fate/stellaris 【完結】   作:宇宙きのこ

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今回のお話には原作キャラの死亡描写がありますのでご注意ください。
そして自分の中のマーリンはこういう事をやる奴です。


星の終わる(臨終する)刻(原作キャラ死亡描写注意)

 

 

【ひとでなしのマーリン】

 

 

 

宙に星の化身達が現れ、想像を絶する戦いが始まる直前まで話は戻る。

皇帝ルキウスとブリテンの騎士王の戦いはガンヴィウスと魔法使いたちとの激戦に負けず劣らずの様相を見せていた。

剣帝が剣を一振りするごとに大地は叩き切られ、空間そのものの連続性が切断される。

 

シュラウドの力が星系を満たす程にルキウスの力は跳ね上がっていく。

深く、強くシュラウドに接続する“選ばれし者”である彼の力はもはや生物の限界やつまらない法則を超えた所にある。

もう少しで朱い月にも牙を届かせ得る程に彼は強大化を続けていた。

 

 

 

無尽蔵の魔力を保持する騎士王が負けじと輝く聖剣を薙げば延長された光の剣はその射程にあるもの全てを分子一つ残さず分解し消滅させてしまう。

ソレをルキウスは軽々と躱していく。

アーサー王が剣を振りかざす予備動作を見た瞬間に彼はアーサー王がどのような攻撃を放つか瞬時に計算しているのだ。

 

さすがのルキウスといえど剣の放つ力をまともに受けてしまえば跡形も残らない。

ブリテンにとっては剣帝を倒す唯一の希望であり、皇帝にとっては下郎たる王風情が唯一我が身を殺しえる武器である。

 

 

故にルキウスは楽しんでいた。

戦場で笑いを零すという行為をアーサー王は気に入らないと断ずるだろうが、それでも彼は楽しんでいた。

恐らくこれが生涯最後の剣を用いた戦いになるだろうと彼は悟っている。

 

 

この戦いが終われば惑星をローマが完全に統合することになる。

ちょうど未来の仮想敵になるかもしれなかった中華文明等はガンヴィウスに大陸ごと持ち上げられ、今や大陸槍の部品となってしまっている。

つまるところ、もはやローマの敵は誰もいない。数千年続いたSOL3における陣取り遊びは終わりを迎える。

 

 

仮に生き残り等がいたとしても神祖より機関砲などを授かったローマとまともに交戦できるとは思えなかった。

 

 

 

父からローマを禅譲されれば後は別の戦いが始まる。

外部の国ではなく、内部の様々な欲望との戦いへと移行していくだろう。

ガンヴィウス=クィリヌスという偉大なる神が地上から身を隠すという衝撃とソレを後継するという役割の重さを彼は誰よりも知っている故に、もはや前線で剣を振るっていればいい時代は終わりを迎える。

 

 

故に剣帝は最期の戦いを楽しんでいる。

いわばこれは卒業式であった。

剣士ルキウスはこの戦いを以て終わり、ここからは星々の世界へとローマを導く皇帝ルキウスへと生まれ変わらねばならない。

 

 

ルキウスの剣が奔る。

シュラウドと更に強く接続された彼の剣技はもはや前人未踏の域へと昇っていた。

以前はある程度集中しなければ放てなかった“完全”同時の斬撃を今の彼は欠伸交じりに使いこなすことさえ出来る。

 

 

小手調べに三本同時をアーサー王へと放つ。

時空間の構造が純粋な剣術により歪められる。

原理など判らないが、彼にはそれが出来るのだ。

 

 

一筋は首を叩き落とす為に。

一筋は右上から左下にかけて切り下すように。

最後の一筋は胴を一閃するように。

 

 

三つの剣筋は緩やかな螺旋を描くような軌道でアーサー王へと襲い掛かった。

王の優れた直感はこのままでは自分がバラバラになる末路を迎えると悟る。

 

 

 

「温い。この程度で我が首を取れると思っているのか?」

 

 

しかしアーサー王は慌てなかった。

彼女は自分の持つ最強の武器が何であるかを誰よりも理解している。

ソレは剣でも鞘でも、ましてや槍でもない。

 

 

彼女の持つ最強の武器とは竜の心臓により供給される無尽蔵の魔力である。

剣が輝く。爆発的に膨れ上がる魔力の波動と剣の放つ圧は空間を軋ませ、歪める。

ガンヴィウスの「歪曲」の様に洗練されてこそいないが、効果はほぼ同種である。

 

アーサー王が握るのは既に剣という物質ではなかった。

十字型に輝く黄金の光の束を騎士王は握りしめている。

無尽蔵に膨れ上がる星の光、意思の力……「彼ら」が欲する至高の原石である。

 

 

空間が歪む。

尋常ならざる魔力による圧力で彼女は強引に剣線を捻じ曲げた。

首を落とす一撃は虚空を切り、胴を横薙ぎにする一閃は軌道を真下に歪められ、斜めに切り下す斬撃だけをアーサー王は軽々と片手で弾き飛ばす。

 

 

騎士の王が踏み出す。躊躇なく騎士王は皇帝の領域に侵入した。

魔力を用いて嵐を操作し己の身体を加速させ、叩き伏せる様に切り込む。

綺麗な縦一筋の剣線、淡い残光さえも残して剣帝に騎士王の一撃が届く。

 

 

次いで巨大な光の斬撃が発生した。魔力と剣によって生み出される空間切断である。

真正面に居たルキウスから見れば細長い「線」に見えた。

空間に残留した「剣」の力が王の意思を込められて剣帝へと襲い掛かる。

 

 

景色がずれていく。まるで蜃気楼か割れたガラスの様に「線」が通った後の景色はズレた。

三次元を切り刻むこれは、あらゆる物質的な防御を無視する故にまともに浴びればルキウスでさえ両断する威力があった。

 

 

対城宝具並の通常攻撃が皇帝へと迫る。

生物として規格外のアーサー王はただの魔力放出と剣技の合わせ技でさえ並の英雄を蹂躙する怪物である。

 

 

光の壁をルキウスは瞬時に迎撃する。

彼もまた星を統べる者として設計された存在である故に、アーサー王からの挑戦であるコレを避けようとはしなかった。

両手に握った剣に力を注げばソレはシュラウドの如き青紫色に輝きだす。

 

 

剣帝は迫りくる空間断裂を切り払った。

一瞬だけガラス細工を叩き割ったような音がすれば、光の「線」は粉々に砕け散ったのだ。

だが、煌めく粒子が猛烈な閃光となり剣帝の視界を奪い去った。

 

 

しかしルキウスは欠片も動揺はしていない。

視力など所詮は一要素にすぎない。

確かに猛烈な光で目が焼けてしまったが、秒もあれば回復する上にむしろ此方の方が集中できるまである。

 

 

彼の超直感はつまらない小細工を仕掛けた上で身を低くし踏み込んでくるアーサー王の様子をはっきりと捉えていた。

彼は示し合わせたように眼前に向かってフロレントを振り下ろす。

全く迷いがない剣は全身を跳ねさせて首を跳ね飛ばそうとしていた騎士王の光の剣と真っ向からぶつかった。

 

 

ルキウスの身体に衝撃が走る。

最優の刀身が微かに軋む。

手先がしびれ、剣先が微かにブレた。

剣越しに感じる圧はかのアッティラ大王さえも超えている。

 

 

