fate/stellaris 【完結】   作:宇宙きのこ

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全方位を敵に回していくスタイル。



前哨戦

 

【経過観察報告2】

 

 

我々のセンサーにソレが映ったのは観察開始より約7000年ほどが経過した時であった。

FTL機関などは搭載されていないであろうその物体は外宇宙という程遠くはない、このSOL星系の外縁部を取り囲むアステロイドフィールドから飛来してきたようだ。

それにはジャンプライブなどが生成する特異点および空間の裂け目なども確認できない以上、別銀河からのジャンプやハイパーレーンを通ってきたとは考えられない。

 

 

 

スラスターの類も存在しないそれは知性型AIが操縦する戦闘艦の様な無機質かつ効率的な軌道を描き、大陸の一つへと落下。

そのまま形成したクレーターの奥地に潜り込み動かないソレに対して我々は消極的観察を行っている。

今最も大事なのは「剣」の探究であり、このようなありふれたアノマリーに割く余力は我々にはないのだから。

 

 

 

 

 

【親子】

 

 

ルキウス・ヒベリウスは期待以上の性能を発揮している。

我々にとってこれは素晴らしい予想外であった。

「剣」が発見され、その所有者が現れることが予見されてから我々にはこのローマを効率的に運営し、かの島国──ブリテンへと刺激を与えるための存在が必要とされた。

 

 

必要だったのだ。

強く、カリスマにあふれ、絵に描いたような野心を持ち合わせたブリテンにとっての宿敵が。

剣の力を完全に発揮させるには、やはりかつてのコレクターを葬った時の様な戦場が何かと都合がよい。

 

 

我々が見たいのはあの時の黄金の輝きである。

ブリテンに忍ばせている観察ドローンから何度か送られてきた映像に映る破壊力は、あの時とは悪い意味で雲泥の差だ。

恐らく剣に備え付けられているであろうリミッターを解除した本来の力を吟味するには、まず基点となる抑えられた状態の剣の力がどのようなモノかを知る必要もあると考える。

 

 

我々はあの剣の拘束を解く方法を知る必要がある。

その為には持ち主を痛めつけ、生命活動を限界まで追い込む方法が一番であろう。

噂に聞く剣と双璧を成す「鞘」の効力によって所有者は不死身に近い生命力と頑強な防御力を併せ持つとされており、それらを全て撃ち抜くだけの戦闘力を持った存在が必要とされた。

 

 

 

それがルキウス・ヒベリウス。

我々の現状この星における最高傑作である。

 

 

 

ルキウスには肉親はいない。

いや、そもそも彼は母親の子宮を経て生まれたわけではない。

無機質な人工子宮によって適切に栄養を調整され、誕生したのが彼である。

 

 

この星の人類の血液をサンプルとし、生命情報を解析した我々は考えうるあらゆる有力な要素を混ぜ込み、奇跡的なバランスの元彼を製作し、育て上げた。

多くの戦いを経て成長した彼は今や我々の求める数値を満たすだけの性能を発揮しており、来る戦いに備えている。

 

 

だが我々とて無情ではない。

我らが遥か高みに昇天した際、付き従った者らを置き去りにして捨てることなどはしない。

この星から得られた知見に対しての見返りとして、FTL技術を下賜し、この星は我々のこの宇宙における全く新しい最重要拠点になる。

 

 

SOL3は最終的に一つの国家、永遠帝国の元に統合され、その頂点にルキウスは立つ。

ゆくゆくは身を引くであろう我らにとって代わり、二代目の神祖として君臨してもらうつもりである。

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちてなお首都ローマは活気にあふれていた。

いたるところに10階建てどころか、20階建てにも迫る建築物が立ち並び、音楽は止まらず、遠くからは蒸気機関によって走る列車の汽笛が聞こえる。

東西南北のあらゆる重要拠点、都市を結ぶ蒸気列車は膨大な量の各種資源をローマへと運び、そしてそれと同じくらいの資源を各地へと送り届けることができた。

 

 

 

そしてローマの中央に座する巨大な神殿、通称「クィリヌスの御座」の一室ではガンヴィウスとルキウスが会食をしていた。

とてつもなく長いテーブルに向かい合って座る二人の間には次々と料理が運び込まれ、黙々と二人はそれらを口に運んでいる。

 

 

 

「ゲルマンたちの平定は終わったようだが、新たな問題が発生したらしいな」

 

 

一通り食事を終えたガンヴィウスが口を開けば、ルキウスも同じく口元を拭い頷く。

もちろん神祖である彼は全てを把握しており、無駄な隠し事など何の意味もないことを理解していた彼はあるがままを話す。

 

 

 

「かの蛮族どもが本来ありえない大同盟を組んでまで

 ローマに攻め入ろうとしたか判明しました。

 奴らは逃げていたのです、東からくる災いから」

 

 

既にゲルマンとの闘いは終わった。

彼が宣言した通り、二度目の戦いにおいてローマは完膚なきまでに勝利し

ゲルマン大同盟は崩壊。

 

散り散りになった彼らはしらみつぶしにされ、捕虜は新しい戦力としてローマに組み込まれつつある。

だが、戦争はまだ終わらない。

 

 

 

「旧サーサン朝領の東において正体不明の兵士を見かける報告は得ている。

 間違いなくソレらだろうな」

 

 

 

