
「彼ら」は優しく語り掛けた。「遠慮するな」と。
ペンローズ・ボムは判りやすい様に念話でリヴァイアサン達へとカウントダウンを送り付けた上で、虚空に誇示するように減っていく数字を照射した。
タイプ・オールトの翡翠色の水晶に真っ赤な文字が反射し輝く。
3。
2。
1。
0。
刹那、振動も音も、それどころか光さえもなく、この世で最も濃い
無理やり引き延ばされた事象の地平はあらゆる抵抗を許さずリヴァイアサン達を飲み込み、何処でもない何処かへと叩き落してしまった。
5秒間にも及ぶさく裂の後に、そこには何もなくなってしまった。
リヴァイアサンの群れは壊滅したのだ。星の化身達は滅ぼされた。
だが────直ぐに先ほどロムルスが作り出したモノと同じ孔が星系の至る所に展開されていく。
同じような群れが次々と出てこようとしているのを感知して「彼ら」は芸がないと切って捨てた。
タイタン級がΣエネルギー・ランスを適当に群れの一つに向けて放つ。
螺旋槍の如き形状の艦船の切っ先から穿たれるのは先のΣミサイルが作り上げた恒星よりも更に莫大なエネルギーを宿した光槍。
ソレは4桁の単位でリヴァイアサン達を消し去った。タイプ・オールトが展開した防御膜の上からだ。
しかしたかが超生物を消し去った程度でΣのエネルギーは全く底を見せない。
星系の端から端までΣのエネルギーは開通し、その更に向こうへと伸びていく。
オールトの雲を、隣の星系を、そのまた隣の星系を、不幸にも射線上にあった惑星や衛星を蒸発させ、ガス惑星を着火し、恒星の表皮を削り取りながら突き進み続ける。
やがては力技で隣の銀河系か広がる宙の果てにまで届くだろう。
残りの群れの数は……
一撃で消し去れるとはいえ、こうも数が多いとなるとやり方を変える必要がある。
スター・イーターが解体されるようにバラバラになった。
無数のパズルパーツと化して漂う外殻の中心部に完全なる球体であるコアが浮いていた。
対星団兵装が起動する。天を裂く力が真骨頂を見せようとしていた。
今回は星々を変換する機能は使用せず、純粋な破壊を振りまく為だけに動く。
必要ないと判断されたシールドが解除されて、その分のリソースさえも攻撃へと注がれた。
暗黒の星の如くコアが変貌し、Σとαを掛け合わせたエネルギーを生産し、照準し、発射。
リアクターから直に引き出されたエネルギーの濁流が湯水の様に使用された。
正に豪雨と評する規模でΣエネルギー・ランスが発射される。
一発一発が先の
乱雑に見えて天文学的な演算能力を以て放たれたソレは全てが必中の攻撃である。
次々と虫けらの様にリヴァイアサン達が為すすべなく光に呑まれ、欠片も残さず蒸発していく。
多くのタイプ・オールト、マーズ、サターンは欠片も残さず砕け散った。
ジュピター、ヴィーナスは乾燥した枝葉が燃え上がるように刹那で全身を丸焼きにされ、灰さえも残らなかった。
ウラヌスは限界を超える熱量を叩き込まれた事により概念霧散し、ネプチューンは光槍が着弾するよりも前に余波だけで気化した。
それでもまだ世界は諦めていなかった。
足掻くように魔法が蠢き、次々と必死にリヴァイアサン達を以て「彼ら」を排除せんと悪あがきを繰り返す。
第一の魔法により世界は新しいモノを受け入れる余地を作り出す。
第二の魔法により広がる世界がつながり合い、運営される。
第三の魔法により至高の生命は更なる高みを得た。
第四の魔法
第五の………。
────
準備が整った。
実に興味深い現象の数々だった。
素晴らしい力だと称賛しよう。
特に魔法という概念は非常に興味深く、手に入れた情報は有益となるだろう。
だが。もう終わりだ。
「剣」と星を手に入れるときが来た。
1万年以上続けた研究の最後を飾るに相応しい力をご覧に入れよう。
英霊たちの言や口上を意識するとしたら、さしづめ“宝具解放”とでもいったところか。
これは上手い表現であった。
今まで築き上げてきた技術の結晶は正に宝と呼ぶに相応しい。
ヴルタウムの現実穿孔機、稼働。
ミニチュア銀河、並列稼働。
シュラウド・ハイパーショック、照射。
虚数の奥深くに座すステラー級、その中枢に接続された謎の白い球体。
この宙においてはどのような言葉でも評せないソレが淡く瞬いた。
テクスチャという概念、SOL3における精神活動によって定義される世界観測の法などを考慮されて改良を施されたソレが動く。
現実に孔が開いていく。
あらゆるテクスチャが星系規模で問答無用で引きはがされ消去された。
相性や概念や、霊長によって認識される世界という法則が根底から無力化され、消える。
これはいわば世界のリセット行為であった。
びっしりと敷き詰められていた
当然そのルールの中でしか生存できない生命体はコレを受けた時点で消滅する。
リヴァイアサン達が消えていく。
魔法がなければここに到達することもできなかった存在達は魔法が効力を失った時点で、因果的修正が働き世界からはじき出されていく。
空間の狭間にびっしりと夥しい数のリヴァイアサン達が積み上げられだす。
魔法という世界に内包された大規模なシステムと。ソレを無視して土台ごと世界をひっくり返す現実穿孔が拮抗した。
