新しい姿で前に立つ。扉を開けて
決意の背中を見せながら、彼女がこちらを振り帰る。
これにて楪ストーリーは大団円。めでたしめでたし。
これは、後日談。楪帆波が夢を叶えた後の出来事。
「「「「楪帆波は1人じゃない。」」」」
彼女
デスメタル帆波、ギェピ帆波の4人が一堂に会している。
いつぞやのオンライン飲み会の面々である。
「え?そういう意味だったの?1人じゃないって。」
「『楪帆波は1人じゃない』なら『楪帆波は複数人いる』と同義ってこと?作者の性格歪みすぎじゃない?」
「茶化しているというか、揚げ足を取ってるっていうか・・・。」
「みんなが応援してくれてるって意味で言ったんだけどなあ。」
それぞれ誰の発言か判然としないが、本家の動画も
そうであったし、物語の進行に支障はないので
安心して欲しい。口調が異なるほなばあとゆろりはの
登場も考えたが、彼女が未来の自分の夢を
見ている都合でややこしい事になるのだ。
「私、役割分担するために自分が何人もいたらいいのにって、いつかの雑談で言った覚えがあるんだけど。」
「確かに。かなり前に実現してたんだね。」
「私たちが何人もいたって分業なんて絶対できないけどね。全員が同じように一日中ゲームするしエゴサするし昼夜逆転するよ。」
最後の昼夜逆転は役割分担とは関係ないが、
真理ではある。他の自分がゲームに興じている一方で
漢字ドリルをこなす楪帆波などありえない。
「意外と知らない間に叶ってたり、叶ってみれば思ってたのとは違ったりするものかもね。夢とか理想って。」
らしくない教訓めいたことを言い出した
彼女達の会話に、かつての居心地の悪さはない。
自身と話しているのだから気まずく話す方が
不自然だと思うだろうか。しかし、初めての
飲み会のとき流れていた硬直した空気は、
目も当てられない有様だったのだ。
あれから数ヶ月が経った。自分に対して敬語や敬称を
つけていたことを鑑みれば、めざましい進歩といえよう。
「最近、セロリハ帆波っていう異名ができつつあるんだけど、いつかこの会談に加わるのかな?」
「そしたら四天王じゃなくなっちゃうね。」
いつから四天王だったのだろうか。そもそも四天王とは
それより上位存在があって成立するものなのだが。
そこはかとなく楪帆波女王陛下の影をちらつかせて
彼女達の雑談は続いていく。
久方ぶりにあった友人との雑談で話すことなど
過去の思い出話か近況報告と相場が決まっているが、
この場合、相手が自分自身である。
経験や知識を共有する彼女たちの話題は、必然的に
未来へと足をむける。自分と共に過去を振り返るなど
なかなか体験できることではないが、
なにしろ彼女の性分ではなかった。
「やっぱり自由に動けるっていうのはいいね。いろいろとできることが広がるよ。」
物理的な可動域も広がったのだが、言うだけ野暮である。
「みんなが思いもしないことをやろう!」
「次の配信が待ち遠しいね。私もみんなも忙しいければ忙しいほどいいよ。」
「じゃあここでいつまでも駄弁ってる訳にはいかないね。さて、と。」
彼女達は示し合わせたように同時に立ち上がり、そろって扉の前に立つ。
「そろそろ1人の楪帆波に戻ろう。」
「1人じゃないって話じゃなかった?」
とぼけたように問うているが、その答えはわかってると言いたげな笑顔だ。
「うん。『独り』じゃないよ。」
「そういう言葉遊びだったんだ。」
「願いと期待から産まれたんだもん。応えなきゃ嘘だよ。」
「失敗は怖いけど、みんながいるならそれすら楽しめるかもね。」
先ほどまでいた3人の楪帆波は、瞬きほどの間に1人に
統合されていた。外からの波の音を聞く。潮の匂いを嗅ぐ。
「やりたいこと」がそこにあると彼女は確信して扉を開けた。
まだ見ぬ航路を求めて帆を張る。遥か先に見える、
難破した帆船を避けて進む。未来の記憶を
辿らないように。迷子になるのも地図が読めないのも
無理はない。彼女が挑むのは前人未踏。地図はまだないし
目的地の方向もわからないのだ。
未知を道にする営みである。
期待や願いはそれに応えようとしたとき、それは
呪いになる。規定になる。縛りになる。
在り方を定義し、限定する機能があるゆえに。
しかしそれは必ずしも悲劇になるとは限らない。港は
船をそこに碇泊することを期待するが、船員はそこで
補給を受け、陸に酔うのだ。船員の冒険譚に
目を輝かせる民が集うのだ。
今日は配信の日だ。いつもの画面には、私の味方が
待機している。さあ始めよう。決意も覚悟も要らない。
なぜならここは私の帰る場所。分からないことだらけ
だとしても、彼らが私を独りにしないことだけは
知っている。過去よりも、いや、未来よりも新しい姿で
彼らの前に立とう。それを以って
楪帆波が
「おはなみ!!!」
これは、前日譚。楪帆波が夢を叶え続ける物語の、
前の出来事。
言葉を弄すれば弄するほどチープになりましょう。
タイトルの通り、ほなみんへの「こういうカタチの」ファンレターです。
頑張って書いたので面白かったと言ってもらえると嬉しい。