100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「……侵入者ですか。随分と野蛮なやり方ですね」
そう呟いたのは、レオナルドの前に居るヴァンではなく、監視のために森を巡回していたヴァンだった。
森を巡回していたヴァンが、遠目でユウダチが地面をぶち抜く現場を目撃したのである。
そうして一個体が目撃したからこそ、レオナルドに対面しているヴァンも侵入者と断定できていた。
「ふむ……。明確な目的を持って私の拠点に来たとするなら、『魔神ダ・カーポ』様の仲間がいらっしゃるでしょう」
偶然で見つけられるような拠点ではない。
それに、地面をぶち抜いたのは意図した行為であると、ヴァンには窺えた。
地面へ大槌を振り下ろすユウダチの所作に、迷いがなさすぎたのだ。
「であるならば、あの6人の誰かが『始まりの六柱』ですか……。魔神以外の神5柱が揃っているとは、考えたくないですね」
人類史を拓いた神々が勢揃いなんて、悪夢以外の何モノでもない。
敗北は必至である。
「とにかく、あの大槌を振るった方は『武神エフエフ』様と思っておきましょう」
弓に半棒、細剣に湾曲剣、斧に大槌と、あんな多種多様の武器を一挙に装備する人間など、間違いなく普通ではない。
様々な武器での戦い方に精通していたとしても、多くて3つが限度だろう。
その装備限度を大幅に越え、しかも種類が一切統一されていない。
魔神の仲間である事も加味すれば、あの異常者が武神本人だろうと察しが付く。
「後は、勇者テノールが居ましたね。あの弓だけ携えている方も、レヴィの報告にあったパースという方と特徴が合致しますか」
ヴァンはしっかりと相手を見定め、戦力を分析していく。
「他3人は……。あの少女は武神様と仲良く話していましたね。うむ、『医神テヌート』様でしょうか?」
実は、『鍛冶神アチューゾ』は伝説においてその性別を言及されていないのだ。
『始まりの六柱』の中、女性であると言及されているは『医神テヌート』だけである。
そして、ヴァンは『鍛冶神アチューゾ』が女性である可能性を考慮できなかった。
そのおかげと言って良いのか、ヴァンはムラマサを『医神テヌート』と誤解する。
「癒さぬ傷、治せぬ病はないとされる医神様。それに、あらゆる武術の祖にして武の極みである武神様。かの2柱が相手でしたら、攻撃は悪手ですね」
ヴァンは誤解したまま、戦力分析をそこで切り上げた。
残りの2人、ニオとリカルドは取るに足らないと判断したのだ。
「やはり、眠らせてしまいましょう」
相手の戦力を鑑み、ヴァンはお得意の手段へ舵を切った。
戦うのが駄目なら眠らせてしまえば良いという、単純な結論である。
世界最高の魔術師である魔神に己の睡眠魔術が効いた事で、その手段に自信を得てもいる。
「では各員、睡眠魔術の詠唱を」
その選択と指示が、巡回していたヴァンより拠点に居る全てのヴァンに共有された。
それによって、『リトルスター』が開始される。
「
複数人で詠唱される魔術は、その詠唱した人数によって効力を高める。
本来なら、人数が多くなればそれだけ詠唱を合わせ、1つの魔術とするのは難しくなる。
しかし、ヴァンはクローンホムンクルスであり、全個体が意識を共有している。
複数人での魔術詠唱など、彼には造作もない。
「
さらには、詠唱を繰り返す事で、より効力を高める。
念には念を入れるヴァン。
神と相対しているがために、油断も慢心もない。
魔神すら嵌めた必勝の策で迎え撃つ。
こうして準備を整え、拠点で待機していた1体のヴァンが、微かに侵入者を視界に入れた時だ。
「
締めの詠唱を告げ、敵を全て眠りに落とす。
6人の倒れ伏す音が、通路に響いた。
音の発生源に最も近いヴァンが、警戒を続けたまま音の方に近づき、6人全員が寝ている事を視認する。
「ふふ。私の勝利です」
侵入者の無力化を見納めて、ヴァンは勝ち誇った。
勝ち誇って、油断して、慢心してしまったのだ。
だからこそ、近づいたヴァンは切り裂かれる。
「……え?」
その近づいたヴァンが最期に見たのは、聖剣エクスカリバーを振るう勇者テノールの姿。
「オレは負けない。勇者は、負けられないんだ」
テノールは『リトルスター』を受けたにも拘らず、ヴァンを1体切り裂いたのだった。
〈用語解説〉
『医神テヌート』
……『始まりの六柱』、その中で治癒を司る1柱。医療技術や医薬品を世界に広めた後、回復魔術の研究に着手し、その知識も医療技術と同様に世に広めた。医師や看護師の心得も説いており、人の傷を癒す事に心血を注いだ人物である。容姿も美しい女性であったと語り継がれ、女神として称えられている。教えは「医師や看護師の忠告は素直に聞きましょう。よろしいですね?」。