第一の魔法によって広げられた世界の拡張はなかったことになった。
第二の魔法による並行世界との接続が途切れていく。
第三の存在の高次化さえも無意味へと落とされた。
現実の修正が働こうとする。
破れた世界を縫い合わせようと周囲の景色が蠢きあい、あいてしまった“隙間”を埋めんとする。
しかし、それよりも早く「彼ら」はもう一つの宝具を発動させた。
小さなシリンダーの中に収められていた銀河が解放される。
過程をシミュレートし、必要な物質を込められ、シュラウドによって法も定められていたコレは文字通り
封印していた筒にパスを打ち込んで開封すれば、世界の表と裏は逆転した。
現実穿孔によってこじ開けられた何のテクスチャも法も敷かれていない宙に、新たな則が流出して虚空を満たした。
シュラウドという土台によって成立した「彼ら」の世界であり「彼ら」が
固定されたミニチュア銀河を基盤として「彼ら」は限定的に覚えた第二魔法を以て星々を眺めた。
数多の世界におけるSOL3以外の全ての星を観測し、その中に確かに意識が宿っていることを知覚した。
結論としては集合意識の星に近いものがある、というのが「彼ら」の所感だった。
星もまた一種の生物であるというのは周知の事実だが、ここまで活発で排他的な惑星というものは非常に珍しい。
しかし邪魔だと「彼ら」は断じた。非常に惜しいとは思うが、もう十分にデータはとれた。
ならば残ったコレらの惑星の価値は害獣と大して変わらない。
進歩と研鑽を邪魔する障害であり、こういった惑星特性を消去するなどと言ったことは何万何億とくりかえしてきた。
有害な獣は駆除しなくてはならない故に躊躇いはない。
「彼ら」の座すシュラウドの一部に強力なサイオニック・エネルギーが収束していく。
Σと比してなお強大と評せるものであるが、コレの本質は物理的な熱量を伴った破壊ではない。
概念的、精神的な意味でのエネルギー、精神干渉の波ともいえる。
狂信的な精神主義者である「彼ら」以上に知的生命体の精神構造に詳しいものなど存在しない。
あらゆる種族のあらゆる精神活動のデータを「彼ら」は持っている。
代表的な哺乳類、魚類、植物、ケイ素生命体、岩石生命体、鳥類にエネルギー生命体や爬虫類もだ。
癒す、治す、壊す、犯す、繋ぐ、溶かす、全て思うがままだ。
かつて「彼ら」の故郷において銀河全土を巻き込んだ大戦時において夥しい程の犠牲者を生み出し、信徒を作り上げ、混沌極まりない様相を作り上げた力が発揮されようとしている。
“万色悠滞”
“ロゴスイーター”
“この世、全ての欲”
SOL3において何処かの未来で快楽を求めた女が行使した禁忌と同種にして別次元の力が蠢く。
標準は既に定まっている。
全てのSOL3以外の星の意思を「彼ら」は潰すと決めた。
これは懲罰である。
惑星如きがもう二度と逆らわない様に徹底的に行われる躾であった。
どれだけ形態が違おうとも精神がある限り決して逃れえない戦略攻撃が発動する。
シュラウドに蓄積されたサイオニック・エネルギーは高次元よりパルスの如くSOL星系へと照射された。
音も光も振動もない。世界の根底に対する高次元攻撃故に、表面上では目立った破壊は起こらない。
しかし「彼ら」は星々の嘆きと苦悶を捉えていた。
太陽系は断末魔を上げていた。
全ての星がもう誰も助けてくれないというのに救援要請を無茶苦茶に全方位に送り付けている。
あらゆる知的生命体の精神構造に絶対的な優位性と特攻を誇るシュラウドの鉄槌は星々の魂を解体/破壊/融解/させ、一つ、また一つと消去は続く。
世界の外側に追放されていたリヴァイアサン達もまたこの力の対象である故に次々と自我を破壊され力なく崩れていく。
その余波は直接矛先を向けられていない筈のSOLに存在する英霊や霊長が無意識に形成する集合意識にさえ届いてしまった。
快楽。
苦痛。
喜悦。
憤怒。
悲哀。
恐怖。
絶望。
希望。
その他無限の感情が奔流する。
全てを「彼ら」は蒐集した。
断末魔、命乞い、嘆き、哀願、全てを余すことなく。
星の最後は実に素晴らしい社会研究の成果を与えてくれることだろう。
10秒間にも及ぶ照射の後に残ったのは静寂であった。
あれほど湧き出していたリヴァイアサンの軍団は絶滅に追いやられ、SOL3以外の星の精神と魂は塗りつぶされた。
最後にセンサーが星系を探索し敵性存在が居ない事を確認する。
戦闘終了。戦果レポート作成。
自軍損害 無し。
リヴァイアサン勢力 根絶。
及びSOL星系に対するシュラウド・ハイパーショックにより、SOL3を除く全惑星の自我の完全抹消/完全破壊に成功。
コロッサス、接続回路作成シークエンス86% 進行中。
全艦船、警戒態勢に移行します。
ミニチュア銀河、解除。
───ERROR、高エネルギーを感知。
【ワン・ラディアンス・シング】
シュラウド・ハイパーショックの残照が漂う中「彼ら」は本来あり得ない事ではあるが、それでも冷静に判断を下していた。
“まだ終わっていないな”
さすがは超高次元レベルに対応した第11感というべきか。
艦隊のセンサーが捉えるよりも素早く「彼ら」は反応した。
