fate/stellaris 【完結】   作:宇宙きのこ

9 / 17
あけましておめでとうございます。
2021年もよろしくお願いします。



昔語り/開戦前夜

 

 

【リヴァイアサン亜種】

 

 

 

星に生命体がいるのは何も珍しい事ではない。

酸素がなくても生存可能な生物など夥しい程に存在し、むしろ酸素が毒という生き物も多く存在する。

我々の知っている“生物”という括りの中での最大級の存在はリヴァイアサンとも呼ばれる超古代から生きてきた怪物たちである。

 

 

今まで確認されてきた全てがどれも生き物という定義に含めていいか悩んでしまう程の化け物たちだ。

 

 

パルサーから現れる巨大な亡霊染みたレイス。

惑星そのものを卵として孵化し周辺の星系を食い荒らすボイドスポーン。

上記のボイドスポーンが年月を重ねて成体となった結果、銀河中を徘徊して数多くのFTL文明を滅ぼした天文単位の巨体を誇る超巨大竜エーテルドレイク。

活発な恒星を餌とし、宇宙から多くの光を奪ってきた太陽喰らい。

シュラウドとも違う領域からこちら側の次元に顕現する、霊墓のケモノの同類であり星々の精神と生命力を貪る異次元の捕食者。

 

 

最近では我々のΣクラスのエネルギーに反応して活発化したステラー・モンスターなども確認され、これは我々にとっても悩みの種だ。

 

 

他にも数多くの奇怪極まりない生物が宇宙には溢れている。

どれもこれも巨大で、不可思議で、何より危険である。

FTLへの到達が終着点と思われがちだが、実際は光を超えてようやく宇宙に散らばる途方もない恐怖達と向き合うことになるスタートラインなのだ。

 

 

数多くある文明の滅亡の理由の一つとして未知への恐怖に抗いきれなくなり、自己終了、即ち文明の自殺が挙げられる程に暗黒の世界とは恐怖の坩堝である。

 

 

 

我々の前もって行われた星系内のスキャンにおいてはSOL3以外では生命体は殆ど存在していないという結論が出ていた。

この「殆ど」という部分が重要である。

星に生物がいるなど当然の事であり、我々は余り深く考えていなかった。

だがしかし、その前提は眼前に存在する生命体を前にどうやら更新が必要なようである。

 

 

姿かたちはSOL3に生息する霊長類、人類と大して変わらない。

整いすぎている、何処か溶け込めない違和があるがそれだけだ。

問題はその内部である。

 

 

彼が我々を見つめた時、我らもまた彼を見た。

そして直感した。この男はSOL3で生まれた生物ではないと。

根本において保持するサイオニックエネルギーの質が違う上に精神活動やその構造も表面上では似たように見えるだろうが、根底ではどうしようもないズレがある。

 

 

しかしSOL3における生命と類似した姿をしているということは、恐らくはこの星系内における兄弟種なのだろう。

ここまでの類似性があるということは、恐らはすぐ近くにある衛星か、SOL4辺りの生物だと我々は推察した。

 

 

 

彼は途方もないサイオニック・エネルギー、即ち生命力に溢れている。

我々が手塩にかけて製造育成を行ったルキウスを圧倒する程の力をこの生物は持っていた。

アーサー王と比較しても凄まじい、比べ物にならないの一言である。

 

 

エネルギーの総量はこのサイズの生物としてはありえない量を観測している。

かつてこの星を蹂躙した巨人に匹敵凌駕しえる内包量だ。

 

 

単純なエネルギー量で比較できるものは我々の地上戦闘ユニットでは最高峰の存在であるステラー・ボマーである。

我らにとっても奥の手であるかの存在に匹敵するなど本来はありえないと言えよう。

アレらを1ユニットでも運用しようとしたらエネルギー維持のための負荷によって成熟したFTL文明でさえ破産しかけるほどといえばどれだけか判るものだ。

 

 

実に、面白い。

未知とは大変に素晴らしい。

 

 

これで我々はまた一つ新しい知見を得る事が出来た。

即ち、自然発生した上で我々の技術に届きうる力を持つ超小型のリヴァイアサンが存在するという知見を。

 

 

既に演算は開始されている。

この生き物を効率的にどうやれば殺せるか、我々は既にいくつかのシミュレーションを開始していた。

さて。それではそんな事は欠片も見せずにこれから始まる談笑を楽しむとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

【むかしむかしあるところに】

 

 

 

ガンヴィウスとブリュンスタッドという二人の降臨者は向かい合って暫し無言で佇んでいた。

二人はあらゆる意味で対照的な状態にあった。

厳粛とした顔で全く感情を見せないガンヴィウスと好奇心を隠し切れない様子で笑顔を絶やさない朱い月という形だ。

 

 

 

「ややや! 早くも二人が打ち解けてくれそうで私としても安心したよ! 

 じゃ私はちょっとばかり弟子の様子を見てくるから、しばらくは二人でたっぷりと語り合ってくれたまえ」

 

 

視界の端でマーリンが逃げるように屋敷の奥へと駆け込んでいく。

幾ら人外で規格外の魔術師である彼であっても単体で惑星を砕きかねない存在の間に挟まれるのは遠慮したいのだろうか。

いっそ身の程知らずに茶々を入れてくれれば心置きなく消し潰せるというのに、と「彼ら」はマーリンを認識しながら呟いた。

 

 

もうそろそろアレに対する対処を始める必要があると「彼ら」は考えている。

特殊なサイオニック生命体もどきであり精神の波長を歪めたり認識を狂わせるであろう力を保持しているマーリンはトリックスターになりかねない。

番狂わせなどというモノが起こりえないように彼にはいずれ消えてもらう必要がある。

 

