〔病院の中の講堂の様な部屋の中には先程見た軽傷の兵士などが座っている場面が見え、士官らしき者達が先頭で演説を行い、博物館での出来事を一通り説明していた。
この様な事は初めてではないらしく中の兵士のほとんどは五割が表情や姿勢を変える事無く妄想や今後の予定を立て、三割は明らかに“こんなの時間の無駄だ”と言う姿勢を取り、一.五割強は新兵、または軍人学生での低学年らが興味津々に演説を聞いていた。
残りの者達はいずれ知人を亡くし、心がここに在らずと言った様な虚ろな目をしていた。〕
「────」
「……」
〔その中にはマイケルもいた。
士官たちの演説や説明など聞き流し、ただただ前を見ているのか分からない顔をしていた。〕
「────、────ではこれにて終了する。 なお、戦死を遂げた者には二階級特進が与えられている────」
…ああ、これで終わりか。
「────ん? “仮市民”? …フム、名誉の戦死を告げた仮市民は正式な市民、また階級を上等兵とする! 以上!」
…仮市民は正式な市民?
〔周りがざわつき、“やっと終わったー”と言う人だかりの中、マイケルは唖然としていた。
彼から見ても今まで大差ない出来事の後処理、何時もの事だった筈。
されど今回彼の中には意味不明な程の気持ちが渦巻いていた。〕
…それだけ?
〔マイケルはほかの周りの人たちが立ち上がるにつられ、自分も立ち病院内の講堂を出始める。〕
『────あなたはまるで自分の命に執着心がないように見え────』
誰だっけこの声?
…ってケイコか。
〔外へと出ると
他の人が戸惑う中、マイケルは構わず雨が降り注ぐ道を歩いて行った。〕
何なんだこれ?
身体の奥が、芯が抉り取られたような…
これは
『それが悲しいのです』
悲しい? これが?
『あなたの行動はまるで、生き急いでいるような感じがして────』
…ああ、これは…
今ならケイコが何の事を言っていたのかちょっと分かった様な気がする。
〔マイケルは雨の中を歩き、横断歩道からそのまま道の向こう側に渡る為に歩いた。
歩行者用信号を確認せずに。〕
そっか。
これが“悲しい”って事か。
まるで心臓が抜かれたような気分だ。
何か…嫌だなこれ。
でも今回は飲む気にもなれないや。
何か…どうでも良い────
〔マイケルが考えに耽っている為彼は横から来る強烈なライトを出し、クラクションを鳴らしている物体にかなり遅く気付く。〕
あ、これは跳ねられるな。
…これで俺も死ぬのか?
〔そう思い、急接近する車を
そして彼、マイケルは────〕
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〔時はほんの少し遡り、場面はラケールへと移る。
彼女はマイケルから少し離れた所で考えに耽っていた。
頭には包帯が巻かれ、頭の髪がほとんど隠れているような姿だった。
ラケールは近くにあった支給品の傘の一つを手に取り、何かを探すかのように辺りを見渡す。〕
聞きたい事が────いた!
〔降る雨の勢いによって視界が多少遮られるが、ラケールはマイケルらしきものがフラフラと歩いて行くのを見てその後を追った。
やがて距離が後数歩と言った所でマイケルが横断歩道から道へとそのまま歩いた。〕
「ちょっと────?!」
〔そこでラケールはクラクションとヘッドライトがマイケルの横から来ているのを見聞きする。
そしてそれをただ見ているマイケルの顔をも。
ラケールが気付く頃には既に持っていた傘を手放し、マイケルの身体を勢いで押し倒して来ていた対向車が素通りしていた。
その勢いでラケールの頭に巻かれていた包帯が緩み、中から多少の白金色の髪が姿を現せ、風の中で揺れていた。〕
「アンタ馬鹿?! 馬鹿なの?」
「……」
「それとも何も考えていない訳?!」
〔ラケールは怒りを露わにした表情でマイケルの上半身を無理やり起こす。
ちょうど自分はマイケルの腰の上を乗っているのでマイケルは角度で言うとちょうど120度位で腕は力が入っていなく、ダランとしていた。〕
「…あ、ラケール」
「“あ、ラケール”じゃないわよ!」
「…でも…」
「“でも”何?」
「俺は、約束を
「“また”?」
「前は0261空域戦線で…今回は────」
「ねえマイケル、その事なんだけど────」
〔ラケールは片手を使い、解けかけの包帯を頭から取り、中から白金色のセミロングのヘアスタイルが雨に濡れしっとりとしていた。〕
「────私は
「…そうか、ならいい」
“そうか、ならいい”?