次いで1ヨクト秒あとに艦隊がアラームを発した。
───センサーに反応あり。
───リヴァイアサンの残党を確認。
完全勝利の余韻も冷めぬ中において「彼ら」は瞬時に異変を感知した。
警戒態勢への移行を停止。
戦闘態勢を維持せよ。
敵対的存在のエネルギー増大を感知。
平均的な恒星一つ分程度のエネルギー量を「彼ら」の超直感と艦隊のセンサーは捉えた。
何とも小さな火種ではあるが、まだどうやらこのリヴァイアサン軍団は滅んではいないようだった。
ソレは世界の外と内に回廊を繋ぎ合わせ、何百と言う同胞の屍と共に戻ってきた。
無数の死骸が浮かぶ中、ただ一つ生き残った生物が在る。
言葉もなにも発しないが、確かに。
先とは違う様子に「彼ら」は静観を選ぶ。
まるで虫眼鏡で興味深い昆虫を覗き込む様に「彼ら」はオールトを見つめていた。
なるほど、この小さな生物はまだこんな事ができるのだなと感心しながら。
まだ捨てるには惜しいと「彼ら」はオールトに対する評価を上昇させる。
【再起動率 20%】
黄金色に輝く円盤がシュラウドに覆われた宙の中、くるくると回っていた。
タイプ・オールトの頭上に鎮座していた円盤であったが、どうやらこれがかの生物の本体だなと「彼ら」は一目で理解する。
ネクロイドの様に身体の大部分を占める部位よりも意外な個所が本体だというのはよくあることだ。
輝く蜘蛛の様に見えていた巨大な体躯は霊長でいうところの角質のようなものであり、オールトにとっては自分の手に積もった埃の様なモノなのだろう。
死の恐怖。生存本能。
タイプ・オールトの心境を霊長でも判りやすい単語で表現するならばこの言葉が出てくる事だろう。
言葉こそ発しないが、彼はいま死に物狂いであった。
【アナライズ/デコード/ディセーブル】
【再起動率 40%】
死を恐怖し遠ざけようとするのはあらゆる生物にとって当然の行為である。
むしろ死という概念から最も程遠いか、もしくはその概念をもたなかったからこそタイプ・オールトは過敏に反応したのかもしれない。
シュラウド・ハイパーショックという完全なる絶滅攻撃によって己の本質を砕かれかけたからこそ、オールトは全力で生存の為の行動を行った。
滅び去っていく同胞の性質を学習し模倣した。
異なる世に存在する自分と“自分”を重ね合わせて砕けていく己の存在を補填し継ぎはぐ。
更には限定的とはいえ「彼ら」の行使するαエネルギーを取り込み身体に馴染ませる。
【ダークエネルギー・プランクトン】
【再起動率 60%】
もはやオールトは星々の為に戦ってはいない。
彼は自分自身の生存の為に動き続けている。
彼には彼の理論があり、己の生存は至上命題なのだ。
暗い色彩の青い光がオールトの身を包み始める。
ミシ、ミシと円盤の各所から軋む音が発せられるがその度に彼の身体は進化を繰り返す。
αの力はかつて全盛期にあった没落帝国でさえ御せなかったのだ。
如何にオールトが規格外極まりない生命体とはいえ、瞬間的に模倣できるものではない。
宙を司る大いなる力は不安定に暴れ狂い、オールトの内側を削り続けていた。
しかしそれでも異なる世とは違い、彼は心臓を持っている。
核融合という極めて原始的なエネルギー炉ではあるが、生物が持っているとすればそれは規格外と言えよう。
空間が結晶化していく。それは彼の同胞の屍たちさえ飲み込んでいく。
宇宙である故に音こそないが、世界は不可思議な七色に染められる。
オールトを中心に半径10万キロに展開されたソレはシュラウドの帳と衝突しせめぎ合う。
更には最大出力で生体機能である【水晶渓谷】が発動され続けた上に、これらは異なる世から因子を流入させた。
【スターリング・インヴェイド】
【再起動率 80%】
結果、一度は現実穿孔機によって無に帰されたテクスチャが世界に修正されるよりも前に更に上書きされる。
ソレはらせん状の木々であった。
ソレはどれもが花開く幻想的にして空想染みた青白い樹木であった。
ソレは未来の世において甚大な被害を齎すテクスチャ侵略兵器でもあった。
「彼ら」からしても興味深い逸品である。
故に「彼ら」はそれを認識し、それらが内包する因子/因果を追跡した。
何兆、何京という分岐を瞬間的に把握し
空想樹という存在と深い因果関係を持つ存在を追跡し尻尾を掴む。
赤い髪の少女だ。
何処にでもいるような、至って普通の。
しかし「彼ら」は確かにその少女を認識した。
事が済んだらこの少女が何であるかを確認する作業をするべきだなと「彼ら」は決める。
【再起動率 100%】
【ギャラクティカ・スーパーセル】
【空想樹海オルト・シバルバー】
自らの生存の為に彼は宇宙を利用した。
全ての樹木───数億にも及ぶ空想樹が一斉に活性化。
全ての空想樹は輝きながらあらゆる可能性による援護をオールトに対して行う。
可能性を補強し、単純に存在を強化する。
リヴァイアサンの残骸、延べ433体の肉体に残っていたエーテルをオールトに献上した上にその性質と能力までもが本体に付与された。
【存在出力 400%】
【パラダイム・インフレーション】
円盤の輝きが増す。
同時に内包するエネルギー量までもが跳ね上がっていく。