否、空虚な人形であった彼女と違いアーサー王は確たる意思を持っている故に大王を遥かに超えていた。

修復を終えた瞳が光を取り戻せば、黄金色の瞳を残酷に輝かさせる騎士王の顔を映し出す。

黄金色の髪をたなびかせ、真っすぐに皇帝の命を狙うその姿は正に冷徹な殺戮機構ともいえる。

 

 

思わずルキウスは呟いていた。

 

 

「嵐の権化……赤き竜とはよく言ったものだ。我が父が欲するのも頷ける」

 

 

神祖の語るアーサー王に対する評価、新しい地平に至る鍵という寸評は的を射ていた。

ルキウスの言葉を聞いたアーサー王が怒りも露わに口を開く。

 

 

「その為だけにこれほどの戦を起こしたのか…ッ

 一体どれだけの犠牲が出ているか、判っているのか……!」

 

 

ガンヴィウスが居るであろう地点から吹き荒れる膨大な破壊の余波をアーサー王は感じ取っていた。

恐らくマーリンの語った“仲間”があの怪物を討ち取るべく戦闘を始めたと彼女は悟っている。

 

その戦いの凄まじさは遠く離れたここからでも一部だけとはいえ観測することができた。

悲鳴を上げながら地平の向こう側に吹き飛んで行ったグガランナ、降り注ぐ英霊たちを相手に蹂躙を続ける巨人、叩き割られたドーバー海峡。

神祖を騙る怪物は真なる神祖を前にしても全く悪びれることなく、我こそが本物であると騙った上で途方もない力を次から次へと行使している。

 

 

宙の彼方まで跳ね散った海水が雨の如く落下してくる。

ブリテン全土とヨーロッパ各地に海水と多種多様な魚等が降り注いだ。

 

 

一瞬だけ光が瞬いたかと思えば莫大な衝撃が星を揺らした。

異次元から放たれたタキオン・ランスの斉射は星の表層を一瞬で何百回も往復する。

ソレは惑星の地表をはいずり回り、哀れにもローマではない故に守られなかった全ての大地を宙高く引き剥がしてしまった。

 

 

 

宙に浮かぶ幾つもの大陸。

表面にあった命たちは殆どが宇宙空間に投げ出されていく。

アーサー王の極限まで発達した知覚能力は悲鳴を上げて暗黒の世界へと塵の如く放り投げられていく無辜の民たちの姿をはっきりと捉えている。

一体何百万の命が消え去ったかまでしっかりとだ。

 

 

そこにあった命ごと加工されて作り出された超巨大な槍の使用。

全てが星に住まう命のことなど微塵も考えていない傲慢な破壊であった。

何が神祖だ、何が星間航行文明だ、罪のない命を数えきれない程に奪っておきながら何を言うかと王は吠えた。

 

 

「この惨状を見るがいい! 貴様らが仕える存在が齎した災禍を!! 

 どれほどの言葉を並べようと言い逃れなど出来ない蛮行だ!」

 

 

アーサー王が憤怒を込めて剣越しにルキウスへと怨嗟を投げかける。

黄金色の瞳は更に残忍さを増し、徐々に皇帝の剣を押し込んでいく。

彼女の心臓は並の魔術師が一生かけても用意できない量の更に数百倍にも及ぶ魔力を一呼吸の内に生み出す。

 

 

その全てを怒りで増幅させた上で身体強化を行えばシュラウドの力によって無尽蔵に強くなり続けるルキウスをも一時的に圧倒するだけの腕力を得る事ができた。

光によって形作られた王の剣が緩慢に、確実に自分の身を滅ぼそうと迫る中、ルキウスはアーサー王の怒りへと答える。

 

 

「赤き竜よ。俺は最初に言った筈だ。“この世の全てがあの方を否定しようと俺は違う”と」

 

 

「貴様は───!」

 

 

相も変わらず怪物への妄信を吐くルキウスに怒りを滲ませるアーサー王であったが、ルキウスの瞳を見た瞬間、彼女の怒りは微かに冷めた。

剣士としての狂える獣の如き様相は潜まり、今のルキウスは冷厳な統治者としての理性ある瞳をしていた。

アーサー王が後退する。十歩分程の距離を取ってから彼女は鋭い瞳でルキウスを見た。

 

 

 

「此度の戦において無関係の者らに多くの犠牲を出してしまったことは確かだ。

 “必要な犠牲だった”等とは言わん……如何に神祖といえど行き過ぎているのは認めよう」

 

 

皇帝が宙を見上げれば星に巨影を落とす大陸の姿が見えた。

あの上にいた全ての命が消え去ったという事実はとてつもなく重い。

 

 

シュラウドの力を持ち、一度だけとはいえ高次元である黎明の世に招かれたルキウスは魔法使いが行使する魔法を感じ取る事が出来ていた。

そして魔法とシュラウドの力が奇妙に作用した結果、皇帝が見たのはこれから先に訪れる人類史における顛末。

星の記憶の一部を彼は汲み取った上で分析できるだけの能力があった。

 

 

ネロとの会合の際に垣間見た歴史のその先を彼は観測した。

 

 

見てしまったのは延々と続くおぞましい戦争と足の引っ張り合いの歴史。

とてつもなく愚かな話であるが、どうやらこの世界はこのまま進めば最低でも後二回は全世界単位で内戦が起きるらしい。

かつて神祖が語った事は全て事実であると本能的にルキウスは悟った。

 

 

人は自分たちを滅ぼしえる力を何十何百と鋳造した上で互いに向けあう。

200以上もの国家は延々と狭い星の上で蟲毒の如く殺し合い、憎み合い、本来人類が持っているポテンシャルを無駄に浪費し続ける未来がそこにはあった。

その先に何が待っているかなど簡単に判った。

 

 

例えば宙の彼方から来た外敵との戦争の末に滅びるならばまだ受け入れられただろう。

規模こそ違えど生存競争の末の滅亡は自然の摂理だ。

 

 

例えば種族として限界が訪れ、緩やかな没落の末に消え去ったのならば納得しただろう。

どのような存在であれば盛者必衰の理からは逃げられなかったのだと。

 

 

だがコレばかりは納得がいかなかった。

どうしてここまでガンヴィウスが自分たちを庇護したか、その理由の一端が判った。

 

 

 

シュラウドとつながったルキウスは「彼ら」の記憶の一部を垣間見れた。

 

 

「彼ら」が観測した幾つもの文明の滅びを迎える刹那の光景。

惑星中に拡がる核爆発と無数の報復の連鎖。

実際にあった光景と、もしかしたらこの世界が迎えるかもしれない終わりの景色が重なってしまった。

 

 

愚か者どもめとルキウスは内心で怒りを抱いた。

無為に同族同士で殺し合い、取り返しのつかない過ちを犯す人類を彼は獣以下だと断じた。

 

 

「故に俺は作らねばならん。

 此度の戦で失われた命を代価に“あちら側”とは違う歴史を!

