俺と僕と私と儂   作:haru970

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第26話 「空っぽ」

 〔“大戦戦争(たいせんせんそう)”。

 それは世界をハウト連邦とティダ帝国と言う二つの勢力の戦争で、何時如何なる時にも何らかの軍事作戦が絶えなく行われている状態の事でもあった。

 人は長く続く戦争の中Docka、モビルソルジャー、大型宇宙ステーションなどの発明がされ、人は宇宙と言う新たな空へと進出しつつも戦いを続ける。

 その中の0261空域戦線はティダ帝国の要塞化した小惑星を奪取、または破壊するハウト連邦の強襲作戦にマイケルとラケールを含む小隊が参加していた。〕

 

「う~ん、またお前と組むとは────」

 

「────何よ? 文句あんの?」

 

 〔マイケルと思われる男性が“またか”と言いたそうな顔をしながら戦艦内にある通路を歩き、隣には翠瞳で肩までの栗毛の髪の毛でニヤニヤしながら横を小刻みにスキップする女の子がいた。〕

 

「内心は嬉しいくせに。 この、この」

 

 ゴリラ(ラケール)が俺のアバラ目掛けて肘を出す。

 

「いで?! 肘はやめろ! 自分の力考えろ!」

 

「え~? これでも手加減してるんですけど~?」

 

「よく言うぜ…」

 

 〔二人は格納庫に着き、各員が中のモビルソルジャーや小型船の整備や点検を忙しく行っている中、マイケルとラケールは自分たちのモビルソルジャー機へと向かう────〕

 

「で? 何でお前は俺に付いてくるんだ?」

 

 〔────と思いきやラケールがマイケルと共にモビルソルジャーのコックピットに入る。〕

 

「う~ん、アンタとちょっと話したい事があってね。 ほら? なんだかんだ言って色々あっても私達結構一緒にいる事が多いじゃない? 今年で大体何年ぐらいの付き合いかしら?」

 

 何年って…まあ、子供の頃からいたからな。

 

「…かれこれ十年ぐらいか?」

 

 うん、もう腐れ縁って事で。

 

「でね? もうそろそろ私達も成人するじゃない────?」

 

 何か嫌な予感がする。

 

「────最後まで話を聞け。 でね、今度一緒に飲みに行くってのはどうかなって」

 

「あー、うん。 俺はあんま興味ないかな」

 

「えー! 何で?!」

 

「ポイントが分からない」

 

 何が面白くて皆毒性物質を好き好んで飲むんだ?

 百害あって一利無しだろ?

 

「そんな事言ったらアンタが煙草を吸うのと一緒じゃん!」

 

「うるせえな、ロマンなんだよ。 お前のもどうせロマンだろ?」

 

「あのね? マイケルだから誘ってんの」

 

 …ん?

 

「どういう意味だ? クリフ、リックやアイリ達と一緒に、って訳じゃないのか?」

 

「ううん、二人だけでって意味で誘ってんの…駄目?」

 

 〔ラケールが少し恥ずかしそうにマイケルに問うと彼は一瞬呆気に取られた顔を引きつり、ニヤける。〕

 

 あ、分かった。 こいつ自分が酒に弱いかもしれないから酔い潰れた自分を運べる“保険”が欲しいんだな?

 

「これってお前が恥ずかしいから俺を誘ってんのか?」

 

「ち、違うわよ!」

 

「良いぜ」

 

「へ?」

 

「良いぜ、飲みに行こう。 それに…」

 

「それに?」

 

 う。 そこで聞くか?

 

 〔ラケールはマイケルの言葉の続きを聞くと、彼は恥ずかしそうにそっぽを向き、頬をかきやがてボソッと一言付け加える。〕

 

「…お前といるのも悪くないってな」

 

 なーんか気が楽になるって言うか、付き合いやすいと言うか────

 

「今、なんて?」

 

 ────うっわ。 顔近い。 何だか分からないがこれは滅茶苦茶ハズイ。

 

「さ、さっさと自分の機体に待機しに行けよ!」

 

 〔ラケールはニマニマしながら自分のモビルソルジャーに向かい、搭乗するとマイケルに通信を送る。〕

 

『約束だからね! 守らなかったら針千本だヨ?』

 

「…針千本ってなんだろう?」

 

 もしかして酒を千本位飲ませるってか?

 とりあえず返信────

 

『ああ、約束だ。 俺が傍にいとくぜ、必ず』

 

『蜉ゥ�縺九�』

 

 …何この意味不明な通信?

 間違って通信した…とか?