それは限りなく上昇を続けていき───やがて解放の時を迎える。
【コズミックレイ・バースト】
オールトの周囲に何十、何百という光球が生成される。
それらは一発一発が文明レベル1における戦艦の主砲に匹敵する威力であり、先のタイプ・マーズが放ったルーンによって増幅されたエーテル砲よりも高威力であった。
さながらアーク放電攻撃の様に三次元においては稲妻の様な形状をとったソレは「彼ら」の艦隊の中央に座するスター・イーターへと放たれた。
薄いオレンジ色の様なΣのシールドに着弾し、表面を泡ただせる。
先のエーテル・ランスでは1ミリも押し込めなかったのを考えるにこれは偉業である。
微かにではあるが、オールトの能力は増大し続けている。
ピシという音と共に10メートルほどの亀裂がΣシールドに開通され、そこから漏れ出た稲妻は「彼ら」のフリゲート艦の装甲を微かに削った。
が、Σの装甲で武装したエスコート艦は損傷を認めた瞬間に自己復元を行い、直ぐに戦力を回復させる。
だがしかし「彼ら」の先兵は傷を負った。それも遥か格下の文明圏の生物に。
───敵戦力の上昇を確認。
SOL3において朱い月が生涯において始めて誰かに挑んだ結果として肉体を進化させたように
オールトも初めての死と相対しソレから逃れるべく走り続けているのだ。
この結果に「彼ら」は驚かなかった。
死を前に恐怖を抱き、己の可能性を開拓するのは当然の事である。
それもまた精神という超深奥から漏れ出た進化のとばりなのだから。
同時に「彼ら」に容赦もない。
死を前に進化する? 大変結構。
ちょうどいい。
こちらも色々と試してみたいことがあったのだと。
幸いな事に今この場には様々な要素が揃っている。
黎明の世にシュラウド。
更には魔法まである。
ソレを君はどう活用する?
宙を統べる者から星を統べる者へと問いが投げかけられる。
瞬時に「彼ら」の意思が宇宙と宇宙の境界線さえも突き抜けてシュラウドを通し本国へと送られる。
数百億光年も彼方の更に向こう側であるが、シュラウドにそんな距離など意味はない。
「彼ら」の管理/支配する宙にある銀河の一つ、そのさらに星団の奥深くには一つの新兵器があった。
Σは強大でありながら発展途上の技術でもある。
「剣」に対して進化の可能性を見出したのがこの惑星への干渉の始まりだったのだから。
だがしかし「彼ら」はそれとは別種の兵器の開発も続けている。
Σに対して絶対の自信を抱きつつの惰性交じりではあるが、停滞だけはしていない。
一つの技術に頼りすぎるのは危険である故に別系統のエネルギーなどを用いた全く新しい兵器を。
その中の一つ、いまだに試験運用段階である“モノ”を「彼ら」は丁度いい機会だとしてオールト相手にぶつけてみることにしたのだ。
宙が裂けた。
宇宙と宇宙が接続され、膨大な空間震動が発生する。
5000キロにも及ぶ長大な次元の亀裂が「彼ら」の艦隊とオールトの間に発生し、何かがゆっくりとこの世界に侵入してきた。
乱雑な時空歪曲を纏ったソレは光さえも通さない闇黒に包まれており、その不気味な様相はオールトに潜在的な嫌悪を抱かせた。
円盤が輝きを増す。
表面に存在する窪みから収束されたエーテルの砲撃が発射され「彼ら」の新兵器に着弾。
閃光が宙を満たす。
音はない故に空間がばら撒かれた熱とエーテルで沸騰し重力レンズが生成された。
新兵器を慈悲深くも覆っていた“ヴェール”が解けていく。
見なければ良かったとコレを知ったモノは思うだろう。
露わになったのはSOL3の霊長には決して理解の追いつかない奇妙な形状の巨大船だ。
オリュンポスの神と呼ばれた移民船団のソレとも違う。
ましてやコレクターと称されたセファールたちの母船とも似つかない。
鋭利で、ゴツゴツしており“ブロック”を並べて集合させたような船だ。
まず船体の中央には恒星の如き輝きを発する光の玉が鎮座する。
それだけでも小型衛星サイズの光球の正体はむき出しの時空特異点であり「彼ら」によって完全に制御されているのだ。
そしてその光球を囲む様に幾つもの暗い翡翠色のベルトが巻かれており、船体の左右には“鉄亜鈴”を思わせる突起が片側につき1200キロの長さで伸びていた。
遥か彼方───SOL3の地上においてただ沈黙と静観を続ける黄金の王が宙を見上げ、この船を見て目を細めた。
彼にはコレの用途が理解できてしまった。完全な形で。
この船の性能/用途はかの裁定者をしておぞましい、恐ろしいとしか言いようのないものである。
英霊。
冠位。
ビースト。
神霊に純粋なる神。
更には星の具現たる究極の一。
それらも含めたあらゆる全てを食い尽くす先駆者の悪意の権化。
“事象収納”と呼ばれる惑星の権能を何兆倍、何京倍にも増幅させた悪夢の技術。
これなるは「彼ら」の新兵器。
ただでさえ凶悪なスター・イーターを更に発展進化させた究極の銀河蒐集/銀河解体艦隊の一隻だ。
本来ならばさらに巨大な母艦と複数の護衛艦隊を伴って多数運用するソレが今回においては一隻だけ持ち込まれていた。
スター・イーターの発展兵器であるギャラクティック・ハーヴェスターである。
■■■■■■■■!!!