 ローマの名の元に星を一つにし、人類を束ねて宙へと導いてやる───その果てに()()()()()()()()()()()()()と宣言しよう!」

 

 

彼はガンヴィウスの語りを戦闘の最中とは言え聞いていた。

彼の言葉は全周波で垂れ流しにされていたのだから当然である。

多くを見てきた先駆者の可能性に対する問いかけは深く彼の心根に突き刺さった。

 

 

今の彼ならば判る。

かつてガンヴィウスが自分に向けて語った言葉の本当の重みを。

彼は言った。“多くを見てきた”と。

 

 

「彼ら」が見てきたのはきっと綺麗なものばかりではない。

あらゆる悪徳を知り尽くしている。

あらゆる愚かさを知り尽くしている。

傍から見たら唖然とする様な愚かな理由で幾つもの文明が消え去った事を知っている存在から放たれた問いの重さをルキウスは本当の意味で理解できた。

 

 

だからこそルキウスにはやるべきことがある。

立派にローマを導き、成長させ「彼ら」にあなた方の心配は杞憂でしたと胸を張って伝える使命が。

ルキウスはシュラウドの力を微かに行使し、燃え滾るような覇気と圧に満ちた声で英霊たちに言葉を送り付けた。

 

 

お前たちの歴史は醜い。

間違っている。

そこを退け、と。

 

 

誤魔化すな。目を逸らすな。

何が汎人類史だ。何が自分たちこそ正しい歴史だ。

新暦の始まりより2000年以上経ってもなお文明レベル4(惑星統合)に至れない者らが何を言うかと。

 

 

むしろ中途半端に技術だけが上がってしまった結果、泥沼の共食いが起きているではないか、とルキウスは人類史を嘲笑った。

誰もが責任を負いたがらないつまらない歴史。誰もが綺麗ごとばかりを口にして問題の本質から逃げる世界。

俺は違う。この星の天と地、全ての生命を総じて星と種の行く末に責任を負って見せると彼は決意していた。

 

 

 

案の定帰ってきた否定の念にルキウスは鼻を鳴らし、剣を肩に担ぐ。

どうあっても退くつもりはないなど最初から分かっている。

あからさまな隙であるがアーサー王は踏み込めない。

 

 

数多くの力を行使し、いまなお成長と進化を繰り返す人型の怪物相手に生半可な攻撃は通じないのだ。

隙を伺うアーサー王の様子など欠片も気にせずにルキウスは今思いついたかのように口を開いた。

もはやブリテンの終わりは間近であるが、曲がりなりにもこの国を治めていた王であるのならば知っておく義務がある事柄を彼は思い出したのだ。

 

 

「そも、貴様は我がローマを侵略者だ、怪物の走狗だと糾弾しているが……我が父ほどこのブリテンを栄えさせた存在はいないのだぞ?」

 

 

答えずに視線を鋭くさせるアーサー王にルキウスは顔を顰めた。

当然彼はガンヴィウスより全てを知らされている故に無知な王にイラつきを覚えた。

少しでも考えればわかる事だろうと内心で零す。

 

 

「この星を満たすエーテル(神秘)は本来ならば減衰する一方であり、ブリテンほどその影響を受けた国は存在せん。

 そのことは貴様が一番知っている筈だ。貴様が即位する前までこの国は農作物もまともに育たない有様だったのだからな」

 

 

それこそが本来あるべき姿だったとルキウスは続ける。

アーサー王の剣を握りしめる手にジワリと汗が滲んだ。

背筋に微かに冷たいモノが触れてくるのを感じながら彼女は努めて無表情で言う。

 

 

「何が言いたい」

 

 

「今この星を満たすエーテルを創造したのは神祖だ。

 ブリテンの繁栄の基盤を築いたのは我が父上である。

 お前の民を満たしたのは我々だと言っている」

 

 

「ふざけるな……そのような世迷言を私が信じると」

 

 

 

アーサー王が言葉を終える前にルキウスは無造作に剣を一振りした。

敵意のない動作で何もない空間をクラレントが奔れば、空間が縦に切断された上でシュラウドの力により別の個所と繋がる。

ガンヴィウスが幾度も見せたゲート・ウェイと同じことをルキウスは行ったのだ。

 

 

切り開かれた空間の先は首都ローマの中心であるクィリヌスの御座の地下施設である。

空間に異常が生じた事により工房に備え付けられた自動の迎撃装置が稼働を始めようとするが、ルキウスの存在を認めた瞬間にソレらは沈黙した。

 

 

「見るがいい」

 

 

ルキウスは剣先で輝く大きな多面体───シュラウド・コンデンサーを示した。

変わらずコンデンサーは稼働を続けており、クルクルと回っている。

アーサー王にはこれがどのような技術で作られているかなどさっぱり判らなかったが、それでもコレが何をしているのかは理解できた。

 

 

アーサー王の心臓が跳ねる。

シュラウド・コンデンサーより漏れ出た力を微かに吸うだけで彼女の魂は輝きを増した。

今までにない程に身体の調子がいい。

 

 

今ならば難敵と思えたルキウスさえも押しきれてしまいそうな程に最高の状態であった。

皮肉な事に彼女の変化こそがどのような言葉よりも皇帝の言葉の正しさを証明してしまった。

間違いがない、あれはエーテルを生成している、と。

 

 

アーサー王ほどの超感覚の持ち主であれば薄々と察していた事実である。

本来目減りするだけで増える筈のないエーテルが突如として湧いてきた理由を無意識に彼女は考えないようにしていたのだ。

お蔭で多くの民たちが救われた、ブリテンの愛する民たちが笑顔ならばそれでいいと。

 

 

 

泣く泣く領民から食料を取り上げる等ということもなく、民への犠牲を最低限に抑えた上で彼女は蛮族という侵略者を撃退できたのだから。

今までの繁栄、幸福、彼女の理想を支えていた土台は他者が用意したモノだったという事実は王を打ちのめした。

 

 

 

「……」

 

 

アーサー王は空間が徐々に閉じていくのを黙って見つめていた。

彼女の瞳は揺れている。微かに剣先が小刻みに動いていた。

空間が結び合わされたのを見計らってルキウスは言う。

 

 

「神祖の打倒はアレの停止(ブリテンの衰退)を意味する。この意味が判らない訳ではあるまい」

 

 

ルキウスは手にしていた二振りの剣を鞘に納めた。

背筋を伸ばし構えさえも解いた後、彼はアーサー王へと向けて手を差し出した。

神祖以外には見せたことのない恭しい態度で皇帝は王へと語り掛ける。

 

 

宙の彼方から現れたリヴァイアサン達の群れと「彼ら」の艦隊が戦闘を開始し世界が鮮やかに染まっていく中、皇帝は王に懇願していた。

 

 

「誇り高きアーサー王よ。気高き騎士たちの王に願う。どうか下ってはくれないか? 

 貴方達は十分に戦った。尊敬に値する。故に、もういいだろう」

 

 

「しかし、それでは……この星が……神秘が……」

 

 

 

アーサー王の脳裏に浮かぶのは無数の機械プレートで覆われたこの星の姿。

テクスチャを引きはがされ奪い取られていく無数の神秘達。

人類が築き上げてきた精神活動の結果を根こそぎ略奪される光景を思い出し王は唇を戦慄かせた。

 

 

「神祖は貴方に並々ならぬ執着を抱いている。

 貴方の価値は立派な交渉材料になりえる。

 御身の言葉であれば我が父は聞き入れてくれるだろう。

 力では敵わない存在に知略と口上を以て立ち回るのもまた王の責務では?」

 

 

だからもう終わりにするべきだとルキウスは言う。

もはや勝敗は決したも同然の状況だ。

 

宙の彼方で花開く幾つもの超新星を観測しながらルキウスは本能でリヴァイアサンの群れでは神祖の保有する艦隊には決して勝ちえない事を把握していた。

自分たちとは次元の違う存在だという事は知っていたが、さすがにこれほどまでの存在だとは思わなかったというのがルキウスの偽らざる本心であった。

 

 