くくくと喉を鳴らしてガンヴィウスは笑った。

元よりこの小さな惑星の全ての国土、人口分布、勢力図などを把握しきっている「彼ら」にとっては判り切っていたことだが、ルキウスにとっては途方もない謎の敵に見えただろう。

突然変異、もしくは過去からの忌むべき置き土産か。

 

 

繁栄を極めた文明への揺り返しが現れたのだ。

来るは破壊の大王。

乗り越えられなければ残念だが、大陸一つを砕くレベルの軌道爆撃を必要とするかもしれない。

 

 

 

「さて、試練の時だ。

 ゲルマンという前座は消え、次なる敵が現れた。

 ───アッティラ率いるフン帝国。見事これを打倒し、皇帝を名乗るがいい」

 

 

「仰せのままに神祖よ」

 

 

深く頭を垂らすルキウスを前に、ガンヴィウスは立ち上がり、歩き出す。

背後に同じようについてくる彼を横目に神祖はバルコニーに足を運び、ローマの街並みを見下ろす。

いたるところに掲げられた灯はこの街を眠らせることはなく、街を歩く人々の総数は1000万にも及ぶ、現状惑星最大の都市である。

 

 

地には蒸気機関車。ローマ各地の距離を大幅に詰めた贈り物。

海洋にはもう間もなく蒸気機関を搭載した船が就航を予定された世界。

あと10年か20年もすれば帆船は消え去り、タービン仕掛けで動く鋼鉄の船が地中海を埋め尽くすことだろう。

 

 

同じように蒸気機関の配布が終了次第、軍にも手が入る予定だ。

火薬の配布、大砲の設計、原始的な「銃」の解禁など。

 

 

 

全てガンヴィウスが与えたものだ。

彼にとっては化石にも等しい玩具だったが、この世界にとっては遥か彼方の未来であったはずだった。

 

地に増え、都市を作り、そしてクィリヌスという絶対の神に庇護されし人々。

本来積み重ねるはずの道程を千年以上省略し作られた国は、それでも笑顔と活気にあふれていた。

 

 

 

「そういえば今まで聞いた事がなかったな」

 

 

背後に控えるルキウスにガンヴィウスは問う。

いつもとは違う調子の声にルキウスが頭を傾げた。

 

 

「お前は間もなく皇帝になる男だ。

 これからこの国を私と共に導くことになる者。

 お前はこのローマをどう思っている? どう導く? 正直に話すんだ」

 

 

一瞬だけルキウスの体が強張るが、彼はすぐに佇まいを正せば堂々と常日頃より思っていたことを口にした。

 

 

「……ありえざる繁栄を遂げていると思っております。

 地上に残りし神であらせられる貴方様のお導きの元

 最も効率よく進歩を遂げ、今やこの世を平らげるのも時間の問題でしょう」

 

 

彼の言葉は続き、ガンヴィウスは黙して促した。

 

 

「……そうです、あり得ざるなのです。

 貴方様の愛は、我々には大きすぎる。

 貴方様のお導きは、我々が“間違う”事さえお許しにならない」

 

 

 

ルキウスはガンヴィウスの隣を通り過ぎ、バルコニーより広がるローマ全てを睨みつけながら言った。

彼にとってこの光景は美しい故郷であると同時に忌々しい甘えの象徴でもあった。

ローマは、本当の意味で自分の力で戦ったことはない。

 

 

ガンヴィウスはローマの脅威の全てを軽々と排除してきた。

カルタゴの将がアルプス越えを目論めば、その山諸共空より落ちた光の柱で消し去り、剣闘士が反乱を起こせば、それらは半時も経たずに殲滅された。

相応しいと判断される人材がいなければ皇帝は生まれず、暗愚なものが統治につくこともなく政治的な駆け引きもこの国では一切おこらず、常に最高効率で政は回っている。

 

 

 

食料は無尽蔵に配布され、病はその前兆の段階で抹消され

気候さえも操作されている。

その結果、ローマの民は自分たちが無敵だと思ってさえいる節がある。

彼はそんな現状がイラついて仕方ない。

 

 

 

「地を結ぶ鋼鉄の道路。

 いかなる大波にも負けぬ蒸気の船!

 そして、それらを与えられて当然だと思う民たち!!」

 

 

ルキウスの声は際限なく大きくなっていく。

彼の声にはどうしようもない怒りが宿っていた。

 

 

「誰も彼もだ。

 今の繁栄に疑問を抱いていない! 

 もしも──神祖が天上にお帰りになられたら

 我らはどうなるのかさえ考えていない!」

 

 

 

ガンヴィウスとルキウス、いつの間にか二人の支配者は真っ向から見つめ合っていた。

 

  

 

「俺たちはこのままでは永遠に貴方の愛玩動物のままだ。

 だからどうか、俺が皇帝に至った時は───我々に一度でもいい。

 自分たちの意思で進ませて下さらないか」

 

 

 

「私は、お前が思うより多くを見てきた。

 時には何が在ろうと手を貸さず、文明の行く先を見ていたこともある。

 その結果、お前たちの発展には幾つかの壁があることを我々は知った」

 

 

ガンヴィウスは遠くを眺める。

彼の、彼らの中に思い浮かぶのは、数多くあった「惜しい」所までいった種族たち。

原始を超え、ルネサンスを通り過ぎ、蒸気を超えて、原子力を手に入れ、空に向かって手を伸ばそうとして失敗した者たちだった。

 

