fate/stellaris 【完結】 作:宇宙きのこ
【経過観察報告3】
ヴォーティガーンの記憶は我々に革新的な情報をもたらした。
やはりこの星のサイオニック・生命体の生態やそれらの齎す神秘や法則、魔術といった概念は我々の想定とは大きく違うことが確定した。
この星に充填するエーテルは全ての神秘の燃料であり、それらを魔術回路を以て汲み取り、消費して我々でいう所の超能力を行使するのが基本だと思っていたが、これらの想定にも修正が必要だ。
以下に今まで判明した内容をまとめる。
サイオニック生命体。
神や幻想種と呼ばれる存在は人の精神活動によって生成されるサイオニック・エネルギー(信仰)とエーテルの化合によって作り出される事象などの擬人化存在である。
この信仰は対象が何であれ一定の値を超えれば神として成立する。
山や湖などの聖地とされる地、偉業を成した人、オリュンポスの人形に代表される外宇宙の飛来者でもそれは効果を発揮する。
今の所はクィリヌスとして活動し、多くのローマの民から信仰を得ている我々であるがその予兆はない。
確かに人々の編み出すサイオニック・エネルギーの収束を感じはするが、我々はやはりこの星にとっての特大の異物ということなのかそういった昇華を感じることはなかった。
ごくまれに自然にエーテルが寄り集まり、生命誕生の様に高次生命体が生み出されることもあることを追記しておく。
魔力と魔術回路。
我々は当初エーテルと魔力を混同していたようだった。
エーテルを魔術回路を以て汲み取り体内で魔力へと加工して魔術を行使するのが正しいプロセスだというのは誤解である。
結論から言って、魔力とエーテルは似ているが別の存在である。
エーテルとは星の生体活動によって作り出される惑星の持つサイオニック・エネルギーである。
星の持つ生命力と言っていい。
これは我々の行使するΣクラスシリーズのエネルギーに規模こそ違えど類似している。
故にシュラウド・コンデンサーを用いての複製も容易だったのだろう
つまり、このSOL3においては惑星こそが全ての存在の頂点であり、エーテルと信仰の化合によって生まれた神々でさえ星には逆らえないという事だ。
余談ではあるがもしも我々がエーテルの循環を行わなかった場合はこの星のエーテル濃度は約1620年程度で0になるという予想結果が出ている。
そうだ。仮にエーテルが星の生命力の欠片というのならば、億の年月を歩んできたであろうこの星の寿命はもう間もなくという事になる。
となれば「彼女」の怒りも最もである。
自分の臨終計画を台無しにされた上に、これからの計画を我々は丸ごと破壊していたということなのだから。
もちろんそんなことを知った所で我々の計画に変更はない。死ぬというのならば全て搾り取るつもりである。
魔力
魔力はマナとオドの二種に分かれ────。
【魔術学徒会】
“恒星下の暗闇”という言葉が「彼ら」の出身宇宙にはある。
これは活発的な恒星の近くではかえって光が強すぎてそこにあるモノを見落としてしまうという意味だ。
恒星の近くに設置されるのが一般的な星系支配ステーションのセンサーはかえって近すぎるモノを見落とすという欠陥が昔はあったのだ。
もちろん今の最新型のステーションにそんな欠陥はない。
だが「彼ら」は少々自分たちが「剣」に夢中になりすぎてしまい、その他の多くを見落としていた事に気が付き気を引き締めていた。
ガリアより北に進み、ブリテンに上陸してすぐの地点に三方を川に囲まれた小さな街、ロンディニウムという場所がある。
ヴォーティガーンの記憶はここに決して見逃すことのできないアノマリーがあることを示していた。
幸いな事にこの地はガンヴィウスの支配領土である。
ブリテンに上陸したローマの民たちが勝手に築いていた街でありガンヴィウスは後天的にここを利用しているに過ぎない。
この地を直接的な管轄に置くためにガンヴィウスは現地住民たちを退去させている。
何回か人工地震を引き起こしてやり危機感を煽った後に避難命令を出し、新天地としての居住可能な都市を用意してやれば、彼らは何の疑いもなくロンディニウムを明け渡した。
そしてこの地においてかつて一体の巨大な生物が身をよじりながら大地の底に潜り込んでいったのをガンヴィウスは知っていた。
