「で? どうここを抜け出すの?」
「ドアは────」
────うん、さすがに
ガチャガチャと取っ手を俺は捻るが扉は開かない。
「後は────」
ラケールがそう言い天井を見上げ、
そこには換気とメンテナンス用を兼ねた換気口が見える。
「不気味なほど静かだな」
「そうね、何かしら聞こえてくると思ったんだけど…」
「よし、一人の上に誰か肩車した上で三人目が上ったところでやっとリーチする高さ位か?」
「見たいね。という訳でアンタが一番上ね────」
ラケールが俺に方向に指を指す。
「ってちょっと待て! どうしてそうなる!」
「だってこの三人の中で隠密行動経験者は私達二人、でも力で言うと
「俺はケイコに上らない」
「「え?」」
二人が俺を見る。
…ちょっと気まずいな。
「なんで?」
「い、いや……だって……女に上に上るってのは抵抗があるって言うか────」
「────アンタこの非常時に何言っていんの」
「そ、そうですよマイケルさん」
うぐ。この二人から同時に正論が来るとは。
「てか
「ふ、不束者ですが頑張ります!」
「…苦労掛けるな、すまないケイコ」
「いえ、私は構いせんよ?」
ええ子や。
この隣の人と違って。
「っで? なんでそこで俺をジーっと見ているラケール?」
「う、ううん…べっつにー?」
「じゃあ、俺が換気口からこの部屋のカギを開けてくる」
「そして私達二人はここで待機。見張りが入って来たら拘束の振りをして不意打ちを掛けるって事で良いわよね?」
「話が早くて助かる」
「ふ、不意打ちと言うのは?」
ケイコが俺達二人に聞いてくる。
「普通にこれ?」
ラケールがチョークホールドからの首折りモーションをケイコにジェスチャーする。
「???」
いやいや、それじゃあ伝わらないぞラケール。
「あー、極端な話
「あ、成る程。
お、これは通じたな。
よし、
………
……
…
「しっかしこの
俺は身をよじりながら先進む。
今通っている所はマッチョな男(またはデブ)だったら百パー詰んでいるな。
少しの間進むと次のダクトの隙間が見えてきた。
お? なんか話声がする……
『────で────あるからにして────』
『成程! 流石────ですな!』
『いえ────序の口────』
この声は……男女の声だな。少なくとも一人ずついる。
どんな部屋何だろう? 声のトーンからして監禁されてなさそうだが……
俺はダクトカバーの隙間を覗き、部屋の様子を窺っ────。
「ッ?!」
部屋の中を見ようと近づいた瞬間腐りかけている血と肉、人の糞尿が混ざった様な猛烈な匂いが鼻を襲う。
思わず声を上げそうになるが息をこらえラケールのゲテモノ料理を思い出し呼吸を鼻から口に変える。
ダクトカバーの隙間を覗くと中には医療室っぽい景色が見えた……様な気がする。
明らかに違うのは患者用のベッドや医療器具が部屋の端に動かされたのか見当たらない。
床の所々は真新しい血と古い血、肉片などが混ざり合った箇所。
そして部屋の中心辺りの床には誰かが直接
「成程成程! こことここが間違っていたから体は合成を果たせなかったのか!」
声からしてこっちが男だな。
見た目はよく見えないが……強いて言うなら“狂気”に近い熱気の様な物が声から感じ取れる。
そこから視界の中に他の誰かが話しながら歩いてくる。
「そうそう。これは初歩的な事だからメモっとくのを忘れないでね? ……えーと、貴方達で言う“中身”が無事だったとしても入れ物が不完全だと────」
こっちは女か?
声からして成人、足音からは身長は160から170㎝位か?
ハイヒールの安定からして体型はスリムっぽいな。
話からして何かの議論か?
いや待てよ、あの床に刻まれている模様……
おいありゃもしかして魔術の術式か?!
「まさに陰と陽の関係! 素晴らしいです! 人の長年の願いに一歩近づけた!」
「でもまさかティダ帝国の研究者の中にまだこれほど魔術の知識が残っていたとは思わなかったわ。てっきり科学の歴史の中に埋もれていったと────」
「何を言おう、過去の私の家計は初代ティダ帝国皇帝家の血族関係者だったのです! 他の者達は“時代遅れ”や“意味が無い”など数々の暴言を言い残し去って行った者と私は違う! 私は────」
「あーハイハイ。“先祖代々の知識や研究の書き残しを現代に再現できるかどうかが私の生産”……だっけ?」
「そうだとも! これが成功した暁には今の銃や“モビルソルジャー”など比べ物にもならん大きな“力” が手に入る!」
「それでまずは“コレ” って事?」
「そうだ! おい! 次の者を連れて来い!」
部屋の中の男が出口らしき方向に声を荒げ、近くのテーブルの上の何かを見ながらブツブツと低い声で独り言を言い始める。
女のほうは視界から出て椅子かベッドに腰かけたのかギシッと音が上がって以来何も聞こえてこない。
……これ以上ここにいても時間の無駄────
────と思ったら何か部屋の外が騒がしくなった。
『!!!』『!!』『!?!?』
何か怒鳴っているような…
まさか
扉が乱暴に開く音がして、怒鳴り声の内容が明らかになる。
部屋の中に連れてこられたのは拘束された男子……服装からして警備員
か?