 

既に彼の正体の種は割れている。

ヴォーティガーンの記憶の中に彼のデータもあったのだから。

 

 

「あの者は気が利くな。

 本人は欠片も持っていないというのに、心の機微というものをよく判っていると見る」

 

 

「面倒な存在である。

 いずれ排除する予定ではあったがスケジュールはどうやら大幅に前倒しになりそうだ」

 

 

含み笑いしながら評価する朱い月とつまらなさそうに鼻を鳴らすガンヴィウス。

神祖の眼がちらりと扉の奥に向けられる。そこにいるグランスルグと少年を見てからもう一度朱い月を見た。

単体で一つの星に匹敵する量のサイオニック・エネルギーをこの大きさで宿すという現実はこうして直視しても未だに信じがたいものがある。

 

 

二人は誰に言われるまでもなく椅子に腰を下ろすと、やはりというべきか真っ先に言葉を発したのは朱い月であった。

彼は眼をキラキラと輝かせながら、遠い世界の冒険譚を寝物語にせがむ子供の様にガンヴィウスに問いかけた。

 

 

 

「そなたは何処からやってきたのだ? 

 ずっと聞きたくてたまらなかったのだ。

 我々を繋ぎとめる太陽。アレの力さえ及ばない宙の外が如何様なのか!」

 

 

 

朱い月は言葉をまくしたてていく。

微かに頬を高揚させ、この異星人は更なる外の知見を今か今かと待ちわびていた。

本当の意味で自分の同類を見つけた彼は勝手知った友人を相手にするようにガンヴィウスへと接している。

 

 

身を乗り出し、虹色の瞳を煌々と輝かせながら彼は矢継ぎ早に続けた。

 

 

 

「やはり多くの命があるのか? 

 いたとしたら、それらはどのような姿かたちであった?

 それともやはり私の様な存在は稀なのか……?」

 

 

「落ち着き給え。一つずつ答えてやろう。だから、一度、落ち着き給え」

 

 

ガンヴィウスの言葉は重く微かに呆れが混じっている。

さながら粗相をした幼子を叱りつけるようでもあった。

すーはーと朱い月が何度か深呼吸を繰り返す。

まるで人がそうするように生理的な行動で精神を安定させた彼は少しだけ拗ねたように唇を尖らせて言った。

 

 

 

「許せ。何せ自分以外の降臨者に出会うのは初めてでな。

 しかもソレが私よりも更に外から来たとならば、高揚を覚えるのは道理であろ う?」

 

 

 

蜘蛛の奴もいるにはいるが、奴と話し合いなど不可能だからなと朱い月はからからと笑う。

 

 

「君の出身はこの星の衛星と見るがどうかな?」

 

 

 

「正解だ。あそこはつまらん。何も無く退屈極まりない」

 

 

ガンヴィウスは推察する。

元々ここに訪れた一万年以上前からあそこには何もなかったはずだと。

少なくとも表面上は水や大気は存在せず、地下をスキャンした時も目新しい発見はなかった。

 

 

しかしそれはあくまでもこの星に訪れた際のデータである。

かつて「約束の地」と呼ばれる豊富なガイア型惑星が何らかの神秘的な力によってはた目からは不毛の死の星に映るように自らを擬態していたこともあった。

ならばこの男が住んでいたであろう少しは居住可能な領域がどこかに隠されていたのかもしれない。

 

 

最もブリュンスタッドの言を聞く限りではその地は既にないようだが。

 

 

 

「一つ質問に答えたぞ! 次はそなたの番だ」

 

 

待ちきれないと言わんばかりに身じろぎを繰り返す朱い月は正に幼子のようである。

自分と同等の存在との接触がなく、永い年月を孤独に存在していた彼の心がそうなるのは必然であった。

 

 

 

「まずは私の故郷の話からしよう。何、隠す必要のない情報だ」

 

 

ガンヴィウスが掌を上向きにして開けば、そこに光が集まり幻想的な絵図が形成されていく。

無数の小さな光……星が描写されそれらはどんどん数が増えて、やがては幻想的な渦巻き───銀河が映し出される。

その銀河さえもちっぽけな点になるほどに更に更に巨大な世界が描かれていく。

最終的には無数の光を内包した「泡」が朱い月の前に投影される。

 

 

もう一つ「泡」が作り出され、二つの「宙」が並び立つようにふわふわと舞った。

 

 

 

「我々は全く違う宙からやってきた。元居た世界では我々の目的は果たせないと悟った故に」

 

 

ガンヴィウスの眼は遠くを見つめている。

「彼ら」にとっても久しくなかった自分たちの歴史の開帳行為を前に僅かばかり舌の速度が速くなる。

 

 

「私達の起源はある種族の末裔だ。遺伝ではなく、その意思と在り方を受け継いだのだ。

 かの者らの名は“ズィロン”という。……彼らは優れた知性と類まれなる念の力を誇っていた」

 

 

ガンヴィウスという端末を通して「彼ら」は自らの起源を語る。

ここではない宙にいたとある強大であったが滅びてしまった創造主の隆盛を。

 

 

ズィロン。

四肢を持つ人型の知的生命体であり、最終的な文明レベルは0.5に相当するかつての銀河の支配者。

それは「彼ら」と切っても切れない関係である先駆者たちであり、反面教師ともいえる者らだ。

 

 

 

「当時の彼らは正に全盛期であった。

 惑星さえ弄ぶサイオニックエネルギーを支配するズィロンは更なる高みを目指し……やがては“■■■■■”という高次の領域を発見するに至った」

 

 

ガンヴィウスは微かに小細工を弄する。

重要な単語に検閲を仕掛けて認識を狂わせる。

これらはまだ開示していい情報でない故に。

 

