100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第九節 冒険者の酒場

 ブレンダに魔術式の解読を頼み、すぐに終わるはずもないのでその場を後にした俺は、珍しく手に入れた暇を持て余していた。

 

(王命を果たしたらすぐ次の王命が出るっつう生活を1年くらい続けたもんな)

 

 エクスカリバーの言うように、本当に忙しい日々だった。というか、この暇が更なる激務の前兆ではないかと、俺は内心怯えている。

 

(しっかし暇だなぁ。魔物の1匹でも狩りに行くか?)

(なんではした金にしかならない狩りをしなくちゃいけんのだ。やるにしたって冒険者組合で依頼を受ける)

 

 俺は冒険者組合で依頼受注の権利を一応与えられている。王国の冒険者組合本部となれば割の良い依頼はあるかもしれないが、王からの褒賞に比べてしまえば安すぎる。

 

(冒険者組合か。昔っからあるが、今はどうなんなってんだ?)

 

 そういえば、1度も立ち寄った事がない。立ち寄る余裕がなかったのだが。

 暇つぶしに、少し見に行っても良いか。可愛い冒険者とお近づきになれるかもしれないし。

 

(お前、揺らぎねぇな。ま、行く気になってくれたなら良いけどよ)

 

 エクスカリバーの態度が癪に障るが、ここで拗ねて反抗するのも大人げない。

 俺は大人しく冷静さを保ち、冒険者組合本部がある都の北端へ向かった。

 

 

 

 冒険者組合本部。本部だけあって、なかなか綺麗で立派な外装であり、冒険者が腰を落ち着ける依頼斡旋所を兼ねた酒場も質が良い。

 それにドラクルは王都であるが、魔王領の目前にあるため、魔物は比較的強力。故に、集まってくる冒険者も腕に覚えがある者たちだ。

 その者たちの装備品はそこらの鍛冶屋で並んでいる物ではない。討伐した魔物の素材を使った特注品にして一点物だ。

 国王から装備品を賜っている俺程ではないが、結構な金額の装備を着込んでいる。

 

(装備は及第点だが、どいつもこいつも弱っちいなぁ)

 

 そんな良い装備着込んでる冒険者でも、エクスカリバーのお眼鏡には適わないようだ。

 いや、そりゃお前程(癖が)強い奴は居ないだろうよ。

 

(おい、今何か不名誉な言葉を混ぜてなかったか)

 

 そんな事実はございません。

 

「も、もしかして……。ゆ、勇者様ですか!?」

 

 エクスカリバーの詮索を躱したところで、1人の若い女性冒険者が俺に近寄ってきた。

 

「初めまして、お嬢さん。ご存知の通り、俺が勇者テノールです」

「ほ、本物っ、本物だ!」

「は!?本物の勇者だって!?」

「キャー!勇者様、こっち向いてぇ!」

 

 失敗したな。随分と騒がしくなってしまった。仮面の1つでも被れば良かったか。

 

「どうか平常に。俺は、視察?に来ただけだ。一筆欲しいなら、用事が済んだ後にいくらでも書いてあげるからね」

 

 俺が仕事で来ているように述べれば、皆は俺を邪魔すまいと元居た椅子に戻っていった。

 しかし、多くの視線が俺に注がれたままで、こそこそ話も盛んになっている。

 まぁ、とりあえずの事態収束はしたし、これで良いだろう。

 

「勇者テノール様ですね?本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 冒険者がはけたのを見計らい、冒険者組合員が声をかけてきた。

 衣服から察するに、斡旋窓口に立つ下っ端ではない。組合長とまではいかないまでも、そこそこお偉いさんのようだ。

 

「お騒がせしてすみません。今回は本当にただ組合の様子を見に来ただけです。視察とは言いましたが、俺個人の気まぐれです」

「そうでしたか。勇者様の視察に来ていただけるとは、大変名誉にございます」

「そう言っていただければ何よりです」

 

 騒がせた文句の1つでも言いにきたものかと思ったが。あれか、勇者が急に来たから事件の予感でもしたか。

 

「お騒がせしたお詫び、と言ってはなんですが。緊急性の高い依頼や危険性の高い依頼はありますか?」

「いえ。勇者様のお手を煩わせるような依頼はありませんので。それに、下手に依頼を片付けられてしまえば、ここの冒険者たちが困窮してしまいます」

 

 なるほど、上手い持ち上げ方だ。

 困難な依頼も数多の依頼も熟せる勇者であると、この組員は褒め称えている。

 そうやって成り上がってきた部類かもしれないな。

 

「確かに。冒険者たちの仕事を奪うべきではありませんね。これは失礼しました。では、視察だけに留め、少しの間この酒場に居させていただきます」

「宜しければ、奥の部屋で資料などをまとめさせますが?」

「お気持ちは嬉しいですが、俺は冒険者たちの普段どうしているのか見たいので」

 

 別に冒険者組合の悪事を暴きに来た訳ではないんだ。小難しい資料を並べられたって、俺に得るモノはない。

 それに、相手が予め用意した資料なんて、大概は不都合な事実が抹消されているものだ。

 

「そうでございますか。何かありましたら、すぐに組合員をお呼びつけください」

「はい。ありがとうございます」

 

 組合員は一礼してから奥に、途中で組合員に何か忠告しつつ、帰っていった。

 「粗相がないように」という辺りだろうか。

 まぁ、俺が気にする事ではない。

 

 という事で、酒場に長居すべく、適当な飲食物の注文をするのだった。




〈用語解説〉
『冒険者』
…様々な種類の依頼をこなす何でも屋。最下級である9級はそれこそ溝攫いもする。依頼斡旋所で受けた依頼の数と質を考慮し、冒険者組合が1から9までの階級が冒険者各々に割り振っている。階級が上がる毎に、受けられる依頼の制限が解除されていく。ラビリンシア国王から勇者の称号をいただいているテノールは、1級と同等まで依頼制限の解除がなされている。
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