だが「彼ら」の基準においてたかが巨大生物が地核の中を動き回っているなど珍しいことでもないので記録だけしか取っておらず精密な検査は行ってはいなかったのだ。
当時はまだ神秘やこの星への理解があまり進んでいなかったというのもあった。
地核を食い荒らしながら突き進む惑星地層改造生物ワームと星の内海を目指そうとした竜の違いなど彼らには判らない。
しかして、今このロンディニウムは一転してガンヴィウス達にとって最重要ともいえる研究地区へと生まれ変わろうとしていた。
件の巨大生物───竜の掘った穴はどうやら物理的にだけではなく概念的な意味でこの星への内部へと繋がるかもしれないと判明したのだ。
以前ガンヴィウスが女の亡骸を利用して通った様な抜け道ではなく正式な道である。
現状ブリテンを急速に統治下に収めんとするアーサー王にもこの拠点の重要性は知られてはいない。
精々ローマの民が作った小規模な街としか思われていないだろう。
故にルキウスがフン帝国の統治を終え、新しい装備を配布した軍が用意を終えるまでガンヴィウスはこちらに取り掛かる事にしたのだ。
都市の周りを覆う薄い光の膜───隔離及び隠ぺい用のシールドを───1隻の船が突き抜ける。
光速程度しか出せないとても鈍重な部類に入るソレは旧式の輸送船であった。
完全な球体であり、直系50メートル程度しかない船は「彼ら」からしてみれば超小型であるが、現地民からすれば神の乗り物と崇められるに相応しい異質さである。
船は一度ロンディニウムのへき地に着陸し、搭乗員を降ろしたと思えばすぐに飛び上がり一瞬で姿を消してしまう。
秒の間に地球を7週半するか、はたまた月まで飛翔可能な能力を持った船は指定された座標に向けて飛翔、着陸、離陸を繰り返してはロンディニウムへと戻ってくる。
都合数回そのような事を行った後にはロンディニウムには惑星の様々な地点から連れてこられた異質な集団が現れていた。
法則性のない者らである。
衣服の種類も、感じられる文化系統も、肌や髪の色、使用言語さえも統一されていない一派だ。
そんな彼らにガンヴィウスは歩み寄る。
彼の隣にはいつぞや協力したグランスルグ・ブラックモアがいた。
「かなり集まったな。十人も来れば大成功だと思ってたのだが」
「ローマに君臨する神祖が呼びかけたのだ。これは当然ではないかな?」
「いや。君の名声の結果だろうよ」
ククっとカラスの顔をしていても判るほどはっきりとグランスルグは笑う。
今回アノマリーを研究するにあたり、こういう魔術や神秘の専門家をガンヴィウスは招集することにし、その為の呼びかけを黒翼に依頼したのだ。
彼から聞けば魔術師たちは幾つもの派閥に分かれているらしく、今回グランスルグを経由したガンヴィウスの呼びかけに賛同したのは魔術学徒会、またの名を魔術協会と呼ばれる者らである。
魔術協会は現在この星で勢力を着実に伸ばし続けている宗教組織と敵対しており
その結果として各地の拠点を失い衰退しているらしく、後ろ盾を求めているというのが実情なのだ。
秘密主義である彼らとの連絡を取るのは苦労したが、グランスルグ・ブラックモアがかつて在籍していたという縁もあり、何とか交渉は成立した。
唯一の神が君臨することにより宗教組織の影響力が薄いローマとの協力を彼らも望んでいて、ガンヴィウスもまた彼らの知識を必要とした結果の邂逅である。
船から降り立った集団の先頭に立つ者、恐らくはリーダーと思われる人物にガンヴィウスは近づき笑いかけた。
「ようこそ。共に真理を探究しないかね?」
【盗掘】
ロンディニウムに開いた穴は表面上は多数の瓦礫などでふさがっており、はたから見れば休火山の山頂にも見える有様だった。
しかしガンヴィウスの用いるスキャナーはこの直下に約80キロほどにもなる複雑な大穴と、それを掘削した生物の亡骸がバラバラになって散乱している様を捉えていた。
正に大迷宮と呼ぶに相応しいこの構造図をガンヴィウスは頭を傾げながら見つめていた。
6時間おきにスキャンをした結果を見比べるのだが、そのたびに構造が変わっている。
しかし地質には特に問題はない。大規模な地殻変動が起こっているわけではないのに、迷宮の構造図は毎回違う結果を出してくる。
唯一同じなのは60キロ地点に存在する大空洞とその少し先にある朽ち果てた様を晒す巨大な恐らくは頭部と思わしき残骸だけだ。
この白い残骸はどうやらスキャナーに用いられているタキオンと奇妙な反応を引き起こすらしく、立体映像の中ではやけに真っ白に輝いて見える。