無理にでも情報を暴こうした者には毒性の高い汚染情報ミームを送り込むトラップを添えてやれば直ぐに餌が食いついた。

遠くから恥知らずにも聞き耳を立てていたとある人でなしの動揺の波長が届いてくるが、知った事ではない。

 

 

「そなたらが座するあの不可解な世界のことか……ん? まぁ、よいか」

 

 

朱い月の瞳が虹色に輝く。

万物において比類なき透視能力を持つ規格外の瞳が最大出力で稼働した。

結果として見えるのは青紫色の霧に覆われた果てのない宙。そしてかの地に座する彼をしても途方もないとしか表現できないナニカ。

 

 

直ぐに朱い月は瞳を深紅に戻した。

本能であまりあの地を観測するべきではないと彼は悟っていた。

そして彼は無垢ではあるが高い知性を持つ故に、あえて狂わされた認識について問いただす様なことはしない。

 

 

 

「その地ではあらゆる願いを現実に落とし込む事が出来た。

 代価こそ必要とされるが高次元の域で引き起こされ操作された事象は下位次元の宇宙にとって“事実”となる」

 

 

 

凄まじい力だと「彼ら」は誇る。

星々の破壊と作成、星系の配列変更、無尽蔵の歴史へのアクセス、ハイパーレーンの調整、新しい元素や法則の創造。

ズィロンの行った偉業を上げればキリがない。

 

 

「代価と言ったな? それほどの奇跡を行使するとなれば相応の見返りを必要とされるはずだ」

 

 

「よい所に食いついたな。そうだ、それこそが彼らが滅んだ理由の一つだ」

 

 

 

正に神と称しても許される程の存在へと至ったズィロンだったが彼らはやがて気が付く。

自分たちが高次元で何か挙動を起こし下位次元を弄りまわす度に宇宙から確実に“何か”が消費されていることを。

無尽蔵に湧き出る奇跡など存在しないのだ。

 

 

虚空に浮かばされていた「泡」の中にある光が一つ、また一つと減っていく。

そこに住んでいた夥しい命が青紫色の霧に飲み込まれていく。

 

 

代価、それはエネルギーだ。

熱量、SOL3に例えていうなれば宇宙を満たすエーテルが捧げられ次元の寿命が減っているとなるだろう。

複数の銀河中心に存在していた超巨大な暗黒天体が蒸発し、重力という籠を失った銀河が霧散する。

 

 

宇宙の膨張の速度が加速し、それに耐えきれない「泡」に亀裂が走る。

 

 

「世界が砕けていく中、ズィロンの意見は二つに分かれた」

 

 

一つは神聖派と呼ばれる者ら。

無限の奇跡を行使する自分たちを神と捉え、世界の寿命など知った事ではないと考える派閥。

高次元と深く結びついた我々は既に一つの宇宙に固執するべきではないと彼らは言った。

 

 

宇宙など幾らでもある。

この宇宙が消費されつくされるのにも途方もない時間がかかる。

仮にこの世界が滅ぶというのならば、また違う宙を代価に使えばいいと。

 

 

 

“我々は永遠に君臨できる。この素晴らしい事実を前に何をためらう必要がある”

 

 

 

それに対して真っ向から否定を叩きつけたのは救世派と呼ばれる者らだった。

彼らは神聖派の言い分を聞いて愕然とした。

自分たち偉大なるズィロンがまるで寄生虫の様に生き永らえ、傲慢な有様をあらゆる宇宙へと晒すおぞましさに彼らは震えた。

 

 

 

“我々は誇り高きズィロンだ。力の有無ではない。その魂の在り方が我々を定義づける”

 

 

 

「結果は相打ち。文字通り最後の一人になるまで彼らは殺しあい、ズィロンは滅んだ」

 

 

 

戦争は徹底的に進められた。

救世派は最も優れた一人の指導者に自分たちの全てのサイオニックエネルギーを注ぎ込み絶滅。

対する神聖派も凄まじい力を行使する救世派の指導者の力を前に最終計画を実行しようとしたが、その直前に根絶やしにされた。

 

 

“円環の終わり”と称される最終計画は高次元の力を以て全宇宙に存在する全ての銀河核を衝突融合させようとする途方もないプランだ。

10の12乗にも及ぶ個数の極大ブラックホールを一まとめにし、無限に増大加速する特異点で全てを無に帰そうとする、未来を消し去る為の計画であった。

もしもこれが実行に移されていたら「彼ら」という種は今ここに存在していないだろう。

 

 

「滅ぶ間際にどちらの派閥かは不明だが、ズィロンは自分たちの後継者を育成するために知的生命体の進化を促すシステムとミームを銀河にばらまいた」

 

 

その結果として誕生したのが我々だとガンヴィウスは続けてから微笑む。

口を飴玉を転がすように動かし、改めて再確認した自分たちの起源を愛おしむ様に彼は首を振った。

 

 

「彼らの座っていた椅子には今や我々が存在している。まぁ、多少の“掃除”は必要だったが」

 

 

 

■■■■■にしつこくこびりついていたズィロンの残留思念を消し去り、高次元を自分たちにとって使いやすいようにリフォームする作業は「彼ら」が

今の座に至るまでに行った最終的な仕事の一つであった。

ギリシャに伝わる神話然り、最終的に超大な力を持つ者は親殺しという業を背負わされるものだなとガンヴィウスはため息を吐いた。

 

 

 

「満足したかね。これが我々の起源だ」

 

 

 

朱い月は暫しの沈黙を保ったが、彼は顔を何回か傾げてから口を開いた。

瞬時に笑顔を浮かべて彼は拍手した。

 

 

「実に面白い話だった! そうか、宙の彼方でも生存競争は行われているのだな……」

 

 

 

ならば、と彼は続ける。

 

 

 

「それほどの力を保持するそなたらは何故にこの地にそこまで拘るのだ? 

