fate/stellaris 【完結】 作:宇宙きのこ
短い話ですが、書いてて楽しかった。
【不正アクセス】
美しい光景が遥か彼方に見える。
穏やかな海、さわやかな風、そしてどこまでも続く平穏で華に満ちた世界。
夜空には星が広がり、それらは光の河を作り上げていた。
シュラウドの様な混沌とした秩序のない、全てがあやふやな高次元とは違う。
とても近くて、そして遠い痛みのない世界だ。
この美しい景色はかつて我々がまだ光を超える術を持たなかったとき、いつか届いて見せると決意を抱きながら眺めた景色に似ている。
寂しく、空しく、そして果てのない世界への希望を思い出してしまいそうだ。
だが我らはあれらを手に入れた。
ここではない宇宙であったが、夥しい数ほど存在する銀河、宇宙の全てを理解した。
シュラウドという全てにつながり、結び合わせる領域を支配するという事は一つの宇宙をデータとして支配するということに等しいのだ。
足を止め、我々は端末を通して無数の星夜を眺める。
感じるのは故郷への哀愁か、はたまたただの追憶か。
多くの滅んだ文明を見た。多くの隆盛を誇る文明を見た。
同盟相手がいて、敵がいて、銀河を滅ぼそうとする危機を何度も味わった。
謎を一つずつ解き明かし、そのたびに力をつけ、次の謎に取り組む。
そんな事を星の数ほど繰り返した。
そして足りなかった。
故にこのような、次元の違う世界にまで足を運び我らは学んでいる。
胸を満たすのはかつて「剣」を見た時以来久しく感じる高揚である。
ここはどこだろうか、ここは何なのだろうか、全てが未知ゆえに愛おしい。
あの「女」の亡骸を解析し、概念的に残っていた繋がりを利用して我々はこの未踏の地へと侵入していた。
何歩か進み、一度屈みこんで大地に手をつける。
湿り気のある豊かな土壌を手に取り弄ぶ。
あぁ、ただの地面をこうして触るのはいつ以来か。
この未知の地を解明するに当たってセンサー類は必要ないと我々は直感した。
多種多様な技術を使う必要はなく、この場で最も適切なのは己の本能のみであると。
故に我々は暫し座り込み、瞑想を行うことにした。
深く鋭く意識が研ぎ澄まされ、精神の刃はこの世界を理解すべく全てを受け入れた。
【邂逅】
どれほどの時間が経ったのだろうか。
ガンヴィウスは草花の上に座り、ただ己の内側に意識を向けていた。
この星を見つけてから経過した時間をかみしめ、今まで蓄えていた知見を整理し、そして未知を解析し続ける。
しかし、唐突に「彼ら」は口を開く。
「丁度いいところに来てくれた。止め時を見失ってしまっていてね。このままでは何年もこのままだった」
ガンヴィウスは立ち上がると、白い衣を揺らしながら背後に声をかける。
「彼ら」の感覚はいつの間にか背後に現れていた人物を捉えていた。
背後に立っていたのは白髪の優男だった。
ガンヴィウスと同じような白い衣服に身を包み、立派な杖を手にしている彼は感情のない薄っぺらな笑みを浮かべながら答えた。
「こんばんわ。静かすぎるけど、いい夜だね。
いやいや、君ならばここに太陽でも作れるか」
「今はその必要は感じないな。
たまには改造されていないありのままの世界を歩くのもいいものだ。
……さて、君は“ナニ”かな?」
強い“力”のこもった質問であった。
意思の弱い人間ならばともかく、自らの確固たる意志を確立したものであろうと心を操作されてしまいそうな程の術であった。
だが優男には通じない。彼はにこやかに笑うだけだ。
ガンヴィウスも通用すれば儲けモノとしか思ってはいなかったので、何の問題はない。
そもそも、この男の顔と名前は知っている。
判らないのは、どういう存在なのかだけだ。
「まぁまぁ、焦らない焦らない。
君……いや、君たちにとっては本当に久しぶりの未知なのだろう?