 

「もう少しだけ先に最も大きな壁がある。

 お前たちが太陽の力を手に入れた時

 必ずと言っていい程最初に作るのは破壊の力だ。

 ニュークリア・ウェッポン。

 想像してみろ、このローマを一撃で吹き飛ばす巨大な魔術式を。

 そんなものが数万と作られ、憎い相手に向けあう世界を」

 

 

ガンヴィウスは、いや「彼ら」は顔を顰めた。

もう少しで届くはずだった手がすり抜ける感覚は好きではない。

 

 

「たった一度の過ちで全てが消えてなくなるかもしれない。

 それは許容できない。だが、お前の語る懸念も判る」

 

 

 

無駄なことはこの世には存在しないと彼らは思っている。

享楽的で快楽的なものであれ、それが精神の、心の動きから生じたものである以上、何かしらの変化を世界に刻むのだと。

そして自分たちの啓蒙と教化によってこの世界の本来あるはずだった可能性を圧迫し、生まれるはずだった芽を摘んでいることも彼らは自覚していた。

 

 

「お前が皇帝になれたならば、改めて問答を交わすとしよう。

 今はアッティラとの戦いに備えるのだ、息子よ」

 

 

 

「感謝します、父上。……必ずや、俺は皇帝になります。

 そして、貴方からこのローマを巣立たせて見せましょう」

 

 

決意を新たにしたルキウスに返されたのは、大変結構、といういつも通りのガンヴィウスの口癖であった。

 

 

 

 

 

 

 

【死徒研究調査】

 

 

 

ローマの中心であるクィリヌスの御座の地下には広大な空間がある事を知っているものは多くはない。

巨大な高層建築物が基礎構造として地盤に釘を撃ち込むがごとく、その真下に垂直に穴が開いているのだ。

その最下層、岩盤を砕き到達した最高深度は1キロにも及ぶ深奥には一つの構造物が安置されていた。

 

 

10m程度の輝く多面体を主とし、周囲を青紫色のエネルギーオーラで覆われたソレの名前はシュラウド・コンデンサーと言った。

くるくるとコンデンサーの中央パーツが乱回転するたびにシュラウドより引っ張り出されたサイオニック・エネルギーは幾つかの過程を経てからこの星で最も適した形へと加工される。

不純物をろ過したそれの名前は「彼ら」がこの星を発見した際、この星の大気に満ちていた高濃度のサイオニック・エネルギー、即ちエーテルと呼ばれるものへと変化させられていた。

 

 

エーテルの齎す効能とサイオニック・エネルギーは非常によく似ている。

人々の強い意思の力、即ち念力によってその効果や強弱を変化させること、また必要とあらば物質としての姿を取ることもあるなど。

故にそういった点を加味しても「彼ら」とこの星の相性は非常によかった、正にこの星はあらゆる研究サンプルの宝庫といえよう。

 

 

 

コンデンサーは順調に稼働している。

本来はもっと大きく、一つ作るだけで星系一つに影響を及ぼすほどのエネルギーシステムは今は徹底的に小型化させられ、地球内に影響を留める程度に抑えられていた。

多面体が一回回るたびに、シュラウドより引き上げられたエネルギーは地中を通る地脈に流され、この星のエーテル濃度をローマを中心に少しずつ高めていく。

 

 

僅かにである。

一度にエーテルを多量に摂取させれば、現代の人間では体が順応しきれずにはじけ飛ぶということをガンヴィウスは知っている。

その結果、エーテルに順応しながら世代を重ねた今のローマ人は他国の者と比べて圧倒的に頑強であり、寿命も長い。

 

 

 

「ご機嫌よう。ようこそ、私の工房へ」

 

 

眼下で回り続けるシステムを見ながら、ガンヴィウスは背後に現れた人物へ極めて親切に語り掛ける。

この拠点は彼らの持つ人智を超えた技術で武装され整えられた要塞であるが、迎え入れられた客ならば警報の一つも鳴らさずに侵入できた。

 

 

神祖の背後に立っていたのはグランスルグ・ブラックモアである。

彼はカラスの顔の中にある瞳をあちらこちらに行きかわせながら、ガンヴィウスにも気づかず呟き続ける。

 

 

「エーテルを人工的に生成している? いや、この濃度、まさか真なる……」

 

 

元来の研究者としての血が騒ぐのか、彼はばさばさと翼を震わせながらぶつぶつと独り言をつぶやいていたが

ガンヴィウスの視線に気が付くと、直ぐに佇まいを正した。

 

 

 

「失礼した。いやなに、あまりに衝撃的だったのでね。

 なるほど、ローマを訪れてから妙に調子がいいと思ったら、こういうことか」

 

 

「君たちにとって重要な要素なのだろう? 