故に彼らはこの巨穴をこの獣の墓孔であると捉え、霊墓アルビオンと名付けるに至った。
機械の故障というのは考えられない。
ならば力場の方に問題があるとすぐに「彼ら」は判断する。
見るたびに姿かたちが変わるなどというのは曖昧な宇宙空間ではよくあることだ。
神出鬼没種の研究で得た知見がここでは役に立った。
恐らく穴の内部では量子的な揺らぎが安定しておらず、観測者がいない結果としてあらゆる可能性が同時に偏在しているのだろう。
1も100も同じなのだ。どちらもあり得るが故にこの内部ではソレが現出する。
これを安定させるには想像を絶する巨大な瞳が必要だ。
単純な視界の問題だけではなく量子の動き一つ一つを確認し裁定する神の如き瞳が。
用意するのは理論的には可能だが、それにはガンヴィウス達の力を以てもすぐにとはいかない。
ガンヴィウスはこの結論を以て大穴に対する認識を変えた。
この穴の内部は間違いなくシュラウド染みた摩訶不思議な、通常宇宙における法則が適用されない一種の特異点であると。
40キロ地点にある複雑なエネルギーの力場もガンヴィウス達の興味を惹いた。
途方もなく巨大で千切れ千切れになっているが、恐らくこれは巨大な魔術回路である。
だとしたら一体何のためにこれほど巨大な回路を必要としているのか判らない。
「彼ら」は無言で思念を発し、多量の小型工作船をプログラミング及びマニュアル操作で動かす。
数十の船が空を飛び交いながら採掘レーザーやタキオン・スキャンを行いつつ丁寧に大穴の形状を整えながら穴を掘っていく。
地球のどれだけ硬い物質であろうと数十億度にも及ぶ収束型採掘レーザーの前に意味はなくドロドロに溶け堕ち採掘は順調である。
発生した多量の土砂をゼロポイント発電装置の中にごみ処理をかねて放り込み、更なる出力を引き出しながら採掘は続いていく。
まずは10キロメートルまで掘るとガンヴィウスは決めていた。
10キロ地点までは比較的空間の揺らぎは少なく、構造の変化は滅多に起きないのだ。
これならば拠点として優秀な地点になる。
その地点に招いた魔術師たちの探索拠点を作り上げてやり、そこから本格的な採掘がはじまることになるだろう。
「さて」
ガンヴィウスは目の前に表示されていたモニターを消すと動き出す。
ロンディニウム採掘場に拵えられた指令室から出れば、すぐそこには見る見るうちに広がっていく大穴がある。
さながら外科手術の様に鮮やかな手際で採掘船は動き回り、周囲の補強と掘削を黙々と行っていた。
これから行うのはちょっとした物見遊山……ではなく威力偵察だ。
データが絶えず変動を続けている以上、自分という主観を使ってある程度の基軸を作らなければならない。
老人が足を踏み出せばすぐ隣に降り立つのはグランスルグ・ブラックモアである。
「魔術師あがりの死徒の知見などはご所望かな? これでも1000年分の知識はあるのだよ」
「大変喜ばしい。歓迎するよ。……しかし、差し出がましいだろうが君の主は許すかね」
大仰にグランスルグは翼と一体化した腕を振るい貴族がそうするようにこ洒落た動きで一礼した。
「問題はない。我が主は全てをお許し下さった。
更に言うならば主にとってもこの霊墓の探索から得られる知識は非常に興味深いものとなる」
「では契約成立だ。
これから私は現状で可能と思える限り穴を広げながら潜航しつつサンプルの採取などを行う。君には解説などを任せるとしよう」
黒翼が頷き、神祖は動き出す。
虚空に手を伸ばし、隔離空間に収納しておいた新しい装備品である杖を取り出す。
純白の淡く発光する杖である。所々に金で月をモチーフとした装飾が施され、頂点部には深紅の宝石が埋め込まれていた。
「コレの実戦テストと行こうか。どこまで想定通りに機能するか見ものだ」
掌の中で杖を弄ぶ。
新しく手に入れた道具への期待と懐疑の入り混じれた声で呟く。
「ふむ。貴公の作り出した魔具か。興味深い一品ではあるな」
「期待していたまえ。驚きを約束しよう」
神祖と死徒はひとしきり談笑した後、霊墓へと向けて足を踏み出す。
ここからは人智未踏の地底探索の時間であるが、元より両者は怪物と異物である、緊張などあるはずもなかった。
更に数を増した採掘船に巨大な掘削装置まで持ち出して「彼ら」は考えられる限りの最高速で霊墓を掘り進めていた。