次から次へと星の化身達が叩き落されていく。

今の人類では何万年かかっても到達できない域の力が行使されていた。

太陽の億倍、兆倍のエネルギーが解放される。

数百光年を薙ぎ払う狂気としか言えない武装がまるで矢の如く乱射されている。

 

 

この宙で最も不可解にして凶悪な存在といえる暗黒天体さえも「彼ら」からすれば替えの利く道具程度にしか扱われていない。

世の根底に最も近い法たる魔法の全てと拮抗し、それらを上回っていく様は正に宙の支配者と呼ばれるに相応しいものがある。

 

 

何人かの英霊たちが武器を取り落し、膝をつく様が見えたがルキウスはそれらを無様とは思わなかった。

当然とさえ思えた。

世の中にはどうしようもないモノがある。その一つがアレだとルキウスは認めている。

 

 

そしてルキウスはアレを見て自分の中の高揚が冷めていくのを感じた。

自分の振るう剣の何とか細く弱っちい事か。

いずれ届かせたいと願った天蓋の遠さを知った彼は、剣という武器や星の表面で行われる原始的な戦いに興味を持てなくなり出していた。

 

世界はとてつもなく広い。

今までの自分たちなど塵にも等しいという事を彼は素直に認めていた。

 

 

剣士ルキウスが薄まると同時に、星を率いてやがて宙の彼方に届かせんとする皇帝としての側面が強くなっていく。

これは第一歩であった。

アーサー王との決着をルキウスは戦いではなく、王としての駆け引きの末につけたくなったのだ。

 

 

この先、何万と繰り返す事になるであろう別の戦いの始まりの一歩である。

 

 

 

「…………」

 

 

「皇帝の名に誓い、貴方たちの名誉を汚すような真似はしないと宣言する。

 神祖にさえこの誓いは反故になどさせん。故に、御身の勇気を俺に示してほしい」

 

 

瞳を揺らすアーサー王にルキウスは強く手を伸ばす。

先に円卓を嬉々として蹂躙した彼とはまるで別人の様な理性的な瞳と口調であった。

 

王は周囲を見た……地獄を見た。

倒れる騎士たち。

無機質に暴れ回る真祖と勇猛果敢に巨人に挑みかかる英霊。

理解不能な絶叫を上げながらブリテンの大地を粉砕し、暴れ狂う遊星の巨人。

 

 

宙の向こうではこの星を100万回滅ぼせるほどの規模で怪物たちがぶつかり合っている。

否、必死に星の軍団はありとあらゆる要素を動員して神祖の艦隊に食いついているに過ぎない。

もう間もなく天秤は無慈悲に傾くだろう。

ほら、現に暗黒天体を加工して作られた爆弾が容赦なく星々の意思を飲み込んでしまったではないか。

 

 

 

“負けた”と彼女は優れた直感が囁くのを聞いた。

もう何もない。ここからの逆転の目はない。

自分ひとりだけならば逃げられるかもしれないが、そんなことをしてどうなるという。

 

 

そもそも敵はルキウスだけではないのだ。

仮に先にコンデンサーから得た超高濃度のエーテルの力を駆使してルキウスを打倒したとしよう。

次に戦う事になるのは間違いなくあの神祖である。

 

 

判っていた事ではないか。

戦うと決断したのは自分だったはずだ。

相手が強大なんてことは最初から知っていた筈だった。

 

心の何処かでアーサー王には根拠のない希望があったのかもしれない。

ヴォーティガーンを倒し、キャスパリーグを打倒した自分ならば宙の彼方から来た侵略者も倒せるかもしれないという希望が。

 

 

しかし現実は数百の英霊の軍団を戦いとさえ認識せずに蹂躙し、大陸を放り投げ、軽く動くだけで時空間の基礎構造を捻じ曲げた上に上位次元を利用した因果逆転さえ行う存在が敵になる。

奇跡に奇跡を重ねて打倒が叶ったとしても、この星の上空には理解不能な技術と理論で武装した艦隊が居るという事実はアーサー王の戦意を吹き消すには十分すぎる要因であった。

いつしか彼女は勝つ方法よりも、この戦いを終わらせる方法を主軸に考えを纏めようとしていた。

 

 

「私は──」

 

 

凛としながらも震えの混じった声でアーサー王が何かを宣言しようとした瞬間、覆い隠す様に優男の表面上は温かみに満ちた声が木霊した。

 

 

「お待たせ! 

 ちょっと遅れちゃったみたいだけど、まだ終わってはいないみたいで安心したよ」

 

 

王が剣を降ろす直前に見計らったかの様にマーリンが現れた。

何もない空間から突如として彼は姿を見せたのだ。

いや、もしかしたら最初からそこにいたのだが、姿を隠していただけなのかもしれない。

 

何が面白いのか、彼はスキップしつつ自らの主の肩に軽く触れてからルキウスをジロジロと見つめた。

 

 

「初めましてになるかな。私の名前はマーリン。アーサー王に仕える魔術師さ」

 

 

彼はいつも通りの笑顔でアーサー王の隣に並び立ち恭しく一礼した。

 

 

「何の用だ。

 如何にアーサー王の師といえど我らの会話を遮るとは、身の程を知らぬと見えるな」

 

 

「いやぁ、申し訳ない。すっごく大事な話をしていたのは判っていたんだけどね。

 此方としてもギリギリまでタイミングというか、本当に実行すべきかどうかの判断を保留しておく必要があったからさ」

 

 

マーリンが宙を見上げれば、数多くのリヴァイアサンの軍団が塵の様に吹き散らされる様が映っていた。

あぁ、やっぱり勝てないか、残念だ。と彼は胸中でごちた。

 

 

さて、と呟いてからマーリンはアーサー王へと視線を向けて微笑んだ。

何も知らない者からすれば温和で優しい笑顔を。

彼という存在を知っている者からすればいつも通りの何も込められていない張り付けられた笑顔である。

 

 

「さて。待たせたね、()()()()()……うーん、いざ実行となると僕も……いや……やめておこう。仕方ないものは、仕方ないんだ」

 

 

「マーリン……?」

 

 

いつもと同じでありながら何かが違うマーリンの様子にアーサー王は奇妙さを覚えたが、彼女はマーリンを信頼している故に何もしなかった。

直感が全力で警報を鳴らしているというのに、ソレはルキウスか、はたまた自分を狙う神祖によるモノだと誤認してしまったのだ。

 

だってそうだろう? 

女好きで、いつもトラブルばかり持ち込んでくるが、同時にいつも自分の隣にいてくれた絶対の味方だったのだから。

アーサー王はマーリンという存在を尊敬し、心から信じているのだから、これは仕方のないことであった。

 

 

「おやすみ。アルトリア……本当に、ごめん」

 

 

「……ぇ……?」

 

 

最期に彼女が見たマーリンの顔は無表情な本来あるべき彼の姿であった。

あらゆる感情を持たない人でなしの顔であった。

だというのに彼女に投げかけられた言葉は何処までも憐憫と慙愧に満ちている。

 

 

彼はマーリン(人でなし)である故にこういう事が出来た。

感情をもたない故に、その行為がたとえどれほど苦難に満ちたモノであろうと、指先と心を切り離して行動できる。

 

 

コツン、とアーサー王の額にマーリンの人差し指が触れれば、騎士王の身体は脱力した。

それに比例して手にもった剣の輝きが増していく。

暴力的なまでに光が膨れ上がり、アーサー王の身体に絡みついていく。

 

 