もっと楽しまなくちゃ」
「大変結構。初心を思い出すとしよう……。
さて、実地で研究をするなど何年ぶりか」
優男の言い直しに気づきながらも「彼ら」は何も思わない。
知っているのならばそれはそれでよしと。
邪魔さえしなければいちいち目くじらを立てることはない。
ガンヴィウスが思うのは、こんな素晴らしい世界を一人で堪能していたというのに口うるさい男がついてくるなど台無しだという愚痴だけである。
当てどなく歩き出すガンヴィウスの背後を優男がついて回る。
彼は変わらず笑顔を浮かべながら、長い付き合いのある友のように彼に語り掛け続けていく。
鬱陶しさを感じないギリギリの距離と表面上は温かみのある声を巧みに彼は使いこなす。
「君はどこから来たんだい? 何をしに此処に?」
「光の速さでも永遠と錯覚してしまう程に遠い故郷から、未知を求めてやってきた」
「そうかい。とっても遠いところから来たんだね。
私の眼でも見渡せないほどの遠い場所から、わざわざ」
ガンヴィウスは一瞬だけ優男に意識を向ける。
ほんの僅かだけ、センサーに反応があった。
これは……精神干渉系のサイオニック・ウェーブに似ている。
この星に訪れる前に交戦したコレクター達の艦隊が用いた精神干渉攻撃に何処か似ている。
一度受ければ、直ぐに解析と解除が始まり、二度目はなくなる。
彼は全く男に注意を向けず、雑談でもするように一つだけ忠告した。
「無粋なことはするな。
言葉を交わしたいのならば私達も付き合あおう。
それ以外の事を企むというなら、相応の覚悟を決めてからにしておきたまえ……それに、この場で1度目を使ってしまってもいいのかね?」
「ごめんごめん。悪気はなかったんだ。
ただちょーっと、いつもの癖で、会話が盛り上がる感じにしようかなって思っただけさ」
そうか、とだけガンヴィウスは返す。
彼は男を見もせず、最初からそう決めていたかの様に何処かを目指し続けている。
河を超え、小高い丘を登り、そのまま進んでいく。
男はそんな彼の歩みに苦も無くついてくるばかりか、ペラペラと話をつづけた。
「いやぁそれにしてもだ!
君は強いねぇ……まさかあんな呆気なく彼女がやられてしまうとは、私もびっくりさ。
危うく目が焼けちゃう所だった!」
「知っている。千里眼といったか。
お前たちの瞳は一種のセンサーとなっていて、多くの知見を得ることが出来るらしいな。
あの城での出来事はどうやらお前たちにとって注目のあるニュースになっていたか」
丘を登りきり、この幻想的な世界を一望できる位置にたどり着いたガンヴィウスは初めて男を見る。
「さて改めて聞こうか。私に何か用かな?
見ての通り今は忙しいのだが。話は手短にしたまえ。ブリテンの魔術師マーリン」
男……マーリンは一目で見る限りは魅力的な、精神の動きを感知できるガンヴィウスから見れば何も籠っていないただ出力されただけの満面の笑みを浮かべた。
「これはこれは、ローマの名高き偉大なる神祖クィリヌス様に覚えてもらえるとは、私も誉高いね。
さて、話というのはだね……。
君、ブリテンに色々やってるでしょ? 裏でこう、ちょこちょこっと。
おかげで毎年豊作で困っちゃうよ。
で、何が欲しいのかなーって思ったんだ。
もしかしたら、交渉の余地もあるんじゃないかって」
「ここで話す話題とは思えないが……隠す必要もない話か。率直に言おう。
我々はお前たちの王と、王の持つ“剣”に興味がある」
「それはブリテンが欲しいという意味かい?」
ガンヴィウスは頭を傾げてから何を当然のことを言うんだと思ったが、あえて言葉にしてやった。