 

 う~ん、分からん。 今回も頼むぜ、相棒。

 

「ついでにお前もな」

 

 〔この時マイケルとラケールは強襲作戦時従来の量産型モビルソルジャーでは無かった。

 マイケルの搭乗している機体はハウト連邦製、モビルソルジャー102式改。 

 一、二世代前の機体にカスタマイズを積み上げ限界まで機動性と瞬発の火力にマイケルが特化させ、当時でもかなり珍しい形態変形機能が備わっている。

 対してラケールはハウト連邦製、モビルソルジャー104式改。こちらはマイケル程ではないにしても一世代前の機体で機動力やその他は捨てて逆に持続可能な火力とそれに伴う出力に特化した割とゴツイ形態だった。

 その中、マイケルが自分のコックピット内で言葉を掛けたのは後ろのオペレーター席に座っている人だった。〕

 

「…」

 

 〔その()は無表情で静かにマイケルを見つめ返す。〕

 

「あー、調子はどうだシオン?」

 

「良好でス」

 

 〔シオンと呼ばれた者は中性的な顔と白がかかった透明に近い、ショートの髪をして、マイケルの問いに答えるとスピーカーから発する独自のノイズも交じっているかな様な声だった。〕

 

「そっか」

 

 この口数少ないのはシオン、俺が物心付いている頃からお世話になっているDocka(人工人形)だ。

 と言ってもハウト連邦の支給品世話係役なんだが…

 まあ、俺にとっては“家族”だ。

 俺はヘルメットを被り、気密性のチェックをしているとラケールからの音声通信が聞こえてきた。

 

『それにしても、マイケルの機体は何か人の背中に飛行機を無理やり乗せたよう感じね』

 

『ほっとけ。そういうお前の機体はいつ見てもハリネズミの様に近寄りがたい姿じゃねえか。文句言うならもう()()()()()

 

『ごめん、謝るから私を的にさせないで』

 

 〔そこに二人は船が揺れるのを感じ、発進命令が下される。

 景色は(宇宙)に変わり、激戦が遠めからでも見られた。〕

 

『いつも通り、激しいね』

 

『ま、逃げ回ってれば死にはしないだろ?』

 

 〔マイケルの102式改が形態を戦闘機らしき物に変え、その“背中”にラケールの104式改がサーファーかの様に乗り、二人の機体は移動していた。

 二人のように移動するペアの機体がチラホラと散開し、移動しているのがコックピット内のスクリーン越しに見える。〕

 

『誘導式地原に入るぞ、メインウェポンのチャージは控えてくれ』

 

『私を誰だと思ってんの?』

 

『“歩く弾薬庫”に乗っている力ごり押し満点────』

 

『────はいはい。分かったわよ、“タクシー”さん。 いざとなったら実体弾で何とか対応するわ』

 

「前方より砲撃、来まス」

 

 シオンがレーダーに砲撃の弾道予測を見せる。

 

『前方から長距離砲撃来るぞ! 作戦開始(オープンコンバット)!』

 

了解(ヤー)! って、気付くのはっや?! もうぶっ放し始める?!』

 

「どうだシオン?」

 

「この距離からの火力では要塞の表面を焦がす程度に収まると予測しまス」

 

 やっぱりそうか。

 

『なるべく近くまで待て! 火力特化のお前が再度リチャージ(充電)するまで時間かかるだろ?!』

 

『あああ、メンドクサ!』

 

 〔長距離砲撃を躱すハウト連邦機などがいれば、逆に避けられず撃破される火力特化か移動手段にしていた機動力特化を撃破され、素早く動けない火力型のモビルソルジャーが次々と出始めた。

 その中、マイケルはシオンの誘導に従い0261空域戦線の要になっている要塞化された隕石の表面へと取りつき、低空飛行を続ける。〕

 

「シオン、味方機は何割付いて来ている?」

 

「約六割でス。 ですがその中の一割が中破していまス。」

 

「そうか、作戦続行だ!」

 

 〔低空飛行を続け、隕石内部へと続くと思われる人口の穴へと近づくに連れ、ティダ帝国軍からの追撃が激しくなった。

 その中敵ミサイルを撒く為の数々の機動を取る。〕

 

「このままじゃ全員狙い撃ちされる、流石要塞化した前線基地だ!」

 

「…別ルートから内部へ侵入することを推薦しまス。 作戦提案よりもはるかに要塞化が進んでいる模様でス」

 

「成功率は?」

 

「約三割と推測しまス」

 

 よし、本来の作戦予定より高いな。

 

「解析を急いでくれシオン!」

 

「了」

 

『ちょっと! 作戦径路から外れているわよ?!』

 