 世界を支配するに足る力は既に得ているだろう。

 そなた等でさえ手こずる様な敵と戦でもしているのか」

 

 

それは銀河や宇宙といった朱い月でさえ想像するしかない規模で活動を続けるガンヴィウス達への疑問だった。

 

 

「停滞とは緩やかな死だからだ。

 進むことを止めてしまった者は必ず追い抜かれ、滅ぼされる。

 たとえ戦争が続くのだとしても、先に進まなくてはいけないのだよ」

 

 

 

没落帝国と称された国家を彼は語る。

かつて「彼ら」が星間帝国の舞台に上り詰めた時に見たかの帝国は正に天上の存在であった。

正しく魔法としか表現できない圧倒的な技術を持ちながらも彼らには決定的に意欲が欠けていた。

 

 

彼らは満足してしまったのだ。

自分たちの社会においての問題を全て解決できる力を得た結果としてそこから先を求める事はなくなってしまった。

意欲を失い、向上心を無くし、現状維持という名前の緩やかな文明の斜陽さえも受け入れてしまう。

 

 

 

SOL3の時間単位に直せば200年か。

銀河に進出して200年で「彼ら」は没落帝国を超えた。

ズィロンを始めとした先駆文明の遺産の助けがあったというのも大きいがたった2世紀で銀河の絶対者の座から没落帝国は追放されたのだ。

 

 

技術のインフレは続く。

技術的特異点を超えた先にあるのは技術が技術を高め続ける無限の加速だ。

「彼ら」に続き発展し続けた数多くの国家もまたあっという間に没落帝国の力を上回っていく。

 

 

つい2世紀前までは魔法や奇跡に思えた力も、今となっては子供の玩具として買い与えられる程度の陳腐な存在へと普及化させられてしまったのだ。

結果として銀河全てを巻き込んだ途方もない戦争も発生したが、それさえも前進の為には必要な事であったと「彼ら」は考えている。

 

 

「“神秘”や“魔法”……知的生命体の思念と認識がこの星では世界を運営するにあたって根幹を成すことはお前も知っているだろう。

 高度な精神活動がこの世の根底を動かすという我々の思想とこの星の法則は非常に相性が良い」

 

 

「そなたの理論は判った。しかし、停滞とは死であるか……ふふっ……正しく道理よな」

 

 

朱い月は皮肉るように笑う。

それはガンヴィウスに向けてではなく、この場にいない誰か、はたまた今この会合を覗き見ているかもしれないナニカに向けての笑みであった。

■■という不要となった世界を切り捨てる世界のシステムを知っている彼は図らずとも世界の真理を言い当てたガンヴィウスに敬意をもって話しかけた。

 

 

 

「……そなた等とはもう少しだけ早く出会いたかったぞ」

 

 

眼を伏せ月の王はため息を吐く。

もしもこの星に降り立った時にガンヴィウスらと接触できていれば、今とは全く違った立ち位置になれたものをと。

この星と月、二つを結び合わせた巨大な文明を作り上げることも不可能でなかったはずだ。

 

 

「まだ遅くはないと考えるが? 

 我々に協力するというのならば、手荒な事はせずに済むのだが」

 

 

 

「否。遅いのだ……そなたに敬意を表し一つ告げよう。

 私とそなた、どちらも生き延びる事は不可能になりつつある」

 

 

 

ガンヴィウスの見る月の王の精神の煌めきは何一つ変わらない。

彼の言葉に嘘はなく、心から彼は自分たちを哀れみ、慈悲を抱いていると察する。

ならば今の言葉は非常に重要な意味があるのだと「彼ら」は記録し、何が起きるのか知るために演算を開始した。

 

 

 

「この星は酷く排他的でな。

 自分の計画を乱されることを何よりも嫌う。

 その修正の為ならどれほどの犠牲も認可し、どうしようもないと悟った時には自死さえも厭わない性質があるのだ」

 

 

 

「それは重々承知しているとも。この際だ、はっきりと言葉にしておこうか」

 

 

面白いと月の王が頷き、一泊の間をおく。

瞬間、朱い月とガンヴィウスは全く同じ言葉を吐いた。

 

 

 

即ち『この星は自分しか愛していない』と。

 

 

 

ヴォーティガーンの記憶による怨嗟。

本来あったエーテルの衰退。

問答無用の時代の移り変わり。

その他もろもろの要素を踏まえてガンヴィウスはこの結論に至っていた。

 

 

 

「うむ。同じ結論に至っているようで何よりだ!」

 

 

 

朱い月はけらけら笑う。

無邪気に、何処かつまらなさげに。

 

 

 

「ガイア……。

 そなたのいう所のSOL3は自分の表皮の上で活動する文明などどうでもよいか、もしくは滅んでしまえばいいと思っているのは間違いないぞ」

 

 

ブリュンスタッド王は自らの胸元に手をやり、瞑目する。

SOL3の兄弟かまたは息子ともいえる天体からの来訪者である彼はこの星の意思を他の誰よりも読み取る事が出来た。

少しばかり来訪時期がずれたのは余興であるが。

 

 

「鬱陶しい/目障り/気持ち悪い/無価値……。

 この星が表層に蠢く者らに抱く感情はそれらが大半である。

 残念だが、霊長も含めた全ての命をこの星はいずれ滅ぼそうとするだろう」

 

 

死んだ鋼の大地。

生物根絶の為に訪れる怪物たち。

彼の眼にはそんな未来が見えている。

 

 