嘘やごまかし、胡散臭い言葉遊びで煙に巻く必要などなく、彼は堂々と宣言した。
「そうだ。しかしただ手に入れるだけではない。我々は完全に解明したいのだ」
「正直だね~。いや、君の場合はこっちがどう反応しようが問題ないという自信の表れかな」
ガンヴィウスはマーリンのどこか小ばかにしたような口調にいちいち取り合いはしなかった。
彼は黙々と彼にしか判らない「ポイント」を探しているようで、やがてははた目から見た所では何の変哲もない草花の前で立ち止まった。
老人はその場で座り込み、座禅を組むと静かに瞑目する。
長い年月を経て、様々な王を作り上げてきたマーリンから見ても、ガンヴィウスの精神統一の技量は次元違いなものであった。
一瞬、マーリンは彼が座り込み意識を収束させた瞬間にこの場から消えてしまったと錯覚してしまった程に彼の世界との合一化の技量は凄まじい。
彼の周囲の景色が僅かに水彩画のごとく滲んでいく。
彼を中心に景色が切り取られ、薄い紫色の粒子が世界を浸食し始めたのだ。
世界を覆うヴェールを取り払う為に「彼ら」は精神を研ぎ澄まし、シュラウドへのリンクを開始する。
マーリンは先ほどまでよく回っていた舌を動かさず、ただ彼を眺めるだけ。
一挙手一動作を見逃さず記憶する。
何であろうと、彼の情報は回収したいとこの男は思っていた。
この美しい世界から切り取られたのはほんの子供一人分程度の領域である。
ほんの僅か、しかし確実にそこある法則の違う世界。
その中ではあらゆる要素がごちゃ混ぜになっている。
物質はない。
概念もまだない。
全てが混沌としたまるで誕生直前の宇宙のようだった。
「……まだ未練があるのだろう?
私の前に来るがいい。この手を掴め。これが最後の機会だぞ」
この場にはいない誰かにガンヴィウスは語りかけた。
少なくともマーリンには、この場に自分たち以外の誰かがいるとは感じ取れない。
────その筈だった。
「そんな、ありえない」
ほんの微か。
塵にも等しいが、確かに感じ取れたその気配にマーリンは思わず呟いていた。
感情を持たないはずの彼であったが、危機を感じ取る能力はある。
そんな本能が警告を鳴らしていた、ありえない、しかしあるのだと。
『おぉぉぉぉあぁぁ……われ、しは』
それは小さな白い蛇であった。
見すぼらしい、皺だらけの、今にも死んでしまいそうな蛇である。
それが急速に形を得て大きくなっていく。
欠落してしまった部分はガンヴィウスが補い、そしてそれでも足りない部分は執念で補う。
死に瀕した生命体は途方もない力を発揮するが、この存在は一度死んでもなお、残骸として世界にこびりついており伸ばされた手に必死にしがみついていた。
透き通り、今にも消えてしまいそうではあるが、それでも何とか世界にガンヴィウスの前に形を整えて現出することができた蛇はしゃがれた声で喋った。
そしてマーリンはこの声に聞き覚えがあった。
『ここは……内海か。我は裏側になど足を運んだ覚えはないが……貴様……いや、何だ貴様は……』
蛇の眼が開閉し、ガンヴィウスという存在を測りかねるように煌めき続ける。
残骸に堕ちたとはいえ未だ蛇は魔眼を持っているはずだが、老人は意にも介さなかった。
「こんにちは。ブリテンの貴き王ヴォーティガーン。
私はガンヴィウスという。君を起こしたのは私だ」
『知っているぞ。海を隔てた先、ガリアの向こう側にある国の神だな……待て、貴様が神だと?』
蛇の声に驚愕が混じる。
彼は信じられないモノを見るような目でガンヴィウスを見つめ続ける。
『神代が終わってなお君臨している正真正銘の神だと!?