『分かっている! シオンに別ルートを探させている!』

 

『アンタまだそのポンコツを乗せているわけ?!』

 

『ポンコツの撤回を要求する。 自分は育成支援型────』

 

『だー! もういいから早く別ルート探して!』

 

『了』

 

 それから数分後、いや感覚的には数時間後ぐらいにシオンが別ルートを表示し俺達は0261の内部に侵入した。

 共に来た友軍機は後三割ほどに減っていた。

 

「いつもより多いな。 シオン、これは勲章モノじゃないか?」

 

「是。 帰還後マイケルが────」

 

「────いや俺じゃなくてお前だろ?」

 

「当機は育成支援型Docka(人工人形)であり、マイケル所属と登録をしている。 マイケルの成し遂げた功績がより多い程存在意義を表示する」

 

「…うーん、いつも言ってると思うんだけど、俺にとってシオンは家族だからな」

 

「…」

 

 〔内部へと進むにつれマイケル達への攻撃が少なくなって行き、ある程度距離を置くと防衛システムがまだ設置されていない場所へと着いた。〕

 

「よし、ここまで来れば────シオン、他の奴らは?!」

 

「各員の作戦遂行位置に移動をした模様、なお内部には強いジャミング電波が撒かれている様子」

 

『ラケール、準備出来次第主砲をぶっ放してここを出よう。 嫌な予感がする』

 

『了解! えーと、粒子砲は────』

 

 それにしても静かだ…とても外でドンパチやっている様には思えないな────

 

「告、敵影と思われし熱源反応接近中」

 

「来たか、数は?」

 

「熱源反応多数」

 

「要する不明って事か…よし、火器管制システムを頼む」

 

「了」

 

『ラケール、敵が来た。 時間稼ぎをしてくる』

 

『はーい、気長に待ってまーす』

 

 〔マイケルの機体とラケールの機体が離れ、マイケルの102式改が人型へと戻り、来た通路を進むとティダ帝国のモビルソルジャーが攻撃してくる。〕

 

「ハ! さっきの憂さ晴らしだ! 目一杯ビームをぶちまけてやる!」

 

 そこから俺は身に染み付いた機動戦を行う。

 ただひたすら敵の砲撃軌道を読み、避け、反撃を繰り返す。

 だが────

 

「おかしい、数が多すぎる! ラケールは何をしているんだ?!」

 

 そう、ラケールの内部破壊工作(砲撃)がまだ感じられない。

 

「不明、何らかの問題が発生したと────」

 

「────クソ!」

 

 俺は焦り始める気持ちを落ち着かせ、ラケールのいるはずの方へと向かった。

 

 〔だがラケールへと通じる通路は固いシャッターの様な門が閉まっており、マイケルの行く手を阻んでいた。〕

 

「な?! どういう事だ?」

 

「告、恐らく罠かト」

 

 俺はシャッターの横にあるコンソールにモビルソルジャーの手を置き、遠隔クラッキングを試みた。

 

「シオン、ラケールと繋いでくれ!」

 

「了、しばしお待ちを……繋ぎましタ」

 

『ラケール────』

 

 そこで俺の声を遮るかのように切羽詰まったラケールの声が返ってくる。

 激戦の背景音と共に。

 

『────マイケル?! ハメられたわ!』

 

『どういう事だ?』

 

『敵の主力が内部に待機して────!』

 

 そこで周りの隕石ごと揺れた。

 

『私達は捨て駒よ! マイケルは()()()()()()! 逃げて!』

 

 ()()()()()()

 

『ちょっと待て! お前は?!』

 

『敵と交戦中……私は私で何とかする!』

 

 心の中がザワザワとするが、無視した。

 

『ふざけるな! ()の無いお前の機体じゃあ撃ち落とされるだけだ! もう少し持ちこたえ────!』

 

 また隕石が酷く揺れ、辺りが崩れ始める。

 

「マイケル、脱出を推薦する。 センサーに放射線を探知。 恐らくは核が使われているかト」

 

『私は良いから!』

 

 ふざけるな!

 

『良くない!』

 

 ふざけるな! ふざけるなよ!

 

『シオン! お願い!』

 

「…了」

 

 シオンが答えると俺の機体の制御システムがカットされ、シオンの方に移った。

 

「待てシオン! まだ────」

 

『私も後を追うから、行って!』

 

「了」

 

 自分の機体が俺のインプットを無視し、高速移動での脱出を始める。

 

「クソォォォォォォォ!」

 

 〔崩れ始める内部をマイケルの乗っている機体が所々壁にぶつかるも着々と出口の方に近づいていた。〕

 

「…そろそろ出口か────」

 

 〔マイケルが隕石内部から出るところまで来るとボロボロのティダ帝国の生き残りに摑まれる。〕

 

「どわ?! マジか?!」

 

『ゴホッ、貴様も…道連れに!』

 

 この死にぞこないが!