潜水艇のソナー音の如き絶叫をオールトは上げた。
Σと相対した時と同じか、それ以上の死の気配を前に彼は円盤から攻撃を放とうとして、それよりも先に解体船が動く。
何万と積み込まれた武装の内の一つがオンライン。
「彼ら」の基準からすれば比較的優しめの、ジャブが放たれた。
この程度を捌けない様であったのならば蒐集する価値もないと言わんばかりに。
【四次元特異点キャノン】───出力は最小。攻撃を許可。
一発。
二発。
カタパルトによりFTLの速度を与えられた四次元の特異点が発射される。
簡単に言ってしまえば高次元のブラックホールを相手に叩き込むのがこの兵装である。
疑似的とはいえ三次元において無限大の質量の弾丸が超光速で撃ち込まれればどうなるかなど考えるまでもない。
10万キロに渡り展開されていた彼の領土たる空想樹海/水晶渓谷が一瞬にして平らになった。
まるで塗り絵でもしているかの様に特異点の通った後には空虚だけが残る。
彼の装甲と同じくSOL3の何よりも硬く柔らかいクリスタルの木々は四次元の特異点に触れた瞬間に何の抵抗も出来ずに“解けて”しまった。
音も何もなく何億という空想樹が特異点に吸い込まれていく。
特異点の弾丸はあえてオールト本体を外し、宙の向こう側に飛んで行った。
しかし効果はそれだけに収まらない。
ただ破壊するだけならば面白みも何もない。
新しい発想と性能を積み込まれたからこそ、これは新兵器なのだ。
四次元特異点が三次元から姿を消し、高次元に帰還する。
すると、それらは解体船へと巻き戻された。
一見すれば解体艦から切り離されているように見える特異点たちだが実際は繋がっているのだ。
“投げなわ”を想像するといい。
規模こそ違うが原理はあれと一緒だ。
目ぼしい存在を見つけては特異点を叩き込み、相手を粉砕した後にそれらを回収するのがこの兵器の真骨頂である。
オールトの保持していたエーテル/エネルギー/概念の4割はこの攻撃によって接収されてしまい、彼はまた一歩死へと近づく。
「彼ら」は四次元特異点キャノンがしっかりと設計通りに機能していることを確認し満足を得た。
オールトの放つ光の色が変わる。
神々しささえ感じた黄金から、敵意と憤怒に満ちた深紅に。
炎の様に揺らめきながら光は濁流の如く円盤からあふれ出し、直系10キロにも及ぶ輝く戦闘体を形成。
更には身体の各所にかつてタイプ・マーズが持っていたリアクターを瞬時に生成し、そこから直結して砲口を作り上げる。
瞬く間に1000を超えるプラズマキャノンを生成したオールトはその全てから加速したプラズマを発射。
青紫色の霧に包まれた宙を黄緑の輝きが満たし解体船に着弾。
しかし解体船は揺るがない。
当然の如くこの恐ろしい船には相応の防御メカニズムが積まれており、最たるものはそのシールド機構だ。
単純な強度だけ見ればΣに劣っているだろう。
しかしそれはシールドが一枚だけであったらの話だ。
オールトが叫ぶように輝きを強め、プラズマの出力を増幅させる。
ルーンの技術さえ応用し1000万倍に増幅された上にαの力さえも混ぜ込んで放った放火は解体船のシールドの一枚目を食い破った。
しかし直ぐに二枚目のシールドが立ちはだかる。
それを何とか破っても三枚目、その奥にはもしもこれを破壊された場合に備えての5枚、6枚、7枚と連鎖的に翡翠色のシールド膜が形成されていく。
残りはあと……まぁ、霊長の一生をかけても数えきれない程に在る。
解体船のシールドの本質は三次元におけるエネルギー障壁ではない。
「彼ら」のシュラウドを応用した高次元への干渉を応用して生成されたソレは9次元空間と言う高次元において回転し続けている無数の泡の集合体である。
この“泡”は常に三次元においては船を守る防御壁として使用されているが、もしも損傷を受けた場合は回転し、別の側面が敵の攻撃を受け止める役割につく。
そして別の泡が攻撃を受けている間に収容された部位は修復されて再び機能を再開するという仕掛けだ。
つまりオールトの攻撃は無限にある泡の一つを破壊しただけであり、全体を一気に破壊する事が出来なければこの宇宙が終わるまで攻撃を続けようと無駄ということだ。
SOL星系の保持する全てを総動員しても精々30程度の泡しか破壊出来ない事を鑑みるにオールトではどうあっても解体船の破壊は不可能である。
よろしい。
防御機能も問題なし。
「彼ら」はカタログと実際の効果を見比べつつ検証を進めている。
コロッサスは問題なくシークエンスを続行中。
もう暫し時間的猶予はある。
次はこうだ、と思念が送られた。
今度は当てる予定のため、うっかり死んでしまうかもしれないがそんなことは考慮する価値もない。
【ブロック・ガーディアン】
Δよりも強い輝きを発する小さな翡翠の弾丸がばら撒かれる。
SOLにおいてテクスチャという概念を理解し、それに対する干渉技術を考案して設計されたソレらの中には簡易ではあるが現実穿孔機の模造品が込められていた。
本物に比べれば出力、安定性、持続時間などが劣る上に使い捨てではあるが、テクスチャに干渉するという性質に莫大なエネルギーを与えてやればどうなるかという疑問をコレは解決してくれる。
穿孔機がさく裂すると、その周囲数十キロの“現実”が破壊された。
