【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第33話 組み合わせ抽選会と開会式

大阪にあるホールが組み合わせ抽選会の会場だ。

 

予め決められた席に主将を除いた面々が座る。

周りの視線が私たち新越谷に集まる。

 

「す、すごいよ!プロ注の選手がいっぱいだよ〜!」

「どうどう。芳乃、落ち着きなさい。希!手伝って!」

「う、うん」

 

目を輝かせている芳乃を、私と希の2人がかりで席につかせる。

わずか11人のチームでの甲子園出場は歴史的偉業として注目を集めている。

 

主将が壇上に座っている。

 

近年でこそ埼玉県はプロ注選手が多い『黄金世代』だが、プロ注選手だけが強い訳では無い。代表格と言えるのが椿峰だ。あそこはスター選手こそいないが、いつも県大会上位に食い込む強豪校。

そのようなスター選手無き強豪校というのがダークホースとなりうるのだ。

 

「まぁそれを言えばうちも十分ダークホースよね」

「11人ってだけでも歴史的なのに、3年生ゼロ人だもんね」

 

隣に座った芳乃が同意してくれた通り、3年生無しでこの人数で代表校となった高校は今まで聞いたことがない。

 

『これより、第98回全国高等学校野球選手権大会の組み合わせ抽選会を始めます』

 

テレビアナウンサーが司会を務める。野球中継とかでもたまに見る人だ。

 

長ったるしいおばさまの話はスルーして…

いよいよ抽選が始まる。

 

今年の抽選方法は去年と同じで、一二回戦の組み合わせ抽選が行われる。

抽選順は北海道と東京都が2チーム出ているので、初戦で当たらないように先に抽選する。

その後、予備抽選で決められている順に沿って本抽選が行われる。

 

新越谷はなんと49チーム中49番目。

最後だ。

残り物には福があると思うけど…主将ってクジ運無いって原作でも明言されちゃってるからなぁ…

 

とんとんと進み、残りは2校。

残っている枠は以下の通り。

 

2番A→1日目第2試合一塁側

22番B→6日目第4試合三塁側

 

2番Bの方は1回戦も戦う必要があるが、初戦はビックネームは避けられる。

22番の方は1回戦は無いけど、初戦の相手は愛知の東祥大東祥という絶対的ビックネーム。

さぁ…どうなる…

 

『帝大掛川、2番Aです!』

 

ノォー!?初戦は東祥大東祥で確定じゃん!

 

『し、新越谷高校、22番Bです!』

 

主将も声震えてるし。

まぁでも、相手が強いほど燃えるよね。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

前日のリハを終え、いよいよ8月7日。

第98回全国高等学校野球選手権大会、開会式。

 

今年の入場順は南から。

新越谷は38番目。

 

先導、国旗、大会旗の後、記念大会では無いものの歴代優勝校旗が続く。

そして、優勝旗を持った神奈川県代表の東嶺大相模、そして、沖縄から北上するように続々と甲子園のグラウンドを踏みしめる。

 

揃いの白い靴がそれを更に引き立てる。

大会行進曲に沿って綺麗に隊列を組み、揃ったところでバックネット方向に一斉に進む。

 

テレビで見てたあの光景。

今、私たちがいるんだ…泣けてくるわね。

 

地方大会の時は芳乃がプラカードを持っていたけど、全国では近くの高校の子が毎年担当している。

 

偉い人の長い話も、感動であまり入ってこなかったけど仕方ないよわね!

 

 

 

 

 

開会式を終えて、私たちは宿泊している学校に戻る。

ほとんどの高校は大阪に宿泊している中、私たちは甲子園球場にほど近い小学校に拠点を構えていた。

 

グラウンドもきちんと完備されていて、もちろん練習も可能。

とはいえ、せいぜいが流し程度の練習しか芳乃が許さない。何よりも怪我が怖い。このチーム、1人怪我しただけでも勝ち抜けない確率がグンと下がる。

…それに、やっぱり全員で全力で戦いたいし。

 

そんなわけで、私たち新越谷高校野球部の首脳陣である藤井先生、主将、私たち川口姉妹の4人は蒸し暑い中、1番上の階の教室で窓全開に扇風機という装備だけで会議をしていた。

ちなみにクーラーも無くはないが、身体をこの環境に慣れさせる必要があるとして、夜間の就寝時と芳乃のマッサージで夏バテになりかけている場合だけしか使わせてくれない。特に投手陣は身体を冷やさないためにクーラーから1番遠い場所で寝ているため、少し暑ぐるしい。

 

「それで、東祥大東祥のデータは?」

「もちろん揃えてるよ!でも…東祥大東祥ははっきり言って弱点という弱点は無いし、特徴と言えば『普通』かな…」

 

そう、何を持っても平凡…いや、ハイスペックと言うべきかしら?

