ぐしゃぐしゃにして捨てられた、2種類のウィッグと衣装。
今にも消え行きそうな声で泣き叫びながら、血が滲むほど掻きむしられた首元は震える。
呪詛の言葉を繰り出そうとしても、上手く声も出ない。
きっと自分が悪いから。
もたもたしていた自分が悪いから、と、頭を抱えて自分に言葉を投げかける。
玄関先には、制服の少女。
不思議そうな顔をしながら、彼女は問いかける。
「もう、一緒にうたってくれないの?」
少女は、不思議な人だった。
何事にも興味を示さないような、冷たい瞳を持ちながらも、うたうことに関しては異常なまでの情熱を示す。
授業中は、ぼうとしているか、眠っているかの2つに1つだと言うのに1度放課後になれば、屋上で胸の内にある芸術性を叫ぶ。
つよしは、そんな彼女に惹かれていた。
同じように音楽が好きで、情熱を持っている。
そして、なにより、少女は美しかった。
服装や髪型のことにはまるで執着せず、髪はボサボサ、一年中同じような服を着ているにも関わらず、まるで宝石でも散りばめられているみたいに輝いて見える。
ターコイズブルーのその瞳に、つよしは狂っていた。
つよしは、器用だった。
彼女の気を引くために、色々とおかしな事をした。
音楽にも今まで以上に熱心に取り組み、異常さを抱える彼女に寄り添うために、1人で様々な役柄を演じ、彼女を微笑ませる事にも成功した。
ただ、彼女に恋心を伝えることは、ついぞできなかった。
つよしは気弱で、今まで女の子と付き合ったこともなく、何をすればいいのか、まるで分からなかった。
彼女に話しかけられる度に動悸が激しくなり、つよしの顔は真っ赤になっていた。
学校で気を引くためにやった馬鹿な事も、家で考えてきた告白の言葉も、彼女の瞳に見つめられると、全て空に放り投げられるようだった。
家に帰る度、つよしは自己嫌悪に悶えていた。
気を引けなかった自分に、音楽よりも彼女に熱心になっている自分に、ラブ・ソングが聴けなくなっている自分に、告白をすることができない自分を、ただ、只管に嫌悪していた。
つよしが何度も話しかけ、優しくしていた為か、彼女の雰囲気は穏やかになった。
クラスメイトに話しかけられても無視することはなくなり、授業も真面目に受けるようになった。
それでも、毎日、屋上でつよしと一緒にうたう時間だけは変わらなかった。
それが、つよしにとって精一杯の独占であり、密かに抱えていた独占欲を発露する、唯一の場所だった。
つよしは、彼女の事が好きだった。
なによりも、誰よりも。
落ち葉が地面に溜まり始めたころ、彼女は、屋上に来る回数が減ってきていた。
つよし以外の男子生徒と、歩いているところを見かけたこともある。
つよしの自己嫌悪は、増していた。
つよしは、道化を演じていた。
1人2役でおどけ、彼女を微笑ませていた。
そうでもしないと、彼女の気を引けないと信じ込んでいたからだ。
寒さに手がかじかんできたころ、彼女の微笑みは、自分以外のところだと、案外簡単に手に入ることに、つよしは気がついた。
つよしは、ナイフを持って走り出した。
道化を演じ、最後は彼女を、思いっきり悲しませてやろう。
彼女の感情を、きっとまだ、あの男が手に入れていない感情を手にしてやろう、と走り出した。
つよしは、何も装飾品を身につけず、ただ学生服で2人の前に立ちはだかった。
血の味と、彼女が必死で止めようと駆け出す姿だけが残った。