オールトの領域が更に削られる。
真っ黒な孔が虫食いの様に彼の固有世界を削り取り続けていく。
一度空いた穴はもう塞がらない。
現実を根底からねじ切る兵器の破壊力は世界の修復力さえも及びつかない。
問答無用でテクスチャを引きはがし、消滅させるコレはSOL3のあらゆるサイオニック生命体を滅ぼし得る現実破壊兵器である。
そんなものを数発受けてしまったオールトの肉体はいともたやすく欠損してしまう。
円盤型宇宙船を思わせる惑星捕食生命体の身体には幾つもの空洞が開通し、下部に展開していた戦闘体に至ってはもはや全体の半分も残ってはいない。
再生をするたびに当てつけの様にその個所に現実破壊攻撃が叩き込まれ、オールトの内包するエネルギーをじわじわと消耗させ続けているのだ。
オールト戦闘体がその触手染みた腕を解体船へと伸ばす。
己の命を脅かす存在への断固たる殺意がそこにはあった。
決して許さない、殺してやるという意思を送り込まれた腕は鋭利な形状へと変化を遂げる。
カマキリのカマの様なソレに光が灯され、星さえも切り刻める斬撃を放つべく振りかぶり……。
【プランク分解ビーム】
飢えるような輝きを放つ翡翠色の閃光がオールト戦闘体の腕部に着弾。
すると、彼の腕部は見る見る溶け堕ちていく。
声もなく、呆然と円盤は己の戦闘体を眺めているようだった。
ドロドロに身体が崩れていく。
後の世界において霊長では決して打倒できない、次の紀に委ねようとまで言われた無敵の肉体が。
これは大規模な破壊を齎す攻撃ではなく、相手を原子よりも小さな電子単位で分解する兵器であった。
サブプランク規模で構造を破壊されたオールトの腕は超濃縮粒子泡の濁液へと変換され、虚空へと解けていく。
先に朱い月が受けた事象崩壊攻撃の上位互換であるコレは対象が何であれ物質としての形態さえ持っているのならば神様さえ殺して見せるだろう兵器なのだ。
元来の用途としては敵対する惑星に撃ち込み、星を丸ごと再利用可能なジュースへと変える為の武器でもある。
オールト戦闘体が仰け反りつつ体を揺する。
円盤が激怒する様に激しく輝き、戦闘体を再構築すべくエーテルを循環させるが────。
【
一通りの兵装のテストを終えた「彼ら」はもはやオールトに用はないと言わんばかりに数次元上の破壊力を叩き込む。
ご丁寧に今までオールトが用いていたプラズマ砲の亜種をだ。
真のプラズマ兵器とは何たるかをオールトは身をもって知ることになった。
「Ⅹ」級兵装でもあり、解体船の副砲が放った眩い翡翠色の光弾の温度は比喩でも何でもなくプランク温度である。
1.417×10^(32)の熱量はもっとかみ砕いて言えば 14溝2千穣℃であり、これは宇宙が開闢した際の1プランク秒に発せられた熱量であった。
本来ならば0を幾つもってきても足りないほんの刹那の時間の後に急速に冷めてしまう程の熱は、絶えず絶対熱であり続ける。
シュラウドという高次元からエネルギーを絶えず供給され続けた結果、光弾は冷めることなくその猛威を振るい続ける事が出来るのだ。
「彼ら」がこの付近の宙域を保護していなければ先の警告通り200光年以内のあらゆる存在が沸騰してしまう威力であった。
そんなものを受けたオールトはどうなったか語るまでもない。
SOLにおいて何よりも頑強であった彼の円盤の様な体躯とそこから垂らされた戦闘体が10のマイナス36乗秒だけ耐える事が出来たのは称賛に値するだろう。
が、直ぐに彼の全ては先の分解レーザーを受けた腕と同じように超濃縮粒子泡の濁液へと変換後にブラスターの熱量を供給するための燃料として消費され尽くされて消え去った。
オールトを構築していた質量/エネルギーはこうして世界から完全に消え去り……彼は最後の悪あがきを見せた。
星はもはやなりふり構わず「彼ら」の排除を試みるために本来ならばありえない申請に許可を下してしまったのだ。
それはオールトにとって一か八かであり「彼ら」にとっては新たな発想を与える行為であった。
万華鏡複写した異聞記録の汎用。
第二の魔法を伝いオールトは何処かで起こりえた己の所業をこの場に引き込む。
シュラウド・ハイパーショックによって大打撃を与えられた黎明の世が軋む。
穴だらけになりプロテクトも壊れかけた今だからこそ、オールトは己の存在をその中に差し込むことが出来た。
■■■より3億年に渡る■■異聞史を総括。
黎明の世に過去も未来もない。
故に何処かであった何かをここで再現することも可能であった。
“──”が全てを許可。
仮想英霊体の構築を許可。
生物分類
“ワン・ラディアンス・シング”
グランド・サーヴァント クラス フォーリナー。
オールトが召喚されます。
淀んだ黄金色の輝きと共にオールトが再構築される。
先より遥かに小さく、人型のソレは体中に緑色の眼を宿しており、その全てが解体船へと向けられていた。
己の命を脅かす敵から視線を外さないのは当たり前の話だ。
なるほど、そういう事も出来るのかと「彼ら」はオールトの生存本能の強さに驚きを禁じ得なかった。
同時に
“大変結構”
“実に素晴らしい発想と応用だ”
“もう一度見せてくれたまえ”
【四次元特異点キャノン】が先よりも出力を上げて発射。