 確か幻想種といったか。

 そういったサイオニック生命体にとっては酸素のようなものらしいな」

 

 

 

まぁそうだと答えながら黒翼はもう一度だけコンデンサーを見てから、ガンヴィウスに視線を戻す。

今日ここに招待されたのは、もっと違う話があるからだ。

これも含めて後々主に報告せねばと思いながらも、彼は頭を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

グランスルグ・ブラックモアとガンヴィウスの共同調査は順調に進捗していた。

彼の鳥は正確に死徒の位置を割り出し、ガンヴィウスの演算と超能力は彼らの集団をいともたやすく捉えることができた。

既に殲滅した死徒およびグールの群れは3つにも及び、プロメシアン達は順調に死徒の駆除方法を学んでいた。

 

 

主にグールと化していたのは敗走したゲルマン軍の残党などである。

ローマに追いかけまわされ、地獄の様な行進を延々と続けていた彼らは最終的には立派な悪鬼におちたのだ。

 

 

研究の結果、彼らの弱点は日光だということが判明している。

正確には日光に対する人々の思念と結びついたサイオニック、つまるエーテルが弱点である。

 

人々の闇への恐怖、死への恐怖、夜への畏怖と結ばれたエーテルを原動力に死徒は動き、それらに対する安心を与えてくれる「太陽」という信仰は彼らの基盤を崩壊させるのだ。

 

 

なので純粋に太陽光だけを再現したライトを当てても何の意味もない。

そこに信仰という意思が加わることによってはじめて効果を発揮する。

まぁ、最終的にはプラズマで分子構造を砕いてしまえば何の問題もないのだが、それでは意味がないというものだ。

 

 

そして死徒、という存在に対して「彼ら」は一つの疑念を抱いていた。

余りに不出来すぎる。確かに生命力は素晴らしい、手足の一本程度ならば問題なく再生し、平然としてられる様は頑強といえよう。

 

 

だがあれらのスペックは、あくまでも人の範疇を出ないのだ。

仮に200年モノの死徒がいたとしよう、その存在の能力は人間が寿命問題を克服したとして、200年努力すれば追いつけるものなのだ。

あくまでも、どこまで行っても人という生物の枠を超えられない、拡張された人工生命体もどきというのがガンヴィウスたちの結論であった。

 

 

そして不老不死と称されるが、これにも疑問が残る。

死徒は自己完結できない。自らの中にリアクターを生成し、生存に必要なエネルギーを自給自足できない。

常に他者という燃料、即ち血液を媒介としたサイオニック・エネルギーの補充を必要とする。

 

この際、獲物が死徒に対して恐怖しているほど「旨み」が増すらしい。

 

 

長く生きて強大になった死徒ほどこの必要となるエネルギーは大きくなる。

実験台として捕獲してきた死徒を捕らえた閉鎖空間内の時間を特異点時間加速装置で加速させ、疑似的に100年モノ、200年モノと段階を経た死徒を作成し比較した結果、その差は如実に表れた。

もちろん、作成した死徒は全て処分済みである。

 

 

以上の実験結果を以て、彼らの死徒への判断は以下のとおりである。

 

 

出来損ない。

生物としてつまらない。

デミ・ネクロイドという呼称で十分。

少なくともグランスルグの様な研究の果てに至った改造死徒はともかく、グール経由で生まれた純正死徒は時間経過とともに生存に必要なエネルギーが雪だるま式に増えていくただの無駄飯ぐらいである。

 

 

もっとましな設計はなかったのだろうかと思う程にひどい生態だが、彼らは薄々感づいていた。

グランスルグの言う「主」という存在から察するに、もしかしたらこの死徒という種も何らかの奉仕種の一つなのではないかと。

まだ決定的な証拠はないが……すぐにそれは明らかになることだろう。

 

 

 

 

 

 

【威力偵察】

 

 

 

ガンヴィウスとグランスルグの死徒殲滅は今や佳境に入っていた。

既に死徒に対してあらかたのデータを取り終わったガンヴィウスは今まで取り繕っていた丁重さを投げ捨て、雑多な作業でもするように死徒の群れを次々と排除して回っていた。

もう間もなく息子が皇帝に即位し、ブリテンに対するアプローチ計画を実行に移さなければならない彼らにとって、この仕事はもはやあまり熱意をもって取り組めるものではなくなったのだ。

 

 

無数に空に放たれた黒翼のカラスたちにそれぞれ死徒の放つサイオニック・オーラを感知するセンサーを取り付け、反応が見つかった所にプロメシアンの小隊を送り込めば、あっという間に仕事は終わる。

死徒は表面上は体温が低いように思うが、常時体内で存在するだけでエネルギーを消費しているおり、皮膚の下の熱源を感知すれば発見は容易い。

だが、半ば全自動で死徒を自らの領土から駆除してまわっていたガンヴィウスは一つの報告を聞いて興味を示すことになる。

 

 

 

 

森の中に、いつの間にやら城が建っているという情報に玉座の老人は頭を傾げた。

かつてゲルマンとローマの戦いが行われ、ルキウスによる一方的な虐殺で終結したオスニングの森の中に、ポツンと風変りな城がある。

無数に空に伸びる尖塔はこの星における要塞としての城というよりは、王族が自らの権威を示す為に建造する芸術品としての側面に重点を置いているように見えた。

 

 

 

監視システムに異常がないことを彼らは確認する。

幻ではなく質量の在る、正真正銘の城だ。

そして奇妙な事にセンサー類は、この周辺に何かがあったとは報告してこない。

 

 

城が作られたというのに、土地が隆起した、周囲の岩盤が砕けた、または空間が拡張された等の異常が一切なかったというのだ。

だから見落とした。

何の異常もなく、最初からそうだったと、城はもとよりここにあったのだということになっているのだから。

 

 