王道の強さで、上位打線は振れてるし、投手陣もそこそこ厚いし、守備の穴も特別大きかったり小さかったりもしない。

普通のチームを強くした感じ。

言わばバランス型のチームかしら。

 

「投手は地方大会の時点で3人確認してるよ。エースの小野美桜さん、2番手の荒川沙耶さん、2年生で次期エースの船島翡翠さんの3人だね」

 

芳乃の説明では長いので、要点だけ抜き取ると…

 

小野美桜 3年生

背番号1

速球派で、今大会最高球速候補。久保田さんほどの荒れも無い。

球種は確認で着てるだけでストレートとカーブとカットボール。

日本人最速に匹敵する速球で、今大会の最注目選手。

 

荒川沙耶 3年生

背番号10

球足は速いけど、チェンジアップやスプリットとの組み合わせが面倒な技巧派。

球種はストレート、チェンジアップ、スプリット。

 

船島翡翠 2年生

背番号18

荒川沙耶と同じく、球足はあるけど、カットボールやツーシームで打たせてとる野球をする。

球種はストレート、カットボール、ツーシーム。

 

「投手が少ない分、ロースコアの戦いなら多分継投は少ないでしょう。先発が小野さんなら球数投げさせて降板させる方向で、他の人なら打っていきましょう」

「小野さんの球はそんなに速いのですか?」

 

藤井先生は小野さん相手では歯が立たないように話す。

主将も流石にここまで勝ち上がった私たちの打撃力を考えて、勝負にならなくはないと考えていたのだろう。

 

「そうですね…恐らく、2年生と大村さん…くらいでしょうね、あの速球を内野の頭を越えられる打球に変えられるのは。他の1年生ではまだ筋力が足りないでしょう。せいぜいファールで粘るのが関の山です」

 

速い球…というより、多分あの球威がすごいのだろう。

あの球を捕手として受けるのは痛そうだ。

金属バットなら飛ばせるかな…?

 

「じゃあ…小野さんが出てきた場合に備えて、こちらも堅く備える必要がありますね」

 

ビックネーム相手に、仕込みはどれだけあっても足りない。

試合は数日後だけど、スタメン発表は今日にもして、個人の役割に応じた練習をメインに行っていこうという考えだ。

少しでも勝率をあげるのが吉。

 

さて、そうなるとネバネバ出来ると言えば…私と菫は確実に上位打線かな?

左打席の稜や、観察眼のある芳乃もスタメン起用あるかな。

逆に主将は最近振れてないから上位打線に持ってくるのは怖い。

練習試合の柳大川越以来、ノー安打の詠深は投手起用も慎重に…

 

うん、私だったらこんな感じにオーダーするかな。

 

1 希(一)

2 菫(二)

3 私(三)

4 理沙先輩(投)

5 芳乃(右)

6 光ちゃん(中)

7 珠姫(捕)

8 白菊(左)

9 稜(遊)

 

どうかな……ちょっと遊びがありすぎるかな。

でもやっぱり主将の一振が振るわないと得点力が低いなぁ…

 

まぁ芳乃や藤井先生がもっといいオーダーにしてくれるでしょ。

そう、今の私には作戦会議よりも大事な用事が2つほどあるのだ。

 

1つ目は光ちゃんの調整の手伝い。県大会であったピッチャー強襲で怪我こそしてはいなかったものの、投球を制限していた。その制限を少しづつ解除していて、甲子園で投げられるように調整していく。

 

2つ目は…

 

「準備出来た?」

「ちょっと待って!」

 

もちろんデー…じゃなくて、光ちゃんと観光!

袖の広い涼しげな私服を着て、駅に向かう。

 

「いやー暑いわね」

「ごめんね、無理言って着いてきてもらって…」

 

そう、なんと光ちゃんからのお誘い。断るわけがない。

…ここまでかわいいとさ、筋肉質なの気にならなくなってくるわよね。流石幼女先輩。

 

さて、今日はどこに行くのかな?

 

「今日って、息吹ちゃん誕生日…でしょ?だから、神戸で有名なお菓子屋さん巡りで誕生日お祝いしたいなって。迷惑だったかな?」

「そっか…今日だったんだ。ありがとう」

「良かった。えへへ、今日のためにバイト始めたから、誕生日ケーキ分ってことで奢らせてね」

「へぇ。部活と両立出来てるの?」

「うん。去年までやってた軟式のチームの人の所でやらせてもらってるから、融通してくれるよ」

「いいなぁ…うちはスポンサーがお金出してくれてるから、頭上がらないもの」

 

言うまでもなく美波*1のことね。野球ってやっぱり物入りだからね。子供の頃に使ってた球とかグローブとかも美波のお下がりだったりするし。

 

さて、神戸のお菓子屋さんと言えば名店揃いの激戦区。色んな類いのお菓子屋さんがある。

バウムクーヘンとか、モンブランとか、イチゴショートとか…他にも色々な名店があり、こういう時でもないと関西に来ない私たち埼玉県人には神々しい店の雰囲気が凄い。

 

光ちゃんは私より背が小さいけど、エスコートするように自然に私の右手をとった。つまり、光ちゃんは左手で私の右手をとっている。

投手として大事にしている利き手をなんの躊躇いもなく私の手を引くために使ってくれるのに、少し胸が跳ねたことはここだけの内緒だからね!

 

 

 

 

*1
度々登場の今井美波。「第27話 伝説は実は残念」に初登場したオリキャラ。高校時代には栃木県清光学院高校で高校通算100本以上の本塁打を打った強打者で、現在は書家・作家・作詞家等芸術分野などで活躍しており、別荘を複数所有する程にはかなりの年収を得ている。

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