100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第四十六節 一難去ったら次の難の予約

「えーっと……。君は、ドワーフって事で間違いないのかな?」

「はい。出身はミナ・ミヌエーラです」

 

 現在、俺はヴァンに捕らえられていた奴隷たちに出身を聴き取りしていた。

 もう解放したから奴隷という表現は正しくないが、そんな事よりもだ。

 あまりよろしくない事実が発覚している。

 それは、少女だと俺が勘違いしていた者たちが、ドワーフの成人女性だった事である。

 

 ドワーフという種族は、小人族という俗称があるように、種族全体が低身長だ。

 低身長である事以外、外見についてヒューマンと大きな差はない。

 だが、ドワーフは10代前半くらいで成長が止まり、80代までその若さを維持する。

 だから、成人のドワーフと未成年のヒューマンは区別が付かない。

 そのためか、男性ドワーフは自身を成人と証明する物として、髭を蓄える習慣がある。

 女性ドワーフの方も髪を切らず、その長さを以て成人であると証明する。

 となると、髪を切られてしまった女性ドワーフは、もはやヒューマンと区別できないのだ。

 一応、ドワーフは同じドワーフの年齢をだいたい見極める事ができるそうだが、ヒューマンには難しい。

 

(でもよ、ここに居るドワーフたちは別に髪切られてねぇよな。普通に髪長ぇよな)

 

 髪が長くても、区別できない時はできないものだ。

 

(くくく……。そんな見極めもできねぇで侍女化計画なんぞ立ててやがんの)

(お前はちょっと黙れ。それもそれで個人的に問題だが、この事実は個人的な問題だけで留まらないんだよ)

 

 エクスカリバーが、俺の侍女化計画を持ち出して揶揄ってきていた。

 しかし、俺の計画が破綻したのはまだ良いのだ。

 捕らえられていたのがドワーフだった事は、国際問題に繋がりかねないのである。

 

(ミナ・ミヌエーラ、ドワーフの国から拉致されてるんだ。最悪の場合、このラビリンシアの何処かに拉致されたドワーフが奴隷として売られているかもしれない)

 

 ミナ・ミヌエーラ国民を奴隷として買った奴が、本国ラビリンシアに居る可能性がある。

 その可能性はミナ・ミヌエーラ国民の尊厳を汚しており、ミナ・ミヌエーラ国王の怒りに触れ得るのだ。

 ミナ・ミヌエーラ国王の怒りなど、俺は想像したくもない。

 ミナ・ミヌエーラは特殊な王政である。2人、いや、2体が国を治めているのだ。

 その2体が怒って戦争を仕掛けてきただけで、ラビリンシアは総力戦となる。

 

「テノールさん、そっちはどうですか……」

 

 パースがやつれた顔で聴き取りの経過を窺ってきた。

 精神的に追い詰められているだろうパースには申し訳ないが、俺はさらにパースを追い詰める事になる。

 

「現在聴き取りさせてもらった者全員が、ミナ・ミヌエーラ出身と答えました。ドワーフで間違いないかと」

 

 俺の返答に、やはりと言うべきか、パースは頭を抱える。

 パースも国際問題を懸念しているのだ。

 

「一応ですが、パースさんの方は?」

「全員ドワーフでしたぁ!」

 

 パースはなんかもう自棄になって叫んだ。

 正直、俺も気持ちは同じである。

 このままでは魔王軍ではなく、ミナ・ミヌエーラにラビリンシアが滅ぼされてしまう。

 

「どう、しますか……?」

「まずは国王に報告書を早急に送らねばならないでしょう。そうして王命で以って誠心誠意謝りに行くしかないでしょう」

 

 自棄になって叫びはしたが、冷静さは失っていないパース。

 彼の意見が最も現実的ではあるが、どこまでも付きまとう心配がある。

 

「それで、許してくれるでしょうか?」

「奴隷商が魔王軍幹部だったのでまだどうにかなります。後は、この国でドワーフの奴隷を買った者が居ないか調査し、居た場合は問答無用で極刑にすれば……。いや、あえてどこかの誰かに奴隷買収の罪を擦り付け、実際に極刑してしまった方が誠意を感じてもらえるか……?」

 

 パースはどうやら冷静であると言い切れない状態に陥っていたらしい。

 過激すぎる案を思い付くくらいには混乱している。

 

「落ち着いてください!冤罪で人を裁けば、内外共にラビリンシアへの不信感を持たせます!誠心誠意尽くすならば、それこそ誇りある身で謝罪に赴くべきです!」

「そ、そうでした……。私とした事が、判断を誤りかけていました……」

 

 俺が必死に訴えかければ、パースは正気を保った。

 危機的状況でも狂気に飲まれないのは、さすが隊長と言うべきか。

 

「とにかく国王へ報告書を出さねば」

 

 パースは報告を優先した。

 結局どうするかの決定権はバーニン国王にある。

 隊長とはいえ一近衛兵隊員。独断行動はできない。

 国王に報告し、指示を仰がねばならない。

 

「捕らえられていた者たちは、一旦サースイナッカノ農村まで護送したいところですねぇ……。場所は、貸し切っていた宿屋を……。足りそうにないですね……。ニオに宿と護送の準備をしてもらいましょう」

 

 パースはマリーたちに付いているニオを、自身の指揮下へ一時戻す事にした。

 でないと手が足りない。

 

「申し訳ないですが、テノールさんは護送を手伝ってもらえますか?」

「承ります」

「ありがとうございます。では、この指示書をニオに」

 

 パースは紙にニオへの指示をその場で書き、俺に手渡した。

 素早く書いていたが、書かれた指示は事細かであるし、しっかりパースの署名も入っている。

 署名によってパースの物である事を示しているし、部下の行動に責任を持つ事も示しているのだ。

 

「確かに受け取りました」

 

 俺が指示書を懐に仕舞えば、パースは頷いて動き出す。

 俺も承った仕事を果たすべく、ニオの下へと駆けるのだった。

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