そして、そこからは今までの死徒たちとは根本的に異なる、途方もない生命力をガンヴィウスは感じた。

ナニカが違う。

 

 

 

今は周囲には誰もいない。

ルキウスはフン族との戦いに出向き、グランスルグは全方位に飛ばした探索用のカラスの制御の為、特製の能力増強の陣の中にこもっている。

呼ばれているとガンヴィウス、そして「彼ら」は直感した。

 

 

玉座よりガンヴィウスは立ち上がる。

ならばよし、不出来な生き物を狩り続けるのも飽きてきたところだと彼らは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬時にゲートウェイを用いて城の真正面にやってきたガンヴィウスの目前で、城門が音もなく開いていく。

無数のかがり火が灯され、まるで来客をもてなす様に城の各所が輝きだす。

ひとりでに様々な楽器が鳴り響き、静謐で落ち着きのある音楽が周囲を満たした。

 

 

そんな中をガンヴィウスは白衣を揺らし、堂々と進んでいく。

道に迷う事はなかった、城の最深部から発せられる巨大なサイオニック・エネルギーを目指して進んでいくだけだ。

マントの下で両手を組み、通路のあちらこちらに飾ってある美術品を吟味しながらガンヴィウスは進んだ。

 

 

やがてはひと際巨大な扉の前にたどり着いた時も「彼ら」は慌てることもなく、いつも通り進む。

扉が滑り出し、勝手に開いていけば中に広がる部屋は、玉座の間であり、その座には誰かが座っている。

 

 

ぞっとするほどに美しい女だった。黄金色の髪、真っ白すぎる肌。

白いドレスを着こみ、真っ赤な瞳でその存在はガンヴィウスを見つめている。

一目で判る、死徒とはけた違いの生命体であった。

 

 

「ありえざるエーテルが溢れている。

 この世が新世界に戻らんとしているのは、貴様の仕業だな? 異物よ」

 

 

女が口を開けば紡がれるのは宇宙空間にも通ずる絶対零度の声音。

瞬時に誰が見ても判るほどの敵意を感じ取りながらもガンヴィウスは眉一つ動かさず答えた。

 

 

「その通り。シュラウドの大いなる御業がこの星を覆うのだ。

 君たちの様な幻想の存在にとってもこれは悪い話ではない」

 

 

 

喉を鳴らし翁が笑えば、女の敵意は益々強くなる。

深紅の瞳の中に危険な光が宿りだすが「彼ら」はそんなこと知ったことではない。

目の前の存在が何であれ、ガンヴィウスは当然のことを当然のように言う。

 

 

「エーテルといったか。あれは実に素晴らしい。

 人の可能性を押し広げ、強い意思を加えればどのような奇跡でも引き起こす。

 正に“魔法”の源だ。

 実にいい。私の目的とは少し外れるが、あれを再現できる技術を手に入れられたのは私にとっても嬉しい誤算だった」

 

 

ここにきてガンヴィウスは初めて笑った。

手に入れ、支配した技術の崇高さを高らかに宣言しながら。

それがどれだけ女の逆鱗を踏みにじることになるかをあえて知りつつ「彼ら」は躊躇などしない。

 

 

この後の展開など判り切っているゆえに、さっさと目の前の存在の検証に移りたいのだ。

 

 

「うむ、こうして直接確認して改めて判った。

 ────貴様は私の敵だ。排除されるべき異物よ……。

 来るべく大事の前に戯れといこう」

 

 

 

女が玉座を後にしとてつもない速度で力を上昇させていく中、ガンヴィウスは今しがた思い出した事を問う。

 

 

「所で君があのグランスルグ・ブラックモアの主かね? 

 だとすれば彼には悪いことをしてしまうな」

 

 

「否である。かの者と私は似て非なるモノ。

 どちらにせよ、貴様が知る必要はない、異物」

 

 

「残念だ。ならばこれから知るとしようか。その存在、死徒とどう違うのかを」

 

 

 

不可能だと女が続ければ、周囲の景色が瞬く間に切り替わる。

城内であったはずの世界は一瞬の内に見渡す限りの白い花畑と化していた。

遠くに見えるのは巨大な海洋に、それを覆う大きな雲、見れば所々に稲妻が発生し海へと落雷を落とし込んでいる。

 

 

そして空を覆うのは余りにも巨大な月。

座標を確認すれば、自分は今惑星上には存在せず、特殊な隔離空間の中にいるということがわかった。

隔離世界の大きさは、おおよそ地球と同じだ。

つまり、もう一つの地球の中に閉じ込められたということになる。

 

 

「…………書き換え、ではないな。もとよりそうであったという定義に近いか」

 

 

ガンヴィウスのセンサーはそれでも異常を検知しない。

データ上は何も変わったという反応が起きない、たとえ一目見ただけでも判るほどに世界がその有様を変えたというのに。

ならば答えは一つだと彼らは分析する。惑星表面への仕様の変更ではなく、仕様の根本的な再定義なのだと。

 

 

現実再定義、いや洒落た言い方をすれば空想具現化とでもいったところか。

そしてそんな事が出来る存在といえばおのずと答えは絞られてくる。

自分たちを「異物」と呼び、敵意にあふれ、そして莫大なサイオニック・エネルギーを持っている上に惑星に配布するエーテルを感知できる存在とは。

 

 