うわ~、かなりボコられたな。
てかこれは動くチャンスだ。
何だ? 警備員をあの術式らしき物の中心に────
「ぐわああああああ?!」
────足の甲を
ホー、イタソー。
っと、呆けている場合じゃない、動くチャンスだ。
警備員が叫んでいる間に俺は先に進み、首筋辺りがゾワっと一瞬毛が立って警備員の叫びが止んだ。
…何が起こったのか分からないが早いところここから出ないといけないな────
『クソ、これも失敗か!』
『そうみたいね』
後ろから声が遠のき、俺は進む。
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「うーん、不気味なほど静かね」
「…」
「他に誰か聞き取れる?」
「……あ、すみません。何ですか?」
「他に誰か聞き取れ────って何してんの?」
「あ、亡くなった方に祈りを…えっと、他に“人”は聞き取れません」
「じゃあ、出来るだけマイケルの方向に行って出られる部屋に先回りしましょ? 私が合図したらついて来て」
「ハ、ハイ」
ラケールが銃を拾い上げ確認している間に
「�����」
「ん? 何か言った?」
「いえ」
「そ。 じゃあそっと付いて来て」
やはりこの世界はおかしい。
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……よし、ここなら出れそうだな。
「うげ、埃だらけ」
さっさと髪と顔を払い、ドアの方に近づき外の様子を見る。
…しかし手薄だな。見張りか他の奴らがいてもおかしくないのに。
そう考えながら物置の中の箱などを確認する。
「うーん、さすがに銃とかはないか」
中には非常時の時の為の器具や薬に────
「いや待てよ、コレ使えるぞ」
俺が中身を拝借しているとドアの外から気配がし、俺は物陰に移る。
気配が大きくなり、ドアの前で止まった。
俺はドアが開く瞬間を待ち構え────
「ちょ、マイケルストップ、私達よ!」
ラケールの小声で俺は薬物を投げるのをやめた。
「お、お前らも良く無事に出られたな?」
「運が良かっただけ、ね?」
「ハイ……ですが何か変です」
ケイコがチラッと俺の方を見た様な気がした。
「何が?」
「その……他に人が見えなかったのです」
「は?」
「そうなのよ、さっきまでずっと警戒していたんだけど人影が断然────」
そこでケイコがラケールの話を止め、横を向いた。
「待って下さい…何か…聞こえます」
「早く中に入れ!」
ラケールとケイコが俺のいる部屋の中に入り、俺達三人は息を潜んだ。
潜んで数秒後、ヒタヒタとした足音らしき物が汚臭と共に通り過ぎる。
…ホントラケールのゲテモノ料理に感謝する。
「失礼ね────!」
ヤベ、声に出ていたか。
「────てかクサ?! 何この匂い?!」
「少し見てくる」
俺がドアをそっと開け、通り過ぎた通路を見ると────
────そこにはおぞましい
「何だ、
通路を歩いているモノ、それは
四足歩行で身長は2メートル前後位、全長は6メートル……
いや、
重要なのはソイツの身体の皮下が剥き出しの姿で所々の腐った血肉がずり落ちて床にボタボタと落ちて行く。
まるで身体がすごい熱を浴びているのか熱気の様な物が辺りに拡散していく。
「…なに、
俺の肩にラケールの顎が置かれて彼女も
「分からん、だがそんな物を突撃部隊はどうやってここに持って来た?」
あの大きな犬モドキが何かに気付いたのか、鼻らしき部位(異様な形だが鼻面っぽい)から大きく息を吸い込む。
「ヤバ────」
「あ痛────?!」
俺はドアを閉めながら身を後ろに移動させ(ラケールにちょい頭突きを食らわせてしまったが今はどうでもいい)、取り敢えず消臭剤になりそうな重曹をドアの隙間辺りにぶちまける。
「ゲホ、マイケルさん何を────ムグ」
「し、静かに」
俺はケイコ(ついでにラケールも)部屋の奥に押し、口を手で塞ぐ。
「Fushuuu… Fushuuu…」
荒げた息の様な音がドアの隙間から聞こえ、重曹の粉が
重曹を撒くのは不味かったか?
「Fushuuu… Fushuuu…」
お、ナイスファインドだラケール。
ラケールが俺に敵から奪った銃の一つを渡してきた。
AK-105カーバインか…使い慣れていないが欲をかいている場合は無いな。
てか早よどこか行けや!
〔マイケル、ラケール、ケイコの三人がいる物置部屋の外には先程マイケルとラケールが見た大きな犬モドキがドア付近の匂いを嗅いでいる様な仕草が見えた。〕
どうでもいいかもしれませんが後21話の“POW”は“Prisoners of War”の略です。