採掘用のレーザーは地球上の物質を軽々と焼却し、超巨大なワームの通り道の如き大穴を作り出す。
開いてしまった穴の周囲にはナノマシンが散布され全体が崩れないように補強を繰り返していく。
神秘というヴェールで包まれ守られていた地を「彼ら」の技術というメスが容赦なく切り刻む。
20キロ圏内にまで掘り進めると同時に、残されていた巨大な魔術回路を傷つけない様に何度も掘削の経路は変更され、まるで型抜きでもしているようである。
この回路は何らかの影響かもしくは使用時にかかった負荷のせいか、バラバラに砕けており、至る所にその残骸が埋没していた。
ガンヴィウスは船に指示を出し、繰り返し、丁寧にそれらをスキャンした上でルブリケーターに読み込ませていく。
この完璧なる模倣装置は経年劣化した傷や汚れ、積もった埃の個数まで完全に再現した上で全く同じ素材、同じ元素配合、同じ構成元素数を以て三次元的なプリントアウトを行うだろう。
後はパズルゲームの時間である。早速魔術協会の者らにこれらのデータを渡した上で分析と復元作業を行わせればよい。
もちろん彼らへの報酬も必要だ。
拠点を用意した上で餌も必要とは、まるでペットのようだと「彼ら」は思った。
魔術師とは利がなければ動かないのだという事を彼は知っているし、グランスルグからのアドバイスでもある。
“安全な拠点に豊富な施設を用意してやり外敵からも守ってやれば魔術師は従順にこちらの調べものを助けてくれるか、と?”
“面白い冗談だ。貴公は私の腹筋を破壊する陰謀でも抱いているのかね?”
幸いというべきか、ここにはそれらが文字通り山の様にある。
後はどれを持っていくべきかはグランスルグに問うのが手っ取り早いだろう。
あっという間に探索は40キロ圏まで到達する。
外にいる魔術師たちでは1000年かけてようやくかもしれない距離をガンヴィウスはものの半時で終えることが出来る。
最初に確認した通りここは大きな空洞地帯となっていた。
音もなく採掘レーザーが地層を食い破ればそこにあったのは幻想的な世界である。
霊墓アルビオンの中間地点はやはりというべきかガンヴィウスの想定通りの異界であった。
元より残っていた神秘やエーテルの残り香にシュラウドから供給されたエーテルが混ざり合い訳の分からない世界となっている。
地底にいるというのに空があり、崩れ落ちた都市があり、そして言語では表現しきれない混沌とした法則があった。
ここには宙があった。星夜があり、湖のような巨大な水たまりがある。
そして、何よりこの空間の中心には未だに脈打つ心臓があった。
「彼ら」の持つセンサーはここには途方もない量のエーテルとサイオニック・エネルギーが満ちている事を感知する。
それもただのエネルギー体ではない。
流動した高次元の力に自我が付与された存在、即ち幻想種と呼ばれる者らがここには闊歩している。
この地は正にサイオニック生命体の宝庫であり、ガンヴィウスからしてみれば…………。
巨人がいる。
羽の生えた人の様な存在がいる。
ワームがいる。多頭の蛇がいる。ワイバーンがいる。
多種多様な、人々の噂話や民族的な童謡に語られた想像できうる限りの神秘がここにはいた。
「大変結構。では始めようか。解説は任せた」
ガンヴィウスが事もなく呟けば、そのあまりにも淡白とした物言いとは裏腹にこれから行われる行為の凄絶さを察した黒翼は羽をこすり合わせて身震いした。
【コンキスタドール】
正に大漁という他ならない光景であった。
死徒として多少は……いや、かなり血生臭い行為にも手を染めているグランスルグから見ても惨状という他ならない絵図であった。
ガンヴィウスが手に持った杖を一振りすれば「彼ら」の莫大な超能力が閉ざされていた回線を無理やりこじ開け、惑星へと強制的なアクセスが行われる。
それは彼の主である朱い月とその劣化存在である真祖の用いる空想具現化と等しい世界絵図の書き換え、再定義に近い力の発露であった。
エーテルが無遠慮にかき混ぜられ、それらはガンヴィウスと彼を操作する「彼ら」の思念を受けて本来ありえない効果を発揮した。
自然物を支配し創造するのが空想具現化の能力である。
自然、星の端末である精霊が惑星表面に存在する「自然」というテクスチャをあくまでも惑星上でありえる他の形へと再編する力のハズだった。
だが、これはいったいなんだ?