「そうか。いらないというのならば私が貰ってやろう。

 星にとって無価値であっても私にすればこの地の生命は発見の宝庫なのでね」

 

 

「で、あるか……皮肉なものだ。

 部外者のそなたの方が霊長を高く評価し存続を願うとはな」

 

 

会話は終わりだと朱い月が立ち上がる。

扉の外に待機していたブラックモアと少年が恭しく頭を垂れて王を出迎えた。

 

 

「ではな星々の探究者よ。また近いうちに相見えようぞ。

 最も───その時はこのように語り合う、という事は出来ないだろうがな」

 

 

 

「大変結構。想像以上に君との談合は楽しかったとも。

 その点だけはマーリンに感謝しなくては」

 

 

 

そうだな、と柔らかく微笑んでから朱い月は姿を消す。

空間の揺らぎが一瞬だけ発生したのを見るに、空間転移か何かの術を使ったのだろう。

 

 

ガンヴィウスは一瞬で思考を切り替える。

もうここに用はない、最後に屋敷の主に挨拶でもしてから帰ろうか、と。

 

 

 

今宵の会談は多くの波を広げるだろう。

もう間もなくこの星における活動は大詰めを迎えるが、その前兆としてはまぁまぁだ。

大変よろしい。こちらの目的は殆ど流し終え、後はタイミングを合わせるだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【波紋】

 

 

 

判れの挨拶をするべくモルガンの部屋に向かったガンヴィウスの前に現れたのはやはりというべきかマーリンであった。

彼は杖を弄びながら何の表情も浮かべずにガンヴィウスを見つめている。

 

 

「君の友達は帰った。君もキャメロットに戻ったらどうかな」

 

 

 

「やだなぁ~私とはまだあんまり話していないじゃないか。

 折角の機会なんだし、ちょーっとだけでもどうかな」

 

 

何の抑揚も感情もなく淡々と続けるマーリンにガンヴィウスはうんざりした様子で口を開く。

 

 

 

「常に張り付けていたあの薄っぺらな“顔”を忘れているぞ」

 

 

「いや、君に対してはもういいかなと思ってね。

 だって君たち、私の“内側”を覗いてるみたいだし?」

 

 

人形のように無機質な瞳でマーリンはガンヴィウスを見る。

感情という餌を糧に生きるが、自分はそれを持たない生物を「彼ら」は寄生虫の様だと思っていた。

もしくは人形か。一昔前に稼働していた奉仕型のボットの様だな、と。

 

 

どちらにせよマーリンとこうやって穏やかに会話をするのは最後になる。

もはや彼の抹殺は決定事項であり、既に複数の方法が編み出され始めているのだから。

だから「彼ら」はもう包み隠さずに彼という存在に抱いていた所感をぶつけてやることにした。

 

 

「知的生命体の精神活動に寄生し、糧とする生命体。

 だというのに自分はソレを持つ事が出来ず、それらしく振舞う事しか出来ないとは……君は実に哀れな生き物だな」

 

 

「そこまで私の事を調べてくれるなんて、人気者は困っちゃうなー」

 

 

笑っているのに全く笑わない。

それらしい言葉を並べるだけの空っぽな男にガンヴィウスは最終的な通達と行動を行った。

老人が人差し指をマーリンに向ければそこに宙の膨張と収縮を司る暗黒のエネルギーが集まりだす。

 

 

かつてスパルタクスを瞬時に蒸発させた暗黒エネルギーを用いたアーク放電攻撃である。

上位次元で引き起こされる破壊という概念を直接対象に叩き込むエネルギー攻撃は、余波で重力の変動さえ引き起こすモノであった。

 

 

未だかつて誰にも理解されたことのない宇宙の法則の軍事転用。

億年単位で積み上げられた神秘による稲妻はSOL3のサイオニック生命体を葬り去るに足る威力があった。

しかし翡翠色の稲妻を向けられてもなおマーリンの精神に揺らぎはない。

 

 

そもそも何かを「感じる」という機能が酷く欠落している彼は自分の死にさえ何処か無関心な節があった。

明確な脅威を向けられてもなお人形の様に動じないマーリンに対してガンヴィウスは吐き捨てた。

 

 

「恐怖さえも感じないとはな。君は生き物というよりは機械といった方が正しい存在だ」

 

 

「うん。僕もそう思うよ」

 

 

瞬間、放たれた翡翠色の閃光がマーリンの身体を飲み込むがやはりというべきか手ごたえはない。

最初からそこには誰もいなかったかのように彼の姿は消え去り、花びらだけが残る。

 

 

またもや幻影である。

質量を持ち、体温があり、物体に触れたり動かしたりもできるが、それでも幻なのだ。

しかし彼のこの手の力を見るのは二度目である。

 

 

既に「彼ら」の瞳はマーリンの本質を捉えつつある。

故に三度目……次は、ない。

 

 

 

後は何も問題なく物事は進んだ。

深い眠りについたモルガンを見舞ってからローマに戻り、計画の大詰めを彼は見直す。

ルキウスによる軍備の編成とブリテン征服計画は全て順調に進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らの居城に戻った朱い月は興奮を隠しきれない様子で玉座に飛び込むように腰かけると、ひどく上機嫌で自らの従者であるグランスルグに声をかけた。

足をパタパタと動かし、ひじ掛けを指先でノックしながら彼は言う。

 

 

「そなたの言は正しかったなグランスルグ、我が臣よ! 