アーサー王を“設計”した存在の一人である彼からすればこの程度は容易かった。

元より彼女は星の想念の結晶たる剣を使いこなす存在である、ならば星の意思を受け入れる器として扱う事も出来る。

 

 

一度だけ瞼を閉じたアーサー王が再び眼を開けば、彼女の瞳の色は竜としての黄金のソレから、血の様に真っ赤な深紅へと変り果てていた。

結わえていた髪が広がり、それらは見る見る内に伸びていく。

あっという間にアーサー王の姿は遠く離れた地で戦いを続ける朱い月と似通った姿へと変わってしまった。

 

 

──五感(センス )の獲得。

──意識(ルール )の獲得。

──生命視点(スケール )の矮小翻訳。

 

 

全行程、作業完了。

 

 

「ふむ……悪くはない。少々窮屈ではあるが、致し方ないか」

 

 

アーサー王であったものが口を開けば出てくるのは彼女の声であって、彼女のモノではない言葉であった。

超越者染みた容貌には先のアーサー王が持っていた生の感情というモノが全て抜け落ちている。

彼女の瞳はこの世の全てを見下ろし、無価値と断じているかの様に冷たかった。

 

 

そんな彼女の隣に立つのはお似合いの、何も宿っていない笑みを浮かべたマーリンである。

彼は杖を弄びながらルキウスの存在など眼中にないかの様にアーサー王だったモノへと語り掛けた。

 

 

「上手くいったようで良かったよ。さて、時間は余りない。気が付かれる前にやらないとね」

 

 

「ざわめきに苛立つ。頬を撫でる霧の何と鬱陶しい事か。我が同胞たちをよくも……」

 

 

「女」が宙を見上げれば、スター・イーターから放たれる無数のΣクラス・エネルギーランスが次々とリヴァイアサンの群れを消し飛ばしていく光景が繰り広げられていた。

余熱だけで自らの表皮が焦げ付いていくのを「女」は感じ取り美麗な顔を憎悪に歪めた。

あるべき場所にあるべきモノ、数億年の間連れ添った衛星を奪われた事も併せて「女」の瞳には憤怒が浮かび上がっている。

 

 

もはや太陽系は崩壊している。

スター・イーターの重力に引きずり回された上に、多くの星はΣの力の影響でヒビが入り、もう二度と元の状態には戻らないだろう。

あるいは「彼ら」であるならば治せるかもしれないという事実さえ「女」にとっては不愉快であった。

 

 

「貴様、アーサー王を何処へやった」

 

 

ルキウスが怒りを宿した瞳でマーリンを睨みつける。

二振りの剣を構え、この人外をすぐさま処刑できるように準備するが、彼は剣帝の発する円卓でさえ後ずさる程の怒りをまともに受け止めてなお表情を変えなかった。

 

 

「変な事を聞くんだね。王ならば君の目の前に()()じゃないか」

 

 

「もういい」

 

 

ガンヴィウスから聞かされていた以上に掴みどころがなく、それでいて不愉快な存在であるマーリンとの問答は無意味だとルキウスは瞬時に悟った。

話がまとまりかけていた所に乱入してきた挙句に、悪びれもせず己の主人を裏切る様は皇帝にとって目障り極まりなかった。

全身にシュラウドの力を漲らせ、一瞬の間にマーリンを斬首すべくルキウスは踏み込もうとするが……。

 

 

「あぁ……お前か。あの異物の継嗣が存在するとはな」

 

 

シュラウドの力に反応したのか「女」の瞳がルキウスを見据えた。

途方もない圧を皇帝は覚え、思わず足を止めた。

もしも一歩でも距離を詰めていれば、その瞬間に終わっていただろうと彼は直感した。

 

 

「女」は一瞬だけ何かを考えるかの様に瞳を閉じてから、朗々と語る。

虚空に視線を向ける彼女の先ではシュラウドに充填された膨大なエネルギーがパルスとなって星系全土の意思を蹂躙しようとする様が見えていた。

彼女は己の仲間の断末魔を聴く事ができる故に、更に憎悪が深まっていく。

 

 

「私は多くを失った。我が誕生以来共にあり続けた同胞を奪われた。

 この痛みへの報いを与えねばならん。」

 

 

あぁ、そうだと「女」は嘲りを隠そうともせずに笑った。

 

 

「貴様……確かルキウスと言ったな。己の国を宙の域へと押し上げるのが夢だと……ふふっ」

 

 

 

はっきりと「女」は侮蔑を浮かべた。

憐憫、憎悪、憤怒、侮蔑に嗜虐。

おおよそ知的生命体が他者に抱く全ての悪意を「女」は出力する。

 

 

「下らん。無能。そのような不愉快な世迷言、到底許せるものではない。

 ───故にその増長、私が打ち砕いてやろう。()()()は滅びるのだ」

 

 

 

「女」の手にある騎士王が振るっていた剣が凄まじい輝きを放つ。

あらゆる拘束が解けおち、本来あった全ての性能が導き出される。

之こそ星の息吹、勝利を約束されし至高の聖剣である。

 

 

 

「女」は剣を構える。凄まじい光はもはや黄金色の柱となっていた。

かつての騎士王が極光を放つときと同じように、上段から勢いよく振り下ろす構えだ。

しかし「女」の目線はルキウスを視てはいなかった。

 

 

もっと遠く。

遥か彼方の何かを狙っているようだとルキウスは悟る。

 

 

自分の後ろを狙っている……? 

神祖を狙っているとは思えなかった。

だとすれば誰かではなく“何か”を狙っている筈だと。

 

 

「貴様っ……!」

 

 

ここでルキウスは直感する。

大雑把に言ってしまえば、自分の後ろには大陸(ローマ本国)が存在している事に彼は気が付いた。

そんな馬鹿なと切って捨てる事など出来ない話である。

 

 

真価を発揮した剣の威力は対軍、対国の域を超えて、対星の領域にまで指をかけている。

純粋なエネルギー総量ではΣにも届きかねない破壊の力を用いれば、ブリテンからローマを本国を吹き飛ばす事は難しい事ではない。

故にルキウスは刻一刻と輝きを膨れ上がらせる剣の前から退く事は出来なかった。

 

 

彼は皇帝である故に、民を襲わんとする暴虐から逃げる事など許されないのだ。

 

 

 

「ふむ、逃げてもいいのだぞ? 順番が変わるだけの話だ」

 

 

「女」が嗤う。

本来地表を這う虫になど興味を持たない彼女であったが、憎き存在の継嗣であるルキウスに対しては嗜虐的な感情を垣間見せている。

やれやれと傍らのマーリンが頭を振り、無表情で呟いた。

 

 

「楽しむのはいいけど、早くやってほしいなぁ……もうそろそろ時間切れだよ?」

 

 

“現在”起こっている全てを観測できるマーリンの瞳には不機嫌に顔を歪めるガンヴィウスの姿が見えた。

隠蔽に気が付いたガンヴィウスが無造作に掌を握りしめようとする様をマーリンは見ている。

ソレが何を意味するのか当然彼は知っているが、欠片も表情を変えはしなかった。

 

最期の瞬間を前に彼は口を開く。

もはや別物となった騎士王の横顔に向けて彼は微かに哀愁のこもった声で言った。

 

 

「アルトリア─────本当に」

 

 

その先の言葉は永遠に続く事はなかった。

ぐっと遠く離れた地で彼が拳を握れば、全方位から数百万気圧程の圧がマーリンに襲い掛かった。

秒も保たずにマーリンは赤い霧へと変わり、砕け散った。

 