何、支配した星に拒絶されたのはこれが初めてではない。

その全てを悉く屈服させてきたのだ。

ガンヴィウスは優雅に右足を引き、左腕を腹部に当て、流れる様に頭を下げた。

 

 

 

「ごきげんよう、SOL3。

 私はウラキ・ガンヴィウス=クィリヌス。貴女の領有者だ。

 君から得られる知見は日々我々を楽しませてくれているよ」

 

 

 

女からの返答はなかった、代わりに翳した手から放たれたのは超高濃度のエーテルを圧縮して形成されるエーテル砲であった。

やがて配布する予定である核融合に匹敵凌駕する熱量の槍をガンヴィウスは指先でピンと弾き、その軌道を真上へと逸らせば、光槍は雲を引きちぎりながら彼方へと消え去る。

 

 

「無能。ここまで増長を極められるとはな。

 貴様らでは我が神秘を掴むことは叶わぬ。その傲慢、正してやろう」

 

 

どうぞ、とガンヴィウスは両手を翳してあえて何もしない。

それでいながらステラー級の演算機能のリソースの大部分をこちらに割き、女の一挙手一動作を観測し続けている。

エスコート艦隊に火が入り、複数のバトルクルーザー達が出航の時を待っていた。

 

 

女が手を翳せば無尽蔵のエーテルがかき集められ、幾つもの光弾が形作られる。

一つ一つが莫大な純粋な力の集合体であり、これに方向性を与えればそれは「神霊」と呼ばれる存在のひな型になるであろう程の塊だ。

そんなものを幾つも女はガンヴィウスに叩き込む。

 

 

 

─────対象エーテル弾、エネルギー出力把握完了。

     核出力150キロトンに相当。個数10。

 

 

 

街をいくつ砕こうと足りないほどの火力を一身に浴びせかけらようとガンヴィウスは観察をやめない。

彼の体をすっぽりと覆うように超能力と彼らの技術の合わせ技によって展開されたサイオニック・シールドはたかが核融合程度の破壊力では欠片も動じない。

最新鋭のバトルクルーザーにも匹敵するシールド出力を撃ち抜くには最低でも恒星クラスのエネルギーが必要なのだ。

 

 

全てのエーテル弾はシールドの表層を微かに泡ただせたが、全くと言っていい程何の効果も得られず霧散した。

 

 

 

「ふむ。硬いな。ではこうだ」

 

 

女が細腕を振るう。

しかしてその指先は女王のような彼女には似つかわしくない鋭利な爪が生えそろっていた。

斜め下から掬い上げるように、くるりと体を勢いのまま一回転させれば、途方もない空間への斬撃が完成する。

 

 

それらはシールドが存在していた空間を跨ぎ、直接ガンヴィウスへと痛撃を叩き込むことに成功。

結果として、衣服の一部は裂け、稼働より一度も傷を負ったことのない彼の胸にほんの微かな切り傷を与えることができた。

傷口より流れたのは血ではなく、紫色の粒子、霧のようなもの───超高濃度のシュラウド・エネルギーであった。

 

 

「やはり血も通ってはいないか。貴様は生物でさえないのだな」

 

 

「我々は既に自己定義は完成している。

 永久に知識欲を満たし自らを高める。

 それが私の本質である。血液の有無は重要ではない」

 

 

「幾つもの星を食らいつくしてまでも知を求めるか。貴様らの存在は獣と同義だ」

 

 

 

女の眼は地球および、その周辺の宙域全てを見渡すことができる。

故にステラー級を朧なれど観測した彼女にとってガンヴィウスという存在は決して許しえない絶対悪にも等しい。

数多くの星の亡骸をもてあそび、作り替え、己の道具へと貶める所行など断じて認められない。

 

 

傷口がふさがり、二度と傷など負わないように「彼ら」は瞬時に端末の性能にアップグレードを行う。

物質的な防御性能を向上。および力場、空間操作攻撃への対策を実行。

特異点リアクターより送り込まれたエネルギーは質量へと再変換されガンヴィウスという“殻”の耐久性を引き上げる。

 

 

精製された物質は中性子星レベルで超々高濃度に圧縮され彼の新しい鎧となる。

一立方センチメートル当たり、推定5億トンにまで圧縮された鎧である。

ガンヴィウスの2メートルぴったりの身長から推測される物理的防御質量は5億トン×200万倍となった。

 

 

いわば今の彼は2mの歩く中性子星である。

タキオンランスの改良型であるダークマターランスでもあればこの装甲も撃ち抜けるのだろうが、それを人類が手に入れるのはまだまだ先である。

 

 

地球上で起こりうるあらゆる現象がガンヴィウスに襲い掛かる。

光が、風が、空間が、波が、そして圧縮された夜という概念が。

ガンヴィウスは一度も防御もせず、避けることもなくその全てを受け止める。

 

 

全て無意味であった。

シールドが揺れるだけ。

奇跡的にシールドの内側にまで影響を及ぼせる効果のある概念攻撃もただ単純な存在の質量差によって一切の痛撃を与えることは叶わない。

 

 

ただ彼は黙ってみているだけである。

 

 

だが女は次々と札を切り続ける。

もとよりそんなことは判っているのだから。

 

 

「星よ。回れ。あらゆる繁栄。あらゆる挫折。

 あらゆる歩みを私は無と断じよう。人智及ばぬ天蓋を仰ぐがいい」

 