 私以外の降臨者、宙の果ての更に向こう側! あぁ──なんと胸焦がれる話だったか!」

 

 

 

「おめでとうございます我が王よ」

 

 

深く頭を垂れる黒翼を眼下に朱い月は愛おしむ様な優しい声をかけた。

何処か憂いを帯びた微笑みを浮かべ、彼は極上の酒の余韻を楽しむかの様に熱い息を吐いた。

 

 

「……本当に奴と話せてよかった。

 そうか、私以外にも多くの生命が宙の果てには存在するか……ふふ」

 

 

 

堪えきれない激情に身を震わせ、子供がそうするように彼は無邪気に笑う。

おおよそ霊長のもつ倫理観など存在しない彼は全ての感情を感じたままに素直に出力する無垢な存在であった。

彼はこの後にどうなるか知っている。星が彼に何を望んでいるのかも、その為にどう行動すればいいかも全て。

 

 

 

だからこそ楽しくて仕方がなかった。

永遠の寿命と絶大な力を誇り、全てが思うがままの超越種は初めてやりがいのある仕事を見つけたのだ。

月の王は自分自身に言い聞かせるように言葉を放つ。それは彼なりの決意表明であった。

 

 

「ウラキ・ガンヴィウス=クィリヌス……我らが持つ全てを以てそなたに挑もう。

 長く生きてきたが何かに挑む等という事は初めてだ!

 胸の鼓動が早い、身体が熱い……血が滾る……人のする“恋”とはこのようなモノなのだろうか? 誰か知っている者はおるか?」

 

 

 

どうなのだ? と眼下の部下に話しかければ答えのはグランスルグではなかった。

先ほどまでじっと無言を貫いてきた少年が少しばかり顔を高揚させて答えた。

 

 

「断言はできませんが……それは“期待”かまたは“希望”と呼ばれるものと思います」

 

 

「そうか……恋ではないのか。しかしこれはこれで良いものだな。

 ……そういえば、近頃はそなたに余り構ってやれなかったな、近寄ることを許すぞメレムよ」

 

 

「えっ? あ……───ぁ」

 

 

少年が呆けた顔を晒している間に朱い月は腕を広げ、彼を不可視の引力で引き寄せてすっぽりと抱き込む。

まるで父が息子にそうするように彼は少年の頭を撫でた。

 

 

 

「来る日ではそなたには一層の苦労を掛けることになる。

 これは報酬の前払いという奴だ。

 ……うむ、そなたは温いのだな」

 

 

「────」

 

 

少年は何も言わない。いや、言えなかった。

朱い月の言葉に何処か引っかかるモノを感じ取りはしたが、降って湧いた途方もない幸運は彼から思考を奪ってしまっている。

 

 

そんな光景をグランスルグだけが黙って見つめていた。

少年とは徹底的に反りが合わないと自覚している彼であったが、今日ばかりは彼の主に抱く不愉快な感情を容認する寛大さを抱く事が出来た。

朱い月の言葉の裏側まで読み取れた彼には、おおよそ少年がどのような役目を与えられるか予想がついてしまった故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星に幾筋もの青い閃光が突き刺さる。

虚空に開いた穴から惑星に暗黒エネルギーで武装したαクラスエネルギーの攻撃が降り注ぎ、惑星を処刑しているのだ。

 

 

大気が瞬時に焼け落ち、プラズマの塊となった。

海が蒸発し、その中に住んでいた無数の生物が雲よりも高く放り投げられ、太陽光によって直に焼き殺される。

海底の更に奥深くまでエネルギーランスが大穴を穿ち、星を構成するあらゆる元素が無茶苦茶にかき混ぜられ、分子構造が崩れていく。

 

 

翡翠色の崩れた分子が放つ光に星が覆いつくされ、最終的に惑星が“溶け”堕ち始める。

子供のお菓子である飴玉を焚火に翳したように惑星が撃ち込まれたあまりのエネルギーの前に耐え切れずボロボロと崩落してしまっている。

これは正に「処刑」という名前が相応しい所行だ。

 

 

 

ブリテン島が割れて跳ね上がり、宇宙空間の向こう側へと吹き飛んでしまう。

ヨーロッパは無数の何億もの瓦礫と残骸、小惑星サイズにまで微塵に砕かれ、最終的には膨大な熱量によって発生した特異点、暗黒の星の中に引きずり込まれてしまう。

その他、この星にあるあらゆる文明が、命が、今まで積み重ねてきた全てが青光に飲まれて抹消されてゆく。

 

 

46億年の積み重ね。

数億年の生命の歴史。

数万年の文明と活動。

何もかも、一切合切が無慈悲に押しつぶされる。

 

 

地表が消えた。

世界は砕けてしまった。

文明は既に亡い。

知性あるものは「彼ら」にとって分子一つ分程度の興味も抱かれることはなかった。

 

 

 

でも、少しぐらい残るだろう、と僅かな何の裏付けもない希望はあった。

 

 

 

 

────星が散り散りになる光景を見た誰もがそんなものはないのだと悟った。

 

 

 

 

これはもはや暴力とさえ言えない。

宇宙規模の天災である。

たまたま、太陽系の間近で超新星爆発が発生し、その余波に巻き込まれてしまったという次元の話だ。

 

 

声にもならない悲鳴と共に惑星……地球が砕け散っていく。

南極から北極にかけて莫大な暗黒エネルギーの奔流が輪を描きながら走り抜け、最後には星の外殻が“内側”に落下していく。

内部に蓄積された想像を絶するエネルギーは地球の全質量と元素を砕いた上で新しい小型の、それこそ掌よりも小さな暗黒天体へと作り替えてしまう。

 

 

 

そんな光景を一人の王が見つめていた。

否、見せつけられていた。

これは幻覚であると知りながらも、実際にその光景を見た者によって再現された映像は途方もない現実感を以て王を焼き尽くしている。

 

 