 

既にマーリンという存在の種は割れている。

実体とサイオニック・エネルギー体の両方を殺せばマーリンは死ぬという事を「彼ら」は見抜いていた。

ただで殺されるつもりはなかったマーリンがあらゆる惑乱や幻影、催眠と言った術で抵抗するが、悉く見抜かれてしまう。

 

 

「彼ら」の瞳はマーリンという存在の根底を捉えた。もう、逃げ場はなかった。

肉体という殻を壊されて露出したサイオニック・アバター(夢魔としての本体)としてのマーリンを、周囲のシュラウドの霧が明確な殺意を以て包み込み消滅させてしまう。

念入りに、徹底的に、二度とこのような邪魔をさせない為、完膚なきまでに知的生命体に寄生する害虫を「彼ら」は駆除した。

 

 

「女」は砕け散ったマーリンに対して欠片も意識を向ける事はなかった。

彼女は粛々と騎士王の栄光に溢れた剣を以て無辜の民を虐殺すべく光の束を振り下ろした。

 

 

「之なるは我が息吹。貴様らには過ぎた光である。まずは一つ、奴から奪うとしよう」

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)が猛威を振るう。

完全に開放された光の束は一条の光となってルキウスとその背後に有るローマを消し去るべく輝いた。

ルキウスが動く。二振りの剣にありったけのシュラウドの力を込めて真っ向から迎撃する。

 

青紫色の剣筋と黄金の光が衝突する。

拡散した破壊の力が周囲に飛び散る。

ルキウスを基点に約束された勝利の剣(エクスカリバー)は弾かれ、その背後に一切の破壊を通す事は出来ていない。

 

 

膨大な黄金の光の前に視界は埋め尽くされ、手足にヒビが入っていくが、それでも彼はその場にとどまり、剣の相殺を続けた。

そんな彼に「女」は笑いながら声をかける。

 

 

「粗悪な親には粗悪な息子が出来るという、まことに道理よな。

 つまらぬ理由で魂を燃やすか? 国などまた作ればよいではないか。まぁ、させぬがな」

 

 

 

光が勢いを増す。タキオン・ランスさえも軽々と超える破壊の力を「剣」は生み出していた。

身体が燃え上がり、眼球が沸騰していく中ルキウスは猛烈に笑った。

痛みなど感じていないかの様に、平然と彼は「女」に返す。

 

 

「貴様は何も判っていない。粗悪な親には粗悪な子(親が親なら子も子)と言ったな? 

 ククッ、その理屈で言えば貴様も粗悪に分類されることになるぞ()()

 いや……失礼した。俺と我が民は粗悪などでない。故に無能は貴様だけという事になるな」

 

 

「……貴様の誘い文句はつまらん。慈悲だ、消え失せよ」

 

 

はて、自分はなぜこの「女」の事を母などと言ったのかとルキウスは疑問に思ったが、限界を超える力の衝突によりクラレントとフロレントが悲鳴を上げだした事により現実に帰った。

既に全身の感覚はない。視界もなく、鼓膜も破れかかっている。

さて、どうするかとルキウスは考えていた。

 

 

「その肉体が消え去るまであと数瞬、死の間際、美しく咲いて魅せろ。

 その最期を以て我が同胞への手向けとする」

 

 

不機嫌に顔を歪めた「女」は更に剣の出力を高めた。

月程度の衛星ならば穿つ程の力が剣から放出される。

凄まじい衝撃に全身が軋む中、ルキウスはかつてのアッティラ大王との戦いを思い出していた。

 

 

あの時と同じく彼は絶体絶命の前に意識を集中させていく。

今まで限界だと思っていた地点を更に超える力をシュラウドより引き出す。

 

 

 

十倍。二十倍。三十倍……最終的には六十倍もの強化を自らに付与。

今の彼は朱い月(星の化身)の域へと踏み込んでいた。

即ち、星々の戦いという神祖が座す土俵の入り口にである。

 

 

 

強化された知性と認知能力を駆使して全ての可能性をルキウスは見た。

どうあっても間近な死だけが見えた。

そして彼は認めた。どうやらここで自分は終わるのだと。

 

 

目の前の存在は恐らく■である。

故に勝利は不可能だと彼は冷静に受け止めていた。

この一撃を凌いだとしても、相手の手札は無数にある。

 

 

父は奇妙な隔離世界に一時的とはいえ追放されているらしい。

出てくるのに後5秒はかかるだろう。

5秒もあれば自分は何回も殺されると彼は確信していた。

 

 

 

「否……終わりではない。断じて、これは終わり等ではない!」

 

 

ルキウスは猛烈に笑った。

彼は皇帝である。民を守る為に身を尽くすのは当然である。

男の後ろにはローマがある。故に決して彼は倒れる事は出来ない。

 

 

彼は誰にも判って貰えなかった等とほざく幼子とは違う、その在り方を以てローマを導く男である。

残念ながら自分は此処までと認めつつも彼は猛っていた。

この世界全てが敵に回ろうとも、この世界の全てが己のローマを拒絶しようとも、仮に目の前のこの存在が全てを消し去ったとしても、それでも己たちは───。

 

 

「受け取るがいい。いずれ俺たち(ローマ)は貴様を征服して見せる。これはその第一歩だ!」」

 

 

ルキウスの生涯において最も鋭く、早く、重い一撃が放たれる。

クラレントを手放し、両手でフロレントを握りしめ、全身全霊で振り下ろした。

それはただの振り下ろしの一撃である。

射殺す百頭・羅馬式(ナインライブズ・ローマ)でさえない、ただの全霊の唐竹割りであった。

 

 

極限にまで高まったシュラウドの力とルキウス自身の覇気を宿した一撃は完全開放した「剣」の光を真っ二つに断ち切り、血飛沫が舞う。

「女」の肉体に深々と斬閃が走った。右肩から左の脇腹にかけて真っ赤な線が刻まれている。

 

 

「……」

 

 

噴き出る血とエーテルを認識しながら「女」は顔を歪めた。

一方的に奪い去り、絶望させる計画が台無しになった彼女は歯をむき出しにして憤怒を見せた。

真っ赤な瞳が更に深みを増し、白目が深紅に染まり、瞳孔は爬虫類の様に裂けた。

 

 

「女」はこの世界における“全て”である故に何もかもが思うがままだった。

そんな彼女にとってこのような思い通りにいかないという事は不愉快でしかないのだ。

剣に更に意思を込めれば、一時的に吹き散らされた黄金の濁流はすぐに再収束し今度こそルキウスを飲み込んだ。

 

 

もはやルキウスに抵抗する体力はない。

彼はまともに聖剣の光を浴びてしまう。

手足が砕け、身体が崩壊し、世界という枠組みからさえも弾き飛ばされていきながらも彼は「女」を見据ながら言った。

 

 

 

────これで終わりではないぞ、と。

 

 

 

数瞬後、黄金の暴力が収まった後にはルキウスの姿はなかった。

剣帝ルキウスはこの世から去ったのだ。彼の全身全霊は「女」に傷をつけたがそれだけである。

守り切ったローマ本国も再び「女」が剣の力を解放すれば無慈悲に消し飛ばされるだろう。

 

 

 

「女」は虚空へと視線を向けていた。

今までそこにいたルキウスを偲んで……いるのではない。

シュラウドの霧が収束し、時空間に亀裂が作り出されればそこから出てきたのは彼女の天敵ともいえる存在───ウラキ・ガンヴィウス=クィリヌスである。

 