ガンヴィウスの杖の力は空想具現化と投影魔術を掛け合わせたような異形の術へと変異している。
杖はエーテルを貪る代わりに言語化できない「ナニカ」をガンヴィウスへと提供し、彼はそれを想像を絶する速度で解析分析、理解した上で最適解となる物質を想像する。
レプリケーター・システム起動。
────対象幻想種「巨人種」捕捉。データハック完了。検索。
ダビテの礫。攻勢概念インストール。量子ミサイル生成。
────対象幻想種「妖精種」捕捉。データハック完了。検索。
アンチ・グレムリン。拘束概念インストール。量子ミサイル生成。
────対象幻想種「竜種」捕捉。データハック完了……。
ガンヴィウスの周囲に複数の円筒状の物体が幾つも現れる。
明らかに自然物ではないこれらは周囲のエーテルを食い漁り誕生した兵器群である。
「彼ら」の基準からすればもう何世代も前の古すぎる兵器であるが、それは外見だけである。
これらの中身には本来詰まっているはずの反物質や臨海寸前の縮退炉などは入っていない。
そんなことをしたらこの星が吹き飛んでしまうからというのもあるが、これは実験だ。
杖を用いての「女」の行使していた能力の再現と昇華である。
この杖は彼女の残骸を加工して作られたものであり、ガンヴィウス達が観測する繋がりを強制的に乗っ取って能力を発露させる事が可能だ。
製作物は幾つもの量子ミサイル、ではない。
グランスルグは勘違いしていた。これは投影でも空想具現化の産物でもない。
ミサイルを作り出したのはガンヴィウスの所持するレプリケーター能力でしかない。
彼は適切なエネルギーさえあればどこからでも思うがままに物質を作り出せる。
自らの使用する兵器の設計図などはネジの一本からナノ以下の単位の規格まで熟知しているゆえに作成は容易い。
今回肝心なのは“中身”である。
純粋なサイオニック・エネルギーと同時に「彼ら」は試験的に幾つかの「概念」をミサイルへと内包させた。
杖は鍵である。星につながりその力を引き出すための出力装置だ。
そして何も引き出せるのは熱量や惑星表面における再定義の権利だけではない。
星が生きているというのならば、その頭脳体は多くを記憶しているはず。
億の年月を歩んだ星の記録は膨大なデータベースとなっている。
そして星と繋がれるのならば、そこから情報を引き出せるのも可能なはずというのが「彼ら」の考えである。
結果は見事に的中である。対抗概念を孕んだ量子ミサイルの群れは面白い程にすさまじい効果を幻想種たちに与えていた。
46億年分のデータを瞬時に解析し、臨機応変勝つ柔軟に出力するだけの演算能力があれば可能な事である。
見たこともない武器に傷つけられ怒った巨人たちが立ち向かってくる────足首から上を残して蒸発した。
妖精たちが今のガンヴィウスでは捕捉しづらい未知の技術で行使された神秘を用いて姿を消す───空間の揺らぎを瞬時に計算し、追跡したミサイルに込められていた拘束概念によって球体に押し込まれた。
竜が空より叩き落され、その他多種多様な幻想種たちが次々と理不尽なまでの力によって屈服していく様は黒翼に息を呑ませるに十分な光景であった。
ガンヴィウスが「さて」と呟き黒翼に向き直る。
彼の背後には文字通り山積みになった拘束され弱弱しく泣いたり震えることしかできない神秘たちがいた。
後はラベルを張り付けて出荷されるのを待つだけの商品である。
知的生物たちの思念活動の結晶であり、霊長の生体活動が生み出した上位存在達をまるで雑貨屋に並ぶ商品の様な目でガンヴィウスは見ていた。
価値があるのは判る。しかしそれはあくまでも「彼ら」基準であり、魔術師としての価値観には疎い彼は当然として現職に意見を求めた。
「鑑定を頼みたいのだが、いいかね。協会の者らの求めるモノがここにあるといいのだが」
「……あぁ、時間はかかると思うがやってみよう」
ちらりと黒翼はぐったりとして動かない鳳凰種を見る。
あの翼という最高の素材があれば彼の研究は更なる飛躍を遂げられるやもしれぬ。
僅かばかりに掠れた声で言うグランスルグにガンヴィウスは感謝を込めて一礼し、言葉を続ける。
「もちろん君への報酬も忘れてはいないとも。
当然の権利としてこの中に欲しいものがあれば好きにもっていきたまえ。