眼球を何度も焼かれ、そのたびに再生を繰り返すが激痛は止まらない。

それでも王は眼を逸らす事は出来なかった。

もしかしたら訪れるかもしれない終焉の景色は、王を以てしても身震いを引き起こさせるものだった。

 

 

 

「…………これでは、何も残らないではないか……。

 皆の思いも、今までの戦いも全て……消えてしまう」

 

 

呆然と王はつぶやいた。

 

 

ただの災害ならばまだ生き残った者がまだ未来に語り継ぐことができた。

戦争によって国が亡ぶのは悲劇だが、命そのものが滅ぶわけではない。

多少は遺産が残り、遠い未来の人々が「こんな文明もあったのだ」と思いを馳せてくれたかもしれない。

 

 

だが、その土台である星が終わってしまえば何も残らない。

そんな光景を王は見てしまった。

 

 

 

王……ブリテンを統べる赤き竜アーサー・ペンドラゴンは終末を見せられていた。

 

 

 

「残念だけど」

 

 

 

男の声がアーサー王の背後から響く。

何度も聞いた事のある声。

彼の師にして最も付き合いの長い家臣であるマーリンの声。

 

 

ここは彼が作り出した夢幻の世界である故に、当然の様に彼は現れる。

 

 

「これは既に一度行われた行為なんだ。

 この星の意思が彼に威力偵察を行ってね、その時に用意した仮想の星はこうやって砕かれた」

 

 

 

マーリンは慈愛さえ感じる穏やかな声で続ける。

 

 

「彼らの目的は君だ。君の持つ剣と鞘……そして君自身を彼らは欲している」

 

 

 

青紫色の霧が周囲を覆いつくし、集結すればソレは一人の老人の姿となった。

永遠帝国、ローマを支配する神祖クィリヌスの姿だ。

クィリヌスはアーサー王を見つめている。

 

 

瞬間アーサー王は肌が泡立つ。

優れた未来予知にも等しい直感を持つ彼女は一見しただけでこの存在がおぞましい異物だと察してしまう。

この星におけるあらゆる概念、神秘、法則の外側に位置する異形だと。

 

 

「この星を救う方法は簡単さ。彼らに君がその身を捧げればいい。

 皆の為に選定の剣を抜いたんだ、仕える相手が変わるだけじゃないかい?

 僕が話した所、彼らは以前この星を襲った巨人よりは話が分かる存在だったよ」

 

 

 

「…………」

 

 

王の瞳は僅かに揺れる。

途方もない力を持つ存在を前に挑むという行為は英雄的であるが、あまりに隔絶した存在への挑戦は蛮勇と取られても仕方がない。

指先一つで星さえ砕きうる存在に服従するのは当然ではないかとさえ思ってしまう。

 

 

 

「私は……」

 

 

「ちなみに彼らがこの星を支配したらこうなるね」

 

 

 

マーリンが眼下に映る地球を見やる。

砕けた星は元の美しい青い姿に戻っていた。

 

 

アーサー王もつられて視線を移せば、地球は巨大な金属のプレートに覆われていく。

パイ生地の様に何百枚もの機械仕掛けの板が惑星をすっぽりと抱擁する。

 

 

海が見えなくなった。

大陸が消えた。

地表の全ての生物は太陽を奪い取られた。

 

 

宇宙からでも視認できる巨大な光が幾つも灯され、惑星自体が一つの都市……エキュメノポリスへと作り替えられる。

正に文明の極み。惑星さえも支配するという傲慢な意思の表れと王は思った。

 

 

あらゆる病を完治させ、消し去る魔法とも評せる薬が配布される。

無尽の食料とエネルギーが隅々まで行き渡り飢えや貧富の差は残らずまっ平になった。

肌の色も思想も肉体的な差も全ては些事であり、何もかもが公平に扱われる。

 

 

寿命という概念さえも消えた。

望むものには永遠を。死を願う者には眠りを。

生きる自由は当然として死ぬ自由さえそこにはあった。

 

 

 

宗教はただ一つの形として「彼ら」を称えるモノのみへと統合された。

目に見える形で君臨し万能ともいえる力を振るう「彼ら」が間近にいるというのに何故何もしない神とやらを崇拝する必要がある?

 

 

 

之こそはユートピア。

全ての人類が願い続けた楽園である。

 

 

 

これだけを見れば素晴らしい未来だ。

人類が延々と続けてきた全ての争いは消え去り、差別は消え、飢えも病も根治される。

しかし……それら全ては人類が自力でたどり着いたものではない。

 

 

「彼らは霊長は保護すると言ってたよ。そこだけは信じていい筈さ。

 ……ただし僕や君みたいな幻想の存在は彼らにとっては研究対象らしくてね、容赦はされないだろう」

 

 

幾つもの概念的な掘削機がテクスチャへと撃ち込まれる。

王の持つロンゴミニアドを人工的に再現したテクスチャへの干渉システムが稼働を開始した。

空間や概念、神秘という膜が引っぺがされその裏側や奥に存在していた幻想達が引きずりされる。

 

 

 

妖精。

巨人。

竜。

獣。

英霊。

そればかりか神さえも。

 

 

全ての幻想種がガンヴィウスの持つ籠の中に放り込まれ、彼はそれを新しいコレクションでも見るかの様に眺めている。

今まで人類が積み上げてきた全てもこの異形にとっては敬意を払うものではなく解析し、ラベルを張り付けて壁に飾るサンプルでしかない。

 

 

それだけではない。

天に浮かび万物を照らし出していた太陽までもが巨大な力に覆い隠され、そのエネルギーを搾り取られていく。

ダイソンスフィアは「彼ら」が恒星を支配する為によく用いる方法である。

 

 

光を奪い取られたエキュメノポリス以外の全ての惑星が宇宙の凍土に放り出され、凍り付く。

 

 