「“そうか、ならいい”って、それだけ?」
「ああ、それだけかって聞いているんだよ」
何か…いつも以上にムカつく。
「何よ、そんな丸投げ状態になっちゃって」
「だって…実際何もやる気になれないし…俺は疲れた────」
プツン、と何かが私の中で切れるような感覚がして苛立ちが怒りに変わった。
「貴方だけがそんな気になっている訳ではありませんわ! 貴方は自分が“死んでも良い”など思っていてもそれを良しとしない人達はいるのですよ?! それは考えた事ありまして?!」
「ラケール?」
「何も…貴方だけが…」
私は目の周りが熱くなるのを感じ思わず俯く。
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「貴方だけがそんな気になっている訳ではありませんわ! 貴方は自分が“死んでも良い”など思っていてもそれを良しとしない人達はいるのですよ?! それは考えた事ありまして?!」
「ラケール?」
“何か口調がおかしいぞ”と指摘する前に────
「何も…貴方だけが…」
────そう震える声でラケールが俯いた。
よく見ると俺を掴む手も震えていた。
「…怒っているのか?」
「ッ?! 馬鹿!」
そうラケールが俺に叫ぶと同時に俺の身体に降ってくる雨が止まる。
「傘」
「え? あ、どう…も」
雨が止んだと言うよりは近くに来た退屈そうな表情をした女の子が支給品とは違う形の傘を広げ、その取っ手を俺に渡す。
俺が傘を渡され見上げるとその子と目が合った。
へー、この子琥珀色か────
────と思い、何故か一瞬ケイコの面影がこの子と重なった様な気がしたので俺はその子の顔から目が離せなかった。
「…」
…何だかこの子に見透かされている様な感じがしないでもない。
赤が混じった琥珀色の目が瞬きもせず俺を見続ける。
「彼女、死んだの?」
と、激突に問いかけて来た。
俺は未だに俯きながら震えているラケールをチラッと見て────
「────い、いや違う。 ただ怒って────」
「もう一人の方」
────え?
「も、もう一人って────」
「────死を確認した?」
「え、いや、だって」
何言っちゃってんだこの子?
「確認していないのなら死んでいない」
…は?
「だって軍医が────」
「────
…俺の確認?
「死は自分自身で確認し、納得した上で初めて意味として成り立つ」
「…え?」
目の前の少女が今までの会話で一番饒舌な台詞を言い、少女はその場を立ち去ろうと向きを変え歩き始める。
「あ、ちょっと待て!」
「…?」
引き留める俺の声に反応して少女が再度俺の方を見る。
「その…ありがとう」
「…」
頭を下げる俺に対して少女は表情を崩す事無く、無言で振り返り雨の中に消えて行った。
…そうだな。 そうだった。 あの子の言う通りだ。
俺はまだケイコが死んだ事を直接確認していないし、納得していない。
「すまないラケール」
「あ」
俺は申し訳なさそうに頭をラケールに下げ、謝った。
「少し、いやかなり自分勝手だった」
「…ううん、私も変な事を言ってごめんね?」
〔暫しの沈黙の後、マイケルとラケールは笑い始める。
まるで、緊張の糸を、今の空気を自らの手で切るように。
そこでラケールは傘の形に気付き────〕
「…あ、これって────」
ん? 何だ?
ラケールがマジマジと俺の持っている傘を見る。
「もしかして、木製?」
〔ラケールの指摘でマイケルは自分の傘の手触りがプラスチックやビニールではなく木製と気付く。
今まで見えていたビニール傘や合成素材などではなく、この世界では珍しい和傘の作りであった。〕
「へー、初めて見るなこんな傘。 何か良いもん貰っちゃったな」
木製の家具とかってもの凄い希少らしいからな。
「そう言えばあの子の名前って────」
「────あ」
〔そこで
「まあでも、見かけたらすぐ分かるでしょ。 あんな目立つ格好しているし」
「目立つ格好? どんなんだ?」
「…」
ラケールがジト目で俺を見る。
って、何でだ?