その際は理由を教えて貰えれば後学のためにも助かるよ」
声もなく頷いたグランスルグを見てからガンヴィウスは掘削船に念をやり起動させる。
採掘レーザーの出力が上昇し、今までよりも更に早く地層に穴をあけ始めた。
ここから先には上部階層に見られたような魔術回路は存在しないので更なる効率的な発掘作業が可能だ。
「私は一度80キロまで掘り進めることにする。君はその間ここで鑑定を頼むよ」
ガンヴィウスが手を鳴らせば複数のプロメシアン達がグランスルグの周囲に現れた。
一体一体が並のグールや下位の死徒では相手にならないこれらが黒翼に対して跪き指示を待つように動かない。
「彼らを君の護衛として残していく。好きに使ってくれてもいい」
「死徒の祈りは必要かな?」
「遠慮しておくよ」
ガンヴィウスが新しく掘り進められ始めたトンネルへと身を潜り込ませるのを確認してから黒翼は捕獲された幻想達へと向き直る。
哀願があり懇願にも似た感情を向けられたがグランスルグは申し訳ないと言わんばかりに肩を竦める。
走査の術を発動しながら自らの頭の中にある知識を引っ張り出し始めればすぐに魔術師としての彼が顔を覗かせ、つまらない命乞いなどは耳にも届かなくなった。
【沈殿物】
SOL3内部への探索はガンヴィウスに更に新しい知見を与えるものである。
途中に現れた神秘という神秘、サイオニック生命体を根こそぎ捕獲した上で簡単に解析にかけるだけで彼らのこの星への理解は高まり続けられる。
やはりというべきか、ほとんどの幻想種は元はただの高次元のエーテル塊だったものが知的生命体の思念を受けて変貌したという成り立ちが多い。
中には例外もあるが、それらは追々調べていくとして、やはりこの星における神や神秘という概念は霊長の精神的活動に付随して循環するものという仮説は間違ってはいなかったのだ。
その事実を前にガンヴィウス達は上機嫌となっていた。
やはりあまねく世の真理は知的生命体の精神活動にこそ根源的な要素があるのだと。
そして幻想種たちに対抗ミームを撃ち込んでいく過程でガンヴィウスは思った。
どうやらこの世界は完全なる存在を嫌う傾向にあるらしいと。
竜には必ずと言っていい程の対となる竜殺しの概念が存在し、同じように神殺し、妖精殺し、巨人殺しなど言う枷がどこからしかに存在する。
どれほど巨大な存在で倒せないと思うような怪物であっても何かしらの抜け穴はあるのだ。
この星は突出した存在を嫌う傾向にあるらしい。
究極の一よりも千差万別の億千万を選ぶというのは単一性による脆弱性を考慮してだろうか、はたまた自分を害する巨大な存在が出てくるのを恐れているからだろうか。
工作船からブザーが鳴り渡る。もう間もなく予定していた80キロ圏に到達する。
ここにあるのは巨大生物の頭部の残骸だけだ。
そこから先は普通に考えればマントル域があり、後は熱を帯びた下部マントルと外殻に続くのみだが「彼ら」は違うと感覚で理解していた。
「…………」
手を掲げいったん掘削を停止させる。
無音となった世界でガンヴィウスは空を歩きながら穴の最深部へと触れる。
ピリピリとした感覚がある。久しく感じたことのないこれは……緊張感か。
念を送り壁をガンヴィウスは丁寧に突き崩していく。
乱雑に掘るのではなく圧縮された岩や土を一枚一枚丁寧にはぎ取り、仕分けるように削る。
すると壁全体に亀裂が走っていき……その中より濃縮された「黒」があふれ出した。
黒である。
宇宙の闇を引っ張ってきたようなあらゆる光を通さない暗黒だ。
直ぐに退避の指示を出された掘削船は逆噴射をかけ地上へと上がっていく。
船を背にしながらガンヴィウスはその光景を黙ってみながら観測していた。
「彼ら」の眼が収束し、途方もない速度を以て学習/収集/計算/把握を開始。
眼前データ「黒」
実数による存在を確認できず。
存在概念「負の質量」に類似。
疑似的虚数存在の可能性 大。
サンプル採集を開始。
壁が瞬く間に「黒」に飲み込まれ、周囲の景色が侵食されていく。
浸食固有異界とでもよぼうか、正体不明のナニカが蠢き世界を犯しながらガンヴィウスへと近づいてくる。
気が付けば周囲は地底というよりも海の底と呼ぶに相応しい深淵へと変り果てていた。