その光景を前にアーサー王は怒りを抱いた。

人類史が脈々と積み重ねてきた思いの結晶をただの研究対象としか見ず、更には世界の全てを所有していると言わんばかりの振る舞いは正に傲慢な侵略者だ。

同時に冷静な王としての彼女は、それさえ我慢すればこの存在はブリテンの民も含めた全ての人々に半永久的な平和を与えてくれると悟っていた。

 

 

揺れる王の心を後押しするように後ろから声が響いた。

 

 

「王よ。我らは常に貴方と共にあります。

 たとえ敵がどれほど強大であろうと、我らが剣が陰ることはありません」

 

 

膝をつき頭を垂れるのは最も長い付き合いでもある円卓の騎士、ガウェインだ。

彼もまたマーリンにかの星の終わりを見せられていた。

だというのに彼はそれでも、王の勝利を信じていた。

 

 

「我らは王に剣を捧げた身。

 貴方と貴方が守りたいと思う者たちを守護する盾にして剣。貴方が諦めぬ限り、勝利を必ずや捧げましょう」

 

 

気づけば彼の両隣には円卓の騎士たちが彼と同じように跪いていた。 

 

 

ランスロット。

トリスタン。

ケイ。

ガレス。

ギャラハッド。

ベディヴィエール。

 

その他にも全ての円卓の騎士がアーサー王の言葉を待っている。

 

今こそが。

この瞬間こそが、アーサー王としての、否、この星の分岐点なのだと王は悟った。

 

 

楽な道は常に魅力的だ。

剣と鞘を捨て、外宇宙からの侵略者に服従すれば何一つ犠牲は出ないだろう。

その代わりとして人類の未来は永遠に保証される。

 

 

果てに人類は考える葦でさえなくなってしまうだろうが、それでも繁栄は出来る。

まるで家畜の様に彼らに奉仕し愛玩されるだけの生物としてだ。

 

 

 

ガンヴィウスが王に歩み寄り、手を差し伸べた。

これが最終通達であると言わんばかりに。

この手を取れば、だれも犠牲にならない、お前一人が下れば手荒な事はしなくて済むと。

 

 

 

アーサー王は────剣の切っ先を異形に向けた。

 

 

かつてない程に高まった聖剣の輝きはもはや恒星のようであった。

黄金色の光はどこまでも深まる。

剣が秘めていた潜在的な能力はここにきて解放されつつあった。

 

 

ガンヴィウス……否、彼という端末を動かしている「彼ら」に向けてアーサー王は強く宣言した。

竜の心臓が力強く鼓動し、無尽蔵の力を彼女へと与える。

 

 

 

「下がるがいい異星の神よ!

 欲するのならば取りに来い。無論、容易く手に入れられる等と思うな!!」

 

 

 

アーサー王の宣戦布告とも取れる言葉に神祖と名乗る怪物の姿が青紫色の霧になり霧散していく。

ガンヴィウスは刹那、笑っていた。そうでなくてはと言わんばかりに。

 

 

「……君の答えは判ったよ。こうなれば僕も腹を括るしかないかぁ」

 

 

いつも浮かべている胡散臭い中身のない笑みとは違う、何処か哀愁を漂わせた表情でマーリンはアーサー王の隣に並び立つと宣言した。

王の魔術師として力強く彼は言葉を放つ。

 

 

「王は決断なされた! ならば我らの行う事は一つ────王に勝利を捧げるのだ!」

 

 

いつになく真面目ですねとアーサー王に微笑みかけられたマーリンは一瞬だけ口を尖らせて拗ねたような顔をするが

直ぐに誰もが知る胡散臭い表情と振る舞いの優男に戻ると言った。

 

 

 

「なぁにちゃんと策はあるとも。

 それに、思ったよりも僕たちの味方は多いみたいだし。皆で力を合わせて戦えばいいのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【計画始動】

 

 

 

アーサー王は我々の提案を拒んだ。

彼女は我らの差し伸べた手を払いのけたが、問題はない。

元より彼女の性格上、黙って服従するなどという事はありえないと結論は出ていた。

 

 

何処からどう見ても合理的ではない選択を行われる事は多々あるものなのだ。

最も輝きを放つ状態の彼女を分析して初めて最高の結果は得られる。

 

 

さて、我々の計画は大詰めを迎えようとしている。

モルガンの協力の元、かの霊墓に眠っていた巨大な魔術回路の復元は完了し後は起動を待つだけである。

コロッサスの改良も終了し、艦隊を伴っての惑星軌道への展開も進みつつあった。

 

 

ロンディニウムの防備は完成し、ルキウスの軍備の編成も終了した。

今まで永遠帝国に組み込んだ全ての人種を総動員する軍勢は開戦の時を待ちわびている。

 

 

更に嬉しい誤算としてルキウスはシュラウドを認識してからとてつもない速度で力の扱い方を会得し始めている。

当初の想定をはるかに上回る能力を得た彼を円卓とアーサー王にぶつける日は近い。

我々の作り上げた最強の個体とこの星が生み出した天然の超越種、両者の激突の末にどのような化学反応が起きるかは我々にも未知数の部分がある。

 

 

 

……我々は1万年以上待った。

全ての研鑽が報われる瞬間はもう間もなくだ。

数多くの「客」たちを迎え入れる準備も整っている今、後は号令を一つ発するだけである。

 

 

 

 

【では始めようか】

 

 

 

 

 

神導ローマ帝国がブリテン王国へ宣戦布告を行いました。

戦争理由は「アノマリーの入手」及び「イデオロギーの強要」そして「征服」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうそろそろ終わりが見えてきました。
一応の完成の後はFGO本編の進行に合わせて続きを書くかもしれません。
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