 

彼女にとってこの隔離世界は全てが己の一部。

故に魔術師でいうところの回路と同義である。

本来回路など必要としない彼女であるが、この一撃の威力を上げるために使えるものすべてを用意し叩き込む。

 

 

 

空を無数の黄金の魔術陣が埋め尽くす。

万を超え、億の単位で瞬時にそれらは増え続ける。

全てに莫大なエーテルが流し込まれ、術は発動した。

 

 

テクスチャが、縮小する。

あらゆる元素が解け、混ざり、全ては女の支配下へと至る。

空間が軋み、地球一つ分の面積がたった2m程度にまで押しつぶされた。

 

 

最終的には1センチ程度にまで縮もうとする圧力とソレを拒絶するシールドが衝突した。

 

 

つまり、人工的な超重力崩壊であった。

矮小翻訳されたビッグ・クランチともいえた。

縮小する空間の境界線がシールドの抵抗力場に触れ、膨大なエネルギー同士がぶつかり合う。

 

 

僅かに、だが徐々にであるがガンヴィウスの力場は押しつぶされていく。

 

 

「掌の上で、おわれ」

 

 

女が抱擁するように両手を交差する。

まるで恋人を包み込むように。

 

 

そして─────女の腹部に巨大な穴が開いた。

見ればガンヴィウスの背後の空間が微かに撓み、その内部より宇宙の流転を司るダークエネルギーで構成されたαクラス・エネルギーランスが撃ち込まれていた。

 

 

惑星が悲鳴を上げる。

もしもこれが下に向けて撃たれていたら、もしもここが本来の地球だったら、今の一撃で地軸は歪み南北の氷は解け、磁場は吹き飛んでいただろう。

つまるところ、星を殺しえる一撃であった。

 

 

「やはりな。こうなるのは必然であったか……しかしだ、これは始まりにすぎぬ」

 

 

自らの「肌」が焼け焦げていくのを感じながら女はつぶやいた。

女の眼前で音もなくガンヴィウスの掌が縮小する次元境界をつかみ取り、そのまま押し広げていく。

拮抗があったのは一瞬であり、彼の手は地球の全質量を押し返しながら、開いたゲートウェイの内部に存在する縮退炉に燃料として放り込む。

発生した莫大なエネルギーを掌に集めながら、それら全てをシュラウドに捧げ、門を拡張していく。

 

 

 

「攻撃を許可する。爆撃プランはマニュアル4を選択」

 

 

虚空に展開される百を超える空間と空間を繋ぐゲート。

その向こうには夥しい数のエスコート、バトルクルーザーが主砲の充填を完了させた状態で待機していた。

ガンヴィウスは女を見据えながら、言い聞かせるように宣言した。

 

 

 

「コード“惑星処刑”を実行せよ。使用兵装はαクラスだ」

 

 

許可が下りると同時に、無数の薄暗い青光りが星に突き刺さった。

宇宙に充満し、縮小と膨張を司る暗黒物質と暗黒エネルギー。

それらを完全に解明されて作り出された武器は手加減に手加減を重ねても星を文字通り丸焼きにするだけの破壊力がある。

 

 

大気と海は1秒も持たずに全て消し飛んだ。

地核は砕けるを通り越して分子レベルで崩壊させられ、奇妙な濁った翡翠色の液体になるまで徹底的に犯された。

星の地軸はもはやどの方向性が正しいのか判らないほどに何百回もぐるぐると回り続けた。

 

 

あらゆる命は最初の一撃が星を抉った時点で何が起きたかもわからず消し飛んでいた。

歴史、文化、思想、今までこの星が育んて来た全てはα・エネルギーランスの前に頭を垂らすしかなかった。

 

 

これはもしもの光景である。

ここは疑似的な再現された地球内である故に、本物の地球には多少の影響しかない。

だが、もしも本物にも同じことがされれば、こうなるのは間違いなかった。

 

 

仮初とはいえ、自らの肉体が為すすべなく砕かれ、焼かれ、潰されていくのをまざまざと感じながら女は恐ろしい形相でガンヴィウスを見つめている。

 

 

「貴様の存在を私は認めなどしない。貴様の───」

 

 

女が言葉を続けることは出来なかった。

ガンヴィウスがシュラウドより引きずりだしたエネルギーで作りだした事象崩壊攻撃が頭に命中し、頭部を失ったからだ。

力なく女が倒れこむと同時に仮想地球への処刑は大詰めを迎え、最後は特大のエネルギーランスが惑星のコアを粉々に打ち砕き、テクスチャもろとも蒸発させるに至った。

 

 

 

 

 

【戦利品・アクセス権】

 

 

 

かくして我々の死徒調査は思わぬ大収穫を手に入れる結果で終わった。

死徒への知見はともかく、今回最も素晴らしいと言える報酬は、襲ってきた女の亡骸である。

彼女の名前さえも我々は知る事はなかったが──そもそも名前があるのか不明だが───彼女の行使した力は非常に興味深いものがあった。

 

 

現実への再定義。

 

星の自然を好きに書き換え、それが当然の状態であると固定する能力……いや、この場合は権利というべきだろう。

つまるところ彼女はヴルタウムのシミュレーター内で行うようなデータの改変を現実空間で行うことができたのだ。

これは非常に面白い案件である。

 