重力を支配し空に立つガンヴィウスが概念的な意味で「下」を見ればそこには観測しえないエーテル生命体たちの残骸が無数に落ちている。
姿かたちも定まっておらず見るたびに姿を変えるそれらは量子活動が安定しておらず、今にも結合が解けて消えてしまいそうな程にか細い。
所々にノイズが走るそれらの正体を「彼ら」は把握する。
これらは「沈殿物」である。
霊長の精神活動が神や幻想と呼ばれるサイオニック・生命体を作り出すのならば、認識されなくなった幻想がどうなるのかの末路の一つだろうと。
多くの人間に観測され存在を支持されることで強大化する幻想存在が逆に誰からも忘れ果てられればの答えがここにはあった。
恐らく完全には消滅できないのだろう。
まだ霊長という種の集合無意識に薄っすらと存在がこびりついている以上は消えることは出来ない。
しかし動くことも力を行使することもできなくなった状態では己の存在を維持しきれず「薄く」なってしまい重力に逆らう事さえ出来なくなる。
大地の底へと堕ちて堕ちて、こうして概念的な意味での星の内側に漂着してしまうのが末路だ。
もしかしたら多くの宗教で語られる「地獄」という概念はこの末路を無意識下に悟った末に表層に噴き出した発想なのかもしれない。
この地には星が数億年かけて貯めたあらゆる沈殿物が存在する。
誰にも認識されなくなった哀れな者らである。
更に闇が深くなる。濃厚極まりない、飽和した瘴気が星の中より浮上してくる。
ガンヴィウスが顔を顰める。目の前に現れたソレは「彼ら」をして“臭い”と思う怪物であった。
途方もない死臭だ。
見ているだけで気分が悪くなる濁りがここにはある。
これに比べれば古今東西に語られる死神、邪神という存在の何と美しいことか。
頭を3つ揃えた竜かはたまた四足歩行のケモノにも見えた。
全貌はガンヴィウスからして明確な観測は難しい。大きくもあり小さくもある。
そもそも姿かたちなどこれに大した意味はないのだから形容などは意味がないのだ。
暗黒色の粒子が寄り集まり不定形に姿を変貌させ続けている混沌こそがケモノであった。
濁り切ったエーテル。
死んだ星が放つ毒素の塊ともいえるコレは分類不能の異形だ。
「彼ら」が思い浮かべるのは暗黒天体の傍に時折現れる異次元存在だ。
砕けて飲まれた星の周囲に惑星規模の顔を覗かせるかの存在とこれは非常に似通っている。
思えばアレも死した星の残骸と残留思念を貪っていたのだろう、とすればこれと同類なのだ。
ケモノが動く。
二つの首が口を開けば、沈殿物たちがバラバラに砕けてその中に吸い込まれていく。
一つの頭を以てケモノはガンヴィウスを一瞥する。
瞬間ガンヴィウスはサイオニック・シールドを展開し中性子星の鎧を着こんでいた。
シールドの表面が音もなく撓んでいく。
億の年月の間、あらゆる沈殿物を貪り星を蝕もうとする呪の塊はその視線を向けただけでタキオンランスにも届き得る概念的破壊を巻き起こしていた。
「表があれば裏がある。道理だな」
これもまた精神活動の可能性の一つとしてガンヴィウスは感嘆の念さえ感じながら黙々と対策を進める。
手段を択ばなければ倒すことは可能だ。
その代わりこんな地底の底で相応の兵器を利用したら間違いなくこの星が砕けるが。
そもそも倒してはいけない存在である。
精神活動によって生まれる神秘の淀みを捕食するという事は一種の食物連鎖が構築されているという事であり、ソレらには迂闊に手を出してはいけない。
しかしだからといって成長させすぎもよくはない。
今はまだ星の生命力が勝っているからいいもの、いずれ力関係が逆転したらこれは宿主である惑星もろとも自滅する特大の致命的ウィルスだ。
幾つかの選択肢を考慮するが、その前にケモノが反応した。
ケモノは3つの頭でガンヴィウスを見つめてから、何の興味も沸かないのかすぐに視線を逸らし空間にこじ開けた穴の中に帰っていく。
星の内海とも違うそれは文字通りの異次元であり、ケモノの巣なのだろう。
周囲の深海染みた景色が消え去れば戻ってくるのは薄暗い穴底である。
ガンヴィウスは手元に用意していたシリンダーを弄びながら使い時が去った事をかみしめていた。
「ミニチュア銀河」と呼ばれる疑似的銀河を内包した筒の中に封印する予定だったのだが、まぁ、使わないに越した事はないと彼は己を納得させる。