 

 

 

 

【計画修正】

 

 

 

 

アキレウスを“処理”した彼の姿は体を修復する時間さえも惜しかったのか所々に亀裂が入り、衣服は破け、顔の左半分は陶器の様に割れているという酷い有様であった。

しかし残った右目の眼光は鋭く細められ「女」を見つめている。

「女」は嗜虐的に悪意の籠った笑顔を浮かべた。

 

 

 

「遅かったな。ルキウスと言ったか? 貴様の継嗣であるが、私が消してしまったぞ」

 

 

くすくすと楽し気に「女」は笑った。

最終的なアドバンテージは自分が完全に握っていると確信している故に、彼女はここぞとばかりに怨敵に怨嗟を吐き連ねていく。

 

 

「残念でしょうがないだろう。

 あれほどの傑作()、如何に貴様らと言えどそう易々とは作れまい。私も似たようなモノ(タイプ・アース) を作ろうとした覚えがあるから判るとも」

 

 

「…………」

 

 

腕を組み無表情で見つめるガンヴィウスに「女」は更に続ける。

欠けた顔面の中より青い十字の光が瞬き「女」を見ていた。

どうすれば目の前の存在の矜持を踏みにじれるか、どうやれば傷つけてやれるかという、ある意味では対等の相手にしか抱かない感情を彼女は覚えていた。

46億年もの間存在してきて、今まで表層に蠢く虫に全く興味を持っていなかった岩ころは初めて出会った“敵”に対して幼く純粋な悪意を隠そうともしていなかった。

 

 

「女」はそうだと一言呟いた後、手にした「剣」をまるで塵でも投げ捨てるかの様にガンヴィウスへと向けて放った。

次いで「鞘」と「槍」も、同じように乱雑に、道端に落ちている石ころを蹴り飛ばすように老人の足元へと転がした。

ガシャン、という空虚な音と共にあれだけ欲した武具を足元に放られたガンヴィウスは表情を変えない。

 

 

かつてアーサー王の威光とブリテンの繁栄を象徴した武具はゴミと同じように扱われていた。

 

 

「欲しかったのだろう? 持っていったらどうだ。

 くれてやる。そんなもの、もう何の意味もなくなるからな」

 

 

堪えきれずに「女」はクルクルとダンスでも踊るように回り出す。

身体の至る所に亀裂が走り、内側より黄金色の光が漏れ出していた。

既にアーサー王の身体を「女」は中より砕いていた。

もう崩壊は止まらない。あっという間に手足は土くれの様に綻び、顔にも断裂が入っていく。

 

 

長年探し求めたモノをあと一歩で取りこぼすという絶望を与えてやるのが彼女の思惑であった。

「剣」も「鞘」もアーサー王という使い手がいなければただの古びた武具にすぎない。

 

 

マーリンの計画とは単純なものであった。

星の化身達と魔法を用いても「彼ら」の艦隊を葬れないとなれば、直接的な戦闘による勝利は不可能と諦め、()()()()を行うというものだ。

難しい話ではない。要は()()()()である。

 

 

いや、自暴自棄の自滅と言ってもいいだろう。

負けたとなれば、相手に奪われる領土に徹底的な焦土作戦を行うというのは何も珍しい話ではない。

井戸に毒を入れる。村々を焼き払う。畑に塩をまいておく。疫病の患者を大量に放置する。それの延長の話である。

 

 

 

マーリンは薄々察していたのだ。

あらゆる要素を動員した所で「彼ら」を力で打ち破る事は不可能に近いと。

いくら此方には星々の化身たちという最終戦力があるとはいっても、向こうは文字通り宙の支配者であり、勝てるという保証はどこにもなかった。

 

 

現にマーリンの読みは的中し、ありったけの数の原初の一をぶつけたというのに「彼ら」の艦隊は小動もしなかった。

こうなってしまったらするべき事はただ一つ。せめて他の枝葉にまで「彼ら」の影響を届かせない様にするということだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。それがマーリンの策であった。

その為には「女」の力が必要であるが、既に前提条件は全て達成されていた。

 

 

「嘆くがよい。貴様らに我が真理は掴ませぬ。

 我が息吹は至高の神秘、何者であろうと決して掴めぬと知れ」

 

 

 

星の意思が囀る。

稚児のようでいて、存在の規模が違うモノの悪意は途方もない結果を世界に齎す。

人類悪など生ぬるい。真なる星の悪意は終末そのものといっても過言ではない。

 

 

“剪定”が始まる。

この世界の根底に位置し、未だに浸食を免れていた世界意思のみが行える全並行世界規模の運営機構が動き出す。

未来が途絶えた世界を消す。可能性なき世界を伐採する。

元はそういったシステムであったが、これは同時に「彼ら」の様なものが世界を犯そうとしたときに稼働する自壊装置でもあった。

 

 

例えば外宇宙より来たりし邪神に世界を飲み込まれた時。

例えば別の世界より飛来した降臨者が星の意とは違う世界を作ろうとした時。

例えば人が星の死よりも長く生き延びようと足掻いた時。

 

 

そんな時に発動する最終安全機構であった。

 

 

艦隊のセンサーが幾つもの異常を捉える。

星系の外縁部より空間の連鎖的消失が始まっている事を「彼ら」は悟った。

同時にコロッサスよりエラー報告が入る。

 

 

“接続”の作成こそ順調ではあるが、肝心の接続先が消え去り始めているという内容であった。

急速に星の内部宇宙は安定性を欠き、崩壊を始めていた。

つまり、星は今、この瞬間に死のうとしている。

 

 

 

SOL3の考えは単純である。

即ち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という癇癪に近いモノである。

元より自らの余命は僅かである。

1500年程度の誤差など星にとっては有ってないようなモノだ。

 

 

消え去り始める世界と勝ち誇り笑う「女」を前に無言を貫いていたガンヴィウスは初めて口を開いた。

彼は腕を組んだまま、平時と変わらぬ威厳のある深い声で力強く己の意見を口にした。

 

 

 

「大変結構。好きにしたまえ」

 

 

「…………」

 

 

「女」の顔が不快を浮かべる。

ありったけの悪意を叩きつけ、お前たちの1万年は無駄であったと事実を教えてやったというのに、期待した通りの反応が返ってこなかったからだ。

彼女は期待していた。

ガンヴィウスが苦渋に顔を歪め、あらゆる怨嗟を吐き散らしながら自分たちの努力が無駄になったと叫ぶところを。

 

 

だが現実はどうか? この老人は顔色一つ変えていない。

息子を失い、ローマに渡すはずだった未来絵図を台無しにされ、更には今正に手に入ろうとした星の全てが指先からすり抜けようとしているのに、何も変わってはいなかった。

 

 

「我々は()を貫くまでだ。既に我らの方針は魔法使いに話した通りである」

 

 

お前にも話して聞かせてやっただろう? とガンヴィウスは言った。

あれから何も変わらない。あれが全てであり、それ以外は何もないと。

既に「彼ら」は第二プランを実行に移し始めていた。

まずは足元に打ち捨てられたアーサー王の装備一式に霧が覆いかぶさり、ステラー級の元へと移送した。

 

 

次いでルキウスに焼かれ、遠くで倒れていた誰も気にも留めていなかった小娘(モードレッド)はシュラウドの霧に包み込まれステラー級の内部へと引き込まれる。

今頃はユートの時間凍結保存装置(クリㇷ゚タム)の中に放り込まれ、各種のデータ解析を始めようとしている頃合いだろう。

二度と彼女が目を覚ます事はない。安らかな微睡の中、永遠の夢を見続けることになる。

 

