100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第四十四節 報告は密に

「お父様、見てください!」

 

 ラビリンシア王宮の一室にして国王の執務室。

 そこには、王女の元気な姿があった。

 その元気な姿で、王女ルーフェは自作の絵画を掲げている。

 絵画の題材はもちろん、勇者テノールだ。

 

「良く描けているではないか、ルーフェよ」

 

 執務の休憩中である国王バーニンは、大変ご満悦だった。

 ご満悦である理由は、絵画の出来よりルーフェの元気にあるのだが。

 しかし、国王の賛辞に嘘はない。

 実際、ルーフェの絵画はテノールが紅茶を嗜みながら微笑みかける光景を切り取ったかのように、写実的で精密に描かれていた。

 その出来栄えは王女の作品という箔がなくても、充分値が付くだろう。

 王族の娘として描画も含む芸術を一通り習わせたが、こんなところで意外な才能が発揮したのである。

 

「ありがとうございます、お父様!ですが精進は怠らず、テノール様の魅力を余す事なく再現できるよう、努力してまいります!」

 

 この出来栄えに満足はせず、ルーフェは更なる高みへ登ろうと目指していた。

 ただ勇者テノールの魅力を表現するために。

 残念な事に、その魅力はルーフェの幻想に過ぎないのだが。

 

「描画の道を示していただき、ありがとうございました。それでは、わたくしはまた描画に戻ります」

 

 父の助言があってこその今であると感謝してから、ルーフェは執務室を退出した。

 多少騒がしくはあったが、娘が元気を取り戻した事に、バーニンは心癒されている。

 

 だが、そんな癒しは一時に限られ、すぐに執務が舞い込んでくるのだ。

 

「王立近衛兵4番隊副隊長ケイヴェ、バーニン国王陛下にパース隊長からの報告書を届けに参りました」

 

 扉を叩いてからしっかりと名と用件を発するケイヴェ。

 彼女の参上に、バーニンは気を引き締めざるを得なかった。

 彼女が参上するという事は、その報告書が緊急性の高い事を表している。

 しかも、奴隷商追跡の王命を下したパースからの報告書だ。

 余程の事があったと予測してしかるべきである。

 

「入れ」

「失礼します。4番隊副隊長ケイヴェ、特急輸送班より先刻パース隊長の報告書を受け取りました。こちら、国王陛下に宛てられた物であったため、速やかに届けに参りました」

 

 特級輸送班とは、王国各地に輸送物資を特急で届ける役を担う者たちの事だ。

 その班の輸送員は竜騎士で構成されているため、輸送の速さは王国最速。

 ただし、硝子(がらす)製や陶器製の割れ物と魔道具などの衝撃に弱い精密機器は輸送しない。

 とにかく、パースが早く届けるべきと判断し、特急輸送班を用いたのだ。

 緊急性が高い事の裏付けである。

 

「しかと受け取った。下がって良いぞ」

「では、失礼しました」

 

 バーニンはケイヴェを下がらせ、すぐに報告書の封を解く。

 その報告書の初めには、奴隷商追跡の結果について記されている。

 

「ふむ。奴隷商は魔王軍幹部ヴァンであったか」

(あら。あのホムンクルス、まだ奴隷商をできていたのね)

 

 バーニンが感想を漏らすと、カリバーンがその思念体を露にした。

 彼女の言葉には、わずかばかりか不機嫌さが混じっている。

 

(奴隷を違法としたのは、そもそもこのヴァンとやらを動きづらくするためだったか)

(そうね。他にも色々加味しての事だけど、本命はそれよ)

 

 奴隷商が魔王軍の財源となっている事に、カリバーンは大分前から気付いていた。

 だから、過去のラビリンシア王にそう助言し、奴隷を違法としたのだ。

 そんな対策を講じたのに、結局は魔王軍幹部ヴァンの奴隷商を封じられていないのだが。

 まだ違法としていない国もある始末だ。

 この様ではカリバーンの不機嫌も当然である。

 

(……今回は撃退ではあるが、奴隷を解放できたようだ。奴隷たちの身元は聴き取り次第、という事だな)

(撃退、ね。やっぱり討伐はできないわよねぇ。妹ですら殺しきれなかったし)

 

 実は、エクスカリバーが生身だった頃、魔王軍に単身乗り込んだ時にヴァンと戦っているという事実。

 建国王アルトが魔王を撃退するより前の話だ。

 なので、ヴァンは自身の不死性で以って1000年以上魔王軍幹部であり続ける、魔王軍の古株なのである。

 そのしぶとさに、カリバーンは辟易としている。

 

「……撃退に聖剣デュランダルが使われただと?」

 

 『武神エフエフ』よりナンタン家が聖剣デュランダルを譲渡された事は、バーニンも情報を得ていた。

 同時に、その聖剣は紛失したとも掴んでいたのだ。

 見事、偽の情報を掴まされた事になる。

 

「紛失したのではなく、第1次魔人戦争で折損していた……。なるほど、それでナンタン家の長男が修理できる鍛冶師を探していたと」

(その上で、聖剣を直せる鍛冶師が見つかったのね)

 

 バーニンが報告書を読み進めれば、カリバーンの推測した通りの事が読み取れた。

 聖剣デュランダルは直されている。

 

「後日、その鍛冶師とナンタン領主が各々の釈明に来て、さらには聖剣デュランダルに選ばれた者も来る、か……」

 

 バーニンは少し頭が痛くなり、一旦報告書から目を放した。

 情報がちょっと多い。頭痛は脳内で処理しきれない故だ。

 

(ナンタン領主は聖剣デュランダルを保持し、密かに修理しようとしていた事。鍛冶師は許可なく聖剣を修理した事。2人はその釈明ね。聖剣デュランダルに選ばれた者は、今後の扱いを相談したいのでしょう)

「分かりやすく整理してくれて、感謝する」

 

 思念ではなく言葉にしてしまう程、バーニンはカリバーンに感謝していた。

 おかげで頭痛が和らいでいる。完治はしないが。

 

(あら、あらあら。うふふ……)

(……何か面白い事でも?)

(報告書に面白い報告があったのよ)

 

 カリバーンが笑い出すような面白い事。

 バーニンは嫌な予感がした。

 したが、避けて通れないのが国王の辛いところだ。

 バーニンは、覚悟を決めて報告書の続きに目を通した。

 

「……何!?鍛冶師の正体は『鍛冶神アチューゾ』の可能性があるだと!?」

 

 覚悟を決めたはずのバーニンは決めた覚悟以上の内容に、思わず椅子をはね飛ばすのだった。

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