 

我々がこの世界をあのように書き換える場合はシュラウドを通し、代価を払ってから効果を発揮させるという手順が必要になるが

彼女の場合はそれさえもなく、思うがままに力を行使していたが、恐らく我々の推察が正しければそれも当然と言えよう。

 

 

さて、ここに興味深いサンプルがある。

かの女性の残骸である。

既にこれは動かないが、恐らくは「接続」は残っているとみられる。

 

 

これを解析し残された「接続権」を我々がハックすればさらに興味深い情報が手に入ることだろう。

我々はそのためのスペシャル・プロジェクトを立ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【防衛協定】

 

 

 

 

唐突に主に呼び戻されたグランスルグ・ブラックモアは跪いていた。

彼の目前には玉座があり、そこにはガンヴィウスに葬られた女と似たような外見の生物が座っている。

金色の髪、虹色の瞳、整いすぎた姿かたちの、異形である。

 

 

神祖が訪れた城に似ているが、何かが決定的に違う城の主は眼下に跪く臣下に対して鷹揚に声をかけた。

 

 

「脱走者たちへの対処、大義であった。

 今を以てそなたの任は果たされたと私が断じよう」

 

 

 

跪くグランスルグは何も言わない。

まだ脱走の理由の調査などは殆ど手付かずというのに、なぜ主は終わったと断ずるのか疑問はあったが、それを口にするほど彼は愚かではない。

主の言葉は絶対だ。彼が終わりといえば終わりなのだ。

 

 

「ふむ。そなたの疑問は当然よな。

 まだ調査は終わっていないと思っているのだろう?」

 

 

何処かからかうように黒翼の内心を主は指摘する。

笑顔さえ浮かべた彼の姿は無垢な子供にも見えた。

 

 

 

「……はい。まだ私は貴方様のお言葉を果たしておりません」

 

 

「よい。実はな、あれは偽りの指示であった。

 ────真祖も死徒も暴走などはしておらん」

 

 

玉座より身を乗り出し主は語る。

黒翼は顔を上げ、主の美しい虹色の瞳を見た。

 

 

 

「今回の話は星から持ち掛けてきたものだ。

 私はそれに同意し、現状で作れる最高純度の真祖を提供したに過ぎない」

 

 

あれを使い捨てにするにはもったいなかったかと主は笑う。

もう少し手を加えれば、自分の後継者になれるかもしれない出来だったのにと。

 

 

「さて、話はこれでおわりだ。

 今は多くを語れないのだ、許せ我が忠実なる臣下よ。

 これはせめてもの詫びと思え」

 

 

 

自らの爪を肌に食い込ませ、血を数滴傍らに用意していたグラスに垂らし、グランスルグ・ブラックモアへと差し出す。

ここ数百年誰にも渡されることのなかった“原液”を前に黒翼は地面にめり込んでしまうのではないかと思う程に平伏し、歓喜に身を震わせながらグラスを受け取り退出する。

 

 

入れ替わりに二人の男が部屋へと入ってくる。

一人は白髪の品のある、しかしどこか他者を見下すような雰囲気を放つ男。

もう一人は黒髪の、厳めしい掘りの深い顔をした男だった。

 

 

 

「主よ。我らの王、朱い月のブリュンスタッドよ。客人を案内いたしました」

 

 

 

「おお! 待っていたぞ! そなたが噂に聞く“魔法使い”とやらか。

 さぁ、座れ。そなたとは一度じっくりと話してみたかったのだ」

 

 

喜色を隠さず主……朱い月はいつの間にやら玉座の前に椅子を作り出し、黒髪の男へと勧める。

だが男は腕を組んだまま、敵意と不機嫌を隠そうともせず朱い月を睨み続けるだけ。

 

 

「このままでいい。

 俺がこんな真祖と死徒がうじゃうじゃいる城で気を抜く間抜けに思えるのか」

 

 

白髪の男の顔に怒りが浮かぶが、主の手前それを表に発散することはなかった。

仮にもしもそんなことをしたら、彼の命はここで終わっていたのだから、これは賢明な選択であった。

 

 

「ははっ、それも道理だな。よいよい。ならば私もそうやって話そう。

 なに、私とそなたは対等であるのだから、当然である」

 

 

それもよし、と朱い月は立ち上がる。

何の警戒心もなく魔法使いへと近づけばしげしげと彼の様子を観察する。

魔法使いが怒りも露わに言った。

 

 

「俺は見世物じゃない。早く要件を話せ」

 

 

せっかちな奴め、と朱い月は苦笑いを浮かべながら前置きもすべてを省略することにした。

このままからかい続けていたら、本当に魔法使いは帰ってしまいそうで、それでは困るのだから。

 

 

 

 

「この星を凶悪なる侵略者から守る為、私と共に戦わないか? 魔法使いよ」

 

 

 

 

なに? と魔法使いの顔に懸念と驚きが浮かぶのを見て、朱い月は無邪気な子供の様に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

現状状況推移。

 

 

■■に宿敵宣言をされました。

関係値はマイナス1500オーバーです。

 

 

朱い月と魔法使いと■■が防衛協定を結ぼうとしています。

■■は救援信号を用意しました。

 

 

 




この世界の地球はエーテルマシマシの時代逆行&技術啓蒙による科学進歩の綱引き状態になっております。
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