英霊、グランド・フォーリナー・オールトはソレをまともに受けて消滅/収奪してしまう。
戦闘力/身体的頑強性は先の円盤形態よりも脆弱である故に当たり前の結果であった。
が……しぶとさという意味ではこちらの方が上である。
何せもはやオールトは肉体という枠を超越し、黎明の世に己の本質を転写し続けているのだから。
黎明の世の容量が浸食される。
そこに保管されていたデータたちが徐々にではあるがオールトに置き換えられ始める。
ただでさえ崩壊寸前だったソレは惑星侵略生命体の無尽蔵ともいえる生存本能に食い荒らされているのだ。
仮想英霊体の崩壊を確認。──記録完了。
万華鏡により可能性を転写。──記録完了
時空連続体に異聞記録が挿入。──記録完了。
再臨個体 惑星統括細胞。──記録完了。
発生区間……。
オールトが再臨する。
黎明の世のリソースを先よりも多く奪い取った彼は前の個体と姿かたちが変わっている。
人の様であった手足はより長く鋭くなり、さながら鳥類の骨格の様であった。
しかも一体ではない。
英霊というのは黎明の世から落ちてきた影であり本物のコピーである故に、オールトもまた己の複製を大量に行っていた。
数十、数百とオールトが更に更にと増え続けて、その度に黎明の世は崩れていく。
単一の究極種はここに至って繁殖行為を行い生存を続けようとしていた。
一体一体がグランド・フォーリナーであるソレは見るモノ全てに絶望を与える光景だろう……普通ならば。
“時間だ”
「彼ら」は時間に気付いた若者の様にコロッサスのシークエンスを確認し、もう間もなく惑星解放が完了することを悟った。
実に面白く素晴らしい時間であったが、あくまでもこれはサブであり、メインには及ばない。
それに何より、黎明の世も後に解析/掌握するつもりである故にこれ以上オールトに荒らされるのを放置するわけにもいかない。
ありがとう。
もういいぞ。
たった二声。
コレがオールトの齎してくれた知見に対する報酬であった。
長々と戦うつもりはない「彼ら」はこの命を終わらせてやることにした。
【六次元跳躍収束放射器】
「彼ら」の瞳は黎明の世を捉える。
その中でオールトに浸食されている、いわばガン化した部分を見定めてから解体船に指示を送った。
放たれるのはガンヴィウスとしてよく行ったアーク放電攻撃。
解体船のソレは本来ならば6次元に干渉し、攻撃を3つ上の次元に跳躍させてから敵のシールドや防御機構を飛び越えて本質へと一撃を叩き込む装備である。
此度に至っては“高次元に跳躍させる”という機能をメインに用いられていた。
つまり、英霊の座への直接攻撃である。
黎明の世に翡翠色の稲妻が走る。
概念/情報/エーテル存在であろうと問答無用でソレは座を丸ごとひっくり返す勢いで揺らし、その内部に巣食っていたオールトの
収奪開始。
長い茶番に幕を下ろす為に解体船の中央に座する球体が真っ白な光を放つ。
何もかもを塗りつぶす純白は宇宙を真っ白に染めるというありえない現象を引き起こした。
光はどんどんと伸びていくと、何千にも増殖したオールトたちを包みこみ、次いで引きずり込む様に蠢いた。
事実光は解体船へと向かって落下を続けている。
音はなかった。
ただ時折真っ白な光の中に虹がうっすらとかかるのが幻想的でさえある。
■■■■───。
オールトの内の誰かが吠えた。
まるで逃れられない己の運命を嘆くかの様に。
ふっ、と、唐突に光が消える。
残ったのはヴォイドであり、何もない無だけだ。
あれだけいたオールトたちはもはや何処にも存在しない。
一瞬だけSOL星系の温度は絶対零度まで低下し、先まで光が照らしていた空間に存在していたであろう物質/エネルギー/概念/真空の揺らぎは消え去ってしまったのだ。
言葉通り根こそぎ全てを奪い去り、空虚だけを生成するのがこの解体船に与えられた役割である。
オールトは確かに最高峰の生命であり、その生存に対する欲求は他に並ぶ者がいない程であった。
彼のたどった運命は一言で表される。
即ち弱肉強食である。
宙を統べる強者たちに弱者であるオールトは細胞の一欠けらも残さず収奪され、もはや何も残ってはいない。
「T」級兵器“強制排除砲”を除く全システムテスト完了。
問題なし。誤差数値は許容範囲内。
解体船は即座に帰還し詳細なデータ分析を本国で開始。
改めて戦果レポートを生成……。
【見落とし】
宙における艦隊戦が当然の結果を迎える中、ガンヴィウスもまた当然の結果を得ていた。
彼の周囲に転がるのは無数の英霊たちの残骸だ。
何十、何百という英霊たちは地に倒れ伏し殆どがエーテル体として霧散しようとしていた。
真っ先にガンヴィウスに挑んだ北欧の戦士王と戦乙女は寄り添うように倒れ、手を握りしめ合いながら息絶えている。
彼らに代表されるように数多くの勇者たちは無念を浮かべたまま、ガンヴィウスへと腕を伸ばすような形で亡骸を晒していた。
ギリシャ、天竺、ヨーロッパ、あらゆる歴史のあらゆる英雄たちはただ一人の降臨者を前に叩きのめされている。
星系規模の概念攻撃と現実穿孔機の影響で黎明の世にも甚大な被害が出ているらしく、倒せども倒せども沸いてきた英霊たちはもはや復活することはない。
「手ごわかった」
