100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第一節 ドワーフの国へ

 馬車をいくつも連ねる集団。

 その馬車は全てラビリンシア王国の国旗を下げている。

 さらには、その先頭を馬に跨ったラビリンシア王立近衛兵総長ランテ・レートが行く。

 一見してラビリンシアの公的な集団であると、誰でも察しが付くだろう。

 

「今度の旅はまた長旅ですねぇ……」

 

 その連なる馬車の1つに、パースが覇気のない声を響かせた。

 響いた声を聞き届けたのは、俺、リカルド、ムラマサの3人である。

 

(オレも居るぞ)

 

 お前は除外だ。

 お前も数に入れたら、デュランダルやヌエトラ、ムラマサの装備品たちも数えなければならない。

 ムラマサの装備品にいくつ魂が宿っているのか不明なため、正確な数は数えられなくなる。

 というか、首飾りヌエトラは返しておきたいな。

 ヌエトラに心を読まれているんじゃないかと、不安でいっぱいだ。

 

「こっちは早くデュランダルを完全に直したいのに、ミナ・ミヌエーラへ向かえとは。全く面倒な事です」

 

 ムラマサは時間を取られている事に悪態をついていた。

 それもラビリンシア王国首都ドラクルから南のナンタン領を通り、国境を越えて相手の国首都までだ。

 急いだって2週間はかかる。

 おまけに、今回は奴隷として捕らえられていたドワーフたちの護送も一緒である。

 ドワーフたちを運ぶ馬車、俺たちの乗る馬車、ムラマサの所有馬車、護衛を務める者たちの馬車。

 そんなたくさんの馬車が連なった状態では、速度を出す事ができない。

 よって、2週間以上かかるのは確定だ。

 

「でも、ミナ・ミヌエーラの鍛冶場を借りられるんだろう?処罰どころか褒美じゃないか?」

 

 リカルドが言ったように、ムラマサは聖剣デュランダルの修理にミナ・ミヌエーラの鍛冶場を使える事になったらしい。

 鍛冶の盛んなドワーフの国、ミナ・ミヌエーラ。

 その国の鍛冶場なんて、他国の鍛冶師が(よだれ)を垂らしてしまう程の施設だろう。

 ムラマサはそんな施設を貸し与えられるのだ。

 処罰ではなく褒美と受け取るリカルドの指摘は正しい。

 

「『鍛冶神アチューゾ』から受け継がれる鍛冶技術は一子相伝。そう広めたいモノではないんですよ。しばらくあの国に留まれとも言われていますから、技術流出は必至です。どうにか聖剣製造技術だけは秘匿せねば……」

 

 ムラマサにとって、施設の良し悪しより技術流出の方が重要のようだ。

 そのため、罰としては機能しているみたいである。

 

「ムラマサさんには申し訳ありませんねぇ。こっちにも事情がありましてねぇ」

「事情?」

 

 パースの言葉に、俺は首を傾げた。

 ムラマサをミナ・ミヌエーラに留める事が、ラビリンシアの如何なる事情に関わってくると言うのか。

 俺にはその繋がりが見出せていない。

 

「ほら、奴隷の件があるでしょう?あの件について、少しでも誠意を見せたいんですよ」

「捕らえられていた人たちをしっかり返すだけでは、誠意が足りませんか……」

「奴隷商が魔王軍だったとはいえ、本国が魔王軍を極北の地に留められていなかったと、責任追及できますからねぇ」

「ラビリンシア王国が掲げる大義、魔王軍から人類を守る防波堤という誓いが邪魔してると」

 

 その誓いを本気にしている国、対魔王軍をラビリンシアへ完全に預けている所はないだろう。

 魔王軍の侵略に備えず被害を受ければ、そんな稚拙な治政をしていたと君主が国民の非難を浴びる。

 しかし、だからこそ本当に被害を受けた時は、責任を他の国に背負わせたい。

 責任を押し付ける相手として手頃なのが、魔王軍から守るなんて誓っているラビリンシアという訳だ。

 

「それで、それがどうしてムラマサさんをミナ・ミヌエーラに留める事になるんですか?」

 

 事情は分かったが、繋がりは未だ不明だ。

 ムラマサを関係緩和の材料に使いたいのは分かるが、結局どう使うのだろうか。

 

「ミナ・ミヌエーラは鍛冶が盛んなドワーフの国。ならば、鍛冶技術はいくらだって欲しいでしょう」

「ああ、そういう事でしたか」

 

 つまりは、ムラマサが嫌がっている技術流出をさせたいのだ。

 ここでお得なところは、別にムラマサの鍛冶技術がラビリンシアの技術でないところである。

 ラビリンシアはムラマサという旅の鍛冶師を送り付けるだけで、ミナ・ミヌエーラの好感度が稼げる。

 元々自国民でも国家機密でもないため、一切の損失なく利益を得られるのだ。

 強いて損失を上げるなら、ミナ・ミヌエーラの技術を成長させる可能性がある事か。

 まぁ、ミナ・ミヌエーラの武器はラビリンシアにも卸されているし、やはり大した損失ではない。

 

「ボク、何か良いように使われていませんか?」

「元はと言えば、お前が勝手に聖剣デュランダルを直したのが悪いんだぞ?」

 

 不機嫌になっているムラマサを、リカルドは原因がムラマサにあると諭して宥めようとした。

 ムラマサを理論で説き伏せられるなら、それに越した事はない。

 

「はっ、言うじゃありませんか。デュランダルが回復してなかったら、貴方はやられてたんですからね?」

 

 越してくれないのがムラマサなのだが。

 

「う……、そう返されると辛いな。確かに、ムラマサに助けられたも同然なんだよな……」

 

 リカルドは反論に困り、怯んでしまった。

 改めて考えると、ムラマサは国にとって不都合な事をしたが、人として正しい事をしているのである。

 これは反論が難しい。

 難しいならどうするか。反論しなければ良いのだ。

 

「ムラマサ、俺たちの事情に付き合わせてしまってすまない。だが、どうか俺たちを助けると思って、手を貸してくれないか」

「お、俺からも頼む。祖国が危なくなるのは、どうしても避けたいんだ」

 

 俺が反論ではなく情へ訴えかける手法に出れば、リカルドもその手法に乗ってきた。

 

(お前は下心で、リカルドは純心だけどな)

 

 相手の意地を折ろうとしているのだ。そこになんの違いがある。

 

(いや、違うだろ)

 

 俺には違いが見抜けないので、その意見は無視する。

 

「むぅ……。まぁ良いでしょう。国同士の争いなんてない方が良いです。ボクが少し我慢するだけで争いが避けられるなら、ここは甘んじて我慢しましょう」

 

 不服そうではあるものの、ムラマサは俺たちの願いを聞き届けてくれた。

 こうして、ムラマサは大人しくミナ・ミヌエーラ首都への到着を待ってくれるのだった。

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