馬鹿な、そんなことはあり得ない!!』
「現実を受け入れたまえ。君の目の前にいる私がクィリヌスだ。
まぁ、そういった点も後々明かすとしようか」
さて、と老人が頷けば彼は蛇の頭に恐れることなく手をやり、そのなだらかで冷たい鱗を撫でた。
ガンヴィウスの瞳の中に広がる永遠の暗黒空間のようなものは竜種として猛威を振るったヴォーディガーンさえも凍えさせる何かがある。
「瞑想して気が付いたのだよ。
そういえば、我々は現地のアドバイザーを雇っていなかったとね。
これから先は非常に慎重な判断と大胆な行動の緻密なバランスが求められる展開だ。
君にはぜひ、私の外部協力者としてアドバイスをしてもらいたいのだ」
『断る。既に我は敗北した身である。
いずれ必ず滅ぶであろう国の化身が今更何を出来るという。
神秘の時代は終わる。もう我の居場所はどこにもないのだ』
ふむふむとガンヴィウスは頷きながらヴォーティガーンの言葉を聞いていた。
あらんかぎりの絶望と諦観を吐き散らす蛇を彼は慈しみさえ感じる瞳で見つめた上で、丁寧に強く暖かい言葉を投げかける。
「知っているとも。
君とアーサー王の戦いも見ていた。
君の末期の言葉も聞いていた。
その上でこう答えよう。“知った事ではない”と」
『…………』
老竜は何も言わない。
諦めに満ちた彼はあらゆる言葉に興味さえもたないようだった。
もちろんガンヴィウスはそんな彼の状況をよく理解していた。
彼が何を求め、何を愛し、何を得ようとしたかも手に取る様に把握できる。
だからガンヴィウスにとってこれは交渉ではなかった。
いわばカウンセリングである。
夢をあきらめ、現実の前に折れた老人に対してもう一度だけ奮起してほしいと説得するようなものだった。
「君の願いは古きエーテルにあふれたブリテンの存続。
だが現実はエーテルの減衰と共に君に代表される幻想存在は姿を保てなくなり、どうあがいても自分たちの時代は終わると君は諦めた」
ガンヴィウスの瞳が残酷なまでに輝きだす。
彼を中心としたシュラウドの世界が広がる。
その先を言わせてはならないとマーリンは直感し動こうとしたが身体が動かない、手足はおろか口さえも。
黙ってみていたまえと脳内に声が響いた。
「私はエーテルを作り出すことが出来る。
この星に再びエーテルを満たし、君の望む過去への回帰を果たすことなど容易い。
人類が邪魔だというならば彼らの全てを時間はかかるだろうが、外宇宙に巣立たせることだって可能だ」
嘘だ、そんなことはありえないとお決まりの言葉をヴォーティガーンが吐く前にガンヴィウスは直接彼の意識の中に情報を送り込む。
ローマ中枢の御座の地下にある施設、精製されるエーテルと地脈へと流される莫大なマナの奔流。
そしてそれでも星に逆らうことに僅かでも躊躇いを覚えさせない為にかつての女を処理したときの映像も添えて流し込む。
『…………』
「重要な決断になることは判っている。私は少し席を外す。じっくり考慮してほしい。
だが君は完全に消滅せず、この場に残影となってでも残り続けていた。
─────実はまだ、心の何処かで諦めきれていなかったのではないのかね?」
白蛇の横を通り過ぎたガンヴィウスはそのままマーリンへと向かって歩く。
先ほどまでの彼への無関心が嘘のように親しみのある笑顔を浮かべていた。
だが逆に先ほどとはうってかわり、マーリンは笑顔を消し何の表情もない顔でガンヴィウスを見つめ……否。睨んでいた。
「やってくれたね。彼はブリテンの化身でもあった竜だ。
彼の知識を君が手に入れたら、あの島はもう成す術はない」
「大変結構。……さて、前から気になっていたことがあるのだが。
君たちはやけに私の干渉を拒絶するが、何が気に入らないのだ」
沈黙するマーリンにガンヴィウスは続けた。
「外から来たものが好き勝手するのが気に入らない。道理だな。
だが結局のところ君たちは星の3割しか存在しないちっぽけな土くれの上で陣取り遊びをしているに過ぎない。
このままでは後2000年経っても同じことの繰り返しだ。
故に私がその過程を省略してやる」
文明レベル6から5へと上昇するのが大きな壁の一つである。
即ち産業の時代から原子力を手に入れるまでだ。
そして5から4に至る壁、以前ルキウスに語った最も大きな障害。
核という星を焼き尽くす力を使いこなし、惑星に存在する全ての組織が一つに統合すること。
これこそ初期宇宙開拓時代である文明レベル4に至る方法なのだ。
大抵の種はこの難題をクリアーできず互いに憎しみあい、滅ぼしあい、星を焼き尽くしてしまう。
また安定した文明があったとしても、対処できない外宇宙からの災害に対応できず滅ぶこともありえる。
この星がそうなるのは惜しいとガンヴィウスは本気で考えていた。
故に手助けしてやろう。
対価としてこの地にある秘密、神秘、謎は根こそぎ頂いていくが、その代わりとして星の世界を与える。
そこに何の問題がある?
