【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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大変お待たせしました!
小話の詰め合わせですが、お納めくださいませ!
甲子園はもう1話挟んでから開幕となります!


第32話 献身と保身

埼玉のローカル新聞やローカルTVに大々的に取り上げられた私たち新越谷野球部。1年生中心のチームで県大会優勝という快挙を前に、埼玉ローカルメディアのスポーツコーナーは乱舞した。

 

だけど、優勝旗と優勝トロフィーを持ち帰った私たち新越谷高校野球部に待ち受けていた想定外の塩対応だった。

 

「本校は生徒の応援について、全校応援は行わせませんから、そのつもりで」

 

学校側としては、野球部の例の不祥事を踏まえて関係各所への最も穏便なやり方として、応援団の有志に限るとしたのだ。

 

「また、応援団については、新越谷高校野球部寄附金から運用できる範囲でお願いします」

 

現行で、新越谷高校野球部の寄付金はそう多くは集まっていない。確かに、全校生徒を兵庫に連れて行くのはほぼ不可能だ。

緊急で寄付を募る学校も多いけど、新越谷高校の場合は在校生の保護者等に良い印象がないところで、寄付を募った場合の反感はどうなるか想像がつかない。

 

「友情応援を頼むのも自粛をお願いします。あくまで応援は自主的に参加する本校生徒のみとします」

 

そう伝えるだけ伝えた50過ぎと思われる教頭は去っていった。

 

 

「それだと…どうしましょうか…」

「あまりにもお粗末な応援になると、今度は他校から睨まれかねないですからね…甲子園をバカにしてるのかって」

「とりあえず形を揃えるなら、1年生の吹奏楽部員中心にお願いしてみるしかないな」

 

藤井先生、主将、私の3人は頭を抱える。芳乃はバスの手配やら何やらで大忙しだ。

 

「ですね…」

 

とはいえ、正直応援団については最低限は用意出来ると見越せる。決勝に来てくれたクラスメートたちが、甲子園への応援はどうすればいいのかと既に連絡がバンバン届いているから。

多分1年生の7割くらいは来てくれるっぽい。

 

後は金銭面のやりくりだけ…

 

まぁここは裏技をするしかないわね。

 

「……友情応援はダメって言われたけど、施設の利用をお願いするのはダメとは言われてないわよね」

「どういうことだ?」

「友情応援は無理でも甲子園に近い学校の校舎を借りて、合宿みたいに寝泊まりする場所っていう()()()に甘えるのはOKなのでは?」

「なるほど…それならば宿泊費は浮かせられるな」

「食費は1日500円くらいを全員から心苦しいけど出してもらえれば、希望者全員連れて行くのは出来そうでしょ?」

「確かに…それはいいアイディアですね。早速あちらの学校にお願いしてみましょう」

 

藤井先生は、軽い足取りで後ろ手に部室のドアを閉めて職員室へ向かった。

 

 

 

 

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その日の夜、芳乃の部屋をそっと覗くと、芳乃は頭を抱えていた。

 

「藤井先生から話は聞いた?あっちの私立の小学校を借りれたらしいわよ」

「あ、息吹ちゃん。うん、設備とか、移動とか考えててね〜」

 

あちらの小学校の校長に藤井先生のツテがあるらしくて、うちの状況を伝えたところ、1日僅かに2万円で設備全て使って良いと破格の条件で借りれたのだ。その代わり、使ったところの掃除はうちでやる必要がある。

 

「これなら後は業者に頼んで、食材とか買い込めばOKだね。せいぜいお風呂が少し小さいくらいかな?」

「そうね…何人くらい来る予定なの?」

「多分200人前後だと思うよ」

「結構来るわね」

「問題はご飯作る人だよ…」

 

確かに、三食付けるとすれば作る人も200人前後分を作る必要がある。いくら芳乃でも1人では無理だし、野球部のメンバーがやるのも試合が無い日ならともかく、試合の日は難しい。

 

「そうねぇ…美波暇かしら?」

「あぁ〜その手があったか〜」

 

咲桜戦の後に中華屋で遭遇した美波*1はまだ売れてなかった頃(とはいえそう長い期間ではないけど)、バイトで給食の調理をやってたこともあり、食品衛生や調理師の資格も一応持ってたはず。

 

 

 

プルルルル、プルルルルル―――という呼出音が2、3回鳴ったところで美波は電話に出た。

 

『ちぃーす、息吹〜。どうしたん?』

「あ、美波?8月、時間ある?」

『もちもち!息吹が甲子園出るって決まった時には担当さんに8月の仕事全部キャンセルしてもらったからね〜。ちゃんと応援行くよ〜!』

「ちょうど良かったわ。うちの学校の応援団の食事、大会中作ってくれない?」

『え〜、めんどいなぁ…』

 

毎日大量調理は確かに大変よね…

 

『うーん…何人くらい?』

「200人前後かな」

『あり?結構少なくない?』

「うん、全校応援しないって。有志の応援団だけなんだよ」

『へー、そんなことあるんだ〜。他校の事情とかは知らないから比べる基準は清光なんだけどさ』

「あそこは強豪だし…学校行事みたいなものじゃない」

『まぁね〜』

「それで、どう?」

『やっぱり純粋に甲子園って舞台を楽しみたいから。ごめんね〜』

「分かったわ。他に当たってみる」

 

私はじゃあねと、電話を切る。

 

「ダメだったか〜」

「まぁ仕方ないわね。応援には来てくれるって」

「そうだね。派遣会社にでも相談しようかな…」

 

後援会から有志を集うのが筋だが、この学校の野球部の後援会は例の事件の関係で頼れない…と言うかそもそも解散している。

 

芳乃と私は予算との付き合い方に頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

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クラスメイトで初期から応援に来てくれていた子3人が中心となって、応援団のとりまとめをしてくれた結果…応援団は生徒が1年生のみで104人、引率教諭が4人、1年生と一部の2年生で構成された吹奏楽部17人の計125人となった。

 

やはり、1年生の中でも家の都合や面倒くさいということから応援団には参加しない人もそこそこ出た。とはいえ自主参加にもかかわらず、ここまで集まってくれたのは野球部の応援…だけでは無い。

 

試合のない日は観光ができるというのが大きい。

低予算に抑えるため、バス会社には往路と復路を予定日で抑えてある。分かりやすく言うと、負けたらその日に帰る…ということが無いので、長い期間を関西観光に当てることが出来るのだ。

実質タダで泊まれる所があるのは金欠高校生にとって嬉しいことだと思う。

 

さて、甲子園出場を決めた私たちはテレビの取材などをこなした後、8月1日の早朝。

私たち新越谷高校野球部は、部室に集合していた。

 

「さぁ、今日の午後14:30から甲子園練習だ。気張っていくぞ!」

 

主将の掛け声に、私たちはおぉ!と応える。

 

有名な高校野球監督が言ってた。

夏の地方大会は甲子園に行くために戦う。でも、甲子園ではお祭りのようなものだから、最後まで精一杯楽しみながら戦う…と。

 

選手わずか11人の我らが新越谷高校野球部は、心躍る甲子園の地に向けて歩き出した。

*1
今井美波。「第27話 伝説は実は残念」に登場。高校時代には栃木県清光学院高校で高校通算100本以上の本塁打を打った強打者。現在は、書家・作家・作詞家等芸術分野などで活躍しており、別荘を複数所有する程にはかなりの年収を得ている。

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