「あ、そ。 あの子の顔、いわゆる“正統派和風美少女”だったもんねー」
肩をすくめながらラケールがそう言う。
「へ?! いや、俺は目を見ていたんだが?!」
いくら俺でもそんな風に思われるのは心外だ!
この場面と空気で殴られるのは流石に御免だぞ?!
「クス、冗談よ」
ちょい待てや。
……少しイラっとした自分の気持ちを押し込み、次にしたい事をラケールに言おう。
「なあ、ラケール? 0261空域戦線の事なんだが…どこまで覚えているんだ?」
ケイコの生死の確認をしたいところだが…場合によっては
そうならないようにも出来るだけ信用できる仲間は欲しい。
先ずは身近なラケールを取り込もう。
「んー、最後って言うと母艦から出撃するちょっと前位…かな?」
「…分かった、混み入った話は帰ってからにしよう。 ラケールは先ずはヘレナ叔母さんに連絡────あ」
「何?」
「…いや、カツラしていないんだなって思っただけだ」
「ん? まあ…ね。 ちょっと蒸し暑いし今はこれで良いかなって」
〔マイケルとラケールは共に立ち上がり、和傘を差しながら雨の中を歩く。〕
「そういえばここから一番近いのはお前の家だな」
「ええ、そうだけど?」
「じゃ、お邪魔させて貰うぜ」
「はぁ…ハ?! え?!」
ラケールがびっくりした顔で俺を見る。
「え? いやでも、え? そ、そんな────」
何慌てているんだ?
ただずぶ濡れになったからシャワー借りたいだけなんだが?
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………
……
…
えー、突然ですが
ちなみに彼に勧められて私が先に入らせてもらいました。
え? なにこれ旧世界で言う“ドッキリ”って奴?
近くにアイリやクリフやリックがカメラ持って隠れていないわよね?
あ、これ漫画で見たかも!
でも確かあれって女性が気になっていた男性に慰められた後その男性の家に行ってシャワー借りてなかったっけ?
これってもしかしてもしかするともしかした?
いやいや、落ち着きなさい。 あの漫画の場合、あの
でもでも、実際は家に来てるしこれってもしかしてそういう展開になるんじゃ?!
「ムフ、ムフフフ」
ああ、私の顔がニヤケるのが分かるぅー!
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何やってるんだ、ラケールの奴?
……別の言い方が思い浮かばないが…椅子に座りながら百面相みたいにコロコロと表情が変わるラケールがいた。
あと蛇っぽく身体をクネクネとしていた。
何だあれ? キモ。
「ムフ、ムフフフ」
しかも意味不明な笑いまで出てるし…
近寄りがたい。
うーん、どうしたものか────
「────あ、マイケル」
「はひ?!」
〔ラケールがマイケルに気付き、満面の笑顔で声を掛けると彼は気の抜けた返事を上げた。〕
「湯加減どう────ぶえっきし?!」
「あー、お前も身体が冷えてたか。 暖房入れておくぞ?」
「う、うん…」
〔マイケルは近くにあるリモコンを使い、暖房機が付くとラケールの座っているテーブルの向かい側に自分も座った。〕
「さてと…どこから始めようか、0261空域戦線の話…」
「…じゃあ、私が知っている事から話しましょうか?」
「そうだな、そこで────」
「────でもいいの? その……先に私の話を聞いて?」
「…何の事だ?」
こいつ…もしかして気付いているのか?
感がいいからな、ラケールは。
「だって、
「ああ、でも今はお前の方が先だ」
「え?」
「大切な仲間だからな」
場合によっては共犯者になるかもしれないが。
「あ…ありがとうマイケル」
熱でも出たか? なんか顔が赤いような…
う~ん…それにしても
まあ、これはこれでいっか。
そこで俺とラケールが今の
“軽い”おさらいをするだけだしな。
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