どちらにも利のある最高の取引ではないかと彼らは思っていた。
奪うだけ奪ったら星を砕くなり、超高濃度の中性子を照射する勢力も存在することを考えれば、これは破格といえた。
彼は今まで思っていた心からの疑問をこの人間もどきに解いてみた。
「付け加えるならばこのように君臨した外来者は私が初めてではないだろう。
オリュンポスの神などとほざいた低俗な人形共に、南の森林地帯に君臨した者ら、全てルーツを辿れば飛来者だ。
あれらに比べれば私は責任感があると自負しているよ」
「君たちは確かに私達の文明より遥か先に進んでいて、これから先この星に起きるあらゆる問題に対処できるだろうさ。
争いも痛みも、多くの犠牲者もない完全な、完全すぎる世界を作ることだって出来るんだろうね」
マーリンは杖を手の中で弄りまわしながらガンヴィウスを相手に一歩も退かずに答えた。
「個人的な話さ。君の統治は僕にとっちゃつまらないんだ。
君のやり方は世界と可能性を縮めてしまう。
確かに僕はハッピーエンドが好きさ。
でもそれは自分たちの力で勝ち取る展開が好きなのであって、デウス・マキナはお呼びじゃない」
「なるほど。そういう考えもあるか。
そういえば最近息子にも似たような事を言われたな」
明確な拒絶を叩きつけられてなお「彼ら」は頷く。
精神の動きによる理屈ではない感情の発露。
楽な道ではなくあえて苦難を選ぶ選択肢という不合理な判断はガンヴィウス達にとっても好意に値する。
しかしガンヴィウスは遠くでヴォーティガーンの精神の揺らぎが止まった事、即ち決意を抱いた事を察してマーリンとの会話を打ち切ることを決定した。
「まぁいい。どうせまた近いうちに顔を合わせることになる。
君が何をしようと私の目的は変わらない。
安心したまえ。もう少しでブリテンは我々の最重要研究地区となり、未来永劫存続できる」
ガンヴィウスの言葉にマーリンはいつも通りの笑みを張り付け、務めて軽い口調で明確な拒絶を紡いだ。
「さて、それはどうだろうね~。
君の自信も判るけど、この星は君が思っているより強かだよ? そう上手くいくかな?」
返答はない。ただ老人は手で煙を払いのけるような仕草をする。
ただそれだけの行動でマーリンの姿は風に吹かれた砂山の様に消え去った。
元より今までの彼は幻だったのだ。ソレが吹き払われただけである。
ガンヴィウスはもはや消え去った人外のことなど考えもしなかった。
彼はヴォーティガーンの前に進むと、彼に目線を向け、返答を待つ。
蛇は口を開き、重い老人の声でこの飛来者に告げた。
『断る』
【拒絶と賭け】
『断る』と白蛇は明確な拒絶を示した。
しかし「彼ら」は動ずることはなく理由を問うた。
たった一言だけではあるが、様々な雑多な感情が入り混じって吐き出された拒絶なのは明確であったからだ。
『我は敗北を受け入れている。
あらゆる手を尽くして我が血族と争い、我が弟の子の手によって討たれた事を既に認めているのだ。
気に入らないのは、我がこのような影となり、生き恥を晒してまで恨んでいるのはもっと違う存在だ』
白蛇の眼が血走る。周囲の全てを嫌悪し、憎悪する瞳であった。
もしも竜の姿を維持していたら、彼はこの美しい幻想的な光景を破壊しつくそうと暴れだしていたかもしれない。
『この星が憎い! 何が人理だ! 何が文明の時代だ!!