あのような怪物を手元に置いておくことは精神衛生上よくない。
気を取り直しガンヴィウス進む。指示を出せば逆噴射して退避した工作船が戻ってくる。
直ぐに採掘レーザーが点火し岩盤を掘り進めようとするが、またブザーが鳴った。
「エラーコード■■■・ΕΑ02」即ち、採掘不可能という意味である。
「文字通りの最果てというわけか」
確認の為にガンヴィウスが歩み寄ってみれば、そこにあるのは光の壁だ。
岩盤を砕いた先には繋ぎ目一つない完全なる光の膜があり、それが採掘を跳ね返していた。
表面を指先で撫でればバチバチとした反発と明確な拒絶の念が流れ込んでくる。
まるでコロッサスに搭載された惑星調停システムの如く堅固な壁は「彼ら」を以てしても突破は難しい。
今まで封鎖されていた惑星を幾つもこじ開けた事はあるが、ソレらとコレは根本的に違う。
お前にこの先に進む権利はない、と断ずる星の意思の表れであった。
「大変結構。そうでなくては」
難儀な課題であるからこそ面白いとガンヴィウスは含み笑い壁をもう一度見る。
恐らくこの先にあるのは以前女の残骸を利用して侵入したあの静寂なる世界だろう。
あの時は不正アクセスであり、身一つしか持ち込めなかったが、もしもコレを開封することが出来れば完全なる形での調査が可能になる。
杖を用いての情報概念の奪取は既に可能である。
後はより多くのデータを一度に引き出せる道があれば十分。
つまり、ここを開ければ「彼ら」はこの星の持つ全ての知識、情報を根こそぎ奪い取る事が出来るのだ。
それに見合った難度ではある。宝箱に鍵がかかっているのは当然なのだから。
幾つもの手段を考慮しながらガンヴィウスはとりあえずの指示をステラー級へと送った。
───コロッサスを用意しろ、と。
【招待状】
我々の霊墓探索は大成功で終わったとみていいだろう。
ケモノとの遭遇と解析、数多くの戦利品、更には星を守る壁の存在も発見できた。
これらを見つけられた事は非常に大きく、我々の今後の計画にもいくつかの付け加えが必要となる。
我々がこの星を見つけられた事は本当に天運であったとしかいいようがない。
掘れども掘れども次々と知見が舞い込み、そのたびに我々は少しずつであるが先へと進んでいる。
「剣」を手に入れ、この星の持つ全ての秘密を解き明かした時我らは更なる高みへと至る。
そして魔術師たちも元気に働いてくれている。
グランスルグが仕分けた品物を彼らに提示し協力を求めた所、彼らは実に気前よくルブリケーターで再現された巨大な回路の補修と解析を行ってくれている。
進捗次第では追加の報酬を払うと約束したら、ものの数日の間に彼らは一次報告書を書き上げてくれた。
彼らの見立てではあの巨大な回路の残骸はかつて存在していた妖精たちが星の内側へと自分たちの国土そのものを転移する際に用いられた術の発動回路ではないかとのことだ。
つまるところ、あの回路は扉を開くための「鍵」である。
厳密には違うかもしれないが、手段は多いに越した事はない。
期待はしていないが捕獲した妖精種たちへの尋問も並列して行っていくべきだろう。
我々は魔術師たちに更なる解析と補修を依頼し、同時に例の壁の解析を開始した。
エーテルともサイオニック・エネルギーとも違うアレは高次元から投影された次元隔離に近しいものがある。
あの壁の波長を計算した上で必要な機器をコロッサスへと搭載する必要がある。
神聖執行兵装と惑星調停兵装を混ぜ合わせた新しい種類のWクラス兵器の開発は既にスタートしている。
どちらも万全を尽くしたといえる。あとは時間の経過を待つだけだ。
さて、ここで新しい問題が一つある。
我々が以前送ったブリテンへの降伏勧告書の返事だ。
無条件の降伏など絶対にありえないとは分かりつつも一応の反応を見るために送ったのだが予想外の返事があった。
ヴォーティガーンの記憶を見る限りかの王では絶対にありえない内容のソレを見て、我々は判断を決めかねていた。
しっかりとした作りのそれには品のいいインクでこう書かれていた。
「降伏条件について内密に話し合いたい。ペンドラゴンの血筋より」と。
霊墓とケモノについては独自解釈が多分に含まれます。
6章が来たら少し修正するかもしれません。