心から感慨深くガンヴィウスは呟いた。
彼の腕は朱い月の首を掴み上げ、片手で軽々と持ち上げている。
もはや抵抗する気力もないのか月の王は脱力し、生命力あふれていた頃からは想像もできない程に衰弱した瞳でガンヴィウスを見つめていた。
腰から下と左腕、左胸を失った月の王の姿は見るに堪えない程に痛ましいものである。
ロムルスの力を取り込んだ朱い月はガンヴィウスの防御力場を貫通する力を得ており、神祖が手こずったと呟いたのも嘘ではない。
事実激戦を物語るようにガンヴィウスの衣服の所々は破れ、顔の左半分は朱い月の渾身の一撃により抉り取られている。
陶器が割れるようにガンヴィウスの顔は割れており、人間ならば露出しているであろう脳髄等の代わりに、銀河図の様な星々が瞬く宙がそこからは漏れ、暗闇の奥には十字型の青い光が蠢いている。
「よく戦った。尊敬に値する」
ガンヴィウスが手を離せば朱い月の身体は大地へと崩れ落ちた。
膝をつく事さえ出来ずに横たわる月の王を勝者としてガンヴィウスはのぞき込む。
遠くにはあまりに魔法を酷使しすぎたせいで、反動によって白髪へと変わってしまった魔法使いが岩にもたれかかり、衰弱した様を晒していた。
弱弱しく呼吸を繰り返しながら朱い月はガンヴィウスを見つめていた。
勝利者への敬意と同時に何処か哀れみが宿った奇妙な瞳だった。
負けたというのに、彼は何故かガンヴィウスへと憐憫を向けていた。
「……わたしの、いったこと、を……おぼえて……い……か?」
途切れ途切れに月の王は囁く。
言葉を紡ぐことさえ億劫でありながら、敗者として勝者にアドバイスをするように。
何だ? とガンヴィウスは朱い月を見つめながら
彼と今まで交えた会話を想起し、検索。
現状に適した彼から得られた情報を探し出して……見つけた。
“私とそなた、どちらも生き延びる事は不可能になりつつある”
“自分の計画を乱されることを何よりも嫌う”
ガンヴィウスは顔を顰めた。
念のため現状を確認していく。
もう勝負の趨勢は決したはずなのだが、嫌な予感がする。
リヴァイアサンの軍団は葬った。
目ざわりな星系の意思もねじ伏せた。
こうして英霊の軍団もあらかた潰し終わり、もはや抵抗勢力はいない。
コロッサスによる作業も順調だ。
そしてアーサー王とルキウスは未だに戦闘を続けている。
未だに────続けている?
奇妙な引っ掛かりをガンヴィウスは覚えた。
幾らなんでも長すぎると。
してやられたかもしれない事を「彼ら」は悟った。
何処かで胡散臭い男の無機質な笑い声が響いているような気がした。
今まで見ていた筈の観測結果が歪んでいく。数字がパラパラと崩れ落ち出した。
「そういうことか」
ルキウスがいるであろう場所へと顔を向ければ、示し合わせたように黄金色の光の柱が顕現した。
ガンヴィウスは一度だけ掌を握りしめるような仕草をした。
遠く離れた地でナニカ、または誰かがパシャっという軽い音と共に砕け散った。
ガンヴィウスはもはや魔法使いと朱い月には目も向けずに空間を飛び越えようとする。
だが彼の眼前に一本の槍が突き刺さった。
槍を中心にテクスチャが上書きされ、時間さえも
「逃がさねえよ」
凄まじい速度で青年───アキレウスがガンヴィウスの目の前に現れた。
数少ない生き延びた上で未だ戦闘能力を保持し続けている英雄であった。
彼は女王の返り血に塗れた姿で怒りも露わに神祖を睨みつけている。
本来ならば誉高き戦士の決闘にのみ使われる宝具であったが、此度のみ大英雄はその矜持を捻じ曲げ、強制的にガンヴィウスを隔離するための結界として使用していた。
全ては己の手で直接この怪物を葬る為に。
たとえ力及ばなかったとしても時間を稼ぐ為に、だ。
「我が名はアキレウス、英雄ペーレーウスの……」
アキレウスが名乗りを終える前にガンヴィウスは一歩を踏み出した。
シュラウド・ジャンプドライブを利用して結界から脱出を試みようとするが到達座標に奇妙な虹色のノイズが走っていて安定したジャンプが難しくなっている。
殆ど力尽きながらも宝石剣を握りしめた魔法使いは最後の力を使ってジャンプの妨害を行っていた。
妨害の突破とアキレウスの排除、どちらがより時間がかかるか一瞬だけ考え、答えは直ぐに出た。
茶番に付き合うつもりなど無い「彼ら」が仕方なくアキレウスを排除すべく迫れば、アキレウスは槍を構えて迎え撃つ。
どちらが勝ったかなど判り切った事を述べる必要はない。
8秒だ。
アキレウスの奮闘は結果としてガンヴィウスを8秒間足止めをすることに成功した事だけを述べておこう。
終戦の時は近い。
策があるとは言ったけど、勝つための策とは言っていないよ?
───ブリテンのとある魔術師。
終わりが近づいてきました。
あと少しだけ当作に付き合っていただければ幸いです。
後最近気が付いたのですがFGOのポートレートMODがあるみたいですね。
アレを導入して使えば、文字通りの地球国家元首Uーオルガマリーでプレイもできるかもしれません。
ちなみに自分が一回Uマリーでプレイした時は地獄絵図な立地でミッドゲーム開始時に直ぐに叩き潰されました。
殺戮機械
↓
貪食→ 地球国家元首 ←浄化主義者
からの少し下に排他没落が銀河の南への侵入を阻むというある意味神立地でした。