貴様の勝手な都合で世界を運営しおって! ふざけるな! なぜ我々が表から去らねばならない! なぜ彼女が────!!!』
あらゆる怨嗟と侮辱を蛇は撒き散らす。
今まで抑え込み、仕方ないものだ、これが運命であると諦観していた筈の願いが噴き出る。
虚空に向かい侮蔑という侮蔑の単語を吐き終えた後、白蛇はガンヴィウスを見た。
『我は今のブリテンに対して何かをしようとは思わん。我が血族の邪魔をする気もない。
だが貴様がこの星の意思と対決し、屈服させようとしているのならば話はまた別だ』
語りながらもサラサラとヴォーティガーンの体が崩れ、全く別の存在へと変わっていく。
白蛇は笑う。これは賭けであり嫌がらせであり、八つ当たりでもあった。
今まで常に陰鬱な雰囲気を放ち、影に覆われた死体とも揶揄された彼は初めて人前で笑っていた。
『助言役にはならない。
しかし我の持つ全ての知識を貴様に与えよう。精々有効に使いこの星を苦しめてやれ。
我が生涯を無茶苦茶にし、我が血族にあらゆる責め苦を与えんとしている奴の計画をズタズタにしろ。それが我の唯一の望みだ』
それだけを言い残しヴォーティガーンの体は完全に崩れ落ちた。
彼が今までいた場所に落ちていたのは小さな掌に収まるほどの水晶体である。
ガンヴィウスはそれを手に取り、暫し眺めた後で懐にしまった。
では、とガンヴィウスは美しい景色をもう一だけ見つめてから踵を返した。
もうここに用はない。
次に来るときは、もっと大きな道を見つけあらゆる準備を整えてからになるだろう。
【レリック】
幻想的な世界より戻ってきた我々の手の中にはヴォーティガーンの残した結晶体があり、あの世界での出来事は幻ではなかったと証明している。
我々は竜の嘆きを聞いた。そして託された結晶には恐らく彼の知識と記憶の全てが入力されているだろう。
これを完全に解析できればどれほどの知見を得られるかは想像を絶するものがある。
元よりこの星に存在する神秘──魔術はとてつもなく隠匿性が高く、今まで研究は中々思い通りに進むことが出来なかったということもあり
この結晶体から引き出せるであろう情報への期待は高まるばかりだ。
魔術と魔法の違い、神秘、概念、これらの研究に対する飛躍は今から楽しみである。
更にと、我々は目の前に安置されている亡骸を見た。
頭部を失い、腹部に大穴の開いた無惨な死体だが未だ腐敗する前兆さえ見せないこれはあの女である。
コレも思えばとても素晴らしい研究材料である。
彼女が行使していた力や接続権に対する研究もこれからの事を考えれば必要となってくるだろう。
我々は恐らくだが、これからはこのSOL3と本格的に衝突するであろうことを考えれば敵情への理解はいくらあっても十分とは言えないのだから。
状況推移。
【遺産 竜のメモリークリスタル】を手に入れました。
スペシャル・プロジェクト「ヴォーティガーンの追憶」が研究されました。
ブリテンの魔術師マーリンとの関係が悪化しました。
もはや対話による和解は不可能です。
ちょろっとだけステラリスのゲームシステムを解説。
ステラリスでは銀河を探索するにあたって未だ自分たちの星系一つ満足に
調査征服できない未発達の文明に出会えますが、そういった文明を啓蒙し技術を与えることや、逆に全く手を出さずどうなるのかただ観察するかを選べます。
はたまた有用な惑星でしたら侵略して逆地球防衛軍することや工作活動して自分たちの支配下に合法的におくことだって可能です。
全ては貴方の思うがままにどうぞ。