 

起きているよりも眠っている方がモードレッドは我々の役に立つと「彼ら」は言った。

正にどこで何が役に立つか判らないという奴である。王を夢見た少女は王と同質である故に「彼ら」に必要とされたのだ。

 

()()()としては少々心もとないが、ないよりはマシであろうというのが「彼ら」のモードレッド(代用品)への評であった。

 

 

「彼ら」の艦隊が動き出す。シュラウド・ジャンプドライブを起動して空間の狭間に向けて飛翔した。

そこにあるのは膨大な数の亡骸たちであった。シュラウドの鉄槌で精神を砕かれたこれらはもはや活動することはない。

この世界の外側に存在する夥しい数のリヴァイアサンの残骸の回収を始めていく。

 

 

重力場が操作され、何百という怪物たちの死骸が次々と虚数の奥深くへと輸送されていく。

空間の欠落が追いつく前に星々の化身の残骸を手に入れれば、これから先に立案するであろう()()()()()の役に立つだろう。

 

 

 

「我々は未知を学ぶ事こそを喜びとする。

そこに謎があったのならば解きたくてしょうがなくなる性分の持ち主でね」

 

 

「それももう叶わん話だ。()はもう間もなく死ぬ。

 私とて苦渋の決断だったのだぞ。

 このような催しの最後をこんな形で締めくくる事になろうとは」

 

 

大仰に「女」は両腕を掲げ顔を覆い、身体を震わせる。

涙でも流しているのかと思いきや「女」は笑っていた。

もはやアーサー王の肉体で無事な個所はどこにもない。

 

手足、胴体、顔、全てに亀裂が走り光が漏れている。

 

 

「元より誰もが虎視眈々と終末を急ぐつまらぬ劇である。

 ならば舞台である私が幕を下ろす事に何の異論があろうか」

 

 

「女」が大きく腕を開いた。その拍子に指先が砕けおちた。

腕が崩れ出すが「女」は気にも留めず話をつづけた。

 

 

「貴様らの1万年にも及ぶ無為な行為へのせめてもの慈悲だ。

 多くの星の終わりを観てきたのだろう? ならばもう一つ、そこに加えるがいい」

 

 

ここに来て初めてガンヴィウスが反応を見せた。

彼は────ため息を吐いた。呆れたように、愚か者に辟易するように。

 

 

「愚かなり。星よ、お前は間違っている。これは終わりではない。始まりなのだ(次の計画を開始する)

 

 

「…………」

 

 

無言ながらも隠し切れない驚きを浮かべた「女」に対して「彼ら」はガンヴィウスを通して滔々と語り続ける。

まるで裁定者として遥か天上から神託を下すがごとく、老人はこの星に対する次のアプローチ計画の概要の一部を開示していく。

 

 

「これほど恵まれた(人類)を擁立しておきながら、その程度の思考しかないとは。

 貴様の存在はこの銀河において見過ごせぬ欠陥である。故に我々が修正してやろう」

 

 

「彼ら」は傲慢に宣言した。

もはや狂気という言葉さえ振り切った独善の極みともとれる言葉が放たれる。

余りの傲岸不遜な態度と言葉に、生き残った英霊たちが愕然とした顔を浮かべた。

 

 

何という傲慢。

何という悪辣。

人類史においても暴君と呼ばれる者や全てが己の意のままになるのが当然と考える神は居たが、ここまで巨大な業を背負った者はいなかったと。

 

 

 

そこ(星の意思)には私の方が相応しい。癇癪の煩わしい女には退いてもらおうじゃないか」

 

 

“人理”という手に入れた世界の設計図を閲覧しながら「彼ら」は新しい計画を立てていく。

アーサー王こそ手に入らなかったが、多種多様な知見を手に入れる事は出来た。

差し引きとしては悪くないと「彼ら」は考えていた。少なくとも損はしていない。

 

 

故に「彼ら」は少しばかり遠回りをすることにした。最終的な目的は変わらない。

最終段階である「Ω」の域には元より容易く至れる等とは思ってはいない。

 

 

何、ゴールだと思っていた地点が実は中間地点だったという話に過ぎない。

先行きが思ったよりも長いのであるならば、また違った方法を用いるだけだ。

外部より力づくで奪おうとしたら自壊されるという結果が手に入った以上、また別の手を試すだけである。

 

 

これは勝ち負けの話ではない。もはやそんな領域など「彼ら」は気にも留めていない。

手に入れるとこの星を見つけた時に決意した。それだけである。

どれだけの時間や手間暇が掛かろうと()()()()()()()()

 

 

コロッサスに意思を送り惑星解放装置を停止。星と宙を結んでいた青紫色の柱が先細りしていき、やがて完全に消えた。

この戦いの全てを掛けて開いた星の内海、マイナス宇宙へと繋がる道を「彼ら」はあっさりと放棄した。

このまま展開を続けていても、星の掌握よりも内部の崩壊の方が早いと結論づけたが故の放棄である。

 

 

ただし、開通させた「孔」だけは固定して残している。

内側は既に連鎖的な崩壊を始めているが、まだコレには利用価値がある。

用いるのは今まで育て上げた永遠帝国。アラヤという霊長の集合無意識。星と対を成すこの世界の根幹要素。

 

 

全てを吟味し、新たな計画の為の先駆けの形成は早急に準備されていく。

 

 

「はははっ! この期に及んでまだそのような戯言をのたまうか。 

 貴様は探究者ではなく道化であるな! 精々、足掻くといい……!」

 

 

「大変結構。好きにさせてもらおう」

 

 

哄笑する「女」に向けてガンヴィウスは指先を向けて躊躇いなくΣクラスのエネルギー・ランスを撃ち込んだ。

ガンヴィウスという端末が使用できる最大の出力を以て放たれたソレは「女」を一瞬で飲み込み、そのままSOL星系の重力の範囲外にまで空間を焼き払いながら突き進み、数百光年先で超新星を生成した。

あれだけ求めていたアーサー王の肉体を吹き飛ばしたというのに既にガンヴィウスの意識は別の方向に向いている。

 

 

彼はルキウスが放り投げたクラレントを見つけ出すと、そこまで歩いていく。

膝をつき、念力を使わずに己の手でソレを掴み上げた後、胸前に刀身を翳して見る。

刀身にはアーサー王の血液が付着していた。

之は重要なサンプルになるだろうが、今大事なのはソレではなかった。

 

 

周囲一帯(惑星全体)をあらゆるセンサーで念入りにスキャンするが、ルキウスの反応は何処にもない。

シュラウドで繋がっていた筈の繋がりさえも消えてしまっていた。

つまり、彼は死んだのだ。跡形も残らずに、消え失せてしまった。

 

 

「…………」

 

 

十秒間、ガンヴィウスは瞼を閉じる。

クラレントが剣礼の形を取った。

一分一秒が惜しい状況ではあるが、これは必要な事であると「彼ら」は判断していた。

 

 

 

世界が終わる寸前、彼は亡き息子に黙とうを捧げた。

十秒後、ガンヴィウスは剣をステラー級へと送り付けると、踵を返して立ち去り二度と振り返る事はなかった。

 

 

必要なモノは全て我が手にある。

あとは組み立て方の工夫の問題であった。

 

 

では次の計画を始めようか。

 

 

 

 

 




あと1話か2話で完結となります。
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