 出口はすぐそこだってのに!

 

「…」

 

「シオン?」

 

 〔そこでシオンはいきなり席を立ち、コックピットのハッチを開けて────〕

 

「ノワァァァ?!」

 

 〔────マイケルを宇宙へと投げ出した。〕

 

「シオン?!」

 

 俺は急に無重力空間へと投げられて若干────いやかなり────焦った。

 その中でシオンの方を見ると敵の機体の爆発の中に消えていくシオンの顔が微かに笑っていたような、憂鬱そうな様な気がした。

 

 _________________________________________

 

 ………

 ……

 …

 

「────とまあ、俺が覚えている大体の事だな。」

 

 (マイケル)は0261空域戦線での作戦を()()()ラケールに話し、淹れてもらったコーヒーを一口飲み────

 

「ブフーー?!」

 

 ────それを吐き出した。

 

 何だこれ?!

 まっず!

 まるで泥じゃないか?!

 

「そっか…そう…なんだ」

 

「ああ。 そこからはまあ、友軍に拾われて戦闘後の演説に報告、未帰還者発表その他もろもろ」

 

「ねえ…その後飲みに行ったの?」

 

「ああ、クリフとリックに身柄保証人された後にな」

 

「“身柄保証人”? アンタ…いったい何をしたの?」

 

「まあ、色々」

 

「ふーん…」

 

 ラケールが自分の淹れた、泥の様なコーヒーを平然と表情一つ変えずに飲む。

 まー、まさか“上官をぶん殴ったから”とは流石に言いにくい。

 特に作戦時俺自身覚えていない部分が多いからな、説明しにくいったらありゃしない。

 

 え? それは医者に診てもらった方が良い?

 うるせえ、生きているんだから良いだろ別に?

 何好き好んであの金の亡者(ハイエナ)達に行かなきゃなんないんだ?

 

「そっか…話してくれてありがとう、マイケル」

 

「これで良いんなら何ともないぜ」

 

 そこでラケールが考え込むような仕草をする。

 同時に俺も考えをまとめ始める。

 

 さて、ケイコの生死確認は直接見た方が良いんだが…

 果たしてそうさせてもらえるか。

 …ん? ちょっと待てよ?

 

 そういえば一応とはいえ俺がケイコの身柄保証人になっていたのに死後処理の連絡が来ないな。

 俺は気になりスマホを出し弄ると────

 

「────は?」

 

『該当者無し』と言う文字だけが返って来た。

 …いやいやいや、これは流石になんかおかしい。

 もう一度俺は検索を掛けると────

 

「────該当者…無し?」

 

「どうしたの、マイケル?」

 

 俺の見開いた眼と唖然とした声に築いたラケールが聞いてくる。

 

「ケイコの…記録が無い」

 

「は? んな馬鹿な────」

 

 ラケールが自分のスマホを出して────

 

「へ? あ、あれ? 写真も無くなっている」

 

「何?!」

 

 まさか?! と思い、俺も自分の撮った写真を確認する。

 ……無い。

 

 ケイコの写真が無い!

 

「え…何これ? 気持ち悪いんだけど」

 

「お、俺に聞かれたって…」

 

「と、とりあえず病院に行くぞ!」

 

 俺とラケールは外に出て退院した病院へと向かった。

 そこでケイコの事を聞くと────

 

「────その様な方は当病院に記録はございません────」

 

 ────の一点張りだった。

 

「どういう事なの────? あ、マイケル!」

 

 俺は気付けば走っていた。

 何かがおかしい。

 何がおかしいと問われたら説明できないが────

 

 ────俺は自分の家に着くなり鍵を乱暴に開けてケイコの部屋に入った。

 そこで見たモノに俺は脱力しそうになった。

 後ろからドタドタとする音がしたと思えば息切れしそうなラケールの声がした。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、な、によ。 きゅ、急に」

 

「ラケール────」

 

 俺は顔を彼女の方に向けて────

 

「俺達、夢を見ていた訳じゃなかったんだろうな? 何でこの部屋()()()なんだ?」

 

 まるで最初から誰もいなかったような、()()()の部屋の前で俺の足から力が抜け、尻餅を付く。

 

「この部屋って…もしかして────」

 

「なあラケール…これ、何なんだよ?」

 




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